さて、新シリーズ、M42マニアックスである。
今回は、超マニアックな記事でかつ超長文なので、興味が無い人は読み飛ばして
いただければ良い。
まずM42とは何か?
天文学の世界ではM42は、メシェの第42番星雲、すなわちオリオン座の三ツ星の所にある
通称「オリオン大星雲」を指すのであるが、もちろんカメラの世界では星雲は関係ない。
(このレンズにハマった人を、M42沼、M42大星雲・・などと言うので少しは関係ある・笑)
M42はレンズのマウントの名称である。
ただし別名が多く、
1)ペンタックス・スクリュー
2)ペンタックス・Sマウント(PSマウント)
3)プラクティカ・スクリュー
4)プラクティカ・マウント
5)スレッド・マウント(Bessaflex TM のTM)
・・これらは、すべてM42と同じ意味である。
このマウント規格は、42mm径、ピッチ1mmということで非常にシンプルで互換性が高く、
1960年代~1970年代に多くのレンズが作られている。
日本国内では、ペンタックス、ヤシカ、フジ(フジカ)、オリンパス、トプコンなどであり、
海外製も、ロシア(旧ソ連)製や、旧東ドイツ製など多岐にわたる。
また、最近では、フォクトレンダー(コシナ)製の新品かつ高性能なレンズもM42で
発売されており、今年になってコシナからは、商標権を取得した、カール・ツアイスブランド
の高性能レンズも同じくM42マウントで出荷され始めている。
M42レンズの魅力は、国内外のバラエティに富んだ非常に多くの種類のレンズを用いる
ことが第一なのであるが、またフォクトレンダーやツアイスの新品を買わなければ、
数千円という安価な価格で中古購入できる事も大きなメリットであり、
また、さらにフォクトやツアイスの最新レンズは、現代の各社の最新レンズのどれを持って
きても太刀打ち出来ないほどの、超Aクラスのスーパーレンズである事も述べておく。
(しかも新品でも価格は、5万円前後とリーズナブル)
なお、未だに新しい高価なズームのどれが画質がいいとか悪いとか言っている話を
良く聞くが、一度この手の超Aクラススーパーレンズを使ってみれば、それらがいかに
無意味な議論をしているかが一瞬でわかるであろう、ホンモノのレンズの画質とは
こういうものなのか、と言う事をつくづく実感するに違いない・・・(おまけに価格は安いし・・)
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この新シリーズでは、国内外の新旧とりまぜたM42マウントレンズを紹介したりしていく
主旨であるのだが、実はこのレンズはただポンと買ってきて、すぐ使うわけにはいかない。
ちゃんと使うためには、非常に多くの予備知識が必要なのである。
今回の記事は予備知識の一部だけに留まると思う(汗)
まず、最初にこのレンズはどんなカメラにつけることが可能なのか?
ということを示していく。 面倒だからオススメのボディを3台づつ述べる。
A)オリジナルなM42マウント(銀塩のみ)
A-1 Bessaflex TM (現行機)
A-2 Pentax SP シリーズ
A-3 ヤシカ ELECTRO シリーズ
B)銀塩でM42アダプター利用
B-1 ミノルタ α-9000 または、CONTAX AX
B-2 PENTAX LX または任意のPENTAX銀塩カメラ
B-3 任意のCANON銀塩EOSシリーズ
C)デジタルでM42アダプター利用
C-1 PENTAX *istDs 以降のシリーズ
C-2 任意のCANON EOS Digital シリーズ
C-3 α-7D または α-Sweet Digital または新規SONY製デジタル一眼
これらのカメラを保有している場合は、M42レンズの利用を特に検討しても良いであろう。
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そして、M42レンズは、大きくわけて以下の種類(タイプ)がある。
1)オート絞りのみ (例:フォクトレンダーやコシナ製のM42レンズ、一部のロシアレンズ)
2)オート/マニュアル絞り切り替え式 (例:ペンタックスやヤシカの多くのM42レンズ)
3)プリセット式絞り(例:旧ソ連製レンズや、初期のペンタックス・タクマー)
4)絞り機構を持たず(例:ロシア製ミラーレンズ等)
ここで、2~4は、M42アダプターを使えば、現代の銀塩、デジタルどちらの一眼でも
ほぼ問題無く用いることができる。
問題は1)の、オート絞りのみのタイプ。
このレンズを用いようとすると、
☆オリジナルの銀塩M42ボディを利用する(前記A群。 例;Bessaflex TM など)
☆最新の近代インターナショナル製M42アダプターを用い、EOSまたはαのボディを用いる
の2つしか選択肢が無い、もしこれ以外の組み合わせで使うと、レンズを改造しない限り
「絞りが開放でしか」使えなくなってしまう。
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さて、次は実践編である、あまり細かい説明を書いていると、本が出来てしまうので(汗)
今回は簡単に。 より詳細は適宜シリーズの中で述べていこう。
↑M42絞り連動ピン
レンズは、PENTAX SMCT 135/2.5 である、写真中央下部の突起が絞り連動ピン。
オート絞りのモードで、このピンを押さない場合、絞りは開放となっている。
通常は、カメラがシャッターを切る直前にこのピンを押し込んで絞りを所定の
絞られた値まで(たとえばF8.0とか)に絞りこむのである。
↑M42オート絞りモード
オート絞りモードとマニュアル絞りモードは、レンズ側のスイッチで切り替える事ができる。
オートのモードは、オリジナルのM42マウントの(銀塩)カメラを使う場合のみで、
それ以外では、必ずマニュアル絞りモードに切り替えて用いる。
↑M42マニュアル絞りモード
マニュアル絞りモードでは、レンズ後部の絞り連動ピンを押し込まなくても、ユーザーが
決めた絞りの値まで絞り込まれている。(写真の中央部のレンズ奥の絞りに注目)
この状態では、たいていの(銀塩、デジタル)一眼カメラにおいて、A(またはAv)
の露出モードにおいて「実絞り優先露出モード」として使う事ができ、あるいはM露出
モードでも問題無く利用する事ができる。 ただし、写真のように絞りは絞り込まれて
しまうので、あまり小絞り(例:F11とかF16とか)に設定すると、ファインダーはとても
暗くなって見えにくいので注意する必要がある。
↑M42レンズ+α/M42マウントアダプター
通常のM42マウントアダプター(これは各社のほとんどのカメラマウント用のものが
発売されている。 安価なのはペンタックス純正で1000円以下である。 逆に高価なのは
フォーサーズ用で、2万円近くする。 写真はα用で4000円前後で購入したもの)を
装着した状態。 後で詳細を述べるが、通常のM42アダプターだと、この写真のように
レンズ後部の絞り連動ピンは押し込まれずにそのまま出っ張っている。
(だから、オート絞りモードでは絞りが開放のままになる)
↑M42レンズ+α/M42マウントアダプター+ミノルタα-9000(銀塩カメラ)
通常のM42アダプターを使った場合、この写真のように、レンズ側の切り替えを
マニュアル絞りモードとして用いる。 プリセット絞りや固定絞りでもそのまま問題無く
利用できるが、オート絞りモードのみのレンズだと、この状態だと後部絞り連動ピンが
押し込まれないので、開放絞りのみでしか使えないことになってしまう(汗)
オート絞りのみの場合でも、レンズの後部の絞り連動ピンを押し込んだままになる
ように小改造を施してしまえば良いのだが、元に戻せなくなるので、オリジナルも
M42ボディでも利用する場合は不便になる。
(必ずアダプターを使うとわりきればそれでも良いのだが・・)
なお、このボディは、銀塩非オリジナルM42ボディでは、イチオシのミノルタα-9000である。
なぜα-9000がオススメなのか・・ その理由は、
①最高シャッター速度1/4000秒、シンクロ速度1/250秒と、
M42オリジナルボディを上回るシャッター性能を持ち、高感度フィルムや大口径レンズ
を使用する際にも性能上の不安が無い。
②優れたファインダー・スクリーンを持ち、実絞り測光で絞り込んだ場合でもピント合わせが
他のカメラに比べて容易である。(これを上回るのは現行M42機、Bessaflex TMのみ)
③プラマイ4段の露出補正および、ハイライト/シャドウ方式のスポット測光モードを持ち、
露出制御に優れる(他に同じスペックのカメラは存在しない)
④唯一の手巻きAF機である。
ただ、この機種のAFは黎明期のもので非常に遅いのであるが、勿論M42レンズはすべて
MFレンズであり、AFの遅さという欠点を完全に解消することができる。
おまけにフォーカスエイド(ピントが合った事がわかる)はそのまま利用できるし、
手巻きということで、趣味性が高いM42レンズの使用に大変マッチする。
・・・ということでα-9000は、銀塩使用時の隠れM42母艦として非常に優秀な親和性を
持つカメラとなる。もともと1985年に初のAFシステムカメラのα-7000の直後に発売された
プロ機であるから、悪いカメラでは無い。 程度の良い個体は現在では少ないが2万円前後
で入手できる安価なところも魅力のボディである。
あ、もちろん現代のスーパーレンズSTF135/2.8[T4.5]であろうが、AF50/2.8マクロで
あろうが、今後発売されるSONY製αレンズも、すべてこのボディで利用することができる。
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なお、前記B群の銀塩でM42アダプター利用、での同率1位に書いてある、CONTAX AX
を利用した場合、であるが、このカメラはボディ内AF機能を持つ唯一のカメラなので、
なんとほぼ全てのM42レンズをAF(オートフォーカス)で利用できる(!)
また、フィルムベースを10mm繰り出すことができるので、ほぼ全てのM42レンズを
「マクロレンズ」として利用することが可能(!)なのも大きな特色である。
CONTAX AX は、だいぶ数は少なくなってきたが、中古で4万円~7万円くらいで
入手可能だと思う。(関連記事
悲運の名機CONTAX AX)
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↑M42オート絞りモードのみの場合。
フォクトレンダー製M42レンズなどがこれにあたる。
ちなみに、このレンズは幻の「復刻オートトプコール58/1.4」である。
以前の記事で、私の亡くなった父がトプコンでバイトをしていたことがあり、
私はこのレンズに非常に思い入れがある、という事を書いたが、
記事を書いたあと、それを読んだ同窓会シリーズでおなじみの学年No.1美女のR子から
メールをいただき、R子の父君もトプコンを使っていたらしく、R子もたまにそれを借りて
写していたことがあり、大変懐かしくも感銘を受けた・・という話を伺った。
私はこのレンズを2本所有しているがここにあげたM42マウントでないニコンマウントは
002番という特別な番号で、使えずに死蔵してあり「もったいない、いつか使う理由を
探したい」という風に思っているのだが、いまだに理由が見つかっていなかった。
でも、ここではっきりした理由ができたと思う、やはりこのレンズで、いつか(遠方に住む)
美女R子を最初に撮るべきなのであろう・・(笑)
まあ、それは余談(本音・・笑)である・・ さあ、M42の説明だ・・(汗)
オート絞りモードのみでは、通常のM42アダプターを用いて任意のマウントのボディに
装着しようとすると、後部の連動ピンが押し込めないので、絞りが常に開放のままでしか
撮れなくなってしまう。
でも、最近、「近代インターナショナル」というメーカーから、この絞り込み連動ピンを
押し込むタイプのM42マウントアダプターが発売された。
これのEOS用(価格は5000円前後)を入手したので、トプコールレンズに装着してみよう。
↑連動ピンが押し込まれ、絞りが絞り込まれた
説明写真は、絞りの方にピントを合わせてあるので、連動ピンの部分はわかりにく
なっているが、ちょっとそこは勘弁である・・
まあ、ともかく、簡単な仕組みなのだが、アダプターをつけた状態で連動ピンも押し込まれ
るようになっている。 これは現状EOS用以外には、α用(6000円前後)も発売されている。
これまでは、デジタルでM42レンズを使おうとした場合、アダプター価格が安く、仕様的にも
M42のレンズの使用に配慮した、PENTAX *istDs 以降のシリーズがベストであったのだが、
このアダプターがEOS用とα用に出たことで情勢は変わった。
特にフォクトレンダー製の新品の超高性能M42レンズを使う際、PENTAXボディよりも、
EOSおよびαボディが有利になったのである。
↑オート絞りモードのみのM42レンズを近代インターナショナル製M42アダプターを用いて
装着したEOSデジタル一眼
勿論、αでも同様に使うことができる、ただし、α用は約1000円高価なことと、
さすがのボディ内手ブレ補正を持つαデジタルでも、電器接点を持たないレンズでは
手ブレ補正が効かなくなる事は、一応注意しておくのが良いであろう。
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さて、今回M42マニアックスの第一回目では、ともかくM42レンズを使うための
最低限、最少の知識を述べた。
ここまで読んできて「ややこしくてさっぱりわからん」と言う方は、残念ながらM42レンズを
使うべきでは無いであろう。 M42はもとより上級者・玄人向けの趣向であるから、むやみに
初級者が手を出すシロモロでは無いのである。
ただし、これから、この続編では、M42レンズの、非常に魅力的な描写力やリーズナブルな
価格について、また、エキゾチックな海外製M42レンズの魅力などについても順次紹介して
いこうと思っている。
今回の、玄人専科ながらもM42の基礎編を何度も読み返し、理解していただければ、
貴方(貴女)も、M42沼(笑)の住人になることは、私としてはむしろ歓迎することである。
・・・フッフッフ・・・・(謎の笑い)