小さな個人商店が成り立つ街、岩手県盛岡市に移住したTシャツ屋さんの話【いろんな街で捕まえて食べる】

著: 玉置 標本 

さてこれは何をモチーフにしたロゴでしょうか?正解は記事の中で

東北地方の太平洋側、宮城県の北、青森県の南東に位置する岩手県。その県庁所在地である盛岡市が盛り上がりを見せていて、各地から移住者が集まっているという話を仙台市在住の方から聞いた。

私は盛岡を訪れたことがなく、首都圏からすごく遠い場所というイメージだったのだが、新幹線なら東京から二時間ちょっとと知って驚いた。実際に盛岡へ移住した人、盛岡で生まれ育った人に話を伺い、盛岡の街をじっくりと歩いて、人が集まる理由を感じてきた。

盛岡駅は東京駅から新幹線で最短2時間10分と近かった

10月後半の平日、よく晴れた日に岩手県盛岡市へと向かった。

東京駅から盛岡駅までは新幹線はやぶさで、最短2時間10分とあっという間。東京、大宮、仙台、そしてもう盛岡である(上野に停車する場合もある)。

東京から新大阪へ行くよりも早いことに驚いた。盛岡まで4時間くらいかかると勝手に思っていたのだが、意外と近いじゃないか。

盛岡駅の東口ロータリー。ここからバスで移動する予定だったが、乗り場が15か所もあって混乱。これだろうと適当に乗ったら違う方向に行ってしまい、すぐに降りてそこから徒歩で移動。後で知ったがロータリー内に案内所があった

半泣きで目的地へと早歩きで向かう。盛岡市街は整備された都会という印象。盛岡城跡がある駅の東側1キロ程度の範囲に、街の中枢がギュッと集まっているようだ

街の中心部を抜けて、サケが遡上する中津川を越えたところが目的地。ブルーのひさしが青空よりも鮮やかな、Tシャツ屋さんの「6JUMBOPINS」だ。

盛岡駅から2キロ弱、迷わなければ徒歩30分くらい。商店街の一角ではなく、住居や店や事務所が交ざり合った静かなエリアだ。

ここは盛岡市出身で東京在住の友人に紹介していただいた店で、秋田市から盛岡市へと移住してきた京野誠さんが営んでいる。

一見すると何屋なのか一切わからない店構え。本当にここで正しいのかと若干不安になった


ここです。ブラブラと盛岡の街を観光しつつ向かいましょう

この辺りは駅から徒歩でも来られるが、でんでんむし号という循環バスが便利だと後で知る。乗るはずだったバスはこれか

盛岡は小さなTシャツ屋さんが成り立つ街

ドアを開けて中へ入ると、シンプルながら目を引くデザインのTシャツやパーカー、そしてシルクスクリーンの原版が並べられていた。

そして奥にある膨大なフィギュアやDVDに囲まれたスペースで、黒ぶち眼鏡の京野さんが待っていた。

倉庫っぽさのあるオシャレな店内だが、前はラーメン屋だったそうだ

もともと6JUMBOPINSは、京野さんが出身地である秋田市で10年間営業していた店。今年の5月に家族四人で盛岡市へと移住をして(店の近くに家を借りている)、9月に新店舗をオープンさせたばかり。

ちなみに令和4年11月のデータによると、秋田市の人口が30万人強で、広さは約906平方キロ。対して盛岡市は29万人弱で約886平方キロ。この数字だけ見るとほぼ同じ規模だ。

なぜすぐ隣の県である秋田から、わざわざ岩手のこの場所へと移住したのだろうか。

こちらが京野さん。シルクスクリーンの原版を見せていただいた。後ろに見える商売と直接関係ないグッズの量がすごい

――埼玉の人間からすると、秋田市から隣県の盛岡市へ移住した理由がよくわからないのですが。

京野誠さん(以下、京野):「秋田にあった店は、駅から少し距離がある古いビルだったのですが、お客さんがあまり来てくれなくて。コロナ禍になったらさらに来なくなった。

コロナ対応ということもあり二年前からは看板をクローズにしていたんです。ネット通販がメインだから人がこなくても経営はできるんですけど、実店舗を営業する意味がなさすぎる」

――それは厳しいですね。

京野:「僕が子どものころは秋田駅の周辺も結構栄えていたけど、年々街を歩いている人の数が減ってしまって。特にうちの顧客となってくれそうな若い人がいない。

僕は今52歳なんですけど、このままいくと10年後はどうなるんだろうと怖くなってしまって」

京野さんのオリジナルデザインや提携デザイナーのイラストをシルクスクリーンで手刷りして、販売および委託製造をしている

――駅前の商店街が寂れていくみたいな話はどこの地方都市でもよく聞きますね。でもそれは秋田も盛岡も変わらないんじゃないですか?

京野:「全っ然違います。盛岡にはうちが卸している店もあるので、ちょこちょこ遊びに来ていたんですけど、街に人がいるんです。もちろん東京や仙台に比べたら少ないですけど、今日みたいな平日の昼間でも人が歩いている。

ここならネットだけでなく、店でも商品が売れるかもしれない。家族で住む家も店も賃貸だったので、盛岡で借りても家賃がそんなに変わらないなら、思い切って移転しようと」

――実際に移転してみて、売上は違いましたか。

京野:「いやー違いますね。まだオープンして一カ月ちょっとですけど、それでも全然違います。ネットの売上は変わらないので、店の分がプラスになってくれる。思った通りでした。あまり正直に話すと秋田にネガティブな印象をもたれてしまうかもしれませんが。

あくまで私の場合ですけど、よくゲームにハードモードとイージーモードってあるじゃないですか。うちみたいなTシャツ屋という商売は、秋田だと超ハードモード、でも盛岡はイージーモードなんです。だから僕の周りには秋田からの移住者がすごく多い」

――そんなに違うですか!

京野:「うちのターゲット層になる20代・30代のファッションに興味がある人が街にたくさんいて、店に来てくれる。

もちろん秋田でも大型ショッピングモールとかには若い人が集まるんですけど、うちには全然こなかった。盛岡にも郊外に大型店はありますけど、駅から徒歩圏内にある小さな個人店も共存しているんです。

盛岡の街って個人経営の店が多いんですよ。個性的な喫茶店とか、古本屋とか、中古レコード屋とか。そういう個人店を支える客層があるから、うちみたいな店にも人が来てくれる。

岩手大学をガンダイって呼ぶんですけど、そこの学生や卒業生がいろいろ店とかイベントをやったりもしています」

――盛岡は中心部が元気なんですね。でもどうせなら仙台に移転っていう選択肢はなかったんですか。

京野:「仙台だとちょっと街の規模が大きすぎる感じがなんとなくある。あそこまで都会だと、僕からすると東京で暮らすのとあんまり変わらないから、そこに住むイメージが湧かなかった。

盛岡ぐらいのボリュームだと、なんかちょうどよくやれるのかなって。ゆっくり暮らしつつ商売が成り立つ。そのバランスが良いのは僕にとって盛岡でした」

盛岡らしい新作デザインも

――駅周辺が空洞化している地方都市と違って、盛岡はなんで市街地がちゃんと栄えているんですかね。

京野:「地方はどこもそうですけど、どこに行くにも車で移動するじゃないですか。僕も前はコンビニまで行くにも車でした。

でも盛岡は駅の東側の徒歩圏内に、県庁、市役所、警察署とかが集まっていて、商店街や映画館もあって、喫茶店や本屋みたいな立ち寄れる場所がいい感じに配置されている。だから人が集まってくる。

この店も駅から徒歩30分くらいありますけど、全然人が流れてきます」

――都市としてちゃんと機能しているんですね。駅周辺はマンションも多いし、郊外に住む人も盛岡駅まで来ちゃえば、あとは徒歩でブラブラできると。

京野:「盛岡は観光客も多いです。新幹線で東京から二時間ちょっとだから首都圏からお客さんが来てくれる。仙台からも多いです。秋田に行こうとすると盛岡からさらに秋田新幹線こまちで一時間半以上かかるから、ちょっと遠い。秋田もすごくいいところなんですけど」

――東京駅から秋田駅と盛岡駅は直線距離だと変わらないけど、鉄道のルートで考えるとだいぶ違うんですね。ちょっと遠いからこそ秋田も行ってみたい街ですが。

京野:「秋田には僕が世界一おいしいと思っているレバニラを出す中華料理店があるので、ぜひ行ってみてください。オリジナルのTシャツをデザインしたくなるくらいうまいですよ」

一番売れているデザイン「lvnr」は、世界一うまいと京野さんが感動した秋田の某レバニラ屋からインスパイアされたもの。lvnr=レバニラ。かっこいいのでTシャツを購入した。どこの店かは京野さんに聞こう

――京野さんの場合は、盛岡に移住して正解だったんですね。

京野:「今のところはノーストレスで暮らしています。まだ観光客気分なので毎日散歩を楽しんだり、お昼ご飯をどこで食べるか迷ってみたり。選択肢がすごく多いんですよ。

ただ盛岡は山に囲まれているから、冬は秋田よりも寒いって脅かされているので、それはちょっと不安ですね。昼間でも暖房を切ると水道が凍るとか。

でも雪はそれほどでもなく、冬なのに青空の日も多いって聞いていて、それはすごく楽しみです」

インタビュー後、京野さんに街を案内してもらった。その様子は記事の最後で。奥に見える火の見櫓(やぐら)がかっこいい

もう一人の秋田からの移住者

盛岡の街をぐるりと案内してもらった帰り、京野さんと同じく秋田出身の方がやっている「BOOKNERD」という本屋に連れて行ってもらった。

店主の早坂大輔さんは会社員時代に全国を転勤で回り、一年間だけ住んだことがある盛岡のサイズ感が自分にちょうどいいと感じ、5年前に脱サラをしてこの店をオープンさせたそうだ。

京野さんの店に負けない入りにくさかも

店内には店主というフィルターを通して集まった新書、古本、レコード、作家の作品などが並んでいる

早坂さんによると、盛岡にはレコード屋や映画館といった趣味を支えるインフラのような店、個人経営の喫茶店みたいなスモールショップが多く、その中でBOOKNERDも一緒にやれているとのこと。

盛岡の人の気質として、東京と同じ方向を向いて流行を追いかけるのではなく、自分好みの店を探して応援してくれる方が多いと感じるそうだ。

駅から少し離れた場所でも、このような店主の趣向が全面に出ている個人店が成り立つのが、盛岡のもつ強み。こういった店が複数あることで、客を奪い合うのではなく、趣味に時間とお金を使う人が集まってくる、育っていく風土が形成されるのだろう。

盛岡とは全然関係ないけど、前から気になっていたタコスの本を購入。「THE TOWN NEEDS A BOOKSHOP」と書かれたステッカーをいただいた

盛岡で生まれ育ったわんこそば屋の主人から話を伺う

ここまで盛岡への移住者に話を伺ってきたが、別角度からの話として、盛岡に生まれ育った人にもインタビューしてみたい。

そこで京野さんに相談したところ、わんこそばの老舗、東家の代表取締役である馬場暁彦さんを紹介していただいた。

取材時は改修作業中だった東家本店。11月24日より新装開店している

馬場さんは盛岡の高校を卒業後、東京や神奈川で学生時代を過ごし、そこからアメリカに渡って11年間暮らし、33歳で家業を継ぐために盛岡へと戻って、現在52歳になったそうだ。

盛岡を中と外から見てきている人には、どのような街として写っているのだろう。

京野さんの友人、東家の馬場暁彦さん

馬場暁彦さん(以下、馬場):「京野さんからも聞いたと思うけど、盛岡はちょうどいい広さというか、商売が成り立つけど都会すぎない街ですよね。コンパクトだからどこ行くのも歩いて行けるし。

でも若い時は、やっぱりビッグシティに憧れるじゃないですか。それで東京に出ていく人も多い。どんな仕事でもあるという訳でもないから。自分の場合も東京に行って、それからアメリカに渡った。盛岡に帰ってきたときは、なんにもないところに帰って来ちゃったと相当凹みましたよ。『狭!』って。

でもそれはニューヨークで暮らしていた自分が高飛車だったから。ないものねだり。凹みつつも盛岡に目線を合わせて暮らしてみると、すごくいいところだなって思うようになりました」

――何もないと思っていたけど、意外と何かがありましたか。

馬場:「突出的なエンタテインメントを求めてしまうと、弱い部分はもちろんある。でも暮らしという中では、過不足なく毎日が過ごせる。これが盛岡にあるなら150点でしょ!っていう店がたくさんあったんです。

大きい街だと人との繋がりって希薄になると思うんですよ。ニューヨークにいたころは仲の良い友人が2~3人だけで、あとは全く知らない人ばかりの中でサバイブしていた。でも盛岡はスモールシティだから知り合いに囲まれるように生活しています。

それを心地よく感じることができるようになったのは、自分が歳を重ねて大人になって帰ってきたから。高校生のころはつまらなくてしょうがなかったし、石を投げれば友達の友達に当たるような狭さがすごい窮屈だった。

盛岡は若い人が楽しめるような街を目指すよりも、大人が豊かに暮らせる街をキープしていけばいいのかなと、今はそう思いますね。僕も盛岡を盛り上げるにはどうすればいいか、何が盛岡のためになるのかを意識する人間になりました」

――若い人の欲求に合わせてばかりだと、東京に似ていくだけで盛岡らしさがなくなっちゃいそうですね。東京にあるものがないことを退屈だと思うのかもしれませんが。

馬場:「盛岡へ来てくれる観光客も、一回目はわんこそば目当てかもしれない。でも二回、三回と来てくれる人は、盛岡の街をそのまま楽しむことができる人。そういう人たちがリピートしてくれるっていうのが、盛岡のポテンシャルだと思います」

応接室にてインタビュー。かっこいい湯呑

――盛岡は個人店の喫茶店が多いから、スタバが撤退した街であるという話を何度か聞きました。

馬場:「ニューヨークから帰国したころ、ちょうどスタバができてテンション超上がりました。アメリカで毎日のように通ってた一番なじみのあった店がごく近所にあるなんて!と。でも撤退しちゃいましたね。

撤退した店もありますが、駅ビルとか郊外には今もあります。繁華街のホテルにも一軒あるかな。

大きなチェーン店は数字をちゃんと見るから、ここで続けても無理だと思ったら撤退する。東家本店の近くはスタバもドトールもマクドナルドも撤退したけど、それは大手から見たら人口が足りない、採算が合わない。そう判断されたっていうことじゃないですか」

――でも個人店の喫茶店は成り立っている。盛岡の人が別にコーヒーを飲まない訳ではない。

馬場:「確かに喫茶店はやけにたくさんありますね。すごく古い店やこだわっている店も多い。それが文化として確立されている。住んでいるとあまりにも普通の話だけど、そう考えるとおもしろい街なのかも。

そのエリアの人口や交通量を分析した結果、大手チェーン店が撤退すると判断することもあるのが盛岡。でもそこには数字に表れない需要があって、小さな店でも魅力さえあれば人が動くのも盛岡なのかもしれない」

――安易に流行には乗らないというか、内に秘めたこだわりをもつ人が多いんですかね。

京野:「うちの店の近くにもクラムボンっていう人気の喫茶店があります。お客さんのコーヒーに対するこだわりが強いから、豆の種類や焙煎の方法で店を選ぶ人も多いんだと思います。

盛岡でタウン誌をやっている方に言われたのは、ここでお店をやるなら接客をあまり熱心にやらない方がいいと。自分でじっくり考えて決めたい人が多いから、接客を嫌がる人が多いそうです。だからこちらからはあいさつくらいに留めていますね」

インタビュー前に京野さんと東家でランチをした

平日の昼間でも、わんこそばにチャレンジしている人がたくさんいて驚いた

馬場:「盛岡には独自の麺食い文化もあります。盛岡三大麺と呼ばれているのが、わんこそば、冷麺、じゃじゃ麺。これもこだわりの強さが生んだ名物かもしれない。

わんこそばは杯数を競って楽しむもの。提供する側としては味にもこだわっていますが、どれくらい食べたか数字になるのが肝ですよね。

盛岡冷麺は小麦粉と馬鈴薯澱粉でつくる独特な麺で、ほかにはないゴムみたいな麺の硬さだったり、キムチの辛さに挑んで満足する。昔はもっと辛かったんですよ。

じゃじゃ麺は食べるときに客が卓上に並んだ調味料で味を調節する。その量や組み合わせにみんな一家言をもっていて、これが一番うまいと思っている。俺だったら酢を2.5周、ラー油1周とかね」

――そう言われると、なんとなく共通点があるような気がしてきました。ただおいしい麺料理という訳ではなく、どこか一癖ある。食べる側に語れる要素があるというか、こだわりをもてる対象というか。まさか三大麺に盛岡人の気質が表れていたとは。

馬場:「でもこだわりの強さを、あまり表には出さないのが盛岡人なのかも。これは僕が勝手に思っていることだけど、盛岡人の気質として、自分たちの文化とか土地の豊かさに自信がないのかも。外の人から言われて初めて確信できる。

東北新幹線が盛岡まで開通して今年で40周年。それまでは東京との人の行き来も少なかっただろうし、だからこそ独自の文化が発達した面もある。

ようやく東京から人が来るようになって、冷麺おいしいね、福田パンうまいよねって言ってくれるのを聞いて、盛岡の魅力を気付かせてもらえた。東京の人もいいなと思える名物が盛岡にもあったんだって。さんさ踊りの良さはまだ広まっていないかな。盛岡の人は本当に大好きなんだけど」

街で見かけたさんさ踊りのポスター

盛岡駅にあった人形。太鼓を持って踊るらしい。なんだかすごく楽しそうだ

――もちろん東京に認められることがすべてではないですけど、褒められて自信をもつことで、独自の文化を引き続き維持できるという面はあると思います。

馬場:「東家のカツ丼も、近所の公務員さんや会社員さんたちの中ではパワーフードとして愛されてきたけど、おすぎとピーコのおすぎさんが雑誌ですごく褒めてくれたことがあって。東京の有名な人も褒めてくれた、やっぱりこれはうまいんだって盛岡市民が再認識をして、それからずっと売れています。

先日『北のクラフトフェア』っていうイベントで、東京とか県外から来た人とたくさん喋ったんですけど、みんなが如何に自分が盛岡を好きかっていうのを熱く語ってくれるんですよ。

それはありがたいなと思うし、そういう目線もあるんだっていう気付きもあった。外から見た盛岡の良さは、中に住んでる自分たちだと気付かない部分もやっぱりあるから」

取材初日のランチだったのでわんこそばは重いかなと、迷った結果くるみそばを注文

京野さんが注文したカツ丼が確かにうまそうだった

京野:「盛岡の気質という話なら、交通マナーの良さは誇るべきだと思います。信号のない横断歩道を渡ろうとする歩行者がいたら、盛岡だと車が必ず止まってくれることに驚きました。もちろんそれがルールとしては当然なんですけど」

馬場:「僕はそれが普通だと思っていた。譲られた子どもは頭をペコって下げて渡る。自分が譲ってもらって育ったから、大人になって免許を取ったら譲るのが当たり前。そういう循環はあると思います。当たり前過ぎて気にもならない文化だけど、他所の人には珍しいのかも」

――そういうシーンは盛岡に来てから何度も見ました。止まってくれた車の前を子どもが手を上げて渡っていたし、猫が横断歩道を渡ろうとしたときも車が止まって譲っていました。

馬場:「当たり前のことを真っ当にしながら生活することを大切にしている人が多いのかもしれない。もちろんすごい変な人もいるけど、大体の人はちゃんとしている。僕は好き嫌いがすごい激しいはずなのに、盛岡には苦手な人がほとんどいないから」

――真面目であることを求められる雰囲気を、住みやすいと捉えるか、ちょっと堅苦しいと思うのか、ですかね。県外の人が盛岡は良いところだと伝えたくなる理由、移住してくる人の気持ちが、少しわかったような気がします。

あのカツ丼が食べた過ぎて、また夜に一人で来て注文した

一段だと入りきらないので二段になっている。我が人生で一番のカツ丼かもしれない

盛岡観光メモ

以下、上記の話を踏まえて二泊三日で観光した様子である。どうしても行きたかった盛岡手づくり村の冷麺体験だけは路線バスを使用したが、ほかはすべて徒歩での移動。

もちろん車があればさらに選択肢は広がるのだろうが、駅周辺に絞れば徒歩でも十分楽しめるし、バスと組み合わせるという手段もある。とても観光のしやすい街だと感じた。

きっと住むにも便利なのだろう。冬の寒さはちょっと怖いけど。

京野さんの店のすぐ近くにある酒屋の平興商店。奥が角打ちになっていてお酒が飲める

看板猫のミミちゃん

指の匂いをかがせる京野さん

京野さんがデザインしたミミちゃんグッズを販売中

冬はミミちゃんが炬燵に隠れてしまうため、代わりのぬいぐるみが置かれている

中津川沿いにあるセレクトショップのひめくり。かわいい食器や雑貨が並んでいた。ここでも京野さんのTシャツが売られている

中津川はサケが遡上する川らしい

ちょうどサケが遡上中だった。夏はアユ釣りでにぎわうそうです

与の字橋の上からサケを探す。この辺りは山からの伏流水が湧くそうで、その水のおかげで酒蔵が栄え、サケも産卵をしに来るのだとか

長旅でボロボロになったサケが泳いでいるのが見えて感動。県庁や市役所のすぐ近くを流れる川にサケが上ってくるのだ

街歩き中に猫へと近づく京野さん

すごまれた

散歩して楽しい路地が多い

水辺が多いのもすごく魅力的だ

国の天然記念物である石割桜。紅葉の時期も素敵

「岩手の平和は俺が守る!」で特撮マニアと岩手県民に有名な鉄神ガンライザーの自販機を発見

みちのくプロレスのポスターを見ると、東北にいるんだなと実感する。HAYATOがんばって

大手チェーン店じゃない古本屋を何軒も見かけた

レコード店もある。東京の中央線沿線みたいだ

雰囲気のあるアーケードとカメラ屋さん。知らない街をブラブラするのは楽しい

岩手銀行旧本店本館。盛岡は古い建物が所々に残されている

盛岡信用金庫本店はなんと現役

かっこいい岩手県公会堂もさまざまなイベントが行われる現役のホールだ

盛岡城跡は公園として開放されている

石川啄木の「不来方のお城(盛岡城)の草に寝ころびて空に吸はれし十五の心」と彫られた石碑

子どもたちが私に対しても「こんにちは!」とあいさつしてくれて焦る。うまく返せなかった

秋の日に照るヤマモミジの種

石川啄木が新婚生活を始めた家、啄木新婚の家。三週間の間借りだったようだが、この時代の民家が残されているのは貴重だ

結婚式もこの家で行われたが、啄木が仙台で友人と遊んでいて帰ってこなかったため、花婿抜きでやったそうだ。そういう逸話を知るとこの写真の印象も変わってくる

盛岡城跡にある櫻山神社向かいのゴチャっとしたエリアも楽しい

参道にあるじゃじゃ麺の有名店、白龍(パイロン)は行列ができていた

開店直後の空いている時間に再訪

別々に訪れた渡辺徹と渡辺裕太のサインを並べているところに優しさを感じる

冷やしつけ麺やろうすう麺も気になるが、とりあえずじゃじゃ麺の中を注文

これがじゃじゃ麺。よく混ぜて、自分好みの味に調整して食べるらしい。左下の赤い物体を齧ったら紅ショウガで驚いた

この豊富な卓上調味料を私は使いこなせるだろうか

食べつつ味をチューニングしてくのが楽しい。何回か食べないと自分なりの正解に辿りつけないからこそハマるのかも

最後に生卵を割り入れてよく混ぜ、店員さんに渡して麺を茹でるお湯を注いでもらう「ちーたんたん」。全く知らない食文化だ

食道園は盛岡で初めて冷麺を出した店らしい

焼肉も食べたいので半冷麺付カルビランチ。すき焼きのように生卵をつけて食べるそうだ

しっかりとした噛み応えの麺。「このくらい硬くないと冷麺を食べた気がしないんだよ~」とか言いたくなる

カルビは過去一番贅沢な卵かけご飯でいただいた

冷麺といえば絶対に行きたい場所があった。それは盛岡手づくり村!

ぴょんぴょん舎冷麺工房に盛岡冷麺の手づくり教室があるのだ

ブレンドされた粉をお湯でこねて生地をつくり、それを憧れの押出式製麺機で押し出し、熱湯で茹でて水でよく洗い、トッピングをして完成させるという一連の流れが体験できる。素晴らしいでしょう

出来上がった冷麺はもちろんうまい。透明感のあるゴムのような麺が盛岡冷麺の醍醐味


素晴らし過ぎて自宅で粉から麺づくりを再現してしまった

手づくり村の横には御所ダムもあるよ

手づくり村から帰る路線バスで通ったイオンモール。盛岡にも郊外はこういう見慣れた景色があり、たくさんの人が利用している

盛岡市街で営業しているスターバックス。こういう店があることも住人にとってはすごく大切だ

老舗の喫茶店であるクラムボンは定休日で空振り。日曜と水曜が定休日なので気を付けよう

京野さんの友人がやっている六月の鹿という自家焙煎でネルドリップの喫茶店にきた。ここもまた入りにくさがすごい。京野さんの知り合いがやっている店はみんなこうなのだろうか。だがそこがいい

モーニングコーヒーと水。コーヒーがうまいのはもちろんだが、水がうまくて驚いた。そりゃサケも遡上するよという水の良さ

あんこスコーンもいただいた。窓のある壁際の席が落ち着く

誰か知り合いが通りかからないかなと思いつつ窓を眺める

旅先で買った本を素敵な喫茶店で眺めるという贅沢な時間。タコスを皮からつくりたい

友人に勧められた和菓子屋さんの梅月堂

左のお茶餅は胡桃入りの醤油ダレを塗った平たい餅。うちわ型だから「うちわ餅」が訛っておちゃ餅になったという説も。右の味噌っぱさみは味噌の入った餅を大葉で包んである。地域色のある和菓子もまた楽しい

山に囲まれたエリアだが阿部魚店の品ぞろえはすごかった。残念なことに最終日の帰る間際に気が付いたので、次に来たら刺身などを買って食べたい

盛岡といえば福田パンらしいので昼飯を買いに寄ってみた

種類が多い上にトッピングも多数。こういうオリジナルの組み合わせを選ぶ楽しみも盛岡人の気質に合っているのかも。一番人気のあん・バターと、れんこんしめじを購入

盛岡ではスーパーやコンビニ(ファミマ)でも福田パンが販売していた。うちの近所でも売ってほしい

北上川の川原でいただいた。噛み応えのあるパンが特徴的で予想よりずっとうまくて驚いた。馬場さんによると高校の購買でよく食べたそうだ

盛岡駅のすぐ東側を流れる北上川。周辺には高層マンションがたくさん立っている

北上川の周辺にはシュッとした店が並んでいた。一杯やったら気持ちよさそうだ

旭橋から岩手山を眺めつつ、下を向いてサケを探す

盛岡駅からは少し離れるが、神社・寺院巡りも楽しんだ

三ツ石神社には岩手という地名の起源といわれている鬼の手形がある

この岩のどこかに鬼の手形があるらしいが、見当たらない

どうやら鬼の手形自体は残っていないようだ。だが手形があった場所には苔が生えないと言われており、その形が現れることもあるとか。これが鬼の手形ということにしておこう

のんびりと寺巡り。知識があればもっと楽しめるのだろうな

むかで姫の墓をお参りした

シネマストリートこと映画館通りには、名前の通り映画館がたくさんあって驚いた

大きな映画館では話題作を上映。このビルには本屋のジュンク堂書店や文房具屋の丸善なども入っている

そして小さな映画館がいくつもある

掲示板の雰囲気はなんとなく昭和だが、上映しているのは最新作という魅力的な映画館

中央映画劇場では旧作を上映する映画祭もやっていた

角打ちにチャレンジしたくて、夜に再び訪れた平興商店

キュートな女将さんに注文した地酒を注いでいただいて感無量。私以外は常連さんのようで、なかなか緊張感のある体験だった

眠れない夜に繁華街をうろうろ。呼び込みのおにいさんの誘いを断ったら「失礼しました」と言われて、丁寧だなって思った

駅の西側(南側から撮影)はどうなっているんだろうと見に来たら、東側と全く違う印象の景色が広がっていた。これから開発が進むのだろうか

せっかくだから温泉に入りたくて、駅の西側にある開運の湯まで足を延ばした

ちょっと『銀河鉄道の夜』っぽさがある盛岡駅

以上、盛岡はとても良いところだった。

生まれ育った人や移住してきた人が、盛岡はちょうど良いサイズ感だと口をそろえるのも、歩き回ってみて良くわかった。個人的には街中を流れる川にサケが来るというのに感動した。

東家の馬場さんが本店が新装開店したら製麺機を見せてくれると言っていたので、また盛岡に行こうと思う。その時こそわんこそばに挑戦だ。

次こそはお椀を積み上げてやる

â– 6JUMBOPINS
â– BOOKNERD
■東家

著者:玉置 標本

玉置標本

趣味は食材の採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は古い家庭用製麺機を使った麺づくりが趣味。『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。 実はよく知らない植物を育てる・採る・食べる』(家の光協会)発売中。

Twitter:https://twitter.com/hyouhon ブログ:http://www.hyouhon.com/