「元日・国立競技場」の天皇杯決勝を捨ててよかったのか 厳しくなるサッカーを取り巻く環境
連載第21回
杉山茂樹の「看過できない」
国立競技場で行なわれる天皇杯決勝は、元日の風景を彩る風物詩として、長年、親しまれてきた。晴れ着姿の女性はもちろん、バックスタンド越しに控える神宮の杜から入り込む"気"のようなものが、天皇杯の格式と正月らしい厳かさに華と深みを添えていた。
旧国立競技場が建て替えのために取り壊され、新国立競技場が完成するまでの5年間(2014年度~2018年度)は、別会場で開催された。そのうち元日開催は3回。2014年度の決勝(横浜国際総合競技場)と2018年度の決勝(埼玉スタジアム)の2回は12月に前倒しされた。完成後も「元日・国立競技場」の路線は維持されたが、2022年度はカタールW杯の影響で「12月・横浜」開催となり、2023年度もアジアカップの影響で、舞台こそ国立競技場だったが、開催日は12月に前倒しされた。
国立競技場に61916人の観客を集めた2024年1月1日のタイ戦 photo by Yamazoe Toshioこの記事に関連する写真を見る ただ、昨年2024年の元日は、その穴埋めとして日本代表の親善試合兼アジアカップ壮行試合(タイ戦)が行なわれた。試合後には国立競技場の記者会見室で、アジアカップに臨むメンバー発表会見も行なわれている。サッカーと1月1日は良好な関係を保つことになった。
ところがその1年後、天皇杯決勝は元日に開催されなかった。会場こそ国立競技場だったが、開催日は2024年の11月23日だった。元日開催を不可能にする特別なイベントはなかったにもかかわらず、だ。昨年のタイ戦のような、それに代わる試合もなし。元日はサッカーの日ではなくなった。
Jリーグは2026年から秋春制に移行する。欧州をはじめとする世界の日程に合わせることとなった。この秋春制がスタートすれば「元日・国立競技場」は復活するのだろうか。
現行の春秋制では、元日はシーズンオフになる。天皇杯決勝の開催日として日程的に適していない。だが、秋春制なら話は変わる。シーズンの真っ只中だ。元日に天皇杯を開催する正統性が整うと考えれば、それまであと2年、なんとか辛抱できなかったのか。2年間、間をもたす適当な代替イベントは組めなかったのか、と言いたくなる。
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著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。