WWは何故WW1を戦ったのか? ワンダウーマン
混迷を続けるDCエクステンデッド・ユニバース(以下DCEU)!作品のヒットとは別に中々評価につながりません。最も僕なんかはそれこそ最初の「マン・オブ・スティール」の時こそ「自分の理想とするスーパーマンと違う!」とか思っていましたが、以降の作品は最初からこのDCEUの混沌、暗黒の闇鍋、という世界観を受け入れているので、その事自体を批判する気はないです。むしろ今から急に明るい世界観が出てきても困る。
この秋公開の「ジャスティス・リーグ」の小冊子を読んだら「DCフィルムズ・ユニバース」と書かれていて、日本ではこっちが公式な呼称なのかしら?確かに「Extended(エクステンデッド=拡張する)」はちょっと分かりにくいし馴染みにくいけれど、どうせなら同じ「E」から始まる単語にすればよかったのに。そうすれば少なくとも略称は「DCEU」で一緒。なんとなく「E」から「F」に後退してしまったような印象も受けます*1。
しかし、そんなDCEUにも救世主が!「バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生」で場の流れを読まず(いやむしろ読んだ?)さっそうと現れて見せ場をさらった女傑ワンダーウーマンの登場です。今回もいろいろ賛否両論ではあるものの、一本の映画としてはDCEUの中で一番しっかりした作品であることは異論を挟まないでしょう。DCEU4本目!「ワンダーウーマン」を観賞。
物語
外界から隔絶した女だけの住むパラダイス・アイランドことセミッシラ。ここには神々によって創造された不老不死の種族アマゾンが、かつて神々の間に戦争を起こした戦神アレスに備えつつも平和に暮らしていた。アマゾンの女王ヒッポリタの娘ダイアナも厳しい訓練の末勇敢な戦士に成長する。
ある時外界から一機の戦闘機がセミッシラ沖に墜落。ダイアナがこれを救出するとそれはダイアナが初めて見る男性であった。その男を追って謎の軍隊が襲来。アマゾン族は女王の妹でダイアナの師匠でもあるアンティオペをはじめとした犠牲を出しながらもこれを撃退し男を尋問する。男の名はスティーブ・トレバー。イギリス諜報部所属のアメリカ人でドイツ帝国の恐るべき科学者イザベラ・マル博士の開発した新兵器について記した手帳を盗み出し逃亡したところでこの島に来たという。これまで知らなかった外の世界の状況~人類史上初の世界大戦が起こり、兵士だけではなく関係ない女性や子供も犠牲になっている惨状~を知り、ダイアナはこれはアレスの仕業に違いないと考える。そしてトレバーとともにこれを止めるべくセミッシラを後にするのであった。
ロンドンに着いたトレバーは新兵器とそれを使用するであろうどドイツ帝国の将校ルーデンドルフ総監の恐ろしさを訴えるが上層部はすでに和平交渉が進んでいるためこれを取り下げる。ルーデンドルフこそアレスに違いないと確信したダイアナは前線へ向かうことを決意。トレバーが独自に集めた仲間たちとともにベルギーの前線へ向かう。しかしそこにはダイアナが思いもよらない事態が……
「BVS」で颯爽とデビューしたワンダーウーマンは1941年デビュー。DCコミックスのヒーローとしてはスーパーマン、バットマンにつぐ三番手だがこれまであまり映像化に恵まれてきたとは言いがたい。一番有名なのは1975年から始まるリンダ・カーター主演の「空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン(紅い旋風ワンダーウーマン)」だろう。ここでは第1シーズンは第二次世界大戦を舞台とし、第2シーズンから現代を舞台とする構成。
映画は一応現代(BVS後)から始まり、現代のダイアナが過去を回想する形をとるが基本的に他のDCEUの要素が介在しない物語であり、この一本だけで観ても全く問題はないと思う。
もっとも有名な女性ヒーローでパイオニアであるが、神話を由来とするヒーロー、現代でなく過去から始まり、そしてまた現代に続く流れは先行するマーベルの「マイティ・ソー」や「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」を連想するには十分。原作のほうで言うと「ソー」はデビューが1962年であるのでワンダーウーマンより20年ほど後輩。キャプテン・アメリカとは1941年同士のほぼ同期(キャップが3月ワンダーウーマンは11月なので半年ほどキャップのほうが早い)。またこの時期(いわゆるゴールデンエイジ)のヒーローは多かれ少なかれ枢軸国相手に戦うことが多かったのでナチス・ドイツと戦うという設定もそれほど珍しいものではない。
ただキャップはそのオリジンがナチスや第二次世界大戦と不可分なのに対してワンダーウーマンは特にそうでもない。不老不死設定なので現代まで凍っていたわけでもない。今回の映画ではその過去の設定が原作やドラマと違って第二次世界大戦(1939~1945)でなく、第一次世界大戦(1914~1918)となっている。これは割りと大きな違いで、この変更には色々な理由が考えられると思われるが、その幾つかを僕なりに考えてみたい(以下第一次世界大戦はWW1、第二次世界大戦はWW2と記す)。
まずはビジネス的な理由。先行するMCUの方ですでにWW2を戦うヒーロー、キャプテン・アメリカが映像化されている。今同じようにWW2を舞台にしても二番煎じとなってしまうであろう。キャップと、ひいてはMCUとはまた別物であることをアピールしたいDCEUとしてはこれは避けたい。そこで舞台をWW2ではなくWW1にしたのではないか。またキャップとの対比に限らずとも対ナチスドイツのヒーローというのはある意味手垢のついた題材ともいえる。あえてここを外すことで新鮮味が得られる。
またキャップやワンダーウーマンなど1941年デビューでナチスや大日本帝国を敵として戦ったのは当然リアルタイムであり、現在の我々が知っているナチスや大日本帝国とも違うのである。もちろん敵として描くくらいだから(キャップのデビューは1941年3月でアメリカがドイツと開戦する前)、ナチスの独裁主義、ユダヤ人への迫害などはある程度知られていたのだけど(チャップリンの「独裁者」などの反ナチスのエンターテインメント作品もあった)、その詳細、ユダヤ人虐殺ホロコーストなどが一般に知られるのは戦後のことである。ナチスが登場するSF作品として我々が思い浮かべるUFOを連想させる超兵器だとかナチのオカルト的傾向、なども戦後になって広まった事項。結果アメリカが使用したが、各国の核開発なども戦前の時点ではよく分かっていなかったはず。戦時中にナチスを敵として描いたコミックライターたちが戦後にナチの実態を知って、自分たちの想像力(創造力)を遥かに越える形で現実はもっと酷かったことにショックを受けた、と以前何かで読んだ記憶がある。
だから今我々がゴールデンエイジの雰囲気を映像で再現しようとしたらWW2を舞台にするより、WW1を舞台にしてそこでSF的な超兵器などの登場をさせたほうが近いのではないかという気もする。
「BVS」でも出てきた写真(BVSの時はこれがクリス・パインだと気づかなかった)。
そしてもうひとつは映画「ワンダーウーマン」のテーマ的な問題である。ダイアナは世界が戦乱に陥っているのは戦神アレスが暗躍しているからだと思っている。そしてその大本であるアレス本人(ダイアナはルーデンドルフがアレスその人だと睨んでいる)を倒せば全て解決する、と。ある意味でヒーローらしい単純さであり、ただただ明快さとアクションの爽快感だけ求めるのであればそのような展開もあったかもしれない。もしWW2が舞台であればそのような単純明快な展開もありだろう。もちろんWW2も言うほど単純ではないが、枢軸国は悪役として明快であり、これを倒せば世界に平和が訪れる。だからナチスを敵としてこれを倒して終わりでも良かったかもしれない。しかしこれはDCEUという混迷の闇鍋。
劇中ではルーデンドルフもマル博士もアレスがちょっと背中を押した結果戦争に執着するようになったが、あくまで只の人間。これを倒しただけでは戦争は解決しない。アレスは実はイギリスの上層部(トレバーに指示を出すパトリック卿)に扮していて直接戦争を演出しているのではなく人間の心をほんのちょっと煽ることで戦争を継続させていく。人間の本質こそ悪なのだ!とするアレスの論理がWW2が舞台だとぶれてしまう。
WW1の複雑な事情(ヨーロッパは普仏戦争以来基本的に平和が続いていて、また各国の王族は皆親戚同士)が絡み、歴史的に観てもWW2のナチスドイツやファシストイタリア、大日本帝国ほどドイツ帝国は悪役とは言えない。ナチが悪い!で済まない複雑さこそ劇中のアレスの理論を強化し、ダイアナの単純な善悪二元論を打ち砕く。これがWW2が舞台であったらドラマの奥行きが薄くなると思う。
ちなみにドイツの女性科学者マル博士は原作では日本人、丸博士だったりする。そしてルーデンドルフはまんまその人ではないがモデルとしてWW1のドイツ帝国の軍人エーリヒ・ルーデンドルフという人物がいて、戦後ヒトラーと組んでミュンヘン一揆を起こした首謀者の一人だったりします。一揆後ヒトラーとは喧嘩別れ。どうやら政治やオカルト志向という面ではヒトラーとルーデンドルフは似たもの同士だったものの、身分の違いから同族嫌悪していたようである。
とまれ、他のヒーロー作品との差別化でも作品のテーマ的にも舞台をWW1にしたのは正解だったと思う。パラダイス島から一転暗い雰囲気もWW1が舞台なら仕方がない。個人的にWW1が(歴史的事象や作品の舞台として)好きな題材ということもあるが、普通にWW1物としてもよく出来ていたと思います。
今回は特に年代が明言されない事もあって、WW2が舞台だと思ってい見た人も多そう。劇中ではきちんとドイツの「皇帝陛下」という呼び方も出てくる。英語のセリフだけどちゃんとドイツ皇帝を指す単語は「エンペラー」じゃなくて「カイザー」になってたね。WW1は多大な犠牲を出した一方で、医療技術の進歩もあり「中々死ねない」戦争でもあって、戦傷を負いながら、手足を失い、顔を損傷しても生き長らえること可能となり、「ジョニーは戦場へ行った」などはWW1での戦傷をテーマにしている。マル博士の陶器で作った顔の損傷を隠す部分マスクなども実際に当時あったもの。
もちろん、問題もあって、WW1が舞台となったことで幾つか困った事態も。ワンダーウーマンはそのコスチュームからスーパーマンやキャプテン・アメリカと並ぶ星条旗カラーのヒーローだが、WW1が舞台になったことでそのアメリカはほとんど登場しない。アメリカが大戦に参戦したのは末期も末期だからだ(逆に言うとここで参戦せずに済んだことが後のアメリカの強さの礎となった)。トレバーはアメリカ人だがイギリス諜報部所属となり、舞台になる地域はロンドンにベルギー。ダイアナという名前ともあいまって(あるいは故ダイアナ王妃も意識したのかもしれない)アメリカと言うよりイギリスのヒーローという印象さえ受ける。本作では現代におけるダイアナはパリのルーブル美術館で学芸員として働いているようであり、DCEUにおいては特にワンダーウーマンにアメリカのイコンとしてのイメージを持たせるつもりはないのかもしれない。その辺もキャップとの差別化か。あのコスチュームはトレバーの前にパラダイス島に不時着したアメリカ人女性ダイアナ・トレバーを讃えてダイアナの名と星条旗カラーのコスチュームが作られたという設定。お分かりの通りこの女性はスティーブ・トレバーの母親。映画のコスチュームは基本的には原作を踏襲、露出部分も多いけど、もうちょっとくすんだダークな感じになっているかな。
ワンダーウーマンを演じているのは「BVS」に続きガル・ガドット。イスラエル出身で兵役についていたこともある。ということはユダヤ人で、「ソー」のナタリー・ポートマンも今回のガル・ガドットも多民族の神話由来のキャラクターを演じることとなるが大丈夫なんだろうか?とちょっと心配に思ったり。まあ、現在北欧神話やギリシア神話を実際に信仰している人などほとんどいないだろうけど。それこそフィクションと割り切れば大丈夫なのかな?
ダイアナはギリシア神話ではアルテミスのローマでの呼び名だが、その処女神としてのイメージも本作では発揮。日本での宣伝だと「男も知らず、恋も知らず」など過度にその辺を強調していたが、劇中では生身の男を見たことがない、というだけで知識としては十分(生殖的なこと含めて)知っているし、恋愛に関してもアマゾン同士普通にある、と察することができる描写。ただガル・ガドットの表情含め、セミッシラから出たことがないだけあって、単純な世界観の持ち主として「BVS」と比べると若く純粋そうな表情。撮影自体は「BVS」のほうが先だろうけど、全然違う。この辺は本作を通してダイアナが現実を知って成長した、と見るべきだろう。
前線の塹壕の中で戦災にあった婦人の訴えからトレバーたちが止めるのも聞かず戦闘モードになるシーン(実質的にワンダーウーマンとしてのデビュー戦)では突然あの露出の多い衣装になり、一瞬そんなエロい格好ダメ!みたいになるけれど、次の瞬間にはいやらしさよりただ格好良さ、頼もしさだけが印象に残ることとなる。むしろガル・ガドットのちょっとした色気を発揮するのはロンドンに着いた直後、当時のイギリス婦人の格好に着替えるシーンで様々な服装を試着するところ。1917年当時の貴婦人の格好だから肌の露出など殆ど無いのだけど、むしろこのシーンのほうがワンダーウーマンとしての格好やパラダイス島での肌露出が多い格好よりエロチックだったりします。神様が現実世界にやってきてのカルチャーギャップを描くシーンとしても「マイティ・ソー」よりこっちのほうが好きかな。
ダイアナはゴッドキラーという神を殺すことができる剣を携えて戦場に赴くが、実は「ゴッドキラー」とは剣ではなくダイアナ自身であることが判明。この設定はギリシア神話の「ギガントマキア」におけるヘラクレスの設定のいただきかな、と思う。
ヒロイン(便宜上)はクリス・パイン。役柄としてはアメリカ出身のイギリス諜報部所属(アメリカでは空軍に所属)でダイアナを外界に誘う道標。しかし雰囲気としては「スター・トレック」のカーク船長や「ブラック&ホワイト」なんかの飄々としてるけど頼もしいといういつもの感じ。あれですね、クリス四天王(残る三人はクリス・ヘムズワース、クリス・エヴァンス、クリス・プラット)の中で仮にMCUが潰れても誰かは生き残るようにクリス・パインはDCEUにあえて行ったというまるで真田信之と真田信繁兄弟のような、あるいは諸葛亮と諸葛瑾のような話し合いがあったのだと思われます。まあこの4人が友人かどうかもよく知らないけど。
ほかはトレバーが集める仲間もモロッコ人の詐欺師サミーアやPTSD気味のスナイパーチャーリー、インディアンである酋長など一癖も二癖もある連中。しかし彼らがダイアナにこの世界はダイアナが思うほど単純ではない、としらしめる役割も果たす。
敵はアレス。ギリシア神話の主神ゼウスと正妻ヘラのあいだに生まれた不詳の嫡男。同じ戦争の神様でもアテナが戦略や栄誉を象徴するのに対して、アレスは戦場の狂気を体現する神。実際神話でもその戦い方は力押し一辺倒。しかも弱い。度々負ける。人間にも負ける。ヘラクレスにも負ける。ゼウスからも嫌われていて逆に可哀想になってくるがそんなわけで、ギリシア神話題材のフィクションに登場する時はハデスと並んで大抵悪役です。今回はトレバーたちを後押しするパトリック卿こそ実はアレスだった!ということでデヴィッド・シューリスが演じているが、パトリック卿としての姿はともかく素のアレスとしては別の人、あるいはCG表現でも良かったんじゃないか、という気もする。一応アレスは乱暴者だけど超絶美形なんですよ。クライマックスはアメコミらしくダイアナとアレスの一騎打ちバトルで、そこまでの雰囲気と一変するためちょっと逆に違和感。そこで負けかけたり苦悩したあと火事場のクソ力に目覚めたダイアナがアレスを倒して、めでたしめでたし。
Wonder Woman Official Trailer #2 (2017) Gal Gadot, Chris Pine --Regal Cinemas [HD]
今回は物語の前後を現代(ブルース・ウェインがレックス・ルーサーが持っていた写真(ベルギーで撮ったもの)の原版をダイアナに贈る)で挟むものの、基本的には百年前を舞台にした作品。なので気になる部分もある。つまりこの後「BVS」で登場するまでダイアナは何処で何をしていたのか?それこそWW2の時はどうしていたのかなど。このあとDCEUは「ジャスティス・リーグ」へ続き、それぞれのヒーローの単独作品へと連なる。さすがにもう「ワンダーウーマン2」があっても過去でなく現代が舞台となると思うが、ちょっとでもその辺が解決すると嬉しいかも。劇中では「BVS」でも本作でも「ワンダーウーマン」とは名乗ってないし、呼ばれてもいないんだよねたしか。その辺もちゃんと描写あると嬉しい。
結果としてDCEUとしてはかなり”まとも”な作品となった「ワンダーウーマン」。きちんとDCEUの色は残しつつ新たに風を吹き込んだといっていいだろう。「ジャスティス・リーグ」も期待大!
関連記事
バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生 アルティメット ・エディション ブルーレイセット(期間限定/2枚組) [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
- 発売日: 2017/11/08
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログを見る
スーサイド・スクワッド エクステンデッド・エディション ブルーレイセット(初回仕様/2枚組/デジタルコピー付) [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
- 発売日: 2016/12/21
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログ (9件) を見る