絶叫機械

造形する脚本家、麻草郁のブログ。

何がわからないのかを発見する3つのテクニック

 学校の授業で先生から「わからないところは質問してー」と訊かれて答えに詰まったことがある人、手をあげてー。

何がわからないのか、わからない

 学生時代だけでなく、たとえば社会人になってからも「わからないところは質問しろ」という問いかけはあるはず。でも、入社して一ヶ月、研修は受けたけど現場じゃ知らない言葉が飛び交っちゃって、まず何から質問すればいいのかわからない、とりあえずうすら笑っておけ、なんて経験をした人も多いでしょう。
 ある分野を学ぶためには、まずその分野について何がわからないかを知らないといけない。でも、何もわからないから、なにがわからないかも、わからない、さて今何回わからないと言ったでしょうか。わかんないですね。とにかく学校の授業でも、仕事でも、遊びですら「わからない」ことはあまりに多すぎてほんと「わかりません」
 どうやら最初に知らなければいけないことは、一番はじめに質問すべきことのようです。

1.「これは何ですか?」と言ってみよう。

 地図も方位磁石もなく、言語もわからない状態で見知らぬ外国に放り出されたとき、もっとも知るべき言葉は何だと思われますか?
「助けてください」? うーん、確かに必要だけど、それだけでいいのですか?
「水をください」リアルだねえ、でもその前に知るべき言葉がありますね。
 そう! 「これは何ですか?」という言葉。この言葉さえわかれば、あとは水でも助けでも何でも求められます(瞬時に言葉をおぼえる記憶力さえあればね)。たとえば、子供の言語成長を段階的に追うと、最初が欲求、おなかすいたとかさびしいとかで、次に名前つけ、そして疑問の順番らしいんですね。

 頭に浮かんだ疑問を言葉にするのは、とても難しい。でもその方法さえ知ってしまえば、あとは質問をしまくるだけでいいのです……ってところまでは、わかってますよね。ハハハ。すみません。問題は、どうすればその「質問」が出てくるのか、ということですよねー。
 ことが身の危険であれば、質問は簡単に出てくるはずです。気がつけば薄暗い倉庫の中、手足は縛られ目の前には見知らぬ男性が一人。「ここはどこですか!」「あなたは誰ですか!」「私はどうなっちゃうんですか…」「殺さないでください!」「どうしたら助けてもらえますか……」うわあ。
 ところが仕事や勉強というものは、身の危険に遠回りな関係を持っているくせに、どうにもハッキリしてくれない。たとえば「食べ物はありますか?」と質問するときのような目的語、つまり「食べ物」が、見えないんですね、ぼんやりとしてる。
 これが、何がわからないのかがわからない状態です。

何でも知ってる長老さま!

 ここでひとつ、質問をされる側に立って考えてみましょう。
 たとえば、あなたが原始時代の小さな村に住む、長老だとします。長老は昔から生きているので、何でも知っていることになっています。もちろんどこの川に行けば魚が取れるのか、怪我をしたときはどの薬草を使えば治りが早いのか、若い衆が喧嘩をしたら何で決着をつけるべきなのか、といったことはわかります。それらはすべて経験にもとづく知識だからです。でもまだ何の経験もない子供にとって、わからないことはすべて同じように「わからないこと」なのです。だから……
「ねえ長老さま!どうして火の山は時々どかーんって噴火するの?」
 といった無茶ぶりを平気でするのです。わはは、知ったことか。「お前たちの知るべきことではない」と突っぱねてもいいんですが、優しい長老や皆に信頼される長老は、なんとか答えを引っ張り出そうとします。でも時は原始時代、マグマやマントルなんてものは誰も発見していませんし、そもそも山が何なのかもよくわかりません。仕方なく長老は山を擬人化して「怒りっぽいんじゃ」と言ったりしてごまかします。かわいそう!
 どうして長老さまは、ごまかしたんでしょうか?素直に「知らん」「わからん」と言えばいいのに……と、思いますか? たぶん、誰かに質問されたり、その質問にうまく答えることができなかったおぼえのある人は、わかるんじゃないかな。そう、長老は、わからなかったんです、村の子供がなにをわからないのかを。

2.原因と理由を区別してみよう。

 質問の答えには、大きく分けると二つの種類があります。それは「原因」と「理由」。
「郵便ポストが赤いのは?」という質問をされたら、多くの人は「目立つから」と答えるでしょう。それが「理由」です。では「原因」は? 「赤いペンキで塗ったから」……ははは、不思議な顔をしてますね。そうです、この「郵便ポストが赤いのは?」という質問には、二つの答えがあるのです。ところが人は質問するとき、このどちらの答えを求めているのかを、省略しちゃうんですね、面倒くさいのと、別にどっちでもいいときの方が多いから。
「山が噴火するのはなんで?」という質問をしたとき、村の子供は答えがどっちかなんて考えていなかったんでしょう。だからもし長老が未来から来た旅人で、マントルやマグマの話をしたら、素直に聞いたかもしれませんね。
 ともあれ長老の話を続ければ、魚の取れる川や喧嘩の仲裁は経験則にもとづく解決法です。ですから「理由」を問われたら「昔からそうだ」とでも答えておけばよろしい。でも人間というのは「原因」を知りたがる生き物です、だからこそ科学は発達してきたし文明はどんどん便利な方向へと進んでいきました。原因がわかれば結果に結びつくからです。
「理由」は人のなすことです。どこまでさかのぼっても「そうだからそうだ」としか言いようがありません。
「原因」は仕組みです。ティンバーゲン風に言えば至近メカニズムってやつです。さかのぼると解明できます(様々な要因によって、さかのぼれないこともあります)。
 さ、質問する側に戻って、この二つを区別してみましょう。あなたが知りたいのは「理由」ですか?それとも「原因」ですか?

3.答えを聞いて、補正してみよう。

 予想より長くなっちゃったんで、まとめますね。まずはわからないことは何でも質問してみましょう。ただしそのときに、自分が知りたいのは「理由」か「原因」かを区別しておきましょう。さいごに、答えを聞いたら、その答えをもとに質問を補正してみましょう。この三つができれば、何がわからないのかが、みるみるわかるようになります。あれ? みるみるわからなくなるのかな?あれれれ?
 さいごに、具体的な会話の例を挙げてみました。括弧の中は本当に伝えたいメッセージです、会話というのは省略されがちですからね。

・うまく質問できていない例

上司「これやっといてくれる?(この書類の中から不備を見つけ出して報告してくれるか:原因)」
部下「え、どうすればいいんですか、あとこのあと用事が(どこまでやったら上司のあなたは満足するんですか:理由を想定)」
上司「自分で考えろよ(前にやった仕事もう忘れてる、しかも遊びが大事か、このバカ:原因を想定)」
部下「はあ…(俺のこと、嫌いなんだろうな:理由を想定)」

・うまく質問できた例

上司「これやっといて」
部下「何時までに終わらせますか、あとこれ、前にやったやつと同じですか?(原因を想定)」
上司「自分で考えろよ」
部下「はい!(時間指定もないし、違ったら違うって言うだろうからあとでトラブルかなーははは:原因を想定)」

 まあうまく質問できたからって、上司がアレではどうしようもありませんね。ただし、理由というものは、本当に人それぞれでです。勝手に想像していやな気持ちになっても仕方ありません。この点だけでも気にすると、楽に質問ができるかもしれませんね。
 この「原因」と「理由」を分ける考え方は、会話以外のときにも使えます。たとえば好きな映画についてのいやな感想を読んだときは、その感想を書いたひとが「理由」にを想像して怒っているのか「原因」を発見して憤っているのかを考えればいいのです。もしそれが「理由」ならば「ぼくとは違う理由を思いつくんだなあ」と思えばいいし、原因だとすれば「むむむ、言っていることは正しいけど納得できないぞ」なんて思えばいいのです。その原因が間違っていたら?「バカがいるなあ」って思えばいいんじゃないですか。ちなみにウンコな議論というのは、互いに「原因」を発見したと思い込んで「理由」のぶつけあいをしているときに起こりがちです。
 あとは友達の愚痴を聞いていたはずなのに、いつの間にか喧嘩になっている、なんてときも使えますね。たとえば友達が「好きな人ができたんだけど、どうしたら振り向いてくれるかな」と訊いてきたら、それは「相手に自分を好きになってもらう方法は何ですか」という質問ではなく「好きになってほしい、好きであれ!あのしぐさはぼくを好きに違いない!」という勝手に想定した理由の表明にほかならないからです。そんなときは一緒になってアレコレ理由を想定すればよろしい。何の発展性もない無駄な時間ですが、人生には無駄も必要です。改めて証拠が出てきたら原因究明するのも一興です(360度どこから見ても振られているのにあきらめないひとが「それ終わってるよね」と言われて納得した例を、わたくしは寡聞にして知りません)。ここまで読んでいただいてアレですが、ふしぎテクニックはライフハックではないので、使う気がなければ単なる気休めです。

おまけ、演技の場合、その使い道。

 脚本上の台詞は、その多くが「表面」と「内面」の複合体になっています。喋っている本人は理由を求めているつもりで、まわりには原因を訊いてるかたちになったり、その逆だったり。シリアスな場面なら観客はその二重性に取り込まれ選択を迫られますし、コメディなら外部からそのズレを発見して楽しみます。もし、脚本を読んでみたときに、台詞が一面的な意味しかとれないようであれば「理由」か「原因」を探すと良いでしょう。

例題:とあるラーメン屋にて

店主「君さあ、何でこの店で働こうと思ったの? いい大学出てるのにさあ(理由とみせかけて原因を知りたい)」
店員「あ、あの、ボク、ラーメン好きなんです(理由を訊かれたと思ったので理由を回答)」

 さらに、演じるときは単にいやらしい言い方をして、店主のコンプレックスを表現しても良いのですが、意図を隠すために「理由を尋ねているように喋る」と怖くて嫌な感じがよく出ます。たとえば「君さあ、何でこの店で」までは嫌味っぽく言って「いい大学」だけは優しく言うとかね。
 というわけで今日はここまで、わからないことがあったら質問すること!以上!

参考図書

 
悪魔に仕える牧師

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ウンコな議論

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