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人生の決断に備える。『スゴ本』中の人が選ぶ、道しるべになる5冊

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「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」の中の人、Dainです。

何かを「選ぶ」ということは、意外とパワーが必要だ。

メリット・デメリットを考慮して、複数の候補から一つを選ぶ。例えば、何を着ていくか、何を食べるかといったことは、小さな選択かもしれない。だが、毎日の積み重ねとなると馬鹿にできない。ただでさえ学業や仕事において、さまざまな決断に迫られているのに、それに加えて日常的な選択が求められる。一日の「選択して決断する」パワーは限られている。世の成功者たちが、トレードマークのように毎日同じ服を着ているのは、パワーセーブのためではないだろうか。

そのようにしてためた選択と決断のためのパワーは、どこに使うべきか?

それは、人生の節目に迫られる、大きな決断のリソースとするのである。卒業、入学、就職、結婚、出産、退職など、望む望まないにかかわらず、節目はやってくる。


・卒業した後、進学先をどこにするか?
・どのような職種でどこへ就職するのか?
・この会社や職業を続けていくか/変えるのか?
・この人と結婚するのか/そもそも結婚するのか?
・子どもはどうするか? 親という存在になるのか?
・この人生をいつ、どのように終わらせるか?

なお、最後の(最期の)選択については、まだ一般的にはなっていない。だが、安楽死問題がクリアされた暁(あかつき)には、「自死という選択」が出てくるだろう。何年か、何十年か先、自殺ではなく「自死」という言葉が使われるようになったら思い出してほしい。

もちろん、そのときの状況や心境により、流れに身を任せる(選択しない)ことも可能である。進学先や転職を「選ばない」ことだってできる。だがそれは、「選択しないという選択」をしたことになる。なりゆきであれ何であれ、見えている候補を「選択しない」にしたことを後悔なきよう。

そう、誰だって後悔したくない。選択にかけられる時間も、決断に使えるパワーも限られている。そのリソースの中で、できうる限り納得のいくものを見つけたい。後に「こうすればよかった」などと嘆くのは避けたい。そして、いったんコレ!と決めたらなら、どんな展開が待ち構えていようとも、「これでいいのだ!」と言い切りたい。

今回は、この「選択と決断」をテーマに、迷ったときに指針となる本を選んだ。そして、いったん決めたなら、後は選んだことを力強く後押ししてくれるような本を添えてみた。あなたが何かに迷っているとき、さらには、あなたが選んだものに不安を感じているとき、参考にしてほしい。

迷ったときに指針となる本

1.『今夜ヴァンパイアになる前に』L・A・ポール(名古屋大学出版会)

まず、人生を劇的に変えてしまうほど大きな選択の場合を考えてみよう。本書は、「今夜、ヴァンパイアになれるチャンスがある」という思考実験から始まる分析哲学である。

友人の何人かはすでにヴァンパイアになっていて、その生活形態や価値観について教えてくれる。知識としては知っているが、文字通り人知を超えた存在となるのだから、経験として理解することができない。つまり、「ヴァンパイアであること」と「人であること」を、実際の経験に基づいて比較することができないのだ。問題はまさにここで、ヴァンパイアでない状態で、「ヴァンパイアになるべきか、ならないべきか」をどうやって判断できるのか?

もちろん、「ヴァンパイア」はメタファーだ。結婚する、子どもを持つなど、見通しが不透明で、人生を大きく変える判断を指す。この決断を迫られたとき、どうすれば合理的な意思決定が導けるか? 本書では、哲学者のフランク・ジャクソンによる「メアリーの部屋」を例に、経験と認識の思考実験を深堀りする。

つまりこうだ、生まれたときから白黒の部屋で過ごしてきたメアリーがいる。彼女は、色というものを目にしたことがないが、視覚の神経生理学について世界一の専門知識を持っている。光の特性、眼球の構造、視神経のつながりや、どんな場合に人は「赤い」「青い」と言うか知っている。さて、メアリーが部屋を出て、初めて色を目にするとき、メアリーは何か新しいものを学ぶだろうか?という思考実験だ。

メアリーが、自分の主観的な色の経験をするときのありようを想像の中で示すためには、それに先立って、関連する経験をしていなくてはならない。「色を見る」ことを実際に経験しない限り、「色を見る」ことの知識をどんなに積み上げても、「色を見る」ことがどういう経験なのか、学ぶことはできない。他のどんなものにも還元されない、そんな経験があるというのだ。

「ヴァンパイアになる」「結婚する」「子どもを持つ」も同じだ。それに関する知識をどんなに積み上げても、実際に経験しないことには、「経験した」ときの主観的なありようを示すことができない。認識や経験が個人に属する以上、そして世界線をたどれない以上、避けることができない。

あなたが大きな決断をしようとするとき、どうすれば合理的な判断ができるか分からないのであれば、本書をひもといて、いったんヴァンパイアになってみてはいかがだろう。

2.『問題解決大全』読書猿(フォレスト出版)

あなたが何かを選ぼうとするとき、何かを決断しなければならないとき、必ず役に立つのがこれ。一生モノの一冊と言っていい(断言)。

なぜなら、あなたが直面しているあらゆる問題は、すでに検討済みだから。

「新しい問題」なんてものは存在しない。「問題」をどの抽象度で定義するかにもよるが、新しく「見える」だけで、分析してみれば、分解してみれば、裏返してみれば、再定義すれば、古今東西の人たちがすでに悩み、検討し、着手し、対処してきた問題であるにすぎない。新しい状況下で、新しい人が、既出の問題を解き直しているといえるのだ。

だから、あなたにとって新しい問題には、先人の知恵を借りればいい。

そして、問題を解決するための方法もまた既出である。私たちが知らないだけで、古今東西の人たちがすでに考え抜いている。ある手法は学問分野になっていたり、またある方法はライフハックやビジネスメソッドになっていたりする。規制や法制度化され、社会常識やルールのように見えていても、それは昔の人が編み出した解決法が化けている場合もある。

そして、世にある有用な解決法を集大成したものが本書である。

哲学、歴史、経済学、人類学、数学、物理学、心理学、生物学、文学、宗教、神話、そして学際研究の分野で培われた問題解決技法が、37のツールに結集している。先人の研究に基づいて新たに発見することを「巨人の肩の上に立つ」と表現することがあるが、本書を用いることで、「巨人たちの肩の上に立つ」ことができる。すでに考え抜かれてきた技法を利用することで、新しい問題を、既出のものとして扱えるのだ。

本書が一生役立つ理由として、「問題解決」を分かりやすく定義している点がある。学問やビジネスの問題から生殺与奪の問題、夫婦げんかや心身の悩みなど、問題には、大掛かりなものから個人的なものまでたくさんある。だが本書ではシンプルに、「問題解決とは、"~したい"と思うことを実現すること」だという。

問題に気付き、その解決のために自分の行動を計画し、実行することは、人の能力であり、同時に人が人たる条件なのだと言い切る。ここは痺れた。よく生きようと努力することが、人の本質なのだとあらためて思い知らされる(この、"よく"は、「善く」「良く」「好く」そして「欲」と、人によりけりだが)。これは、一生のどのような状況でも当てはめることができる「問題」だ。

あなたの問題が何であれ、選択の方法や決断の仕方はすでにある。巨人「たち」と一緒に取り組もう。

3.『図書館に訊け!』井上真琴(ちくま新書)

決断に迷ったとき、先人の知恵を借りたいとき、どうするか? まずは「検索」するのが普通だろう(「まずググれ」は慣用句になるだろう)。だが、望んだものがヒットしなければ? キーワードや条件をあれこれ試しても出てこないなら? 「答えはない」だろうか? それは違う。

ここは強調しておきたいのだが、「ネットにない」は「存在しない」ではない。あくまで探しても見つからなかったにすぎない。もちろん検索条件が適切でない場合もあるが、質問を見直したり、アプローチを変えることで、答えに近づくことはできる。

そこで、「図書館に訊け!」である。

本書では、「検索」ならぬ、情報「探索」の方法が盗める。しかも、調べ物のプロフェッショナルである図書館員の技が惜しげもなく開陳されている。

「検索」はキーワードによるヒットを試行錯誤する方法だ。いわば、欲しいものが明確に分かっており、ピンポイントで狙って当てるようなもの。一方「探索」は調べたいトピックによる絞り込み検索+レファレンスブックのフィードバックによる深堀りだ。着弾地点から再度絞り込みをかけているようなもので、確度と網羅性は高い。

この探索手法が、具体的かつ、情報を「調べるための」多数の参考文献とともに紹介されている。このテクニックは、一種の文法のようなものである。つまりこうだ、文法なんて知らなくても本は読める。だがそれは、よほどセンスや根気の必要なやり方である。先に文法をやった方が、苦労して法則をつかむよりも、よっぽど楽である。本書はこの「文法」に相当する「調べ方」をポンと教えてくれるのだ。

例えば、本の形態から読むべき本を選択するテクニックが紹介されている。「新書 > 単行本 > 文庫本」の順に鮮度が落ちることは経験的に知っていたが、書誌情報にある本の大きさ、頁数、版数、発行年数、引用文献から、どの本が入門性が高く、どの本が専門書として扱うべきかを探求する「図書館員の思考プロセス」はぜひ身に付けたいと感じた。

「データベースやレファレンスブック、インターネットを探索しても見つからないからといって、『無い』なんてことはない。見つけていないだけだ」と著者は指摘する。誰かが必ず書いており、真のオリジナリティーは先人たちの集積の上にあるという。

その選択に悩んだとき、答えはどこかに必ずある。まずググり、図書館に訊くべし。

選んだことを後押ししてくれる本

次は、あなたが決めたことについて後押ししてくれる本を紹介しよう。候補を前に悩んだのであれば、どの選択をしようとも「後悔ゼロ」にはできない。選ばなかった候補のメリットも理解しているし、決めたはずの選択肢のデメリットも織り込み済みだからだ。

それでも「これ!」にしたのであれば、後は進むしかない。ともすると不安に陥りがちな自分を叱咤(しった)激励するには、同じような選択と決断をした作品が一番だ。

1.『アルケミスト』パウロ・コエーリョ(角川文庫)

羊飼いの少年サンチャゴが、夢を追いかける物語。錬金術師を始めとするさまざまな人たちとの出会いの中で、少年は生きる知恵を学んでゆく。

世界的なベストセラーなので、ご存じの方も多いだろう。光る言葉が数多く詰まった箴言集(しんげんしゅう)として読んでもいいし、いわゆる自己啓発本として扱ってもいい。だがここでは、(何かを選んだ)自分を後押ししてくれる本として読むと、面白い断面が見えてくる(ネタバレ回避で紹介するのでご安心を)。

サンチャゴは、自分に発見されるのを待っているという宝の夢を見る。その夢を旅するうちに、試練ともいうべき障壁に出会う。それはいわばテストである。これまでの経験と、導きと、少しの運によって「選択と決断」が迫られる。

そこで試されるのは少年の意志である。自分が下した決断が、果たして正しかったのか? サンチャゴは不安になり、先へ進むのをためらう。

読者にとってすれば、これは物語なのだから、予定調和的に少年の決断は「正しい」ことは分かっている。少年を待ち受ける、ある未来から振り返ってつじつまの合った展開になることを予想する。しかし、少年にとってみれば、どんな未来になるかも、自分が物語の中であることも、知ったことではない。

これ、似ていないだろうか? 何に似ているかというと、自分で下さなければならない「選択と決断」に逡巡(しゅんじゅん)するあなた自身にである。もちろん、少年の試練と、あなたの迷いや悩みは違う。だが、両者が抱える心配や恐れは同じである。

ここに気付いたならば、サンチャゴが受け取る「導きの言葉」は、そのままあなたの背中を押してくれる。例えばこれ。

秘密は現在に、ここにある。もしおまえが、現在によく注意していれば、おまえは現在をもっと良くすることができる。そして、おまえが現在を良くしさえすれば、将来起こってくることも良くなるのだ。未来のことなど忘れてしまいなさい。

何気ない言葉だが、あなたが抱える「不安」も「恐れ」も、あなたを待ち受ける、ある未来から振り返ってつじつまの合った展開から予想される気持ちにすぎない。しかし、あなたにとってみれば、どんな未来になるか、知ったことではない。

だからこそ、現在に集中する。ブッダが言ったとされる、この言葉も併せて書いておこう。

過去にとらわれるな
未来を夢見るな
今の、この瞬間に集中しろ

選択と決断から生じる不安や恐れは、「今」に集中することで解消する。これは一例だが、他にもたくさんある。物語として一読したら、迷ったときに「後押しする本」として再読することをお薦めする。

2.『おめでとう』小池昌代編(新潮社)

あなたがその選択をして、そちらへ進むと決断したのなら、おめでとう。

その選択は、進学だったり、所帯を持つことだったり、親になることだったり、さまざまだろう。だが、悩んで迷って、あなたが決めたことなのだから、それは「正しい」のである。一歩踏み出したあなたの人生をことほぐ、この詩集を贈ろう。

この詩集は、結婚や出産や旅立ちといった、人生の節目節目に合わせて編まれており、あなたの決断のタイミングに合わせて開くといい。ライナー・マリア・リルケや中原中也、武者小路実篤からウォルト・ホイットマンまで、人生の先達からの言葉の花束である。

『おめでとう』というタイトルの割に、不穏な内容の詩もある(特に結婚のあたり)。これは、どんなに悔いがないように選んだとしても、必ず思い残す何かはある、という意味で正しい。それでも、その「思い残し」もひっくるめて、前に進もう、という気にさせてくれる。

例えば、結婚について。ちょうど同名の「結婚について」というハリール・ジブラーンの詩がある。これは、幸せな気持ちで結婚を考えたとき、そうでない気分で振り返ったとき、いずれにもハマるのが良い。一種の警句のように、パートナー同士の距離感について考えさせてくれるから。

あるいは、吉原幸子の『発光』。これは、選択した何かではなく、その結果「自分が傷つく未来」を引き受けたときに、思い出してほしい。「傷口は発光する」という驚くべき冒頭から、美しく瞬く結語まで一気に読まされるだろう。はたから見ると「縁起でもない」詩なのだが、あえて『おめでとう』に収録されたことを考えると、痛みを引き受けたことに対する意味が問われているのかも……と思えてくる。


◆◆◆


「選択と決断」の本、いかがだろうか。迷ったときには指針とし、いったん決めたら後押ししてもらい、不安になったら振り返る。選択が連続する人生の節目の、それぞれのタイミングでひもといてほしい。

重要なのは、その本を読むことではない。それぞれのタイミングで、その本を「思い出すこと」が大切だ。人生を劇的に変えてしまう選択に直面したとき、巨人「たち」の肩から見通したいとき、検索しても見つからないとき、選んだものが不安なとき、そして決断を後押ししてほしいとき――あの本にあったな、と思い起こしてほしいのだ。

人生は短く、選ぶことは多い。本棚か、記憶の片隅にこれらの本を置きつつ、大事な選択に備えてほしい。

著者:Dain

Dain

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