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【読書】もうひとつの空の飛び方 『枕草子』から『ナルニア国』まで/荻原規子

もうひとつの空の飛び方 『枕草子』から『ナルニア国』まで (角川文庫)

もうひとつの空の飛び方 『枕草子』から『ナルニア国』まで (角川文庫)

KADOKAWA/2020年7月26日発売

荻原規子 著

 

表紙イラストに惹かれて手に取った一冊。

酒井駒子さんの描く、外国の少女が本を読んでいる(ように見える)イラストは、幼少期に私が読書を通して感じた純粋な幸せがぎゅっとつまっているように思えて好きです。なぜかはわからないけど、とてもなつかしい。

 

この本は日本のファンタジー作家として名高い荻原先生の「読書」にまつわるエッセイ集なのだけど、共感してぐいぐい読んだ章と、あまり惹かれず読み飛ばした章とがあっておもしろかったです。

それでいいんだと思う、エッセイの読み方って。

100%共感できる他人なんてこの世には存在しないし、私と著者とではひと回り以上世代が違う。世代の違いすなわち感覚の違いなので、共感しない章があるのはある意味当然かなと思いました。

著者の世代における児童文学やファンタジーに対する社会の目は、私の世代よりずっと厳しくて、大学の児童文学サークルでの体験などは、読んでいるこっちの肩身が狭くなるほど居心地悪かったです。

児童書を「読者」として楽しむのか、「教育者」として議論するかの違いは大きいなと。

私は読者として純粋に楽しんでいるタイプなので、教育者タイプとは分かり合えないだろうな〜と思うなどしました。

荻原先生も楽しんでいるタイプで、宮﨑駿のアニメ映画や小野不由美の『十二国記』に触れられていたのが意外で、どちらも好きな私としてはうれしかったです。

 

他に興味深かったのは、良質なファンタジーの奥深くに存在する神話の存在について言及されていたこと。

ユングの集合的無意識と絡めて語られるファンタジー作品の奥深くに横たわる神話のエッセンスは、私も日頃いろんな作品を読む中で、ごくたまに感じ取れる希少な感覚だったのでとても共感しました。

神話から設定だけを借りてきただけの作品にはない、とはっきり明言されていたのも気持ち良かったな。

書き手として「安易に神話を扱うと思わぬしっぺ返しがある」と語っていたところも、とても興味深かったです。日本神話をベースにしたファンタジーを真摯に書いてきた荻原先生だからこその視座でした。

 

この本が2006年に理論社から出版された『ファンタジーのDNA』の文庫版だということは、あとがきを読んでから知ったのだけど、未読だったのは幸いでした。出版社もタイトルも変更されてるとわからないよー笑

 

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