EVの未来の鍵「全固体電池」を福岡のデジタル企業がいち早く開発できた理由とは

TRIPLE-1の全固体電池セル。「ORIZURU」はブランド名と思われるが未発表。
  • TRIPLE-1の全固体電池セル。「ORIZURU」はブランド名と思われるが未発表。

福岡に本社を置くデジタルインフラ企業「TRIPLE-1」が、全固体電池を2025年中に量産すると発表した。

世界中の大手自動車メーカーや新興EV企業、電池企業が開発競争でしのぎを削っている中で、福岡の一般には無名の企業がいち早く実現できたのはなぜなのか? その経緯を聞いた。

◆全固体電池がEVの未来を変える

現在EVやスマホに使用されているリチウムイオン電池は、液体電解質を使用している。それ以前の電池と比べるとエネルギー密度が高く、充放電効率が良い、サイクル寿命が長いといった利点がある。しかし、発火・爆発のリスクがあり、高温度や低温度の性能劣化や充電速度に制限がある、といった問題を長く抱えてきた。

それに対して全固体電池は、その名の通り固体電解質を使用する。不燃性の固体を使うことで発火・爆発のリスクが大幅に低下し、リチウムイオン電池より高いエネルギー密度と高速な充電が可能になる。膨大な電力を使用するEVが世界的に普及するための鍵となる技術として、世界中の大手自動車メーカーや電池メーカーが開発を行ってきた。

日本では、日本ではトヨタ自動車と出光興産が共同で、2027年から2028年ごろの全固体電池量産化を発表している。日産自動車も2028年までに全固体電池を搭載したEVを量産するとしている。

それに対して、一般には名の知られていないTRIPLE-1という企業が、2025年には全固体電池の量産を行えると発表した。

TRIPLE-1は、ビットコインマイニングやAI向けの高性能ASICの設計・開発や、ローカル5G、再生エネルギーの余剰電力を使った「分散型データセンター」など、先進的なデジタル関連事業を手がけてきたユニークな企業だ。

同社によれば、一般的なリチウムイオン電池が150Wh/kg~250Wh/kgであるのに対し、今回の全固体電池は280Wh/kgという高いエネルギー密度を実現している。EVだけでなく小型化や軽量化が求められる電子機器や航空宇宙産業にも最適だという。

にわかには信じがたいが、今回の発表は信頼できる第三者機関の試験と認証を経た上で行われている。ドイツを拠点とする世界的に有名な第三者検査・認証機関TÜV Rheinland(テュフ ラインランド)による試験と認証で、その認証資料も一部報道機関に開示された。

この成果を実現した背景と、今回の全固体電池の特徴についてTRIPLE-1の大島麿礼副社長に聞いた。

◆半導体企業が全固体電池を開発した理由

---:マイニング用ASICの企業が全固体電池を世界でもいち早く開発したというのは、簡単には信じられないことです。なぜ、そんなことが可能になったのか、経緯を教えてください。

大島:海外の上場企業からメイドインジャパンでマイニングチップを作ってほしいと依頼されたことがきっかけでASIC事業を始めました。当時、16ナノメートルの線幅が主流だったのに対し、我々の開発者は「より精細な最先端のプロセスならやってもいい」と言い出したので、資金調達をして開発をスタートさせました。

---:そこからどのようにしてエネルギー問題に興味を持つようになったのでしょうか?

大島:マイニングチップの開発を通じて、エネルギー問題の重要性に気づきました。マイニングには大量の電力が必要で、日本は電気代が高いため、多くの企業が海外でマイニングファームを展開していました。そこで考えたのが、「AIの時代になったらどうするの?」ということです。日本にもデータセンターが必要になる。そのためには電力の問題を解決しなければならない。

---:そこから電池技術の開発に着手したわけですね。具体的にはいつ頃から始めたのでしょうか?

大島:TRIPLE-1としてのバッテリー戦略で最初に世に打ち出したのは、約2年前に発表した全樹脂電池です。それとは別に、全固体電池の開発を進めてきました。世の中に出すタイミングとして、客観性が得られるまで待っていました。

◆ガソリン車の給油と同じ感覚で充電できる

---:第三者機関の評価を受けたそうですね。その結果について教えてください。

大島:はい。TÜV Rheinland Japanに複数のセルを提供し、様々な性能評価を行っていただきました。特に注目すべき点は、広い動作温度範囲と安全性です。-40℃から+60℃という広い温度範囲で安定して動作することが確認されました。また、釘刺し試験でも発火しないという評価を受けています。

---:従来のリチウムイオン電池と比べて、どのような利点がありますか?

大島:大きな違いの一つは、低温での性能です。従来の液体電解質を使用したリチウムイオン電池は、零下の温度になるとパフォーマンスが著しく低下し、寒冷地では実質的に使用不可能になります。そのため、バッテリーを常に温め続ける機構が必要でした。

一方、我々の全固体電池は-40℃でも問題なく動作します。これは自動車業界にとって非常に大きなインパクトがあります。寒冷地でもバッテリーを温める必要がなくなるため、エネルギーのロスを大幅に削減できます。

---:全固体電池になると、充電速度も速くなりますか?

大島:充放電速度を表すCレートという指標があるのですが、我々の電池は19Cという非常に高い値を達成しました。これは3分間で90%以上の充電が完了することを意味します。

この充電速度は、ガソリン車の給油時間とほぼ同等です。これが実現すれば、EVの利便性が飛躍的に向上すると考えています。


《根岸智幸》

編集者、ライター、メディアコンサルタント、ソフトウェアエンジニア 根岸智幸

ITと出版とオタクの何でも屋。グルメや女性誌や芸能やBLマンガもやりました。キャンギャルやコンパニオンの写真も撮ったりします。 ・インターネットアスキー編集長(1997-1999) ・アスキーPC Explorer編集長(2002-2004) ・東京グルメ/ライブドアグルメ企画開発運営(2000-2008) ・本が好き!企画開発運営(2008-2013) ・BWインディーズ企画運営(2015-2017) ・Webメディア運営&グロース(2017-) 【著書】 ・Twitter使いこなし術(2010) ・facebook使いこなし術(2011) ・ほんの1秒もムダなく片づく情報整理術の教科書(2015) など

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