ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

AVが描いた震災

 これは2011年に「WJC」という雑誌に書いたコラムですが、AVから「ドキュメント性」が失われつつある今、ちょっと再掲載してみたくなりました。90年代に一部の文化人に熱狂的にAVが支持されたのは、このアナーキーなドキュメント性によるものであり、それは映像表現の新しい可能性を見せてくれるものでした。それが近年、ドキュメント性を打ち出すことが難しくなり、そして今回の「AV新法」によって完全に失われてしまうのはやはり残念に思います。

AVが描いた震災

 地震から約一週間後の3月19日に「ビデオナイト」というイベントに出演した。出演者がレアな……、というか奇妙変なビデオを持ち寄って上映し合うというイベントで、基本的には不謹慎極まりない内容なのだが、自粛せずにあえて開催した。

 この日も、カルト宗教のPRビデオや、冗談としか思えない絵柄のタトゥーを全身に入れた女のビデオなどフリーキーな作品が次々と上映されたが、僕は当初に用意していた予定を変更して「18歳 中退してから」(V&Rプランニング)「スケこまし、出したあとは綺麗にしてね」(ビックマン)という90年代に作られたAVを見てもらった。

 前者は、バクシーシ山下監督がAV女優を連れて、阪神大震災後の神戸に既知の男優を訪ねていくという95年の作品。ハンディビデオカメラの撮影による瓦礫の山となった神戸の光景が極めてリアルであり、そして一般のドキュメンタリーでは触れられることのない「震災被害者にも性欲がある」という当たり前の事実を伝えてくれる快作だ。コレクションのAVがみんな燃えてしまったと寂しそうに自宅跡を案内した後に、心の底から嬉しそうに女優とセックスをする男優の表情が素晴らしい。

「18歳 中退してから」より

 そして後者は伊勢麟太郎監督による90年の作品で、サブタイトルは「原発ピンク列島」。そう、これは反原発をテーマにしたAVなのだ。イントロダクションからして、原子力に関するニュースフィルムが延々と続く。パッケージは普通のAVなので、オナニー目的でこれを借りた人にとっては災難としか言い様がないだろう。主な内容は、車で北陸の各原発をまわり、その前でセックスするというロードムービー。若き日の松尾スズキや村松利史が登場するコント風ショートムービーもあるが、その中でもひたすら反原発の思想が展開される。80年代末の反原発ブームの影響下で作られた作品だが、AVの歴史の中でも一、二を争う怪作だと言えるだろう。

「原発ピンク列島 スケこまし、出したあとは綺麗にしてね」より

 今回の震災後に上映するにはあまりにタイムリーなこの二作品。AVの枠は、はみ出してしまっているものの、どちらもエンターテイメントとして、きちんと成立している点を評価したい。そして、こんな異形の作品も、商品として流通させてしまっていた90年代AVの「なんでもあり」感に、改めて驚かされる。
 他のジャンルでは、こうした角度から震災や原発を語ることは出来なかっただろう。

 ただし現在のAVは、本来の機能(すなわちオナニー)に特化し、余分なものは排除するという方向に進化しているため、こうしたアプローチは難しくなっている。恐らくAVからは今回に震災に対して、この二作品のような表現は出てこないと思われる。
 ならば10年代の現在では、どのジャンルがこうした違う切り口から、今回の震災を描くのだろう。正当性を評価されづらい鬼っ子的なジャンルとしては、ニコニコ動画あたりが近い存在のような気がするのだが。

※結局、東日本大震災ではカンパニー松尾監督が『恥ずかしいカラダ DOCUMENT 愛咲れいら』を撮った。また松尾は2016年の熊本地震でも「世界弾丸ハメドラー ふるさと 神ユキ」という作品を撮っている。

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