対岸の火事は大きいほど

一昨年になるがLGBT法案に賛成した自民党を批判して「日本保守党」なる新党が創設された。
その後いわゆる裏金疑惑で自民党への世間の風当たりが強まり、その批判票の受け皿として日本保守党はのちの衆議院議員選挙で三議席を獲得。
得票数で、晴れて政党補助金の対象となる国政政党として認定された。
今では党員7万人とも言われ、参政党と共に保守層の期待を集める新たな政党として注目されている。
しかし好事魔多し。
この日本保守党が政界デビューを果たした昨年春の東京15区補選の党公認候補、飯山陽と、党首脳でツートップの代表・百田尚樹、事務総長・有本香との間に深刻な対立が発生し、SNSを賑わせている。
 
僕は保守的な男だが、百田や有本の手のひら返しの過去、一貫性のなさを知っているので、彼らを日本の保守層の代表や代弁者とは思わない。
飯山もまた今でこそ日本保守党の欺瞞性を暴露する正義の味方のように振舞っているが、保守党に所属していたころはその批判者を口汚く罵っていたので、人品骨柄を疑問視せざるを得ない。
だから日本保守党には全く興味がないし、その保守党に敵愾心をあらわにしている飯山陽も応援する気がしない。
ネット界を大騒ぎさせている大喧嘩には、基本的に高みの見物を決めこむ立場だ。
ただ対岸の火事は、大きければ大きいほど観客が集まるものだ。
その意味でこの両者の罵り合いは、表現は不適切かもしれないが大変面白い。
 
事は、今や不倶戴天の敵と化しているが、有本香が江東区補選の候補者として飯山陽をかき口説いたことから始まっている。
ただ日本保守党には大事な初戦なのに、その選挙運動の期間中に百田尚樹と飯山陽が不仲になってしまった。
学者なのか研究家なのかは知らないが、万事を理詰めで考える候補者・飯島陽に対して、応援演説に駆け付けた代表・百田尚樹は典型的な感覚派。
退路を断って新党に夢を託した(積りの)飯山は、百田のオフザケ振りは応援にならないと腹を立てるし、百田は百田で、党代表の自分に面と向かって文句を言う飯山に我慢ならない。
ヤルことなすこと意見が食い違い、言い争いが起きる。
普通ならこんな時は事務方トップの有本の出番で、間に立ってうまく調整するものだが、これがまた見事な能天気ぶりを発揮する。
トラブル調整だけでなく肝心の事務処理すら不得手なのだから、組織が機能するはずもない。
結果的に飯山が党を離れ、百田は飯山がいなくなったことを良いことにチクチクとX上に飯山に嫌がらせ投稿を繰り返す。
この間の飯山の鬱屈した思いは、日本保守党が衆議院選挙に大量の立候補者を出したことで、一気に噴出した。
飯山は日本保守党が公的存在になったことで、その批判が公益性を持ったとの大義名分から、選挙戦が具体化した10月以降、連日にわたって激烈な日本保守党批判を開始した。
 
この展開でも理攻めで攻める飯山と、感性で反論する百田・有本の間には埋めがたい溝が出きる。
飯山は確かに極度にデフォルメした物真似で百田・有本を揶揄するが、決して罵詈雑言で名誉棄損になるような発言はしない。
一方の百田・有本は、飯山からの疑念疑問に対して、正面から反論することはない。
元々議論には弱い百田は、ついついいつもの口癖みたいに、「くそババア」とか「頭がおかしい」とかの悪口で言い返す。
更には勢いに任せた失言も重なり、飯山にとっては攻めどころに事欠かない。
百田の周囲はハラハラの連続だろう。
 
飯山にも百田・有本にもくっついている各々の応援団がまた問題で、お互いにお互いを罵倒し合っている。
百田・有本とその応援団は、飯山の意見がたとえいくら正論でも、そんな筋の通らないところも百田の魅力と思う連中だ。
親分に歯向かう飯山へは、無条件で憎悪を募らせ、身体的に危害を加えるかのような過激なコメントを書き連ねたりもする。
飯山の応援団は、そんな百田・有本とその周辺に対して侮蔑的な上から目線で「無分別で愚かな信者たち」と小馬鹿にする。
二つの勢力の喧嘩は、いくら時間をかけて話し合っても決して交わることはない。
SNS上でのやりあいなら未だ問題はないが、何かの拍子で鉢合わせすれば刃傷沙汰にもなりかねない勢いだ。
昨年末になって日本保守党の百田は対飯山のバトルについて、今年は裁判で決着をつけると示唆した。
飯山もこれは望むところだろう。
民主主義国家の日本では、これほどまでに先鋭化した大喧嘩ですら、調停役の裁判所が存在する。
 
実は厳しい国際社会の現実の中では、百田・有本対飯山の罵り合いなど些細な喧嘩でしかない。
どっちが勝っても負けても、国際政治はおろか国内においてもたいして影響を及ぼすわけでもないからだ。
ならば当事者同士は、その取り巻きも含めて大まじめだとしても、部外者は高みの見物に限る。
繰り返すが、対岸の火事は大きいほど面白い。
それにしても昔は、内部分裂はサヨクの専売特許だった。
サヨクは運動が進めば進むほど穏健派と過激派に分裂し、血で血を争う分派闘争を繰り返してきた。
しかし最近では、保守界もまた内部分裂をする時代になった。
保守界隈の新党、参政党と日本保守党も主導権争いの所為か、決して仲が良いわけではない。
人間のDNAは、基本的に争うようになっているのだろう。
 
そんな中で保守界老舗政党・自民党は、新進保守政党を自称する保守党や参政党、その支持者からの評判が極めて悪い。
彼らには自民党が急速に左傾化しているように見えているようだ。
しかし自民党は内部で意見の対立が激しくても、いったん党で決定したことには不承不承でも従う。
実に融通無碍であり、それこそ自民党が長期に政権を担当できた秘訣だ。
保守的な僕は、表面的にカッコいい政策を並べ立てて保守層のウケを狙う俄か保守新党よりも、些か金に汚い部分があっても地道に保守政策を実践する自民党の方が信用できると思っている。
いくら時代遅れと馬鹿にされても、僕にとってはやはり頼りになるのは自民党!だ。