『ガールズ&パンツァー劇場版』は、何故テレビシリーズの焼き直しのような話だったのか?

 『ガールズ&パンツァー劇場版』(以下ガルパン劇場版)は通常版を2回、4DX版を1回観に行きました。ガルパンおじさんたちの足元にも及ばない回数でしたが毎回すごく楽しませてもらいました。通常版でも映画館で観るのに最適化された内容だったのですが、4DX版がまた面白かったです。お金を出す価値のある内容になっていると思いますので、機会がある方は是非試してみてください。
 さてそんなガルパン劇場版ですが、特に公開直後あたりにはこんな感想がしばしば流れてきました。

「劇場版ってストーリー的にはテレビ版と同じことやってるんじゃない?」

 確かに、エキシビションマッチからの試合だったり、廃校危機再燃に大洗女子側が勝つところまで、物語の構成上はテレビシリーズも劇場版もほぼ同じと言っていいと思います。なので、ストーリー的にはあまり見どころはない、戦車戦を楽しむためのおまけみたいなものだ、という感想も見かけました。それは極端なものかもしれませんが、そう思われても致し方無いのかなとも思っていました。
 ただ、ストーリー的に見せたいのであればそうすることも出来たでしょうし、予想に反するような展開(例えば大洗女子側が負ける、だとか)を持ってきて、観に来たファンを驚かせるようなものにも出来たとは思います。ただ、それを制作陣は敢えてやらずに、テレビシリーズと同じような構成に敢えてやった、のだろうと考えています。恐らくは、こうした「テレビシリーズと話的には一緒」という感想というか批判が出るのも織り込み済みだったのではないかとも考えられます。
 では、劇場版のストーリーをテレビシリーズの焼き直しのようにした理由や狙いは一体何処にあったのでしょうか。インタビューではあまり語られているのを観たことはありませんが、自分なりに考えてみたいと思います。

  • ガルパンというアニメの面白さとは? の追求から

 ガルパンというアニメって結局のところ、どう面白かったのか、という部分について追求した結果なのかな、と考えています。
 テレビシリーズのBD各巻についていたOVAのような内容でも、アンツィオ戦OVAのような形でも、ごくごく一部でしかなかったと思います。エキシビジョンに本戦の戦い、日常風景に国際色豊かな描写、様々なミリタリー要素に聖地・大洗の風景……。それらを一通り全て描いてこそ、ガルパンなのではないか、という感じで制作されたのだろうと思っています。
 廃校危機の再燃……はちょっと安直かなとも思うわけですが、「『ガルパン』ミリタリー生コメンタリー上映会」で言われてたという、

大洗の女の子たちは強くなるために戦っているわけではないので、モチベーションを持たせるために再度学校を困難に陥れた。
「『ガルパン』ミリタリー生コメンタリー上映会で判明したこととは? 笑いと驚きの連続だった2時間をレポート」(「電撃オンライン」記事より)

 以上のような理由なら納得が行くかもしれません。
 ただ、同じく廃校危機でも、テレビシリーズではあまり表立った動きは描かれなかった会長が、裏でどれだけ尽力していたのかという部分を劇場版では描けましたし、そこから、主人公である西住みほの母親のしほが、戦車道の家元としてどのような立ち位置なのかという部分にも踏み込めましたし、ガルパンの世界観をより立体的に描くことに繋がったような気がします。
 エキシビジョンにしてもそうです。知波単学園や継続高校という新キャラも出せましたし、ダージリンとカチューシャがタッグを組んで大洗女子と戦うのも、テレビシリーズで個別に会って話をしていたというエピソードを利用したものでしたし、ちゃんと繋がっているんですよね。
 大洗の色々な場所を登場させてより派手に市街戦をやったり、他にも色々とありましたが、テレビシリーズで面白かったことを再度描いていても、より膨らみのあるものとして描き出した、というのがガルパン劇場版だったのではないかと思っています。

  • テレビシリーズと違うことを描きたくなかった〜ファン向けムービーとしての劇場版

 テレビシリーズからの劇場版アニメといえば色々とありますが、中にはテレビシリーズとは毛色の違う劇場版に仕立てていた作品もありました(『魔法少女まどか☆マギカ』なんかは、流れとしては近いようであっても、ややバッドエンド的な結末だったあたりが随分と違うのかなと)し、京都アニメーションの山田尚子監督作品『たまこまーけっと』は、劇場版では『たまこラブストーリー』とタイトルすら変えた、テレビシリーズとはジャンルからして異なる内容のものでした。水島努監督が手がけた『クレヨンしんちゃん』の映画版なんかも、本編とは全く毛色の違う内容になっていました。
 個人的には、ガルパンではそうはしたくなかったのではないかと考えています。理由は上記(「ガルパンというアニメの面白さとは? の追求から」の項)の通りなんですが、あくまでも、テレビシリーズのファンに向けて作るものなんだ、という方針みたいなものが見えてきます。要は、これがガルパン初見な人にはどう見えるのか、面白いのか、という部分については全く考慮されていないというか、それを映画冒頭の「3分でわかる……」に丸投げしてしまった感が満載だと思うわけです。その代わり、先ほどの項でも触れた、テレビシリーズで触れていたネタの数々を伏線としたような内容を、いくつも劇場版に取り入れているのだろうと思います。
 当初は、テレビシリーズやアンツィオ戦OVAを観てきた、コアなファンに観てもらえたら良い、くらいの感じで作られていたと思いますし、実際に公開されてから何週かは特典を付けて、特典目当てで観に来てくれたら良い、という、いわゆるオタクアニメ映画という位置づけだったのだろうと思っています。
 ここまで興行収入が伸びるとは、誰も想像すらしていなかったと思っていますが……。

 最初の項と被りますが、テレビシリーズのパワーアップ版というか、全てにおいてスペシャル感を出したかったのだろうと考えています。
 内容についてもそうなんですが、例えばこのキャラクター数。テレビシリーズのほとんどのキャラを登場させるだけではなく、出てきたキャラはセリフも喋っています。しかしそれだけにとどまらず、新しく登場した知波単学園や継続高校、そして大学選抜チームのメンバーたちが新キャラとして登場してきます。テレビシリーズのキャラ数でも、1クールアニメとしてはかなり多いくらいの数だったにも関わらず、映画というわずか2時間くらいのボリュームの中に、あれだけのキャラクターを登場させることで、ある種のスペシャル感というか「オールスター」的な映画になったのではないかと感じるのです。『プリキュア』シリーズであれば過去に何作もあった中から登場してオールスターになるわけですが、ガルパンの場合だと所詮1クール+OVAというボリュームに新キャラを加えただけでオールスター感を出しているわけです。結構凄いことだと思います。ガルパンキャラは劇場版公開後に様々な二次創作が出てきましたが、キャラクターの濃さがそのオールスターさを際立たせてくれているようにも感じました。
 戦車の数や種類もさらに増えました。超大型戦車が出てきたり、それもう戦車ちゃう……というヤツも出てきたりと、こちらもオールスターのような様相を呈していたと思います(ミリタリー関係には疎いのであまり触れません)。戦車のディテールも細かくなったと聴いています。
 他にも、音響関係がとんでもなく作り込まれていたということで、立川シネマシティなど音響自慢の映画館が聖地化するというのも、結果的にはスペシャル感を生み出したことになると思いますし、戦車の挙動の細かさや戦車戦のシーンを極限まで増やしたことにより、後日4DX上映が決定してかつ、その良さを存分に引き出すことにも繋がっていきました。その4DX上映も話題になりました、奇しくもアニメファンに4DXの面白さを伝播することにもなるのも興味深いことだと思いました。

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 劇場版で、とことんまでスペシャル感を追求した結果として、ファン向けムービーを目指して作られていたものが、初見を取り込んでファン拡大に繋がったのですから、何がどう転ぶのか本当にわからないなと思いました。

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「劇場版ガールズ&パンツァーで、西住まほが実家近くで犬を散歩させていたことに対する考察」
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