テキスト全文
急性疾患における患者中心のケアの重要性 #1.
⼊⾨ 急性疾患の 患者中⼼のケア ⼈⼯呼吸器は⼀度つけたら外せない? ゆっくり救急医 救急科専⾨医・集中治療専⾨医 @Yukkuri_991 #2.
本スライドの対象者 重症疾病の⾼齢者に 「どこまで治療すればいいんだろう…」 と迷ったことがある. 患者が「もう治療したくない」 と⾔っている. 本当に治療をやめていいのか悩む. 患者家族に 「できることは全てやってください」 と⾔われて⼾惑った. 急性疾患の治療⽅針決定のヒントが欲しい全ての治療者. #3.
臨床倫理4分割表を活⽤した情報整理 医学的適応 ü 救命可能性はある? ü 治療の効果はどのくらい? ü 無益性の回避に注⽬. 患者の意思 ü 患者の判断能⼒は? ü 事前の意思は? ü 代理意思決定者は誰? (意思表⽰不可の場合) 周囲の状況 QOL ü 治療⾏為によるQOL低下があるか? ü 治療に成功してもQOL低下がある? ü 治療しない場合のQOLはどうなる? ü 家族の意⾒は? ü 利⽤できる資源は? (要介護度や家族の⽀援) ま ず は 「医学的適応」 と 「 患 者 の 意 思 」 に ⽬ を 向 け よ う . ※家族の意思ではないことに注意.家族の意⾒は, 「周囲の状況」の⼀要素. 無益性の回避と医学的適応の判断 #4.
医学的適応:「無益性の回避」が第⼀歩 医学的意義がないとわかっている⾏為はやめる. a. 蘇⽣しないことは明らかだが家族が全員揃うまで⻑時間⼼臓マッサージを継続. b. カテコラミン増量で短時間の⾎圧保持は⾒込めるが, 病状は不可逆で早晩⼼停⽌ することが分かっている中, カテコラミン調整を続ける. c. 治療により状態は少しよくなるが, 最終的に寝たきりになる. 本⼈がそれを望ん でいない場合に治療をする. 例a, bのような治療の回避から始めよう! しかし例cはとても難しく結果論的なところもある. どうしよう? #5.
無益性の判断が難しいケース 「治療により状態は少しよくなるが, 最終的に寝たきりになる. 本⼈がそれを望んでいない場合に治療をすることは無益性がある.」 代表例: ⾼齢者肺炎の気管挿管. 難しい理由① 本⼈が何を望んでいるかわからない. • 病気により判断能⼒が低下, もともと認知症, そもそも医学知識がない ⼈が気管挿管後の⾒通しを正確に描けるのか?等. 難しい理由② 治療開始時に最終的な状態を予測できない. • ⾃宅退院できるかもしれないが, ⼈⼯呼吸器が外れない可能性もある. #6.
どんどん ⽗権主義的に 判断が難しいゾーン 無益性が強い. 医学的適応から 治療を進めても 積極的治療の 許容されやすい. 中⽌も考慮. ⽅針決定のヒント: 患者の意思 Time-limited trial 100% 救命可能性, 治療の有益性 0% 患者の意思を尊重した治療方針の決定 #7.
患者の意思を考える • 患者に判断能⼒がある, あるいは事前指⽰がある. 可能な限り患者の意思に沿うよう努⼒する. • 患者に判断⼒がない, あるいは患者の意思が確認できない. 家族と話し合い, 本⼈の推定意思を導き出す.患者の性格や元気だった時のエピ ソードを聞き出し, 患者の考えを⼀緒に推定していく. 「もし今, 本⼈が話せ るなら, なんて⾔うと思いますか?」という問いも有⽤. 推定意思不明, 関係者不在の場合は, 複数の医療者を含めて最善の⽅針を決定. #8.
あなたはカレー屋のシェフ • 注⽂は「シーフードカレー」「おいしいカレー」 インドカレー屋に⾏って, スパイスや具材を詳細に指定しない. 「ターメリックはクミンと同量⼊れてください」とは⾔わない. • 患者の推定意思を聞いて, おいしい料理を作る. 「病院嫌いな⼈です」「⽣きたいって⾔うと思います」等の 情報から医学的適応を踏まえて治療の⽅向性を提案する. ⼈⼯呼吸器つけますか︖⼼臓マッサージは︖透析は︖と, ひとつひとつ選ばせるのはNG. #9.
治療開始時に結末が予測できず判断に悩む場合 • Time-limited trialを活⽤. まずは積極的治療を開始し治療反応性を評価. 患者本⼈に取って適切な治療かを継続的に検討. 治療の無益性が⾼い場合は治療の減量や中⽌も考慮. 次の苦悩:⼀度はじめた治療は中⽌してもいい︖ 終末期医療に関するガイドラインの要点 #10.
⼀度はじめた治療は中⽌してもいい? 結論: 国内で⽣命維持装置の終了も⾏われている. • 積極的安楽死(例: 塩化カリウム投与で⼼停⽌させる)は法律で禁⽌. • 2021年12⽉現在, 治療中⽌のみで有罪になった例はない. • ただし治療中⽌を肯定する法もない. ⾮常に重⼤な決定であ り慎重な⼿順が必要. #11. ガイドラインの要点 救急・ 集中治 療における 終末期 医療に関するガイ ドライン ⽣命維持装置の中⽌, 昇圧剤の減量などの選択肢に⾔及. 1. 最善の治療を尽くしても救命の⾒込みがない場合に限る. 2. 患者の意思(推定意思)を最⼤限に尊重する. 3. 主治医個⼈で判断せず, 他科医師や他職種の意⾒を含める. 時に倫理委員会に諮る. 4. カルテ記載を厳密に⾏う. 救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン 〜3 学会からの提⾔〜 https://www.jsicm.org/pdf/1guidelines1410.pdf (参照2021-12-05) #12.
治療⽅針を変更する場合のチェックリスト ü 患者の意思尊重が第⼀. ü 家族との合意形成を⾏う. ü 個⼈で判断せず, チームで判断. ü ⽣命維持装置の終了のような重⼤な変更は, 病院側の合意を得るのが無難. 家族との合意形成と治療の選択肢 #13.
やれる治療は全てやってください. 家族 ⼈⼯呼吸器も⼼臓マッサージも⾏います. 疼痛緩和に専念し, ご家族との最後の 時間をよいものにすることに⼒を尽くします. 治療者 全⼒の治療≠侵襲治療を続けること. 緩和治療が適切な状態であれば, そこに全⼒を尽くす. #14.
トラブルを避けるために • 唯⼀解がないゆえに, ⾃分の⽅針こそ正しいと思って しまったときにトラブルが起こる. →家族からの不信感, 医療者間のすれ違い. • 「答えはない」ことを受け⼊れて取り組む. • 難しい意思決定は他職種を含めてチームで. • 患者, 家族と会話する頻度を増やす. #15.
ケース 85歳 男性 ADLは⾃⽴し独居. 庭仕事をするほど元気な⽅. 2型糖尿病に対して経⼝⾎糖降下薬を内服中. 娘がたまたま訪問したところ家で倒れているのを発⾒された. 救急搬送され, ⼤葉性肺炎と診断を受けた. リザーバーマスク15L/分の酸素投与でSpO2 85%, 呼吸数36/分の努⼒呼吸.不穏状態で意思疎通はできない. ※架空の症例です. ケーススタディを通じた治療方針の見直し #16.
事前に重病時の治療について話し合ったことはなかったが, ⽗は, 歩けなくなったら死んだのと同じだ とよく⾔っていました. 娘 ということを聞き出し, 不本意な結果になる可能性もあるが, ⾃⽴した⽣活に戻る可能性も⼗分にあると評価したため, ⼀定の治療効果がわかるまで⼈⼯呼吸器管理, 抗⽣剤治療を 進めることで合意した (Time-limited trial). ※架空の症例です. #17.
治療を開始するも… • ⾎⼩板減少による⼩腸出⾎と急性腎障害を合併 →⼤量輸⾎と腎代替療法に依存した状態が続いた. • 呼吸筋廃⽤→⼈⼯呼吸器に依存し離脱の⽬処が⽴たなかった. 適切な治療を⾏ったが, ⽣命が医療⾏為に依存し, 複数の臓器が不可逆的に障害されていることを, 医療チームのカンファレンスで判断した. 主治医 集中治療医, 消化器内科医 看護師⻑, 担当看護師 ※架空の症例です. #18.
主治医から家族に, • 医学的適応から, 救命治療から⽅針を変えて, 苦痛緩和治療に専念す ることを提案. • 本⼈の意思(推定意思)を踏まえ, 現在の治療が本⼈にとって不本意で QOLを損うものである可能性を⽰し, 侵襲治療の減量の選択肢を提案. • 家族内で話し合った結果, もし本⼈が話せるなら治療の減量を希望 するだろうという結論が出た. • 経⿐胃管や尿道カテーテルなどの苦痛を伴う装着物を減らし, 鎮痛 薬を増量した. 家族に⾒守られている中で⼈⼯呼吸器を停⽌し, 少 し時間をおいて, 息を引き取った. ※架空の症例です. #19.
Take home message 治療⽅針に迷ったら 「もし本⼈が話せるならなんて⾔うだろう︖」を探そう. 「⼀度始めた治療はやめられない」は間違い. 1番⼤切なことは, 1⼈で決めないこと. フルコースの治療≠侵襲治療. 「すべてやる」には緩和治療も含まれる.