カテゴリ:読書感想
ヘミングウェイってこんな作家だったのか! 若かりしころ読んだ『武器よさらば』『日はまた昇る』『老人と海』がきっと解かりもしなかったのだろう、もう古いなんて思っていた。釣り好きの冒険家の印象しかなかった。 下記『キリマンジャロの雪』の序文を知り、深くうたれるような気持ちで手に取った。 キリマンジャロは標高6007メートル、雪に覆われた山で、アフリカの最高峰と言われている。その西の山頂は、マサイ語で、”ヌガイエ・ヌガイ”、神の家と呼ばれているが、その近くに、干からびて凍りついた、一頭の豹の屍が横たわっている。それほど高いところで、豹が何を求めていたのか、説明し得た者は一人もいない。 この一編が入っている新潮文庫『ヘミングウェイ全短編集2』はやはり手ごたえがあった。 それの『勝者に報酬は無い』という意味深長な題の短編集はみないいが、その中でも「ギャンブラーと尼僧とラジオ」が特にいい。 フレイザー氏という主人公が大怪我をして入院している病院で、出会った人々が織り成す騒ぎのうるささの中、物書きである彼が沈思黙考する内容がなんともいい。 拳銃で撃たれた瀕死のメキシコ人ギャンブラーはしぶとく生き返り、看護士の尼僧は無邪気で、革命家のメキシコ人見舞い客達は下手な楽器を演奏してうるさく、フレイザー氏と革命談義をする。 そうしてフレイザー氏は考える。 宗教は人民の阿片である。それは、その通りだと思う。...(略)...そう、そして音楽も人民の阿片だ。...(略)...そうしていまや、経済学が人民の阿片なのである。愛国心がイタリヤとドイツ国民の阿片であるのと同様に。ではセックスはどうだろう?... 続いて、酒、ラジオ、ギャンブルと人民の阿片になるものを上げ、ギャンブルは ...そういう言い方が許されれば、人民の最古の阿片だ。野望もまたそれであって、新しい政治形態への信仰と並んで、人民の阿片にほかならない。みんなが望むのは最小の政府、常に小さな政府だ。われわれのの信奉する〈自由〉は、... それも賭け値のない人民の阿片である。でも一番の人民の阿片はパンである。と結ばれていて笑ってしまった。 1930年代アメリカの大不況どこ吹く風の暮らしをフロリダでし、冒険家でもあったヘミングウェイが実は繊細、現代にも通ずる明察を短編にしていてうまいな。気にいった。 ミステリもどきの中篇「フランシス・マカンバーの短い幸福な生涯」の男女の機微もするどい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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