周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

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おさらい「スレイヤーズ」4 限りない欲望(メディアミックス)の中に

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ここでは、「スレイヤーズ」の関連作品の中で印象に残ったものを紹介していく。

あらいずみるいによる漫画版「スレイヤーズ」


「スレイヤーズ」のメディアミックスは、1992年、原作イラストレーター:あらいずみるいによるコミカライズからスタートした。本人によると、「アニメ化に当たってビジュアルイメージを確定させるためにコミカライズの企画が成立した」*1そうだ。


漫画版では、リナとガウリイによる「すぺしゃる」的なノリのお話が6話描かれた。長編時空だけどゼルガディス、アメリアといったキャラは登場せず、最初から最後までガウリナ二人旅。それだけに二人のイチャイチャがアニメにも増して目立ち、リナのバストトップを見せるような入浴シーンも当然のように挿入される。神坂先生はお便りをくれた人全員に年賀状を返すなどファン思いな人ではあるけど、原作本編に関してはファンが望んだとしても自分の道を貫き通してきた人でもあり*2、特に短編の連載が終了してからはあらいずみ先生のファンサービスがありがたかった。

SFC版「スレイヤーズ」

リンク先は「スレイヤーズわんだほ~」。SFC版は画像がなかったので……

94年発売。今でも名作と名高いRPG。長編第一部終了前に制作されたものだが、その後執筆された第二部からのパラレルな第三部と位置づけられている。最初からレベル99でこんなもんどうやってRPGにするんだと言われた原作の設定をうまいこと絡めたシナリオがお見事。記憶喪失で呪文をすっかり忘れてしまったというリナだが、実は……?


テキストは原作の空気を再現しようと頑張ってた。というか考えてみれば今までCRPGのテキストの出来不出来ってあんまし意識したことなかったな。戦闘中、ナーガがプレイヤーの言うこと聞かないのがいかにもそれっぽい。 ただし、魔族が弱すぎるのはL様のケジメ案件。崩霊裂(ラ・ティルト)が高位魔族にも意外に通用するし、挙句の果てにはゼロスがリナたちに滅ぼされるし。あと数年出るの遅ければ人気的に殺しはしなかったんじゃないかな多分……


なお「スレイヤーズ」のゲームはこれが初ではなく、同年にPC-98用の全く別のRPGが発売されている。移植でもなく、アニメのように長編準拠と短編準拠という違いがあるわけでもなく、なんで2種類出したのかは謎。

TVアニメ一期「スレイヤーズ」


95年放送。長編1、3巻と、あと多分アメリアを原作より早く登場させるために、短編のエピソードから「白魔術都市の王子」が挿入される。『アトラスの魔道士』を後回しにしたのは、『スレイヤーズ!』『サイラーグの妖魔』のレゾ=シャブラニグドゥ関係ラインで分かり易くするため? それとも夕方に流すには少々重くてじめじめしてる話だからか。


序盤は話運びがぎこちなくてあんまり面白みがなかったけど、後半はいい感じにこなれてきた。ラストの対コピーレゾ戦は作画クオリティも高く、原作にひけを取らない出来。レゾを演じた子安武人の怪演も見物。ただ、エリスの悪の魔道士ファッションとか、原作中で「ありがちなファンタジー」として茶化されてるような要素をそのまま『スレイヤーズ』でやっちゃうのはどうよ、という気がした。わざとやってたのかなあれ。名実共にエリスを道化役にしたかったのだろうか。

劇場版「スレイヤーズ」


95年上映。劇場版第1弾。同時上映は水野良『はじまりの冒険者たち レジェンドオブクリスタニア』。過去と現在が交錯すると言われる“約束の島”ミプロス島の物語。リナとナーガを主人公に据えてるものの、映画ということで比較的スケール大きめで真面目。ファンタジーらしいファンタジー。光の剣を使う剣士ラウディ(cv.高山みなみ)が登場するけれど、ガウリイとの関係は不明。主題歌「MIDNIGHT BLUE」は林原めぐみの曲の中で1、2を争うくらい好き。

TVアニメ二期「スレイヤーズNEXT」


96年放送。原作2、4、7、8巻準拠。ファンの間では最も評価が高い本作。1話からして「えらい人の像」がレゾだったり、セルフパロディもいい味出してた。


オリジナルキャラのマルチナ*3は、「外伝のあの人気キャラは外伝のキャラだから登場させられないけど代わりにこんな子を登場させてみたよ」感あって*4、得意ではない。劇場版一作目のラウディがなんで平気なのかは不明。でも作中ではなじんでいたし、「冗談みたいに最初から世界最強レベルのパーティーで一人だけ何も出来ないキャラ」という重要な役どころを担っている……か? 原作からさらに大人気キャラとなったゼロスはこの第二期で初登場。彼が糸目であるとかそれに類した表現は原作のテキストにはなく、イラストでもそこまで強く印象づけられるものではなくて、アニメでの「ゼロスが目を開いたら用心せい」的な演出によってなされた感が強い。


『死霊都市の王』終盤に当たる最終話は、ガウリナに関しては前回触れた通り。が、L様の格としてそれはどうなんだろういう気はしないでもない。最終的に光の剣が返ってきたのは、メタ的には三期でのことを考えたのかしら。

劇場版第二作「スレイヤーズRETURN」


96年の第2弾。ある村に伝わるエルフのお宝を巡ってリナとナーガが秘密結社ツァインと対立する。……比較的真面目にファンタジーやってた1作目とギャグ120%の3作目に挟まれて、どうにも印象が薄い2作目。原作者本人脚本で、まあどこが悪いってわけでもないんだけど、ちょっとテンポがよくないかなあ、という気はする。冒頭でメシを食ってて、ラストで二人がコインを取り合いしながら走り出す、というこの後踏襲されるパターンが確立。それと、神坂先生が脚本担当した2~4作目は魔獣、ゴーレム、ドラゴンと全部でっかい何かと戦う話なのね。ゲストヒロインとその身内である濃いおっさんが脇を固めるというフォーマットも共通。ラストはドラスレでシメ。

謎本「スレイヤーズの秘密」


96年発売。『磯野家の謎』が大ヒットしたことで二匹目のどじょうを狙った類書がたくさん発売された「謎本」の内の一冊。当然非公式の商品。


終始下世話な揚げ足取りに終始してて、およそ「スレイヤーズ」関連の中でも評判最悪と言っていいけど、同じ「お約束をネタにする」芸風なのにあんなに笑える「スレイヤーズ」はすごいなあ、と原作の面白さを再確認できる良書でもあります。元々この手の本に共通する、作品に対する「邪推」の眼差しっていうの嫌いではなかったり。「スレイヤーズ」はあれだけ売れたわけで、その分当時こういうツッコミは溢れかえってた、という状況を追体験するにはもってこいじゃないでしょうか。別に追体験したくない? はい。


続編? には「『スレイヤーズ』の超秘密」があり、こちらは「スレイヤーズ」世界の創世神話と神坂先生が影響されたと思しきクトゥルフ神話との比較検証してたり、まだまとも……まとも? なものです。

TVアニメ三期「スレイヤーズTRY」


97年放映。完全アニメオリジナルストーリー。でもまあシリーズ構成に原作者が一応名前を連ねてるので、アニメスタッフの暴走っていうよりは、SFC版同様正統な(?)パラレル第三部という見方。フィブリゾが倒され、それまでいた地域を覆っていた結界が崩れたため、リナたちは外の世界へと旅立つ。


この三作目が不評な理由として変にシリアスに走った、っていう話をよく聞くけど、それはあんまり関係ない気がする。リナたちが微妙に主役から外れてた、ってのはまあ納得。最終話EDで流れるのもフィリア=桑島法子の曲だし。ただ、自分としては原作者も参加して完全オリジナルをやったってだけでも結構な評価だったりするんだよな。一期、二期はは原作との中途半端な差異がやたら目についていまいち楽しめないところもあったから。。原作第1部相当分が『NEXT』でああいう終了の仕方をしてから、『TRY』で人間と神と魔族とL様の関係がどうこうって話を突き詰めるのは、なんというか、流れとしてはすごく正しい気がした。原作では大して重要な設定じゃなかった「異界の魔王」を元にどんどん世界が広がっていく感覚にすげえワクワクした。あくまであの世界に留まってああいう話に終始した原作第2部とは対照的。『TRY』と原作第2部、どっちが好きか、っていったら実はこの『TRY』の方だったりする。私がゼロス×フィリアが好きなのは関係ない。ないったらない。

劇場版第三作「スレイヤーズぐれえと」


97年の第3弾。ゴーレムを特産品とする街を舞台に、リナとナーガの姿を模したゴーレムが大激突!TV版も合わせて、コメディメインの話の中では一番好きだー。ほとんど出オチみたいなもんだけど、巨大ロボット(?)のアクションとしては、実は同年の劇場版『エヴァ』より好きだったり。ゴーレム職人親子のノリのよさもいい。ピコピコリナちゃん欲しい。でも竜破斬(ドラスレ)に至る流れは大雑把。リナらしいと言えばそうなのだけど。

劇場版第四作「スレイヤーズごうじゃす」



98年の第4作。ドラゴンと心を通わせる力を持つ王と王女の親子喧嘩にリナとナーガが巻き込まれる。お空に向かって氷の矢(フリーズ・アロー)を放つと上空の冷たい空気で巨大な氷塊になって帰ってくるというアイディアが好き。でも宗教的な理由により認めるわけにはいかない一作。監督のわたなべひろしとキャラデザ総作監の相澤昌弘は同年秋からの新番組「オーフェン」に集中してほしかった……。

公式データブック「えんさいくろぺでぃあスレイヤーズ」


98年発売。富士見書房という会社もまあ毀誉褒貶いちじるしい会社ではあるんだけど、自社作品のデータを網羅した「えんさいくろぺでぃあ」「超解」シリーズは結構高く評価されている。その情報量は作者も設定を忘れた時に資料として引っ張り出してくるほど。でも今だと電子書籍を導入して自作を検索すると色々捗ると思いますよ新刊を執筆するにあたってインターネット*5に頼った神坂先生……。人物紹介などのテキストも無味乾燥なものではなく、原作を読み込んでいる人ならではのひねりが加えられている。


発売時期的に長編12巻短編13巻までの分のデータしか収録されてないのが残念。2009年、TVアニメ四期に合わせて『スレイヤーズ りーでぃんぐ リナ=インバース魔道大全』という新たな副読本が出版されたけど、こちらは神坂あらいずみの新規インタビュー以外の評判はあまり芳しくない模様。

秋田禎信とのコラボレーション「スレイヤーズVSオーフェン」


2001年雑誌掲載、2005年単行本発売。読んでいて感じたのは、オーフェンがここまで綺麗なコンビネーションプレイに徹するのは初めてではないか、ということ。

「こっちは呪文唱えるタイム・ラグがちょっとあるんだけど!」
オーフェンは、視線を刹那、男たちから階段の上へと走らせて、
「あの上まで行くんだ。俺はここで食い止める。時間、どれくらいかかる? 秒数で答えられるか?」
「秒……? 一〇数えるまで!」
「一〇秒ね」
つぶやいて、オーフェンが再び身構える。
「二呼吸ってとこか」
同時にリナが、はじかれたように、階段に向かってダッシュをかけた!


マジクがお師様と肩を並べて戦えるようになる、その片鱗を見せるまでには二部終盤まで待たねばならなかった。クリーオウは名実ともにオーフェンの相棒だが、それは彼にも予測できない動きをする意外性によるところが大きい。信頼を寄せる一方で心配も並大抵のものではなかった。チャイルドマン教室には指揮官もいれば兵士もいるし、先生は一個小隊のようなチームをイメージしていたのかもしれないが(先生のことだから各々に合ってそうな技能を教えていったらそうなっただけという可能性もある)、結局は離散してしまった。


両者の作風の違いというのもあるだろう。一人称でも戦場全体を俯瞰した描写をする「スレイヤーズ」に対して「オーフェン」というか秋田作品はあくまで視点人物に寄った書き方をしていて、多人数の動静を一挙に描くのには向いてない。みんなで力を合わせて戦う、というところに力点を置いた作品は「巡ル結魂者」までなかった。


リナとオーフェンは本作で初めて邂逅した。秋田神坂もこの合作までそれほど親交が厚かったわけではないそうだ。なのに、古くからの戦友であったかのような息の合ったプレイを魅せる。この二人が出会ってしまったら殺し合うしかないとか言われてたのが嘘のよう。共通の敵としてナーガとキースを組ませたのが功を奏している。そんなの、初めて知った相手だろうと構わずタッグを組んで絶対に打破しなきゃ、と思ってしまう。オーフェン視点でリナが「少女がその評定に出していたのは、自信だった。自分に対する自信。この歳の少女がそうそう持ち得ないほどの――と、オーフェンには思えたが。」とべた褒めされてるのもよい。プロデビューする前から「スレイヤーズ」の読者だったという秋田のリスペクトが発揮されている。


……しかし、まさかこのタッグが一部読者のハートを撃ち抜いてリナ×オーフェンという異次元カップリングが生まれるとは思いもよらなかったよ。いやでもいいですよねリナオーのお互い背中を預けて戦える関係。作中では全く微塵もそういう雰囲気ないの含めて。多分オーフェンのほうが愛が重い。

つばさ文庫版「スレイヤーズ」


09年刊行。児童文庫レーベル「角川つばさ文庫」の創刊第一弾タイトル。「涼宮ハルヒ」「古典部」「夜は短し歩けよ乙女」など角川の色んなコンテンツを児童向けにお色直しして売っているこのレーベルには、原作小説が存在する場合、本文まで手を加えるパターンと難しい漢字に振り仮名を振るだけに留める2パターンがある。「スレイヤーズ」は前者。リナは13歳に若返り、長編時空だけどナーガが登場。『アトラスの魔道士』はハッピーエンドになり……。公式では小学校中級からってことだけど、別に原作もそれくらいならいけなくない気が。


著者はファンタジア大賞出身者的に後輩である南房秀久。学研の「トリシア」シリーズなど、児童向けでは実績がある人です。イラストは「世界樹の迷宮」シリーズの日向悠二。2巻のシルフィールがめっちゃキュート。

あなたの私のスレイヤーズ「スレイヤーズ25周年あんそろじー」


2015年発売の小説アンソロジー。秋田禎信「ゼフィーリアの悪魔」は視点人物のモブキャラは、番外編にありがちな、裏の顔を持つヒロインの秘密を偶然知って恋しちゃったけどそれ以上踏み込めず彼女は転校していくのだった系オリ主というか夢主。「神坂さんのことはぼくが一番よく知ってるんだ」という秋田の自負が伺え、ファンとしてはニヤニヤ。「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」の愛七ひろ「リナ=インバース討伐!」は神坂文体パスティーシュ。ラノベの文体における「スレイヤーズ」の影響は大きいと言われるけど、ここまでそのまんま模倣したっていうのも珍しい。現在のファンタジア文庫の看板「デート・ア・ライブ」の橘公司による「冥王フィブリゾの世界滅ぼし会議」は、あのあとがきを再現。ファンのツボを心得てて最高。


そしてトリを飾る『スレイヤーズいんたーみっしょん リナ=インバースの記録』で、このアンソロジーのみならず他のメディアミックスをも肯定してみせる。ガンダムシリーズにおける「∀ガンダム」のよう。そんな感じで、なにげにアンソロとしてきちんとまとまってる構成だった。

次回予告

これまで、主に長編について書いてきました。私が一連の文章で推したいのがどちらかというとそっちだからっていうのもありますが、ストーリー物と違って、単発ギャグがメインの短編の面白さを解説するのは難しいという思いがあるからです。しかし、原作「スレイヤーズ」の三分の二以上を占める短編を避けては通れないわけで……。なんとか頑張ってみようと思います。今宵、あなたと爆煙舞(バースト・ロンド)!


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*1:甘詰留太『いちきゅーきゅーぺけ 2』収録インタビュー

*2:だから今まで書かないと言ってた本編続編が発売されてみんな驚いた

*3:担当声優の柊美冬は一作目からモブ役で登場

*4:原作付きのアニメってよくこういうことありません?

*5:の恐らくファンサイト等

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