パイオニア・カロッツェリアのスピーカーであるVシリーズ/Cシリーズが7年ぶりのモデルチェンジを果たした。大幅な変更を加えて新たなフェイズへと入ったスピーカーを取材するため設計を担当する東北パイオニアにうかがってその熱い想いを聞いてきた。
◆7年ぶりのモデルチェンジは“進化と革新”で別次元へ到達
carrozzeria TS-V174Sカロッツェリアには純正スピーカーと交換取り付けできるトレードインスピーカーのシリーズとして上級のVシリーズ、中級のCシリーズ、そしてエントリーのFシリーズと用意されている。同社においてスピーカーは1937年に初のダイナミックスピーカーを開発して以来、根幹を担う分野となっている。カーオーディオの世界でもエントリー層からハイエンドユーザーまでが信頼を置くブランドなのは多くの読者も知るところだろう。
carrozzeria Cシリーズそんなカロッツェリアのスピーカー群の中で、特に同社の技術の粋を集めたカスタムフィットフラッグシップであるVシリーズと、その技術をフィードバックしたミドルレンジのCシリーズが今回モデルチェンジを果たした。7年もの長きに渡って愛され続けたスピーカーを次世代モデルへと進化させるには多くの困難とブレイクスルーがあった。そんな話をうかがいに山形県天童市にある東北パイオニアに向かった。
同社のフラッグシップとなるVシリーズはその時代その時代に同社が持ちうる最新のスピーカー技術を注ぎ込んで作られてきたシリーズでもある。トレードインスピーカー=手軽なスピーカーと思われがちなのだが、これまでもVシリーズは別格の存在だった。いわゆる超ハイエンドの世界とトレードインの間を橋渡しする高音質スピーカーとして存在感を放ち続けてきた。そんなVシリーズが最新モデルとなったと聞けば、一刻も早く“聴きたい”そして“技術的裏付けを知りたい”となったのは言うまでもない。
東北パイオニア事業企画部 佐藤広大さん最初にVシリーズのモデルチェンジの狙い、そして背景について商品企画を担当する東北パイオニア事業企画部 佐藤広大さん、松下 寛さんに話をうかがうことにした。
「新型Vシリーズの大きなテーマは中低域の充実でした。その理由は7年の間に時代の変化がありました。7年前はハイレゾ音源の黎明期でもあり、特に高域再生の能力が求められました。しかし高音質音源にも慣れた今のリスナーは当時とは違う捉え方で音楽を聴くようになっていると感じたのです。つまり豊かさや解像度を備えたサウンドに高音質だと感じる傾向です。進化のポイントは中低域の充実に置いたのはそのためです」
東北パイオニア事業企画部 松下 寛さん従来のVシリーズ(TS-V173S)はツイーターにデュアルアークリングダイヤフラムを用いるなど、高域のずば抜けた特性の良さを誇ったモデル(聴感でも高域のヌケの良さは群を抜いていた)。これらの技術は同社のハイエンドであるRSスピーカーで培ったものだったが、そのモデルがあった上で時代のニーズに合わせて中低域の充実を施したのが新型Vシリーズ(TS-V174S)だったのだ。
「もうひとつの背景としてストリーミングなど、音楽ソースの多様性もあげられます。ストリーミングの普及で音楽の聴き方が変わってきているのも事実です、それに合わせた進化もVシリーズのテーマになりました。先代モデルが持っているスピード感やレスポンス、根幹にある原音忠実再生、そしてOpen&Smoothコンセプトはしっかりと踏襲した進化にすることを掲げたのです」
◆設計の見直しから各車への適合まで緻密に計算されたVシリーズ
スピーカー技術統括部 斎藤達郎さんここからは新型Vシリーズの開発を進めたスピーカー技術統括部 斎藤達郎さん、渡辺研也さんに具体的な進化ポイントについて聞いていくことにした。まずは注目したテーマである中低域を豊かにするためにはどんな手法を採ったのを聞いた。
「中低域にはウーファーが大きな役割を果たしています。特にバスケットを深型化した点と有効振動直径を拡大(振動板の面積の拡大)したことで豊かな中低域を表現しています」
carrozzeria TS-V174Sのウーファーには開繊カーボンを使用具体的な数値として真っ先に説明を受けたのがバスケット形状だ。スピーカーの各パーツを支えるバスケットの深さ(奥行き方向)は従来モデルの58mmから61mmへと深型化している。たった3mmと思う読者もいるかも知れないが、スピーカーにとってこの数値は非常に大きな意味がある。トレードインスピーカーでは取り付け性の制約があって浅いバスケット形状になりがち、しかしそれでは前後方向のピストンモーション、さらには振動板の角度などで制約が生まれてしまう。しかし、取り付け性を無視して性能追求の深型化を施すことはトレードインスピーカーではできない。
フレームをトラス形状として3mmの深度化を果たしているそこで取り付け性を備えつつギリギリの深型化を得るために開発陣は過去15年間の車種データに遡って、スピーカー取り付けに可能な数値を検証していった。800車種を超える検証は“気の遠くなる作業”だったという。しかしここから導き出されたのが“61mmまでなら実用に耐えうる”という結論だった。こうして深型化することで振動板が前後方向に動くピストンモーション、振動板の角度などに余裕が生まれことになる。振幅量は従来型の2.5mmから4mmへとアップした。つまりたくさん振動板が動いて多くの空気を動かすことができるスピーカーへと進化したのだ。
carrozzeria TS-V174S展開図「深型化すると振動板の角度もより急峻になります、すると空気を動かす力も大きくなるのもメリットです。深型化したことでいくつものメリットが得られるようになりました」
さらに振動板の面積も拡大した。フレーム形状の工夫によって従来モデル比で103%まで拡大、面積の広い振動板で多くの空気を動かすことができるようになり、ここでも中低域再生に豊かさを与えることになる。
端子に合わせてカーボン目が整うように組まれているまた振動板には開繊カーボンと呼ばれる新たな素材を採用する。特徴はカーボン繊維が丸く撚られたものではなく横に並んだ繊維(開繊)になっているのが特徴。その結果振動板を薄く軽く、強靱にできる。振動板の剛性を大きくアップさせることで空気を押し出す力をより強化したのも特徴となった。また振動板の裏側に抄紙を貼って音の調整を行っているのだが、その調整の自由度が広がるのもこの振動板の長所でもある。
センターキャップはコーン紙のカーボン目に合わせて貼られていたそんなウーファーのバスケットを見ると美しくシャープなデザインが施されているのがわかる。これも機能を追求したことから生まれた機能美だ。用いられたのは“陸橋”からヒントを得たトラス形状。三角形を組み合わせると強度が高められることに着目し、バスケットを三角形の集合体で構成した。強度を従来比で1.5倍にアップしたのに加え、背面の開口部も広くして背面のヌケも確保、軽量化によって共振ポイントのコントロールを施すなど隅々まで計算されたバスケット形状になっている。
端子への配線ハンダも手作業で行うサウンドチューニング的にも従来のローエンドを伸ばす方向性から80Hz~100Hzあたりを持ち上げる方向に振っているのも特徴、ダンパーの調整などで煮詰めたことでハリのある低音再生を表現しているのも同モデルのサウンド面でのひとつの特徴となっている。
ツイーターにはチタン製のバランスドドームダイヤフラムを採用さまざまな新技術が注ぎ込まれたウーファー部の進化をうかがっただけですでにVシリーズの素晴らしさは伝わってきたのだが、さらにツイーターも大きく進化している。
「ツイーターには音による“包まれ感”を表現することがテーマになりました。振動板にはチタン製のバランスドドームダイヤフラムを採用しています。重厚感や芯のある中高域再生にメリットのある振動板であり、臨場感や包まれ感を表現するにはドーム型振動板は有利に働きます。また取り付け場所や角度などにシビアな調整が求められないというドーム型ならではのメリットも兼ね備えています」
従来のリングツイーターではなくドームツイーターを初採用Vシリーズ=リングツイーター(従来モデルに採用)というイメージを持つユーザーも多いと思われるが、今回の新型Vシリーズにはドームツイーターが採用されたことに驚くユーザーも多いだろう。事実、開発陣の中でも“リングツイーターを踏襲すべき”と言う声と“ドームツイーターで新たなVシリーズを作る”という意見がせめぎ合った時期もあったという。しかしチタン製のダイヤフラムの厳選、さらに焼き入れの試行錯誤なども通じて、従来のリングツイーターが備えていた優れた高域特性に匹敵するサウンドをドームツイーターで実現したこともこのモデルの成果のひとつ。また同社のハイエンドスピーカーであるPRSシリーズなどにもドームツイーターが採用されるなど、近年の音のトレンドを感じ取ったカロッツェリアの最新の音の方向性にも合致したものだった。
ウーファー、ツイーターと各部を見れば見るほどまったくの新作と言っても良いスピーカーに仕上がった新Vシリーズ。これまでの伝統のサウンドは受け継ぎつつ、新しい時代の音楽ソースやトレンドに似つかわしい新世代のフラッグシップとなった。
Vシリーズ試聴セット東北パイオニアの試聴室で新旧Vシリーズを聴き比べた。再生にはサイバーナビを用いて内蔵アンプでドライブするシステム。フィフスエレメントの挿入歌やマイケル・ブーブレ、シャンティなどの曲を最初に従来のVシリーズ、システムを入れ替えて新Vシリーズで試聴した。
女性ボーカルのヌケの良い高域は旧モデルでも素晴らしいと感じたが、新Vシリーズでは加えて中域のふくよかさも加わり、ベースなどの楽器とのボーカルの分離感もさらに良化していて、これがリアルさや臨場感に繋がっているのは明白だ。またマイケル・ブーブレの声の厚み・艶のアップ、またシャンティのタイム・アフター・タイムで途中に出てくる男性ボーカルが厚み&実在感のあるサウンドに進化しているのが印象的だった。シャンティの煌びやかなボーカルと厚みのある中低域のバランスが非常に良い印象。いずれの曲も試聴室で聴いていると演奏しているその場に入り込んだような“没入感”さえ感じさせてくれる音で、まさに現代的な新ピーカーの登場といったイメージが強い試聴となった。
◆Vシリーズの新技術をフィードバックさせてクラスを超えた音を獲得する
スピーカー技術統括部 白幡 駿さん続いてVシリーズと同時期にモデルチェンジを果たしたCシリーズの取材に移った。ミドルクラスのスピーカーであるCシリーズは誰もが手の届く高音質スピーカーとして広く一般ユーザーから評価されてきたシリーズ。今回Vシリーズの新技術の多くをフィードバックして、華やかで臨場感あるサウンドを再現した。開発を担当したスピーカー技術統括部 白幡 駿さんに話をうかがった。
TS-C1740S「音が出た瞬間にぱっと華やかさを感じてもらえるのもこのスピーカーの特徴です。Vシリーズからの技術的な踏襲も多く、中低域の鳴りっぷりや解像度の向上は進化の中心でもあります」
中低域の高い表現力にはVシリーズに投入されたバスケットフレームの深型化(従来モデル53mmに対して新Cシリーズは57mm)、さらに有効振動板直径も127.1mmから129.7mmに拡大し従来比102%としている。強靱なトラス構造のバスケットの採用など、多くの部分でVシリーズの技術を踏襲している。加えて振動板が比較的緩い角度(Vシリーズに比べて)になるCシリーズでは、振動板の剛性を強化するためにボイスコイルとの接合部分にアルミブレースを加えて、中域がぼやけることを防ぎクリアな再生に寄与する非常に大切なパーツとなった。スピーカーを正面から見るとセンターキャップの周囲に金色のリング状のパーツが見えるが、これがアルミブレース。デザインパーツでは無くあくまでも音質を高めるための機能パーツなのも同社のスピーカーらしい作り込みだ。
振動板にはアラミドファイバーと抄紙を組み合わせている「振動板にはアラミドファイバー+抄紙を使っています。音色は振動板に大きく影響されるので、振動板素材の設計では何度も試聴を繰り返しました。特に振動板の裏に張り付ける抄紙の調整は音への影響が大きく、まさに産みの苦しみを味わった部分でもあります」
Vシリーズ同様に強靱なトラス構造のバスケットを採用マグネットも振動板も重くなった新Cシリーズ、狙ったポイントのひとつに低域特性を従来よりもローエンド側に伸ばすこともあった。ローエンドの量感を出すことで車内が音で満たされる感覚が得られるのも新Cシリーズの魅力となったのはそのため。低音のアタック感よりも“ディープな低音”が新Cシリーズの特徴のひとつだ。
クロスポイントは従来シリーズよりも低い4.7kHzツイーターにはアルミ合金製のバランスドドームダイヤフラムを採用。新Cシリーズの美点でもある華やかさ、臨場感を強く感じさせる中高域を表現するキーパーツとなった。クロスポイントも4.7kHzと従来モデルに対して低く設定している。
Cシリーズ試聴セットCシリーズの試聴はディスプレイオーディオ(DMH-SF900)をヘッドユニットに、新旧Cシリーズの比較、さらにはパワーアンプ(GM-D2400)を追加した上での試聴も実施した。ヨルシカ、マイケル・ブーブレ、平井堅、シャンティの曲を順に使った試聴が開始された。
最初に従来モデルを聴いた後に新Cシリーズの試聴を開始。音が鳴り始めた瞬間に煌びやかで華やかな音が一気に伝わって来る。その違いは非常にわかりやすく、従来モデルからの変化量も大きい。ボーカルがぱっと前に出る感覚で音像が立体的、各楽器特有の音色が的確に表現され“色彩”が感じられる。音数の多さもミドルクラス機という制約を付けなくとも非常に優秀。広い試聴室が音で満たされる感覚も強く、音場の中に包まれている感覚(臨場感や没入感と表現できるだろう)も強い。まさに音楽の中に入り込んでいる感覚になれるのだ。さらにパワーアンプを加えると楽器やホールの残響音などの余韻が非常に自然で、録音環境をそのまま試聴室で再現しているフィーリング。押し出し感や音の太さとも相まって、実在感がさらに高まっている。新Cシリーズとパワーアンプの相性も非常に良好で、できればこの状態で聞きたいと思わせるコンビネーションだった。
◆新設計のスピーカーをより良く鳴らすために特化したパワーアンプ
サウンドソリューション部 黒田敏博さん最後にVシリーズ、Cシリーズと同時に開発されたパワーアンプであるGM-D2400の紹介も受けた。今回のいずれのモデルも東北パイオニアで開発、スピーカーとの同時開発でありVシリーズ/Cシリーズに合わせた設計が施されているのも特徴のモデルとなった。開発を担当したサウンドソリューション部 黒田敏博さんに話をうかがった。
carrozzeria GM-D2400(右下の基板はパーツサンプル)「従来モデルであるGM-D1400llのコンパクトさは踏襲しつつ、新しいVシリーズ、Cシリーズに似つかわしいパワーアンプにすることが目標となりました。定格45Wでしっかりとスピーカーを駆動する、さらに今回のVシリーズ/Cシリーズの開発でもテーマになった中低域をしっかり出すことも開発時に掲げました」
高性能ClassD増幅回路の採用などもあるが、注目のポイントになったのはパワーアンプで非常に大切とされる電源部の充実だ。そのため外から見える違いは“電源ケーブル”。このクラスのパワーアンプとしてはかなり太いOFCケーブルを用いていることがわかる。これが余裕のある電源供給を可能にして中低域の厚さ豊かさに繋がっている。またパワーICの能力をきっちり引き出す工夫を施すことで大きくSN比をアップ、特にボーカル帯域の表現力を高めたのも開発者自慢のポイントだという。
Vシリーズ、Cシリーズという同社を代表するスピーカーシリーズのモデルチェンジ、さらには同時開発されたパワーアンプ(GM-D2400)の投入など、話題満載のカロッツェリアブランド。同社の根幹である音の部分に注力し、音のカロッツェリアをあらためて感じさせる新製品群となっており、中でもVシリーズは歴代最高傑作であることは試聴からも伝わってきた。カーオーディオの新たな一ページを作るカロッツェリアの新スピーカー群をぜひ体感して欲しい。
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