下半期ベスト&年間ベスト

2024年下半期と今年通してすてきだなとおもった音楽について書きました。順位とかはありません。好きな音楽の好きなところを書いてあります。

プレイリスト

https://open.spotify.com/playlist/0aiLOW3NAYZ5BB7403tPbf?si=RqhPas7RSHiJ9W97Y00gIA

年間ベスト

Loupx garoux 「暗野」

この真っ暗な荒れ野は茫漠として終わりがない。イスラエル軍による虐殺も人命や人権を軽視する日本の政治もSNSでのマイノリティへのヘイトも。抱えきれなくなった暗やみをかきむしって歩いて踊って。

世界を慎重にまなざさなければ、取りこぼされてしまうような今突きつけられている痛みに根差した誠実な歌詞は、遠吠えのように聴き手へ送られる合図。端正で悠然とした佇まいで魂を引っこ抜くエレガントな鈍器みたいな音楽だと思った。でも不思議と抱きしめられた気がした。

昨年、首相秘書官による性的マイノリティに対する「隣に住まれるのも嫌だ」という言葉をもう一生忘れられそうもなかったけれど「あなたのとなりでうれしい」と歌ってくれた「D」という曲が濯いでくれたように思います。

聴き終えてすぐに2020年代の自分にとっていちばん重要な作品だと思った。ずっと大事に聴いていきたいです。

 

2024年下半期ベスト

中野ミホ 「YETI」

頬の冷たさや静寂、過ぎ去っていくものを愛おしくおもえる。余白ですこしずつ体温の変化が実感できる。清らかで美しい、一緒に歩きたくなる作品。

 

あっこゴリラ(taigen kawabe 食品まつり) 「キメラ」

不浄な境界でぶちあげられる祝祭。あっこゴリラさんのきめとキレのある凛としたリリックとBONINGENのtaigenさん、食品まつりさんによる複雑で美しい音。キメラになって歪んだ構造を食い尽くしてしまいたい、そんな気持ちを解き放てる作品。

 

THE BOHEMIANS「あいのロックンロールよりはやく」

"ごめんなさいジョニーサンダース"に続く歌詞はお茶目にロックンロールのマチズモを解体していると思った。ハッピーサッドに頭を抱えたまま踊りたくなる作品です。

 

ゆっきゅん、君島大空「プライベート・スーパースター」

"神様みたいにさせないよ" "壊れたままの君でいい"友達のように歌いかけてくれる。君島さんのギターは代わりに泣いてくれているよう。自分にとっての重要な他者たちの顔がたくさん浮かぶ。

 

SPELLBOUND「マルカリアンチェイン」

豊かな音と丁寧に編まれた詞は恐れを手放して身体をひらきたいと思える。行ったことのない場所へ自然と足を向けてみたくなる作品です。

 

寺尾紗穂 「希望に似たもの」

"誰を責めればいいの"って感じの傷つきすぎた社会でまさに誰もが今生きていて、そこで希望を見つけるのは難しい。希望と言い切れないけれど少し肩の荷が下ろせる詞、陽が落ちるのを見守りたくなる音。寄り添ってくれる作品だと感じました。

 

小西康陽 「きみになりたい」

小西康陽さんのヴォーカルとチェロ伴奏、この詞をこの構成で聴くことができて嬉しい。洗練されているけれど余白が後ろ髪をひくような美しい作品。今の自分の気分やムードにしっくりくるので眠る前によく聴いています。

 

浅井健一 「fantasy」で歌われていることはきっと構造への依存は幻想じみてるよなってことなんではないかなと思った。"この国の税金てめちゃんこたっかいね"をはじめすごく率直な言葉たち。

 

Loupx garoux  「解剖」

安堂ホセ著『迷彩色の男』にインスパイアされたという楽曲。"ともだちのままもう半周" 恋愛、異性愛規範ゴリゴリの社会で自分のことが歌われているとクィアが思える機会は少ない。存在を想定されてこなかった私たちの音楽。おおんってなりました。遠吠えであり泣き声でもある。ひらがなのほうの"ともだち"になにが見えるか人によって違うはず。

 

奇妙礼太郎「夢暴ダンス」

ライブで初めて拝聴して、なんて清々しい曲なのだろうと感じていました。配信後改めて聴いて、構造や属性による排除、抑圧、大きな力に心折られること多すぎこんなんもう大暴れですよ…というこの1年に抱えてきた置き場所がない気持ちに、踊る場所を作ってくれた作品です。上手なダンスじゃなくてもいいよと言ってくれるような、夢と暴れるでむぼう、抵抗でもあり祈りのようであるすてきな言葉。

 

Homecomings「Air」

音や詞によってかたどられた、世界や他者への距離のとり方にすごく安心する。時々この曲に背中を借りています。

 

土岐麻子「Lonely Ghost」

ひとりでいるのとひとりになってしまうのは違う。孤独を持ったときにそれをいなすのか愛すのかによって変わる速度や色調が隅々まで描かれている作品。孤独がさみしいとは限らないけれど駅や部屋、海なんかでひとりで聴いてもさみしくさせないでくれる10曲でした。

 

青葉市子「FLAG」

手招かれているような見送られているような詞と波の底のような気持ちになる音。まるで触れている気がする。手触りを感じる音楽。

 

BUCK-TICK 「スブロサ」

17曲のなかに"BOYS" "GIRLS"のような表現のバイナリーが二元、かつ並列ではない意味合いの歌詞があるので、バイナリーに収まれないジェンダーアイデンティティを持つ者としては聴くとどこか置き去りにはなってしまい、すごく大好きな音楽だけどやっぱり切ないものも感じました。

以下はアルバム全体に感じたこと。

界面を進むたびにひとつずつ隠し散りばめた目印が呼吸を促し、破壊と再生の循環を辿りながら彼方を目指す。そしてずっと後になっていずれ自分も響きあう目印のひとつになっているかもしれないと思わせる作品だと感じました。またアートワークはきっとBUCK-TICKも秋田さんも十八番な薔薇にゆかりあるものにもできただろうけど、オーロラに"南十字座"を模したタイトルが浮かぶデザインであることがスブロサという作品を率直に現していて、デザイナーの秋田和徳さんはほんとうに美しい暗号を隠すかただなと思いました。