音楽ゲームにおけるライセンス曲の役割について(SDVXについて追記)
どうも、はじめましての人は初めまして。
はるくと申します。
普段は音ゲー中心評論サークル「slappin' beats」として活動しております。
BMSの歴史本やサファリ難民本をご存知の方もいるのではないでしょうか。
今回もそんな感じで音ゲー評論を書いて行こうと思いますので最後までお付き合いください。
さて、まずはこちらのグラフをご覧ください。
これは、現在の音楽ゲームに収録されている曲のうち、ライセンス曲数の割合です。
ライセンス曲にはJ-POPなどの版権曲、他ゲームBGM、コラボレーション楽曲等を含みます。
ただし、コラボ曲に関しては初出が音楽ゲーム作品の場合はオリジナル曲に分類しています。
見ての通り、割合に関してはmaimaiやグルーヴコースター、そして「ほぼすべての曲がライセンス曲で稼働した」ビートストリームが圧倒的に多く、次いで太鼓の達人やダンスエボリューションがその次、というのが見て取れると思います。
jubeatやポップンミュージックの位置について意外に思われる方も多いのではないでしょうか。
jubeatも稼働当初は版権曲の割合が多かったのですが、版権局の追加ペース以上にコナミオリジナル曲が増えすぎた影響で割合が少なくなっているのですね。
それ以外にも、ダンエボ・ビートストリームを除く他のコナミ系音ゲーも軒並み割合が低いのが分かります。
このグラフには記載していませんが、beatmaniaIIDXもほぼすべてがオリジナル曲で占められています。
さて、ここからが本題です。
これらのライセンス曲は、主に「何のために」収録されているのでしょうか。
それは主に「新規の人がプレイするきっかけ」になるからです。
音楽ゲームに限らず、新規ゲームはプレーヤー数を増やす事が至上命題ですから、まずは人を増やす為の有名なライセンス曲を「宣伝広告として」入れるのが通例です。
そしてそういう人の為に難易度は出来るだけ簡単に、出来るだけプレイしやすい環境で揃えるわけですね。
しかし、その曲が一部の人、一部の世代しか知名度の無いものであった場合、その目的は無に化します。
最近BEMANIシリーズにおいて、U.M.Uというご当地アイドルの曲が大量に収録される出来事がありましたが、その目的をU.M.Uは失念していると私は考えます。
局地的な知名度しかない曲をわざわざ入れるという事は、それ以外の大半の人に「全く無名の新人のオリジナル曲」を収録したのとほぼ同等の効果をもたらします。それがアイドル系ボーカル曲ならばなおさらです。
よって、私としてはU.M.Uは「望まれないライセンス曲」扱いとして考えています。
話を元に戻します。
さて、「知っている曲が入っている」と聞いてその音楽ゲームに1クレジットを入れて、そこで面白いと感じた時、次はどの曲を選ぶでしょうか?
恐らく、次も「知っていて、ある程度気に入っている曲」を選ぶ事でしょう。
わざわざ全く知らない曲を選ぶのは、よほどブレビューがキャッチーな曲でない限りはあり得ない事です。
初心者にとってのオリジナル曲と言うのは「他に知っている曲が無い」時に試しに選んでみる程度のもので、他に遊ぶ選択をする曲があれば後回しにされる曲なのです。
そのゲームの面白さを理解してもらうためには一回や二回では十分ではなく、10回、20回と遊んでみてゲームの「コツ」「テクニック」を理解していく事で、初めて本当の面白さを知る事になります。
よって、初心者を呼び込みたい音ゲーに関しては、そこまで飽きさせないように「出来る限りのライセンス曲を詰め込むのが理想」という事になります。
事実、セガのmaimaiは頻繁にその時の有名ライセンス曲を増やし、もしくは太鼓の達人のように(ハード制約などの理由で)新たに有名になった曲へと入れ替えを行うことで、新規参加者へのアピールを絶えず行っているのです。
しかし、それと正反対の方針を取っている音楽ゲームがあります。「BEMANIシリーズ」です。
BEMANIシリーズの大半は、版権曲の数はそこそこに、世間では全く知名度のないどころか、そのゲームで初お披露目のオリジナルの楽曲を年に数十曲も収録しています。
これでは新規参入者を阻んでいるかのようにも見えてもおかしくありません。
そのような状況にもかかわらず、十数年前から今に至るまで、BEMANIシリーズは音楽ゲームの金字塔として、知名度もプレーヤー数も上位をキープし続けています。
このようなオリジナルだらけの状況でBEMANIが成り立っている理由は何でしょうか。
それは「BEMANIコンポーザーの知名度」に他なりません。
大半がコナミ社員で占められる彼ら音楽家たちは、BEMANIシリーズに曲を提供しているだけではなく、彼らの楽曲こそが目玉といわんばかりに、象徴的な曲を生み出し続けています。
そしてそういう曲を求めて、BEMANIプレーヤーたちはクレジットを重ねるのです。
つまりBEMANIプレーヤーは、「好きなアーティストの新曲だからとりあえずCDを買う」という旧来の邦楽の購買心理と同じように、BEMANIコンポーザーの新曲を「アーティストの新曲」という感覚で選択しているのです。
この事から言えるのは、BEMANIシリーズに限っては、オリジナル曲自身が言わば宣伝曲となっている、「ライセンス曲の役割を果たしている」という事に他なりません。
この光景はBEMANI合同企画などの連動イベントにおいて顕著にあらわれています。
他の音楽ゲームの有名な「移植曲」が注目され、解禁の為にプレイを重ねる光景は、BEMANIオリジナルが「他BEMANIシリーズからのライセンス曲」という扱いになっている証なのです。
逆に、そういったBEMANIプレーヤーからすると、ライセンス曲はコナミオリジナル曲と比べて相対的に「知名度が低い」という状況になりえます。
ライセンス曲は前述の理由から難易度が低い事が多く、従来プレーヤーには物足りなさを感じる事も要因の一つです。
この逆転現象による影響が如実に出た作品が「ミライダガッキ」「ビートストリーム」です。
これらは音楽ゲームの初期のセオリーである「ライセンス曲を詰め込んだゲーム」にもかかわらず、さほど人気が上がっていません。
他のBEMANI音ゲーマーから興味を示されていない為です。
ミライダガッキに関しては、その後もライセンス曲が増えないまま他音ゲーの移植曲ばかりが増え、結果として他のBEMANI系作品と殆ど変らないライセンス率になってしまいました。
この状況はひとえに、BEMANIアーティストと言う名の社員中心の人物がオリジナル曲の価値を高める事に腐心し、それを長年築きあげてきた信頼と実績に寄る物に他なりません。
自社生産できるオリジナル曲という強固な集客要素こそ、いままでの強大なBEMANIシリーズを20年近くも形成し続けられた訳です。
しかし、その強固な「コナミオリジナル」にも、最近陰りが見えてきました。「有名アーティストによる提供オリジナル曲」の強化です。
beatmaniaIIDXは従来からその収録曲のほとんどをオリジナル曲が占めており、ライセンス曲は殆ど収録されない事が特徴です。
しかし、そのオリジナル曲の中の「BEMANI系コンポーザー以外の提供曲」がイベントの中心曲に採用されたり、ボス曲として君臨することが多くなっています。
理由としてはいくつか考えられます。
例えば「曲のマンネリ化」です。
コンポーザーにはそれぞれ楽曲の作風があり、それを持ち味としているアーティストもいます。
しかし、BEMANIシリーズの種類が増え、曲が頻繁に収録されるようになるにつれ、同じコンポーザーによる作風の似通った楽曲が同じシリーズ内に大量に存在することになりました。
特に「ランダムをかけることが日常となり、譜面の独自性が失われつつある」beatmaniaIIDXにおいては、ゲーム性による差別化は厳しい状況です。
しかし、作風は早々変えられません。作曲には技術的な側面が強く、別の作風で楽曲を作ったとしても、それが付け焼刃であるならば「その作風」を売りにしている他のコンポーザーに劣ってしまうのです。
kors k氏のような多才な作風の楽曲を輩出する作曲者もいますが、生業として曲をコンスタントに生み出さなければならない社員コンポーザーにそれを求めるのは少々厳しいと思います。
ほかにも「BEMANIアーティストの集客力の減少」も考えられます。
音楽ゲームのオリジナル楽曲を作れるのは彼らBEMANIコンポーザーくらいだった時代と比べると、
今はプロ・アマ限らず、誰にでも音楽ゲーム収録のチャンスが訪れる時代となっています。
そういった状況で「音楽ゲームの作曲に特化した」彼らBEMANIコンポーザーが「知名度」だけで勝負できる時代は終わりつつあるのではないか、と考えています。
どちらにしても、「BEMANIコンボーザー頼みのBEMANIシリーズ」の時代は、そろそろ転換点を迎えつつあるのではないでしょうか。
外部提供楽曲の利点は、「限定的なライセンス料の支払い」で済むことです。
裏を返せば、それだけ外部に金銭を支払う必要がある事になり、そのまま欠点となりえます。
もし、多数の音楽家を社員として抱えているBEMANIシリーズが、他音ゲーとライセンス勝負を仕掛ける時代になった場合、どういった結果を迎えるのか。
今後も注目していきたいと思います。
最後に僭越ながら告知を。
今回もコミックマーケットに参加します。三日目の西い20b、外周沿いになっております。
メインはクロスビーツ本ですが、余裕があればBMS関係と、パセリ関係の新作を用意する予定です。
皆様のお越しをお待ちしております。
(12/22追記)
サンボルのライセンス曲の割合が気になっている方も多いと思いますが、「コンペ形式で募集している割に、ライセンス料としては(曲が収録される名誉と引き換えに)破格の値段で収録されている楽曲」についてどちらで扱えばいいのか悩んでいます
— はるく@C87三日目い20b (@radio613) 2014, 12月 21
外注として扱えばオリジナルなんだけど、これらを外注と呼んでいいものやら
— はるく@C87三日目い20b (@radio613) 2014, 12月 21
なんでこんなこと言うかというと、「規約が変わったから」なんですよね。ちょっと次に画像貼りますね
— はるく@C87三日目い20b (@radio613) 2014, 12月 21
SDVX2の制作決定コンテストの規約と、SDVX3の制作決定コンテストの規約を並べ、主な違いの箇所に赤線を引きました。この違いが何を意味するかは皆様ご自身で判断されると良いかと思います pic.twitter.com/jzui0h2dnz
— はるく@C87三日目い20b (@radio613) 2014, 12月 21
ぶっちゃけてしまうと、「3はオリジナル扱いだけど2以前のはライセンス」という事にしたら「なんで?」という説明にもう1記事必要になる訳で、そんなことに時間かけてられる余裕がなかったのです…
— はるく@C87三日目い20b (@radio613) 2014, 12月 21
こういうことがあったので、「サンボルのライセンス曲のグラフ」は出しませんでした。私からは以上です
— はるく@C87三日目い20b (@radio613) 2014, 12月 21