2024年8月にリリースした、「takumiお気楽マーカー体」(→
フォント紹介)。
2014年7月に制作開始し、2015年2月に第二水準漢字や拡張文字を含む文字を完成させた「takumi書痙フォント」(→
フォント紹介/
制作秘話)をもとに、ひらがなやカタカナ、英数字、一部の記号を新規にデザインしたフォントだ。
このフォントをどうやって作ったのか、またどんな願いを込めて作ったのか、そもそも作るまでにどんな経緯、思いがあったのか…。
知られざる(?)制作秘話を、ここで語ろうと思う。
※このページは、「takumiお気楽マーカー体」のWebフォントで表示しています。
10年前から練り始めていた構想
takumiお気楽マーカー体の構想は、実はtakumi書痙フォントを作り始めた当時からあった。
まずはtakumi書痙フォントの話からしていこう。
2024年で生誕10年を迎えたtakumi書痙フォントは、制作当時(2014年)の僕の手書き文字を忠実に残したいと思い制作を決めた。
このフォントの制作はかな文字からスタートし、その後教育漢字や英数字・記号類、残りの常用漢字、残りの第一水準漢字、そして第二水準漢字…と、使用頻度の高い文字から順番に制作した。
最初にリリースした際にはかな文字と小学1年で習う80字の漢字、ごく一部の記号類のみを収容し、2014年8月頃にリリースしたのだが、収容文字数が少ないのにもかかわらず予想外の反響をいただいた。
その後、時間をかけて第二水準や拡張文字まで作り上げ、ガッツリ使ってもらえるようにしたのだ。
フォントを作る時のあるあるだと思うが、文字を書く過程でだんだん上達していくので、どうしても最初の方に作った文字と後の方に作った文字とで品質に差が出てくるんだよね。
だから最初の頃に作った(今リリースしているtakumi書痙フォントの)かな文字のデサインは、使用頻度が極めて高い文字なのにもかかわらず拙いし、これでは自分の手書き文字を忠実に残したいという思いが叶ったとは言い難い…。
加えてペンタブに慣れていなかったのもあり、自分が紙に直筆で書いたかな文字とはだいぶデザインが違っていたのも気になった。
しかし使用頻度の高いかな文字はフォントのアイデンティティに関わる重要なものなので、デザインを変えてしまえばまったく違うフォントのようになってしまうし、漢字の数が少なかった頃から使ってくれていた人もいたので、そんな人たちのことも考えると後から変えるわけにはいかない…。
もやもやする気持ちもあったが、最初の頃に書いたからこそ拙く=可愛らしく仕上がったtakumi書痙フォントのかな文字は決して嫌いなわけではなかったし、可愛くて好きだと言ってくれるユーザーも増えていった。
そこでtakumi書痙フォントのかな文字は改変せずこれはこれで残して、いつか違うフォントとしてリメイクしようと密かに目論んでいた。
かな文字のリメイクを試みるが…
かな文字をリメイクするため、takumi書痙フォントの制作時に使ったペンタブレット(板タブ)で、自分が理想とするかな文字をたくさん書いてみた。
そのうち納得いく文字が書けるかと思っていたが、どんなに書いても思うような文字に仕上がらない…。
僕が作りたかったのは、takumi書痙フォントの文字の太さを活かした、マーカーでさらさら書いたような文字だ。
マーカーで書いた感は太めの丸ペンで文字を書けばそれっぽくなるのだが、「さらさら」感がどうやっても出せず、ベタッとした文字になってしまう。
それもそのはず。
僕が使っていた板タブは、線を引くことはできても筆圧を再現することができず、どんな線を引いても終筆部分は「とめ」のようになり、線を勢い良く引いても「はらい」のような線を書くことができない。
またtakumi書痙フォント制作当時に使っていたフォント作成補助ツールにも、筆致を再現するための有用な機能がついていなかった。
このためにペンタブやフォント作成に使うツールを買い替えることも考えたが、もっといい方法が無いかと探していた。
9年の時が過ぎた頃…
驚くほど時は過ぎて2023年夏、takumi書痙フォントのかな文字リメイクのことはすっかり忘れてしまっていた。
いろいろ考えているうちに、いつしか面倒くさくなり投げ出してしまったのだろう…。
takumi書痙フォントはウェイトB(旧太字)でもそれなりに太く作ったつもりだったが、文字を機械的に太らせている見苦しい使用例を見た時に、もっと太いものが必要だと思ったのだ。
さらに近年ではPC・スマホ、映像のテロップなど、画面上で表示する目的でフォントが使われることが非常に増えたので、手書き風フォントにも太いものがあれば便利じゃないかと考えたのも理由としてあった。
2ウェイトから4ウェイトへと拡充後、takumiゆるりフォントもこれに合わせて4ウェイト展開にした。
この手があったか!
2024年に入った頃、SNSで絵師さんが描いている絵を何気なく見ていた時に、ふと遠い記憶の彼方へ追いやられていたtakumi書痙フォントのかな文字リメイク計画のことを思い出した。
絵や漫画を描く際、CLIP STUDIO PAINT(クリスタ)を使っている絵師さんは多いと思うが、このアプリを使っている絵師さんが書いている文字は、僕が求めていた「さらさら」感のある文字だった。
そこで試しにライセンスを取得し、クリスタ上で文字を書いてみることにした。
これなら僕が10年前(2014年)に作ろうと思っていた、マーカーでさらさら書いたような文字をフォント化する夢が叶うかもしれないからね。
(クリスタに限らず他のお絵描きアプリでも同じことができるとかツッコまれそうだが、僕はその辺詳しくないのでカンベンしてね…。)
takumi書痙フォント制作当時はガラケーを使っていたので文字を書くのにペンタブとPCを使ったが、今はスマホを持っているし、スマホにクリスタのアプリをインストールすることもできる。
それに、いつも手にしていて使い慣れているスマホにクリスタをインストールして文字を書いてみたところ思いのほか書き心地が良かったので、今回はクリスタとスマホ、そしてスマホ用ペンを使ってフォントを作る(文字を書く)ことにした。
フォント作成ツールに読み込む時と、その後の微調整にはPCが必要になるが、文字を書く作業はほぼスマホで済んでしまうんだからすごい時代だ…。
ちなみにフォント制作に使ったスマホ用のペンはコレ↓
制作方針を固めた後は、スマホのクリスタ上でこのペンを使って文字をたくさん書き、ちょうど良い文字が書けるまで練習を重ねた。
いい感じの文字が書けたら、1文字ずつ画像として保存し、フォント作成ツールに読み込ませ、同ツール上で微調整と試し組みを繰り返して仕上げた。
そして叶えた夢…
takumi書痙フォントは、「丁寧に」書いた文字をフォント化したかったわけだが、takumiお気楽マーカー体で出したかったイメージは「何気なく」書いた文字だ。
メモ帳、付箋、ホワイトボードなどにマーカーでささっと書いたような文字をフォント化したいという思いはtakumi書痙フォント制作当時からあったが、当時は思うようにフォント化できなかった…。
「何気なく」書いた文字を再現するのに、隣り合う可能性のある他の文字に意識を向けず一文字一文字黙々と書き進めてフォント化すれば、実際に文字を組んだ時に個々の文字が独立して見えてしまい、面白みの少ない手書き風フォントになってしまうかもしれない。
そこで、スマホやクリスタとにらめっこばかりせず、紙にペンで字を書いてみて自分の筆跡を確認し、文字を組んだ時にペンの動きが直筆に近く、リズミカルに見えるようなデザインの手書き風フォントになるよう模索した。
こうして、当時持っていなかったスマホやクリスタ、スマホ用のペンなど便利なツールが揃ったおかげで、ひらがな・カタカナ・英数字を新規にデザインし、4ウェイトに展開させた念願の「takumiお気楽マーカー体」を完成させることができた。
手書き風フォントはデザインのワンポイントとして使われることが多い印象だが、本文でもガッツリ使ってもらえるよう、プロポーショナルフォントの字間調整にも注力した。
(このページも「takumiお気楽マーカー体」のプロポーショナルフォントで表示しているので、意識して見てもらえると嬉しい。)
“お気楽”に込めた思い
「takumiお気楽マーカー体」は、takumi書痙フォントの初回公開後から10年の時を経て完成したフォントだ。
作るのに10年かかったわけではないが、10年前の僕には当初理想としていた「さらさら」感のある文字などとても書けなかったし、takumi書痙フォントを作った当時は「しっかり作らなきゃ!」という思いが強くあった。
フォントを作る以上、その思いはtakumiお気楽マーカー体の時にもあったし当然のことだが、使う人も作り手の僕も、もう少し気楽に文字を使ったり、作ったりできたら……そしてそれをデザインに反映できたら……。
そんな願いを込めて、「takumiお気楽マーカー体」と名付けた。
特に2020年代に入ってから、世の中的につらいニュースが多かったように思う。
そんな時に、takumiお気楽マーカー体が誰かの助けになったり、誰かを笑顔にしたりすることができれば、と願っている。
20歳の頃に構想を練って、完成したのが30歳の時。
10年の時を経て完成したtakumiお気楽マーカー体を、お気楽な気持ちで使いつつも、大切にしていただけると嬉しいです。
最後まで読んでくれてありがとう、ィヨロシク!!
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