暗き過去からの復讐 スター・トレック イントゥ・ダークネス 感想とも解説ともつかぬなにか
注!先行公開を観た段階で書いたネタバレ感想です。できれば鑑賞後にお読みください。
1966年から始まったアメリカのTVシリーズ「スタートレック」は日本での受容において西日本(主に関西)と東日本(主に関東)では大きな差があるという。僕がこのシリーズの虜になったのは学生時代に京都に住んでいた時で、ちょうど深夜の1時半頃から「新スタートレック」の最終第7シーズンを放送していた。そのまま新シリーズ「スタートレック ディープ・スペース・ナイン」が始まった。たしか日本での放送としては一番最初だったと思う。その後東京に住み始めた時も確かに深夜に放送されてはいたが、関西より更に一時間以上遅い時間帯で野球などで時間が遅れると当たり前のように放送中止になっており、東西のスタトレ格差に絶望したものだった。
今はCSなどの普及も進み、現在関西での放送状況がどのような状態かは分からないが、それでも決して日本全体のスタトレ環境は良いものとはいえない。それでも劇場版はすべて日本でも公開されている*1。ただやはり、「ER」や「24」などといった海外ドラマブームからは少し離れたところにあるように感じる。
ところが今回はちょっと取り巻く空気が違う。キャストを一新して再びカーク船長とそのクルーの活躍を描く第2弾だが敵役のベネディクト・カンバーバッチの人気によるものかかつてない盛り上がりを迎えているようにも感じる。まあ正直、カンバーバッチ人気でそこばかり取り上げられるのもスタトレファン*2としては複雑なのだが。新生スタートレックの第2弾、「スター・トレック イントゥ・ダークネス」を観賞。
物語
Space...the final frontier.
These are the voyages of the Starship Enterprise.
Its five-year mission : to explore new worlds,
to seek out new life and new civilization,
to boldly go where no man has gone before...
宇宙――それは人類に残された最後の開拓地である。
そこには人類の想像を絶する新しい文明、
新しい生命が待ち受けているに違いない。
これは、人類最初の試みとして5年間の調査飛行に飛び立った
宇宙船U.S.S.エンタープライズ号の脅威に満ちた物語である。
(「宇宙大作戦」オープニングナレーションより)西暦2259年、ジェームズ・T・カークが艦長を務めるU.S.S.エンタープライズは未知の惑星で未開の種族を天変地異から救う。しかしその行為は艦隊の誓いに抵触するものであった。クリストファー・パイクが再び艦長となりカークは降格し副長へ。
その頃、ロンドンの記録保管所を爆弾テロが襲う。首謀者であるジョン・ハリソンの捕縛についてサンフランシスコの艦隊本部で協議が行われる中再びハリソンが襲い、パイクを始めとした多大な犠牲を出してしまう。現場に残された転送装置からハリソンはクリンゴンの本星クロノスに逃げたことが判明、カークはマーカス提督からハリソンを殺すよう命令される。
エンタープライズには提督の命令で新兵器の光子魚雷が積み込まれ、不審に思ったスコッティはエンタープライズを降りてしまう。新たにキャロルという女性科学士官を乗せクロノスを目指すエンタープライズ号。しかしクリンゴンと惑星連邦は一触即発の状態にあり、クリンゴンは勇猛な戦士の種族で知られている。クロノスに乗り込むのは無謀に近いことだったが・・・
気分はもうポンファー! スター・トレック イントゥ・ダークネス
初見の感想です。
最初の感想でも書いたけど、単純に前作よりも面白くなっていると思う。1作目はどうしてもキャラクター紹介に時間がかかってしまうけれど、2作目からは最初から物語を動かせるということもあるだろう。最初のMクラス(標準的な地球サイズの惑星で生命体が存在する惑星は大体このMクラスである)の未開惑星でのアクションも「007」などのアバンタイトルシークエンスを彷彿とさせる。
未知の世界
えー一般にJ・J・エイブラムス監督による2009年の「スター・トレック」はリメイクとかリブートとか言われることが多いけど実際はそうではなくて、まあ確かにシリーズが多く生まれ広がり過ぎたスタートレックの世界を一旦リセットして新規の客も入りやすくしようという意図はあるのだけれど物語上はこれまでの時間軸からやってきたタイムトラベラーによって発生した新たな時間軸の話なのですな。それでシリーズ作品として一見さんでもとっつきやすく、でもシリーズのファンには細部まで楽しめる、というものだった。なので簡単にシリーズ概要を説明。
まずは原点にして今回の「イントゥ・ダークネス」の基本ともなる最初のTVシリーズ「スタートレック/宇宙大作戦」(以下TOS)。1966年から3年間放送。その後「スターウォーズ」に始まるSF映画ブームを受けて1979年に最初の劇場版「スタートレック ザ・モーション・ピクチャー」が公開される。映画は色々ありつつ順調にシリーズを重ね1991年の「スタートレック6 未知の世界」までがカーク船長とそのクルーによるシリーズ。
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「スタートレック」の創造者であるジーン・ロッデンベリーは現実を舞台にしたドラマでは物議を醸すような題材をSFに託して描いた。それ故に時に重たいテーマもあるがそれでも基本的にその未来世界は希望に満ちている。ロッデンベリー死去後に制作されたシリーズはもうちょっとダークな作りになっているが基本的なロッデンベリーの理想はシリーズに受け継がれている。
今回の「イントゥ・ダークネス」は僕が「DS9」が一番好きなシリーズだからかもしれないが観た後にDS9を思い出すような雰囲気を持っている。
前作はスタートレックシリーズのファンであるアレックス・カーツマンとロベルト・オーチー(この二人はやはりTVシリーズの映画化である「トランスフォーマー」の脚本家コンビである。あちらも旧作を知らなくても楽しめる、知っていればもっと楽しめるという理想的な作品だったと思う)が徹底的にファンも納得できるように脚本を書き上げ、それを特にファンではなかったJ・J・エイブラムスが一般観客でも楽しめるように監督する、という作りだった。これまではいくら映画になって予算が増えたとしてもだからといってあまりにTVとトーンを変えるわけにもいかず、軽いジレンマに陥っていた部分もあるのだが、それを軽々と振りきってアクションもテンポよく、これまでにないフレッシュさで元のファンはもちろん新たなファンを獲得した作品であったと思う。
J・J・エイブラムス自身はプロデューサーとしての手腕のほうが目立ち監督としてはどちらかと言うと手堅く演出するタイプだと思うが、きっちりした脚本、スタッフ、そしてしっかりしたキャスティングをした時点でほぼ勝利確定だったと思う。このへんはエイブラムスの面目躍如と言ったところか。
今回の「イントゥ・ダークネス」では同じ脚本家コンビと監督が続投し、その「知らなくても楽しめる」を更に突き詰めたものとなっていると思う。
シリーズ2作目ということで特に面倒くさい人物紹介は無し。クリス・パイン、ザッカリー・クイント、カール・アーバンと言ったキャストもどちらかと言うとTOSのウィリアム・シャトナーやレナード・ニモイ、ディフォレスト・ケリーなどを強く意識していた前作よりもより自分のキャラクターとして演じているように思える。TOSではカーク、スポック、マッコイの3人が中心でスコッティ、ウフーラ、スールー、チェコフの4人はちょっとその3人からは引いた感じだったが、このシリーズではスールーとチェコフは同じ立ち位置であるもののウフーラがスポックの恋人となっている。またおそらくTOSと一番キャラクターが変わっているのはサイモン・ペッグ演じるモンゴメリー・スコット(通称スコッティ)で、もう彼に関しては前作の段階で「ジェームズ・ドゥーハンに似せる気無いだろ!」って感じだったのだが、今作はさらにエスカレート。元々スコッティはスポックやマッコイと違ってカークの親友と言うよりはあくまで信頼出来る上司・部下という感じだったのだが、この新しいシリーズでは対等な口を利く親友的立場へ。はっきり言うと役柄的にはマッコイより美味しいかも。個人的にはマッコイとスールーがもっと出番があると嬉しいですね。マッコイも「私は医者だ。◯◯じゃない」という決め台詞を言ったけれど。チェコフ役のアントン・イェルチンはロシア生まれであるがロシア育ちではない。でもウォルター・ケーニッグよりロシア訛りが強くなってるよね。
ここから先は過去のシリーズを参照にしつつ「イントゥ・ダークネス」の解説といった感じでお送りしたい。
優生戦争 カーンの逆襲
「スター・トレック イントゥ・ダークネス」は制作発表当初は映画版の第2作目である「スタートレック2 カーンの逆襲」のリメイクであるなどと噂されていた。ベネディクト・カンバーバッチ演じるキャラクターはカーンであるとも。その後カンバーバッチの演じる役がジョン・ハリソンという元艦隊士官とされた(どうでもいいがこのジョン・ハリソンという名前からつい「ジェネレーションズ」に出てきたエンタープライズBの艦長ジョン・ハリマンを連想してしまう)。しかし結論から言うとやはりジョン・ハリソンはカーン・ノニエン・シンだったのである。もちろん、この作品がそのまま「カーンの逆襲」のリメイクだというわけではない。そもそも同じ映画シリーズ第2弾とはいえ「カーンの逆襲」と今回の「イントゥ・ダークネス」では時代設定が違う。「カーンの逆襲」は西暦2285年が舞台。前日譚であるTOSの「宇宙の帝王」の時でも2266年で今回の2259年より後。だからキャラクターは同じでもやはりパラレルな物語だ。
カーン・ノニエン・シンは遺伝子操作によって知性や身体能力が通常の人類を格段に上回ることになった優生人類である。20世紀末に中東からアジアにまたがる巨大な領土を治める独裁者として君臨したカーンは世界征服戦争を開始するが敗れやはり遺伝子操作された仲間を連れボタニー・ベイ号で宇宙に脱出、300年近く冷凍冬眠されながら宇宙を彷徨っているところをカークのエンタープライズ号に発見される。スタートレックの世界では1992年〜1996年にカーンの起こした通称「優生戦争」が行われ、以降地球や惑星連邦では遺伝子操作(治療を除き遺伝子改良によって知性や身体能力を高める行為)は禁止されている*5。この1992年〜96年という年代はTOS放送当時からすると30年後の未来であったが92年にはTNGの第6シーズンやDS9の放送が決まっており、現在は漠然と20世紀末ぐらいとされる。「イントゥ・ダークネス」でもカーンが戦争を起こしそして破れ、宇宙に逃亡する時期は300年前とアバウトに語られるにとどまる。
カーンはその後TOSのエピソード「宇宙の帝王」でエンタープライズの乗っ取りを画策し、またしても敗れ仲間とともにセティ・アルファ5に追放(という名のカークによる温情措置)されるが、「カーンの逆襲」では同じ太陽系の惑星セティ・アルファ6の爆発によりアルファ5の軌道が変わり環境の変化で仲間を多く失い、アルファ6と勘違いしてやってきたU.S.S.リライアントを奪いカークに復讐を企む。TOSを代表する悪役といえば集団としてはクリンゴンやロミュランだが、個人で言えばカーンこそスタートレックを代表する悪役といえるだろう。実際アメリカではそれこそダース・ヴェイダーなどと並んで最高の悪役に選ばれている。
本来の時間軸でカーンを演じたのはリカルド・モンタルバン。「新・猿の惑星」「猿の惑星・征服」でサーカスの団長を演じたメキシコ生まれのヒスパニック系でありはっきり言って今回カーンを演じたイギリス人のベネディクト・カンバーバッチとは全然似ていない。おそらく似せるつもりもなかったのだろう。モンタルバンのカーンは攻撃的なあふれるカリスマが魅力なのに対して、カンバーバッチのカーンはじっくり話してうちから湧いてくるカリスマ性が魅力だ。今回はカークたちよりも早くボタニー・ベイ(字幕では宇宙船の名前まで出てこなかったが実際は言っていたのかな?)は発見され、宇宙艦隊の秘密機関セクション31によってその知性を利用される。仲間の生命と引き換えに。セクション31については後述。
アクション性に乏しかった「TOS」と「カーンの逆襲」では具体的に優生人類の能力を見るのは難しかったが、今回はクリンゴンの集団を1人で蹴散らしたり、カークに何度も殴られても全然平気だったりとその屈強さも表現される。また知性部分でもU.S.S.ヴェンジェンスにカークと共に突入する部分で身体能力の高さと主に発揮されている。ラストのスポックとの一騎打ち(バルカン人も見た目によらず地球人より身体能力は高い…が優生人類と比べてどちらが上かは不明)でも壮絶なアクションを見せてくれる。
ただ、やはり今回特筆すべき描写はその血液が不治の病に効果があり、死者さえも蘇生させるということだろう。これによってカーンは娘を思う父親を自爆テロに駆り出し、ラストはその血液で持って宿敵であるカークを救うこととなる。
新旧カーン・ノニエン・シン。
もう一人、「カーンの逆襲」と共通するキャラクターはキャロル・マーカス。この人も「カーンの逆襲」に登場するキャラクター。ただし先ほども言った通り「イントゥ・ダークネス」と「カーンの逆襲」では25年ほど開きがあるのでそのままのキャラクターではない。ここではマーカス提督の娘であり、エネルギー源が不明の光子魚雷の原因を探るべくエンタープライズ号に(不正に)乗り込む。特にカークとの特別な絡みはないが、元の時間軸では二人は恋に落ち(カークも知らないうちに)二人の間には息子デヴィッドが生まれる。それが「カーンの逆襲」の物語である。
キャロル・マーカスを演じているのはアリス・イヴという人で僕が観た中では「メン・イン・ブラック3」に出演していたらしいが特に記憶になし。これが実質初認識。予告編の叫ぶ姿でも分かる中々表情の豊かな女優である。余談だが今回の日本語吹替版ではウフーラを前作の東條加那子に代わって栗山千明が演じている。いわゆるタレント吹替の一つであるが、(栗山千明の上手い下手は置いといて)こういう時になぜ前作から続くレギュラーキャラクターに起用するのだろう?といつも疑問に思う。どうせなら今回初登場であるキャロルにすればよかったのに。「アベンジャーズ」での竹中直人、米倉涼子の起用の時もそうだけど、タレント吹替にするにしてももっとうまいやり方があると思う。
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セクション31
ロミュラン星間帝国のタル・シアー、カーデシア連合のオブシディアン・オーダー、フェレンギ同盟のフェレンギ会計監査局【FCA】(最後のはちょっと違う)!銀河の列強は概ね軍事国家であり諜報機関が存在する。これら諜報機関は時に役割を逸脱し国政を牛耳っている時もある。面白いのは同じ軍事国家でもクリンゴン帝国の場合諜報機関の勢力は小さい事。このへんはお国柄が出ているといえるのか。劇中ではさらっと言及されるだけで特に重要視されないがマーカス提督やハリソン(カーン)が所属し、秘密兵器を開発していたという部署、そしてその所在をロンドンの記録保管所に偽装していた惑星連邦の秘密機関が「セクション31」である。セクション31の存在が初めて明かされるのは「DS9」において。本来惑星連邦憲章に違反する組織であり、存在してはいけない組織(故に存在しないことになっている)でタル・シアーやオブシディアン・オーダーと違って一部の関係者しかその存在を知らない。結成は惑星連邦成立以前にまでさかのぼるという。その目的は惑星連邦の脅威をどんな手段を使ってでも取り除くことに有り、DS9ではドミニオン戦争終結のために「創設者(ドミニオンの指導者である流動体生物)」を同じ流動体生物であるオドーを使ってウィルスで全員抹殺しようとしたこともある。24世紀におけるセクション31の工作員ルーサー・スローンを演じているのがウィリアム・サドラーというあたりからこの組織の怖さを感じてもらいたい。このように理想とその実現のために動く惑星連邦と宇宙艦隊とは本来相容れない暗部のような存在である。「イントゥ・ダークネス」ではマーカス提督は宇宙艦隊*6を正式な軍組織にしてクリンゴンと戦争をしようと計る。このような連邦内部の反動的な動きについては「スタートレック6未知の世界」や「スタートレック/叛乱」を連想させる。ここでは「叛乱」を引き合いに出してみよう。
叛乱
映画「叛乱」の劇中での時期はちょうどDS9で「ドミニオン戦争」と呼ばれる大規模な戦争が行われていた時期である。その前に簡単に「DS9」の説明を。
宇宙ステーションDS9はかつてカーデシアが惑星ベイジョー軌道上に建造した宇宙ステーションでカーデシアが支配下においていたベイジョーから撤退した後、ベイジョーより連邦に委託されて共同統治となり宇宙艦隊が駐留している。そこに人工的(ベイジョー人が預言者として信仰の対象としているワームホール異星人)によって作られた安定したワームホールが現れそのワームホールは遥か遠くのガンマ宇宙域とつながっていることが判明する。突然としてガンマ宇宙域とアルファ宇宙域の交流拠点としてDS9の重要性が増した。やがてガンマ宇宙域にはドミニオンと呼ばれる巨大国家が存在し、ガンマ宇宙域の各種族はその支配下に入っていることが判明する。そしてカーデシアがドミニオンと連合を組んだことでアルファ宇宙域を舞台に大戦争が起きる。
DS9はジーン・ロッデンベリーが死去した後に作られたシリーズであるためかそれまでよりも人間はもちろん惑星連邦の暗黒面に踏み込んだ描写も多い。ここでもDS9司令官のベンジャミン・シスコがロミュランを対ドミニオンの軍事同盟(惑星連邦とクリンゴン)に加えるためにドミニオンの仕業に偽装してロミュランの船を爆破するのを黙認するエピソードなどが描かれる。
「叛乱」はそのようなドミニオン戦争を背景としており連邦はケトラセル・ホワイトと呼ばれる麻薬物質を製造することのできるソーナ人と取引するためバクーという惑星の住民を強制移住させようと試みる。ケトラセル・ホワイトはドミニオンの攻撃部隊でもある遺伝子改良によって作られたジェムハダーと呼ばれる種族が定期的に摂取しなければならない化学物質でこれによって創設者はジェムハダーを従えている(もちろん遺伝子改良によって本能的に創設者に従うようにもされている)。このケトラセル・ホワイトを作ることができればジェムハダーに対して何らかのイニシアチブを取れるがアルファ宇宙域で製造できる種族はソーナ人しかいないのである。そこで彼らとの取引として本来の連邦憲章や艦隊の誓いに反する行為を艦隊上層部が行いそれに対してピカード艦長率いるエンタープライズEが反旗を翻すという物語である。
劇中でソーナ人の首領ルアフォが「もう惑星連邦は死に体だ。カーデシア、ボーグ、ドミニオン。銀河の各象限から侵攻を受けているじゃないか。皆連邦の死臭を嗅ぎとっているのだ」というようなセリフを吐く(もちろん字幕ではここまで詳細には表現されない)。建設から200年以上、ある程度体制にガタが来ているのかも知れない。しかし、全く別のスペースオペラだが田中芳樹の「銀河英雄伝説」のアレキサンドル・ビュコック提督の言にならえば「連邦は軍事国家として生き長らえるよりも、民主主義国家として滅ぶべき」なのだ。もちろん歴代の艦長・司令官たちは時に「艦隊の誓い」*7を大胆に破るがそれは主に今回の冒頭で行われたようなその星の生命を守るために止むを得ず、という場合がほとんど。今回のマーカス提督とは種類が違う。
「イントゥ・ダークネス」ではピーター・ウェラー演じるマーカス提督は惑星連邦を覇権国家へと導こうと画策する。その欲望を象徴するようにマーカスが乗船するU.S.S.ヴェンジェンス(復讐号!)は巨大だ。多分エンタープライズ(コンスティテューション級全長約300m)との対比だとギャラクシー級(エンタープライズD、全長641m)以上の差はあるだろう。ぱっと見はエンタープライズをそのまま相似形にしたような感じだが機関部(第2船体)からパイロンでつながる2本のワープナセルは一緒でも円盤部分が実はO字ではなくU字風になっている。僕は「叛乱」のソーナ船と「ネメシス」のレムスウォーバード・シミターが合体したような異形さを感じた。また表面が滑らかなエンタープライズに比べてまるでボーグ船のようにゴツゴツしているのもヴェンジェンスの特徴だろう。このおよそ宇宙艦隊の船とは思えぬデザインもマーカス提督やカーン(建造計画にはカーンも関わっているはず)の欲望を具現化した物といえるかもしれない。
(とここまでJJ版のエンタープライズもTOSとほぼ同じサイズだろうと判断して書いたのだけれど改めて調べてみたらJJ版のU.S.S.エンタープライズ NCC-1701はサイズが725mとギャラクシー級やソヴェリン級(エンタープライズE)の685mを超える大きさらしい。大きすぎ!必然的にU.S.S.ヴェンジェンスも更に巨大となりどうやら1450mほどの大きさとなるようだ)
トリブルでトラブル!
小ネタ。劇中でマッコイが実験に使う毛むくじゃらの生物はトリブルと呼ばれる生命体である。この生物はフワフワした毛に包まれており、愛らしい声で鳴くので愛玩動物として愛されている。一方で繁殖力が半端ではなく生まれた時には既に体内に子供を宿しているという状態であり、また食欲も旺盛なので害獣として嫌われてもいる。かつてクリンゴンはその絶滅を狙って銀河の果てまで追い詰めたと言われ、クリンゴンはトリブルを忌み嫌っているがトリブルもまたクリンゴンを恐れクリンゴンが近づくと(たとえ整形などでクリンゴンの姿をしていなくても)拒絶反応の鳴き声を上げる。このトリブルが出てくるエピソード「新種クアドトリティケール(原題はThe Trouble With Tribbles トリブルでトラブル)」はTOSの代表的なコメディタッチのエピソードであり、その後DS9でもDS9のクルーがタイムトラベルでこのエピソード内に登場する「伝説の時空へ(Trials and Tribbles-ations)」などでも登場する。観客は最初の不治の病にかかった少女がカーンの血で治るところを見ているがマッコイはこのトリブルの動きでカーンの血液の作用を知る。
繁殖するトリブルに呆れ果てるカーク船長。
このカークが放射能に侵され死亡する、それをガラス越しにスポックが見守るってのはまんま「カーンの逆襲」のラスト近くのシーン。ただしキャラクターは入れ替わっており、「カーンの逆襲」では死ぬのはスポック、ガラス越しに最後を看取るのはマッコイという形だった。「カーンの逆襲」はその後の2作「ミスター・スポックを探せ!」「故郷への長い道」と連作になっているのでスポックの復活は次作に持ち越されたが、今回はその直後にカークが復活しラストを迎える。
前作は未来からの訪問者が敵であったが、今回は過去からの訪問者が敵となる。面白いのはスポックがカーンの人格の判定に迷っている時、今は過去に定住し他のバルカン人とともにニュ―バルカン(前作でバルカン星は無くなってしまった)に住むオールド・スポック(もちろん演じるのはレナード・ニモイ!)に助言を求めることだ。もちろんオールド・スポックはカーンを危険な人物だと言う。
「貴方はカーンを倒したのですか」
「ああ、多大な犠牲を払うことになったがね」
という部分は「カーンの逆襲」ではスポック自身が犠牲になったことを連想すると興味深い。この辺はちょっと過去作を見ていないと分かりづらいかもしれない。
後はクリンゴンが登場するのですな。TOSのころのクリンゴンの容姿は後の劇場版やTNGに比べてメイクが貧相でそれは予算と技術の関係なのだが、DS9の「伝説の時空へ」でTOSタイプのクリンゴンとTNG以降のタイプのクリンゴンが一緒に登場することで実際に劇中に存在する違いであることが判明した。その後ENTの中でTNGタイプのクリンゴンがTOSタイプに変化した理由が明かされるが、ということは、2259年当時のクリンゴンはTOSスタイルのはずだが、まあそのへんはちょっとスマートなTNGタイプという感じでしたね。マスクタイプの兜をかぶっているのもちょっとクリンゴンらしくないのではあるけれど、体型はTOSタイプってことなのかもしれない。それとD-4級というクリンゴン船が出てきたけれど、D-4級ということはD-7級のクリンゴン・バトル・クルーザーの系列機なのかな、と思うのだけれどD-7級というよりヴォルチャ級やラプター級っぽいシルエットでした。カプラ!
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今回の映画を経てカークは正真正銘エンタープライズの艦長へ就任。5年間の深宇宙への探査飛行へ出かける。ここでやっとTOSの最初の時点まで追いついたことになる。映画版はどうしても規模がでかくなり、地球の危機という話が多くなるが次は従来の新たなる文明、種族との出会いの中で物語が作られると嬉しい。
大体3〜4年毎に新作が作られているスタートレックであるが、そうすると次回作は2016年ぐらいであろう。2016年はTOS誕生50周年である。おそらくそこに合わせて何らかの動きがあることは確かだと思う。個人的には今回の続編の他にやはり新しいTVシリーズを作って欲しいなあ、と願ってやまない。
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2009年は「スター・トレック」と「ターミネーター4」と「トランスフォーマー:リベンジ」がほぼ同時期に公開されたんで比べてみたよ、って記事。
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今回はパンフもノベライズも読んでない状態で書いているので2回めを観て、パンフやノベライズを読んで気付いたことがあればまた何か書くかも。とにかく練りに練られつつ、エモーショナルな作品で実写映画としては現在のところ文句なしの今年ナンバーワン作品です。
長寿と繁栄を"Live long and prosper"
*1:僕がファンになったのは映画で言うと「ファーストコンタクト」からなのだが、その前の「ジェネレーションズ」が福島でも公開された事自体は記憶にある
*2:トレッキーとかトレッカーとか言うのだが作品ごとの呼称の違いもあるので、まあ普通にファンと呼びます
*4:カークやピカード、シスコも普段は「艦隊の誓い」を順守しているがいざとなれば大胆に破る胆力があった
*5:子供時代に遺伝子操作が施されていたのがDS9のドクター、ジュリアン・ベシアでありそれが発覚すると父母が逮捕されるというエピソードがDS9には存在する
*6:宇宙艦隊は本来学術研究・外交・防衛のための組織であってあらゆる分野のエリートが集まるがいわゆる軍隊であるのかどうかについては長年ファンの間でも論議されている
*7:「艦隊の誓い」で有名なのは未開の惑星(自前のワープ技術を開発できてない)に対しては不干渉であること