NECは漆の美しさを備えた、装飾性の高い非食用植物原料のバイオプラスチックを開発。8月17日に記者発表会を開催した。自動車のインテリアや建材、家電など耐久消費財の外装といった用途での活用を目指すとしている。
今回発表された「漆黒」の樹脂は、非食用植物を原料とする セルロース系バイオプラスチック『NeCycle』(ニューサイクル)に着色性や光の反射特性を調整する有機成分の微粒子を混合。低明度・高光沢という高級漆器特有の美しさを実現している。
鏡面加工を施した金型で射出成形した後は、塗装やコーティングといった表面処理をすることなく、漆と見まごう深みや艶やかさ、そして温かみを備えているのが特徴だ。
これはNECのIoTデバイス研究所と京都工芸繊維大学・伝統みらい教育研究センター、そして下出蒔絵司所の三代目 下出祐太郎氏の3者共同で研究・開発された。下出氏が透明樹脂に漆の塗布と研磨を繰り返し、0.1mm以下という薄さながら吸い込まれそうな黒さの漆層を製作。これを基準モデルとして伝統みらい教育研究センターが計測や解析をおこない、そのデータをもとにNECが「漆ブラック」と呼ぶ色が作り上げられている。
漆の価値は定量化できず、人の感性に頼る部分も多い。 伝統みらい教育研究センターの濱田泰以センター長は「深みや温かみといったものは、ただ見るだけでだはわからない。五感で実感するもの」と、「漆の黒の美しさ」という暗黙知を形式知化する苦労を振り返る。
ちなみに「漆ブラック」の再現度は、下出氏によれば「80点」という。「まだまだ伸びしろがあると理解してください」とのことだ。もしかすると、いずれは本物の漆では表現不可能な美が見出されることもあるかもしれない。
現在は製造コストが石油系プラスチックに比べて高く、これがバイオプラスチック自体の普及を阻む壁のひとつとなっている。しかし石油系プラスチックでは実現不可能な漆調という表現は大きな付加価値となり、バイオプラスチック市場の拡大に貢献できそうだ。
NECでは今後も強度や光学特性などの向上を目指し、また朱漆についても研究を進めてゆくとのこと。IoTデバイス研究所の位地正年 主任研究員は「バイオプラスチックも量産が進めばコストは下がる。内装材や耐久消費財に広く展開することで、生産量を増やしたい」と語っている。
なお質疑応答では、量産が進むことで日本の伝統工芸に影響が及ぶことを危惧する質問も出された。しかし「これは漆の国だから実現できた技術として、世界に発信できるもの。漆工芸の発展形と捉えることができる」と下出氏。「これで漆というものを広く知ってもらうことで、オリジナル(本物の漆器)を再認識していただくことができる」とのことだ。