雛苺とセミの脱皮
- 282 :名無しさん:2013/07/30(火) 23:00:41 ID:a1zneqys0
- ジュン「うっおーっ!! くっあーっ!! ざけんなーっ!」バチーン
翠星石「おやぁ? チビ人間が荒れているですぅ?」
雛苺「真紅、またジュンのこと怒らせたのよ?」
真紅「馬鹿おっしゃい。私は何もしてないわ」
翠星石「ということは、ただ単にチビ人間がイカれただけですか」
真紅「最近、暑かったからね」
雛苺「ううん。ヒナの推理によると、これはきっと梅岡先生に晒された事件のことがフラッシュバックしてサクランボなの」
翠星石「それを言うなら錯乱ですよチビ苺」 - 283 :名無しさん:2013/07/30(火) 23:13:17 ID:a1zneqys0
- 真紅「ふぅ。やれやれ、いくら登校復帰しても、こうも脈絡なくトラウマ思い出して暴れちゃうなんてとんだ問題児ね」
翠星石「そう言えば、蒼星石も昔に自分が言った恥ずかしい台詞を思い出して、鞄の中で悶えていたりするですよ」
ジュン「くそっ。逃げられたか。今度こそ仕留めたと思ったのに」フーフー
翠星石「お、チビ人間落ち着いたですか?」
雛苺「仕留めたって何を? 梅岡先生やクラスのみんながあざ笑う幻影なのよ、それは」
ジュン「……何のことを言っている?」
真紅「そう深く思いつめちゃダメよジュン。周囲の人は貴方が思うよりも貴方に無関心なのだから」
ジュン「……」
真紅「それなのに、あなたが勝手にあまり暴れまわると自意識過剰のかまってちゃんだと……」
ジュン「ちがーう! そんな理由で暴れていたわけじゃあない!」
真紅「え? それじゃ、どうして?」
ジュン「蚊だ! 蚊がいる! もう三回も刺された!」ボリボリ
翠星石「それで手をバチバチ叩いて暴れていたのですか」 - 284 :名無しさん:2013/07/30(火) 23:15:25 ID:a1zneqys0
- 真紅「小さな虫相手に、そこまで声を荒げちゃって。みっともない」
ジュン「お前らはいいよな。蚊に刺されないんだから」ボリボリ
雛苺「ジュン、かゆそうなのね」
ジュン「蚊取り線香はこの間、全部使っちゃったし。今は何とか徒手空拳で蚊の奴を仕留めないと……!」
真紅「ふーん」
翠星石「お、そう言えば蒼星石が以前、こう言っていたのを思い出したですぅ」
雛苺「なぁにぃ? 翠星石」
翠星石「蚊というのは人間が呼吸で出す二酸化炭素CO2を感知して血を吸いに寄ってくるそうですぅ」
ジュン「らしいな。僕もそういう説を聞いたことある」
翠星石「ですからチビ人間も呼吸を止めれば蚊に刺されなくてすむですよ」
真紅「グッドアイデアね翠星石。よし今すぐジュンの呼吸を止めましょう」
ジュン「えっ!?」 - 285 :名無しさん:2013/07/30(火) 23:25:25 ID:a1zneqys0
- 真紅「雛苺」
雛苺「うぃ! ジュンのお口をガムテープでふさいじゃうの!」ベタッ
ジュン「んーっ!? もがが」
翠星石「鼻の穴が出たまんまですよチビ苺! しかと塞げですぅ!」
雛苺「うぃ! ぐるぐるしちゃうのよね! ぐ~るぐる~」
ジュン「ふががっ」じたばた
真紅「あ、でも皮膚呼吸ってのも止めないといけないんじゃなくて翠星石?」
翠星石「おっとと。そうでした。ならばチビ人間の体表面を全てガムテープでくるんじまえば完璧ですぅ」
雛苺「よーし、ヒナがんばっちゃうの!」グルグル
ジュン「やめんかーーー!!」ビリビリ
雛苺「にゃっ!?」
翠星石「なっ!? ガムテープを引きちぎりやがったですぅ! 何てことするですか! テープがもったいないです!」
真紅「ジュンが蚊に食われないように知恵を絞ってあげたというのに!」
雛苺「ガムテープじゃなくて、布テープを使った方が良かったかもなのよね」 - 286 :名無しさん:2013/07/30(火) 23:25:59 ID:a1zneqys0
- ジュン「あのな! 呼吸止められたら人間は死ぬの!! 知ってるだろ!!」
雛苺「……」
翠星石「……」
真紅「……」
翠星石「てへっ! うっかりしてたですぅ!」
ジュン「うっかりで殺されかけたわ!」
真紅「じゃあ、蚊に刺されないようにするための作戦第二弾!」
ジュン「第二弾? いつのまにそんな作戦を考えた真紅?」
真紅「飛天御剣流は、いついかなる時も隙を見せぬ二段構えよ」
ジュン「ああ、そう」 - 287 :名無しさん:2013/07/30(火) 23:27:35 ID:a1zneqys0
- 真紅「第二弾はズバリ! 『木を隠すなら森の中』作戦!」
雛苺「うにゅにゅ?」
真紅「蚊が探知の手がかりにしている二酸化炭素を逆に大量に出しまくって蚊を混乱させるのよ!」
翠星石「なるほどー! 逆転の発想ですね! 流石は真紅ですぅ!」
ジュン「どうやって大量の二酸化炭素を用意するんだよ」
真紅「私達が使っているドライアイスがあるでしょ(※)」
※桜田家の薔薇乙女達は暑さに耐えられなくなるとドライアイスを食べる。『冷やし薔薇乙女はじめました』参照。 - 288 :名無しさん:2013/07/30(火) 23:33:53 ID:a1zneqys0
- 真紅「あれをこの部屋で溶かしまくれば、この部屋は二酸化炭素で満杯になる」
翠星石「ふむふむ」
真紅「そうなったら、蚊も混乱してしまってジュンの血を吸えないというわけ」
翠星石「聞けば聞くほど完璧なプラン! よしチビ苺! 台所の冷凍庫からありったけのドライアイス持って来いです」
雛苺「うぃ! まかせてなの……」
ジュン「待て待て待て」ガシッ
雛苺「みょわわっ!? ど、どうして止めるのよジュン? 離してぇ」ジタバタ
ジュン「二酸化炭素で部屋を一杯にされても僕は死ぬ」
翠星石「な、なんですとー!?」
真紅「呼吸を止めても死ぬ、二酸化炭素が増えても死ぬ。ちょっと、ひ弱すぎるんじゃなくて! ジュン!!」
翠星石「それでも男ですか! 軟弱者!!」
ジュン「無茶言うなよ、マジで」 - 289 :名無しさん:2013/07/30(火) 23:34:33 ID:a1zneqys0
- ジュン「しょうがない。外は暑いけど我慢して蚊取り線香を買ってくる。じゃあ、留守番頼んだぞ三人とも」
雛苺「お土産! お土産にうにゅーが欲しいの!!」
ジュン「はいはい。気がむいたら買ってきてやるから」
雛苺「わぁい! ジュン好きー!」
翠星石「それじゃ翠星石はちょうど本日発売のいつもの少女漫画雑誌を」
真紅「私は鰻重。勿論、特上でね」
ジュン「いい加減にしろよ、お前ら」 - 290 :名無しさん:2013/07/30(火) 23:38:59 ID:a1zneqys0
- §桜田ジュン外出後
雛苺「むぅっ! 翠星石と真紅が余計なお願い事までするからジュンが怒っちゃってお土産買ってくれなくなったのよ!」
真紅「何を馬鹿な。どうせ最初から守る気が無かったに決まっているわ、あんなの」
翠星石「ですぅ」
雛苺「うゆゆゆ……」 - 291 :名無しさん:2013/07/30(火) 23:44:41 ID:a1zneqys0
- (\ ミ/ノ プーン
\ヽ//
(・)(・)ニニニつ ~
/ ハ||
/ / \\
真紅「ん? あら? あそこ飛んでるの、蚊じゃない」
翠星石「お、本当ですぅ」
雛苺「この子がジュンの血を吸っていたのよ?」
翠星石「……のようですね。チビ人間がいなくなったせいか、新たな獲物を探して、さ迷っているようですぅ」
真紅「ちょうどいいわ。ちょっと、そこの蚊!」- /)/ノ
// /フ ?
(⌒ノメ、
/(・)(・)\\_
ノ / L
真紅「この際だからはっきり言っておくけど、ジュンはこの真紅様の下僕であり私の大切なエネルギー源でもあるのだわ」 - 292 :名無しさん:2013/07/30(火) 23:48:25 ID:a1zneqys0
- 真紅「つまり、彼の髪一本、血の一滴、苦悶の表情そして断末魔に到るまで全てはこの真紅の所有物」
- /)/ノ
// /フ
(⌒ノメ、
/(・)(・)\\_
ノ / L
真紅「故に! たとえ、蚊であろうとも、その私の財産を盗むことは許されない」
雛苺「真紅、蚊にお説教を始めちゃったのよ」
翠星石「随分とおめでたい人形ですねぇ」
真紅「しかし、この真紅も鬼ではない」
翠星石「……?」
真紅「聞くところによると、貴女達はお腹の子を産むためにどうしても人間の血が栄養として必要だそうじゃない」- /)/ノ
// /フ
(⌒ノメ、
/(・)(・)\\_
ノ / L
真紅「だから今日のところは見逃してあげるわ。さ、ジュンが帰ってくる前に早くこの窓から外の世界へ」ガラッ- (\ ミ/ノ プーン
\ヽ//
(・)(・)ニニニつ ~
/ ハ||
/ / \\
雛苺「あ! 蚊が出て行ったのよ!」 - /)/ノ
- 293 :名無しさん:2013/07/30(火) 23:53:31 ID:a1zneqys0
- 翠星石「優しいところがあるんですね真紅にも」
真紅「当然よ。この愛情に満ち満ちたメインヒロイン真紅ちゃんは一寸の虫にも慈悲深い対応をとるのだわだわ」
翠星石「蚊に説教しだした時には、ついに真紅も暑さで頭がいかれたかと思ったですぅ」
真紅「失礼ね」
雛苺「真紅ぅ、早く窓を閉めなくちゃ、また別の蚊だとかが入ってきちゃうのよ?」
真紅「おっと、それもそうだわ。閉めなくちゃ……て、あら?」
みーんみんみんみーん
真紅「この鳴き声……? セミがウチの庭にいるわね」
翠星石「ほほう、もうそんな時季ですか」
雛苺「どこどこぉ? セミさんどこなのよぉ?」
真紅「ここからじゃ分からないわよ。でも、たぶん鳴き声からしてあの木じゃない?」
雛苺「うぃ! ヒナ、セミさんを見つけてくるの!」スタタタタ
翠星石「おーおー元気ですねぇ。あ、そうだ。セミを捕まえたら翠星石にくれですよー」
真紅「どうするのよ? セミなんて」
翠星石「塩を振ってカラッと揚げてオヤツにしてあげるです(※)」
※薔薇乙女の食文化はグローバルスタンダード(?)なので、虫を食べることに対して抵抗感があまり無い。 - 294 :名無しさん:2013/07/30(火) 23:55:46 ID:a1zneqys0
- §桜田家の庭
雛苺「真紅が教えてくれたのはこの木なのよね」
ベリーベル「!」ふわふわ
雛苺「セミさんの鳴き声はしなくなったけど、きっとどこかにくっ付いているはずなの! 一緒に探そう! ベリーベル」
ベリーベル「っ!」コクリ
雛苺「♪セっミさん! ♪セっミさん! お羽根がとってもイカしたセミさーん、どこなのよ~」キョロキョロ
ベリーベル「!!」ブンブン
雛苺「うみゅ? なぁにベリーベル? え! セミさん見つけたの! どこ?」
ベリーベル「!」クイッ
雛苺「そこ? 木の上じゃなくて、下の方なのよね?」- ,.、.,ri‐ty-‐‐====‐-、_
,、-‐‐´i .!i !ト-i'´ ̄ ̄ ̄ ̄``!`ヽ、
,ィ'´ヽ i、 〉'‐'´ _,.r--、__,.r'´ i! !ヽ.
,.イ .ヽ、ヽ. ! / _,.、‐'-、‐-‐-y'´ !i t i_!r-、
/i、 ヽ. ヽ、i、 ('´ },.r‐'´ __ノ_! Vr-、!
!、ヽ、ヽ、ヽ.ヽ、 >tπ‐-,‐ヘy'ニ二/__),ヽ.,____ノ ノy、
./`ヽ、ヽ `ヽ,_>‐ニ二ノ〈/´ 〉!へ--‐///'´``У`ー'´ン、ミ、
iヽ、_,.>、>='‐´'ー‐┴‐'!ヽ/ノ レ-、/(イ ,t´.,__`'"´
``´ // ,.rィ-‐‐='ン i`〈 !ヽ∠.,__,r、!
// ./.r-'‐‐''"´ ゝ.ヽヽ.!、.,__ `ヽ,
,! i /./ ト-) ) 二X´ヽ
/ヘ! /./ ./,r' レ'´`' ̄!´.i
ゞ' // ,r',r' ノン
〈_! /'´ ー'´
!.i !j´
t_j
雛苺「あ! 本当にセミさんがいるわ! ベリーベルお手柄なのね!」
ベリーベル「!」てれてれ
雛苺「にゅにゅっ? でもよく見たらコレ、セミの抜け殻なのよ! 中身が無いの!」
ベリーベル「っ!?」
雛苺「う-ん、でもコレはコレで面白いの! よく見たら木の陰に一杯ある。よーし! たくさん集めちゃうんだから」 - ,.、.,ri‐ty-‐‐====‐-、_
- 295 :名無しさん:2013/07/30(火) 23:57:01 ID:a1zneqys0
- §桜田ジュンの部屋
翠星石「なんだかチビ苺のやつ遅くねーですかぁ?」
真紅「そう?」
翠星石「はっ! ひょっとして翠星石にセミを渡すのが惜しくなって、こっそり一人で食べているんじゃあ……っ!?」
真紅「有り得るわね。あの子、貴女に負けず劣らず意地汚いし」
翠星石「こうしちゃおれんですぅ! 翠星石も庭に……」
雛苺「見て見てぇ! 翠星石ーー! 真紅ーーー!」ガチャッ
真紅「あら、噂をすれば何とやら、雛苺が戻ってきたわ」
翠星石「見て見てって何を……ほぁああーーっ!? セミの抜け殻が大量に雛苺の髪の毛にくっ付いてやがるです!?」
真紅「な、何の真似よそれは!? 雛苺!」
雛苺「えへへ。ブローチなの!」 - 296 :名無しさん:2013/07/30(火) 23:58:37 ID:a1zneqys0
- 翠星石「ブローチって……なんと悪趣味な。しょこたんですか、お前は」
雛苺「だってぇ~、抜け殻しか見つからなかったんだもん」
真紅「確かに、抜け殻じゃ食べるわけにもいかないしね」
翠星石「いやはや、びっくりしたですが、そういうことですか」
雛苺「うふふ、ジュンにも見せてあげるの。きっと可愛いってほめてくれるのよ!」
真紅「それはやめておいたほうがいいんじゃない? ジュンは私達よりも肝っ玉や器量が小さい男よ」
翠星石「そうです。気味悪がって怒られるのがオチですよ」
雛苺「うゆゆ?」
翠星石「あのチビ人間は翠星石が目の前でセミを食べただけでドン引きしやがったですからね」
雛苺「えええっ!? そ、そんな~。だったら早く取らなきゃ! 手伝ってぇ二人とも~!」
真紅「やれやれ。手を焼かせる妹だこと……」 - 297 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:00:26 ID:42zDaivo0
- 翠星石「考え無しに行動するからこうなるんです。と言うか、頭の真後ろまでどうやって抜け殻をくっ付けたのです?」
雛苺「首を一回転させながら満遍なく、くっ付けたの」
真紅「貴女それ、もしもご近所さんに見られていたら速攻でなかなかドギツイ怪談が一個生まれていたわよ」ポイポイ
雛苺「うにゅにゅ……」
翠星石「ふう、このチビ苺の後頭部に残っているのが最後の抜け殻ですね……」
抜け殻「モゾモゾ」
翠星石「ひゃああああっ!? 抜け殻が動いたですぅ!?」
真紅「えっ!?」
抜け殻「モゾモゾ」
真紅「あっ! これ抜け殻じゃないわ! よく見たら中身がある!」
雛苺「うゅ?」 - 298 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:02:09 ID:42zDaivo0
- 真紅「幼虫よ!! 羽化前の! 貴女、こんなものまで髪に!? 雛苺!」
雛苺「え? えええっ!? ぜ、全然気付かなかったの! ヒナ、抜け殻ばっかりだと!」
幼虫「モゾモゾ」
翠星石「ふー、びびらせんなですよ。でも、お手柄ですチビ苺。セミの幼虫も食えるですからね。では早速調理……」
幼虫「……」パカァッ
翠星石「ぬっ!? 幼虫の背中に突然、切れ込みが走ったですぅ!?」
真紅「まさか、ここで羽化を始める気!?」
雛苺「何? 何なの? ヒナにも見せてぇ~!」
真紅「動かないで雛苺! もし、貴女が変に動いてセミさんが落ちたりして羽化に失敗したらどうするの!」
雛苺「みょわわっ」ピタ
真紅「よし、それでいい。雛苺、じっとしてなさいよ」
雛苺「うゆゆ……」
翠星石「なんでセミの羽化を見守る流れになってやがるんですぅ? さっさと引っぺがしてカラッと揚げて食べようぜです」
真紅「……」
翠星石「ソフトシェルクラブ(※)みたいで珍味ですよ、きっと」
※脱皮直後で殻が柔らかいカニのこと。丸ごと食べられる。 - 299 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:03:59 ID:42zDaivo0
- 雛苺「だめぇ! このセミさんはヒナの頭で一生懸命大人になろうとしているのよ!」
翠星石「むむむ?」
雛苺「それを食べちゃうだなんて翠星石はひどいの! 血も涙も無いのよー!!」
翠星石「な、なんですか急に。チビ苺だって昔から美味しい美味しいと言ってセミを食べてきていたですのに」
真紅「完全にこのセミに対して親近感を持ってしまったようね、仕方の無い。今回は食べるのは諦めなさい翠星石」
翠星石「うーん。そういうことならしょうがねーです」
雛苺「わぁい! 良かったのよねセミさん!!」
幼虫「……」ズリズリ
真紅「あ、さっきより出てる部分がちょっと増えてきた」
翠星石「頑張ってるのですねコイツも」
雛苺「ヒナも何とか脱皮を見たいの!」
真紅「よし、鏡をいくつか持ってきてあげるから、そこでじっとしてなさい雛苺」
雛苺「うぃ」 - 300 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:06:31 ID:42zDaivo0
- §なんとか鏡をセッティングしました
雛苺「わあ! 本当なの! ヒナの頭の後ろでセミさんが白くなっていってるぅ!」
真紅「それは脱皮したばかりの体には色素が定着していないから白いの」
雛苺「ふーん」
ジュン「帰ったぞー」ガチャッ
翠星石「あ、チビ人間お帰りですぅ」
真紅「お帰り」
雛苺「お帰りなのねジュン」
ジュン「なんだなんだ? 何枚も鏡を引っ張り出して雛苺を囲むように置いて? 何かの呪いの儀式か?」
真紅「違うわジュン。ほら、よく見て、ココ」- 、 、 __r‐‐。、
ヽ il γ:::::::) ¨`ヽ_
{、 } ヾヽ _,.} ー ´  ̄ヽヘ:::)
〈:::',. , -冫-,ノ ̄/´ ,r'´:  ̄:ヽ ,.Y
!::::', ( ,ノ:/_,.r'^{ ヽ: : : : : : :i |.:ヘ
',::::::i,r‐ ': : :Уヲ ,> 、 `ニ二 ̄ └ i
{^(__,-、 ヽ/::::::::::::::iヲ´ ∠. /.: : :`ー─-‐、 ,j
` ー─- 、::` ‐y'::: ::,=ニ |-‐ { ,ハ : : : : :/: : :/: :¨!
` 、/ラ ̄: : : :| ,j'ヽi }: : : : {: ::ノ: :/:ノ
/:: :У : : : :i、ノ ヽ ヽ{: : : ,ノ: `:ー .':/
j:::::{_: :- '´|、 ヽ \.`-弋´{: :..:/
, ‐:::'´/:ヽ:::::::::::::::::::i ヽ ` ‐ ` - 、,.テ'´
/::/r‐{:::/::ヽ::::::::::::::i\ ` - _,/
/::/ /´ !:::::::::ノ`:ー:_,/、. ` ‐ ァ'´
r-'; '´ / i ト:-{´ `: ‐-:{、__二,ノ'´
`´ ハ:.ヘ. : :`、 :`: :ー-: : :_ラ'´
. ヘ:.' ,: ヽ: : :` 、 : :_ノ
ヽ::ヽ: :`: -: :二/
. ゝ_`二ニ-‐ ´
ジュン「あ!? セミが脱皮してる!? どうして!?」
翠星石「かくかくしかじかというわけですぅ」
ジュン「ははぁ、そういうことか。それじゃ今、雛苺は全然動けないってワケか」
雛苺「うぃ! セミさんがちゃんと大人になるまでヒナは動かないの!」
ジュン「……じゃ、お土産に買ってきた苺大福も、それまではお預けだな」
雛苺「っ!?」
ジュン「ものを食べるには口を大きく動かさないとダメだし、そうなるとセミさんのいる後頭部も動いてしまう」
雛苺「ええええっ!?」
真紅「大声出すのもセミさんのためにはよくないわよ雛苺」
雛苺「うぅ……」 - 、 、 __r‐‐。、
- 301 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:08:26 ID:42zDaivo0
- 翠星石「おうおう、残念ですねぇチビ苺。不死屋のうにゅーは出来立てが一番美味しいというですのに」ヒョイパク
雛苺「ああっ!? な、なんで翠星石は食べちゃうのぉ!?」
翠星石「ええ~? だぁ~って翠星石は自由に動けるですもーん」ムシャムシャ
真紅「大丈夫。ちゃんと雛苺の分は残しておくから」ムシャムシャ
ジュン「そうそう」ムシャムシャ
雛苺「ううう、何もヒナの目の前で食べなくてもいいのよ! みんなイヂワル!」
翠星石「意地悪じゃないです! これはチビ苺の心を試すためです!!」
雛苺「?」
翠星石「セミさんが脱皮を終えるまで一晩中チビ苺は微動だにしてはならんです! これしきで動揺してどうするです?」
雛苺「ひ、一晩中!?」
ジュン「こら翠星石、雛苺を驚かすな。セミの脱皮そのものは大体2~3時間で終わる」
雛苺「……」
ジュン「ほら、セミさんも大分もう出てきているだろ? あと少しの辛抱だ雛苺」
雛苺「本当にィ?」
真紅「そうそう。忍耐よ雛苺」ムシャムシャ - 302 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:13:11 ID:42zDaivo0
- 雛苺「うん! 分かった! ヒナ、頑張るんだから!」
翠星石「うむうむ。良くぞ言ったですチビ苺。それでこそ誇り高き薔薇乙女ですぅ」
雛苺「うぃー!」
翠星石「そんな立派なチビチビのために特別に、うにゅーの匂いだけでも嗅がせてやるですよ」
雛苺「匂い?」
翠星石「ゲフゥー」もわーん
雛苺「いにゃーーーん! 翠星石がゲップしたのー!」
翠星石「がーはっはっは! 翠星石の心ばかりのプレゼントですぅ!」
真紅「じゃ、私も……て、あれ? 意図的にゲップするのってちょっと難しいわね……」
ジュン「おいおい、やめろよ」
真紅「しょうがない。少しだけ指を口に突っ込んで、なんとか……」
ジュン「やめろって言ってるだろ。やめんか馬鹿」- .ィ/~~~"ヾ
、_/ /  ̄`ヽ}
,》@ i(从_从))
.||ヽ|| ^ω^ノ オェップ
≦ ノ つ!;:i;l 。゚・
テ と_)i:;l|;:;::;:::⊃ ビチビチビチ
⊂;::;.,.';;;;'::.:.;::.⊃
翠星石「ぎゃああっ!? 何を吐いとるですか真紅ぅー!?」
真紅「指を喉に突っ込みすぎた」
ジュン「最低だ、コイツ……」 - .ィ/~~~"ヾ
- 303 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:15:20 ID:42zDaivo0
- §小一時間ほど経過
雛苺「ねぇねぇ、セミさん出てこれたのよね! もう終わり?」
セミ「……」モゾモゾ
ジュン「まだまだだな。羽根が伸びきっていないし、それに出てからもしばらくの間、体が固まるまでは動けない」
雛苺「うみゅみゅ……ちょっと、しんどくなってきたの」
真紅「ふ、あれだけ頑張るって宣言したのに、もう弱音? 雛苺」
翠星石「堪え性の無いやつですぅ」
雛苺「そ、そんなことないわ! ヒナまだまだ平気だもん!」
翠星石「そーですか。んじゃ、翠星石は遠慮なく漫画でも読ませてもらうですぅ」
真紅「私も読書に勤しむのだわ」
雛苺「あー! 翠星石に真紅! それはヒナの漫画なの!」
真紅「ケチケチしないでよ」
翠星石「そうです。漫画はみんなで読んでいい決まりですぅ」 - 304 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:16:06 ID:42zDaivo0
- 雛苺「でも、それはヒナが買ってもらった漫画でまだ読んでないのよ! 最初に読むのはヒナじゃなきゃダメなの!」
翠星石「そんな大切な漫画をいつまでも読まずにいるチビ苺の方がいけないんですぅ」
真紅「そうそう」
ジュン(うーん、いかんな。ここぞとばかりに雛苺がいじめられ始めている)
翠星石「ほほう、まさか犯人は主人公の生き別れの兄だったですか」
真紅「お箸を持つ癖が同じことが伏線だったとはね」
雛苺「いにゃーーーーーん! ネタバレはやめてなのー!!」ブンブン
ジュン「お、おい雛苺! 頭! 頭揺れてる!!」
雛苺「うぇっ!?」ピタ - 305 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:17:26 ID:42zDaivo0
- 雛苺「だ、大丈夫セミさん!」
セミ「……」モゾ
雛苺「ふーっ。落ちてないのよね。良かったの」
真紅「ダメじゃない雛苺。この程度で心を乱しちゃ」
翠星石「全くです」
雛苺「だってぇ~」
真紅「伊達も正宗もない」
ジュン「お前らが余計な嫌がらせをするからだろうが」
翠星石「だーかーらっ! これは愛の鞭ですよ。何よりもセミさんのためですぅ」
真紅「ええ、この先どんな試練が雛苺を待ち受けているかもわからない。そのためには今の内からちょっとずつ耐性を……」
のり『みんなー! 晩ごはんよー』
真紅「わぁい」
翠星石「わぁい」
ジュン「わぁい」
雛苺「ッッ!?」 - 306 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:20:41 ID:42zDaivo0
- 翠星石「おっと、分かっているとは思うですが我慢ですよチビ苺」
真紅「私達は食事のために一階に降りるけど、雛苺は一人でも勿論大丈夫よね?」
雛苺「う……ゆゆ……」プルプル
ジュン「姉ちゃんにちゃんと説明して、雛苺の分はあとで夜食を用意してもらうから。な?」
雛苺「……」
翠星石「のりーっ!? 今日のおかずは何ですぅーー!?」
のり『花丸ハンバー……』
雛苺「っ!?」
ジュン「わーっ! わーっ!!」
真紅「ちょっとジュン!? 何よ、急に大声出して」
ジュン「こぉら翠星石! 何をわざとらしくメニューを聞いとるか!!」
翠星石「えぇ~っ? 深い意味はないですよ~。ただ気になっただけでぇ~す」
雛苺「今、のりは花丸ハンバーグって……」グググ
ジュン「わーっ! 気のせい! 気のせいだって! だから動くな! セミのために頑張るんだろ!」
雛苺「うぅ……」ピタリ - 307 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:21:56 ID:42zDaivo0
- ジュン「そうだ! 雛苺、お前はやればできる子なんだから! もうちょっと! もうちょっとだけの辛抱だ!」
雛苺「む~……」
ジュン「ほら鏡を見ろ、セミは全部、脱皮してる。あとは、この白い色が黒っぽくなれば大丈夫だ」
雛苺「うん。もう少しなのよね。ヒナ、ガマンする……」
翠星石「見上げた根性ですぅ。んじゃまあ頑張れでーす。翠星石がチビ苺の分も晩御飯を食べといてやるですよ」スタスタ
真紅「ご飯、ご飯……と」テクテク
ジュン「僕もいなくなるけど、一人で大丈夫だよな? 雛苺?」
雛苺「任せてなの」コクリ
ジュン「……セミが落ちるから、それ以上は大きく頷くなよ」 - 308 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:22:32 ID:42zDaivo0
- 雛苺「みんなご飯を食べに下に降りちゃったの。ヒナ、一人ぼっちなのよね」
セミ「……」カサコソ
雛苺「あっ! ごめんなさい! セミさんがいるからヒナは一人ぼっちじゃないの」 - 309 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:25:00 ID:42zDaivo0
- §数十分後
金糸雀「じゃじゃーん! 隠密乙女金糸雀がジュンの部屋へ侵入成功よ。窓のカギを開けっ放しとは不用心よのう」ガラッ
雛苺「か、かなりあッ!?」
金糸雀「あら? 雛苺? なんでここに? そんな馬鹿なかしら!」
雛苺「こ、こんな時に金糸雀が来るなんて」
金糸雀「カナの入念な調査によれば今はみんなで晩御飯の時間のはず! どうして雛苺だけ部屋に残っているの!?」
雛苺「じ、実はね金糸雀……」 - 310 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:28:04 ID:42zDaivo0
- 金糸雀「……つまり、そのセミがちゃんと飛べるようになるまで雛苺は全然動けないというわけ?」
雛苺「うぃ……。もうセミさんは脱皮し終わったし、あとちょっとだけのはずなのよ」
金糸雀「ほほう。ということはカナに残されたチャンスもあと少しだけということかしら」
雛苺「金糸雀?」
金糸雀「ふっふっふ。誰もいない隙にベッドの下に隠れて、みんなが寝静まった夜に奇襲をかける作戦は変更かしら!」
雛苺「みょわわっ!? そんなことを考えていたのよ金糸雀!?」
金糸雀「それよりも、も~っと楽してズルしてローザミスティカゲットのチャンス到来だわ!」
雛苺「はわわわわわ!? そ、それってまさか……!」ガクブル - 311 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:29:48 ID:42zDaivo0
- 金糸雀「そのまさかよ! 動けない雛苺のローザミスティカをこのカナがきっちりちゃっかり、いただいちゃうかしら!」
雛苺「ひ、卑怯なの!」
金糸雀「おーほっほっほっほ! なんとでも言うがいいかしら!」
雛苺「うゆゆ……!」
金糸雀「真の策士はできるかぎり博打を避け、汗をかかずに最大の成果を得るものよ!」
雛苺「にゃーっ! カナの性根は腐りきってるのーっ!!」
金糸雀「策士にとっては、それも誉め言葉かしら~」
雛苺「金糸雀の根性は冷蔵庫の隅で忘れ去られて、ハエもたからない萎びたうにゅーのようなのー!!」
金糸雀「罵るがいい、蔑むがいいかしら。今のヒナにできるのはそれぐらいのことだけ……」
セミ「ジジーーーッ」ばばっ
金糸雀「えっ!?」
雛苺「セミさん!? 飛んだの?」
金糸雀「きゃ、きゃーっ!? セミがカナに向かって……!?」 - 312 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:32:17 ID:42zDaivo0
- セミ「ジーッ!」がりがり
金糸雀「いたたたた! か、顔をひっかかないで!!」
雛苺「セ、セミさん! もう体は固まってたのよね!」
セミ「ジジッ」がりがり
金糸雀「や、やめて! 本当に痛いから!! セミさん! 今のはジョーク! カナリアンジョークかしら!」
雛苺「セミさん……!」
金糸雀「無理やり奪ったミスティカじゃアリスゲーム的に意味がないってこと、カナは忘れていたわけじゃ……」
セミ「ジーッ」どすっ
金糸雀「あおっ!? お、オデコを刺されたかし……らっっ!?」バターン
雛苺「ふおおおおお! す、すごいのーーー!! セミさんが金糸雀をやっつけちゃったの!!」
金糸雀「……きゅー」ピヨピヨ
セミ「ジジッ」
雛苺「ありがとうなのよ! セミさんはヒナを守ってくれたのね!!」 - 313 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:33:43 ID:42zDaivo0
- ジュン「何だ何だ? 騒がしいな」ガチャッ
翠星石「げふぃー! チビ苺の分も食うと流石に満腹ですぅ」
真紅「ひょっとしてお腹がすいてセミを食べちゃったとかじゃないわよね雛苺」
雛苺「うゆっ? ジュン、翠星石、真紅」
金糸雀「……かしら~っ」ピヨピヨ
真紅「あらやだ。金糸雀が目を回しているわ」
セミ「じゅーじゅー」
翠星石「そしてセミが何故かカナチビのデコから脳汁を吸ってるです」
真紅「私達の頭の中に脳汁なんてないわよ。特に金糸雀なんて薔薇乙女一、頭が空っぽじゃない」
翠星石「ですよねぇ、こりゃ一体何が起きたというのやら」 - 314 :名無しさん:2013/07/31(水) 00:36:09 ID:42zDaivo0
- 雛苺「えーっとね、セミさんがね! ヒナのために頑張ってくれたの!」
ジュン「ほう! そりゃセミのお手柄だな」
翠星石「見上げたセミですぅ。大金星ですよ」
真紅「素晴らしいわセミ。貴方の雄姿はまるで一寸法師のよう……」
セミ「ジジジ」
こうしてセミが桜田家の住人から最大の賛辞を受ける一方で
金糸雀はセミに負けた乙女として末代まで語られるであろう恥をまた一つ増やしたのであった。
雛苺とセミの脱皮 完
2013/07/31 21:37:01 コメント18 ユーザータグ ローゼンメイデン