The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

翔ぶが如く!翔ぶが如く! るろうに剣心 京都大火編

 公開されて次の日に観て、すっかり感想を放置していた作品。もう2週間経ってすっかり細かい部分は忘れつつあるのだけれどそれでもなんとか書いていきます。人気漫画の映画化作品の続編。「るろうに剣心 京都大火編」観賞。前後編で構成される前編ですね。最初に続編の製作が発表された時はあんまり興味が沸かなかったのだけれど、公開日が近づいて行きたら俄然興味が出てきた作品。なんだかんだで原作ファンだし前作も楽しめましたからね。

物語

 明治11年(1878年)、東京。かつて人斬り抜刀斎として知られ、現在は流浪人として生きる緋村剣心は神谷活心流の道場に居候していた。道場主神谷薫や仲間たちとつかの間の平穏を過ごす剣心。そんな折剣心を内務卿大久保利通の使者が訪れる。かつて剣心が影の人斬りから遊撃剣士として表に出た後影の人斬りを引き継いだ男、維新後新政府の恥部を知る男として秘密裏に始末され死体は焼却されたはずの男、志々雄真実が生きていて今や政府に不満を持つ不逞浪士、戦争を望む武器商人などを糾合し一大勢力となっているというのだ。大久保は剣心に志々雄真を始末するべく京都に向かって欲しいという。だが今や「不殺(ころさず)」を心情とする剣心はこれを拒否。
 5月14日紀尾井坂。大久保は馬車に乗っているところを襲われ暗殺される。一般には石川県士族を中心とした輩の犯行とされたが実はそれは志々雄の部下である瀬田宗次郎の手によるものだった。剣心は京都へ向かうことを決意し薫に別れを告げる。
 京都への道中、剣心は巻町操という少女と出会い行動を共にする。途中すでに志々雄の支配下にあり、政府が放棄したという村で志々雄と対峙する剣心。そこでの宗次郎との戦いで剣心の逆刃刀が折れてしまう…

 前作の感想はこちら。

 幕末や明治新政府(ひいては大日本帝国)に対する僕の立場は前作の感想でちょっと触れている。一言で言うと僕は幕末モノは佐幕派の立場で見ることが多い。なのでこの「るろうに剣心」という作品で言うと新選組の生き残りである斎藤一会津の医者一族の生き残りであるという高荷恵、新政府に裏切られた赤報隊の生き残りである相楽左之助、と言ったキャラクターに感情移入することが多い。
 前作は原作前半の3つのエピソードを合体させて登場人物を整理し、個人的には物語の流れとしてはよくできていたと思う。もちろん演出や主に役者の過剰な演技によって変な部分、気になる部分は多かったのだが、全体としては満足。また監督の大友啓史が手掛けたNHK大河ドラマ龍馬伝」とスタッフやキャストが共通していることもあってあの大河ドラマの延長線上にある世界観の物語という認識もある。共通する役者が同じ役を演じているわけではないけどね。
 全体として前作よりパワーアップしているけれど漫画「るろうに剣心」という物語の中でも一番人気の長編エピソードだけあって前作のようにエピソードを統合するというよりもいかに削っていくか、ということが重要になるかと思う。本作は前後編の前篇だが、それでもアクションなどで出し惜しみはしていない。本作は本作で十分楽しめるだろう。ただ登場人物の初登場シーンなどでちょっと不自然な部分もあるのは確か。


 登場人物は概ねよく造形されていたと思う。引き続き登場するキャラクターはもちろん新規キャラクターも原作と付かず離れず、ある程度のイメージは踏襲しつつ、コスプレ的な似せ方をすると言うよりはきちんと役者が役柄に統合していてよかった。剣心役の佐藤健も神谷薫役の武井咲も。薫役は原作以上に捕らわれ役という意味でのヒロインと言う感じなのだけれどその意味での役割は果たしていると思う。
 僕は原作で一番好きなキャラクターは斎藤一だが映画では青木崇高演じる相楽左之助が一番良かったと思う。彼は原作のキャラに似せるというよりも自分のものとして演じていた感じがする。あ、あと弥彦役の子が成長してしまったせいか変わってました。が、ここはあえて彼(田中偉登)のままでよかったのではないか。「仮面ライダー鎧武」の劇場版で見た彼は結構落ち着いていい感じに育っていましたよ。何度も書いている気がするけれど、マンガやアニメ、小説では幼い子どもがどんなに無茶なことや大人っぽいセリフを言っても不自然には感じないんだけれどそれが実写で表現されると途端に不自然極まりなくなる。だからいっそいなかったことにするか、でなければ成長した彼をそのまま出しても良かったのに。というわけで今回は再び声変わりする前の少年が演じていますが、相変わらず弥彦はいらないと思ってしまった。
 新キャラクターではまず大久保利通宮沢和史。「怪しい彼女」を観た時に「日本でリメイクするならお父さん役は宮沢和史」などと書いたけれど、そこから程なくスクリーンで見かけたのでちょっとびっくりしてしまった。あんまり役者のイメージはなかったので。大久保利通木戸孝允西郷隆盛と並ぶ維新三傑の一人で個人的にはその中でも重要な役割を果たした人物だと思うが、人気という点では他の2人に劣る。特に故郷である鹿児島では盟友であった西郷隆盛を倒した政府の代表者ということで西郷と比べて人気は圧倒的に劣るという。僕の大久保利通のイメージは大河ドラマ翔ぶが如く」で鹿賀丈史が演じたものが強いが、判官贔屓もあれど西郷より実務に優った大久保のほうが優れた人物であったと思う。後述するが、原作では志々雄一派の中でも百識の方治はおそらく大久保利通を小型化したようなキャラクター造形になっていると思う。
 この映画で見どころのアクションシーンは幾つかあって新月村での剣心と宗次郎、京都での神社での剣心と張、四乃森蒼紫と翁などがあるけれど個人的に一番ゾクっと来たのは紀尾井坂の変の再現で宗次郎が大久保の乗っている馬車に追いつき乗り込むシーンである。言葉にすれば簡単で漫画でもあっさり描写できるがやはり実写で観るとこういうシーンが不可能を可能にしているなあ、と思って実写映画の醍醐味であるように思う。
 その瀬田宗次郎は神木隆之介。宗次郎のモデルは沖田総司でいわゆる少年剣士という感じだけれど喜怒哀楽のうち楽だけを残した表情や年齢の割に達観したところと逆に年齢の割に幼い部分の共存が見事で僕は劇場版は観ていないがTVドラマの「SPEC」ややはり大河ドラマの「義経」や「平清盛」で演じた牛若丸・源義経のイメージなんかもあって見事。この辺は完全に映画化前からイメージされたキャスティングがそのまま実現された感じ。

 四乃森蒼紫は本来なら前作で登場していたはずのキャラクターである。前作製作中にどのくらいまでこの「京都大火編」及び続編が構想されてたかは分からないけれど(ヒットしたら続編!ぐらいの認識ではあったと思う)、前作を単独で見れば蒼紫と御庭番衆の出番を削り敵役を鵜堂刃衛に集中させたのは正解だったと思う(更に言えば外印や武田観柳の妙に濃い側近などはいらなかったと思う)けれど、お陰で本作での四乃森蒼紫の登場と動機がかなり不自然であるのは事実。剣心との個人的な因縁は消え単に「最強」の二文字を手に入れるために幕末最強と言われた剣心を追うというキャラクターになっていてちょっと観ていて無理があると感じた。ただ、じゃあ今回も削ればよかったのかというとそうでもなくて京都において巻町操や翁、京都御庭番衆を出さないわけには行かず、そうなると四乃森蒼紫の存在は外せない。この辺は左之助赤報隊、志々雄真の新政府に裏切られたエピソードの幕府軍側の物語を追加して対比させているがそれでもちょっと弱いかなあ。
 とはいえ演じた伊勢谷友介の格好良さは文句のつけようがなく、登場する度に空気が引き締まるのも確か。本作でこそ登場する違和感が多かったが次はその辺をぶっちぎってその格好良さを思う存分見せつけてもらいたい。
 今回の実質ヒロインとも言える巻町操は土屋太鳳が演じている。ドラマなどで何度か見たがどちらかいうと大人っぽい、優等生的な役柄が多い印象があるのでちょっとびっくりはした。全然悪くなかったけれど、弥彦とは逆にもうちょっと幼い少女のイメージであってもそれこそ薫との対比にもなって良かった気もする。また本作では関西弁で喋るのであるが、そういえば確かに彼女は京都育ちであるわけでそのほうが設定的には自然かな。いくつか登場するアクションシーンはそのくのいちという役柄からも他の剣客によるアクションとはちょっと見せ方が変わっていて面白かった。
 翁は田中泯。「龍馬伝」で吉田東洋、「47RONIN」で浅野内匠頭(!)を演じていたが本作ではアクションも担当。ラスト近くの蒼紫との対決は狭い屋内での対決でトンファーなども出てきてやはり他のアクションと区別されていた。

 志々雄一派ではまず頭目の志々雄真実。演じるは藤原竜也。「カイジ」のカイジ(クズ)、「藁の楯」の清丸国秀(クズ)とクズを演じて来たがここに来て巨大なクズ志々雄真実を演じる。彼は大河ドラマ新選組!」では沖田総司を演じていたのでもうちょっと若ければ瀬田宗次郎を演じていてもおかしくなかったかもしれない。基本的には原作同様包帯だらけのミイラのような姿で登場するが、幕末の描写では大火傷を負う前の素顔の志々雄も登場。当然こちらも藤原竜也が演じている。
 ルックスはほぼ原作のままだがどちらかと言うと細身のミイラというイメージの原作に対して肉襦袢の上に包帯を巻いているようなかなりマッシブな感じに。今回はまだアクションはほとんど登場しないのでそのへんの活躍は次回に持ち越しだが、前回の武田観柳同様ノリノリで悪者を演じているのは伝わってくる。そばにいる”夜伽の由美”こと駒形由美は高橋メアリージュン。「仮面ライダーキバ」で麻生ゆりを演じた高橋ユウのお姉さんですね。こちらも妖艶な雰囲気は伝わるも本格的な活躍は次回に持ち越しという感じであるが、個人的に彼女と志々雄の絡みで言うと原作であった「本当にいい男はどんなになっても女のほうからよってくる」というセリフが削られていたのは残念。
 志々雄一派の実行部隊のトップ「十本刀」。本作で登場するのは冒頭で悠久山安慈(と思われる攻撃)、そして宗次郎と”刀狩り”沢下条張、そして”百識の”佐渡島方治。後は顔見世程度で次の活躍を待つ、というところ。この中で安慈も実質次回持越しなので残りの3人が活躍。宗次郎はすでに述べたが、新月村での活躍よりも紀尾井坂の変での活躍のほうが印象に残る。
 沢下条張は演じているのは三浦涼介、「仮面ライダーオーズ」のアンクですね。ルックスもアンクに近く、金髪のツンツンヘア。もうビジュアル的には完璧で個人的にはもうちょっと声を高くして軽薄な雰囲気とその中に凄みを出してくれれば完璧だった。張の声は個人的には古川登志夫(アニメ版で演じたのは福本伸一)なんだよね。ちなみに三浦涼介はライブで生で見たのだけれど超格好良かったですよ。
 ここでの剣心との対決も神社の境内下などを利用して楽しかったのだが、ちょっと残念なのは原作の殺人奇剣が「薄刃乃太刀」が無くなって、まあこれはCGとか使わないと表現が難しそうだしそうなると本作の趣旨とは反してくるかもしれないのでいいのだが、「連刃刀」の方が原作の間隔の短い刃を連ねた刀、と言うのがハサミのようになっていたのはもったいなかった。まあ原作通りの連刃刀じゃ地味だったのかもしれないが。あと逆空中納刀も無くなっていたのは残念。しょっくやわあ。
 しかし、一番しょっくなのは方治のキャラであろう。方治は原作では志々雄側では僕が一番好きなキャラクターで先に述べたように「志々雄側の大久保利通」という感じもあるが、僕は彼に「感情を押し殺しているオーベルシュタイン」というイメージを持っている。パウル・フォン・オーベルシュタインは田中芳樹のベストセラーでアニメ化、舞台化もされた「銀河英雄伝説」に登場する人物で主人公ラインハルトの野望を実現するため完全に私心というものを押し殺して活動し冷徹/冷酷なキャラクターであるが敵対する人物でさえ彼に私心がないことを知っているので一目置いている。方治はオーベルシュタインほど徹底してはいないが少なくとも志々雄のために一切の汚れ役を引き受ける役柄。だが、本作の時点ではただ騒々しいうるさいキャラになっていて薫を人質にして騒ぎたてていようなかなり俗っぽい悪役に堕してしまっている。僕はこのキャラクターは本当に好きなのでとても残念。次での汚名返上を期待したい。演じるのは滝藤賢一。ちなみに方治の名前の由来は「X-MEN」のフォージから。原作のキャラクターの多くにアメコミのキャラがモデルになっているのは有名だがデザインではなく名前だけ仕様されている例は珍しい。


 さて、ラストは「伝説の最期編」へと続く。後半は原作と大きく異る展開をするそうで原作ではあっけなく沈没した鉄甲船「煉獄」だが映画ではもっと活躍することとなりそうだ。あるいはそのまま煉獄が東京へ行き東京が舞台となるのかしれない。また映画最後に登場した男、福山雅治はもちろん坂本龍馬!…ではなくおそらく剣心の師匠比古清十郎であると思われる。京都編の葵屋での十本刀との激闘は正直映画では削ってしまって構わないと思うけれども個人的に観たいの比古清十郎VS破軍(乙)の不二だったりするのでちょっとこのへんは見てみたいですね。
 というわけで激闘は続く!翔ぶが如く*1

*1:この左之助のセリフが削られてたのも残念だなあ。もしかしたら次で出てくるかもしれないけれど