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【CK3】裏切り者の一族 第三話 寛大なるヨハネス(1209-1224)

 

タルカネイオテス。

かつて、マラズギルトの戦いにて帝国を裏切り、アナトリアの大半をトルコ人勢力に奪い取られるきっかけを作った一族。

この物語は、その一族の復権を目指すものである。

 

1154年に生を享けたタルカネイオテス家の末裔、ミカエル・タルカネイオテスは、1179年にキプロス島の軍管区長官になったのを皮切りに、少しずつ帝国内での影響力を高めていく。

1181年には崩御したコムネノス家の皇帝マヌエルの後継を巡り、コントステファノス家のアレクシオス即位を支持したことでその娘のゼノビアを息子のヨハネスの妃に迎えるなどさらに影響力を拡大。

この政権がコムネノス家のアレクシオスを擁立した《隻眼のセバスティアノス》の陰謀によって倒された後も、新政権に忠誠を誓いつつ裏で自身を支持する勢力を拡大させ、1201年にはゼノビアを擁立して反乱を引き起こす。

この戦いに勝利したヨハネスは新皇帝ゼノビアの外戚として権勢を振るい、最終的には摂政の座を手に入れると共に、その孫のミカエルの次期皇帝の座も確実なものとする。

そして彼は一族の悲願であった、アナトリアからのトルコ人勢力の駆逐という目標を、達成する間近というところにいたのだがーー

 

ーーそのとき、ミカエルの身体を、避けられぬ老いと死とが襲いかかる。 

かくして、タルカネイオテス家繁栄の基盤を作り上げし《偉大なるメガスミカエル》は、55歳にしてその生涯を終える。

 

遺された嫡子ヨハネスは、この偉大なる父の後を受け一族の繁栄を現実のものとすることができるのか。

 

 

目次

 

Ver.1.14.2.2(Traverse)

使用DLC

  • The Northern Lords
  • The Royal Court
  • The Fate of Iberia
  • Firends and Foes
  • Tours and Tournaments
  • Wards and Wardens
  • Legacy of Perisia
  • Legends of the Dead
  • Roads to Power
  • Wandering Nobles

使用MOD

 

前回はこちらから

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帝国の危機

ビザンツ帝国皇配ヨハネス・タルカネイオテスは、父の死を戦場において受け取った。

以前から父の体調が思わしくないことは分かっていたが、あまりにも早すぎる結末であった。

「せめて、この戦いが落ち着いてからであればな」と、ヨハネスは嘆息する。「落ち着くどころか、状況は最悪じゃないか」

ヨハネスの言葉通り、事態は最悪の一途を辿っていた。帝国摂政であった父が女皇ゼノビアの名において始めたルーム・セルジューク朝に対する戦争であるが、これを受けて同じテュルク系民族であるオグズ人の三大国家、オルトク、スクマーン、大アルメニアが次々と帝国に対する侵攻を開始。

さらに占領地からはトルクメン人の反乱が勃発。

加えて最悪な報せが、前線のヨハネスの元へと届けられる。

「ーー帝国内で、オプティマトーン軍管区長官テオドトス2世を中心とした反乱が発生。ミカエル様が制定した、貴族の権利を抑制する法案の撤廃を迫っております」

「成る程・・・ゼノビアには、少々荷が重い状況だな。

 仕方ない、戦場はテオドロス殿に任せ、俺はコンスタンティノープルに戻ることにしよう」

「そう言いながら、単に戦場ここにいるのが嫌なだけでしょう」

ヨハネスの言葉に、男が苦笑しながら答える。

ヨハネスの宰相を務めるペトロス・ブラカミオス。元平民の奴隷出身者とされるが、その明敏さからヨハネスの父ミカエルにも認められ、幼い頃からヨハネスの従者兼親友として育ててきた男だ。

「ーーふん、元々父に言われて嫌々来させられていたようなものだ。反乱を起こした奴ら同様、俺にとっても父は目の上のたん瘤だったってことさ。彼が死んだ以上、俺もまた好きにさせてもらう。

 ペトロスは先にタルススに戻っていてくれ。動揺する領国を落ち着かせるために」

「承知致しました。それから一応、御父上様の葬儀の準備も進めますね」

「そうしてくれ。叔父上たちに先にやられてしまっては、家長としての威厳に関わるからな」

ハッハッハと快活に笑いながら、ミカエルはすぐさま馬を用意させる。

それを見ながら、ペトロスは小さく笑う。この男は、自らをこの国の支配者だと傲慢に思うようなことはないだろうが、それでいてこの国を治めるということが如何なる手段で持ってなしえるかを、天才的に理解している。

これがタルカネイオテスの血の成せる業か。

「お気をつけて、ヨハネス様」

「ああ。面倒だが、この国を救いに行くさ」

 

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帝都コンスタンティノープル。

東方におけるトルコ人たちとの戦いに苦戦する中、帝国内でも反乱が勃発中ということもあり、宮廷内は騒然とし、それぞれの派閥に分かれて喧喧諤諤の議論が繰り広げられていた。

反乱軍に対する「妥協派」の筆頭が、帝国宰相を務めるブルガリア軍管区長官のアドリアノス。

頭脳は明晰で現実的だが、その消極的な姿勢と、ヴェルバド家という新興貴族故の権力の少なさから、論戦においては劣勢の立場に置かれていた。

一方、「徹底抗戦派」の急先鋒となるのがフィリポポリス軍管区長官のヨハネス。

マヌエル1世コムネノスの娘マリアが平民との間に成した私生児だが、その実力でもって頭角を表し、今や独自の王朝たるリュティツィア家を作り上げた「成り上がった私生児」。

今や軍管区長官の地位すら与えられている彼は、帝国内の若手有力貴族らのリーダー的立場にもあり、今回もまた、現実的な老練政治家の消極策を舌鋒鋭く批判し、宮廷内の雰囲気を牽引していた。

玉座の間で繰り広げられるこの両派の激しい対立に、玉座に座るゼノビアはおろおろする側近たちを尻目に無関心を貫いていた。

彼女にとって、もはやこの帝国は自身を傀儡として操るだけの無機質な機構に過ぎない。

そこに自分の意思を加える必要性など微塵にも感じなかったし、そうしないことでこの帝国が滅ぶのであれば、それもまた本望、とさえ思っていた。

今や父も兄もおらず、彼女に生きる意味など、ないようにさえ思えていたのだからーー。

 

そんなビザンツ王宮に、その男がやってきた。

 

「ーー遅れてすまない、東方でちょっとしたトラブルがありましてね」

飄々とした様子で現れたヨハネスの雰囲気に、一触即発であった宮廷内の空気はわずかに弛緩する。

「さて・・・反乱軍に対する対応でしたね。とりあえず、これと全力で対峙する余裕は我々にはありません。

 故に、迷う必要などないでしょう。ここは彼らの要求を受け入れ、自治権を認める形で妥結するべきです」

きっぱりと告げたヨハネスの言葉に、広間の貴族たちは再び騒然とする。当然、徹底抗戦派のフィリポポリス公ヨハネスは色めきだって彼に詰め寄る。

「つまりは、恥知らずの不忠者共の要求を認めると!? これを許しては、同様のことがいくらでも繰り返されてしまうのだぞ!」

しかし誰もが身を震わせるその野獣が如き咆哮を、ヨハネスは身じろぎ一つなく受け止め、平然とした表情で返す。

「未来のことよりも、今をどう対応すべきかを最重要の問題です。成る程、武力でこれを叩き潰すことは、決して不可能ではないでしょう。しかし敵軍の数はこちらよりも多く、決して楽なものではない」

「もしもこれを成し得ようとするならば、東方でトルコ人たちと対峙している帝国元帥メガス・ドメスティコステオドロス殿も呼び戻す必要はあるでしょうが、それは果たして望ましいものでしょうか?」

ヨハネスの言葉に、フィリポポリス公も押し黙る。

「そも、この国は昔から内紛を起こしては、その度にペルシア人やアラビア人、ブルガリア人、そして今はトルコ人たちに土地を奪われ続けてきている。今回もまた、同じ轍を踏むつもりでしょうか?」

「ーーふん・・貴公の言う通り、内紛を避け、トルコ人との戦いに専念する必要があることは確かだ。

 しかし先も言ったように、妥協することで奴らをつけ上がらせてしまう。無事、戦争が終わったのち、奴らを手懐けるだけの策があるのか?」

「ええ」

フィリポポリス公の言葉に、ヨハネスは即座に答える。

「彼らが欲しているのはこの帝国における利権です。先の戦いのセバスティアノスや我が父のように、誰かを擁立して帝位を狙うでもなく、皇帝の暴虐振りを訴えその退位を迫るでもなく、あくまでも権利の回復をのみ訴えた。彼らもまた、この不安定な帝国における最高権力者などという貧乏籤を引きたいとは思っていないのですよ。

 であれば、これを黙らせるのも簡単だ。与えてやるのです。彼らが望む富を。権利を与えるには限界もありますが、富財宝であれば、ある程度は与えられるでしょう。

 私が管理するタルカネイオテスの荘園の富は、皆さんも良くご存知でしょう?」

宮廷内にどよめきが走る。

確かに、タルカネイオテスは今や帝国内で一、二を争う富を手中に収めている。

統治する二つの軍管区からの収入もさることながら、コンスタンティノープルに在する彼らの荘園においても、ヨハネスの巧みな金銭管理と蓄財、開発の才によって、ミカエルの代からその繁栄ぶりは評判が高かった。

「ーー確かに奴らはそれで喜ぶかもしれんが、しかし少し脅せば金を出すとなれば、結局は奴らをつけ上がらせる結果になるではないか」

「脅されたから多少の金を出した、となればそうでしょう。しかし、莫大な財産でもって、我々の言うことを聞くものから順に、優先順位をつけてその報酬を渡す、という形であれば、彼らは家畜のように従順になります。

 私には父のような武威はありませんが、この俗世の欲望の種には深い縁がある。私はその寛大さ太っ腹でもってこの帝国を統治しましょう」

ヨハネスの自信満々な様子を見て、フィリポポリス公はそれ以上抗弁するのを止めた。

どのみち今は内乱を起こしている場合ではないというのは飲み込まざるを得ない事実であり、そしてタルカネイオテスの蔵を開放するという彼の申し出に、宮廷内の俗人共の目つき雰囲気が変わり、自身が四面楚歌になったことを確かに感じ取ったのだ。

フン、と鼻を鳴らしたのち無言で踵を返すフィリポポリス公。

方針は決した。

間も無く女皇ゼノビアの名においてオプティマトーン公ら反乱軍の要求を受け容れることが宣言され、内戦は激化する前に終戦を迎えることとなった。

これで余裕の出来た帝国軍を率いて、ヨハネスは再び東方のトルコ人たちとの戦いの最前線へと向かおうとする。

しかしその途上、彼が受け取った報せは、前線を守る帝国元帥メガス・ドメスティコス《公正なるテオドロス》の大敗の報であった。

 

「ーー帝国軍随一の精鋭を率いるエフェソス軍管区軍がいとも簡単に敗北するとは」

「ええ、敵軍を率いるのはオスマンを名乗るトルコ人とのこと。その巧みな戦術と屈強なトルコ人兵を前にして、テオドロス殿率いる帝国軍は総崩れ。まるでマラズギルドの戦いの再来かの如く、帝国兵たちの士気に悪影響を及ぼしております」

軍監の報告に、ニコメディアの街で東方遠征の支度を整えていたヨハネスは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。

「トルコ人共は間も無く大挙してこの帝都へと至る道を上ってくることでしょう」

反乱軍たちは一度武装解除した上で、今は帝都にて歓待している状況、それらを再び戦闘体制に戻し戦力化するまでの間に、異教徒らはこの街をも蹂躙してしまうことだろう。

帝都にて籠城すれば撃退は可能だろうが、その屈辱と民の痛みは政権を崩壊させるには十分すぎる。

何としてでもこの街でこれを食い止める必要がある。

「ーー彼に頭を下げる必要がありそうだな」

ヨハネスはフ、と笑う。

「すぐ馬を用意しろ。向かう先はニカイアーーオプキシオン軍管区の首都だ」

 

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二つの公会議の開催地ともなった古都ニカイア。勝利の街を意味するこの都市は、帝国最大の軍事力と富を誇るオプキシオン軍管区長官、ドゥーカス家の家長《隻眼のセバスティアノス》の居城でもあった。

かつて皇帝を輩出した名門であり、先だっての第2次コムネノス朝時代には、実質的な最高権力者の地位にもついていたこのセバスティアノスだが、それを脅かしたのがまさにヨハネスの父ミカエルであった。

言わば、宿敵とも言える相手の懐に飛び込むようなものであったが、ヨハネスは特に気にした様子もなく、歴史を感じさせる重厚な城門を潜り抜け、広間にてその男と対峙した。

「突然の訪問にも関わらず丁寧なご対応、痛み入ります」

「畏れ多き皇配殿のご訪問、失礼があってはどのような仕打ちが待っているか分からぬからな」

およそ冗談とも本気ともつかぬ口調で告げるセバスティアノスに、ヨハネスも柔和かつ鋭利な眼差しでもって応える。

「これまでの両家の冷え切った関係を緩ますための暖かな雑談を交えたいところですが、残念ながらその時間もあまり残されていないように感じます。

 単刀直入にお話をさせて頂きます。セバスティアノス殿、その御力、帝国のために貸して頂きたい」

セバスティアノスは暫し、沈黙する。その目は、一回り以上年下の実質的最高権力者を値踏みするかの如く睨みつける。

やがて、その口が開かれた。

「ーーその為の、見返りは?」

「剥奪されていた帝国家令の地位をお返しすることはもちろん、此度の戦いにおいて得られたトルコ人たちの土地の大半は、貴家が有するオプキシオン軍管区のものとすることを約定致しましょう」

「私はもう、先は長くない。オプキシオン軍管区長官の地位、及び家令の地位を無条件に我が息子に継承させることの確約は?」

「もちろんです。ドゥーカスの名がこの国における最重要な存在であることを保証致しましょう」

「ーーだが、貴様は所詮帝配に過ぎぬ。共同皇帝でさえない貴公の言葉が、果たして何の価値を持つ?」

セバスティアノスの言葉に、怯むことなくヨハネスは返す。

「ここに向かうと共に帝都にも早馬を走らせ、先の約定を皇帝の名と印で記した正式な誓約書を持って来させております。間も無く、到着する頃合いでしょう」

「フンーー」

セバスティアノスは口の端を吊り上げる。

「戦では役に立たぬ軟弱な後継者だと聞いていたが」

「まあ、戦で役に立たないのは本当かもしれませんけどね」

ヨハネスは肩をすくめて苦笑する。

「ーー良いだろう。契約成立だ。我が一族の名誉にかけて、帝国の領土を穢す蛮族共を皆、駆逐することにしよう」

 

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帝国最強の軍隊であるオプキシオン軍管区軍の参戦により、劣勢に立たされていた戦線の状況に変化が生まれる。

勢いに乗っていたトルクメン人たちの反乱軍も、ケラススの地で跡形もなく虐殺される。

《公正なるテオドロス》を苦しめたオスマン将軍率いるトルコ軍に対しても、アズィアの地にて見事勝利を飾る。

これらの活躍により、アナトリア半島を貫きコンスタンティノープルにまで一気に迫る様子さえあったトルコ人勢力は完全に足止めを喰らい、戦線はアンティ=タウルス山地付近で完全なる停滞を迎えた。

それでも、逆転してトルコ人勢力をすべてアナトリア半島から駆逐するほどの状況になかったのは確かである。特に東方のオグズ人勢力の数は多く、持久戦となればどうなるかまだまだ分からなかった。

しかしここで、思わぬ情勢の変化が生まれる。

ギリシャ人とトルコ人との対立を傍目で窺っていた中東のアラビア人たちが、アルメニア地域に巣食うオグズ人たちの勢いが減じた隙を狙って侵攻。

オグズ人勢力の一角たるスクマーンを飲み込んだのである。

これを受け、オグズ人たちはビザンツ帝国との全面戦争を続けるだけの余裕を喪失。

ただちに両者の外交官同士の交渉が進み、最終的に帝国は、彼らが提示してきた「白紙和平」の提案に同意することとなったのである。

これで、ひとまず東方の脅威は去った。

あとは、梯子を外される格好となったルーム=セルジューク朝である。

四方を帝国の軍勢に囲まれる形となった彼らは一気にその領土を蹂躙されていくこととなり、首都ハルスィアノンの陥落と共に最後のスルタン「堕落せしセラプ」の身柄を確保。

これでルーム・セルジューク朝は滅亡し、帝国はその悲願となるアナトリア半島の完全回復を成し遂げたのである。

奪い取った旧ルーム・セルジューク朝領は、キリキア軍管区とオプキシオン軍管区とでほぼ分け合う形となった。

 

そしてこれは、タルカネイオテス家にとってもまさに悲願中の悲願であった。

かつてこの地をトルコ人に奪われるきっかけを作った「裏切り者の一族」はその汚名を全て返上し、その当主ヨハネス・タルカネイオテスは、この帝国の危機を救うべき東奔西走したことを認められ――そしてその莫大な財力も背景として――ついにゼノビアと並ぶ「共同皇帝バシレウス」の地位にまで上り詰めた。

もちろん、二人の間の子であるタルカネイオテス家のミカエルも、次期皇帝筆頭候補として安泰。

タルカネイオテスは、紛れもなく復権を果たした。

それは、決して崩れることのない恒久の繁栄を約束するかの如く強固さであった。

 

しかしもちろん、永遠など存在しない。

あまりにも長く生き延び過ぎているこの帝国に、今更そう易々と安定がもたらされることなどあり得ないのである。

 

 

最大の罪

1219年1月10日。

女皇ゼノビアと共同皇帝ヨハネスとの間の子である「次期皇帝」ミカエルが成人。

ヨハネスはその妃として、元皇帝アンドロニコスの長女であるコムネノス家のエライオドラを迎え入れた。

コントステファノスとコムネノス、二つの帝位の流れが一つに縒り合わされ、タルカネイオテス家の下にこの両統の流れを汲んだ未来の皇帝が生まれる道筋が作られたのである。

その他、ヨハネスはミカエルの妹のシモニスをカンタクゼノス家の次男と婚約させ、弟のキプロス軍管区長官ニフォンの妃にカミュヅェス家の娘を迎え入れる。

さらには妹のドロテアもアンゲロス家に嫁がせるなど、帝国内の有力貴族たちとの繋がりを多方面で形成していった。

すべては帝国、そしてタルカネイオテスによる統治の安定を図るため。

それはヨハネスにとっては急務であった。

何しろ、正統なる皇帝たるゼノビアが、もはや先が長くない状況となっていたのだから。

 

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「具合はどうだ」

ヨハネスが寝具に横たわる妻に寄り添い声をかけると、彼女は小さく首を振る。声を出そうと口を開くも、出てくるのは掠れた吐息だけであった。

「ーー俺は最後まで貴女を安心させ、幸せにすることができぬままであったことを、強く悔やんでいる。

 こんなことを今更言ったところで気が晴れることはないだろうが・・・我が父が貴女と貴女の一族に与えた仕打ちを心から詫びる」

ヨハネスの言葉に、ゼノビアは黙したまま応えない。頷きも、頭かぶりを振ることもせず。

ヨハネスは妻の手をそっと握る。その手は冷たく、思わずヨハネスが身震いするほどであった。

 

間も無くして、帝国の陰謀の中で生まれ、翻弄されてきたコントステファノス朝最後の皇帝、ゼノビアが崩御。

ヨハネスは直ちにその子・ミカエルをミカエル8世として即位させ、自らも引き続き共同皇帝として統治に協力する旨を宣言。史上初となるタルカネイオテス朝が開始されたのである。

 

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「ーー陛下」

コンスタンティノープルの宮廷内を歩いていたヨハネスの背後から、密偵長のフェオドシアが声をかける。

「お耳に入れたきことが、一つ。我々の調査により、まだその首謀者までは掴めてはおりませんが、陛下の御命を狙う陰謀が存在することが判明致しました」

「ーーそうか」

ヨハネスは静かに頷く。当然、そう言った動きがあることは予想の範疇であり、それが故に警戒し調査させていた。しかし、そうならないようにあらゆる勢力を懐柔し、手懐けてきたはずであった。にも関わらず・・・

「警戒体制を強め、未然に防ぐのだ。そしてその身柄を捕らえたのちは、私自ら尋問する。理由を問い、そして同じ過ちが起きぬようにした上で解放するのだ」

ヨハネスはその表情を固くしながら、殆ど独り言のようにして呟く。

「・・・この帝国に安定を取り戻さねばならぬ。そのためには決して苛烈ではなく、寛大であらねばーー」

 

ヨハネスは共同皇帝としての政務の傍ら、自らの命を狙う陰謀を暴くべく、全力の体制を構築した。しかしそれは疑心暗鬼と呼ぶに相応しいものであり、疑わしき者を片っ端から捕まえ、尋問するというやり方でもあり、このことはこれまで積み上げてきた彼の評判を貶めることにも繋がっていった。

それでも暗殺の首謀者は見つからない。刻一刻と、その可能性だけが積み上がっていく。

そして帝国内では半ば公然と彼に対する中傷が行われ、さらにはその中には、あのゼノビアの病死も、彼によって仕組まれたものなのではないかーーというようなものさえ含まれていた。

この結果、ヨハネスは身内を背後から刺し殺す、「背中刺しのヨハネス」と陰で言われるような状況に。

裏切り者の一族ーーかつて、返上したはずのその汚名が再び、彼と彼の一族に付き纏い始めることとなるのだ。

 

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「ーーゼノビア」

ヨハネスは誰一人いない部屋の中で、虚空を見つめて呟いた。

「俺は貴女と共に、父から受け継いだこの世界を少しでもマシなものにするべく、努めてきたつもりだった。

 だが、どれだけ俺が強く意志を持ったところで、世界は少しも思う通りに動いてはくれない。この、共同皇帝という、この世界における最高権力者になってさえ」

宮廷内は静まり返っており、いつもは漏れ聞こえる侍女や見張りの立ち話の声さえも、この日は深い闇の中に沈んでいるようであった。

「こんなことであれば、最初からこの責務を引き受けるべきではなかったのかもしれない。望む者にこの地位を与え、貴女と一緒に何処か遠くの、フランク人たちの土地にでも、逃げ延びて仕舞えばよかったのかも知れない。

 きっと貴女も、それを望んだことだろうに」

その沈黙の闇の中に、いつもとは違う音が忍び寄りつつあることに、ヨハネスは耳聡く気付いていた。気付いてはいたが、彼は気付かないふりをした。

「それでも結局はこの道を選んだ。もはやいない父の叱責を恐れるはずもなく、ただ言い訳もできず、この俺自らが選んだ故に違いない。それが俺の最大の罪であり、愚かさだ。その罰はきっと、すぐにでも与えられることになるのだろう」

扉が静かに開かれた。現れた暗殺者は、闇の中で眠るでも驚くでもなく静かにじっと佇む標的の姿に、思わず身構えてしまった。

「ーー間も無くそちらに行く。願わくば、天国においては正しく夫婦のように愛し合えることを」

 

ヨハネス・タルカネイオテス。

「偉大なるメガスミカエル」の後継として、彼が作り上げたタルカネイオテス家の繁栄の基盤を確かな結果として残し、その栄光の歴史の始まりを導き出した男。

その寛大さは帝国の危機を救い、屈辱を雪ぎ、栄光の時代をもたらそうとしていたが、帝国内に巣食う陰謀家たちの手によって、その道のりは唐突に絶たれることとなった。

 

タルカネイオテスの血統はその子、高貴なる緋色生まれのポルフュロゲネトス皇帝ミカエル8世へと受け継がれる。

 

その家名は再び穢されたままとなるのか。それとも、再度、栄光への道を掴み取ることができるのか。

 

最終回へ続く。

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過去のCrusader Kings Ⅲプレイレポート/AARはこちらから

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