4歳から高校生までを対象に、ロボットやプログラミングを通じて「自律した人材」の育成を目指す『キープオンラボ』。代表の川原保氏は、ゴルフインストラクターや大工など様々な経験を経て、教育の道へと進まれた異色の経歴の持ち主です。「正解は1つではない」という哲学のもと、実践的なロボットプログラミング教育を展開しています。
注目すべきは、単なるプログラミングスクールではないという点です。確かにロボット製作やプログラミングは重要な要素ですが、それらは「考える力」を養うための手段として位置づけられています。「面倒くさい」と感じる過程こそが学びであり、失敗を恐れずチャレンジできる環境づくりを重視しています。本記事では、独自の教育メソッドと、その背景にある川原氏の教育哲学に迫ります。
4歳から高校生まで。幅広い年齢層に向けたロボットプログラミング教育
ー本日はどうぞよろしくお願いいたします!まず、『キープオンラボ』ではどのような方を対象に、どういった指導を行っているのでしょうか?
川原:4歳から学べるスクールとなっています。カリキュラムは多岐にわたりますが、共通しているのは「ロボットや工作など、作ることが好きな子供たち」が対象となっていることです。現在は4歳から高校生まで在籍しており、高校生や大学生になった卒業生がスタッフとして関わってくれているケースもあります。
当スクールは、エジソンアカデミー本校から派生する形で約4年前に設立しました。基本的にはロボットプログラミングを出発点としていますが、最終的には「自分で考えてやり切る」ところまで到達できる、自律した人材の育成を目指しています。また、カリキュラム以外にも学んだことを活かせるコミュニティ的な場も提供しています。
多彩な経歴から生まれた教育への情熱
ー川原様は興味深い経歴をお持ちですが、このスクールを始められたきっかけを教えていただけますか?
川原:私は元々ゴルフインストラクターをしていましたが、阪神大震災をきっかけに大工の仕事に転身するなど、様々な経験を積んできました。もともと「作ること」が好きで、インターネットショップを運営していた時にプログラミングの魅力を知りました。
その後、教材メーカーの株式会社アーテックからロボットプログラミング教室の話をいただき、「ぜひやらせてほしい」と思ったのが始まりです。私自身は大学でプログラミングを学んだわけではありませんが、カリキュラムの開発段階から関わり、子どもたちと一緒に学びながら成長してきました。最初は、プログラミングが得意な方々のサポートを受けながら、徐々にスキルを磨いていきました。
「実物」を動かすからこそ得られる多角的な学び
ープログラミングスクールは他にもありますが、キープオンラボならではの特徴やアピールポイントを教えてください。
川原:大きな特徴は、「実物」を動かすということです。子どもたちにとって、ロボットといえばドラえもんやガンダムのようなアニメのイメージですが、私たちは「自分でプログラミングできるプラモデル」という感覚で取り組んでいます。
画面上のプログラミングであれば、エラーが出たら修正して終わりですが、ロボットの場合は環境に左右されます。プログラムの修正だけでなく、組み立ての改良によって上手く動くようになることもあり、様々な視点が得られます。
「ロボットを組立てプログラミングをして動かしてみる。その動きからエラーを見つけ修正をしてまた動かしてみる・・・」そういった作業の繰り返しを、子どもたちは「めんどくさい」と言うこともありますが、それは「考えている」証拠なんです。保護者の方々とも、この「めんどくさい」というプロセスの重要性について共有しています。
プログラミング的思考を超えた「生きる力」の育成
ープログラミングやロボット製作を通じて、どのような能力が養われると考えていますか?
川原:それは、「いろいろな視点で考えられる習慣」が身につくことです。例えば、ロボットがイメージしたように動かない場合、その原因は1つとは限りません。何が原因で動かないのかを「組立、バランス、センサー値、命令の順序」など様々な条件から論理的に見つけ出す力が養われます
これは、いろんな問題を見つけたり解決する時にも通じる考え方です。例えば友達との関係が良くない時、元々良くなかったのか、何かをきっかけに悪くなったのか、自分が謝れば解決するのか。など、物事を分解して考える習慣が身につきます。
最近はインターネットで簡単に答えを調べたり、友達との関係も誰かの意見ですぐに切ってしまったりする傾向があるようですが、私たちは原因を探り「自分なりの解決策」を見つけ出す力を育てたいと考えています。
多様なコース展開と独自の教育メソッド
ーキープオンラボが提供されているコースやプランについて教えていただけますか?
川原:基本的には株式会社アーテックのカリキュラムに沿って、初級から上級向けのコースを提供しています。その先には、独自のPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)を導入しており、カリキュラムを修了した中高生を中心に展開しています。ロボットプログラミングの国際大会であるURC(ユニバーサルロボティクスチャレンジ)で優勝するなどの実績もあります。
また、昨年(2023年)から「マイクラ部」という取り組みも行っており、これは全国規模で行われているまちづくりプロジェクトのMinecraftカップにチームで作品を提出する活動です。
今年は「自分カイシャづくり体験」という、仮想の会社をつくって商品サービスを提供することを体験するプログラムも行いました。お金や働くことに関するワーク、実際に働く方へのインタビューを経て、働くことについて深く探究。その後チームを組んで仮想の会社をつくり、イベントの企画から実施までを行う活動です。普段ロボットを創っている子どもたちが、仲間と力を合わせ、この世にまだない商品サービスを創り出す、という新しい試みです。
未来を見据えた新たな挑戦
ー今後、強化していきたい取り組みについて教えてください。
川原:オンラインスクールの展開を考えています。特に「Yononaka(世の中)」というプログラムに力を入れたいと思っています。年齢立場に関係ないコミュニケーションの場として、全国の子どもたちと交流していきたいと考えています。このプログラムは、藤原和博氏(教育改革実践家)が作られた「よのなか科」を参考にしたオリジナルプログラムで、藤原和博さんからも承認を頂いております。
生活の中にある身近なものをテーマとして、正解がひとつではないお題に対して「自分はこう思う!」を互いに共有しながら理解を深める学びの場です。コロナ禍でスクールが開けない時期に、コミュニケーションの必要性から探し始めたプログラムですが、現在は月1回のペースで希望者向けに実施しており、テーマについて深く学ぶことができます。
自分らしさを大切にする教育の実現へ
ー最後に、キープオンラボに興味を持たれている方へメッセージをお願いします!
川原:私たちが大切にしているのは、「正解がひとつではない」という考え方です。学校教育では偏差値や通知表など、表面的な数字だけで判断されることが多いと感じています。まだ数字で表せていない「つくること」が好きな子どもたちの創造する力を、思う存分に発揮できる場を提供したいと思っています。
また「なんでも発表会」と題して、自分の好きなこと、興味のあること、得意なことを身体や自分の言葉で発表する機会を設けています。子どもたちは自分の意見を伝える機会が少なく、規則や大人の意見に流されてしまうことが多いと思いますが、私たちは子どもたち一人ひとりの意見に傾聴し、興味や関心を引き出すことを意識しています。
まずはロボットや工作から始めて、そこから様々な興味を広げていく。そして将来的には、その経験を活かして「あたらしい価値を創造できるような人」になってほしい。そんな思いを込めて活動を続けています。