黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経抄、無法者になる。他。

【産経抄】3月10日 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/366831/

 アカデミー作品賞からイルか漁問題、東京大空襲から核密約まで、あいかわらず700字のコラムとは思えない充実した内容になっています。鬼畜米国と自民党政権のヘタレを指摘する内容になっていますが、産経的にはいいんでしょうか。
 昨日のエントリでも指摘しましたが、今回の調査は密約そのものの是非ではなく、それが米側の戦略変更と文書公開によって“密”約の意味を失ってからも、日本側によってずっと隠されてきたという事実を明らかにするためのものです。密約の存在が確認されたことに、産経抄は「びっくりするような話ではない」とか開き直っていますが、従来の態度を考えると、こっちがびっくりです。しまいには、非核三原則はすでに破られていたのだから(破ったのは自民党政権です)、もう守る必要はない、とまで言い出します。こうなるともはや、無法者の言い分としか思えません。
 今回明らかになった嘘まみれの密約否定を、産経や自民党や安倍晋三氏やネトウヨは、密約の是非に話をすり替えようとしているわけです。論点をこちらに動かせば、「冷戦下の状況ではやむを得なかった」という正当化が可能で、勝ち目があるのはただこの一点のみだからでしょう。断言してもいいですが、この週末あたりからしばらく、今月いっぱいぐらいかな、は、「正論」「土・日曜日に書く」その他産経紙面のオピニオン欄では、「密約そのものの正当化」を図る論説が連日出てくるでしょう。ていうかすでに、今日の「主張」が、そうなっています。

「密約」報告書 非核三原則の見直し図れ 検証を同盟の未来に生かそう - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/366836/

 まあそんなわけで、言ってる内容はほとんど同じなのですが。
 この「主張」で、「報告書が「密約があった、なかったとレッテルをはるのではなく、当時の政治状況や国民感情を考慮して論じるべきだ」と指摘した」の部分、鍵括弧を使っているのでまるで報告書からの引用のようですが、少なくとも後掲のPDFにはそんな記述はありませんね。「レッテル」という言葉が出てくるのは、紛糾するのを避けるために最初に定義した、と述べたところだけで、「レッテル貼りをするな」という趣旨ではありません(していいわけではありませんが)。あるいは他の引用っぽいところも、引用ではないかもしれません。いったい、報告書の内容をどう都合よく解釈しているのでしょう*1。
 「過去の検証よりもずっと大切なことは鳩山由紀夫政権がこれを今後にどう生かすかにある」と言いますが、産経は何か勘違いしているようです。過去を検証してその反省を未来に生かす、具体的には、「隠す必要のなくなった情報をいつまでも隠し続けることは間違っている」という教訓を得て、きちんと保存したものを時期が来たら公開する、という原則を確立することで、行政の透明性が確保されます。これはタテマエの問題ではありません。小悪人は、どうせバレないと思って悪事をするものです。官僚にとって「今やっていることが数十年後には確実に評価の目に晒される」という意識があれば、たとえばノーパンしゃぶしゃぶ接待なんぞはとてもできなくなるでしょう。官僚制度のメリットは「個人に決断を求めない、責任を問わない」ところにあるのですが、完全にいわゆる無責任な状態でも困るわけで、数十年というタイムスパンを置く方法は、おそらく唯一の解決策ではないかと思います。民主主義国ではあたりまえの認識になっているこの制度ですが、それすらしてこなかったのが、明治以来の官僚制とそれに操られた自民党政権だったわけです。

外務省: いわゆる「密約」問題に関する調査結果
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/mitsuyaku/kekka.html
有識者委員会による報告書(PDF形式 0.80MB)PDF
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/mitsuyaku/pdfs/hokoku_yushiki.pdf

 後先になりましたが、参考文献を掲げます。この有識者委員会報告書の「補章」(p.95)では、密約関連に限らず外務省の文書保管と公開がどのようなものだったかが、簡単に調査・報告されています。制度としては一応それなりのものが存在したのに、じっさいには1961年(安保条約改定の翌年、PPC複写機登場の2年後)以後については、出鱈目と言っていい状況だったようです。PPC登場で文書の保存がしやすくなっていたはずなのですが。
 なお、報告書「おわりに」(p.105)では、密約の存在そのものはやむを得ないものであるとしながら*2、「とくに核搭載艦船の一時寄港問題について、長い年月の間、国民に対して不正直な説明が続けられ、これを修正しようとする努力がなされなかったことは問題」とはっきり述べられています。
 ここまでは当たり前のことですが、産経「主張」には驚くべきことに、こうした観点つまり事実隠蔽こそが問題なのだ、という観点がまったくありません。

*1:いちおう表明しておきますが、本ブログでは文章引用にあたり、鍵括弧で囲った上で強調(emタグによる斜体、まれにstrongタグによる太字)表記しています。見た目がくどいとは思っているのですが、通常の鍵括弧と引用の区別をつけるためには仕方ないと判断しています。

*2:さらに補足しておくとこの報告書は、米軍が日本周辺の防衛に当たり日本が基地提供で協力するという日米安保体制を、全面的に肯定しています。この考え方の是非は別として、産経ウォッチのための資料としてこの報告書を読むときに、見落としてはならない点です。