音楽と服

音楽と服について好き勝手に語ります

SDGsなコールドプレイのライブから,従来のロックンロールスター像を再考する

先週の金曜日だったか,仕事に行く前の慌ただしい時間帯に,つけっぱなしにしていたTVから聴き覚えのある曲が流れてきた。

 

確かコールドプレイの,一番新しいアルバムに入っていた曲だ。

 

歯磨きをしながらテレビを注視すると,こんな画面が目に飛び込んできた。

コールドプレイのクリス・マーティンがステージで歌う中,会場内の特設ブースでは観客が自転車をこいで発電している。

 

面白いことするなーと思って見ていると,発電方法にはいろいろバリエーションがあるようだ。

こちらはトランポリンスペースで,観客がジャンプをしたらそれで発電されるそうだ。

 

コールドプレイのクリスがインタビューに答えていた。

 

彼らは,ライブ時の電力消費に大量のCO2が使われることを問題視して,2019年にライブ活動を停止したということ。

 

そのうち世界はコロナ禍に見舞われ,長いことライブを行なっていなかった。

 

「だけど僕たちは幸運だったよ!」

とクリスは画面ごしに笑顔で語った。

 

「僕たちがどうすればライブを続けられるか,アイデアを出してくれる人がたくさんいたんだ。」

 

そうして生まれたライブ継続のアイデアの一つが,今回の「発電式」ライブだったということだろう。

 

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SDGsの観点でライブ活動を行なうアーティストは,彼らが初めてではない。

 

他に有名どころでは,レディオヘッドなんかは10年ほど前から,LED電球を利用したライブセットで,ライブ時の消費電力削減を実現している。

 

私もフジロックで,そんな彼らのステージを目の当たりにしたが,ほんとに電力抑えているのか!?と疑いたくなるくらいライトが美しくて,また派手なステージだったけど,きっちり省エネでやってたらしい。

 

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コールドプレイやレディオヘッドみたいに,ロックバンドの人間がこういうクリーンな活動を大々的に行なっていることが報じられると,賞賛の声が上がる一方で必ず揶揄する声も聞かれる。

 

U2のボノなんかが一番いい例で,彼の慈善家としての活動は有名で,ノーベル平和賞候補になったこともあるという。

 

しかし,そんなボノの活動を「売名だ」「偽善だ」などと批判する声も少なからずあることは確かだ。

 

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私は個人的には,時代は変わりつつあるのだから,退廃的で破壊的=ロックンロールスターみたいな昔ながらのイメージはもう捨ててもいいのかなと思う。

 

例えば,オアシスなんかはツアーのたびに部屋で乱痴気騒ぎを起こして,高層ホテルの窓からソファー投げ落とすとか無茶苦茶やってたっていたとか。

ザ・フーのジョン・エントウィッスルが,クスリをやりながら女といる時に亡くなったというニュースを聞いたピート・タウンゼントが「ロックンロールスターとしては,最高の死に方だ。」とコメントしたとか(なんのこっちゃ)。


そういうのがロックンロールスターであって,そんなイメージの彼らが慈善的で持続可能な活動を行うことに対して「偽善」「ハイプ(誇大広告)」と切ってしまうのは,そろそろやめてもいいんじゃないかと思うのだ。


先に上げたようなロックンロールスター像のイメージが定着していったのは,大量消費時代の最中にあった1960年代から1970年代。


現在,時代はSDGs(持続可能な開発目標)だ。

もっとも影響力のある彼らが,時代に合わせて自分たちの音楽活動の在り方を変えていくことはむしろ自然なことのように思える。


しかも,リスナーを巻き込んでいるのがいい。

これから,「発電してくれる人はチケット半額」とかやったら,面白がって参加する人も増えるだろうな。

何はともあれ多くの人を巻き込めるのは影響力があるからこそできること。


地球のためになって,楽しめることならどんどんやればいい,と思う。


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ところで,コールドプレイの新作についてはまだレビューしていなかった。

新作「Music of the Spheres」。

右端が凹んでるのは,多分三男の仕業。

私はコールドプレイのディスコグラフィーはほぼ揃えているが,正直取り立てて熱心なファンというわけではない。


フジロックで彼らのステージを観たこともあって,それは素晴らしいステージだった。

アルバム「マイロ・ザイロト」の高揚感は今聴いても全然古びないし,間違いなく名盤と言える。


ただ,彼らの音楽にはどうしても「大御所感」が漂っていて,歌詞も演奏もどこか壮大過ぎる印象があった。

私が一番ロックを聴いていた時期に世界的にもっとも売れていたバンドだったので,天邪鬼な私はどうしてももう一歩思い入れを深めることができなかったのだ。


しかし久しぶりに聴いた新作も,どこからどう聴いてもコールドプレイっていう,その金太郎飴的な曲展開がもはや癖になる気持ちよさだ。


アルバム10曲目の「Infinity Sign」は歌無しのインスト曲だが,その打ち込みのイントロに三男が反応して,iPhoneをかけている私に歩み寄り,体を揺らしながらリズムを取り出した。


一歳の子を踊らせるとは,コールドプレイも大したもの。

彼の中ではだいすけお兄さんが歌う「どうようメドレー」と並ぶアンセムとなったようだ。


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子どもを踊らせる。

これもまた,新しいロックンロールスター像なのかも。


時代は変わる。

ロッンロールスター像も変わる。