iTunesで買える小沢健二元ネタリスト 〜「LIFE」発売20周年〜
20年前の1994年、8月31日。
その日、あなたは何をしていただろう。
今よりも若く、今よりも一日が長く感じれていた時節だったはずだ。
20年前の8月31日は、すでに忘れてしまった一日かもしれない。取るに足らない普通の日。いつもの一日と変わらずに過ぎていった夏の一日。
だけど、僕はその日を覚えている。
そうです。
小沢健二の「LIFE」を一日中聴いていたのです。
買ったばかりのCDアルバムの封を開けて、でっかいCDラジカセで何度も繰り返して聴いていた。
帰宅部の僕にとって、時間だけはいくらでもあった。もうすぐ終わってしまう夏休み。暑過ぎた1994年の晩夏。
「LIFE」に収められた9曲の楽曲は、アーバンで明るく重厚かつ多義的で、時折、季節の変わり目の雨のように響き、枯葉に埋れた並木道のような様相を見せる。
西日のなかで僕はあのアルバムを聴いていたことをはっきりと覚えている。青い盤面のデザインや、遠く東京を映したアルバムジャケットとブックレット。未来しかなかったあの時期に、繰り広げられた幸福な音楽。
向こう数年分の豊穣さを詰め込んで、ラジカセからその音楽は聴こえてきた。とても暑い夏だった。
あれから20年が経った。
不思議なもので、10年前は、小沢健二の活動が全く見えなかったせいか、あまり記念すべき10周年という雰囲気ではなかったように思う。
2014年、小沢健二はなんと「笑っていいとも」に出演し、何より「我ら、時(通常盤)」を一般音源として8年ぶりにリリースしたのである。さらに公式サイトで時々言葉を発していたりして、10年前よりも存在を確かに感じられる。少なくとも僕は祝うべきムードを感じている。
20年後の今、改めて「LIFE」を聴いてみよう。
ついでに、せっせと買い貯めたシングルを引っ張り出して聴いてみよう。せっかくだから、PCじゃなくてオーディオで。
「十年前の僕らは胸を痛めて『いとしのエリー』なんて聴いてた」ってフレーズが、20年前より胸に響くかもしれない。少し胸が痛むかもしれない。あの暑過ぎた夏を思い出して、経ってしまった時間に胸を痛めることで。
本題に入ろう。
20年という歳月はやはり長過ぎて、音楽を取り巻くメディアやシステムは大きく変わった。のほほんとスマホで音楽を聴いて、ダウンロード購入したり、YouTubeで音楽を流したりする。DJは音楽ファイルで音楽を流している。
何もかも、あの頃とはずいぶん変わったのだ。
だが、CDは売れないと音楽業界は嘆いているけれど、人は音楽を求めてやまない。体験込みで音楽を愛する。音楽は僕らに旅を促し、僕らをどこかへ連れてゆく。真剣に音楽を聴くことは、ひとつの心の旅であり、濃密な体験になり得る。
そのことは変わらない。
「LIFE」がリリースされてからの僕の音楽への興味は、小沢健二を中心としたものに注がれるようになった。もちろん元ネタを漁る経験もした。
そのへんのあれやこれや、小沢健二についての考え方は過去エントリ(アホみたいに長文)に書き連ねたので是非読んで欲しい。
そんな土台があってか。
先日、ふと「『ある光』の元ネタ聴きたいな〜」と思って、普段はYouTubeを開くところ、気まぐれにiTunesStoreを覗いてみた。
すると……
元ネタ音源があるではないか!オイオイ、ふつーにダウンロードできるやんけ!
ならばあの曲も?えっ?あの曲も!?
マジか!
と驚いたので、その勢いに乗って、本エントリでは「LIFE」発売20周年を記念して、「iTunesStoreで変える小沢健二の元ネタ曲」をリストアップしてみようと思う。
あの時、中古レコ屋でアルバム探して収録曲をチェックして、その一曲のためにアルバムを買うかどうか悩んでいた若かりし自分に教えてあげたいリストである。
あのアナログな体験が、今やPCとネットとiTunesでデジタルに行えるという事実。同じ体験をした人ならば分かってもらえるだろう。この劇的な変化。
時代の変化を感じずにはいられないぜ。
ではいってみよう!
※できる範囲でちょっとした説明を付記しているよ。
「犬は吠えるがキャラバンは進む」
■昨日と今日
いきなり細かすぎて伝わらないかもしれないが、サビに入る前の部分。
「日ごとつぶやくまま街へ深く深く深く深く 沈み込んでゆく」のところ。
https://itunes.apple.com/jp/album/tuesday-heartbreak/id15108104?i=15108128&uo=4&at=10l8JW&ct=hatenablog
バックトラックのピアノ?など。タイトルがまんまである。
顕著なのは、最後の「HEY!HEY!HEY!」。
■地上の夜
https://itunes.apple.com/jp/album/open-our-eyes-1969-version/id108231350?i=108231260&uo=4&at=10l8JW&ct=hatenablog
小品であるこの曲にも元ネタが。冒頭部分。
「昨日と今日」と並ぶハードボイルド系のこの曲だが、元ネタはしっとり進行する。「もう、紫陽花の風景や〜」の冒頭がえらく叙情的に聴こえる。
こちらは間奏のオルガンのメロディ。
https://itunes.apple.com/jp/album/tripping-out/id337154442?i=337154525&uo=4&at=10l8JW&ct=hatenablog
説明不要。大ネタである。
リフやらホーン、リズムパターン。
バックのメロディ?最後の「Please baby don't go」のコーラス?
ちょっとわかりづらいかも。正直、決め手に欠ける。すまない。
「LIFE」
前者はサビ、後者は曲調全体のネタ。どちらも元ネタ関係なしに名曲。
ba~ra~ba~♪
「LIFE」を代表する大ネタ中の大ネタその2。
余談だが、元ネタを聴いた筆者の友人が「カラオケやんけ!」と激怒し、「LIFE」のアナログ盤を叩きつけていたのは良い思い出。もちろん喧嘩した。
大ネタ中の大ネタその3。イントロ〜全体のホーン・セクション。
間奏がそのまんま。どっちもアガる。
全体的に。こちらの原曲は「WAR」の曲だが、MFSBのほうが近い気がする。
シングル群
とにかくかっこいいファンク。間奏のベースライン。
全体の曲調や、「この戦場の街 吹いてくる風に 涙なんてすぐ乾くはずさ」あたりの部分が、ピッタリ同じというわけではないが、そこはかとなく合致する。聴いていてもどかしい。
この曲ばっかりは、リアルタイムで聴いた途端、「敗訴」という単語が脳裏に浮かんだ。
これも余談だが、タモリの特番に出演した小沢健二が、イントロクイズで流れた「さよならなんて云えないよ」に対し、ドヤ顔で「マイケル・ジャクソンの『Black&White』」と答えていた。今になって思うと、彼なりのボケだったのだろうか。
イントロと全体の曲調。いなたいです。
このへんから80’sを意識した曲をリリースするようになるが、急先鋒としての「buddy/恋しくて」だったことが思い出される。
「そんなことのすべて 僕らが見た光」の部分。最後はちょっと違うかな。
あと「baby!」の部分ですね。
前者のほうが全体的に似ているが、後者のほうがエモくて好きだ。
全体の曲調や、似ていないようで似ているメロディ。リズムパターンも意識していると思われる。
いやあ、ダサい。いい意味で。
近年、CMでも使われていた曲。イントロから全体。
「buddy」とこの曲は、小沢健二のDiscographyの中でもかなり実験的と言えよう。イケイケだったんかいな。個人的には「sarcastic期」と呼んでいる(分かる人にはわかる)。
■ある光
この曲が、冒頭で挙げた「聴きたかった曲」である。
まさかitunes storeにあるとは、と驚いた曲。
「東京の街が奏でる」で演じられた「ある光」では、ストリングスが冒頭のフレーズを美しく奏でていた。
追記
2014年8月31日、スペースシャワーで特番「超LIFE」が放映された。
ディレクターを務めたタケイグッドマンさんのブログに「編集後記」が掲載されていた。
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『LIFE』から少し経ってジャズにハマってた頃に彼が言っていた事を思い出す。要約すると、
セロニアスモンクとかジャズのミュージシャンは同じ曲を何回も録音する。同じ曲なのにその時々の魅力の味わい深さがタマらない、
(194-50年代は録音/再生機なんぞは手軽に一般の人の手に入るものじゃなかったから 演奏を聴くのはライヴ、って事も関係してるんだけど)
94年のラブリー、21世紀のラブリー、還暦を越えて唄うラブリー 笑 なんて素敵じゃない?(もちろん実際の彼のセリフはこんなじゃない)
その時の自分の歌声をその時代の耳はどう受け取るのだろうか。
そんな事を考えて永くずーっと愛される歌をつくるのってイイと思わない? ・・・と、そんな事を話していた20代のオザケン。。
当時の空気をパッケージした、当事者じゃないと書けない内容。
「永くずーっと愛される歌をつくる」。20年後、21世紀にも響く「ラブリー」がそれを証明している。
「LIFE」をマスターピースとしたのは、タケイグッドマンさんの貢献もとっても大きいと思うなあ。
「超LIFE」、とっても良かったです。