SF

同名の人物で小林泰三(こばやしたいぞう)というデジタル復元師の方がいらっしゃるようだが今回取り上げるのは、小説家の小林泰三(こばやしやすみ)である。小林泰三の作品リストを眺めているとホラーが多いのだがそうではない作品もあってむしろそっちのほうが個人的にオススメだったりする。

小林泰三との出会い

小林泰三と出会ったのは図書館でのことだった。当時、私は本を読む習慣など全くなくて勉強を兼ねて区立図書館に通っていたのだが気分転換に何気なく館内の本を探していると、淡い水色のやけに綺麗な装丁に目を奪われた。
幻想的な少女と、草の上に佇む帽子を被った老人の絵。確かその時、私は学校以外の図書館で初めて本を借りた。本のタイトルは『海を見る人』それが小林泰三との出会いだった。

『海を見る人』という小説

海を見る人は
時計の中のレンズ/独裁者の掟/天獄と地国/キャッシュ/母と子と渦を旋る冒険/海を見る人/門
7つの作品からなる短篇集で、ジャンルとしてはわりとガチなハードSFに分類されるのだろうが、科学的素養のない私が虜にされるほど素晴らしい作品であった。
私のおすすめは表題作の『海を見る人』だ(『門』もおすすめできる)。
内容を簡単に要約すれば、何十年も海を見続けている老人が通りすがりの「僕」に対して、その理由を明らかにしていく話なのだが、それがなんとも切ない話なのである。詳細を語ることは皆の楽しみを奪うようなものなので避けることにするが、SFのガジェット的な部分を考証しないで軽く読み飛ばしても内容は理解できる(というか話の核はそこではない)ので切ない物語をご所望の方は是非お手にとって表題作の海を見る人だけでも読んで頂きたい。

『玩具修理者』という小説の中にある短編『酔歩する男』

『海を見る人』にすっかり魅了された私は、小林泰三の他作品に手をつけることにした。そこで目をつけたのが彼の処女作である『玩具修理者』であった。
この小説は表題作の「玩具修理者」と短編の「酔歩する男」から構成されている本なのだが、この『酔歩する男』という素晴らしい作品が私を小林泰三ファンへの道へと歩ませる決定的な一打になった。正直、表題作の玩具修理者は酔歩する男と比べてしまうと霞んでしまうのだが決して悪いわけではない。後に彼の定番となるクトゥルフネタもこの時からあったんだなあと思うと笑みすら湧いてくる。
そして『酔歩する男』だがこれもハードSFに分類される作品なので完全に理解するのは難しいのだが、それでもそういったハードルを越えて素人にその面白さが十分に伝わるほど小林泰三の表現力は卓越している。時間論を扱った話なので近年のアニメ作品に慣れ親しんでいる方々ならその面白さを理解できるはずだろう。

余談

『S-Fマガジン』2006年4月号で発表された「'06オールタイム・ベストSF」の国内短編部門で、「海を見る人」が11位に「酔歩する男」が14位に選ばれた。
出典:wikipedia

このように、この2作品の面白さは折り紙つきなので時間のある方はどうぞご覧になってください。