北欧版隣のサイコさん 隣人 ネクストドア
「ガール・ネクスト・ドア」という言葉はアメリカなどでよく使う言い回しで「隣の家の少女」となり、はいわゆる高嶺の花な芸能人の女性などに対して、身近な幼馴染でどちらかと言うと快活な少女という意味も込められているらしい。例えば映画「スパイダーマン」シリーズでは隣の家に住むMJがピーターの憧れの女性だったし、日本でも「タッチ」やゲーム「ときめきメモリアル」などこの設定を使った作品は多い。日本でも同じネーミングのバンドがあったはず。使い古された言い回し設定であるためか、あえて負のイメージを持たせたのか、ジャック・ケッチャムの「隣の家の少女(原題THE GIRL NEXT DOOR)」は実在の事件を元にしているがこの言葉が明るいイメ―ジを放てば放つほど陰惨となる物語を書いた。この映画も「ガール・ネクスト・ドア」のイメージからは程遠いといえるだろう。
試写でノルウェーのエロティックスリラー「隣人 ネクストドア」を鑑賞。
物語
恋人のイングリッドと別れて沈んだ毎日を送るヨーン。あるとき同じマンションの隣の部屋の女性から部屋の家具をどける手伝いをして欲しいと頼まれる。その部屋には幾多の買い置きがあり、部屋の入り口は家具で塞がれていた。部屋で暮らすのはアンネとキムの姉妹。二人は壁越しに聞こえてくる会話のせいかイングリッド都のことまで全て知っていた。
ヨーンはアンネに請われて買い物に出かけている間、妹のキムの様子を見ていて欲しいという。キムはヨーンの部屋に以前住んでいた男にレイプされ、それ以来部屋から出ていないのだという。多数の買い置きや入り口の前に家具を置いているのは部屋から出なくてもいいようにだったのだ。ヨーンは隣の部屋の迷路のような作りを抜けてキムと向き合う。下着姿でキムはヨーンに対して自分が襲われた時の様子を自慰を交えて話し始める。挑発に乗ってヨーンがキムを抱こうとするとキムはいきなりヨーンを殴りつける。反射的に殴り返すヨーン。互いに血を流しながら殴り合いそして愛しあう。その様子をじっとアンネが見ていた・・・
この作品は3月30日にレイトショー公開される。同日に同じポール・シュレットアウネ監督の2011年作品「チャイルドコール 呼声」も公開。今回はその2作品を宣伝のフリッカボイカさんのご好意で試写させてもらった。
この作品は2005年の製作。ノルウェーでは17年ぶりのR-18指定映画ということらしい。映画は75分という短編にしては長い、長編にしては短い中編映画だが、ほぼ2つの部屋とそれをつなぐ通路だけで展開されるので*1十分な長さであるとは言える。当然のことながらノルウェーの作品(製作国はノルウェー、デンマーク、スウェーデンの3国、言語はノルウェー)ということで事前知識はほとんど無い状態で観たのだが、これが中々に面白かった。
出演は主演のヨーン(英語圏でいうところのジョン)にクリストファー・ヨーネルという人でノルウェーの俳優。この人はジャン=クロード・ヴァン・ダムと遠藤憲一を足してニで割って更に繊細さを加えたような雰囲気。1972年生まれとのことなので2005年当時だと33歳。物語は基本彼の視点に終始する。ヨーンは自分でも気づいていないが恋人が傷ついて血を流したり火傷を負ったりする様子に性的興奮を感じる性質の持ち主である。そのことをイングリッドに指摘されるまで気づかない。
キム役は1982年生まれのユリア・シャクトという女優。本作がデビュー。アンジェリーナ・ジョリーやミシェル・ロドリゲスを彷彿とさせるワイルドな容姿の持ち主。少女の無邪気さと妖艶さが同時に漂わせている。ヨーンとのセックスは文字通り野獣のようなまぐわい。アンネを演じるセシリア・モスリの雰囲気と対照的だ。
ヨーンの別れた恋人イングリッドはアンナ・バッハ=ウィーグという人でこの人は日本の芸能人ベッキーに似ていますね。そしてイングリッドの現在の恋人アーケはスウェーデン版「ミレニアム」シリーズ、「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」のミカエル・ニクヴィスト。ちなみにもうひとりのスウェーデン版「ミレニアム」でリスベットを演じたノオミ・ラパスは「チャイルドコール」の方で主演している。
ここよりネタバレ!
公開前の映画ですし、ネタバレが避ける方は鑑賞後に読んでください。
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多分勘の良い人なら、かなり早い段階でこの物語の殆どはヨーンの見る幻覚、妄想であることは容易にわかると思う。ある意味ではとても古典的な作りである。ヨーンはイングリッドを殺してしまい、それを追ってきたアーケも殺害、しかし自分ではその真実を受け入れられず、妄想の中、存在しないはずの隣の部屋を作り出し、その中で徐々に狂いながら現実を知って行くのだ。しかしそれを受け入れるかどうかとはまた別に。
僕は隣の部屋がやけに迷路みたいな作りになっている時に変だな、と思い始めた。ノルウェーの住宅事情など全然分からないが同じマンションの部屋なら隣同士そう差は無いはずなのだ。それなのにやけに入り組んだ作り。そこは次元が歪んだ世界であり、倫理的にも正常ではない世界。その辺で変だと思い始めアーケの登場で確信へと変わる。ただ全てがヨーンの幻覚で片がつくわけではない。例えばもしもこれが全て幻覚なら全部がヨーンの視点でなければならない。ところがヨーンとキムが倒錯したセックスに興じている時、それをアンネがヨーンも気づかぬように眺めているのだ。これがヨーンの幻覚ならこのアンネは何者だろう。こういう本来有り得ない視点は例えば「プライベートライアン」でもあった。初めはトム・ハンクスの改装という形で始まるのに、そのトム・ハンクスは途中で戦死していしまい、最後は中盤から現れる救われたマット・デイモンの視点になってしまうのだ。また最近僕が観た中では「ドリームハウス」が一番近いかもしれない。あの作品も劇中で起きていることのほとんどはダニエル・クレイグ演じる主人公の妄想/幻覚であったが、クライマックスで一回だけ存在しないはずの亡き妻の視点になる部分がある。「プライベートライアン」はスピルバーグ天然のミスかもしれないが本作と「ドリームハウス」に関してはおそらく狙ったものだろう。もちろん全てに矛盾のない合理的な説明をつけるのがいいシナリオと言う見方もあろうが、これらの場合はあえて異物感を入れることで合理的な見方を防ぐことも狙いのひとつではなかろうか。
また、アーケはそのまま出てくるのにどうしてイングリッドではなくアンネとキムという二人の女性の形をとって現れたのか。その説明もない。劇中出てくるキムの写真が実はイングリッドを写したものだったという示唆はあるが・・・
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*1:ほんの少しヨーンの会社や通勤に使うバスなどが出てくる