南インド料理と中国料理を独自解釈したスパイス料理店「牧谿」で味わう旅気分

市ヶ谷と九段下の間にあるスパイス料理の「牧谿」(東京都千代田区九段南3-8-2)を玉置標本さんがご紹介。看板に「咖喱 酒 香料料理」とある牧谿さんの料理は、南インドでも中国でもない、料理名からは味が想像ができないメニューが目白押し。出汁や醤油ではなくスパイシーな香りが空間を支配する、東京にしかない店舗がオープンしたのは2020年の2月。リアルな旅ができなくても、新しい味に出会うこともまた旅と言えるのです。(九段下のグルメ・アジア・エスニック料理)

南インド料理と中国料理を独自解釈したスパイス料理店「牧谿」で味わう旅気分

f:id:tamaokiyutaka:20200806154324j:plain

インド旅行に行かないかと友人Aから誘われていた。なんでも10人くらいのグループが自由行動をベースにして、各都市をフラフラと回りながら好き勝手に食べ歩く予定だとか。

インドに興味はあるけれど、昨年行った台湾旅行のようにはいかないだろう。騙されたらどうしよう、体調を崩したらどうしよう、スマホをなくしたらどうしよう。そういった不安が大きいため、自分が行くことはないと思っていた国だ。でも旅慣れた友人たちと一緒なら現地の味をじっくりと堪能できそうだ。でもインドかー。

なんて迷っていたら、コロナ騒ぎであっけなく旅行の計画は中止。しばらく観光でインドに行くのは難しい世の中になってしまった。

国内旅行ですら行きづらい状態に鬱々としていたら、気を使ってくれたのか共通の友人であるBが「インドはちょっと無理だけど、スパイスの効いた料理でも食べに行こう」と誘ってくれたので、久しぶりに3人で外食をすることにした。

 

f:id:tamaokiyutaka:20200804203610j:plain

18時の開店時間に待ち合わせたのは、九段下と市ヶ谷の間くらいにある牧谿。もっけいと読む。その言葉の意味を調べてみたら、13世紀後半を生きた僧の名前で、水墨画家として日本の水墨画に大きな影響を与えた人なのだとか。

その画家とこの店の料理、果たして関係はあるのだろうか。食べればわかる、かな。

 

f:id:tamaokiyutaka:20200804203618j:plain
店頭に出された看板には、「咖喱 酒 香料料理」と漢字が並べられていた。

 

料理名から味が想像できない店

時間通りに全員が揃ったところで入店。中央に店主が構える厨房があり、それをグルっと囲むL字型のカウンターだけという間取りの飲み屋だった。和食を出しそうな雰囲気だが、出汁や醤油ではなくスパイシーな香りが空間を支配している。こういう微妙なズレが私の気持ちを盛り上げてくる。

九段下も市ヶ谷も降りたことのある駅だが、その間にあるこのエリアは来たことがない場所。そこで食べる香料料理とは何か。私が旅行に求めるものはいくつかあるけれど、「知らない街」と「知らない食事」の2つがあれば、それは旅として成立するのかもと、底付近まで沈んでいた感情がプクプクと泡を吐きながら少し浮上してくるのを感じた。うん、やっぱり来てよかった。まだ何も食べていないけど。

 

f:id:tamaokiyutaka:20200804203627j:plain

厨房の様子が見えやすい席に座らせてもらい、とりあえずのビールをドリンクメニューから探すと、そこには私が知っている大手メーカーの商品は置いていない。そこで一番目に書かれていた平和クラフトのホワイトエールという初めて見るビールを注文した。

 

飲んでみると柑橘系の爽やかな香りが個性的で、この暑い時期にマスクをようやく外して飲む食前酒としては最高の味だった。

f:id:tamaokiyutaka:20200804203650j:plain
麦芽と麦以外に、コリアンダー、オレンジピール、柚子ピールが入っている。

 

さて料理の注文をどうしようかとメニュー表を確認。そこに書かれていたのは、料理名というよりは「素材の組み合わせ+調理法」のリストだった。普通の日本語ではあるのだが、文字がまったく頭に入ってこないので、しばらく固まってしまった。

チェーン店によくある写真付きのわかりやすいメニューに慣れ切った脳が、台湾の路地裏で読める漢字を頼りに注文したときの緊張感を思い出す。

f:id:tamaokiyutaka:20200804203722j:plain

例えば「ウーロン豚咖喱」。そのまま解釈すれば、ウーロン茶と豚のカレーということだろうか。それぞれ素材としては知っているけれど、それが組み合わされて、調理された状態の味や見た目が全く想像できないのだ。

そんな惑いを小声で口に出すと、前に食べたことがあるというBが「ウーロン豚咖喱は締めに絶対食べるから」とギリギリ聞こえる声でニヤついた。

 

突き出しから驚かされる

とりあえず前菜的な物を一品ずつ頼もうかということになり、うーんと唸っていたら突き出しがでてきた。これがまさかのスイカである。

f:id:tamaokiyutaka:20200804203659j:plain
今年初のスイカがこんな形とは。

 

デザートじゃなくて突き出しにスイカという変化球。そして何かが振りかけられている。いいから食べてみろよと訳知り顔をするB。スイカを箸で食べるという人生初の行動に出ると、口の中にまず覚えがあるスイカの甘さが広がり、一瞬遅れて刺激的な辛さがやってきて、隠れていた塩気が染み出し、覚えのある香りが鼻を抜けていった。なんだこれは。

私と同じく初めてこれを食べたAは「ウリの仲間が苦手なんだけど、これは好きだな。刺激がドンパッチみたいだ」と、不思議そうな顔をしている。たまらず店主に聞いてみると、スイカに塩とレモンと唐辛子と山椒が掛かっているそうだ。

確かにこれは突き出した。このスイカの刺激で胃袋と脳味噌が動き出し、料理メニューに込められたメッセージがちょっと読み取れてきた気がする。

 

前菜を三品選んでみる

ウリ系が苦手だというAが頼んだのは「パクチーキュウイサラダ」。野菜はシンプルにパクチーのみ。そこにすりおろしたキウイのソースと炒ったカシューナッツが乗っている。

f:id:tamaokiyutaka:20200804203750j:plain
こんなご時世なので、来た料理は誰かが手を付ける前に取り分けて食べた。

 

「よかった。キュウイって書いてあるから、もしかしたらキュウリかもと思ったけれどキウイだ。ほら、ウリが苦手だから」と、ほっとしているAをみて、なんだその無駄なギャンブルはと笑ってしまった。

スイカの次はキウイ。謎の組み立てになったなと思いつつ食べてみると、これがおいしい。なんだこれ。パクチーという強烈な個性を前に、その香りをキウイが抑えるのではなくフルーティーな酸味と甘みで一緒に騒いでいる感じがおもしろい。そこに隠れているのがステルス的な正体不明の爽やかな辛さだ。

「なんだかわからないけれどおいしい。脳が追いついてこないけど」とA。わかる、同感だ。ちなみに隠し味の正体は青唐辛子とのこと。なるほどー。

 

この店に来るのは2回目のBが注文したのは、初めて頼むという「羊ピータン発酵ニラ炒」。食材の組み合わせが未経験な上、そこに挟まる「発酵」の二文字が気になる料理だ。これもまた予想ができないし、私が想像したところで外れるのだろう。

出てきた料理は、母親が作る茄子の肉味噌炒めのような姿をしていた。

f:id:tamaokiyutaka:20200804203803j:plain
こっそりレバニラ炒め的な料理を想像していたが全然違った。

 

食べる前に漂ってくる香りの満足度がすごい。爽やかなんだけれど発酵臭がベースなのだ。なんだこれ。羊の挽肉をピータンと炒めたもののようだが、このタレがポイントなのだろう。食べてみると明らかにアジアの味なのに、舌の記憶をいくら探しても全く出てこないという不思議。

これは何が入っているんだと3人で味の解析をしていたら、店主がタッパーを見せてくれた。ニラのペーストを青唐辛子、ミント、塩などと発酵させたもので、これを「発酵ニラ」と呼んでいるそうだ。

羊、ピータン、ニラ、パクチーなど、クセのあるものしか入っていない料理なのに、まとまることで独自の価値を生んでいる。なんだかバンドっぽいなと勝手に思った。

 

f:id:tamaokiyutaka:20200804203814j:plain
自分のボキャブラリーに全くない自家製調味料、そりゃ記憶にない味の訳だ。

 

f:id:tamaokiyutaka:20200804203829j:plain

この前菜にビールだと軽すぎるかなと日本酒をいただいた。ほんのりと色がついた2017年製造の十旭日。

 

私が頼んだのは「ニラミン玉」。語感のおもしろさで頼んだが、なんの略なのかはよくわかっていない。店主は中華鍋で卵を焼いているようだ。

f:id:tamaokiyutaka:20200804203858j:plain
たっぷりの油で卵を炒める中華な匂いがしてきた。バターやオリーブオイルとは違う食文化の香りだ。

 

料理を出されてすぐ、その香りでニラミン玉の「ミン」の正体がわかった。

生のミントだ。

f:id:tamaokiyutaka:20200804203908j:plain
ニラとミントの入ったハードタイプの卵焼き、それがニラミン玉。

 

出された時点でミントの香りがしていたが、とりわけようと箸を入れると断面から一気に香りが広がり、口に運ぶとさらにはっきりとミントが主張してくる。そして味付けがちょっと甘いのがおもしろい。

ニラ玉という料理は知っているが、そこにミントを入れようと思ったことは一度もないし、それを甘く仕上げようという選択は私なら選べない。でも食べるとうまいのだ。他の料理もそうなのだが、好き嫌いがわかれる組み合わせを、余計な説明を入れずにメニューに載せているのがすごい。

 

南インド料理+中国料理+水野店主の味=牧谿

わざわざ自分からは料理に込めた主張を言葉にしないタイプと思われる店主の水野さんから、ちょっとお話を伺った。

 

店主:「何料理の店って説明しづらいですね。ここのメニューはスパイス料理がベース。純粋なインド系とはちょっと違う、東京で買えるものを使って作るスパイス料理。現地じゃないと買えない特殊な食材は使っていません。料理名が素材の組み合わせなのは、そうとしか言いようがない料理だから。元ネタの料理があったりするんですけれど、組み合わせを変えたりして、現地とはちょっと違う味にしています。

元々はカレーにすごく興味があって、南インド料理の店で6年働いて、それから中華屋さんで2年。独立して今年の2月にオープンしました。インド料理も好きだったけれど、そこだけに人生をすべて捧げるよりは、もう少し料理の幅を広げたくて。若干逆張りみたいな性格なんで。ちなみにこの店、前はおでん屋だったそうです」

 

こうして話を聞いてみると、出てくる料理がすごく納得できる。実際は国内での修行だとしても、南インドでスパイスやハーブを学んで北上して中国でさらに腕を磨き、日本の東京に帰ってきて、自分が好きな料理を出す店を構えたというストーリーあってこそのメニューなのだ。

f:id:tamaokiyutaka:20200804204013j:plain
食品棚には大量のスパイスと乾物の豆類。

 

f:id:tamaokiyutaka:20200804203942j:plain
味醂のような風味の木戸泉の古酒をブレンドした一陽来復。紹興酒が好きだけど、普通に紹興酒を出すのではつまらないからと、似た風味の日本酒を揃えている。端麗な日本酒だと、この店の料理には合わないのだろう。

 

知っている味の組み合わせなのに結果として知らない料理なのはそういうことなのか。口に入れた瞬間と、ちょっと咀嚼をしてからの味が違う、時系列による変化が隠れたセールスポイントなのだろう。なんて、こちら側が熱く語ると店主から気持ち悪がられそうだ。

 

羊の脳味噌、サトイモコロッケ、ヤングコーンを追加

まだまだ食べたりないので、また一人一品ずつセレクトする。

脳味噌が気になるとAが頼んだのは「ジャスミン茶羊脳ペーストミントチャパティ付」。ジャスミン茶を煮出して、羊の脳、タマネギ、トマトなどとペーストにしたもので、鮮やかな黄色はターメリック。

白子にも似たふくよかな柔らかい旨味のペーストが、フレッシュミントたっぷりのチャパティに合う。「すみません、チャパティおかわりできますか?」とA。私も今、それを言おうと思ったところだったよ。

 

f:id:tamaokiyutaka:20200804203933j:plain
どこの国の料理でもなく、牧谿の料理なのだろう。

 

Bが頼んだのは「サトイモマサラコロッケ」だ。「サトイモのコロッケならありそう、マサラ(カレー)コロッケもありそう、でもサトイモマサラコロッケって普通じゃないよね?」というのが選んだ理由。

 

出てきたコロッケには、ココナッツとマスタードシードなどで作った白いソースが掛かっていた。こんな見た目なのに、味はここまでで一番わかりやすくインド(=カレー)を感じる。普通のコロッケはソースの濃い味で食べるけれど、これはコロッケ自体がしっかりとマサラで味付けされていて、さっぱりとしたココナッツソースは口直し的な立場だ。意味合いとしては大根おろしが近いかも。頭は混乱するけれど味はしっかりまとまっている。

f:id:tamaokiyutaka:20200804203956j:plain
「今日の一番はこれかもしれない」とBがつぶやく。

 

私が頼んだのは「ヤングコーン雲南ミント炒」。千葉を訪れたときに食べたヤングコーンがおいしかったので、それを店主がどう仕上げるのかが気になったのだ。

自分で調理するとバターやオリーブオイルを使ってしまうところだが、ミャンマーやベトナムと国境を接する雲南省ではミントとブラックカルダモン(草果)をよく使うそうで、その風味を使って炒めたものがでてきた。ヤングコーンが持つ独特の青臭さが、ミントの爽やかさと草果のスモーキーな香りと調和している。

このように知っている食材が知らない味になって出てくるというのは、最高に贅沢な食育なのではないだろうか。

f:id:tamaokiyutaka:20200804204026j:plain
雲南に関する知識が一つもなかったが、ちょっと行ってみたくなった。

 

f:id:tamaokiyutaka:20200804205805j:plain
ブラックカルダモンのパウダー。その香りをAはおばあちゃん、Bは湿布、私は線香と表現した。

 

f:id:tamaokiyutaka:20200804204047j:plain
平和クラフトのIPA。麦芽とホップだけで作られているのにグレープフルーツの皮をかじっているみたいな、フルーティーかつ猛烈に苦い味がこの店の料理と合う。

 

食べたいものは全部頼もう

そろそろ締めの炭水化物的なものを頼もうか。インド料理と中国料理で修業してきただけあって、その幅はとても広く、一人一品では選びきれないということで、もう二品ずつ注文することにした。さすがにちょっと食べ過ぎだと思うのだが、その辺の問題は明日の自分に丸投げしよう。

 

Aは「羊ペッパークミン炒飯」と例の「ウーロン豚咖喱」。チャーハンとカレーを同時に注文するという暴挙である。インドのバスマティライスで作られたスパイス感の強いチャーハンは、パラパラっというかフワッフワ。米とは別のジャンルの食べ物で、南インドの濃縮した空気を食べているみたいだ。

f:id:tamaokiyutaka:20200804204103j:plain
米がパラパラなので高く盛れないチャーハンだ。

 

ウーロン茶で作った豚カレーは、確かにウーロン茶が使われてますよと味ではっきり主張をしてくる。ここにいるよと手を挙げるウーロン茶、ただしその苦味に嫌味はない。後味が特にウーロン茶だ。

f:id:tamaokiyutaka:20200804204119j:plain
これを参考にして家のカレーをウーロン茶で作ると失敗するんだろうな。

 

「このフワフワしたチャーハンと、ウーロン茶のカレーを合わせて食べたら罰が当たるかな」と悩む振りをするA。なにいってんだ、心は決まっているんだろう。罰が当たっても食べるべきだろと背中を押す。

もちろん私も共犯になってやる。チャーハンにカレーって合うんだね。この店だからかな。いろいろ混ぜて食べる南インドのミールスみたいだ。この組み合わせなのに食べ終わるとさっぱりしているのは、やはりウーロン茶の手柄なのだろう。

f:id:tamaokiyutaka:20200804204133j:plain
今年一番の贅沢をしているかも。

 

「うーん、ウーロン豚咖喱をAにとられたか。じゃあ俺は羊レモングラス麻婆、それにレモン炒飯のレモンセットを指名しますかね」とB。なんだかドラフト会議でもしている気分になっているようだ。

 

レモングラスやバイマックル(コブミカンの葉)が効いた羊の甘辛煮を食べた経験が店主にあり、いろんな麻婆が作りたい時期に試したオリジナル料理が「羊レモングラス麻婆」。これもまた知らない味。自分が小学生の頃に父親の忘年会についていって、大人向けのモツ煮やはじかみを食べたときのような舌への刺激だ。

パプリカっぽい風味は南米の黄色い唐辛子で、隠し味は砂糖と西京味噌。言われてみると、確かに白味噌感がある。西京味噌の主な材料は大豆。インドや中国の料理には豆を多く使うので、この店の料理には西京味噌が合うのだろうか。

f:id:tamaokiyutaka:20200804204154j:plain
この料理にもミントがたっぷり。

 

そしてターメリックで黄色く色づけされたサラサラの「レモン炒飯」は、しっかりと酸っぱい。テーブルの上が俄然黄色くなった。

私は酸味を生かした温かい料理のレパートリーがまったくないので、こういうレシピとの出会いは楽しい。

f:id:tamaokiyutaka:20200804204210j:plain
マスタードシードを噛んだ時の刺激が気持ちいいんですよ。

 

f:id:tamaokiyutaka:20200804204232j:plain
赤ワインの樽で寝かせた日本酒、木戸泉のAfruge。ブランデーや紹興酒を思わせる香りだけれど日本酒らしいフレッシュ感が残っている。

 

私はさすがに炭水化物はもういいかなと、「豆(ダル)カレー」と「鯖レモングラスバナナリーフ焼」でインド方面へ味の旅に出た。

このカレーは店主があえてメニューに残しているベーシックなインド料理で、レンズ豆、ヒヨコ豆、ムング豆を組み合わせて作っているためか、豆のコクがものすごい。なんというか栄養の味がする。素直にこれとインド米の組み合わせでもよかったか。

f:id:tamaokiyutaka:20200804204305j:plain
肉を入れなくても豆の力でこんなにコクがでるのか。

 

バナナリーフに包まれたサバは、初めてサバのぬか漬けである「へしこ」を食べたときに近いインパクトがあった。よく知っている存在のサバが、ここまで異国の味に染まるとは。

なんとなく見ていたハリウッド版の実写ポケモン映画に、渡辺謙が出てきて驚いたような感じである。伝わるのか、この表現。

f:id:tamaokiyutaka:20200804204318j:plain
これをインド米に乗っけて食べたいな。うーん、やっぱり私には炭水化物が必要だ。

 

牧谿の味、しっかり堪能させていただいた。久しぶりに出汁と醤油のまったく感じられない、そして欲しいと思わない食事をした。私はまだまだ日本に、東京に、知らない店や味が存在し、それを楽しむこともまた旅なのだと再認識させてもらった。インドや中国に行かなければ食べられない味、感じられない空気はもちろんあるが、日本にある店だからこその味が明確にあった。

店主は南米にも興味があり、実はチャパティにトウモロコシの粉をブレンドしたりもしているらしい。そういえば麻婆で使っていた黄色い唐辛子は南米産だといっていたな。次に来たらメニューがさらに幅広くなっているのかもしれない。

f:id:tamaokiyutaka:20200804204334j:plain
デザート代わりにミントとカルダモンが香る甘いジャスミンチャイ。上のパウダーは山椒だ。

 

なんだか平行世界にある別の東京に来たような気がしたけれど、それは私が東京の広さや深さを知らないだけ。これまで自分のアンテナに引っかかってこなかった、いわば圏外の味。

外食する機会が貴重なこの時期だからこそ、外で食事をする機会があればそれを大切にして、そのときは積極的に味の冒険をしていこうと思った。

 

紹介したお店

店名:牧谿
住所:東京都千代田区九段南3-8-2ライオンズマンション九段第2
TEL:090-9182-1144
営業時間:18時~22時
定休日:日・月

 

著者プロフィール 

f:id:tamaokiyutaka:20170130162001j:plain

著者 玉置標本
趣味は食材の採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は古い家庭用製麺機を使った麺作りが趣味。

ツイッター:@hyouhon
ホームページ:私的標本
製麺活動:趣味の製麺

玉置標本「みんなのごはん」過去記事一覧

 
                           
ページ上部へ戻る