ものを書く時には下調べをしよう、もしくは、思い込みで物事を補足すると逃げるより大変な恥をかくかもよ、という話。

著作権っていろいろ面倒で難しいものです。面倒で難しいっていうのは「これが正解」って言い切れることが少ない分野だから。弁理士試験でも特許や意匠、商標や条約に関しては「正しいものはどれか」とか「誤っているものはどれか」という形で問題を出すのに、著作権は「最も適切なものはどれか」「最も不適切なものはどれか」と、ちょっと腰の引けた問題の出し方をしているくらい、ズバリ正解ってことがない。でもね、だから言いたい放題、ってわけでもないんです。次のテキストをもとに、それを書いてみましょう。

エイベックスが管理しないとYoutubeが使えない?そんなわけないじゃん。

動画を消すのではなく、広告をエイベックスのものに差し替えるという技術的な手段を取ってるんですね。
これ、おそらくJASRACに所属していたら、できなかった手法だと思うんですよ。
著作権の管理が、エイベックスグループのものだと、YouTubeやTwitterなどで広めることにも寛容な姿勢を取れるんじゃないかなと。

去年のピコ太郎のPPAPブレイクに関して、エイベックス所属という視点で書かれた記事を見たことないんで書いとく。

このブログの人は「ピコ太郎の音源はJASRACではなくてエイベックスが管理しているからYoutubeで収益が挙げられるんだ!」って言ってるんですが、これ全くの勘違いなんですね。しかも、二重に勘違いが含まれている。
ひとつは、JASRACが管理している楽曲はYoutubeで広められないと思っていることなんですね。そんなことはない。だって、2008年にYoutubeとJASRACは楽曲利用について楽曲利用許諾契約を交わしているから。だからこの時点で楽曲利用については別にJASRACを気にしなくても使えるようになっているんですよ。さらに、他人の著作物利用でお金を稼ぐ手段については2007年に開始されている*1。だから、もしこのブログが2007年に書かれたものだったら、ちょっとは正しかったんですが、2017年に書かれた文章としては間違い極まりない内容なんです。そこで、

AVEX所属でなくても(JASRAC委託でも)youtube動画で他人のカバー動画から広告収入得ることは普通にできるので、その視点からの意見は全く当を得てない。恋ダンスが音楽問題で削除されるのもJASRACのせいではないよ。

shidhoのコメント

とコメントしました*2。
そもそも、他人のカバー動画で収益を得ているのはエイベックス所属のタレントだけじゃないんでね。現在このカバー動画での収益は日本の主要レコード会社の95%以上がもらってるという。

ユーチューブを運営するグーグルによると、第三者の音楽や動画投稿で著作権上問題があれば、レコード会社など作品の権利者に自動通知し「投稿をブロックする」か「動画に広告を表示させて収益化する」か選べるシステムがあり、現在主要レコード会社の95%以上は収益化を選び、コンテンツを残しているという。

「恋ダンス」動画消す苦悩 拡散させたい、でも売れない

エイベックス所属のタレントがいくら多くても、主要レコード会社の95%以上はカバー出来ないですよね。

そうしたら、追記が来ました。

エイベックスの楽曲を全てエイベックス関連会社が管理している?そんなわけないじゃん。

こちら、音楽教室での演奏(演奏権)を例にとって追記しているようです。

つい最近も、JASRACが音楽教室での演奏についても使用料を徴収することを発表して、音楽教室側と裁判沙汰になるというニュースがありましたね。
(中略)
なので、楽曲がJASRAC管理だと、著作者サイドは二次利用して動画をネット上にアップすることに対して、厳しい処置を取らざるを得なくなります。
(中略)
でも、これがエイベックスの著作物で、著作権をエイベックスグループが管理しているとどうなるか。
著作物の二次利用に対しての使用料範囲の基準を、エイベックス独自の判断で決めることが出来ます。

去年のピコ太郎のPPAPブレイクに関して、エイベックス所属という視点で書かれた記事を見たことないんで書いとく。

ところが、この追記したことが大きく間違っているんです。
まず間違っているのは、演奏権について、エイベックスグループが著作権を管理している、というところ。
エイベックスグループの著作権管理会社は確かに存在しています。NexToneというところ、もとはイーライセンスで、JRCと合併して社名変更したところです。ところがこの会社、例で挙げられた演奏権の著作権管理をしてないんです。


この図における網掛けの部分がJRCがこれまで管理してきた権利です。逆に言えば、それ以外は、著作権者はJASRACに信託しています。スピッツの「チェリー」を例に挙げると、以下のように同じ楽曲を別の会社が別のコードで管理しているわけです。

例:スピッツ『チェリー』(作詞:草野正宗、作曲:草野正宗)
2.録音権、9.放送・有線放送、10.インタラクティブ配信…JRCに委託(JRC作品コード 0001302JRC)
1.演奏権、3.貸与権、4.出版権、11.業務用通信カラオケ…JASRACに信託(JASRAC作品コード 03860655)

「エイベックスがJASRAC離脱」ではない――音楽著作権は今後どうなる?

だから、エイベックスが著作権管理って言いたいんだったら、この音楽教室は例として挙げちゃいけないんです。こういうのを中国の故事成語で「蛇足」って言います。本当に蛇足です。

ピコ太郎がエイベックスに著作権管理してもらってる?そんなわけないじゃん。

さらに、補足でも直らなかったところがあった。
「ピコ太郎の所属はエイベックスだから著作権はエイベックスが管理している」というやつ。冒頭で「二重に間違っている」て書いたやつで、まだ説明してなかったやつです。

確かに、ピコ太郎の曲についてはエイベックスが出版者の人です。でも、実際にはエイベックスは自身の著作権管理会社で管理しているわけじゃないんです。
管理していれば、PPAPこと「ペンパイナッポーアッポーペン」の管理はNexToneがやっているはず。ところが、NexToneの作品検索で、「ペンパイナッポーアッポーペン」や「ピコ太郎」を検索してみますと、どちらも、見つからない、とエラーが出るんです。
それもそのはず。JASRACの楽曲検索「J-WID」で「ピコ太郎」を検索すると、現在20曲もの曲がヒットします。いや、ヒットしただけじゃダメでして、このデータベースには管理外の曲も登録されていますので、曲ごとに調べないといけない。「ペンパイナッポーアッポーペン」についての管理状況はこちらです。

全ての支分権に「J」の文字がついている。このJ、もちろんジャニーズじゃなくてJASRACのJです。ピコ太郎の曲は「JASRACが管理している」そして出版者たるエイベックスも、JASRACに信託してるんですよ。

件の記事は「JASRACでなくエイベックスが管理することでゆるい管理ができるようになった」と主張していましたが、それ自体が「ウソ」もしくは「ガセ」だったことになりますね。

JASRAC管理だから「恋ダンス」は削除される?そんなわけないじゃん。

せっかくなので「恋ダンス」の削除騒動についても触れておきます。これを削除したのはビクターエンタテインメント、星野源の「恋」のレコード原盤権を持っている会社です。恋ダンスの削除を決めたのはJASRACではなくビクターエンタテインメントです。もうこれだけでサブタイトル通りの話なんですが、じゃあなんでPPAPは削除されなくて、恋ダンスは削除できるのかというと、PPAPは動画作成者が自分で歌ってるからなんです。恋ダンスのほとんど、私が知る限り全ての動画作成者は星野源の「恋」の曲をCDからそのまま使って踊ってます。恋ダンスの動画作成者も自分で曲を演奏して踊ればビクターエンタテインメントは「原盤権の侵害」を理由に削除出来ないんです。これ大事なところなんで動画作成者の方は覚えていてくださいね。逆に言うと、曲をそのまま使っていた場合、非常識な動画だったらエイベックスも「原盤権の侵害」を理由に削除できる、ってことでもあることを忘れちゃいけませんね。

まとめ

  • Youtubeにはエイベックス(NexTone)管理の曲でなく、JASRAC管理の曲でもアップできる
  • NexToneが管理している著作権は音楽著作権の一部。JASRACでないと管理してくれない著作権もある
  • ピコ太郎の楽曲は全てJASRACが管理している

このなかで今回一番些細だけど重要な豆知識は3番めかもしれませんね。

*1:コンテンツIDによるマッチング。

*2:当時:現在はこのコメントを一部編集しています。魚拓取ってるんで必要なら見てね