三十歳から四十五歳を無自覚に過ごすな〜冨山和彦氏〜

長らくご無沙汰しておりました。梅田望夫・斉藤孝共著「私塾のすすめ」を熟読しておりました。。またこの件についても是非書いてみたいと思います。
ところで、なぜ私が「大切な30歳から45歳を無自覚に過ごすな」というテーマについて書いているかをちゃんと言ってなかったなと反省してました。それは、梅田望夫さんの著書「ウェブ時代をゆく」で下記の記述があり、大変考えさせられたというのがきっかけです。

「三十歳から四十五歳」という難しくも大切な時期を、キャリアに自覚的に過ごすことが重要である。(P194)

だとしたら、具体的にどうすれば自覚的に過ごせるのかということを考えていたのですが、「ウェブ時代をゆく」で梅田望夫さんが提言されている「ロールモデル思考法」。これだと思ったんです。

「好きなこと」「向いたこと」は何かと漠然と自分に向けて問い続けても、すぐに煮詰まってしまう。頭の中のもやもやは容易に晴れない。ロールモデル思考法とは、その答えを外界に求める。直感を信じるところから始まる。外界の膨大な情報に身をさらし、直感で「ロールモデル(お手本)」を選び続ける。たった一人の人物をロールモデルとして選び盲信するのではなく、「ある人の生き方のある部分」「ある仕事に流れるこんな時間」「誰かの時間の使い方」「誰かの生活の場面」など、人生のあらゆる局面に関するたくさんの情報から、自分と波長の合うロールモデルを丁寧に収集するのだ。(p119-120)

今回も、またもや私が一方的に「師匠」と申し上げている方(笑)です。自ら「火中の栗を拾う」と産業再生機構のCOOに就任。2年という短期間で41社の再建に尽力され、今は株式会社経営共創基盤を設立、事業再生だけではなく、次代を担う若きプロフェッショナルの育成に活躍されている冨山和彦さんです。

私は、後で詳しく述べます冨山さんの「在り方」に大変感銘を受け、冨山さんの著書はもちろんのこと、冨山さんの講演会にも2度参加させて頂いてます。このブログでも以前書いたのですが、「明るくて厳しい」マネジメントスタイルの典型的な事例だと思っています。過激な発言も多いのですが(笑)その発言には愛があり、冨山さんが私達に「どうしても伝えたい!」と強く思っていることがひしひしと伝わってきます。

司法試験に合格しながら司法修習に行かず、黎明期のコンサルティング業界に身を投じ、事業再生分野にて大きな功績を残し、今もまだ活躍し続けている冨山和彦さんの足跡です。


冨山和彦氏の足跡〜いかに大切な三十歳から四十五歳を過ごしたか〜

司法試験合格を蹴り、認知度の低いコンサルタントの世界へ

冨山さんは開成高校⇒東京大学法学部という、日本の典型的なエリート道を歩み、司法試験に合格。もうこれ以上何も求めようがない「王道」を歩むはずだったのですが、ご本人曰く「グレたい」という思いから、司法修習に不参加(講演では「まだ行ってない、行くつもりない」とおっしゃってました…)。冨山さんは「おもしろそうだ」という直感のみで、当時社会での認知度が低く、海のものとも山のものともわからないコンサルティング業界、「ボストンコンサルティンググループ(BCG)」に入社されます。

なのですが、たまたまBCGで一緒になった先輩達とBCGを脱藩、新しいコンサルティング会社「コーポレイトディレクション」の設立に携われます。BCGは一年で退社という結果に。。。
そして、コーポレイトディレクションにて自分で作った「海外留学制度」と活用して、スタンフォード大学のMBAを終了されます。このとき、31歳。

ここまで順風満帆のコンサルティングキャリア。しかし、冨山さんに最初の「修羅場」が訪れます。

コーポレイトディレクションの再建、そして事業再生の世界へ

スタンフォード大学留学から帰国した日本は、バブル崩壊後の不況の真っ只中。コンサルティングの受注は振るわず、コーポレイトディレクションは深刻な経営危機に見舞われます。人員削減をせざるをえず、退職金を準備しようとしますが、人員削減のための退職金を融資してくれる銀行などあるわけがなく、何とかクライアントに頼み込んで退職金原資を確保。コーポレイトディレクションを離れざるを得ない従業員のために、就職先を夜通し駆け回って確保。昼間は受注獲得のためにかっこいい経営理論を駆使したプレゼンをやりながら、一方夜は金策、就職先確保に走らざるを得ないというなんとも皮肉な修羅場。。。このとき、35歳。

冨山さんは、「このとき修羅場で這いずり回った経験が今の源泉になっている」と、講演でも著書でも強くおっしゃってます。

なんとか危機を脱したコーポレイトディレクションは、不良債権処理が進む中で注目を集めつつあった「事業再生」の世界にてその存在感を増していきます。長銀系ノンバンクで、不良債権処理における「お荷物」の一つであった旧日本リースの再生支援で冨山さんのお名前は事業再生の世界で知られるようになります。また、中堅印刷機器メーカーで経営破たんしたアキヤマ印刷機械を中国の有力な機械メーカーに資産・営業権などを譲渡し、事業再生に成功した事例なども有名です。このとき、40歳。

そんな冨山さんを世間は見逃してはくれませんでした。

火中の栗を拾う決断、そして産業再生機構へ

2003年に「金融再生プログラム」の一貫として、企業・産業の再生に取り組む「産業再生機構」が設立されました。が、「誰が経営するのか」については、有力候補であった民間経営者はことごとく敵前逃亡。。それはそうです。再生候補企業はダイエー、カネボウなど、本当に再生ができるかという問題企業ばかり。また「なぜ事業再生という民間分野に官製のファンドが入ってくるんだ。民業圧迫だ」という批判もあり。。冨山さんにお声がかかったのは、相当の人数が断った後でした。冨山さんは「これは天命」と腹を決め、産業再生機構COOに就任されます。このとき、43歳。

冨山さんは産業再生機構で41社の再建を成し遂げられましたが、私が一番冨山さんらしいと思うエピソードは、カネボウ化粧品の社長決定の話です。冨山さんは、典型的な日本企業であったカネボウ化粧品の新社長に、当時41歳で、子会社社長ながら役員ではなかった知識賢治氏を内部昇格させました。60歳以上の候補者がどんどん提案されるなか、冨山さんの独自のセンサーで「見つけた」知識氏が社長になるべきだと断固主張。数々の軋轢を乗り越え、知識氏の社長就任を断行しました。

冨山さんは、産業再生機構が「民業圧迫である」という批判を忘れず、当初3年の時限組織でありましたが、一年前倒し、かつ500億円の黒字を残し、清く解散。そして、現在は長期的・持続的な企業価値・事業価値向上を目指した新しいビジネスモデルの事業再生支援会社「経営共創基盤」を設立。事業再生、成長を支援しながら真の経営人材、プロフェッショナル人材の育成を目指し、全国を駆け回っておられます。

冨山さんのメッセージ〜若いうちはリスクを取って、「負け戦」に飛び込め〜

冨山さんは著書「指一本の執念が勝負を決める」でこんなことをおっしゃってます。

若い人たちには、競争から逃げるな、どうせ選ぶんだったらより難しい、自分の勝つ確率が低い場所を選びなさいと強く言いたい。そこで負ける体験をして欲しいのです。若い時に負けたって、いくらでも這いあがれますから。(P103)

負け戦を体験するなら若いうちです。偉くなってから負け戦になってしまうと、責任を取らされて、レッテルを貼られてしまいます。そこから這い上がるのは、いまの日本ではかなり厳しい。だから、むしろ負け戦をやるんだったら若い時の、20代から30代の前半です。(P95)

冨山さんは、講演でも、「どちらかを選択しないといけない場合、より困難なほうを選べ。たとえそれで失敗したとしても、若い時の失敗なんて全く問題にならない」と何度もおっしゃり、その言葉の迫力に聴衆みんなが圧倒されました。また、「失敗がないことは、勝負していない証拠だ。失敗のない人間というのは魅力がない」ともおっしゃってました。

「リスクをとれ、チャレンジしろ、そして負け戦に飛び込め」。この言葉は私の心で生き続けています。

冨山さんの「在り方」 〜清濁併せ呑む〜

冨山さんの著書、講演にて、その知性あふれ、頭の中がきわめて正確に整理されている論理展開と、その数々の修羅場の経験を通じて得られた生々しく泥臭い現場マネジメント手法に触れ、私は「清濁併せ呑む」という言葉を強烈に感じています。

現在非常に環境が複雑化し、企業が直面する課題の解決が困難となってきています。環境変化に適切に対応し、課題を解決するには、経営理論、会計知識など知的な「清」のアプローチが不可欠と強く感じます。しかし課題を解決するのは「人」。人が理論のみで動くはずがなく、現場で一緒になって泥んこになる人間臭い「濁」のアプローチが不可欠とも強く感じます。片方だけでは課題の解決は困難なのです。

そこで求められるのは、清濁を併せ呑み、両方を駆使して課題解決を実現する、課題解決のためには経営理論を駆使しながらも、ガチンコバトルでも、飲ミニケーションでも、寝技でも何でも繰り出してみせる在り方。そんな本当の能力、強さが必要だと強く感じるし、そんな人間になりたいと、冨山さんに強くあこがれを抱くのであります。

最後に冨山さんの著書「指一本の執念が勝負を決める」の中のこの言葉で締めたいと思います。冨山さんの益々のご活躍をお祈りしております。

最後に勝つのは、いつまでも粘り強く、自分で考え抜いて正しいと判断したプロセスを踏みしめ、成功に向けて飽くなき追求をし、その途中で出会う困難にも耐え抜き続けた人間である。つらいことがあったとしても、そこから何かを学び取り、次に活かせば、やがて勝てると信じて頑張ってほしい。(P178)


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