【匠のデジタル工房・玄人専科】
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ドラゴンボート・ペーロン、ライブ等イベント撮影、カメラやレンズのマニアックな話
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2022
Wed, 01 Jun 2022 11:40:45 +0900
2022-06-01T11:40:45+09:00
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【匠のデジタル工房・玄人専科】
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ドラゴンボート・ペーロン、ライブ等イベント撮影、カメラやレンズのマニアックな話
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【ブログ移転のお知らせ】
http://pchansblog.exblog.jp/32606185/
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<![CDATA[ 2005年1月より、17年以上の長きに渡って
継続してきた本ブログであるが・・
ついに、ブログで定められている画像保存容量が限界に
達した為、以降は以下の新ブログで継続をする事とした。
【匠のデジタル工房・玄人専科EX】
今後の新しい記事は、新ブログに掲載を行う。
なお、ドラゴンボート関連記事も、同様に
新ブログに移行する。
]]>
旧記事:その他
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Wed, 01 Jun 2022 11:40:04 +0900
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レンズ・マニアックス(100)最終回~お気に入りレンズ編
http://pchansblog.exblog.jp/32604433/
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<![CDATA[2018年から始まった本シリーズも第100回を迎え、
今回は補足編として個人的な「お気に入り」レンズ
(ただし2016年以降の近代に発売されたレンズに
限定する→「2016年断層」仮説に関係する)を
7本紹介しよう。
今回が、きりの良い第100回目につき、本記事を
もって、本シリーズの最終回とする。
以降の新規レンズ紹介等は、また別シリーズを新たに
企画するが、本ブログは画像保存容量が上限に達して
いる為、近日中に新ブログに移行する予定である。
----
では、最初のお気に入りレンズ
レンズは、SIGMA 135mm/f1.8 DG HSM | ART
(中古購入価格 102,000円)(以下、A135/1.8)
カメラは、CANON EOS 7D MarkⅡ(APS-C機)
2017年発売のフルサイズ対応高描写力AF大口径望遠
レンズ。
レンズ・マニアックス第6回記事、および
特殊レンズ超マニアックス第12回記事等で紹介済み。
さて、各レンズについての長所短所等の詳細な評価は、
前出の記事群で既に行っている為、重複するので割愛する。
今回は、そのレンズを必要とする理由や、当該レンズを
取り巻く状況等についての話を主体にしよう。
(ただし、相当に長い記事となる。まあ最終回につき
普段の記事よりもだいぶ長い、超長文記事という訳だ)
で、本レンズは現行のフルサイズ対応(一眼レフ用)
の開放F2未満の(AF)レンズとしては、最も望遠の
焦点距離(135mm)である。
(注:開放F1.4級の最長焦点距離は一般に105mmまで。
海外製で、MFの135mm/F1.4レンズも存在するが、
それは受注生産品であり、特殊な製品と見なしている)
開放F値の明るい望遠(系)レンズが必要な状況は、
私の場合では主に暗所でのライブ・ステージ撮影であり、
その要求仕様は・・
*できるだけ明るい大口径(F1.4~F2.8級、できれば
開放F2未満)で、
*中望遠~望遠(85~200mm程度)のAFレンズで、
*手持ち撮影が可能なもの(概ね1.5kg以下程度)
という条件である。
なお、このスペックを満たすレンズは、銀塩時代より
現代に至る迄、概ねフルサイズ対応となるであろう。
(参考:APS-C以下機専用では、OLYMPUS ED75/1.8等、
かなり限られた機種数しか無いと思われる)
で、こうしたフルサイズ対応の望遠系レンズを使う際の
母艦をフルサイズ機とするか、APS-C機やμ4/3等と
するかは、その撮影環境(ライブ会場等)次第である。
この目的には、いわゆる「大三元望遠ズーム」
(70-200mm/F2.8級)が向くとは思われるが・・
個人的に「大三元」は「三重苦」(大きく重く高価)
な故に好みでは無い。また、開放F値は、F2.8より
もう1段程度明るい方が望ましい状況だ(できれば
F2未満)この場合、「単焦点レンズ」となるだろうが、
それはそれで問題は無い(ズームでなくても良い)
(参考:SIGMA にはAPS-C機専用の50-100mm/F1.8
ズームが存在するが、やや望遠画角が足りない。
また、OLYMPUSには銀塩OM-SYSTEMで250mm/F2
レンズがあった模様だが、高価なレア品で見た事も無い。
また、OLYMPUS ZUIKO DIGITAL ED 35-100mm/F2も
存在したが、これは、終焉した4/3システム用である)
そして、CANONにはEF200mm/F1.8L USM(1988年)
という製品が、かつて存在した。
そのレンズは、知人の上級マニア氏が、銀塩時代末期の
中古ブームの頃に所有していて、ちょっと借りて持たせて
貰ったが、非常に重く(当時の資料では約3kgの重量)
かつ最短撮影距離も、焦点距離の10倍則の2mを上回る
2.5mという、あまり寄れない仕様であった為、全般的に
ハンドリング性能が悪いと見なし、興味が持てなかった。
後日、そのマニア氏が当該レンズを、私に安価な価格で
マ「買わないか?」と、話を持ちかけてきたのだが、
匠「重たくて、使いこなせそうにありません」
と、丁寧に断る事とした。
ちなみに、そのレンズは2008年に、開放F値を僅かに
下げてF2とした「CANON EF200mm/F2 L IS USM」
に、リニューアルされている。(未所有)
ただ、依然2.5kg以上と重量級であり、重すぎる。
私は「200mmで実用的なのはF2.8まで」と判断し、
もっぱらライブ撮影では200mm/F2.8級レンズ
(例:MINOLTA HI-SPEED AF APO 200mm/F2.8
「最強200mm選手権:決勝第2位の名レンズ)を
2000年代では持ち出す事が多かったが、2010年代
に入ると、カメラ側に「デジタルテレコン」、または
「クロップ機能」が搭載された機種が増えてきていて、
200mm単焦点レンズではなくても、135mmレンズで
デジタル拡大機能を併用すれば、多くの(ライブ等)
撮影条件においてもカバー可能な事がわかって来た。
そこで、「SONY Sonnar T* 135mm/F1.8 ZA」
(SAL135F18Z)を、2010年代中頃に中古で入手し、
その目的に充てようとしていた。
要求仕様(目的)にぴったりのレンズが入手できた
ので、数年間は機嫌よく使っていたのだが、この
レンズはツァイス銘というものの、発売が2006年
と、やや古く、2010年代後半においては、少々性能
(AFの速度や精度、解像感等)に不満も出てきた。
なので、2017年に新発売された本A135/1.8が
次なる、目的(要求仕様)にマッチするレンズとなり
これを購入した次第である。
ただ、本A135/1.8は、重量が約1.1kgもあり、
重いと思ったSONY ZA135/1.8の約1kgよりも、
さらに重くなっている。
しかし、丸一日の(手持ち)撮影等ではなく、数時間
程度のライブ撮影では、ハンドリング性は課題には
ならない。現在、本A135/1.8は、200mm画角を得る
場合には、CANON EOS 7D MarkⅡを母艦とする場合が
多いのだが、将来的には、より軽量の中級機における
AFやドライブ性能が向上された場合(例:EOS 90D等)
その手の機体を母艦とすれば、システム(カメラ+
レンズ)のトータル重量は軽減できる、と見ている。
(または、SIGMA MC-11やCANON EF-EOS M、「電子
アダプター」を用いて、適切なミラーレス機で用いる)
なお、近代の135mm単焦点は寄れる性能である場合
が多く(例:ZA135/1.8の最短撮影距離は72cm、
本A135/1.8の最短が87.5cm)
この特徴をAPS-C機+クロップまたはデジタルテレコン
で使用すると、ほぼ望遠マクロ的な用途として活用
する事ができる。
(レンズ・マニアックス第66回「望遠マクロvs近接
135mm編」記事参照。
まあつまり、大口径135mm(単焦点)は、ライブ撮影
のみならず、様々な用途にも使えると言う事なのだが、
それでも、あまり、初級中級層が指向する被写体等
(例:風景や人物等)には、向かない仕様であり、
使いこなしもやや難しい為、基本的に本A135/1.8は、
上級層以上における実用(依頼/業務)撮影向けレンズ
である。
----
では、2本目のレンズ
レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 110mm/f2.5
(新品購入価格 138,000円)(以下、MAP110/2.5)
カメラは、SONY α6000(APS-C機)
2018年末に発売された、フルサイズ対応MF中望遠
等倍マクロレンズ。
レンズ・マニアックス第25回、第32回記事および
特殊レンズ超マニアックス第11回記事等で紹介済み。
現在では残念ながら投機対象となってしまった(つまり、
希少価値から不条理なまでの高額相場となってしまった)
旧機種MAP125/2.5を、17年ぶりにリニューアルした
新型レンズだ。
両者の出自や、その違いは、レンズマニアックス第32回
記事「新旧マクロアポランター対決」編に詳しいので、
本記事では、そのあたりの比較は大幅に割愛する。
シンプルに、本MAP110/2.5だけの話をするならば、
近代的な設計であり「極めて高い描写力を持つ高性能
なマクロレンズ」という点が最大の特徴であろう。
しかしながら、近代のマクロレンズは、たいてい
どれも非常に良く写る。それでいて本レンズの定価
あるいは中古品相場は、10万円越えと高価であり、
例えば定番のTAMRON SP90mm/F2.8系のマクロで
あれば、古い世代のものは1万円台で中古購入する
事も可能であるから、数倍の入手価格となるだろう
本MAP110/2.5が、その価格差に見合う「数倍も優れた
描写力を持つ」・・・という訳では勿論ないし、
その描写性能の差異は微々たるものである。
まあつまり本MAP110/2.5は「コスパが悪いレンズ」
という事が、最も大きな課題となる訳だ。
高価な理由は、2010年代よりカメラ市場(交換
レンズを含む)が大きく縮退しているからであり、
つまり、あまりカメラやレンズの数が売れないから、
1台(本)売れば利益の出る「高付加価値型商品」に
各カメラ(レンズ)メーカーの商品戦略がシフトして
しまっているからである。(=値上げされている)
「高価すぎる」と思えば「買わない」という選択肢も
勿論、消費者側にはある。
誰も新製品を買わなければ「市場の状況に対して
製品価格が高すぎる」という市場分析になろうから、
メーカー側が低価格帯商品を出してくる可能性はある。
かつて1970年代末頃では物価上昇が激しく、それに
連動して、銀塩MF一眼レフやMF交換レンズの値上げが
酷く、当時の消費者層はそれを買わなくなったのだが、
1980年頃に、各社からコストダウン型のMF一眼レフ
(例:RICOH XR500やMINOLTA X-7等)が発売
されると、消費者層は飛びつくように、安価なそれら
を買い、大ヒット商品となったという歴史がある。
(参考:その当時は「物品税」という税制があった為
ヒットカメラ群は、それに掛からない、定価4万円
という価格帯に設定されていた。上記機種群に限らず
NIKON EMもOLYMPUS OM10も同様の4万円カメラだ)
また、近年2010年代末頃では、極めて多数の中国の
メーカーより、安価な交換レンズ群が国内市場に参入
してきている。これらも「日本製レンズは高価すぎる」
という弱点を突いた市場戦略であろう。
CANONも2020年には、開放F11固定の超望遠レンズ
を比較的安価に(ミラーレス機用として)発売し、
TAMRONも2019年頃から比較的安価な、ミラーレス機
専用・広角単焦点準マクロレンズを数機種発売している。
(注:「比較的安価」と言っても、CANONのこの望遠は
10万円前後もする。仮に、メーカー側等の関係者等が、
この値段で、コストダウン的商品を買うのだろうか??
なんだか「市場の金銭感覚がおかしい」としか思えない。
消費者が負担なく買える相場は、近代の中国製レンズと
同様の1万円台迄だろう、10万円は相当な覚悟がいる。
又、CANONでは、APS-Cミラーレス機(EOS R7/R10)
を低価格で発売する模様だが、低価格とは言っても
近年の他機・他社機と比べて若干安価に思うだけであり
APS-C機で約20万円(EOS R7)は、やはり高価すぎる)
・・で、これらは「製品群が高価になりすぎた市場」に
対して、消費者層でのターゲットとなる価格帯を調整
する意味もあると思われる。すなわち「市場」は自ら、
都合が良いバランス点を求めて推移していく訳だ。
でも、コシナ(フォクトレンダー)のアポランター(系)
レンズは、ちょっと、新しい市場戦略には乗り切れて
いない。 むしろ「アポランター」(APO-LANTHAR)を
「ブランド」とし、「高級品」として売りたい様相が
見受けられる。(2017年、2018年、2019年に発売
された、新規アポランター系レンズ3機種の定価は、
いずれも10万円を軽く超え、高価すぎる印象が強い)
余談が長くなったが、本MAP110/2.5や、関連する
アポランター系商品の課題は、その価格の高さであり、
これを「高価すぎるから買わない」と見なすか、又は
「高価でも、パフォーマンス(描写力)が高いから、
コスパ(価格性能比)の低下は最小限だと思う」
と判断するのか?は、消費者(ユーザー)個々の価値
感覚に依存するであろう。
なんとも難しい判断だが、とりあえず私は購入した。
ただ、中古品も流通数が少ない訳では無いので、あえて
急いで新品を買う必要もなく、「数年待って中古品を
購入した方が正解だったかも知れない」とも思っている。
(しかし、中古相場はあまり下がらず、比較的高価な
ままで推移しているので、やはり早めに買って正解
だっただろうか? 結局、ここも微妙な判断である)
総括だが、「現代における最高性能のマクロ」という
ものを体感したいのであれば、本MAP110/2.5の
購入の選択は悪くない。しかしながら、最高性能とは
言え、TAMRONやSIGMA製の安価で優秀なマクロレンズ
との性能差は大きなものでは無い。その僅かな差異を
求める為に、10万円オーバーの出資を容認できるか
否か? そこが最大の選択肢となるだろう。
まあ、基本的に上級マニア層向けとしておく。
ただし、本レンズが後年に相場高騰するとは思えない
状態であるから(理由:2000年代のフォクトレンダー
製レンズは、少数生産で希少品になりやすかったが
2010年代のフォクトレンダーは、長期に渡り継続生産
されているものが多く、希少化する事は考え難い為)
・・(という状況)だから、本レンズはコレクター向け
や投機層向けではなく、あくまで実践用(実用)レンズ
である。
旧機種MAP125/2.5は、私が「修行レンズ」と称して
いるくらいに実用性が低いレンズであったが、新型の
本MAP110/2.5では実用性は雲泥の差で向上している。
本レンズを使わずに死蔵しておくのは、極めて勿体無い
為、是非、実用に供して、その高い描写力を体感し、
レンズの価値を見極める感覚を養う為のリファレンス
(=「最高のレベルというのは、このあたりにある」
という感覚値を得る為の、「参照」するべき機材)と
してマニア層等に使ってもらいたいと思っている。
----
では、3本目のレンズ
レンズは、7artisans(七工匠) 55mm/f1.4
(中古購入価格 11,000円)(以下、七工匠55/1.4)
カメラは、FUJIFILM X-T10(APS-C機)
2018年頃発売の中国製のミラーレス機(APS-C機以下)
専用、MF大口径標準(中望遠画角)レンズ。
レンズ・マニアックス第36回、第51回記事、および
特殊レンズ超マニアックス第54回記事等で紹介済み。
本レンズは、異マウントで2本所有している。
さて、今から50年/半世紀も前の1970年代前半の
話だが、日本製カメラの世界的な台頭により、西独
の老舗有名ブランド(カメラ)メーカー群は苦戦を
強いられていた。
CONTAXを擁する、かのカール・ツァイス社も同様で
1970年代前半にはCONTAXのカメラ(レンズ)事業
から撤退をしてしまう。
宙に浮いた「CONTAX」のブランドだが、これには高い
商業価値がある。ツァイスは、これを日本のメーカー
に移譲(商標の使用権を売却する)する事を考えた。
当初、旭光学(PENTAX)に打診があった模様だが、
これは成立せず。まあ、当時のPENTAXは独自性が
強い社風が見られ、どちらかと言えばブランド嫌い
の様相も垣間見られたので、そうなるだろう。
結局、「YASHICA」が「CONTAX」を引き継ぐ事となり、
1975年に、まさしく”鳴り物入り”で国産CONTAXの
初号機「CONTAX RTS」が発売された。
(銀塩一眼レフ第5回「CONTAX RTS」編記事参照)
しかし、なんとYASHICAは、その年に倒産してしまう。
すぐさま「京セラ」等が資本投下をして、CONTAXの
ブランドは存続する事ができたのだが、それもまた
30年後の2005年には「京セラCONTAX」は、カメラ
事業から撤退してしまう。
・・で、その1975年、ビッグブランドであるCONTAX
の国内外の市場への浸透を磐石にする為に、交換
レンズも又、それなりに高性能なものが発売された。
まずは、標準レンズPlanar T* 50mm/F1.4だが、
わざわざ国産の部品を、西独で最終組み立てを行い
「Made In West Germany」と銘打った。
まあ、こうしておけば、高価なCONTAXを欲しがる
金満家層等においても「これは西独製なんだぜ!」と
自他共に所有満足度やステータス、ブランド価値を
高める事が出来るだろうし、また、休業の危機にある
西独のツァイス系工場の操業の確保にも役立つだろう。
で、もう1本が「Planar T* 85mm/F1.4」である。
当時あまり類を見ないスペックであるが、その後の
時代において「人物撮影ならばパーゴイチヨン」
(注:85mm F1.4の事を称した俗語である)という
常識を作り出した歴史的価値のあるレンズであり、
かつ、これはCONTAX(と言ってもYASHICA/富岡光学
であるが)の用意した「秘密兵器」でもあっただろう。
Planar T* 85mm/F1.4は、その価格の高さから、
おいそれとは買えないものであったが、消費者層の
憧れは、ブランドや当該レンズへの神格化に繋がって
行く。また、このレンズは、複雑な撮影条件が上手く
決まる(ハマる)と爆発的な高描写力を発揮する。
ただし、その撮影条件を整える事は非常に難しく、
私の経験上では、その成功確率は3%以下でしか無い。
つまり、銀塩時代に、36枚撮りフィルムを用い、
その中に1枚でも気に入った写真があれば良い、という
感じ(成功率/歩留まり)であった。
でも、条件が決まれば無類の高い描写力を発揮する為、
雑誌、カタログ、他者の撮った写真等で、そうした
高描写力を見せ付けられた消費者層は、その成功例の
裏に、とてつもない数の失敗(ボツ)写真があったの
かは知らずに(汗) 高価なPlanar 85mm/F1.4を
無理をして購入した。
しかし、ビギナーの金満家層では、この難しいレンズを
上手く使いこなせる筈も無く、同時代にマニア層を中心
に「このレンズは難しい」という噂も流れ、後年の
1980年代~1990年代位には、中古市場に、この
Planar 85mm/F1.4が溢れかえった。
(参考:もっと酷い事に、前述のPlanar 50mm/F1.4
の時と同様に、国産部品を西独で最終組み立てし、
「Made In West Germany」を謳ったバージョンも
逆輸入されていた。このPlanar 85mm/F1.4が、
「難しい/成功率が低いレンズだ」と誰かが言うと、
「それは性能の低い日本製だからだ。オレの持って
いる西独版は、とても良く写るぞ」と、同じ中身
なのに、高価に買ったモノを自慢する人まで現れた。
哀れ、その話を信じて、日本製から西独製に買い換えた
人も多数現れ、中古市場にはさらにPlanar 85/1.4が
多く流通するようになった・・・)
私も1900年代末には、このPlanar 85mm/F1.4を
手放し、Planar 100mm/F2に買い換えていた。
まあ、さすがに、”フィルム1本あたりで1枚位しか
成功しない確率”では、「歩留まりが悪すぎて、やって
いられない」と思ったからである。
ちなみに、Planar 85mm/F1.4は唯一無二の存在では
無く、同様の設計は、その後の時代に定番となり
1980年代位には各カメラメーカーからも類似構成
のMF85mm/F1.4級レンズが発売されるようになる。
(これらを総称し「プラナータイプ」と呼ぼう)
さて、本レンズ「七工匠55/1.4」の出自としては、
1970年代~1980年代頃の、そのプラナータイプの
85mm/F1.4レンズを、2/3程度にスケールダウンして
設計された「ジェネリック・レンズ」である。
「七工匠」は、こうした設計手法を得意とする
中国のメーカーであり、他にも、過去の名レンズの
「ジェネリック」(縮小設計)を何本も発売している。
(ただし、Web等には、その情報は書いていないので、
消費者/ユーザー側で調査検証しないと、わからない)
銀塩時代のプラナー系設計に対し、ミラーレス機用と
する為に、フランジバック長の調整等の理由からか、
後群のレンズ構成が少し変化している状況ではあるが
基本的に、この手の(ジェネリック)設計手法では
設計の元となったレンズの長所も短所も、ある程度
引き継いでしまう模様だ。
この件は、私が七工匠製をはじめ、多数の近代の
中国製等の海外製レンズを入手していて、それらの
一部は明らかに、オールドレンズの設計を元本とした
「ジェネリック・レンズ」である事が見てとれ、
かつ、そのオールドレンズそのものを保有している
場合には、徹底的に両者を比較し、検証した次第だ。
その検証結果として「ジェネリック・レンズは設計元
のオールドレンズの特性を引き継いだ姉妹レンズだ」
という結論を得た訳である。
なお、こうした、元のレンズ設計を拡大または縮小して
別のレンズとして設計しなおした例は、海外(中国製)
レンズのみならず、国内においても多数の実例がある。
国内での実例を2つほど挙げておけば、
PENTAX-FA★85mm/F1.4→PENTAX-DA★55mm/F1.4
NIKON MICRO AiAF60mm/F2.8→DX Micro 40mm/F2.8
がある。(レンズ構成等を見ていると、他にも各時代で
沢山実例がある模様だが、コピー元とコピー先の両レンズ
を同時に所有していないと、実施検証が出来ない。
推測のみでは物事を書きたく無いので、他の例は割愛する)
さて、という訳で、本レンズ七工匠55/1.4は、
「ミニ・プラナー85mm/F1.4」という風に解釈でき、
APS-C(以下)機専用レンズであるから、APS-C機で
使用すると銀塩時代のブラナー系85mm/F1.4と、
ほぼ似た感覚で撮影が可能だ。
しかしながら、銀塩時代のMF85mm/F1.4級レンズは
概ね、定価が10万円前後、中古でも銀塩時代では
5万円を下る事は、まず無かった訳だから。
現代において、七工匠55/1.4が中古で1万円強で
入手できる事は、コスパ面での多大なメリットがある。
また、銀塩CONTAX Planar 85mm/F1.4は、
1)開放近くでのピント歩留まりの悪さ
2)ボケ質破綻の頻繁な発生
3)焦点移動の発生
4)最短撮影距離の長さ
5)価格の高さ
・・という課題があったのが、本レンズ七工匠55/1.4
は、ミラーレス機で使える事、および仕様そのもので
上記の課題を全てクリアしている(または、クリア
する事が可能である)ので、まあつまり「本レンズの方
が、銀塩用プラナー系85/1.4より、遥かに使い易い」
という事になる。
初級マニア層以上には、文句無く推奨できるレンズだ。
(注:上記に挙げた課題の意味がわからない、という
ビギナー層には推奨しずらいレンズであるので念の為)
----
さて、4本目のレンズ
レンズは、NIKON AF-S NIKKOR 105mm/f1.4E ED
(中古購入価格 148,000円) (以下、AF-S105/1.4)
カメラは、NIKON D5300(APS-C機)
2016年に発売された、フルサイズ対応高付加価値仕様
大口径AF単焦点中望遠レンズ。
レンズ・マニアックス第63回、第74回、第94回
記事等で紹介済み。
ニコンで言う「三次元的ハイファイ」を具現化した
レンズとしては2本目の発売である。
(レンズ・マニアックス第63回「三次元的ハイファイ」
編を参照)
「三次元的ハイファイ」とは、そういう名称の部品や
技術が使われている、という訳ではなく、一種の
「設計コンセプト」(設計思想)である。
一般ユーザー層では、「撮影機材に、それが作られた
理由や目的がある」という、そうした「概念」は、あまり
持たないであろうし(まず、設計という業務が、どんな事
をするのか、ほとんど理解していない)
また、その設計コンセプト自体の内容も難解であり
(・・というか、ニコンがあまりノウハウ開示をしない
ので、「企業秘密」に近い状態になってしまっている)
・・(難解であるし)その効能も微々たる物であるから、
よほどの「研究派の上級マニア層」でもないと、これの
良さや特徴・差異もわかりにくい、という状況である。
多分だが、「三次元的ハイファイ」は市場から理解
されないので、もう新製品は出せないのではなかろうか?
すると、「AF-S58/1.4G」と、本「AF-S105/1.4E」の
2本で打ち止め、という感じであろうか?
理解されにくい1つの理由は、2010年代でのカメラ
(レンズ)市場の大幅な縮退により、製品価格もまた
高価になりすぎ、高価すぎるそれらを買う主力の
購買層は、商品における適切な相場感覚(価値感覚)
を持っていない、ビギナー層ばかりになってしまって
いる状況がある。特にNIKON製品ではそれが顕著であり
主力ユーザー層の大多数が、まったくのビギナー層で
ある事が2010年代での特徴だ。
よって、あまり難しい事を言っても、そうした
ビギナー層では、さっぱり理解不能な訳だ。
いや、わからない事をいい事に「三次元ハイファイ
という、凄い機能が入っているから、このレンズは
凄いのだ」などという、それこそ意味不明な論議や
解釈となってしまっている。
「三次元ハイファイ」について説明をすると、際限なく
記事文字数を消費してしまう。前述の本シリーズ第63
回記事で詳しく書いてあるので、本記事では割愛しよう。
総括的に言えば、「三次元ハイファイ」については理解
しようとする必要はない。何故ならば、それはコンセプト
であるからで、原理とか技術の内容では無いからだ・・
例えば、下世話な例をあげれば、巷のカレー屋さんに
おいての味付けで、激辛で特定の顧客にウケを狙うか?
または万人に親しまれる味付けのカレーとするか?等と
いった、「商品コンセプト」と類似の話である。
その際、消費者において「このカレー屋さんの辛さは
5段階で4点だなあ・・」等と分析する事は、あまり
意味が無いだろう、そこまでの絶対的評価基準を持つ
事は難しいし、それよりも、単純に、そのカレーの味が
気に入るか、そうでないか?そこだけしか、顧客側の
関心は無い筈だ。
本AF-S105/1.4も同様、この描写傾向の「味付」けが
気に入るか気に入らないか?だ。あるいは一歩進めて
考えるならば、この特性を、どんな被写体状況で、
どのような表現を狙う為に用いるのが効果的なのか?
そこを考える(=用途開発を行う)事が重要だ。
初級中級層はもとより、マニア層にもあまり推奨できない
レンズであるが、決して悪い描写力のレンズでは無いので、
価格の高さが容認できるのであれば、購入の選択も悪くは
ない。ただし「とても難解な/用途開発が難しいレンズ」
である事は、何度でも注意点として繰り返し述べておく。
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さて、5本目のお気に入りレンズ。
レンズは、Lomography New Petzval 55mm/f1.7 MKⅡ
(新品購入価格 41,000円)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)
2019年に発売された、フルサイズ対応MF単焦点標準
「ぐるぐるボケ」レンズ。
レンズ・マニアックス第71回、第82回記事等で紹介済み。
特に第82回記事は「ぐるぐるボケ・グランドスラム」編
として、4機種(+α)の「ぐるぐるボケ」レンズを
比較しているので、興味があれば参照されたし。
さて、その「興味があるか否か?」が、こうした特殊な
仕様のレンズを必要とするかどうか?という話に直結する。
「ぐるぐるボケ」は確かに面白い効果ではあるが、それが
映像(写真)表現に直結する訳では無いと思うし、仮に
そう(表現)であったとしても、「ぐるぐるボケ」の出る
レンズを買ってくれば、まあ、高い確率で、それを発生
させる事は誰にでも出来る為、「他者と差別化した表現」
を得るという訳にはいかない。まあつまり、その効果の
大半はレンズの手柄であり、撮影者の手柄ではない訳だ。
ただまあ、「テクニカル的」に言えば、「ぐるぐるボケ」
レンズを買ってくれば、いつでも、どんな場合でも、その
効果を出せる訳では無い。複雑な撮影条件(絞り値、撮影
距離、背景距離、背景の図柄等)を、上手く整えないと、
「ぐるぐるボケ」は発生しない場合すらもある。
よって、テクニカル的に、それを上手く出せるようにする
事が、まず「エンジョイ度」を高めるポイントとなる。
また、「表現的」に言っても、「ぐるぐるボケ」を作画上
のポイント(特徴、効果、言いたい事)とする事は、そう
簡単な話では無い。
だからまあ、例え同じ「ぐるぐるボケ」(レンズ)で
あっても、テクニカル面や表現面で他者と差別化が出来ない
訳では無い。
だけど、いずれも、とても難しい話だ。
被写体に対峙し、それを肉眼で見ている状態において、
「ここに、ぐるぐるボケが出たら、どんな感じだろうか?」
と、想像する事は困難な話だ。そして例えそれが想像できた
としても、自分が思うように「ぐるぐるボケ」を発生させる
事も大変難しい。
このままでは結論が出ないので、ここで2つのポイントに
ついて説明しておこう。
まず、特殊効果レンズ(ぐるぐるボケを始め、軟焦点、
ティルト、シフト、魚眼、トイレンズ、収差レンズ等)
や、特殊レンズ(超望遠、超広角、(超)マクロ等)は、
肉眼で被写体を見ている時とは、全く別の映像が写真に
写る。「だから面白い!」とも言えるかも知れないが、
そう思えるのも、恐らく初級中級層のうちだけであろう。
その効果が「自分の思うようにコントロールできない」
と、いずれ思うようになってくるだろうし、そうした場合
での特殊効果系レンズのコントローラビリティはとても低く、
かつ高度だ。つまり、使いこなす事が出来ない場合では、
いすれ、そうした特殊効果レンズは「飽きてしまう」
(より正確に言えば、「使いこなせないので、諦めて
死蔵させてしまう」)という状態となる。
もう1つのポイントは、そうした特殊系レンズの効能に
強い興味を持ち、それを極めようとするくらいに、その
撮影技法に特化して修練を積む方法論がある。
特殊効果レンズを多く発売する、米国のLENSBABY社では、
彼らの製品(ティルト、ソフトマクロ、ぐるぐるボケ等)
にハマり、それでばかり撮影するユーザー層の事を
「フリーク」(=熱中する人)と呼んでいる模様だ。
まあ、わからない話でも無い、1つの特殊レンズの効果
で数万枚レベルでの大量の撮影をすれば、その特化した
分野を、ある程度、極められるかも知れない。
この方法論は、時間も手間もかかるので大変ではあるが、
私としては興味はある。
何も撮影しないで「こんな特殊なレンズ、何に使うのだ?」
と考えているだけでは始まらない。あれこれ頭の中で考える
だけではなく徹底的に試してみるのも良いのではなかろうか?
そうしたプロセスの中で、また、何か新しい発見があるかも
知れない訳だ。それもまた「マニア道」の一環であろう。
ちなみに本「Petzval55/1.7Ⅱ」は、ペッツヴァール型
2群4枚構成の後群の2枚を分離させ、3群4枚構成と
する事で非点収差や像面湾曲を発生させるのだが、その際
に、後群の分離度を「BC環」(「ボケ・コントロール」の
意味であろうか?)で制御できる。
つまり、「ぐるぐるボケ」の発生度合い(量)や、ボケ質
を撮影者が制御する事が出来る、という面白い仕様だ。
(参考:一部のマニア層では、「ぐるぐるボケ」の発生量
を「回転数」と呼ぶ事がある。勿論、原理上でも効能上
でも正しい表現とは言えないが、言いえて妙で悪く無い)
これに加え、画角(母艦となるカメラのセンサーサイズや、
それをクロップ/デジタル拡大/トリミングした状態)や
絞り値(=絞り込むと像面湾曲や非点収差は減少する)に
より、さらに「ぐるぐるボケ」の発生状況をコントロール
する事が出来る。すなわち、「難しいが、テクニカル的に
とても面白いレンズ」となっている。
私のレンズ個人評価DB(データベース)においても、
本レンズの「エンジョイ度」評価は、5点満点である。
「フリーク」に成りたいと思うマニア層には推奨できる。
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では、6本目のレンズ。
レンズは、TAMRON SP 85mm/f1.8 Di VC USD(Model F016)
(中古購入価格 70,000円)(以下、SP85/1.8)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)
2016年発売の、フルサイズ対応高描写力単焦点AF中望遠
レンズ。
レンズ・マニアックス第4回、第85回記事、および
特殊レンズ超マニアックス第8回記事等で紹介済み。
近代的な設計、かつ、大柄なレンズの割りに開放F値を
欲張らない(=一般に人気があるのは85mm/F1.4級だ)
コンセプトであり、その効能で、描写力が極めて高い。
特に(被写界深度が浅すぎ、かつ開放近くで諸収差が
出易い)85mm/F1.4級よりも写真の歩留まり(成功率)
が高い長所がある事から、業務/依頼撮影等の「失敗が
出来ない撮影シーン」において、非常に役に立つ中望遠
レンズとなるであろう。
具体的な用途としては、2000年代の超名玉である
smc PENTAX-FA 77mm/F1.8 Limitedの代替レンズと
して、室内や弱暗所における人物の近・中距離撮影だ。
(ステージ、冠婚葬祭、イベント等)
当該「ナナナナ」も高描写力だが、設計がやや古い為、
現代の感覚では、解像感やAF性能に不満を持ち始める
状況になりつつある。それが本SP85/1.8であれば、
同様の画角用途において、殆ど不満の無い性能である。
(注:「ナナナナ」は2021年に後継型が出ているが、
光学系の変更は無く、HDコーティング化と円形絞りが
搭載されただけである)
「手ブレ補正や超音波モーターが入っている事」は
それが無かったとしても、技法で、ある程度回避できる
ので、まあ、どうでも良い話ではあるのだが・・
やはり「失敗がしにくい」という要素は、そういう状態
が必要とされる撮影状況では、大きな武器であり、また
安心感(信頼感)にも繋がっていく。
大きな弱点は無く、業務用途以外の一般趣味撮影でも
被写体汎用性が高く、使い勝手が良い。
まあ、あえて小さい課題を挙げるならば、本レンズは
NIKON Fマウント品で購入したが、これは「電磁絞り」
仕様であるから、ほぼ、NIKONの現代一眼レフ機でしか
使用する事が出来ない事(=他機使用の汎用性の無さ)
である。この弱点については「異マウント品の追加購入」
(例えば、CANON EFやSONY α(A))を、いずれ行う事
で、課題を回避する予定である(例:SONY α(A)機
で使うならば、MF時にピーキング機能を使用できたり、
「ピクチャー・エフェクト」を併用できたりする)
(というか、一眼レフ用でしか発売していなかった
点も問題点であった事だろう。このレンズの企画・
開発・発売時点でミラーレス機用を意識しておくべき
だったと思う)
また、開放F1.8に抑えた事でカタログスペック的に弱く、
現代の初級中級ユーザー層には不人気なレンズである。
TAMRONから見れば商売が厳しい状況であろうが、
本レンズの本質を見抜ける消費者層においては、
新品・新古・中古価格が、いずれも低廉となっている
本SP85/1.8を安価に入手する事で、「非常にコスパの
良い買い物」となるから、何も課題は無い訳だ。
「開放F1.4に拘らず、わかる人だけが買えば良い」
と、まあ、そういう類の「通好み」のレンズである。
マニア層向けよりも、実践派の中上級者向けのレンズだ。
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さて、次は今回ラストのお気に入りレンズ。
レンズは、SONY FE 100mm/f2.8 STF GM OSS (SEL100F28GM)
(中古購入価格 129,000円)(以下、FE100/2.8STF)
カメラは、SONY α7S(フルサイズ機)
2017年発売の、アポダイゼーション光学エレメント
搭載型フルサイズ対応高描写力単焦点AF中望遠レンズ。
レンズ・マニアックス第15回、第31回記事、および
特殊レンズ超マニアックス第0回記事等で紹介済み。
開放F値はF2.8だが、アポダイゼーションで光量が
減少する為、T値(=実効F値)はT5.6である。
「アポダイゼーション(光学エレメント)」の効能は
簡単に言えば「ボケ質の改善」であるのだが、現代の
多くのカメラ・ユーザー層は、大口径レンズを買わず、
「ボケ質」に関する概念知識や、拘りを持っていない。
よって、この手のレンズには「ただ高価なだけの、金満家
向けレンズ」という認識しか持っていないかも知れない。
現実に、このレンズが現代の一般層(マニアでは無い)に
沢山売れている、という様相は無く、巷にあるレビュー
(評価)記事の大半は、市場関係者側が高価なレンズを
売るが為の「宣伝記事」となってしまっている。
本レンズの描写性能は完璧に近いものがあり、個人評価
DBでの「描写表現力」は、5点満点である。
この点数クラスのレンズは、数百本の所有レンズ中、
上位5%程度しか無いので、この性能に文句をつける
理由が何も無い。
むしろ、私が気になる点は、現代のカメラ市場において
「宣伝記事」(提灯記事)ばかりが横行してる、という点だ。
つまり、それらは流通(販売側)に属する記事であるから、
「製品の弱点を書かない」という制限がある為、それらの
記事等の内容は、頭から信用するには値しない。
だったら製品の実際のユーザー層のレビューはどうか?
だが、これもユーザー毎に、機材の使用目的や価値感覚
あるいはスキル(知識、経験、技能)がまちまちなので
これも残念ながら信用できない。
本来、こうしたユーザー側情報を提供していたマニア層
も、カメラ市場縮退により、高額な新製品に興味を持てず、
2010年代後半から激減してしまい、絶滅危惧種だ(汗)
また、「宣伝記事」と「ユーザーレビュー」の中間的な
ものとして、「アフィリエイト」(≒Web広告収入)を
目論んだWeb記事が増えている。どこかからか、借りて
きた新鋭機材などを、比較的ユーザー目線で評価を
している。旧マニア層または流通・販売側に近い層に
よるものだと思う。
(見分けるには、ビギナー向けの俗語用語の使用が多く、
対象商品を、自身で購入している様子が全く無い事だ)
ただこれは、アクセス数を増やさないと小銭を稼ぐ事が
出来ない為、話題性だけの内容や、長所ばかりを強調
する事もあるし、基本的に、執筆者自身がお金を出して
購入した所有機材に対しての評価では無いので、あまり
信用する事ができない。
(それに、記事の本文が殆ど無く、次々にバナー広告
ばかりが出てくるようなサイトは、鬱陶しくて、全く
読む気もしないし、そもそも、参考になる情報は無い)
結局、現代での他者からの情報は「無視する、あるいは
話半分に聞いておく」という対処方法しか無く、機材の
評価(価値)感覚は、個々のユーザー毎に磨いていくしか
無い状態だ。
ただまあ、1つだけ注目点(ポイント)がある。
それは「評価をしている人が、実際にその機材を所有
(購入)していない場合は、一切信用するなかれ」という
大原則についてなのだが・・
これをもう少し深読みすれば、「もし専門的評価者等が
書いたレビューで、かつ、その機材を購入した様相が
見られない場合・・・」(→いつ、どこで、いくらで
購入したか、などが一切書かれていない場合)
このケースにおいては、専門的評価者というのは、当然
ながら、知識、経験、機材所有数、評価感覚等のレベルが、
一般層よりも高い状態であろう。
で、そういう人たちが「(新製品等の機材を)買わない」
というならば、「それは購入には値しない機材だ」という
極めて信用できる「逆情報」になる訳だ。
さて、余談が長くなった。本FE100/2.8STFだが、
弱点も色々ある。仕様面で具体的には、AFの速度と精度、
MFの操作性、マクロ切り替えの操作性、価格の高さ、
まあ、そのあたりであろう。
ただまあ、多くの弱点は撮影技法上で回避が出来る。
また、心理的な弱点もある。
それは、本FE100/2.8STFや、これの旧機種である
MINOLTA/SONY STF135/2.8[T4.5]には、「描写力が
高すぎる」という課題がある状況だ。
これについては、1つは「誰が使っても、高い描写力が
得られてしまう為、技能上での他者との差別化が出来ない」
という問題だ。これは中上級層以上には、気になる課題と
なるだろう。
もう1つは「レンズに撮らされている」という状況になって
しまい、「撮影者の主体性に欠ける」課題に繋がる。
いずれの心理的課題も中上級層での「エンジョイ度」評価
の低下、すなわちこの状態は「あまり楽しめないレンズ」
という事にも繋がって来る。
まあでも、それらの心理的な弱点は、贅沢な悩みとも
言える話であり、撮影者が高性能レンズに心理的に負けない
位の強い意志を持って対処すれば済む話とも言える。
すると、問題は「価格の高さ」(定価188,000円+税)
の、ただこれ1点だ。
しかし、「最上級の描写力」という強力な特徴を
持つレンズである、この場合の「コスパ」(価格対
性能比)を考察するのは、とても難しい判断となる。
まあ、中上級層、マニア層等に向けては、
「欲しければ多少高くても買うべき。
描写力上の不満は一切無い筈だ。
最上級の物(レンズ)が、どんなレベルであるかを
知っておくのは、価値感覚を鍛える上でも悪くない。
ただし、このレンズの細かい弱点を回避しながら使い、
かつ高性能なレンズに負けないくらいの主体性を持つ
には、それなりのスキルも必要となるであろう」
という総括にしておく。
----
では、今回の記事は、このあたりまでで。
以上を持って、レンズ・マニアックスシリーズを終了する。
]]>
完了:レンズ・マニアックス
p_chansblog
Mon, 30 May 2022 20:52:35 +0900
2022-05-30T20:52:35+09:00
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「画像シンセサイザー」のプログラミング
http://pchansblog.exblog.jp/32600022/
http://pchansblog.exblog.jp/32600022/
<![CDATA[「画像処理プログラミング」シリーズ第21回記事。
本シリーズは、写真等のデジタル画像のピクセル毎に
PC(パーソナル・コンピューター)で、数学的な演算を
施し、結果としての、検出、抽出、判断、変換、加工
等を行う、すなわち「画像処理」のプログラミングを
行う為の技術(テクノロジー)の実現を目指している。
勿論、自分自身で、全てのアルゴリズム(計算手順)を
考案し、全てのソースコード(プログラム。何万文字
もある)を1文字、1文字、自らの手で入力した物である。
汎用の画像処理ライブラリ(例:Open CV等)は、一切
使わない事が重要なポイントだ。
何故、そういう(ある意味、非効率的な)事をするか?
と言えば、そういう措置で無いと、「世の中に無い、
全く新しい事」は実現できないからである。
他人(他者)の作ったライブラリやソースコードを引用
しているだけでは、「習い事」に過ぎず、それでは勿論、
「研究」でも、「創造」でも「表現」でも何でもない。
「技術」(テクノロジー)も、「創造性」や「独自性」
を持つ事で、「アート」(芸術)に成りえる。
他人の真似事や後追いでは、アート的価値は皆無だ。
で、今回の記事では、電子楽器の「シンセサイザー」の
原理を元に、それに類する「画像シンセサイザー」の
ソフトウェアを自作してしまおう、という試みである。
まずは、電子楽器の「シンセサイザー」の説明だが・・
シンセサイザー(Synthesizer)とは、電子的に楽音や
音楽を合成する機器(電子楽器)であり、正確には
「ミュージック・シンセサイザー」という名称であるが、
一般には「シンセサイザー」や「シンセ」と呼ばれる。
(以下、適宜「シンセ」と略す)
シンセの歴史だが、まずは1920年代~1960年代の
黎明期においては、様々な電気楽器が作られているが、
それらは「シンセサイザー」とは呼ばれていない。
初の電子楽器として1920年代の「テルミン」が著名で、
手を触れずに演奏するスタイルと独特の音色は、ファン
層も多く、現代なお、継続されて製造販売されている。
また、より実用的な電気/電子楽器としては、例えば
「電子オルガン」(HAMMOND等。1930年代頃~)がある。
1960年代頃、音響に関する研究が進み、初期のシンセ
の構想(仕様、仕組み)が固まりつつあった。
この頃の「研究」は、楽器メーカーよりも、大学等の
研究機関により行われていて、著名な研究者としては
「モーグ(ムーグ)(Robert Moog)博士」が居る。
彼は後に「Moogシンセサイザー」を製造販売する会社を
設立していて、最初期のシンセとして、とても有名だ。
で、例えば「音楽の三要素」と、一般に呼ばれるものは、
「メロディー」「リズム」「ハーモニー」である事は、
世間においても良く知られているであろう。
対して、シンセで用いられる「音の三要素」とは、
*音程(ピッチ、音の高さ、周波数。音階)
*音色(おんしょく。倍音構成。稀に「ねいろ」とも)
*音量(音の大きさ、音の強さ、振幅、ボリューム)
となっている。
だが、このあたりは、若干だが専門的な要素も入って
くるため、一般層では、例えば、「音量が大きい」事を
「音が高い」と、誤って呼んだりする事も良くある。
(正:音量→大きい/小さい。 音程→高い/低い)
さて、初期の(アナログ)シンセサイザーでは、以下の
原理により、楽音が生成(合成)される。
*「音程」=「発振回路」により音を作る。その音程は
付属の鍵盤や、その他の入力装置により制御される。
この発振回路は、アナログ電子部品の、抵抗、
コンデンサー、コイル、トランジスタ等からなる。
つまり、これは「アナログ音源」である。
(参考:1970年代頃には、各社シンセの音程の制御を
行う電圧(ボルテージ・コントロールド=VC)の基準を
1オクターブあたり1ボルトの変化とする規格が定まる。
こうすると半音あたりで1/12Vと、微細な電圧の変化
なので、アナログシンセの音程は不安定になりやすいが
厚みのある音質となったりするので、音楽的には好まれる)
*「音色」=上記「発振回路」では、様々な基本波形
(例:正弦波、三角波、矩形波、鋸歯状波等)が、予め
用意されている。演奏者(利用者)は、その波形を
選択した上で、さらにフィルター(ローパス、ハイパス、
レゾナンス等)で波形を加工(=倍音構成を変更)し、
演奏の為に必要な「音色」を得る。
例えば、正弦波を用いると、フルートやピッコロの音、
矩形波では、オーボエやクラリネット等の木管楽器の音、
鋸歯状波では、バイオリン等の弦楽器の音、
が得られるのだが、あくまで「似ている音色」という
だけであり、ホンモノの楽器の音色とは、多少異なる。
(参考:コンピューター関連を始めとする、様々な新規の
技術用語において、英語を語源とした末尾の長音「-」が
不要だ、とされ、それを省略する事が日本で流行ったのは
およそ1970年代~1990年代頃だ。それよりも近年では、
末尾の長音を省略せずに記載する事が推奨されている。
まあなので「コンデンサ」「フィルタ」「シンセサイザ」
等の末尾の長音省略は、個人的には「古い時代の記法」と
見なして、そういう書き方を一切していない)
*「音量」=総合的には、音が発生する際の音量、つまり
ボリュームなのだが、シンセサイザーでは、個々の音の
発音時での時間的な音量の変化も、ここに含まれる。
つまり、鍵盤等を弾いた瞬間から、上記の発振回路や
波形加工回路が動作するが、その発音中に音量が変化し
ピアノ等での「減衰音」や、オルガン等での「持続音」
が、ここで制御できる。
上記の「音量の時間的制御」の為、以下の回路が用いられる。
*「エンベロープ回路」(通称:ADSR)
用語エンベロープ(包絡線)には、色々な意味があるが、
シンセの世界では、一般に以下の4つの時間的変化の
要素を設定できる電子回路の事を指す。
アタック(A):
鍵盤を弾いた瞬間から発音するまでの遅れ時間と
その時間内で漸増的に変化する音量(等)の設定。
(例:バイオリンは、すぐに発音しない。
また、エレキギターの奏法で、撥弦後にボリューム
ツマミを廻して、ゼロから音を大きくしていく
「スローアタック奏法」がある)
ディケイ(D):
最大音量から音が減衰していく時間の長さ。
(例:ピアノやギターは、弾いた後で減衰していく)
サスティン(S):
鍵盤を弾いている間、持続する音量の設定。
(例:オルガンでは、ずっと最大音量で鳴り続けるが、
管楽器等では、最初のみ大きく、後の持続音は
肺活量の関係で、やや小さい音量で続く)
リリース(R):
鍵盤を離した時から後で、音が減衰していく時間の長さ。
(例:ハープ等では、共鳴により減衰時間が長い)
この、エンベロープ回路は、基本的に「音量」の変化に影響
するのだが、シンセの設定を変えて「音色」に影響するように
すると、例えば、シタール等の民族楽器で、音色が時間的に
変化する様子を合成できる。
極端に設定すると、「ビョワーン」「ミョーン」といった、
いわゆる「シンセらしい音」を作る事ができる。
ここまでが「音の三要素」からなる、シンセサイザーの
基本的原理であるが、加えて、以下の付加機能がある。
*LFO(低周波発信器) および、そのディレイ(遅れ)
シンセでは、非常に低い周波数、例えば、1秒あたり数回
程度(→耳には聞こえない音)の発振回路を備えている。
これで、音程や音量を変調(≒影響させて変化させる)
を行うと、いわゆる、ビブラート(音程の細かい変化)や、
グロウル/ワウ(音色の細かい変化)、トレモロ(音量の
細かい変化)を得る事ができる。
バイオリンやギター、歌唱等での中上級層においては、
こうしたビブラート等で、より音楽の表現力を増している。
また、演奏後(発音後)ただちに、ビブラート等を掛けず
少し遅れてから(つまり、長い音の場合)に変調を行う
為の、遅れ時間(ディレイ)を設定する事もできる。
余談だが、1990年代末に、宇多田ヒカルが登場した際、
それまでの演歌や歌謡曲での歌唱法とは全く異なる、
その独特のビブラートが魅力的に捉えられた。
「ちりめんビブラート」とも呼ばれたそれは、音程の変化が
細かくて速い。まあ、歌唱法的にはそういう解釈だろうが、
音響的には、さらに、トレモロ(=音量の細かい変化)が、
音程の変化に加わっている事が興味深い。
シンセであれば、様々な「変調」を、自在に、あるいは
同時(並列的)に掛ける事が可能である。
なお「トレモロ効果」は、1960年代の「ギターアンプ」
にも搭載されていた為、その時代で、世界的に有名な
「ザ・ベンチャーズ」の楽曲の一部でも、エレキギターに
トレモロ効果が掛かった音を聞くことができる。
それと、1950年代からの「Fender Stratocaster」
(=エレキギターの製品名。通称「ストラト」)では、
通称「トレモロアーム」(正式名:シンクロナイズド・
トレモロ・ユニット)が搭載されているが、これは
弦の張力を変えて、音程を変化させる為の「ビブラート」
機構であり、音量が変化する効果の「トレモロ」では無い。
なので、シンセ普及後の時代では、両効果を区別する
事が広まったので、後年には「ビブラート・アーム」と
より正確な通称で呼ばれるケースも増えてきている。
*ノイズ発生回路
上記の「発振回路」の波形は、三角波や鋸歯状波等の
人工的な音しか出せないのだが、自然界の音には、
もっと様々な音色が存在する。そうした特殊な音色を得る
為、ノイズ(周波数分布が一様な「ホワイトノイズ」と、
高い周波数ほど分布が少ない「ピンクノイズ」がある)
を発生させ、それをフィルター等で加工する事で、
自然界での、風、波、雨、雷等の音を得る事ができる。
ノイズを発生させる回路は、恐らくだが通常の「発振回路」
とは別建てで設計・構成されている。普通の音響の世界では
ご法度な「ノイズ」だが、音楽・音響的には重要だ。
だが、高性能な電子部品ではノイズを発生させるものは稀で
なかなかアナログでノイズ回路を作るのは難しい模様だ。
*ポルタメント回路
鍵盤等で得る音程は、ド、レ、ミ、ファ・・ 等の
不連続なものだが、このポルタメント回路を用いると、
ドからレ等に音程が変化する際、その途中の音程も発する
事ができる(≒時定数を変化させ、連続的に電圧が変わる)
例えば、ハワイアン音楽で使われるスティール・ギターや
ギター奏法の1種である「ボトル・ネック奏法」にも、
この回路で対応できる。
*リングモジュレーション
複数の発振器の各々の波形を演算(加算、減算)する事で、
複雑な倍音構成を持つ音色(例、金属を叩く音、ベル等)
を得る事ができる。
詳細は、本シリーズ第16回
「画像リングモジュレーターのプログラミング」記事を参照。
*パルスワイズモジュレーション(PWM)
一般的な発振回路による矩形(くけい)波は、対称形だが
PWM回路により、比率(デューティ、パルスワイズ)が
異なる「非対称の矩形波」を得る事ができる。
その措置だけではあまり効果は無いが、LFO(低周波発振器)
を用いて、そのデューティ(パルスワイズ)を揺すりながら、
他の発信器の音と混ぜる事で、多人数で演奏しているような
いわゆる「コーラス効果」を得る事ができる。
だいたい以上が、アナログ・シンセサイザーの原理である。
1960年代に発売された「moog」(モーグ、旧称ムーグ)
が、こういう仕様を備えた、元祖とも言えるシンセである。
「moog」は、ウォルター・カーロス(注:後に性転換して
女性となり、Wendy Carlosと名乗る)等に納品されて
1968年には、著名な「スイッチド・オン・バッハ」
のアルバムが発売され、全編がシンセサイザーで創られた
このアルバムは世界的にセンセーションを巻き起こした。
日本では、冨田勲氏(1932~2016)が、1970年代に
「月の光」「展覧会の絵」等の「moog」を用いた
アルバムを発表、いずれも話題となる。
これ以降、シンセサイザーは世界中の音楽シーンに難なく
定着。まあ勿論、「機械の音だ」と嫌う人達も居たのだが、
そういう保守的な意見は、どの世界においても新しい物が
出てきた際に言われる事である。まあ特に音楽の世界では
アート的観点が強いジャンルであるから、ミュージシャン
達は、「新しい表現」を得る為に、積極的にシンセを
利用しようとした。
しかし、この当時のシンセは非常に高価な電子楽器であり、
一般層では、とても入手する事ができない。
1970年代初頭から、日本でもアナログシンセサイザー
が、KORG社、Roland社、YAMAHA社等により発売され、
低価格なそれらは、プロからアマチュアミュージシャンに
まで普及し、初期のアナログシンセの黄金期を迎える。
1980年代、早くもシンセは大変革の時代に突入する。
まずは、それまでのシンセは単音(モノフォニック)で
しか演奏できなかったが、これを複音(ポリフォニック、
いわゆる「和音」が弾ける)にする事。
さらには、「デジタル化」の流れである。これまでの
アナログシンセでは、抵抗やコンデンサー等の多数の
部品を用いるので、どうしても大型となり、コスト高
にもなる。
そこで、当時からコンピューター等で一般的となった
CPU、LSI、メモリー等の電子部品を用い、これまでの
アナログから、デジタルに急速に置き換わった。
アナログシンセは大型であったが、デジタル化で小型軽量化
が実現した事のみならず、アナログシンセは内部の温度上昇
で部品に流れる電気の特性や電圧が変化し、結果、音程が
不安定になったりする弱点があったが、それもデジタル化で
解消される事となった。(注:それゆえに、正確すぎる
「機械っぽい」音になってしまったので、後年には、また、
音程を不安定にする回路等が、様々に追加されている)
また、アナログシンセでは、全ての音を自在に合成できる
訳でもなく、例えば、人間の声、自然界の音声(例、鳥や
動物の鳴き声、川のせせらぎ等)、特殊な音(ガラスの
割れる音、衝突音等)は、合成する事ができなかった。
そこで、発展しつつあるデジタル技術と組み合わせ、
それらの特殊な音を、実際の音源から録音(サンプリング)
し、それを楽器音として利用できる「サンプラー」が、
シンセサイザーとは別の流れとして発達する。
(シンクラビア、フェアライトCMI、イーミュレーター等)
また、「FM音源」が登場。これも演算により波形を合成
するデジタルシンセの一種であり、特にYAMAHA DX7
(1983年)は、大ヒットしたシンセとなり、1980年代
での様々なミュージシャンの楽曲(CD等)には、DX7の音が
良く入っている。(注:私は、元音響エンジニアなので、
様々な音を聞けば、それが何であるかは、だいたいわかる)
それと、この時代「MIDI規格」が提唱され、殆ど全ての
楽器メーカーでそれが採用され、各社のシンセやデジタル
機器(シーケンサー等)を接続し、自在に音楽が作れる
環境が出来上がった。(ちなみに、カメラの世界では、
こういう「規格統一」の成功例は無く、いまだに、各社で
独自のマウントであり、メーカー間でのレンズ互換性が無く、
各種機能の互換性、補助部品の互換性、用語の統一等が
一切無く、ユーザーに多大な不便を強いている。
なお、個人的には、近年での「カメラ市場の大幅縮退
(=全くカメラが売れてない)」の最大の原因は、
スマホの台頭でもコロナ禍のせいでもなく、根源的には
「ユーザー側の利便性を考えておらず、ユーザーの立場に
全く寄り添っていない、設計・企画思想や、市場の様相」
にあると思っている)
1990年代ともなると、ほとんどのシンセはデジタル化
されたし、サンプラー機能も合体し、演奏の電子的録音や
多重録音の機能も搭載され、複雑な電子楽器となっていく。
(参考:この当時は「ワークステーション」とも呼ばれた)
デジタル化されたシンセでも、基本原理は同じであるが、
機能名称が異なる場合がある。具体的には、音の三要素
を実現する為のシンセの基本機能の名称が変化した。
*「音程」
VCO=電圧制御型発振器
→DCO=デジタル制御型発振器
*「音色」
VCF=電圧制御型フィルター
→DCF=デジタル制御型フィルター
*「音量」
VCA=電圧制御型アンプ
→DCA=デジタル制御型アンプ
他の基本的なシンセ機能の名称変更は、アナログ期から
デジタル期にかけては、ほとんど無い。
(注:勿論、新機能は色々と追加されていった)
1990年代~2000年代にかけ、さらにシンセには変革期が
訪れる。
まずは、それまでのシンセは基本的には人間が手で演奏を
行うものであったが、この時代から、コンピューターに
演奏データを入力し、人間の代わりに演奏させるという
いわゆる「DTM」とか「打ち込み」と呼ばれる手法が一般的
となっていく。
同時期に発展した、パソコン上での音楽制作環境
(ハイレゾのD/Aコンバータや、DTMソフトウェア)と
組み合わせ、これにより、個人でも自宅等の簡単な設備で
「音楽CD制作」(後には配信音源制作)が可能となった。
(参考:「ハイレゾ」は、近年の技術ではなく、楽器・
音響業界では、1990年代から既に一般的であった。
近年の商品では「ハイレゾ対応」を謳い、高付加価値化
(つまり、値上げ)をしているものもあるが、一部は
実際には、単なるアナログ機器であったりする事もあり、
騙されないように原理や効能を良く理解する事が必要だ)
また、シンセはソフトウェア化もされ、鍵盤のついた
大型の楽器を設置せずとも、パソコン内部の演算だけで
様々な楽音が合成できるようになる。
(=いわゆる「ソフトウェア・シンセサイザー」である。
後の時代には、歌唱をシミュレートする「ボーカロイド」
(注:YAMAHAの商品名)に発展していく)
物理的なシンセサイザー(鍵盤楽器)は、この時代から、
パソコン等での仮想環境に負けないようにと、個性的な
特徴を持たせ始める。
それには、多数の例があるが、代表的な例だけ挙げると、
1つは、鍵盤を持たない「音源ユニット」化だ。
パソコン等でのソフトシンセは、初期のものは演算量の
関係で音質が悪かったり、最大発音数が少なかったり
したので、やはり、ちゃんとしたシンセが必要だが、
個人宅等では、楽器は置く場所を取る為に、鍵盤が無い
ラック・マウントが可能な「シンセ音源」が定着した。
他の実例では、「モデリング音源」の登場がある。
高速演算チップ(DSP等)の普及により、楽器の発音や
共鳴そのものを、事前に解析し、それと同様な計算を
楽器上で行い、よりリアルな音色を得る手段である。
この方式は、一般に「物理モデル音源」等と呼ばれる。
あるいは、全てのシンセがデジタル化してしまうと、
ここもでもまた「アナログシンセの音には温かみが
あったが、デジタルシンセは機械的な冷たい音だ」
という不満も出てくる。
その為、アナログシンセの名機(名楽器)の音を解析
して、それと同じような音がデジタルで出せるような
シンセも登場する(=バーチャル・アナログ音源)
以下写真は、バーチャル・アナログ音源(注:固有名)
を搭載したRoland JP-8000(1996年)である。
これは勿論、私物(自身でお金を出して購入した機材)だ。
本ブログでは、自身が所有していないカメラや楽器等は
「評価不能」として、それらの詳細は語らないルールと
している。(借りてきたり、処分してしまったものはNG)
ただし、機材の歴史等の話で、特定の機材の名称が出て
くるケースは多々ある、でも、それらは未所有機材の
場合では、勿論「良し悪し」等の「評価」については
一切記述していない。
これは当然の事であるが、世間一般では、この大原則
が守られていないレビュー(評価)記事等が多すぎる。
さて、JP-8000は、非常に重厚な音が出るデジタル
シンセであり、1980年代の名機「JUPITER-8」等の
音を参考にして音作りがされている。
「Jupier-8」は、奇しくも、同名(小文字表記)の、
旧ソ連製レンズ(ロシアンレンズ)が存在する(未所有、
Jupiter-9等は所有していて、様々な記事で紹介済み)
そちらのレンズは、正確には「ユピテル」と読む。
電子楽器の「JUPITER(ジュピター)-8」の方は、かなり
大型のシンセで、発売当時でも100万円弱もしていたし、
後年にはプレミアム相場化していたので、とても買える
ものではなかった。(→当然、未所有)
JP-8000ならば小型軽量で、価格も、確か10万円台と
安価であったので、まあ「JUPITER-8」の代替としては
十分であった次第だ。
なお、近年(2020年)Roland社より「JUPITER-8」の
再来とも言える「JUPITER-X」が25万円+税で発売
されているが、重量16.9kgもある超大型重量級シンセ
の為、買おうか買うまいか、相当に迷っている・・
・・さて、このままだと延々に「シンセ」の話になって
しまう(汗) 元々、好きな機材ジャンルだし、この分野
にも相当に詳しいので、キリが無い訳だ。
もうシンセの説明は、このあたりまでに留めておき、
そろそろ、本題の「画像シンセサイザー」の話に進む。
で、シンセには「音の三要素」があったが、画像(映像)
の世界では「色の三要素」が存在する。すなわち・・
*色相(H):色味、色あい
*彩度(S):色の濃さ
*輝度(V):色の明るさ
である。このあたりは他の画像処理プログラミング記事
でも、何度も述べているので詳細は割愛する。
さて、ここでの新アイデアだが、シンセにおける「音の
三要素」を、画像処理ソフトでの「色の三要素」に置き
換える、という次第だ。具体的には以下となる。
*DCO(音程)→DCH(色相)
*DCF(音色)→DCS(彩度)
*DCA(音量)→DCV(輝度)
アナログのシンセのように「何も無いところから、1から
音を創りだす」という事は、画像では困難であろう。
だから、これはシンセ(合成)と言いながらも、画像の
編集ソフト(≒エディター)としての機能となる。
つまり、何かの画像を入力した後、アナログシンセ風の
多数のツマミにより、シンセの概念と同様に画像を加工
するソフトを作る事とする。
GUI(画面操作系)の開発中の画面。
例によって、Microsoft Visual C#(.Net)を用いる。
同、ソースコード(プログラム)の開発中の画面。
で、今回のソフト開発は2日かかっている。
これまでの本シリーズ記事のような、単機能のソフト
ならば1日で十分に作れるのだが、今回のソフトは、
楽器のシンセのように、非常に多くの機能を持つので、
ソフトを作るのが大変だった次第だ。
また、最初期のシンセ「moog」は、壁一面の大きさ
ともなる巨大機器だった。それは一種の「憧れ」でも
あった訳だから、今回の「画像シンセサイザー」も
パソコン画面いっぱいの、巨大なソフト(笑)としよう。
この「画像シンセサイザー」の機能は以下の通り。
*DCH:デジタル色相制御
→画像の色相を6段階に分割し、個別に増減が可能
*DCS:デジタル彩度制御
→いくつかの補正関数を選び、その係数とオフセット値
を調整する事で、画像の色味を大幅に変更可能。
*DCV:デジタル輝度制御
→補正関数の選択と係数調整で、画像の輝度階調を大幅に
変更可能。加えて、周辺増光・周辺減光機能の付与。
*Modify:
→HPF(ハイパスフィルター)とLPF(ローパスフィルター)
により、画像の空間周波数を制御。いわゆる「シャープ」
と「ソフト」効果が出せる。
また、グレイスケール化(モノクロ化)機能を搭載。
*Memory:
→設定したパラメーターを保存、読み込みが可能
*Preset:
→過去から現代に至る、名カメラ6機種(風)の特性を
あらかじめプリセットしてある。具体的には以下だ、
1)OLYMPUS-PEN EES-2(ハーフ判)
→モノクロ化して、やや薄めのトーンとする
2)CANON IXY310 (APS判)
→ややヴィヴィッドな発色
3)CONTAX T3 (35mm判)
→コントラストがきつく、アンダー階調表現
4)OLYMPUS 4/3機 「OLYMPUS BLUE」
→青色発色を増強(エンハンス)した色調
5)NIKON Df(フルサイズ機)
→やや明るめのニュートラルな発色
6)FIJIFILM Velvia(フィルムシミュレーション)
→高彩度の発色
ただし、それらのプリセット値は、まずは仮の値で
あり、後日、良いセッティングを見つけたら、適宜、
それに置き換えていく予定だ。
上図は、本ソフト「Image Synthesizer」での、
「DCV」(デジタル輝度制御)での「周辺減光」機能を
調整中の画面。
周辺減光は、「コサイン四乗則」の式を採用しようか?
と思ったのだが、画角=θ(シータ)が不定であると
それでは計算できないので、画面中央部からの座標距離
を求め、「距離の二乗則」を考察して、それを搭載した。
まあ、上手く動いている様子である。
----
さて、プログラムは、一応暫定版が出来上がったが、
ここからが大変である。
「いったい、どの画像において、どのパラメーターを
変えて、結果、どのような画像が欲しいのか?」
かが、膨大な試行錯誤となる(汗)
例えば、アナログシンセの発展期(1970年代)に
おいても、同様に多くのミュージシャン達は、多数ある
シンセのツマミを、どこをどういじくったら、どういう
音が出るか?がわからず、相当に苦労した模様だ。
そして、作り上げた音が、実際の「音楽」に使えるか
否か?も、勿論大きな課題となる。
なので、その時代、1970年代~1980年代では、
「マニュピュレーター」(操作者)とも呼ばれた、音楽、
音響、演奏技術、電子技術等の多方面の才能を合わせ持つ
限られた人達でしか、シンセを音楽に活用する事が出来
なかった次第だが、そういう人達は稀であり、世界中を
見渡しても、数える程の人数しか居なかった。
・・まあ良い、いろいろと試行錯誤を続けていこう。
コスモスの花の写真を、なんとなくだが「絵画風」に
加工した例。
加工後画像を単体で保存してみよう。
「地味な効果だ」とも言えるかも知れない。
まあでも、「原型を留めない程にまで、画像を加工して
しまうソフト」も、これまで色々と作ってきている。
(例:本シリーズ第1回「横浜写真」、第8回「野獣派」等)
あまりに加工機能が強いと、結果の写真の用途もあまり無い
事も判明しているので、今回は、まあ地味でも良しとしよう。
・・そうそう、従前より、やってみたかった処理があった。
それは「ソフトフォーカス(軟焦点)レンズ」で撮った
写真に、シャープ(ハード)処理を掛けて、その効果が
中和できるか否か?である。
画像処理の原理的には、それは困難だ。
でもまあ、本ソフトでやってみよう。
上は「ソフトレンズ」を用いて撮った写真。
ホンモノのソフトレンズ(画像編集で加工したものでは無い)
で撮っているので、独特のソフト感が得られている。
これに、本ソフトでHPF(ハイパスフィルター。画像の空間
周波数の高いものだけを通過させ、柔らかい部分を遮断する)
を掛けてみる。
処理画像を単体で保存してみよう
う~ん、背景等が、かなり「硬調」となってしまった。
だがまあ、これはこれで、面白い表現だ。
そういえば、最初期のアナログシンセにおいても、
「どのツマミをどういじくると、どういう音が出る」
という事は、誰もよくわかっていなかった為に・・
例えば、VCFの「レゾナンス」を目一杯上げてしまうと
フィルター回路が自己発振し、「ピー」という変な音が
出てしまった。しかし、ミュージシャン達は、その
変な音が「人間の口笛に似ている」と判断し、その
発振音をさらに加工し、口笛の音に似せて、当時の
音楽に使った訳だ。(→この方法論は、かなり流行した。
もしかすると、前述の故・冨田勲氏の初期のシンセの
アルバムが元祖だったかも知れない??)
まあつまり、「想像の範疇を超える」事も、アートの
分野では必要な事であるので、そういう機能を、技術者
(開発者)が、あえて「これは設計基準外の音になるから
制限して使えなくしてしまおう」という発想は、むしろ
適切ではなかった次第だ。
まあ、本ソフトも同様だ、想定外の効果が出る事は
制限する必要はなく、むしろ新しい表現効果の為に適正だ。
・・で、なんとなく、特殊レンズで撮った写真を、さらに
特殊加工をするのに向きそうなソフトだ。
続けて、いくつか試してみよう。
上写真は、特殊アタッチメントである「宙玉(そらたま)」
を用いて撮った写真を、より明瞭化した例。
上写真は、通常レンズで実際の絵画(撮影許可のあるもの)
を撮った写真を、より絵画風に加工した例。
上写真は、カメラの内部エフェクト(画像加工処理)で、
効果を掛けすぎてしまった写真から、その効果を弱めて、
通常写真に近づけようとしている処理の例。
・・こうした特殊な写真ばかりではなく、通常の写真でも
勿論、効果的な処理ができるはずだ。
上写真は、前回のプログラミング記事でも使った写真
だが、初期のデジタル一眼レフで撮った人物写真であり、
ちょっと色味(発色)が薄く感じる。
上写真は、本ソフトで加工後。彩度と輝度を補正関数
により修正しているが、一般的な画像編集ソフトでは、
彩度を高めていくと、人物写真の場合では、肌に赤味
の色が加わってしまう危険性があるのだが、本ソフト
では、微細な調整を可能としている。
----
さて、ここからは、プリセットした「既存カメラ風の効果」
を調整していくこととしよう。
「OLYMPUS-PEN EES-2」モードで加工中。
この1960年代のカメラでは、モノクロ化と彩度階調表現
の若干のシンプル化、としてプリセットを設定してある。
ただし、ハーフ判機の、PEN EES-2の搭載レンズでは、
この加工例のような、「背景をボカした写真」は
撮れないので、入力する写真を選ぶ必要がありそうだ。
「CONTAX T3」モードで加工中。
この2000年頃のカメラでは、コントラストが強く、
若干の肌の色味の低彩度化、および若干のソフト処理
により、当時の銀塩機の雰囲気を出そうとしている。
画像単体で保存してみよう。
まあ、これはこれで有りだろう。
実際のこの時代の銀塩写真は、非常に高画質であり
2000年代前半までの初期のデジタル一眼レフをも
上回っていたのだが、その事実は、限られた、高性能
銀塩機材を持つ人達のみが知る事である。
世間一般に言う「フィルムっぽい写真」というのは、
だいたいこんな感じの、低画質なイメージであろうか。
こちらは「NIKON Df」モードで加工中。
2010年代のフルサイズ機である「NIKON Df」は、
画素数が低く、解像感に欠けるが、反面、階調表現が
豊かで、高感度撮影でも明瞭な画像が得られる。
オールドレンズ母艦としても適するが、オールドレンズ
では絞りが粘っていたり、NIKON Dfのマウント部に
ある、レンズの絞りを叩くレバーが劣化しやすく、
結果的に、正しく絞り込めずに若干の露出オーバーの
(明るめの)写真となるケースが良くある。
でも、これもまあ、目論見どおりの設定である。
プリセットカメラは、いずれも自身で所有している
ものであるから、その特性は十分に理解している。
全く同じ、とは言わないまでも、その機体の持つ
特徴が、プリセットで表現できるならば十分だ。
以下、色々と加工例があるが、キリが無いので、適当な
ところで終わりとしておく。
----
で、要は、「(ミュージック)シンサイザー」とは、
「様々な音が何でも作れる夢の楽器」であった訳であり、
その所有者が、「実際に音が創れるのか?」あるいは
「実際にその音色を活用して楽器演奏が出来るのか?」
という点を無視したとしても、その「憧れ」は存在して
いた訳だ。
シンセは、後年には「音色プリセットの充実、あるいは
拡張音色セットの販売」そして、演奏の課題については
「コンピューターによる自動演奏(DTM)」で、それら
の課題は、問題点では無くなり、現代では、誰もが
シンセを扱える時代となってきている。
本ソフト「画像シンセサイザー」も同様である、
初期の「(ミュージック)シンサイザー」が、本記事で
述べてきたような、VCO/VCF/VCA/ADSR/LFO等の原理
を理解していないと使えなかった難解な楽器であった
ように、本ソフトも、新規概念であるDCH/DCS/DCV
等を理解していないと使う事ができない。
ただ、本ソフトは、開発者である私が、個人的な用途
にのみ使うものである(本シリーズ記事での、他の
開発済みソフトも全て同様。完全な個人用途だ)
なので、使い方が難解であっても、これを使った事で、
どんな画像が出てくるか?といった、難しい要素は、
他に誰も本ソフトを使わないから、課題にはならない。
で、「何故、そんな公開も販売もしないソフトを作って
いるのか?」という話については、本シリーズ記事では
「こういう発想で、ソフトウェアを開発する」という
プロセスを紹介する目的だからである。
その「思想」については、本シリーズ記事では、毎回の
ように述べているので今回は詳細は割愛する。
(上写真は、通常の写真を本ソフトの「HPF」を極度に
掛けて加工したもの)
最後に、本ソフト(研究開発)の成否であるが、
まあ、○(成功)としておこう。
ただ、ソフトの物量は大きいが、中身の技術は、さほど
高度な事は行っていない。難易度は3点(標準)位だ。
結果、本シリーズ記事のここまでの通算(総合)成績は、
以下のようになる。
総合成績=9勝6敗6分、勝率(成功率)=4割2分8厘
本シリーズ記事でのルールとしての、最低ラインの
勝率(開発の成功率)3割を超えてはいるが、目標の
勝率5割には届いていない。
ただ、最近の本シリーズでは、勝率を高める事を
無意識でやってしまっているのか?あまり高度で
複雑な画像処理への挑戦が少ない(汗)
「失敗」という負の情報の公開も重要だと思っている、
「何をどうしたら、失敗するのか?」そこは実際に
それを試してみた人で無いと知り得ない情報だからだ。
今後は「もっと新しく、高度で、複雑な画像処理」を
試してみたいものである。
----
では、今回のプログラミング記事は、このあたりまで。
なお、本ブログは、画像保存容量が限界に達している為
近日中に、新ブログに移行する予定である。
本プログラミング・シリーズは、本記事をもって暫定
最終回としておく。]]>
完了:プログラミング・シリーズ
p_chansblog
Thu, 26 May 2022 21:05:03 +0900
2022-05-26T21:05:03+09:00
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コンパクト・デジタル・クラッシックス(7)FUJIFILM XF10
http://pchansblog.exblog.jp/32596943/
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<![CDATA[所有しているコンパクト(デジタル)カメラに
ついて紹介する、不定期のシリーズ記事。
今回は、2018年発売の「FUJIFILM XF10」の
評価をしていく事としよう。
さて、本機XF10は、APS-C型センサー搭載の、
28mm(相当)広角単焦点レンズ搭載型、
普及(低価格)AFコンパクト機である。
なぜ「普及機」と書いたかは、銀塩時代の1990年代
以降、現代に至るまで、28mm(相当)単焦点搭載
コンパクト機は、マニア向けの高付加価値(高級)機
が大半であり、低価格帯機は、かなり珍しい点がある。
ただ、低価格機ゆえに、本機XF10は、高い性能
(またはスペック)を持つ機体では無い。
そこは承知の上での購入であり、では、実際に
本機の性能や仕様が、高級(高価格)機に対して
どのような点が劣るのか?そして、その弱点は、
実用上で、どの程度の影響があるのか? その
課題を回避するには、どうしたら良いか? さらに
その結果としてのコスパ(つまり、性能と価格の比)
は適正なのか否か? 本記事ではそのあたりを中心
に分析を進めていく事としよう。
では、まずは本XF10の立ち位置(ポジショニング)
からだ。
FUJIFILMにおける「X」シリーズとは、コンパクト機
およびミラーレス機での高性能機でのシリーズ名称
である。本記事ではミラーレス機についての説明は
割愛するが、何台かについては、別シリーズ記事
「ミラーレス・クラッシックス」で紹介済みだ。
高性能というのは、すなわち「高付加価値」であり、
コンパクト機が、スマホ等の台頭で市場縮退して
売れなくなった2010年代(正確には、FUJIFILM社
では2011年)から展開が開始された、高価格帯
の商品群が「X」シリーズである。
旧来のコンパクト機(例:FinePixシリーズ)等
から比べて、大幅に値上げされたXシリーズは、
コンパクト機の販売数が減った状態でも、利益率
を高めて、カメラ事業を継続させる狙いがある。
ビギナー層が買わないまでも、拘りのあるマニア層
等が、少数でも買ってくれれば良い、というのが
Xシリーズの基本商品企画コンセプトであろう。
ただ、当然ながら、この手の高付加価値商品の
場合は、実用面でのコスパは低下してしまう。
コスパを重視する層には、あまり推奨しにくい
カメラとなってしまう事は否めない。
私のXシリーズのコンパクト機の所有数は、さほど
多くは無い。故障廃棄機やら予備機やらがあり、
正確な数は出し難いが、現有機は概ね3機種のみだ。
ここで、未所有機を含め、FUJIFILM Xシリーズ
コンパクト機の分類について紹介しておく。
<高級単焦点機 X100シリーズ>(APS-C型機)
2011年:FinePix X100 (これのみFinePix銘)
2013年:X100S
2014年:X100T
2017年:X100F
2020年:X100V
注:S=Second、T=Third、F=Forth、V=ローマ数字の5
<中級単焦点機 X70シリーズ>(APS-C型機)
2016年:X70 (広角単焦点機)
<中級ズーム機 Xフタケタシリーズ>(2/3型機)
2011年:X10
2013年:X20
2014年:X30
<中級ロングズーム機 X-S1>(2/3型機)
2011年:X-S1(他記事紹介済み)
<普及ズーム機 Xアルファベット型番>(2/3型機)
2012年:XF1(故障廃棄)
2013年:XQ1(他記事紹介済み)
2015年:XQ2
<普及単焦点機 XF10>(APS-C型機)
2018年:XF10(今回紹介機)
さて、今、あらためてXシリーズコンパクト機を
全て洗い出してみると、思っていた程には
機種数が多く無い事に気付いた。これくらいの数
であれば、マニア層やFUJIFILMファン層ならば
各シリーズの機体を、少なくとも1台づつ位で
コンプリートする事は、難しくはなさそうだ。
ただ、それをやる必要があるか否か?であろう、
Xシリーズにはミラーレス機も存在しているから
高級機等では、むしろミラーレス機の方が安価で
あったり、汎用性・実用性が高くなったりもする。
また、近年ではXシリーズコンパクト機の新発売も
かなり減って来ている。
それから、各々のシリーズで、型番の付け方の
ルールが、ずいぶんと異なる点が気になる。
例えば、X100は型番番号固定で末尾にバージョン
の記号だし、Xフタケタ機は順次番号が進む。
他機は、毎回バラバラな記号を選んでいる模様だ。
そう、銀塩時代から近年に至るまでFUJIFILM社製
のカメラは、型番、機能、操作系から、果ては
バッテリーや充電器に及ぶ迄、機種個別で全く
仕様が異なる場合が大半であり、機種間での利用・
操作面での互換性が少なく、そこが困ったポイントだ。
標準化・共通化という思想がメーカー側に無いのか?
開発チーム間で、お互いの仕様を無視しているのか?
はたまた、多くの機種が外注設計でまちまちなのか?
そのあたりでの「バラバラな発想」を疑ってしまう。
例えば、XF1(所有していたが、故障廃棄)と
本機XF10は、型番が似ているが、仕様や用途が全く
異なるカメラである。
巷では、前の機種からの比較レビュー記事が非常に
多い、その手の記事は「容易に書ける」からだろう。
(又は、前機種のオーナーに対し、新型機を褒めて
購入を勧める為の宣伝記事にもなっているからだ)
だが、そういった視点では、本機XF10は、どの
機種の後継型か?は、わからない事であろう。
XF10の前機種は、XF1では無いし、X70でもない。
まあつまり、各機は、個々に独立したコンセプトの
製品となっている次第だ。(参考:むしろ本機XF10
の企画思想は、銀塩時代の広角機「TIARA」に近い)
XF1は普及ズーム機ながら、高機能であり、デザイン
もスタイリッシュだったが、生憎、電気的故障に
見舞われ廃棄処分となってしまったので、本ブログでは
未紹介である(=動かないカメラや、借りて来たカメラ、
処分してしまったカメラ等は、紹介しないルールと
なっている。これは、ごく当たり前のルールだとは
思うが、世間のレビュー記事では、この大原則が
守れていないケースが極めて多い。なので、そうした
「所有すらしていないカメラについて語っている」様相
が見られた場合、その内容は参考にしない事としている。
---
さらにちなみに、本ブログでのカメラ関連紹介記事は、
当該カメラ等の購入後、少なくとも1年間、又は/及び、
1万枚を撮影後で無いと掲載しないようにしている。
例えば、新製品の「宣伝レビュー記事」等では、急いで
記事化する必要がある事は理解できるのだが、現代での
超高機能化されたカメラを、数日間程度触っただけで
誰も評価など出来る筈が無い。当然、そういう意味でも
宣伝レビュー記事等は、殆ど参考に値しない次第だ)
XF10は広単焦点機であるので、XF1とは全く異なる
カメラだ。ただ、Fの名称は、「ファッショナルブル」
という要素も意味合いとして含まれると思われ、
「小型機、デザインが良い、格好良い」という特徴が
共通して存在する。
個人的には、カメラは格好が良い(と自分が思う)
機種は好みである。たとえ基本性能が低かろうが
「格好良い」という長所があれば、性能の低さに
目をつぶり、購入優先順位は上がる。
本機XF10も、「その類」のカメラである。
本機に数々の弱点があることは、購入前から、
取扱説明書を熟読して、理解・分析が出来ていた。
だが、「格好良い」のだ。様々な基本性能の低さは、
それが問題にならない用法を策定するか、あるいは
技能でカバーするか、そうした「用途開発」を行えば
済む話だ。
「万能のカメラ」などは存在しないので、個々の
カメラには弱点がある。そして、マニア層であれば、
多数のカメラを所有し、撮影目的により使い分ける
事も、ごく当たり前の話だ。
だから、カメラの個々の弱点については、さほど
大きな「購入を躊躇う理由」には成り難い。
初級層や初級マニア層等で、カメラやレンズを
少ない数しか使っていない場合、その弱点に対して
必要以上にマイナスの評価をしてしまう事もあろう。
また、「デザインが良い」と「品質が高い」とは
イコールでは無い。いわゆる「ビルド・クオリティ」
とも呼ばれる要素は、「上質な仕上げ」を意味するが、
例えば、前述のXF1は、仕上げの質やデザインは
良かったのだが、使用開始後、比較的短期間で
電気回路が故障して使えなくなってしまった。
つまり、外観は高品質だが、中身が低品質な次第だ。
まあ、壊れないカメラは無い。私も銀塩時代から
現代に至るまで、何百台ものカメラを購入し、
それら全てを、実際に実用的に使って来たのだが、
使用していて自然故障に至る機体は、数%程度は
確実に存在している。(注:修理が効く場合も
あれば、修理不能、または高額修理となって、
そのまま廃棄処分としてしまう機体もある)
私は各メーカーにおける製造品質等に、基本的に
大きな差異は無いと思っているし・・ 50年前の
世情ではあるまいし、現代では1つのメーカーだけ
で、全ての部品等を製造している訳でも無いので、
メーカー毎の品質の差を言及したくは無いのだが・・
でも、FUJIFILM機の場合、その故障廃棄比率は
およそ20%(概算だが、30台中6台が故障)にも
達する。これは「自然故障」のレベルを超えて
他社機よりも、ヒトケタも高い故障確率なので、
製造品質や耐久性が低いと言わざるを得ないだろう。
なお、SONY機も、数年の使用で、あちこちに色々
と課題が出てくるケースが多い。世間一般では
「ソニータイマー」とも呼ばれる状況ではあるが
これも耐久性に欠ける設計のカメラ(や電化製品)
が多い事が、その「噂」の根源ではあるまいか?
ただ、SONY機の場合は、完全に動かなくなる程の
酷い故障に至った事は、(自然故障の範囲では)
幸いにして無い。ボロボロになっても、ブツブツ
と文句を言いながらも、使い続けている次第だ。
(参考:近年の機体では、SONY α7Ⅲのシャッター
耐久性の問題が指摘されていて、米国では集団訴訟
問題にも発展した為、個人的には、同機の購入を
躊躇する原因となっている)
それと、「有名メーカー製で、製造品質も高いから
故障しない」という考え方も、ちょっとアテには
ならない。「プロも使う耐久性」を謳ったような
カメラですら、運が悪ければ、あるいはラフな
使い方をすれば、故障してしまう事はやむを得ない。
私の場合では、カメラやメカにも詳しく、ラフに
使うとは言っても(例:雨天の中で使用する等)
機器の耐久限界点は認識しているので、用法上で
故障させてしまうケースは無いのだが、それでも
電気部品の経年劣化、あるいは偶然が重なった際
での故障発生は、もうやむを得ないという認識だ。
別にNIKONやCANONのカメラだから壊れないという
訳ではなく、その旗艦機数台でも、壊れてしまった
ケースは、自身の所有範囲でも過去に存在する。
で、FUJIFILMの機体の場合は、故障には十分に
注意しなければならない。先に、耐久性が低いと
書き、約20%が故障廃棄となったと記載したが、
実は、完全故障廃棄に至らずとも、不調となって
騙し騙し使っている機体も多い。
具体的には、ダイヤル類(の中のロータリー
エンコーダー)等が、接触不良になったりする
ケースがある。そんな場合は、メンテナンスの
措置が必要だ(例:接点復活剤を注入する等)
そして、その程度の事は「故障」とは見なして
いない、カメラを長く使っていく上では、
なんらかの不調は、どんなカメラにも存在する。
さて、一般論を述べていてもキリが無い、そろそろ
本機XF10の固有の話に進もう。
機体の位置づけとしては「普及機」である。
いくつかの「コストダウン要素」があり、それは
あるいは「仕様的差別化」とも言い換えられる。
つまり、最高の性能を目指して贅沢に設計された
機体では無いので、本機に、それ(高性能)を
期待してはならない。
例えば、本機の購入を検討する際に、ライバル
となる機体は、通常は以下のとおりであろう。
2014年:SIGMA dp1 Quattro
2016年:FUJIFILM X70
2019年:RICOH GRⅢ
いずれも、広角(換算28mm相当)の単焦点機
である。中上級層やマニア層においては、
「通好みのスナップシューター」として、
28mm(相当)単焦点機は、確固たる存在意義を
確立している。
ちなみに、その理由は、1990年代における
銀塩高級コンパクト機ブームにおいて、
28mm(→銀塩35mm判)AF単焦点機のいくつかが
人気となり、あるいは実用性を認められたからだ。
その具体的な(銀塩機の)機種名を挙げておこう。
1993年:NIKON (MINI) AF600(QD) (↓写真)
1994年:FUJIFILM CARDIA mini TIARA(後継機あり)
1994年:NIKON 28Ti(未所有)
1996年:RICOH GR1(後継機多数あり)
1996年:MINOLTA TC-1(限定版あり)
実は、他にもMF機等で28mm単焦点機は数機種存在
していたのだが、あくまでこの1990年代において
「28mmAF広角機の立場を、明確(磐石)にした」
という視点では、これらの機種群しかないと思われる。
銀塩機の話は、ここまで、としておき、それらの機種群
の大半は所有している(いた)ので、その時代の詳細
な市場背景、時代背景等については、別シリーズ記事
「銀塩コンパクト・クラッシックス」を参照されたし。
で、銀塩時代での「28mm単焦点機は通好み」という
概念が、その後20数年を経過した2010年代にまで
引き継がれている。それ自体は否定するものでは無く
まあ、「そういう志向性も十分にアリだな」という
個人的な考え方だ。
(ただし、消費者層の志向が、RICOH GR系一辺倒に
集中してしまう状況は、近年では、あまり好まなく
なって来ている。あまりに画一的すぎるからだ)
さて、デジタル機での28mm(換算)機でのライバル
機について考察しておこう。
まず、SIGMA dp1 Quattroは、特殊すぎるので、
(本シリーズ第5回、SIGMA dp0 Quattro編を参照)
あまり本機XF10との購入比較対象にはならない。
すると、比較するのは、同じFUJIFILMのX70か、
または、GRⅢ(注:中古買いならば、GR、GRⅡの
選択肢も十分にある。GRⅢでは、フラッシュ内蔵の
利点が無くなってしまったからだ)であろう。
ただ、その両機(どちらも未所有)と本機は、
まず価格帯が異なる。
X70(2016年)は、発売時実勢価格が9万円程、
そして、比較的短期間で、生産完了となって
しまっている。中古品は存在するが、6万円
前後(注:2020年頃)と、若干高価だ。
GRⅢ(2019年)は、発売時実勢価格が
12万円程。後に若干安価になっても、依然
10万円オーバーの新品販売価格帯だ。
また、中古品でも7~8万円もする。
この機体は未所有なので、何とも言えないが、
どうにもコスパが悪く感じ、食指が動かない。
本機XF10(2018年)は、発売時実勢価格が
6万円程と、他ライバル機よりもだいぶ安価だ。
実売価格も、すぐに5万円程まで下がっていた
様相もあり、新品購買層(中古は買わない)で
あれば、他機と比べての価格メリットは大きい。
X70は、生産完了になってしまったので、
2010年代末~2020年代初頭での、広角機が
(新品で)欲しいという消費者層の選択肢は、
本機XF10か、またはRICOH GRⅢの2択となる。
ただ、ズーム機であれば、広角28mm相当を含む
コンパクト機は、いくらでも存在する(殆ど全て)
であるから、単焦点機をわざわざ欲しがる層は、
そこそこ拘りがあるマニア層ではあろう。
つまり、「本格的なGRⅢか? または、価格が
安価でお手軽なXF10か」に悩まされる事となる。
本来、マニア的な視点からは、比較すべきは、
「X70 vs GRⅡの中古の、どちらを買うか?」
という話となるのだろうが、初級マニア層等
には中古購入は敷居が高い(→目利きが出来ない、
故障等の不安がある。他人が使った物は嫌、等)
ので、新品購入では、本当に選択肢が少ない。
しかし、そもそも「28mm(相当)単焦点機が
必要か?」という要素が大きいであろう。
仮に、「どうしてもその画角の小型機が欲しい」
と言うならば、そして、機材にお金を掛けたく
無いならば、前述の旧機種の中古品を買うならば
本機XF10より、さらに安価に機材を入手可能だ。
例えば、RICOH GR DIGITAL(Ⅰ~Ⅳ)であれば
もっと遥かに安価である。しかし、これらは
小型センサー(1/1.8~1/1.7型)機なので、
「どうしてもAPS-C型機が欲しい」のであれば・・
あるいは、変則的ではあるが、SONY NEX-3
(2010年)+SIGMA EX19mm/F2.8(2012年)
といったように、ミラーレス機で本機と同等の
スペックのシステムを組む事も可能だ(↓)
上写真のシステムの中古購入価格は、カメラ
+レンズで2万円を切る安価な相場である。
これでも、APS-C型センサーと、高描写力の
28mm相当の広角単焦点、つまり、希望する
スペックと同等だ。
ある種のスペックのシステムを所望しつつも、
コスパを意識する上では、常に現行機ばかりに
注目するのではなく、過去に販売していたシステム
の中古品等にも注目する必要があるだろう。
過去機に対する知識が不足していると、必然的に
現行機種の中からしか選択肢が無くなってしまう。
それだと、特に、コンパクト機や、近年のカメラ
全般は、従前の機種よりも、遥かに高額になって
しまったので、設備投資の金額が膨らみすぎて
しまう次第だ。
では、ここからは本機XF10の長所短所についてだ。
<長所(または特徴)>
1)28mm相当の広角単焦点機は希少である事。
2)高いデザイン性、小型軽量である事。
3)フラッシュ内蔵、および、各種の高機能を
備えている事。
→例:スナップショットモード、電子シャッター、
複数のAUTO ISO感度設定、デジタルテレコン、
編集可能Qメニュー、コントロールリング、
Fnボタン、タッチパネル操作系、等
4)同社製他機よりも、若干安価でコスパが良い事
5)アドバンスドフィルターに「モノクロ近赤外線風」
が存在する。本機からの初搭載だが、以降の他機にも
搭載されている(X100Vや、新型Xミラーレス機)
個人的には、ホンモノの「近赤外線撮影」も
研究的観点から良くやるのだが、その撮影手法は、
若干だが「大げさ」なシステムや技法を必要とする
ので、常時それを行う事は出来ない。
なので、本機の「近赤外線撮影風」撮影は、あくまで
フェイクではあるが、簡便であり、なかなか興味深く
感じる次第だ。
6)フリック操作によるカメラ設定が可能
→T(タッチ)-Fn(ファンクション)の機能の事。
ただし、この操作は測距点選択等と誤作動しやすく
優れたアイデアだが、実用性は低い。
7)最短撮影距離が10cmと、そこそこ短い。
→APS-C型センサー搭載の28mm相当広角単焦点機
では、これが、ほぼ横並びのスペックである。
しかし、APS-C型センサー用の28mm相当広角
単焦点交換レンズでは、20cmが最短撮影距離で
ある場合が大半なので、まあ、寄れる類であろう。
近接性能の判断基準としては、レンズの実焦点距離
の10倍(mmをcmに変えた値)を下回るか否か?
であり、XF10では、18.5cmを下回っているので、
優秀な類の性能であると言える。
なお、APS-C型よりも小さいサイズのセンサーを
搭載した28mm相当広角単焦点機、具体的には、
RICOH GR DIGITALシリーズ等は、もっとずっと
寄れる長所が存在していた。(私は、この問題が
気に入らず、APS-C型に変わったRICOH GR系機体
の購入優先度を下げた次第であった)
8)フィルムシミュレーションやアドバンスド・
フィルターの選択時にプレビュー機能が利用可。
→これらの選択メニューにおいては、撮影中の
ライブビュー映像がサムネイル化された画像が
4種類+ノーマルの計5種類表示され、効果の
効き具合や、どれを選ぶかの選択が容易となる。
(選択操作は、タッチパネルでの「スワイプ」にも
対応している)
ただし、最新の機種では無いので、以降の機種群に
搭載された、「グレイン(粒状)エフェクト」等の
新機能は搭載されていない。本機で扱える変更要素
は、カラー、シャープネス、ハイライト等の基本的
なものだけであり、かつ、この設定は、全ての
フィルムシミュレーション等に共通でもあるから
個別での設定(微調整)は出来ないし、これらは
基本メニューから呼び出す必要がある。
実用上では、「フィルムシミュレーションBKT
(ブラケット)」機能を持ち、これがDRIVEボタンで
簡便に呼び出せる事から、これに最大3種のフィルム
シミュレーションを登録し、1回のショットで
3枚を撮影するのが良いであろう。この仕様や発想
は、オリンパスでの「アートフィルターBKT」と
同様に、撮影者の事前の想定範囲を超える表現が
得られる場合があるので、あまり細かく、個々の
フィルムシミュレーションをチマチマと微調整して
撮る等の機能を実装するよりも有益だろうと思う。
同様に「そんなもの(色味等)はレタッチ(編集)を
すれば自在だよ」という発想や手法では、あくまで
編集作業者の想定の範疇を超える編集は出来ない訳
であるので、ある意味、「カメラまかせ」とする事も
偶然性による(≒アンコントローラブルな)表現を
得る上では悪く無いと思う。
なお、モードダイヤルを廻して、アドバンスド
フィルターのモードに設定後、実際のフィルターの
種別を選択する際は、速やか(非常に短時間の間)に
フォーカスレバーのOKを押してメニューを呼び出す。
遅れると、測距点選択になってしまい、測距点ロック
機能(中央固定等)が存在しないので、意図せず、
その位置が変わってしまったりする。
操作が遅れた場合だが、タッチ操作タブのAFモード
が、自動的にフィルターの種別選択に切り替わる
「動的操作系」なので、これを活用し、タッチ操作で
種別を選択すると良い。
タッチ操作を使わない場合は、いったんメニューの
ボタンを押して、同機能のメニュー項目を選択し、
そこから初めて種別の選択が可能となる。これは
かなり手数が掛かるので、好まない操作系だ。
(参考:同社製ミラーレス機、X-T10(2015年)では
まずモードダイヤルに任意の2種のフィルター種別
をユーザーがアサイン可能であり、2種までならば
瞬時に呼び出せる。さらに、このアドバンスド...
モード時において、背面十字ボタンの1つに、予め
Fn(ファンクション)としてアサインしておいた、
フィルター種別選択メニューを簡便に呼び出せる。
だが、このX-T10の比較的優れた操作系であっても
アドバンスドフィルターを使わない通常撮影時では、
十字ボタンでのアサイン済みFnの1つが、完全に
「効能なし」となって、機能が無駄になってしまう。
つまり「動的操作系」では無い事が問題になる訳だ)
ここのフィルムシミュレーションとアドバンスド
フィルターの操作系は、タッチ操作であるか否かを
抜きにしても、なかなか優れている。フォーカス
レバー(又は旧来の十字キー)での、あまり効率的
では無い従前の操作系に比べて、格段に改善されて
いるし、一部、先進的な「動的操作系」の概念も
適用されているので、もしかすると、タッチによる
操作系一式は、カメラ本体とは全く別の設計思想
(専門設計チームや外注企業等)で考案・開発された
ものかも知れない。
(が、できれば、十字キー等の場合も含めて全体の
操作系を大幅改善して貰いたいとも思う)
なお、「他のFUJIFILM機と発色傾向が違う」という点
を気にする意見も聞いた事がある。
まあ、センサーも画像処理エンジンも新型で、かつ
コストダウン型だから、他機と異なるのは当然だ。
だが、ここで述べて来たようにフィルムシミュレーション
を始め、カメラ内部で発色を調整できる要素は、本機
には、いくらでも存在する。
また、本ブログのカメラ・レンズ紹介記事では殆ど
行わないが、現代において、撮った写真は画像編集
(レタッチ)して用いる事は常識だ。
結局、カメラの発色は、そのオーナーの責任範囲であり
カメラのデフォルトでの発色に、あれこれと文句を言う
必要は無いと思う。
<短所(または課題)>
1)一般的なベイヤー配列型センサーであり、
X-Trans CMOSではない。
→これはどういう意味・差異か?と言えば
「ベイヤー配列型センサー」は、RGGBのカラー
フィルターを持ち、「4画素分で1つの色」しか
表現できない。つまり、高画素で撮影した場合
では、演繹補間演算で各画素のRGB値を再現して
いる為に、額面どおりの最大解像度が出ていない。
又、色モアレを防ぐ為、ローパスフィルターが
必要となり、その点でも高解像力が得られ難い。
対して、X-Trans CMOSは、6x6ピクセルを単位
としたランダムなカラーフィルターを用いる事で
規則的な色モアレや偽色が発生し難く、光学
ローパスフィルターを必要としない。
すなわち、X-Trans CMOSの方が、原理的には、
ベイヤー配列型センサーよりも解像感が高くなる。
もっとも、両者の差異は、さほど大きなものでは
無いと思うし、X-Trans CMOSの方がコストアップ
してしまうので、基本的にはFUJIFILMの高級機に
しか搭載されていない(注:稀に、XQ1等の普及機
にも搭載されている/いた)
これらから「XF10は画質が悪い」と言ってしまうと
身も蓋もない。他社機の殆どもベイヤー配列なので、
それらと同等だ。XF10では、あくまでコストダウン
の為に最新のテクノロジーを搭載していないだけ
であるし、X-Trans CMOS搭載の効能も、けっして
驚く程に顕著な差が出る訳でも無い。
対策として、演繹補間処理を行わないと見られる
(注:それでも内部処理の実際は不明である)最大
画素数の1/4(約600万画素)で、常に撮影する事
としている。さらに絞りを若干絞る事で諸収差を
低減すれば、かなりの解像感を得る事が出来る。
絞り込んでも減らない収差には、歪曲収差や倍率
色収差があるが、歪曲収差と倍率色収差が比較的
少ない広角単焦点レンズであれば、絞り込む事で
殆ど全ての(諸)収差、ならびに、周辺減光等の
低減・改善に繋がる。
・・まあでも、この話は、基本的には、あくまで、
被写体の条件に、よりけりであろう。
2)AF速度、AF精度の不足。
→本機は、像面位相差AF機能が搭載されているか
どうか、あるいは、それが有効に機能している
かどうかが? 良くわからない(汗)
一応、「インテリジェントハイブリッドAF」
(TTLコントラストAF+位相差AF)と記載があるが、
その動作条件等の詳細については不明だ。
で、FUJIFILM社製のミラーレス機やコンパクト機の
高級機(注:稀に普及機のXQ1も含まれる)には、
像面位相差AF機能が搭載されている(いた)。
これらは、X-Trans CMOSセンサー搭載である事が
条件な様相だったが、X-A5(2018年)と本機XF10
(同年)に向けて新開発された2400万画素ベイヤー
配列型撮像センサーには、像面位相差機能が
一応は搭載されている模様だ。
だが、これが、なかなかピントが合わない
(速度も精度も)という課題を持っている。
こちらは、解像力の問題より、ずっと深刻だ。
ただ、これもまず、被写体の条件によりけりだ。
あるいは、撮影者のスキルにも大きく影響される。
AF性能が低い課題の回避法においては、まず、
コントラストAF等の原理を、ちゃんと把握している
ユーザーであれば、その機構が苦手とする被写体に
カメラを向け「なんとしてもピントを合わせろ!」
と思う事自体が無謀だ。AFが合わせ易いように
測距点や、その大きさ(面積)と被写体の関係性を
選ぶ、つまり利用者がカメラの弱点をサポートして
上げれば良い。
又、カメラ設定での回避だが、まず「プリAF」と
いう機能があり、これをONすると、XF10は電源
投入後に、常にAFを合わせ続ける状態とはなる。
AF速度的には勿論向上するが、AF精度は、この
設定では上がらない。
そして、カメラを、例えば、近接フォーカス状態
から遠距離被写体に振った際等、AFがジワ~と
動き、その遅さが気にかかる。
又、バッテリーの消耗も気になるであろう。
そして「コンティニュアスAF」(AF-C)では、
シャッター半押し中にAFを合わせ続ける。
これもAF速度向上となるが、AF精度は別問題だ。
なお、本機のデフォルト設定では、AF-C時でも
「フォーカス優先」となっているので、ピントが
合わないとシャッターを切る事ができない。
(これは「レリーズ優先」にすれば解決するが、
そうすると、ピンボケ写真を連発する)
又、測距点をシングルで狭くしている場合等では
AF-Cでピントを外してしまった際に、レンズが
ガタピシと前後するので、やや鬱陶しいし、
AF-SでもAF-Cでも、ピントの後抜け(背景に合う)
も頻発する。
他、「スナップショット」モードは最も有効だ。
これを設定すると、5mまたは2mのいずれかに、
ピント距離が固定され、かつ、絞り値も
5m時でF5.6、2m時でF8に固定される。
この時、AFは動作しないので、ゼロタイムの
即時フォーカスが実現でき、速写性が高い。
かつ、被写界深度は、許容錯乱円を0.03mm
で計算すれば、18.5mmの広角レンズにおいて、
5m/F5.6→約1.5m~∞
2m/F8 →約0.9m~∞
となり、この範囲ではピントを外す事はない。
つまり、銀塩時代から続く「パンフォーカス技法」
の代用となる次第だ。
(参考:本機では、このあたりの被写界深度が良く
計算されて仕様が決められているのだと思われる。
2015年に同社から発売された、FILTER LENS
XM-FL 24mm/F8は、固定焦点パンフォーカス
仕様なのに、被写界深度を計算すると、どうも
∞まで到達していないように思えた。
まあ、このXM-FLは「トイレンズ」の一種だから
その仕様でも良いが、本格的な描写を期待する
本機XF10では、そうはいかなかったのであろう)
なので、スナップショットモードは、極めて
有効であり、Fnボタン等にこれを設定しておけば、
OFF→5m→2m→OFFの、押す度の循環動作により
非常に使いやすいパンフォーカスカメラとなる。
また、絞り値も、少し(F5.6/F8に)絞り込まれ
諸収差低減効果により、解像感も向上する。
絞り開放(F2.8)近くは、近接AF撮影専用とし
中距離、遠距離撮影では、このスナップショット
モードを活用するのが、本機の用法として望ましい。
注意点としては、絞り込まれる事で、低速
シャッター化しやすく、手ブレや被写体ブレの
頻度が高まる事だ。これについては後述のAUTO ISO
感度設定を綿密に行う必要がある。
まあ、総括としては、元々被写界深度が深い広角
レンズなので、AFの性能等をとやかく言う前に、
「そんな事は、撮影者側のカメラ設定や撮影技能で
何とかなるでしょう?」という話だ。
銀塩時代から「広角機は中上級層向け」と言われ
続けた背景には、こういう事もあり、撮影者に
様々なスキルを要求する、という意味でもある。
決して「広角レンズは広い風景を撮るモノ」では
無いので、そもそもビギナー層向けでは無い。
3)手ブレ補正なし
→まあ、ここも言ってしまえば弱点なのだが・・
これの対策としては、ISO感度で調整する事だ。
AUTO ISO時の上限下限感度および低速限界設定が
3種類(AUTO1~3)も!、本機では設定できる。
例えば、私の設定だが、
AUTO1:下限ISO200、上限3200、限界1/ 40秒
AUTO2:下限ISO200、上限3200、限界1/160秒
AUTO3:下限ISO200、上限6400、限界1/ 15秒
となっている。
これは、AUTO1=通常撮影用、AUTO2=動体被写体用、
AUTO3=低輝度(暗所)撮影用、という風に
分類していて、Qメニュー(あるいはFnキー等)で
簡便に、これを被写体条件に応じて切り替える。
なお、一般的には、「ビギナー層における手ブレ
限界シャッター速度は、レンズ換算焦点距離分の
1秒である」と言われている。そうならば本機では
レンズは28mm相当なので、1/30秒あれば手ブレは
しない理屈なのだが、コンパクト機+EVF無し
では、カメラのホールディング(保持)が完璧
には出来ないので、もっと手ブレ限界速度は上がる
であろう。が、中級クラス以上の撮影者であれば、
1/40秒あれば静止被写体では十分だと思われる。
それと、本機には、ややレリーズ・ライムラグ
(シャッター押下後、すぐに撮れない)があるので
スナップショットモードで、シャキシャキと撮って
いる際、レリーズ直後に(もう撮れた、と思って)
カメラを動かしてしまうと、手ブレし易いが、
まあ、そこまで慌てずに撮る必要があるだろう。
要は、ここも「手ブレ補正機能が無いと、ブレて
しまうのが怖い」と言っているのはビギナー層のみ
なので、そうした人達だけが問題となる話だ。
ほんの20年程前までは、世の中には手ブレ補正が
入っているカメラ等は殆ど無かったので、それ
以前から写真を撮っている人達ならば、手ブレ補正
機能が無くとも、なんとでも写真を撮れるであろう。
(注:昔から写真をやっている人でも、手ブレの
原理や限界点を理解しておらず、その対策の為に
常に三脚を使って撮っていたような層では無理だ)
反面、高速シャッター側の限界点だが、
一応は機械式シャッターで、最高1/4000秒だ。
本機のベース感度はISO200なので、日中晴天時
(EV=15)では、絞りF4程度で、だいたい1/4000秒
に到達してしまい、それ以上絞りを開けれない。
(注:手動設定でISO100が使えるが、条件がある)
だが、中遠距離撮影では、前述のスナップショット
モードを用いる事で、少し絞り込まれるので、
シャッター速度オーバーにはならない。
また、カメラ設定で、M+E(機械式+電子式)
シャッターモードにするか、手動で電子式シャッター
を選択する事で、最大1/16000秒のシャッターを
使う事が出来る。しかし、電子シャッターは
動体でのローリング歪みが発生したり、後述の
「機能制限」(=排他仕様)が出てくるので要注意だ。
4)レンズのフィルター溝なし
→保護フィルターやPL/NDフィルター等が装着できない。
一応、サードパーティー製のフィルターアダプター
が売っていた模様だが、現在ではあまり見ないし、
優れたフォルム(格好良さ)が失われてしまう。
面倒でも、付属のキャップを、都度開け閉めする
必要があるだろう。付属キャップには、細い紐を
通して、カメラやストラップに付け、紛失防止は
できるが、この細い紐がキャップに取り付け難く、
結構難儀した。
ちなみに、ストラップは片吊りであり、ここも
どうにも、カメラの保持や可搬性(例:首から
掛けておけない)、耐久性に若干の問題がある。
付属ストラップは皮革製で見栄えが良いが、
実用的観点から、適当な市販品に交換している。
5)撮影モード等による制約(制限)事項が多い
→撮影モードやカメラ設定によりけりで、使えない
機能が色々と出てきて、撮影中「なんでこの機能が
動かない! 故障か?」と慌てる事が良くある。
例えば、連写モードでは、フラッシュが動作しない。
まあ、ここは連続フラッシュは無理なので、理解は
容易であろう。(注:「電子音+フラッシュ」
という、一種の「マナーモード」設定をOFFとした
場合でも、フラッシュは動作しない)
でも、連写モードで「デジタルテレコン」機能が
動かなくなってしまうのは、当初は、かなり慌てた。
他社機では連写時でもデジタル拡大機能が有効で
ある事は、ごくごく普通である。
また、連写モード、かつ、電子シャッター又は
機械式+電子式シャッター設定を用いる場合、
拡張ISO感度(L:ISO100、H:25600/51200)
が動作せず、ISO200~12800に制限される。
これも、良く理由がわからない制限事項だ。
それと、連写モード時に、撮影モードをAdv.
(アドバンスドフィルター)とすると、自動的に
単写となるが、これは撮影モードを絞り優先(A)
等に戻せば、連写モードに復帰する。本来は、
このような挙動が望ましいが、多くの撮影モード
変更において、機能制限が自動復帰する事は無い。
一応、FUJIFILM社のWebには「排他表」と言う、
「こういうモードの際には、この機能は使えない」
という一覧表が出ているが、それは膨大な表で、
とても覚え切れるものでは無いし、かつ、その
排他表に載っていない要素もある(例:前述の、
ISO拡張感度が使える条件等)
(注:この場合の「排他」とは、エクスクルーシブ、
つまり「何かを立てれば、何かが立たない」状態
を示す。ただし、本ブログで良く使う独自用語の
「排他的仕様」とは、自社純正の製品群でシステム
を組まないと、他社製品を混ぜると本来の性能が
発揮できないように制限を掛ける、という「他を
排する、意地悪な状態」を表すことが殆どだ)
まあ、なので「何かの機能が動かない」となったら、
とりあえず、「絞り優先(A)モード」「単写」
「機械式シャッター」の設定とすれば、これで殆ど
の機能制限(制約事項)には、ひっかからない。
ただ、個人的には、多くのデジタルカメラの
基本設定は「連写モード」であるので、単写の
設定の必然性を要求される事は好まない。
そもそも、「排他」の多くは、ファームウェア
のプログラミング上での工夫で回避できる筈だ。
例えば「連写時に使えないモードが存在する」
のではなく、「連写が出来ないモードを利用者が
設定した際には、一時的に連写を止める」で
済む筈だし、事実、一部はそういう仕様となって
はいる。でも、それが全てのケースで、そうした
挙動にはなっておらず、プログラミングが出来る
私の感覚では、どうにもプログラミングの部分で
何かしら、手を抜いているように感じてしまう。
単写と連写等の設定は、専用操作子の「DRIVE」
ボタンがあり、これは比較的簡便な操作性が実現
されているのだが、本機は小型機、かつストラップ
が片吊り(両吊りでは無い)なので、「片手撮影」
というケースも多々存在する。その際に、この
「DRIVE」ボタンが、片手では操作できない、という
課題が存在する。
操作系、操作性については後述する。
6)操作系が練れていない
→これは、ほとんどのFUJI Xシリーズ機や
従前からのFinePix機、あるいは銀塩時代での
FUJIFILM機でも同様の課題があった。
2010年代のXシリーズにおいては、少しづつ
改善はされているようだが、メニュー構造が
階層型で使い難く、かつメニュー位置メモリー
すらも無い(注:電源を切ったら設定項目を
忘れてしまい、常にメニュー先頭からの表示だ。
ただし、「Qメニューで」あれば、項目を編集
した際、次回電源投入時でも、位置を覚えている)
このあたりは、他社機であれば「保存設定」で
色々と設定が可能なのだが、FUJIFILM機では無理だ。
また、本機には、「フォーカスレバー」という
ジョイスティック型操作子が新設されているが、
これは、8方向型ではなく、4方向型なので、通常
又は旧来の「十字操作子」と、そう変わるものでは
無い。若干だが使い易い要素もあるが、連続動作時
等で誤操作もしやすく(例:チャタリングが発生し、
設定したい操作位置よりも、余分に進んでしまう)
あるいは、メニュー操作等での 操作系がタイマー
動作になっている場合では、すぐに測距点選択に
入ってしまう(しかも、測距点ロックが存在しない)
これも同様に誤操作しやすい、という課題に繋がり、
全般的に、この操作子は、どうにも微妙だ。
まあでも、FUJIFILMのコンパクト機のみにある
「コントロールリング」等は、旧来のXQ1(2013年)
等の時代から存在し、使いやすさを感じている。
また、AF+MFモード等では、このリングの効能は
ピント合わせに動的(自動的)に変化する。
(ただし、経年劣化で、接触不良を起こし易い。
また、前述の「排他表」にひっかかる操作を
している内に、せっかくの動的設定が、勝手に
OFFになってしまうケースもある)
まあ、Xシリーズでもコンパクト機は若干マシで
あり、ミラーレス機の方は、まだまだという感じだ。
しかし、コンパクト機においては、前述のように
「片手撮影」を多用するケースも多いので、多くの
操作が「カメラを両手で持ちながら、あるいは
カメラを右手で持ち、左手での操作が必要」と
なる事は、ちょっと不満である。
特に、タッチパネル式操作が増えているが、これも
必ず左手(又は、カメラを左手で持っての右手)
操作が必要となる為、あまり効率的だとは思えず、
前述の、T-Fn機能との誤(混同)作動も気になり、
結局、タッチパネル操作は、フィルター系の選択
の他は、その殆どをOFFとして使っている状態だ。
又、本機では有益な機能である「デジタルテレコン」
は、コントロールリングにのみアサイン可能であり
QメニューやFnボタンには割り振る事が出来ない。
他の有益な機能である「フィルムシミュレーション」
を、仮にコントロールリングに割り振ると、デジタル
テレコンの行き場(アサイン先)が無くなってしまう。
結局、フィルムシミュレーション機能は、Qメニュー
又は、背面モニターのタッチ操作で変えるしか無いが、
操作の手数が増えてしまう。
つまり、他機に無い機能(デジタルテレコン等)は、
本機を使う上で優先的に使う機能な訳だから、その
特徴的な機能を、操作系設計上では優先しなくては
ならない。結局、GUIコントロールのプログラムを
他機と共通にして、開発工数を省力化したが故に、
個々の機体独自の機能を無視している状態であろう。
開発側において、本機の特徴が、あまりわかって
いない設計思想だ。
それから、アドバンスド・フィルター機能の一部
(例:HDRアート)では、撮影・画像処理後に、
「この画像を保存しますか?」という選択メニューが
表示される。これは、そのモードで撮りたくて、そう
設定しているのだから、保存しない筈が無いだろう。
これも、なんだか良くわからない操作系設計だ。
7)ピーキング機能が低精度(低性能)
→FUJIFILM社製の機体全般で同様であり、もう、
どうしようもない。
私が趣味的/日曜大工的に作ったピーキングの処理
(プログラミングシリーズ第3回記事参照)の方が
遥かに高精度である状態なので、大メーカーでの、
ちゃんとした研究開発チームでは、もう少しマシな
アルゴリズムを作って貰いたい、と切望する。
まあ、本機は、MF撮影を多用する仕様や用途では
無いので、この弱点は不問としておこう。
8)バッテリー充電時間が長い
→本機には、急速充電器が付属しておらず、
USB給電での充電となるが、結構時間がかかる。
対策だが、バッテリーの型番はNP-95であり、
これはやや古い時代の、X-S1やX100S等でも
使用されたタイプであるから、それらの機種に
付属(又は、単品販売)の急速充電器(型番:
BC-65N)を使用すれば良い。
(追記:家の部品箱を探していたら、10数年も
前に買ったと思われる「NP-95」が出て来た。
どうやら、2000年代のFUJIFILM機から既に
使われていた、古い仕様のバッテリーの模様だ。
何故、これを現代でも使うのだろうか?ここも
コストダウン要素だろうか? でも、それが
理由でバッテリーの充電が遅いのであれば、
ちょっと納得が行かない措置(仕様)だ)
なお、CIPA規格での静止画撮影可能枚数は、
約330枚である。撮影技法や気温等にもよるが、
その数倍は持つと思う。本機の特性で趣味撮影
では1日で1000枚を超える事は無いと思うので、
まあ、丸1日の撮影には十分持つバッテリーだ。
課題(欠点/弱点)は、だいたい以上である。
なお、本ブログにおける用語の「重欠点」とは、
「撮影者が(技能等で)回避しようが無い欠点」
を示す。
上記のような、本機XF10が持つ課題は、概ねだが
撮影者次第で回避が可能なので、「重欠点」には
ならないものばかりだ。
課題の多くは、「コストダウン的な理由」を
根源とするものであろう。だから、コストダウン
の為に省略された機能や性能(例:手ブレ補正や
AF性能等)については、その回避法を良く考察し、
それらが問題とならない撮影技法を実践しなければ
ならない。
それが出来なければ、「所詮は安物カメラだ!
GRⅢ等の高いカメラには、全く及ばない低性能だよ」
といったビギナー的評価となってしまい、本機に
失望し、早々に手放してしまうハメになるだろう。
低価格機には、低価格である所以(コストダウン要素)
がある訳なのだから、その弱点を回避して使う事を
想定していないとならない。そういう視点で本機を
選ぶ事は必須なのだが、残念ながらビギナー層が
主力となってしまった現代のカメラ市場では、
それを考慮したユーザーレビュー等は皆無に等しい。
まあ、総合的には、弱点を回避して使う上では、
本機XF10のパフォーマンスは高く、加えて、価格が
安価な事から、「コスパ評価」については
近年での高価格化した(=大きく値上がりした)
カメラの中では珍しく、減点評価にはなっていない。
以下、例によって、個人評価データベースを
参考用に掲載しておくが、ここも例によって、
こういう評価項目やその評価点は、個々のユーザー
のカメラの利用法、撮影技能、価値観等によって
大きく異なるものとなるので、あくまで以下は
参考に留めておき、最終的には、利用者自身が、
自分なりの評価を行わないとならないと思う。
<FUJIFILM XF10 個人評価点>
【基本・付加性能】★★★★
【描写力・表現力】★★★★
【操作性・操作系】★★☆
【高級感・仕上げ】★★★★
【マニアック度 】★★★
【エンジョイ度 】★★★☆
【購入時コスパ 】★★★(中古購入価格:33,000円)
【完成度(当時)】★★☆
【歴史的価値 】★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.22点
評価総合点は、標準の3点を超えているので、
まあ、全般的には悪く無いカメラである。
全体的に高機能ではあるが、前述して来たように
コストダウン要素で、機能や性能が省略または
制限されているケースが多いので、その課題を
理解・回避するスキルが必要となるだろう。
ビギナー層向けカメラと思われやすいのだが、
実際の使いこなしは、中上級層向けである。
うまく使いこなせれば、エンジョイ度は低くは
なく、楽しんで撮れるカメラとなる。
他には特筆すべき長所はなく、操作系、完成度、
歴史的価値は、いずれもやや減点とした。
総合的には、大きな弱点(重欠点)も持たないし
近代の高価格化した新鋭カメラの中では、価格も
安価である為、珍しくコスパ評価の減点は無しだ。
初級中級層あるいは初級マニア層あたりに推奨
できるカメラかどうかは微妙である。本機の持つ
様々な弱点をスキル(撮影技能等)で回避できる
ならば、あるいは、そうしようとスキルアップを
目指すならば、悪く無い選択肢だと思う。
----
では、本記事は、このあたりまでで。
いつも書いているように、本シリーズの対象となる
(デジタル)コンパクト機は、2010年代から市場
縮退が著しく、あまり欲しいと思える機体が無い為、
滅多にそれらを買う事は無い。
本シリーズ記事は本記事をもって暫定最終回とする。]]>
完了:コンパクト・クラッシックス
p_chansblog
Mon, 23 May 2022 20:28:33 +0900
2022-05-23T20:28:33+09:00
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レンズ・マニアックス(99)補足編~Voigtlander SL Lens(es)
http://pchansblog.exblog.jp/32594102/
http://pchansblog.exblog.jp/32594102/
<![CDATA[今回記事では補足編として、コシナ社の「Voigtlander」
(フォクトレンダー:原語にある変母音は記載の便宜上、
省略する。以下、本記事内で全て同様)「SLR」シリーズ
(Single Lens Reflex:すなわち、一眼レフ用という意味)
レンズ群を6本紹介する。(注:適宜「SL」レンズと記す。
レンズ型番は、「SLR」ではなく「SL」であるからだ)
なお、コシナ社は1999年より「Voigtlander」ブランド
のカメラおよびレンズの展開を開始(注:この1999年に
ちなみ、本第99回記事で、こうした特集を行っている)
以降、現代に至るまで高性能レンズの開発販売を継続
しているが、今回紹介SLレンズの大半は、Voigtlander
最初期の、2000年代初頭(2000年~2003年頃)に
発売されたものである。本記事でのレンズについては、
特に記載が無い場合、その時期に発売されたもの、と
解釈して貰えればよい。なお、SLRシリーズの変遷は
ややこしいので、適宜、記事中で説明をしていく。
----
では、最初のSLレンズ
レンズは、Voigtlander APO-LANTHAR 180mm/f4 SL
Close Focus(新品購入価格 54,000円)(以下、APO180/4)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)
2003年に発売のMF単焦点望遠レンズ。
最初期のSLシリーズレンズ(2000年~2003年の発売)
は、まだ銀塩時代であった為、様々なMF一眼レフ用
マウント(F(Ai),FD,PK,MD,OM,Y/C,M42等)
での発売であった。
しかしながら、世の中はデジタル時代へ突入する寸前で、
しかも、新規デジタル一眼レフのマウントは、AiAF、
EOS EF、α、KAF、4/3となっていた為、これらの古い
MF一眼レフ用マウントのレンズは、この時代であっても
既に中上級マニア向け(まあ、一般的には「時代遅れ」
とも言えよう)であった。
また、マウントが分散されてしまった為か? 各マウント
での生産数は極めて少なく(推定、各1000本以下?)
人気のあった一部のSLシリーズレンズ機種を除き、以降
の継続生産もされなかった為、初回ロット(生産分)が
はけてしまうと、もう後年では、これらを入手する事が
大変困難となってしまっていた。
その為、生産終了から10年も経った2010年代後半から
本APO180/4や後述のMAP125/2.5等の、特にレアな
レンズは、哀れ「投機対象」となってしまい・・
概ね発売時定価の2倍(本APO180/4が発売時実勢価格
約5.5万円に対し現行相場は約10万円、MAP125/2.5は
発売時定価約9.5万円に対し、現行相場は約19万円)
という不条理な迄に高額な中古相場で取引されている。
何が「哀れ」か?と言えば、これらのSLRレンズ群は、
現代の機材環境においては、使いこなしがとても難しい。
初級中級層では、お手上げに近い状態になると推察される
為、これらのレンズを入手した所で実用価値は低い訳だ。
まあつまり、実用に値しなければ、また転売(投機)対象
になってしまう訳であり、それを繰り返しても、売却
価格は、必ず下る状態であろうから、買った人は、必ず
転売損失を出してしまう。
実用品としてガンガン使うならば、相場価値の下落は勿論
無視できるのだが、実用レベルに満たなければ、これは
もう、無駄な買い物となる。まあ、だから「哀れだ」と
称した訳だ。
これらを買って、ちゃんと使いこなすには、高いスキルが
要求される、しかも高額相場であり、そこまであれこれと
無理をして買う位ならば、代替できる現代レンズは、他に
いくらでも存在する訳だから、そっちを買う方が現実的だ。
さて本APO180/4であるが、「Close Focus」という名称
が型番についている。これは「マクロとまでは呼べないが
寄れるレンズです」という意味であり、フォクトレンダー
製SLレンズでは、本レンズと後述のAPO90/3.5の2本のみに
付けられた名称だ(注:別途「Close Focus」と呼ばれる
ヘリコイド内蔵型マウントアダプターが存在している)
最短撮影距離は1.2m。マクロレンズを除く180mm
単焦点望遠レンズとして、トップ(クラス)の性能だ。
最大撮影倍率は1/4。ただし、本レンズは、その近接性能
を活用する為、μ4/3機で使用するケースが大半であり、
μ4/3機の通常モードで、360mm/F4、最大1/2倍。
同テレコン2倍モードで、720mm/F4、最大等倍となり、
これは望遠~超望遠マクロと等価であり、自然観察撮影や
野鳥撮影等において、高い被写体汎用性を持つ。
弱点は、あまり描写力がスペシャルという訳では無く
比較的平凡な描写力な事か? 特に、同時代の他のSLR
シリーズレンズ群と比較すると、本レンズは最も凡庸な
描写力に感じてしまう。
なお、APOと名がつく数機種のレンズでは、異常低分散
ガラスレンズを、1枚ないし2枚採用している。
ただし、コンピューター光学設計が未発達な時代でも
あった為、特殊硝材の利用は、元々ある基本的な光学系
での特定の収差(例:軸上色収差)を低減する目的で
あり、近代的な光学設計のように、特殊硝材や非球面
レンズの大量使用を予め想定して、諸収差の発生を
徹底的に低減するような設計手法では無い。
まあ、これは当時としては普遍的な設計手法ではあるが、
こうしたレンズをクラッシックな外観としたとした事が
ちょっとしたポイントであり、外観は古臭いが、中身の
光学系は新しい、という「ギャップ」感が面白い。
発売当時としては、SL系レンズは高描写力であったとは
言えるが、やはり現代的設計に比較すれば古さは隠せない。
これらを、余りに高価な「投機相場」で買ってしまうと、
物凄くコスパが悪くなるので、くれぐれも要注意である。
以下、参考の為に、各時代におけるSL(R)系レンズの
SL型等の年代別の特徴・仕様を纏めておく。
<SL(R) LENSの年代別特徴・仕様>
SL型:2000年頃~2007年頃の生産。
・各種MFマウント(Ai/FD/PK/MD/OM/YC/M42)
(MAP125/2.5のみEFおよびα用電子接点付き版有り)
・超広角はFマウントのみ。Fマウント版はCPU非搭載。
・多くの機種が、このSL型のみで生産終了。
・非球面や特殊硝材の使用は、あっても1~2枚程度。
(→つまり、現代レンズ程の高描写力では無い)
SLⅡ型:2007年頃~2012年頃の生産。
・マウントはAi/EF/PKのみ。Fマウント版はCPU搭載。
・小型化や薄型化を目指した設計思想である。
・定価は5万円程度とローコストであった。
SLⅡN型:2012年頃~2016年頃の生産。
・マウントはAi/EFかAi(F)マウント版のみ。
・外観が変更→同時代のμ4/3機用NOKTONに類似。
・機種数は減り、28/2.8、40/2、58/1.4のみ。
SLⅡS型:2016年頃~の生産。
・マウントはAi版のみ。(勿論だがCPU搭載)
・外観を1960年代のNIKKOR(AUTO)と全く同等に
している(しかし、勿論だがAi-S対応だ)
・レンズ先端色の銀色版と黒色版を選べる。
・しばらくの期間40/2と58/1.4のみの生産であった、
生産終了となっていた28/2.8は、2021年より
再生産が開始されている。又、同2021年に
90/2.8のラインナップが追加された。
・40/2と28/2.8で大幅な最短撮影距離の短縮の
措置が行われているが、内部光学系は旧型と
同一であり、ヘリコイドの繰り出し量が伸びて
いる改良である。
・これらの定価は60,000円~68,000円+税と、
旧型より時代に応じて少しづつ値上げされている。
なお、本記事の文末に、各SL(R)レンズの「年表」を
掲載している。
それと、各レンズの製品名では「SL」であるが、
全体のシリーズ銘はSLR(Single Lens Reflex)Mount
Lenses となっている。
----
では、2本目のレンズ
レンズは、Voigtlander ULTRON 40mm/f2 SLⅡS
(新古購入価格 38,000円)
カメラは、CANON EOS M5(APS-C機)
本レンズは、短期間生産が殆どのSLレンズ群の中では
珍しい「ロングセラーレンズ」であり、その歴史は、
SL版(2002年)、SLⅡ版(2008年)、SLⅡN版(2012年)
そして、本レンズSLⅡS版(2017年)となっている。
ちなみに、2000年代後半に発売されたSLⅡ型という
シリーズでは、まず、発売マウントが、それまでのMF
一眼レフ用マウントでは無く、NIKON Ai-S、CANON EF、
PENTAX Kという、当時主流であったデジタル一眼レフ
向けマウントに改められている。(まあ、前述の通り、
初代SLシリーズ発売時点でさえ、銀塩MF一眼レフ用の
マウントでの販売は、既に「古さ」を感じていた訳だ)
そして、例えばNIKON F(Ai-S)マウントのレンズだが、
この2000年代前半~中頃の時代のNIKONデジタル一眼
レフにおいては、レンズからの情報が伝達されない場合、
「レンズ情報手動入力」の機能を持つカメラで無いと、
まず使用する事が出来ない。この機能は「仕様的差別化」
により、NIKON高級機(例:Dヒトケタ、D三桁シリーズ)
で無いと使えなかった。まあつまり、NIKON D二桁機や
後年のD四桁機(の一部)は、「安物のカメラだから、
オールドレンズや他社MFレンズは使えませんよ」という
非常に意地悪な(ニコン側での)仕掛けである。
こういう「仕様的差別化」をする事自体が、まず問題
ではあるが、コシナ社では、この課題に対応する為、
SLⅡ型のレンズから、NIKON F(Ai-S)マウント版では
NIKON製のカメラ本体側に対しレンズ情報を伝達する為の
部品(一般に、CPUやROMと呼ばれている)を搭載した。
これで、NIKON D二桁機(例:D70/D80/D90等)等
でも、Voigtlander SLⅡ型レンズが使える。
(注:ただし、これも仕様的差別化による、低価格機での
ファインダー&スクリーンの劣悪な性能により、これらの
レンズを低価格機でMFで使用する事は、大変困難である。
ここもまた、「安いカメラを使うな、高いカメラを買え」
という製品戦略そのものであり、決して賛同できない)
なお、この課題の解決法は簡単であり、NIKON F(Ai)
マウント版のVoigtlander SL系レンズを購入しても、
決してNIKONデジタル一眼レフでは使わず、後年の
ミラーレス機等で、NIKON Fマウントアダプターを
経由して使う事だ。そうすれば、SLだろうがSLⅡだろうが
電子接点を無視して、関係無く使用する事ができ、かつ、
やりにくいMF操作も、近代のミラーレス機に備わる優秀な
ピーキング機能頼りで使ってしまえば、全く問題は無い。
(注:今回使用のケースのように、NIKON F(Ai)のレンズ
を、CANON EOS M5で使う事が出来る)
それどころかNIKONの一眼レフ全機種には入っていない
「手ブレ補正」も、一部の(他社)ミラーレス機であれば、
焦点距離情報の手動入力により、それが有効となる訳だ。
まあそれでも、「NIKON F(Ai)マウント版を買っても、
NIKON機で使用しない(使用したくない)」というのも、
なんとも矛盾のある話だが、このあたりの原因は
全てNIKON側の不条理な仕様にある為、やむをえない。
さて、本ULTRON40/2に関しては、私は最初期のSL版を
所有していたが、事情があって譲渡してしまっていた。
次に入手したのは、15年も後の本SLⅡS版であった。
再購入の理由は、本SLⅡS版では最短撮影距離が25cm
まで短縮されていて、準マクロレンズとして使用できる
他、40mmの実焦点距離を持つレンズの中では、本レンズ
が最も寄れる(注:40mmマクロを除く)レンズであり、
その歴史的価値の高さを鑑みての事であった。
ただ、光学系は、全てのULTRON40/2系で同一な為、
近接撮影を行わないならば旧機種でも十分と言えるが
(注:一部のバージョンでは「クローズアップレンズ」
が付属されている)生憎、本レンズも「セミレア」な
レンズな為、旧機種でも中古相場が、あまり下落して
いない(つまり、最新型を買っても値段の差は少ない)
ただ、現行販売機種である為、幸いにして「投機対象」
にはなっておらず、3万円台という適正な中古相場で
いつでも購入する事は可能であろう。
(注:近年では中古流通は極めて少ない。こういう
「マニア必携レンズ」の流通数が潤沢で無い事自体、
マニア層が激減してしまっている状況が推測できる。
現代での主力ユーザーである超ビギナー層等では、
「フォクトレンダー」自体、全く知らない事であろう)
総括だが、基本的には、悪い性能のレンズでは無い為、
マニア層であれば購入に値するレンズであると思われる。
近接撮影用途の有無、および各年代でのバージョンは
外観デザインが大きく異なる為、用途と好みに応じて
バージョンを選択するのが良いであろう。
----
では、3本目のレンズ
レンズは、Voigtlander COLOR-HELIAR 75mm/f2.5 SL
(新品購入価格 43,000円)(以下、CH75/2.5)
カメラは、SONY α7S(フルサイズ機)
2000年代初頭の最初期の生産分だけで、ディスコン
(生産中止)となってしまったレンズの為、大変な
レアものである。中古は2000年代を通じて1~2度
しか見掛けた事は無く、現代において入手する事は
恐らく、大変困難であろう。
海外のマニア層のレビューであったか?本CH75/2.5と、
PENTAX製の、smc又はHD型番のDA70mm/F2.4の
「両者のレンズ構成が同一だ」という指摘があった。
まあ確かに、図面(構成図)だけを見れば、そこには
レンズの寸法は記載されていない為に、「類似して
いる」と、単純に思ってしまうのかも知れないが・・
本レンズはフルサイズ対応、DA型はAPS-C機専用で
ある為、まずレンズのサイズ感が大きく異なっている。
両者の比較検証(本シリーズ第47回等)記事においては、
「両者の描写力は確かに似ている、しかしながら
フルサイズ用とAPS-C機専用では、そもそも用途が異なる。
さらには、両者とも、銀塩時代の小口径標準レンズの
50%スケールアップ・ジェネリックである可能性が高い」
と結論を述べている。
すなわち、過去の完成度の高いレンズ設計を流用した為、
両者は極めて類似したレンズ構成となったのだろう。
これらを「コピー品だ」と言うならば、大元の1970年代
頃の各社の50mm/F1.8小口径標準は、殆ど全てが、
酷似した5群6枚変形ダブルガウス型構成である。
この光学系は、当時から「完成の域」にあり、長期間
設計を変える必要もなく、一部は近代迄、この構成の
小口径標準レンズの製造販売が継続されていた。
まあつまり、本CH75/2.5については、
「昔からの定番の光学系を拡大した設計手法であり、
悪い描写力ではないが、比較的平凡な描写傾向なので、
これを代替できるレンズは、世にいくらでもある為に、
本レンズ(やDA70/2.4)でなければならない理由は無い」
・・という事で、かなりのレアものとなっている本レンズ
を必死に探したり、稀にあっても、高額な投機相場と
なっている場合には、無理をして入手する必要は無いで
あろう。
仮に、たまたま安価に見つけた場合のみ、上級マニア層
向けとしての推奨品となる、という感じか・・
----
さて、4本目のレンズ
レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 125mm/f2.5 SL
(新品購入価格 79,000円)(以下、MAP125/2.5)
カメラは、CANON EOS 6D(フルサイズ機)
レアものである。いったい、どこがどういう訳なのか?
酷い投機対象レンズとなってしまい、現代で本レンズは、
19万円前後という、発売時定価(95,000円+税)の
約2倍という、不条理な超高額相場だ。
まあ、近代(2016年断層以降)の「APO-LANTHAR」は
極めて高い描写力を発揮する。その為、COSINA社でも
「APO-LANTHAR」(アポランター)を、高性能レンズ
としての「称号/ブランド」として扱いたいのだろう。
メーカー側としては、そういう市場戦略で良いが、
消費者側として、昔のアポランターを含め「その名前
がついていれば、なんでもかんでも銘玉だ」と考えて
しまうのは、変な(誤った)考え方だ。
それでは、例えば「セザンヌ」という画家の絵ならば、
「全てが、お洒落な名画なのだ」という風に、その名前
から来る印象や感覚的な雰囲気だけで、そう思い込んで
しまうようなものだ。
なお、「APO-LANTHAR」の「LANTHAR」とは、その
開発の時代(旧フォクトレンダー社、1950年代)に
ランタノイド(Lanthanoid)系の元素をガラスに
混ぜた事に由来すると思われる。これの説明は、長く
なるので、いずれまた詳しく述べる。
それと、本ブログの過去記事で「LANTHER」の誤記が
あるかも知れない。できるだけ「LANTHAR」に直した
つもりだが、全ては修正できていないかも知れない。
(ちなみに、先日COSINA社から到着した2022年版の
総合カタログの、Web版の草稿にも、正:LANTHAR
誤:LANTHER の誤記があった。私も、それを参照して
製品名を打ち込んだ状況もあった。なお印刷版の
カタログでは、正しくLANTHARに改められていた。
Lanthanoidだから、LANTHARが正しいという事だ)
名前から来る印象だけで、不条理な高額相場になって
しまっている状況には賛同できないし、
以下の3つの理由からも、本レンズは推奨できない。
1)本レンズは使いこなしが大変難しく、
本シリーズ第11回~第12回「使いこなしが難しい
レンズ特集」において、ワーストワンの低評価である。
2)投機対象品となり、中古相場が高額すぎる。
2000年代での私の新品購入価格が、税込み79,000円
その後、2000年代後半に、神戸の中古専門店で
逆輸入新品(何本もあった)が、48,000円で売られて
いたにも関わらず、「もういらないよ」と判断して
買わなかったくらいだ。まあ、つまり、3~4万円
程度の価値しか無い、と見なしている。
3)2018年に、17年ぶりの後継新製品である
「Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 110mm/f2.5」
が発売されていて、そのレンズであれば、この旧型の
弱点の多くが解消されているので、そちらを買った
方が望ましい。(注:SONY FEマウント版である)
そちらも販売本数が少なく、中古流通も玉数が少ないが
現行製品であるから、気長に中古を待つか、あるいは
ちょっと無理して新品入手する手段もある(そうしても、
本MAP125/2.5の高額中古相場よりも安価である)
まあ、そんな感じである。
本MAP125/2.5を、現代の高額投機相場で入手すべき
必然性は全く無い。
ただまあ、ダメダメなレンズという訳ではなく、そこそこ
(かなり)良く写るマクロレンズではある。
ただし、繰り返し述べているように、本MAP125/2.5は
私が「修行レンズ」と呼んでいる位に、使いこなしに
苦労が伴う。その為、長時間の撮影は、まず集中力が
持たず、その点でも「必要度」や「エンジョイ度」の
評価の低いレンズとなってしまう。
新型MAP110/2.5も、やや「修行レンズ」傾向はあるが、
本MAP125/2.5よりずっとマシであるし、描写力自体も
新型MAP110/2.5は、コントラストの高い深みのある
優れた描写力を得られる為、そちらがやはりオススメだ。
----
さて、5本目のSLレンズ。
レンズは、COSINA 復刻TOPCOR 58mm/f1.4
(新品購入価格 44,000円)(以下、復刻TOPCOR)
カメラは、OLYMPUS PEN-F (μ4/3機)
元々は、東京光学(トプコン)の1960年代の名レンズ
「トプコール(Topcor)58mm/F1.4」を、2003年にコシナ
社がフォクトレンダーブランド(? 正確に言えば、
Voigtlander名はついていない)で復刻限定版として、
(NIKON AiおよびM42で、各限定800本)で発売した
レンズではあるが・・・ これは後年に外観変更され
Voigtlander NOKTON(ノクトン)58mm/F1.4となり、
以降では、フォクトレンダーSLレンズの、定番の
ラインナップ(現行品として生産継続中)となった。
さらに、2016年版のNOKTON 58mm/F1.4 SLⅡS
では、前記ULTRONと同様に1960年代のMF版NIKKOR
のデザインを踏襲し、リムの色も黒と白が選べる等、
とてもマニアックな製品となっている。
ただ、気になるのは、本復刻TOPCORは、フィルター径
がφ58mmであったが、NIKKOR風デザインのSLⅡS型
では、当時の(MF)NIKKORが、ほぼφ52mmのフィルター
径で統一されていた為・・
(注:これは設計における「標準化思想」の一環であり、
当時の高度成長期の日本であれば、大量生産の効率化や
ユーザー利便性により、こうした「標準化」は、優れた
思想であり、一種の美徳でもあった。
---
これはNIKONのみならず、当時のCANONもFD系レンズで
同様の標準化思想が見られ、又、1970年代のOLYMPUS
OM-SYSTEMにおいては、さらに強い標準化思想が顕著だ。
だが、その後の時代で、国内の製造業が衰退すると、
こういう「標準化」のノウハウも失われ、各社のレンズ
のフィルター径はバラバラ・マチマチになってしまった。
これはユーザー利便性を損なう為、良くない傾向である。
---
・・が、ごく近年、2010年代後半よりTAMRONにおいて、
多くの単焦点レンズをφ67mmのフィルター径で統一
する様相/傾向が見られ、これは好ましく思う。
例えば、ごく単純な話をすれば、保護フィルターやND
フィルター、他の特殊なフィルター等の使いまわしが
すごく楽であり、ユーザー利便性が高い。
---
そのフィルター市場だが、2019年頃から、もう安価な
製品を全て生産中止として、新製品は、どれも恐ろしく
高価(1万円等)であり、中古レンズが1本買えてしまう
程の高価格だ。
まあ、交換レンズ自体が市場縮退で殆ど売れていない為、
フィルターもやむなく値上げをせざるを得ないのだろうが、
この価格帯では様々な径でフィルターを揃えるのは無理だ。
「売れないから値上げする」では、あまりに無策では
無いだろうか? カメラもレンズもフィルターも全て同様
であり、企業努力や市場開拓の方法論が足りないと思う。
まあだから、レンズ市場においては新鋭の海外製(中国製)
等の格安レンズが付け入る隙が出てしまう訳だ・・)
・・で、NIKKORがφ52mmで統一されていた為、この
NOKTON 58/1.4 SLⅡS も、その意匠(デザイン)に
合わせてφ58mm→φ52mmに小型化されている。
(注:内部光学系は本復刻TOPCOR以降、NOKTON58/1.4
シリーズにおいて、変更されていない)
当該SLⅡS版は所有していない為、詳細の言及は避けるが
1980年代に、MF一眼レフの小型化競争が起こった際、
(1972/3年のOLYMPUS M-1/OM-1と1976年のPENTAX
MXが、MF一眼レフの小型化競争の発端となった歴史だ)
各社は、それまでのMF単焦点レンズの小型化を行い、
一部のレンズでは、小径化により描写性能を落として
しまった実例が、いくつか散見される為、個人的には
フィルター径の小型化は、あまり歓迎できる改善とは
見なしていない。
・・まあ、その話はさておき、本復刻TOPCORであるが、
MF大口径標準レンズ(50mm/F1.4級)の設計の完成度
が高まる(1980年代)以前の時代(1960年代)の
設計を踏襲したものである。(→つまり、古い)
したがって、色々とオールドレンズと同等の弱点を
抱えている(参考記事:最強50mm選手権シリーズ
第1回MF50mm/F1.4(1)、第5回MF50mm/F1.4(2)、
第3回AF50mm/F1.4(1)、第6回AF50mm/F1.4(2)等
で、この時代の殆どの標準レンズを紹介している)
オールド標準レンズの特徴(長所短所)を、ちゃんと
理解し、課題を回避しながら使うのは、少なくとも、
中上級マニア層以上のスキルが必要となる。
本復刻TOPCORや後継のNOKTON58/1.4では、その事が
わかっていない状態で、レンズの言うがままに撮影すると、
ボケボケの酷い写りを頻発してしまうので、物凄く注意
(というか、ちゃんと撮る為の技能)が必要だ。
同様に評価のスタンスも注意が必要であり、これが
オールドレンズの復刻版である出自を知らないで
「口径食が出る」だの「色収差が出る」だのと評価
しても完全に無意味である。
「オールドレンズを志向する」というのは、まずその
弱点を把握し、許容あるいは回避、応用(や逆利用)
する事から始まる。だがこれは高難易度な話であり、
初級中級層では、まず対処不能だと思う。
NOKTON58/1.4シリーズが現行製品である為、中古等
で各年代の、本光学系のレンズを入手するのは、さほど
困難では無いが、中級層以下では使いこなせないであろう。
まあつまり、上級層以上、または実践派上級マニア層の
御用達レンズであり、一般層に推奨できるレンズには
成り得ないという状況だ。
----
さて、次は今回ラストのSLレンズ。
レンズは、Voigtlander APO-LANTHAR 90mm/f3.5 SL
Close Focus(新品購入価格 47,000円)
(以下、APO90/3.5)
カメラは、FUJIFILM X-T1(APS-C機)
これは、少しだけ継続生産されたレンズで、後年のSLⅡ
型では、ずいぶんと小型軽量化された模様だ、本レンズ
は最初期のSL型であり、後継型は未所有である。
非常に優秀な設計のレンズであり、発売当時のカメラ誌
等では、本レンズの描写特性を実測し「無収差レンズ」
という評価を下していた事もあった。
私は、個人的に他者の評価を信用する事は無い。撮影目的
も撮影技能も個々に異なるだろうし、ましてや雑誌記事等
でスタティック(静的)に、歪曲収差やMTF特性を実測
したところで何の意味があるのだろうか?と、いつも疑問
に思っている。まあ、そんなデータは設計側では百も承知
で設計をしている訳であり、設計側のコンセプト上では、
全ての収差を補正する事は、まず無理であるから、レンズ
の実用シーンを考えて、どの収差を優先的に補正して設計
するかを決める訳だ。
その設計思想を理解していないユーザー層や評論家層が
いくら、「このレンズは歪曲収差が発生する」とか言った
としても、実用上で、真四角な被写体など、撮ろうとも
思わない大口径中望遠レンズ等では、意味の無い評価では
なかろうか? まあつまり「評価の視点」と「設計上の
コンセプト」が、ずれまくっている訳だ。そんな評価が
参考になる筈も無い。
ただまあ、本APO90/3.5が「無収差レンズ」と評価
された事については、私は同意していた。その当時、
(発売直後に新品購入した)本レンズを、しばらく使って
いて、描写力上の不満を感じた事は、一切無かったからだ。
諸収差をバランス良く低減させる事に成功した最大の
理由は、開放F3.5と口径比を抑えた事からである事は
明白であった。いくつかの収差は、レンズの口径比(≒
開放F値)が明るくなると、その何乗もの比率で急激に
増大して、手に負えなくなる。そう、本APO90/3.5では
開放F値を犠牲にしても、収差を補正して描写力を優先
した訳である。
だが、当時の消費者層においては、「解放F値(注:
勿論だが、開放F値の誤記)が暗いレンズは低性能の
安物のレンズだ!」という誤解が蔓延していた為に、
本レンズは注目されず、結果的に販売数も少なく、後年
においてはレア物(希少品)となり、現代においては
残念ながら若干の投機的高額相場となってしまっている。
でも、中望遠レンズでは人物撮影を始め、背景をボカ
した被写界深度の浅い写真を撮りたいと思うケースも
多々あるだろう、その際に、開放F3.5では、ボケ量が
不足してしまう事は否めない。
しかし、本APO90/3.5では、高い描写力を持つ為、
最短撮影距離を短くしても、設計基準上での画質限界点・・
(注:「設計基準」という用語の内容には、非常に多数の
項目・意味を含む為、中級マニア層等が良く言う・・
「マクロレンズでは、最短撮影距離付近で高画質を得て、
通常レンズでは無限遠で最高画質が出せるように設計する、
これを”設計基準”と呼ぶ」という解釈は誤りである。
確かにそれは非常に多数ある「設計基準」の1つではあるが、
「設計基準=距離基準」という逆向きの解釈は成り立たない。
まあつまり、設計業務の実務に造詣が浅い人(評論家等)が、
実際のエンジニア等から聞きかじりで覚えた専門用語、
でしか無かった、といういきさつであろう・・)
・・で、本APO90/3.5では、その設計基準上での画質
限界点に余裕がある為、最短撮影距離を50cmまで短縮
する仕様とする事が出来、本レンズにも「Close Focus」
(≒近接撮影)という名称が与えられた。
これで、近接撮影に限っては、浅い被写界深度が得られ
ない、という不満は解消でき、準マクロレンズとして
使用する事が出来る。最大撮影倍率は、フルサイズ機で
1/3.5倍であるが、現代の機材環境では、小センサー
の母艦の使用やデジタル拡大機能の併用により、レンズ
自体の最大撮影倍率のスペックは、さほど重要では無い。
まあつまり、殆どマクロレンズとして活用できる訳だ。
ただ、この状態でも中距離撮影では、多大なボケ量を
得る事はできない、開放F値がF3.5だからだ。
しかし、本レンズが発売された銀塩末期とは時代が
異なり、現代においては初級中級層等であっても、
85mm/F1.4~F1.8級のレンズくらいは、持っていても
不思議では無い時代である。銀塩時代のそれらは、
ほとんど人物撮影の業務用途専用のレンズであったが、
有料モデル撮影会等が増えて来た為、特に撮影という
行為に特定の目的を持たない初級中級層等が、そうした
有料モデル撮影会等に行くケースも増え、そうなると
他の参加者に負けないようにと、85mm/F1.4級レンズ
等を志向するケースが増えてきているからだ。
「85mmレンズ=人物撮影用」という話も、その昔の
1970年代~1980年代において、(レンズ)メーカー
やカメラ流通市場が、交換レンズの販売促進を目指し
28mm=風景,35mm=スナップ,50mm=汎用,85mm=人物
という、一種の「キャッチコピー」(広告戦略)を
行った為、当時から現代に至るまで、その販売戦略
の悪影響が残ってしまっていて、初級中級層等でも
「今度、モデル撮影会に行くから、85mmレンズを
買わなくちゃ」と、周囲の先輩、ネット等からの情報、
店舗販売員のセールストーク等に乗せられて、高額な
ほぼ業務用途のレンズを買わされてしまう訳だ。
勿論、人物撮影では、どんなレンズを使っても問題は無い。
ただ、見ず知らずの異性間においては、警戒距離
(パーソナル・スペース等と呼ばれる。約70cm以上)
を維持しないと、なかなか緊張感は抜けてこないし、
あるいは、近年のコロナ禍から始まった社会的距離
(ソーシャル・ディスタンス。約1.8m以上)の概念
を保つ為には、広角レンズ等で、ものすごく近接した
人物撮影は、まず出来ず、やはり中望遠(フルサイズ
換算で85mm~135mm程度の焦点距離)レンズが
人物撮影に適するのは確かであろう。
ただまあ、それでも「人物撮影は85mm/F1.4でなくては
ならない」という強い理由は無いと思うし、それどころか
そういう風潮を助長するかのように、新製品の85mmレンズ
が発売されると、専門評価者層等は、判で押したかのように
美人の職業モデルを雇ってのポートレート撮影をするだけで
「良く写るレンズですね、はい、オシマイ」という評価
ばかりである。まあ、それでは、レンズの特性など、何も
わからないだろうし、それを読んだ消費者層も「美人モデル
を雇って撮影する事が正当なのだ」と勘違いしてしまう。
・・なんともつまらない話だ、程ほどに留めて置こう。
総括だが、本APO90/3.5は、セミレアレンズである為、
いくら描写力が高いとは言え、推奨できない。
又、変に褒めると、投機対象となってしまい、高騰して
しまう恐れもある。(注:既に少しヤバい状態だ)
本記事で紹介した、いずれのVoigtlander SL系
レンズであっても、記事中で記載している私の購入価格
よりも高騰している場合は、もう一度、それでも入手
する価値があるか無いかは、良く検討する必要があると
思われる。基本的に私は、コスパが悪いと見なす製品は
まず購入しない為、私が購入した価格は、それすなわち
自分なりにコスパが許容できる限界点である。
中上級マニア層等では、個々に自分なりの「価値感覚」
や「価値観」を持っているだろうから、自身で判断すれば
良いと思うが、初級中級層や、初級マニア層では、
わざわざ、使いこなしが難しいVoigtlander SL系レンズ
を高値(投機的相場)で購入する必然性は、まるで無い
ので、推奨しない事としておく。
なお、本記事で紹介したレンズ以外の他のSLシリーズ
製品では、以下のようなものがある。
まず、最初期のSLシリーズにおいては、
ULTRA-WIDEHELIAR 12mm/F5.6 Aspherical SL
SUPER-WIDEHELIAR 15mm/F5.6 Aspherical SL
の超広角系レンズが存在するが、Fマウントのみで、
ミラーアップが必要等、面倒に見えたので未所有だ。
また、次世代のSLⅡ(/N)シリーズレンズでは、
COLOR-SKOPAR 20mm/F3.5 SLⅡ(N) Aspherical
COLOR-SKOPAR 28mm/F2.8 SLⅡ N Aspherical
があるが、これも未所有。
(注:28/2.8は、いったん生産終了となっていたが
2021年に最短撮影距離を短縮した仕様で再生産が開始)
まあ、これら広角系のSLレンズは、既にデジタル
時代に入っていた為、本来の(超)広角画角が
当初のAPS-C機ばかりのデジタル一眼レフでは
生かせない為、銀塩一眼レフ専用、という風に
思っていたので、購入をしなかった訳である。
それから、2021年末には、新系列レンズとして、
APO-SKOPAR 90mm/F2.8 SLⅡS
が発売されているが、現状未所有である。
現代においても、フルサイズ機で使用するか、APS-C以下
の機体で、これらVoigtlander SL系レンズを使用するか
の差異により、どのレンズを、どんな目的で使うか?の
方法論に強く影響が出ると思うので、購入前の検討は
慎重に行う必要があると思う。
---
参考:SL型とか、SLⅡS型とかがややこしいので
SL(R)レンズの全てを年表形式で纏めてみよう。
注1:各レンズの塗りつぶしよる販売期間の年代は、
表計算ソフトの都合上、1年ほど前後に誤差がある。
注2:SL(R)系レンズでは、全販売期間を通して
継続生産されているものは極めて少ない。
これが、一部のレンズが投機対象となる原因であろう。
しかし、高々15年程度前の話だ、生産終了後も数年間
は在庫品販売期間があっただろうし、さらに後年でも
中古流通はあったので、必要と思うのであれば、それが
流通している期間に、何としても入手しておくべきだ。
何故、手に入らなくなった頃に「欲しい」と言い出し
高値相場取引を甘んじてしまうのだろう?理解不能だ。
----
では、今回の補足編「Voigtlander SL Lens」編は、
このあたりまでで。
次回レンズマニアックス記事に続く・・
]]>
連載中:レンズ・マニアックス
p_chansblog
Sat, 21 May 2022 06:23:43 +0900
2022-05-21T06:23:43+09:00
-
オールド・デジタルカメラ・マニアックス(12)ミラーレス編(5)
http://pchansblog.exblog.jp/32591707/
http://pchansblog.exblog.jp/32591707/
<![CDATA[所有している古いデジタルカメラ(オールドデジタル機)
を、順次紹介していくシリーズ記事の最終回。
今回は「ミラーレス編(5)」とし、紹介機は、
2015年~2018年の期間に発売されたミラーレス機を
5台とする。
だが、近代の、この時代のミラーレス機は、
もう「オールドデジカメ」という様相では無いので、
カメラ本体の説明よりも、本シリーズ記事での裏の
テーマである「オールド(デジタル)カメラとは?」
という点についての纏めを行っていこう。
今回の記事でのミラーレス機に装着するレンズは、
2010年代に発売された、ミラーレス機用、又は
一眼レフ用レンズを選択する。
---
では、今回最初のミラーレス機。
カメラは、FUJIFILM X-T10(APS-C機)
(2015年発売、発売時実勢価格約9万6000円)
(中古購入価格 33,000円)
紹介記事:ミラーレス・クラッシックス第18回
レンズは、Meike (MK)12mm/f2.8
(2019年頃発売)を使用する。
FUJIFILMのXマウントにおいて、ユーザー側
ラインナップ(=使用するカメラやレンズ群)を
整備するのは、なかなか困難だ。
その理由は、いくつかあるので列記しておこう、
1)ミラーレス後発であり、機体の性能が低い
→AF性能、MF性能、機能不足、操作系の不備
2)発売直後の新鋭機の新品価格や中古相場が高価
3)純正交換レンズが(かなり)割高である
4)サードパーティ製レンズが少ない
→あったとしても海外製MFレンズが多く、
上記、MF性能不足、操作系の課題にひっかかる
これらの課題の一部は、Xシステム発売直後から
機体を購入する前に、予想・予見が出来ていたので、
私は当初、Xシステムを無視する(購入しない)事を
決めていた。
しかし、2014年になって、史上2本目となる
アポダイゼーション光学エレメント搭載レンズ
(FUJINON XF 56mm/f1.2 R APD)が突如発売され、
マニア的観点で「このレンズをどうしても使いたい」
という強いニーズから、「やむなく」という感じで
2015年頃にXマウントシステムの構築を開始した。
当初購入した機体X-E1(2012年)は、AF/MF性能
および操作系が劣悪で実用外であったが、それでも
なんとか沢山撮って減価償却ルールを完了させ
後継のX-T1(2014年)購入後、X-E1はトイレンズ
や小型AFレンズ母艦として利用を続けている。
X-T1は、アナログ操作系の高性能・高級機であり
スペック的に、あるいは一般的なAFレンズを使用し、
「何もカメラ操作をしないで撮る」という場合には
優れた機体だが、何かのカメラ設定操作をしようと
すると、アナログ操作系をデジタルで使う矛盾が
多数発生し、加えて、基本的な操作系設計が劣悪な
為、それは「重欠点である」と判断せざるを得ない。
「このままではXシステムが使用不能となる」と
危惧した私は、X-T1の減価償却完了前にフライング
で本機X-T10を追加購入。これはX-T1の下位機種に
当たるが、性能とコストの比、つまり「コスパ」が
購入時点で最も優れている、という判断があった。
加えて、購入前に取扱説明書を熟読して、操作系を
脳内シミュレーションし、実用上での大きな矛盾が
起こらない事を確かめたの上での購入だ。
ただ、エフェクト(アドバンスドフィルター)部での
”ピーキング起動無し”と、エフェクト選択の為の
Fnキーへの無駄なアサイン(エフェクト非使用時は
何も動作しない)、そしてメニュー位置メモリー無し
等は依然課題であったが、もうこのあたりは仕方が無い。
それでもX-T1や本機X-T10も、無事、減価償却ルール
(一般ミラーレス機の場合は「1枚2円の法則」)を
完了させたのだが、Xシステムを使っている状況で、
だんだんと、「カメラやレンズの欠点ばかりを責めて
いてもしかたが無い、性能や機能に不備がある事を
気づかずに買ってしまったのは購入者の責任だ。
そして、それらの欠点を、弱点にならないように
使いこなす事が、機器のオーナーの責務である」
といった考え方(方法論)を導入する事とした。
まあつまり、「どんなレンズやカメラで、どんな弱点
があっても、それを回避できる高いスキルを身につけ
なくてはならない」という考えであり、これを称して
「弘法、筆を選ばす方式」と呼んでいる。
その考え(方法論)の根幹は、従前から唱えている
「弱点相殺型システム」である。
すなわち、カメラ側とレンズ側に各々弱点がある場合
でも、それらを上手く組み合わせる事で、お互いの
欠点が目立たないようにしてしまえば良い。
典型例としては、例えば以下がある。
*AF/MF性能に壊滅的な問題点があるPENTAX K-01
に、ピント合わせが不要なピンホールを装着する。
→快適で理想的な「ピンホール」システムとなる。
*センサーサイズが小さく、瞬発的な高性能を持たない
PANASONIC DMC-G6に、古くて性能が劣るMFワンハンド式
望遠ズームレンズを装着する。
→望遠画角が光学ズームとデジタルズームのハイブリッド
で高度かつ快適に使え、素晴らしい操作系が実現でき、
オールドレンズでの周辺収差をカットし描写力が高まり、
総合的に、極めて実用的なシステムが実現する。
*重量級の高性能AFレンズ(例:SIGMA ART LINE)を
あえて軽量機(例:CANON EOS 8000D、EOS M5等)に
装着する。
→トータルでのシステム重量が2kgを下回る為、
長時間の手持ち撮影において、ハンドリング性能の
確保と疲労の低減に役に立つ。
重量バランスは、レンズ側がカメラの2~3倍にも
達するが、単焦点AFで絞り環無しレンズの場合、
左手は、単にシステム総合重心をホールドしている
だけなので問題無い。(銀塩時代でレンズ側操作が
必要な時代であれば、重量級レンズに重量級カメラ
をあてがい、重心位置を調整する必要も稀にあった)
あたりの実例がある。
実は、このあたりが、本シリーズでのテーマともなって
いる。つまり、「オールド・デジタル・カメラは本当に
性能が低いのか? それは実用範囲以下なのか?」という
疑問に関する答えの1つがここにある。
すなわち「オールドデジカメでの数値スペックは、勿論
低い場合もあるかも知れないが、カメラに組み合わせる
レンズの種類や、そのシステムをどう利用するか?という
点に最終的な実用性は依存する」という訳だ。
さて、で、FUJIFILM Xシステムの機体は、さほどの
オールドデジカメでは無いが、その性能が他社に対して
ビハインド(遅れて)いるのであれば、これはもう、
発売時期に係わらず、オールド機(または弱点を持つ
機体)と考える事はできるだろう。
で、Xシステムの課題を消す1つの用法がここにある。
今回使用のMeike (MK)12mm/f2.8 は、APS-C型機
専用のMFレンズであり、ツァイス・ディスタゴン21mm
系の縮小ジェネリック・レンズであるとも思われる。
このレンズは、安価で「素性」も良いのだが、これを
α7系等のフルサイズ機には装着できないし、APS-Cの
α6000系機体で使うにも、AFや連写性能が過剰だ。
また、μ4/3機で使うには超広角の利点が無くなる。
結局、選択可能なシステムは、FUJI XかCANON EOS M
系となるのだが、EOS M系(後述)は、まだシステム
構築を始めたばかりであり、方針が定まっていない。
そして、FUJI Xシステムは、前述のようにAF/MF性能
が劣っているのだが、ここで超広角MFレンズを使う
上では、多大な被写界深度により、MFは、その精度が
要求されず、ラフに合わせても全く問題無い。
・・であれば、FUJI X機との「弱点相殺型システム」に
なり得る訳で、(超)広角撮影が必要になる場合は、
任意のFUJI X機に、MK12/2.8を装着して持ち出せば
良い訳だ。これで非常に快適な超広角撮影システムが
実現できる。
オールド・デジタル・カメラ、または特定の性能や
機能が劣るカメラを、どう活用するか? という点は
カメラ側だけの事を考えていては、解決が難しい。
しかし、それを活用する撮影条件・撮影状況を考察し
弱点を消せるレンズと組み合わせる事で、課題が
見事に消える場合もある訳だ。
「マニア向けだ、一般には無理な解決手段だ」と思う
かも知れないが、ここまでの自由度は無理であっても
自身の所有するシステム内で、カメラやレンズの
弱点を緩和する用法を考察する事は、とても重要だ。
さもないと、わざわざ、カメラやレンズの弱点が
そのまま出てしまう状態(この状態を、本ブログでは
「カメラやレンズの言うがままに撮っている」と呼ぶ)
となってしまい、「AFが遅い」だの「描写が気にいらん」
だのといった、ビギナー的評価が蔓延してしまう訳だ。
問題点を全て、カメラやレンズの責任にして文句を言う
のは初級中級レベルまでだ。上級レベルを目指すならば、
そうした機材の弱点は全て把握した上で、それを弱点と
しない用法やシステムを考察するスタンスが必須である。
----
さて、2台目のミラーレス機。
カメラは、OLYMPUS PEN-F (μ4/3機)
(2016年発売、発売時実勢価格約15万円)
(中古購入価格 86,000円)
紹介記事:ミラーレス・クラッシックス第20/21回
レンズは、LAOWA 17mm/f1.8 MFT
(2019年発売)を使用する。
銀塩名機PEN F(銀塩機の機種名はハイフン無し。
銀塩機ではOLYMPUS-PEN Fのように記載される)の
復刻(リメイク)版のカメラである。
銀塩PEN Fは発売当時でも憧れの高級システムであり、
希少価値から後年での中古相場も高額であり、かつ
それを無理をして入手しても、実用性が少なかった。
(PEN F/FVは露出計無し、PEN FTは露出計はあるが
AE無しで、花文字意匠も無し。加えて、交換レンズの
種類が少なく、いずれも高価であった)
よって、デジタル化されたPEN-Fを入手した次第で
あった。基本的には悪くは無い機体なのだが、
ターゲットユーザー層をシニア向け、すなわち
銀塩PEN Fが展開されていた1960年代に20歳前後
で、これが欲しくても(高価で)買えなかった
世代(これは、だいたい「団塊の世代」に当たる)
に向けた企画の要素が大きく、デジタルPEN-Fの
操作系設計は、なんだかスローで、かったるい。
まあ例えば、介護施設向けの設備等では、高齢者でも
操作がしやすいように工夫されていたり、機器の動作
速度を、あえて遅くするような、通称「ユニバーサル
デザイン」が施されているケースが多いのだが・・
本機PEN-Fにも、ちょっとそういった雰囲気が背後に
見受けられて、気に入らない。すなわち、速やかな
撮影の為に必要な、スピーディなカメラ設定が、その
構造上および操作系上で出来ない場合が多々あるのだ。
シニアの団塊世代向け、といっても、まだそんなに
老人では無いだろうし、マニア層だって本機PEN-F
の主力購買層なのだから、そこまで「介護施設」の
ような設計思想にする必要は無いであろう。
きっと、私が将来に高齢者施設等に入居するように
なった場合、「このエレベーターの動作は遅い」とか
「この大型のボタンは配置が悪い」とか、ネチネチと
施設設備の設計思想にケチをつける、「うるさい老人」
になりそうなのだが・・(汗)
・・で、本機PEN-Fの特徴には、高い「絵作り」の
性能があったりするが、そのあたりの説明は、長く
なりそうなので、ばっさりと割愛する。
興味があれば「ミラーレス・クラッシックス第20回、
第21回記事」で、詳しくそのあたりは解説してある。
ここで1つだけポイントであるが、「デジタルカメラ
での絵作り(発色)は、利用者本人の責任」という点だ。
銀塩時代のアマチュア・カメラマンでは、現像や
プリントの業務は全てDPE店まかせであったし、
カメラマン側で発色を調整する手段は、その大半が
フィルムの選択で決まり、そして僅かにレンズの
性能(特性)が影響していたが、銀塩カメラ本体は、
「フィルムを入れる箱」であるから、その性能が
発色に影響する事は(露出補正等の設定を除き)
まず有り得ない。
で、その銀塩時代の感覚のままで、デジタル化した
時代においてなお「このカメラは色が悪くていかん」
と、発色の責任をカメラに押し付けてしまうシニア層
やビギナー層がとても多い。
そうではなく、まず、カメラ本体で発色を制御できる
パラメーターはいくらでもあり、これを被写体の状況
および、その被写体をどのように映像表現したいか?
で、それらカメラ側の設定を撮影者が決めないとならない。
次いで、レタッチ(編集)がある。撮影した写真は、
撮影者が必ずPC等を用いて、写真の用途や表現に応じて
色味や様々な要素を調整しなければならない。
銀塩時代では、この処理も「DPE店まかせ」であったから
銀塩からデジタルに変わった直後の時代(2000年代前半)
では、アマチュアカメラマンの多くが、
「レタッチ編集は邪道だ。無編集主義。ノートリンミング
主義!」等と言って、デジタル写真を撮ったままで発表
する事を是とする傾向もあった。
ただ、勿論その後の時代においては、商業的な写真の
用途、あるいは芸術的用途において、無加工のままの
デジタル写真を利用する等、という事は有り得ない話
となった。
デジタル初期に「無編集主義」が起こった理由は、
大きく2つある。
まずは、一種の「デジタル・デバイド」であり、それは
銀塩時代に所有機材を充実させ、あるいは撮影のスキル
を磨いてきたベテランや上級層においては、銀塩時代に
あった自身の「優位性」が失われてしまう危惧があった。
写真撮影のベテランであっても、勿論、デジタル技術に
精通している保証は無い。他者が(自分が使えない)
パソコンを使って写真を加工する事に、妬みや不公平感
が強かったのだろう。
他の要素は、銀塩時代にあった「写真コンテスト」の
文化が、デジタル化で崩壊しそうになった事だ。
レタッチ編集で好き勝手に加工されてしまったら、写真
を評価するのか、加工技術を評価しているのか?そこが
わからなくなってしまうし、銀塩時代の審査員も、いくら
経歴が御立派な方であったとしても、デジタルに精通して
いる訳でも無い。それだと、審査が出来ないではないか・・
だから、デジタル初期の写真コンテストにおいては、
「編集/加工作品の応募は禁止する」という風潮があった。
なお、写真コンテストに限らず、これは一般的な写真発表
機会(例:当時から始まったSNS等)の全般において同様で
あった事だろう。
ただ、2000年代後半ともなれば、そうしたアナログな
人達も、デジタルの世界に入って行くようになっていく。
よって、上記のようなトンチンカンな事を言うような
人達は、現代では、ほとんど見なくなった。
まあ、とは言っても、現代に至っても、まだおかしな
事を言う人は多い。
ごく近年に聞いた話だが、知人の知人のシニア層で、
デジタル一眼レフで撮影した写真を、全てSDカードの
ままで保管しているそうだ。バックアップの意味でも、
PCや外部HDDにも入れておいた方が安全なので、知人を
通して、そうアドバイスしておくと・・ なんと
「パソコンに入れると写真の色が悪くなるので、やらん」
という返答があったそうだ。
「そりゃ、あんたのPCの画面の色が悪いだけだろう?」
という反論は、もうあまりの馬鹿馬鹿しさでしていない。
ともかく、まだまだデジタルのデの字もわかっていない
ユーザー層は、絶滅した訳では無いのだ。
で、オールド・デジカメの話にも、ここで繋がってくる。
オールド・デジカメの発色が悪いケースは、当時での
技術的な未成熟から、確かにあり得る。
だが、結局、それもまた近代のデジカメでの話と
全く同様に、「撮影者が管理するべき問題」であり、
また、その発色傾向を、どのような目的や表現に利用
するか? で、話は全く変わってくる訳だ。
この要旨における課題は、大きく2つある、それは
1つは、ユーザーのデジタル技術に係わる熟達度が低い
2つに、いつでもHi-Fi写真を撮る事しか考えていない
いずれも、ビギナー層での典型的な課題である。
だからまあ、これらが十分では無いユーザーであれば
「オールドのカメラなど、使い物にならないよ」
という話になってしまう訳だ。
もちろん、その答えは「そんな事は、使い手次第だ」
という結論になる。
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さて、3台目のミラーレス機。
カメラは、CANON EOS M5 (APS-C機)
(2016年発売、発売時実勢価格約11万2000円)
(中古購入価格 42,000円)
紹介記事:ミラーレス・クラッシックス第22回
レンズは、SIGMA 40mm/f1.4 DG HSM | Art
(2018年発売、CANON EFマウント版)
アダプターは、CANON EF-EOS Mを使用する。
本機EOS M5は、CANONがミラーレス機市場に
後発で参入した(2012年)時点から、様々な改良
を施し、初のEVF搭載機、加えて初の像面位相差AF
(デュアル・ピクセルCMOS AF)搭載機である。
まあつまり、「実用的になった、初のEOS M機」が
本機EOS M5な訳だ。
元々CANONとしては、高付加価値の一眼レフEOS
シリーズの販売を主力としたかったのだろうが、
2010年前後の急速なミラーレス市場の伸びに
より、いつの間にかミラーレス機を販売していない
カメラメーカーは、CANON(とSIGMA)だけに
なっていた。
まあ、当初は「嫌々」ミラーレス機を発売した
ようなイメージで、初期の機体には魅力を感じ
なかったのだが、本機M5(6機種目)ともなると
いつまでも「仕様的差別化」(一眼レフに対して、
ミラーレス機は、わざと性能や仕様を落として、
一眼レフの販売に誘導する)戦略を行っている
訳にもいかず、本格派戦略に転換したのであろう。
EOS Mシリーズ機自体はAPS-C機であり、本機に
関しては、小型軽量で、そこそこの高性能である事が
特徴だ。
ただ、本機EOS M5以降、これ以上EOS Mシリーズを
APS-C型のまま、ハイエンドに移行する戦略は無理と
踏んだのか? さらなる上位機は発売されず、
2018年からは高付加価値化戦略でフルサイズ化した
EOS Rシリーズの展開をスタートしている。
(しかし、高価すぎて購入する気になれない)
EOS M(EOS Rも同様)での、旧来の一眼レフ用の
EOS EF/EF-S(マウント)レンズの使用は、今回の
ように、純正電子アダプターを介する事で、レンズ
側の機能の、ほぼ全てが利用でき、快適である。
今回の組み合わせでは、本体よりも3倍近くも重い
EFマウントの重量級高性能レンズを用いているが、
これは「トータル重量の削減」を目的としている。
SIGMA A40/1.4は、1200g以上もあるレンズなので
これをEOSデジタル一眼レフの上級機等に装着すると、
総重量が重くなりすぎて、機動力が低下してしまう
からだ。
さて、本機EOS M5であるが、小型軽量を特徴とし
EOSのサブ機として有益な機体であると思う。
そして、EOS R発売以降では、フルサイズ機の方に
付加価値を感じる初級中級層が極めて増えた為、
(注:正確に言えば・・ 2010年代後半では、
カメラ市場が大きく縮退してしまった為、新製品が
皆、不条理な迄に大きく値上げされてしまった。
中上級層は、コスパの悪い新機種に、もう興味を
持っていない為、「フルサイズ」などのスペック
に目を引かれて高価すぎる新鋭機を買ってしまう
消費者は、見事なまでに、価値感覚を持っていない
ビギナー層ばかりになってしまっていた。
しかし、メーカー側も無策では無く、2021年頃より
NIKON/CANONも、新規Z/Rマウントでの低価格帯の
機体や交換レンズの展開をスタートしている)
・・(フルサイズ機に人気が集中した為)逆説的
にAPS-C機が不人気となり、本機EOS M5も、私の
購入時点よりも後年では、さらに中古相場が下落、
現代においては、性能と比較した価格が安価で
コスパの良い機体となっていると思われる。
課題としては、本機発売後にCANONのミラーレス機
戦略は、フルサイズ(高付加価値化)のEOS R
シリーズにシフトしてしまった事だ。
まあ、カメラ市場縮退の中、安価なAPS-C機を
売っていても儲からない、という判断であろう。
だが、その結果、EOS Mシリーズの展開は鈍化し、
今後の機体・レンズラインナップの充実は、
ほとんど期待が出来ない。
したがって、本機EOS M5は使いつぶしの用法が
主となるだろう。EF-Mレンズは、あまり買わない方
が良さそうだ。
幸いにして EF-EOS M電子アダプターを用いれば、
既存のEF/EF-Sマウントのレンズが、殆ど性能制限が
無く使えるので、EF-Mレンズを揃えていく必要性は
無さそうだ。
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では、4台目のミラーレス機。
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1 MarkⅡ (μ4/3機)
(2016年発売、発売時実勢価格約22万円)
(新古購入価格 69,000円)
紹介記事:ミラーレス・クラッシックス第23回
レンズは、OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 75mm/f1.8
(2012年発売)を使用する。
本シリーズ第8回記事で紹介したOM-D E-M1
(2013年)の小改良機である。
従来機E-M1よりも連写性能が大幅にアップ
(例:メカシャッターで秒10枚→秒15枚、
および電子シャッターでは秒60枚)したので、
「E-M1より大きく進化した」という評価も多い
本機E-M1Ⅱではあるが・・
そこまでの超高速連写性能は実用的には過剰で
あるケースも多々あるので、個人的には、本機は
大幅改良機とは見なしていない。
それよりも、E-M1にあった細かい弱点が、あまり
改善できていない点が、むしろ気になる。
・・とは言え、E-M1は、OLYMPUSがμ4/3機を
それまでの初級中級層向けから、本格的用途に
転換する為の戦略的機種であった事で、高性能・
多機能を「てんこ盛り」とした機種であった為、
その小改良機である本機E-M1Ⅱも、性能的な不足は
まず感じられない高性能なカメラとなっている。
本機の弱点は、まず価格が高価な事。E-M1に比べ
ほぼ5割増しの価格は、実際には不要なまでの
「超高速連写性能が付いた」という程度ではカバー
する事は出来ず、コスパが悪く感じる次第だ。
まあ、この時期、OLYMPUSのカメラ事業は相当に
苦しい状況であったのだろう、本機以降、後継の
E-M1X(2019年)では発売時価格は約33万円となった。
これでは、さすがに高価すぎる為、2020年には
本機の正統な後継機E-M1 MarkⅢを約20万円で
発売したところで、オリンパスはカメラ事業から
撤退(正確には分社化して売却)する事を発表した。
もう1つの弱点だが、操作系全般が古臭い事だ。
本機E-M1Ⅱでは、前後2(電子)ダイヤルの仕様
ではあるが、絞り優先AEモードでの、絞り値と
露出補正の直接制御は、まあ良いとして、それ以外
のカメラ設定の全ては、必ず、どこかのボタンや
レバーを操作した後での設定変更となる。
つまり、ダイレクトにパラメーターをエディット
出来る機能が無く、必ず間接的操作となり、設定の
迅速性に欠ける。さらに言えば、ショートカット
メニューのアサイン機能が無く、この点でも、
本機の持つ多機能を効率的に呼び出して使う事が
不可能である。
まあつまり「プロユース(業務用)機」という
企画意図を持ちながらも、効率的かつ高度な操作が
殆どできない、という大きな矛盾を持つ機体だ。
これでは残念ながら、金満家のビギナー層向けの
カメラにしか成り得ない、という感じだ。
加えて言えば「速写性」に劣る。電源スイッチの
位置と起動時間、そしてカメラが起動しない限り
ピントの事前操作ができないμ4/3用のAFレンズの
課題等だ。
ただまあ、即時性、速写性があまり必要とされない
趣味撮影等のジャンルにおいては、本機は、その
発売時点では他社機と比べても、最も高性能な類の
機体であるので、そういう目的とするならば決して
悪くないカメラである。
問題のコスト高は、OLYMPUSが事業撤退を発表した
後、本機の中古相場は大きく下落し、新古品が
税込み7万円以下の価格帯で買えるようになった為
コスパ評価は「及第点」と見なし、これを購入した
次第である。
趣味撮影機の範囲で超高性能を楽しみたいので
あれば、本機E-M1Ⅱは、悪くない選択だ。
さて、ここで「オールド・デジカメは、何故人気
が無いのか?」という疑問への総括だが・・
個人的に思うところの最大の課題は、2010年代
でのデジタルカメラ(とレンズ)市場の大きな縮退
が、その原因の第一であろう。
まあ、市場縮退は、スマホの台頭等が主因では
あろうが、カメラメーカー側が、その対策として
「高付加価値化戦略」、すなわち酷い「値上げ」を
行ってしまった事が、さらに市場縮退を加速させて
しまったと思う。
結果として、新鋭機は確かにカタログスペック的
には凄いものとなった。例えば、ここで紹介した
OM-D E-M1Ⅱは、機械シャッターで秒15コマの
超絶的な性能を持つし、他にも、ここまで紹介して
きた機体の内、近代のものは、全てカタログ的には
凄い「超絶性能」を持つカメラが多い。
だが、それらのカタログ性能に惹かれるのは、
ビギナー層のみである。中上級層では、それらの
超絶性能が、もう実用範囲を超えている事は
わかっている訳で、自分には不要な機能が入る事で
値上げをされた新鋭機には興味を持つ事が出来ない。
「では、古い機体でも十分ではないか? ならば
何故、オールドデジカメは人気が無いのだ?」
という疑問が出てくるだろう、そう、そこが最大の
注目点だ。
結局、前述のように中上級層が新鋭機への興味を
なくしてしまい、カメラ市場における購買層の
比率がビギナー層ばかりになってしまった事で、
カタログスペックの弱い旧型機は、急速に不人気に
なってしまう、何故ならばビギナー層においては
「フルサイズでなくちゃ(高画質の写真が撮れない)」
「超音波モーターがなくちゃ(ピンボケする)」
「高速連写がなくちゃ(シャッターチャンスを狙えない)」
「手ブレ補正が入ってなくちゃ(ブレてしまう)」
「瞳AFが入ってなくちゃ(動く人物を撮影できない)」
といった、ネガティブな脅迫観念により、それらの性能
を持つ新鋭の超絶性能機を買わないと、まともに写真を
撮れず、「周囲にバカにされる、周囲に自慢できない」
という不安を抱えているから、新鋭機にしか興味を
持つ事が出来ない訳だ。
「オイオイ、中上級層はどうした? 消費者は
そんなビギナーばかりではあるまい」
という疑問が出てくるだろう。
これについては、まずカメラ市場の縮退だが、業界は
カメラが全く売れていない、という事実を公表したく
無いだろうから、実際の縮退度合いが目立たないような
数値しか発表しない。でも、恐らくだが2010年代の
10年間で、カメラの販売台数は、統計手法により
異なるが、少なくとも1/6、場合により、1/8から
1/10というレベルにまで、大きく縮退してしまって
いると思われる。
(参考:前記事でも少し述べたが、2022年時点での
国内での1ヶ月あたりのカメラ販売数は、一眼レフが
4000~5000台程度、ミラーレス機が1万数千台程度だ。
日本全国でも、たったこれだけの販売数である。
なお、GW前の4月に少し販売数が増加した模様だが、
僅かに増えただけでも「前月比で伸長!」のような
ニュース発表がある。でも、減った時には何のニュース
にもならず、長期における販売数の大幅縮退を、あまり
消費者層に知られないようにしている様相がある)
あれだけ沢山居た、カメラファン層やマニア層も、
その数字からわかるように、大きく減少してしまい、
結局、近年での主要消費者層は、ビギナーの割合が
激増してしまっている訳だ。
(注:あくまで「割合」(比率)であり、「実数」
では無い。近年ではカメラ購入者の全体数が少ない)
個人的には、この状況から「2010年代末頃には
中古デジカメブームが起こるのでは?」と予測して
いた、マニア層等が、新鋭機に興味を持てないならば
古い機体に興味を移行する可能性があったからだ。
現に、カメラが高価になったり、魅力が無くなった時代
(特に1990年代後半、他にもある)には、古い時代の
カメラに目を向ける中古ブームが起こっていた。
だが、2010年代末に、中古ブームは起こらなかった。
恐らく、マニア層自体が激減してしまったのであろう。
(注:近年、ごく一部で、オールドデジカメに着目して
いるような雑誌または情報もあるのだが、なんだか
流通市場において、商品価値が無くなった古いカメラを
再度、相場を吊り上げようにしているように感じてしまう。
つまり、なにかにつけ「商売」の匂いがしてしまい、
あまり、そういう情報を参考にしたいとも思えない)
WEB/SNS等でも、中上級マニア層による機材評価記事も
同時代からほぼ消滅してしまっている。見かけるのは
流通(業界)等が、高価すぎる新製品を買ってもらう
為の「宣伝記事」(これには機材を褒める事しか
書いていない)か、又はユーザー層側からでは全くの
ビギナー層の「買ってみました」「箱を開けました」
といった内容の、小学生の絵日記のような評価記事
ばかりとなっている状況だ。
あるいは、一部の生き残りマニア層等においては、
アフィリエイト(広告収益)を狙い、機材レンタルや
サブスク制での、借りてきた新鋭機を評価するような
状況も見られるのだが、その方式では機材を買う事も
できず、純粋なマニア的視点で、自由に機材評価を
行う事もできないならば、多分、マニア意識的には
「それでは面白く無い/ストレスになる」だろうと
思われる。
まあつまり、誰も機材の真の価値を表現(提言)
できない、という残念な時代となってしまっている・・
というのが、オールドデジタル機に関しての正当な
評価が無い最大の原因であろう・・
結局のところ、現代のカメラユーザー層における
ビギナー層比率の増加が、オールド・デジカメの
不人気の根本原因となっている、まあ、使いこなす
事が不可能なのだから、そうなるのは当然だろう。
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では、今回ラストのミラーレス機。
カメラは、PANASONIC DC-G9 (μ4/3機)
(2018年発売、発売時実勢価格約21万円)
(中古購入価格 88,000円)
紹介記事:ミラーレス・クラッシックス第24回
レンズは、Voigtlander NOKTON 60mm/f0.95
(2020年発売、変母音記載省略)を使用する。
本機発売後の、Panasonicのフルサイズ機DC-S
シリーズへの転換(2019年)および、OLYMPUS
のカメラ事業撤退と分社化(2020年)による、
μ4/3システムの絶滅を危惧して購入した機体だ。
Panasonicでは、「LUMIX G9 PRO」と呼ぶ場合も
あるが、「PRO」の名前を付けたところで、本機が
業務撮影用途に適したカメラだと言う訳でも無いし、
むしろ、「そういう名前を付けて、値段を吊り上げて
いる」という悪印象が、かなり強いカメラである。
まあ、そうは言うものの、高性能、高機能なカメラ
である事は確かだ。そして、その高機能化における、
カスタマイズ性が極めて高い所は、特筆すべき長所で
あろう。
ただ、例えば、Fn(ファンクション)ボタンは、
タッチパネル上の仮想ものを含め19個もあるし、
個々のFnボタンに登録可能な機能は70種類以上も
あり、過剰気味だ。勿論、登録作業も大変だし、
どこに何の機能をアサインしたかも忘れてしまう。
おまけに、肝心の機能がアサインできない場合もある。
(例:EXテレコンのズーム機能の直接呼出し、や、
ピーキング強度直接変更設定、等)
そもそも、使用するレンズに応じて、その操作系の
カスタマイズ要素は変わるべきだし、全般的に相当に
複雑となってしまっている。
また、全体にカタログスペック優先であり、例えば
電子(撮像素子)シャッターによる毎秒60コマの連写、
複数連写合成で記録画素数と高めるハイレゾ(ショット)
モード、動物認識AFモード等は、まず使う事が無い
機能であろうし、それぞれ、その機能を使う上で、
他の重大な制限事項が多々発生してしまう。
(以下余談:「動物認識」は、個人的にも興味がある。
下写真は「プログラミングシリーズ」記事で、完全自作
のアルゴリズムにより、写真中の鳥を検出している模様。
この自作画像処理アルゴリズムは、まず手動で1つの鳥を
指定する必要があるが、その後は鳥の種類までも判別が
できる精度を持つ。(上写真では同種の鳥だけを識別)
参考:画像処理プログラミングシリーズ第14回記事
---
DC-G9やOM-D E-M1X等のカメラに搭載された鳥認識AF
アルゴリズムは、アルゴリズムというよりは、深層学習
(≒AI)による被写体判別であろうが、特定数(DC-G9
では3つ)の動物しか認識できない。しかし、完全自動
なので、一々の手動設定操作は不要だ。
---
深層(機械)学習の為に必要なデータ群とアノテーション
(判断結果)はユーザー個人のレベルでは準備・開発する
事は困難ではあるが、カメラに搭載された機能を参考に
して、個人的に趣味で行っている写真用画像処理をさらに
発展させる事は可能だろうと思っている。
(注:・・と、ざっくり書いたが、どうもカメラマニア
層の中でも、深層学習による被写体認識AFが、どういう
原理で動いているか?どういう効能があるか?等を、全く
理解していない人達の比率が極めて多い事を最近知った。
今回は、その話は冗長になるので割愛するが、そもそも
メーカー等が、ちゃんと原理を説明していない事が
問題なのではなかろうか?それとも、機械学習の何たる
かをユーザーに知られてしまうと困るのであろうか?)
---
で、なんでもかんでも(流行りの)AIに複雑な処理を任せる、
というのも、あまり個人的には好まず、従来的な画像処理
の方法論も、まだまだ発展の余地が十分にあると思って
いて、カメラの新機能は、その参考事例にはなるだろう。
---
まあつまり、個人的には、カメラの新鋭機能は、実用的
観点では、殆ど必要としていないが、個人での画像工学の
研究目的としては、なかなか興味深いものがある次第だ)
・・で、こうした過剰とも言える超絶性能を謳って、
結果的に高付加価値化、高価になっているのならば、
あまりコスパ的には好ましくないカメラである。
ただ、ちょっと前述したように、カメラの売り上げ
台数は2010年代の10年間で、大きく縮退している。
1/10にも減少した売り上げ台数をカバーするには
個々のカメラで大きな利益を取るしか無いのであろう。
その結果、本機は初期のPanasonic Gヒト桁シリーズ
の3~4倍もの新品実勢価格、そして4~5倍もの
中古販売価格(相場)となってしまっている。
まあつまり「値段が高すぎる」という評価になって
しまう事は否めない。
個人的には、初期のPanasonic Gシリーズは
その設計思想が好みであり、まずDMC-G1を2台、
以降、DMC-GF1、DMC-G5、DMC-G6、DMC-GX7
(およそ2008年~2013年製)と順次、購入を
続けて来たのだが、そこから以降の時代の機種は、
パタリと購入を止めてしまっていた。
その理由は、なんだか設計コンセプトが、だんだんと
個人的な好みに合わなくなってきていてたからだ。
それは「(写真を撮る為の)カメラ」というよりも、
「家電製品として、誰にでも使える映像記録装置」
のような様相が強くなってきていた事だと思う。
まあ、2010年代初頭までは、ミラーレス機は、
飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長を続けていたのだが、
その時点では、「一眼レフに変わる、新たな形態
のカメラ」であったと思う。
しかし、2010年代前半より、スマホの普及等の
世情の変化の影響で、本格的カメラ(一眼レフや
高級ミラーレス機)の需要が縮退をしていく。
同時に、それまでのカメラマニア層や、ハイ・
アマチュア層も激減してしまい、市場での主要な
消費者/ユーザー層は、ビギナーが主流となって
しまった事は前述の通りだ。
恐らくだが、この問題を受け、Panasonicのカメラ
は、その企画コンセプトや設計思想、設計仕様が、
少しづつ「家電製品化」してしまったのでは
あるまいか? まあ、Panasonicには、上位シリーズ
のGH系列の機体があり(注:全て未所有)、それは
DMC-GH4(2014年)以降の機種では、本格的な動画
撮影機能(例:4K動画記録)を持たせるとともに
本格的撮影機能も持たせた高付加価値化シリーズと
なっていた。(故に高価である)
まあ、GHシリーズとの「住み分け」の必要性があった
事も、Gヒト桁シリーズ(G7/G8 2015/2016年)の
立ち位置が中途半端な原因となったのかも知れない。
2010年代後半、いよいよカメラ市場の縮退が
厳しくなっていき、そもそもμ4/3機の規格では
これ以上の付加価値(例:画素数の増加や、
高感度性能、そして勿論フルサイズ化等)を
持たせる事ができなくなっていく。
Panasonic社もμ4/3機を半分見限ったのか?
2018年に、フルサイズ化(ライカ L-Mount)
された「DC-S」シリーズの開発を発表、2019年に
それを製品化した。(高価すぎるので、未所有)
同じ頃、μ4/3機として考えうる性能の全てを
「てんこ盛り」「何でも乗せ丼」としたような
本機DC-G9を発売。勿論、大幅な値上げとなった。
私は、このあたりのPanasonicの市場戦略の全般が、
あまり賛同できず、2010年代中頃のμ4/3機は、
本シリーズ記事で紹介したようなOLYMPUS機の
何台かを主力として使っていた次第だ。
だが、述べてきたように、OLYMPUS機にも色々と
クセがある、必ずしも全ての点で満足いくような
カメラ(μ4/3機)は無かった状態である。
そして、2020年には、ついにOLYMPUS社は、
カメラ事業からの撤退を発表。2021年以降では、
投資事業会社「OMデジタルソリューションズ」が
「OLYMPUS」のカメラブランドと、μ4/3機の
製造販売を引き継ぐ事となった。
(そして、2021年より、ブランド銘は「OM SYSTEM」
となった。ただし、2022年に発売された「OM-1」の
ロゴマークには、何故か「OLYMPUS」と書かれている)
同じく2020年頃、私は、今回使用レンズの
NOKTON 60mm/F0.95を入手、これはμ4/3機
専用のレンズである。
これは、非常にお気に入りのレンズとなったが、
このレンズの使用に適した母艦(μ4/3機)を
何も所有していない。Panasonicのμ4/3機の方が
OLYMPUS機より母艦として適する(つまり、これは
MFレンズなので、MF性能・操作性に優れた機体は
Panasonicの方だ)のだが、いつの間にか、最後の
Panasonic製のμ4/3機を購入してから、8年もの
歳月が流れていた。
試しに、DMC-G5やDMC-G6を本レンズの母艦として
みたが、さすがに古いカメラなので、そろそろ
「仕様老朽化寿命」(つまり、周囲の新鋭機に
比べて、性能がとても低く感じてしまう)が
来てしまっている状況だ。
そこで、やむなく(=高価すぎるのはわかっていたが)
本機DC-G9を、NOKTON 60/0.95の専用母艦として
あてがう事を決めた訳だ。
DC-G9を母艦とした場合の仕様バランスは、基本的
には良好だ。ただし、2つの大きな課題を持つ。
1)システム総重量が相当に重い。
装備重量で、本体658g、レンズ約913g
総重量が、約1571g(実測値)
となり、中堅一眼レフシステム並みだ。
2)カメラ側に備わる、優れたAF関連性能
(例:空間認識AF、フォーカスブラケット等)
が、MFレンズ故に、全て使えず無駄となる。
しかし、これらの課題は購入前から分かって
いた事である。重さやAFの無駄は承知の上で、
それでも、「本機DC-G9がNOKTON60/0.95の
母艦として最適だ」という判断であった。
ただ、さすがに、2)の「AF性能が無駄となる」
は、「片肺飛行」のようで、効率的では無い。
まあだから、たまにはPanasonicの純正AFレンズ
も装着して、「一応AFでも使っているぞ」という
状態にしないと勿体無いであろう。
そして、1)の「重さ」の問題は結構深刻だ。
本システムを持ち出す場合、他にもカメラを
持って行こうとしても、小型軽量システムしか
持ち出す事ができない。例えば同等かそれ以上の
重量の、一眼レフ中堅システム(例:800g級の
上級機に、800g級の高性能レンズ等)を
同時に持ち出すと、2台のカメラの総重量が、
3kgを軽く超えてしまい、このレベルとなると
業務/依頼撮影等の実用撮影以外の状態での
趣味/散歩撮影等には、全くのオーバースペックと
なってしまう。ハンドリング性(特に、可搬性)
に大きく劣る為、持ち出したくなくなってしまう
訳だ。
まあ、趣味撮影での、複数のカメラシステムの
合計総重量は、最大でも2300g程度まで。
また、実用撮影での、1台のカメラシステムのみ
での重量も、同じく最大2300g程度まで、
(例:高速連写型のAPS-C一眼レフに400mm級
超望遠ズームを装着した場合、ほぼこの重量だ。
しかし600mm級超望遠ズームでは、この重量には
収まらない為、手持ち撮影も、ハンドリング性も
課題となり、急激に実用性を失ってしまう)
・・というのが、経験則から来る持論である。
余談が長くなった。
確かに本機DC-G9は、コスト高であり、それに
見合う実用的性能が得られている訳では無いから
コスパ評価の悪い(低い)カメラな事は明らかだ。
しかし、その優れたパフォーマンスを最大に
発揮できるシステム構成や撮影分野であれば、
それはそれで、価格の高さは相殺できるであろう。
ただ、そういうカメラの買い方をするならば
「どんな場合(撮影条件)に、どんなレンズを
使い、どんな撮り方をするか? そしてその際に
カメラに求める性能要件は何があるのか?」
という点を、事前に十分に検討した上で、購入する
カメラを選ぶ必要がある。
さも無いと、「秒60コマの連写性能があるから
凄いカメラだ、よし、これを買うぞ」となって、
それに装着するレンズの事も、どんな被写体を
どのように撮るのかも、後廻しの順番になって
しまう。これはもう、本末転倒であろう。
1)どんな写真を撮る為に
2)どんなレンズを使い
3)それらが効率的となるカメラを選ぶ。
この検討の順番が、正しい機材購入プロセスだ。
----
では、今回の「オールド・デジカメ(12)」編は、
このあたり迄で。本シリーズは、これにて完了する。]]>
完了:オールド・デジタルカメラ
p_chansblog
Wed, 18 May 2022 21:05:35 +0900
2022-05-18T21:05:35+09:00
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レンズ・マニアックス(98)ジャンク編(Ⅴ)
http://pchansblog.exblog.jp/32589703/
http://pchansblog.exblog.jp/32589703/
<![CDATA[今回は補足編としてジャンクレンズ編の「その5」とし、
未紹介(ジャンク)レンズを5本、および過去記事で
紹介済みで重複するレンズを1本取り上げる。
まず例によって、「ジャンクレンズ」の定義だが。
故障、キズ、カビ、動作不良、付属品欠品等の理由で、
商品としての価値が殆ど無い物であるが、近年では
何ら瑕疵(欠陥)が無くても、単に「古い時代の製品」
という理由で、ジャンク扱いになっている場合も多い。
ジャンクレンズは、中古カメラ店やリサイクル店等で、
概ね300円~2000円程度で、安価に売られている
レンズの事を指すが、今回は、少し高価な3000円~
5000円クラスのレンズも含めている。
なお、それでも全般的に安価な為、本記事では
「オフサイドルール」(=高価なカメラに低性能な
レンズを装着し、カメラ側の高性能が十分に発揮
できない状態を戒める個人的ルール)は緩和する。
----
ではまず、今回最初の(準)ジャンクレンズ
レンズは、MINOLTA MC TELE ROKKOR-QE 100mm/f3.5
(中古購入価格 3,000円)(以下、MC100/3.5)
カメラは、SONY NEX-7(APS-C機)
1966年頃(?)に発売と思われる、MF単焦点中望遠
レンズ。QE型番なので、これは4群5枚構成を示す。
(Q=Quattro=4(群)、E=5番目のアルファベット)
この時代のMINOLTAは、銀塩MF機械式(ただし
露出計は内蔵しているが、AE機能は無し)の
一眼レフ、「SRシリーズ」を主力としていた。
その代表機としては、例えば以下がある、
1962年:SR-7 (初の露出計内蔵機)
1966年:SR-T101 (2分割CLC測光露出計内蔵機)
上記2台は未所有であるが、SR-T101を改良した
SR-T SUPER(1973)は、銀塩時代に所有していた。
「CLC測光が良く合った」という記憶があるが、これは
上下2分割で逆光パターンを緩和する機能である為、
カメラを縦位置に構えると無効化する弱点があった。
(譲渡により、現在未所有)
この時代のMINOLTA交換レンズは、SR型(注:これは
正式名称ではなく、実質的には「無印」だ)から
MC(メーター連動、という意味)型に変化していく
途中(1966年頃~)であった。
MC型レンズでは、開放測光/TTL露出や、加えて
絞り優先AEにも対応しているが、SRシリーズカメラ
には絞り優先機は無く、それが実現されるのは後年の
MINOLTA X-1(1973年、銀塩一眼第4回記事参照)
および、続くXシリーズ(XE、XD・・等)である。
(1970年代後半~1980年代前半、銀塩一眼
第6回、第10回記事、およびカメラの変遷第6回記事)
この時代の世情だが、1964年の東京オリンピックと
それに関わるインフラ整備(新幹線や高速道路等)
があって、この東京オリンピックのTV視聴の為に
白黒TVの世帯普及率が90%以上に達していた。
(注:カラーTVは、一応存在したが、非常に高価で
まだ殆ど売れていなかったし、カラー放送自体も、
あまり無かった時代だ)
1960年代後半は、高度成長期のまっただ中であり、
戦後の「団塊の世代」は、およそ20歳前後の学生
で、「(学生)フォークソング」の一大ブームを
巻き起こしている。
1969年には、アポロ11号が月面に着陸、人類が
初めて月面を歩く、この世界的規模のイベントを
視聴する為、カラーTVの一般世帯への普及率が、
一気に立ち上がる。(この年で約14%、その後の
5年間で約90%にも達する)
しかし、写真においては、一応カラーフィルムは
この時代から存在はしていたが、非常に高価であり
(現代の貨幣価値で、1本約7000~9000円位
ただし、フィルム代と現像代を含む金額だ)
その比率はフィルム利用者全体の中の10%以下
程度であったと聞く。
(参考:上記は、あくまで安価なカラーネガの場合。
もし今2022年で、ポジ(リバーサル)フィルムを
使った場合、フィルム価格が2000円~4500円
程度、現像代が1500円~2000円程度、合計で
最低3500円~6500円程度と、現代でも高価である)
その後、1970年前後でカラーフィルム使用比率は
約40%に達する。しかし、まだ、この時代でのカラー
ネガフィルムは現代の価値で1本2500円(+現像代)
にも及ぶ贅沢品であった為、この頃に家庭等で
カラー写真を撮るのは、冠婚葬祭やハレの日等の
「非日常の記録」であった。(まあ、だから「写真
は重要な非日常を記録する為のもの」という感覚が
一般層に根付いてしまった。現代は、まだそこから
50年しか経っていないので、当時の人達はシニア層
としてご存命な方も多い。よって、現代のシニア層
等の撮る写真は「非日常を記録する為のもの」と
いう感覚から、良くも悪くも抜け出せていない)
もし、1970年の大阪万博を一般来場者層が撮った
写真を見かけたならば、白黒かカラーかをチェック
してみると面白いと思う。カラーであったら、それは
裕福な撮影者か、又は、その「世紀のイベント」を
見学するために、相当に「フィルム代を奮発した」
状態であっただろう。
(参考:現代においてカラーネガフィルムを
使った場合、フィルム価格が1000円~2500円
程度。現像代が最低800円から、プリント代等を
含むと2000円~3000円程度、合計で最低3000円
~5500円程度と、これまた高価である。
なお、モノクロ撮影は、もっと高価になる)
ちなみに1970年代後半では、カラー写真の比率は
80%を超え、同時にカメラの世帯普及率も、この
時代に80%を超えている。
つまり、1970年代後半で、やっと写真(カメラ)
は、一般層での身近なものとなったという歴史だ。
(銀塩一眼レフ第5~10回記事、および
銀塩コンパクト第1回記事参照)
さて、歴史の話が長くなった。
まあつまり、本MC100/3.5の時代では、まだ一眼
レフのカメラ等は「贅沢品」である。
当時の庶民の間で流行していたのは、OLYMPUS-PEN
等のハーフサイズカメラであり、これであればカメラ
も比較的安価(現代の価値で6万円程度)であるし、
高価なフィルム代も、ハーフサイズ機であれば
節約して使う事が出来た。
さて、ここまで当時の世情(市場)を理解した上で、
本レンズだが、まず、その当時では100mmレンズ
という機材への一般ニーズがまだ存在していないと
思われる。すなわち高価な贅沢品である一眼レフを
買った上で、さらに交換レンズは、まず買えない。
カメラに最初に付属してきた、MC50/1.7または
MC50/1.4を使うだけで、せいいっぱいであろう。
(特殊レンズ第43回「MINOLTA ROKKOR 標準レンズ」
編記事を参照の事)
その他の焦点距離の単焦点レンズも、一応広角から
望遠まで、きっちりとラインナップはされているが
(注:この時代のMINOLTAでは、ズームレンズは
まだ数機種のみしか発売されていない)
それらの各単焦点は「一応存在する」という程度で
よほど、それらが業務上での撮影で必要になるとか
金満家層が見栄の為に買うとか、そんな状態しか
あり得ない。
(注:「見栄でカメラを買う」というのは、当時
1960年代での、普遍的な消費者ニーズだ。
現代では、カメラは身近になりすぎて、こういう感覚
そのものが理解しずらいであろう。しかし、現代に
おいてもシニアの写真同好会等では、「高価な撮影
機材の自慢会」のような風潮があり、好ましくない。
---
なお、この時代か、やや後には、「3C」という言葉
が流行している。これは、前述の「カラーTV」と
自家用車(Car)、クーラー(Cooler/エアコン)の
「3つのCを揃える事」が、当時の消費者層の夢で
あった次第だ。(注:宣伝的要素も含まれている)
---
1970年代では、団塊の世代層が家庭を持つ時代に
なり、「3C」の普及が加速する。その背景には
団塊の世代の特徴として、「横並び意識」が強い
事がある。隣家や近所が「3C」を買うと、業者も
又、納品の際に、あえて目立つようにし、「よし、
ウチも買うぞ」という意識を高める風潮もあった。
それと、3Cに「Camera」を加えた「4C」も
有りえると解釈するのも良いかもしれない。
---
この価値観が、50年経った現代においても残り
70歳台の団塊の世代層が中心の写真同好会等で
「彼がロクヨン(=600mm/F4の望遠レンズの事、
定価百数十万円と異常に高価である)を買ったぞ!
よし、ワシ(俺)も、それを買ってやろう」等と
横並びの対抗意識を、むき出しにしてしまい、
結果的に、そうした同好会は”高額機材の品評会”
のような、酷い有様になってしまう訳だ)
さて、上記の理由で、MC時代の各焦点距離の単焦点
レンズは、殆ど誰も買ってはおらず、その後の
時代でも、あまり中古品も流通していない訳だ。
で、この時代のMC100mmには、F2版が存在して
いた模様だが、一度も見た事が無いレンズだ。
恐らく高価であったから、誰も買えなかったの
だろうと思われる。(推測だが、50mm/F1.4レンズ
の2倍スケールアップ(拡大)設計であろう。
他社にも類例がある。そして、こういう設計手法
ならば、写りもあまり悪くはならない道理だ。
(なお、後年のα用AF100mm/F2とは、レンズ構成
が異なり、同等のレンズでは無いと思う)
その100mm/F2の廉価版として、本MC100/3.5
および後年のMC100/2.5(1976年、特殊レンズ
第69回記事等)が存在する。
ただ、正直言って、MC100/2.5は優れた描写力を
持つレンズでは無く、さらに、それよりも古い
本MC100/3.5も、ぶっちゃけ言えば低性能だ。
ボケ質破綻が頻繁に発生し、軽い「シャボン玉ボケ」
傾向もある。(注:「シャボン玉ボケ」または
「バブルボケ」とは、背景点光源の円形ボケ等の
際に、円形のフチに高輝度の輪郭線が出る描写の事。
(上の写真) 3群3枚(トリプレット)構成等の
オールドレンズにおいて、球面収差等を起因として
稀に見られるボケ質だ)
また、逆光耐性が低い。
マルチ(多層)コート化以前の製品だから、ある程度、
逆光に課題があるのは承知だが、本MC100/3.5
では、さらに内面反射による「虹のゴースト」が出る。
(注:レンズ構成にも関連するであろう。本レンズの
4群5枚は貼り合せ面が少ない。恐らくはビオメター
(クセノター)型であろうか?その詳細は不明だが、
内面反射の発生は防げないようにも思われる)
「虹のゴースト」、つまり強い光線(直射日光等)
をレンズに直接、ある角度で入射させた場合に、
ゴーストが「円弧状」に発生する現象は、1960年代
以前のオールドレンズで稀に発生する。
面白い現象なので、嫌いでは無い特性なのだが、
MINOLTAレンズの場合、MC以前の無印のROKKORだと、
多少、これを発生させやすいレンズもあるのだが、
本MC100/3.5では、あまり出ない(下写真)
これを意図的に発生させたり、消したりする事が、
技能(テクニカル)的に可能であり、それがまあ
楽しい訳なのだが、本レンズの場合では、その
発生のコントロールは相当に難しく、よほど上手く
条件を整えないとならないし、その虹のゴーストが
「作画的に意味がある状態」に整える事も困難だ。
(=自在に、綺麗に出せるならば、情景において、
「虹」をアクセントとして加える作画が出来る)
まあでも、それ以前の時代のレンズよりもゴーストが
出難いというのは、これでも性能的には、改善されて
いるのであろう。
ちなみに、現代のレンズでは、そうした変則的な
形状を持つゴーストが出る製品は、まず無いと思う。
他には、目だった長所や特徴は無い・・
まあ、実用化以前の古い時代のレンズだ。細かい
弱点等については、それを挙げても無意味であろう。
----
では、2本目のレンズ
レンズは、OLYMPUS ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm/f3.5-5.6
(中古購入価格 5,000円相当)(以下、ED14-42)
カメラは、OLYMPUS E-520 (4/3機)
2006年頃に発売されたと思われる、フォーサーズ機
(4/3機)専用の小型軽量AF標準ズーム。
単品発売もあった筈だが、多くはOLYMPUS E三桁
シリーズ機(E-410、E-520・・等)での「ダブル
ズームレンズキット」として販売されたと思われる。
E-410(2007年、デジタル一眼第8回記事)は、
恐らく当時では世界最小・最軽量のデジタル一眼
レフであり、その前機種E-400も発売当時最軽量だ。
それらの機体のキットレンズとしては、勿論、
小型軽量なものが要望された。
従前の、ZUIKO DIGITAL 14-45mm/f3.5-5.6
(2004年、E-300のキットレンズ、「4/3レンズ
マニアックス」記事等参照)は、写りは悪くは
無いのだが、若干大型の標準ズームであったので、
(ユーザー層の評判も、そんな感じであった)
これをそのまま小型軽量機のキットとする事は
製品戦略上、まずかったのだと思われる。
そんな事情から、小型化された本ED14-42は、
実に軽量(約190g)であり、発売当時での標準
ズームの、サイズ・重量の小型軽量記録を更新
していたと思われる。
また、最短撮影距離は25cmであり、かなり寄れる
(約1/5倍、フルサイズ換算約0.38倍)事は、
長所だと言えるであろう。
ただまあ、写りは平凡だ。ED(特殊低分散)
レンズや、2枚の非球面レンズ使用の、贅沢な
設計思想は、その全てが「小型軽量化の為」に
注がれていて、画質の向上は2の次(第二優先
事項)だった、と想像できる。
高度な技術を採用している割に安価であるのは
(単品発売時定価は31,000円+税)
E-400以降の数年間の、ほぼ全ての4/3機での
キットレンズとして使われた為、膨大な生産数
があった訳だから、開発経費等は軽く償却でき、
大量生産でのコストダウンも、十分に図られた
事であろう。(注:一般に高価になりがちな非球面
レンズは、球面レンズに、レジン素材を貼り付けた
「複合非球面」製法で低価格化していたと想像できる。
ただし、この製法は大量生産しないと効率的では無い)
4/3システムは、2010年頃に終焉してしまって
いる。そこから10年近くが過ぎての2010年代末、
4/3システムの中古相場は、もはや二束三文の
状態であった。
その頃に、今回使用機のE-520と、ダブルズーム
キット(本レンズを含む)を、中古購入したので
あるが、このフルシステムでの中古価格は、何と
約15,000円と安価だ。カメラとレンズ2本を、
各々5000円相当、と所有機材リストに記帳した。
4/3レンズは、今回のようにオリジナルの
4/3機に装着する他、OLYMPUS純正等の電子
アダプター(例:MMF-1~3)を介して、任意の
μ4/3(マイクロフォーサーズ)機でも、使用
する事ができる。
μ4/3機で使う際においては、
・電源を入れないとMFが回らない、とか、
・電源OFF時にヘリコイドが引っ込まない、とか、
・像面位相差AF搭載機でないとAFが低性能、とか、
色々細かい課題があるのだが、そういう弱点は
全て「価格が非常に安価な事」というメリットで
相殺できる事であろう。
また、これは、殆ど背景をボカす事ができない
(=被写界深度が深い)システム仕様であるから、
これを弱点と見なさず、長所とするならば、
イベント等でのスナップ撮影で、ピントを外さない、
又は、集合・複数人物写真で一部が被写界深度外
(ピンボケ)にならない、という多大なメリット
になり得る。(注:少し絞り、中距離以上の撮影)
つまり「撮影に失敗しないシステム」となる。
(事実、この用途/用法で、従前のZD14-45は、
10年間以上もの実用実績を持っている)
また、システムが安価なので、過酷な撮影環境に
おいて使い潰してしまっても問題は無い。
(今回も雨天の撮影で使用している)
要は、機材は、利用者の使い方次第である。
ビギナー層等が、「フォーサーズや、マイクロ
フォーサーズは、背景がボケないからダメだ!」
等と言っているのは、様々な機材の長所と短所を
よく把握できずに使ってるからであり、そういう
風に、応用ができないから、結局ビギナーレベルに
留まってしまっている訳だ。
どんなカメラやレンズにも、必ず有益な使い道が
存在する。
それがわからなければ、わかるまで、考えたり
色々と試してみたりするしか無いではないか・・
----
さて、3本目のジャンクレンズ
レンズは、TAMRON 35-135mm/f3.5-4.5(Model 40A)
(ジャンク購入価格 24円)(以下、40A)
カメラは、FUJIFILM X-T10(APS-C機)
1985年に発売された、MF標準ないし中望遠ズーム。
勿論、アダプトール2仕様であるから、各社のMF
マウント機(一眼レフ)に装着できる。
ジャンク購入価格が24円! と異常に安価なのは
誤記ではなく、これはハードウェア・リサイクル店
の新装開店で「500円以下の商品1点、95%OFF!」
のクーポン券を使って買った物で、480円(税込)
のジャンクレンズは、何と24円、となった訳だ。
カメラ側との価格差は、それが高級機であれば
5000倍から1万倍!の比率にもなる。この比率は
「オフサイドルール」への抵触が甚だしい。
これは本来、「カメラには、本体価格の半額以上の
高級(高性能)レンズを装着しないと、カメラ側の
性能が活かせず、勿体無い(=してはならない)
つまり、カメラ側の性能が単独(一人)で突出
してはならない」という、個人的なルールである。
(注:2000年代までは、カメラ価格<レンズ価格
の不等式を満たすルールであったが、2010年代
からは、カメラ全般の「不条理な値上げ」の為に、
そのルールを遵守する事が困難となってしまった)
まあでも、今回の記事では、オフサイドルールの
遵守は緩和している。
なお、オフサイドルールには、その性能バランス
による実用上での意味の他、ビギナー層への啓蒙の
意図も含まれている。
すなわち、ビギナー層では、まずカメラ本体の事
(性能や価格)にしか目がいかず、交換レンズ側に
無頓着(交換レンズを知らない、買わない。買ったと
しても、用途やスキルに見合わない的外れなもの
ばかりを買っている)という状況があるのと、
その際のカメラの価値への過剰な期待感、すなわち
いくら高性能で高額な新鋭カメラを買ったとしても
それは数年で古くなり、10年もたてば二束三文の
価値にしかならない事、を伝えるための意図もある。
そういった好ましくない状態を理解・解消する為の、
1つの「覚えやすいルール」としての発案だ。
つまり「それ、カメラが高すぎる。オフサイドだ!」
という風に、常に意識してもらえれば良い訳だ。
さて、本40A型レンズだが、かなり低性能である。
解像感が低く、低コントラストな描写であり、
実用レベルに満たない。
特徴としては、広角端35mmにおいてマクロモード
に切り替える事ができる。通常撮影での最短撮影
距離が1.5mと平凡(というか不満)であったのが、
マクロモードでは最短26cm、最大撮影倍率1/4倍
までに、がらりと変化する。
ただし、マクロモードでは、さらに低画質化する為、
これもまた、実用には少々厳しいかも知れない。
価格も安価(発売当時49,000円の定価であり、
勿論、ここから大きな新品値引きがあったであろう)
・・なので、売れていないレンズでは無かったと
予想できるのだが・・
まあでも、こういうオーソドックスな仕様の
ズームは、当時のTAMRONとしては、普及価格帯で、
コストダウン型の製品を、他社に対する価格メリット
で販売するしか無い状況であったのかも知れない。
(すなわち、性能やブランド力では勝負できない)
まあだから、この時代には、たとえば、まだMFの
システムのままで(注:「αショック」1985年と
同年の話だ)例えばNIKONのFE系やFM系を使っていた
中級ユーザー等が(注:当時であれば、戦前生まれ
のシニア層、または、30歳台後半の団塊の世代層
等であろう)
「TAMRONやSIGMAのレンズ(実は廉価版ズームの事)
を買ったが、どうも写りがいかん、しょせんは
”安かろう、悪かろう”だ。もう、こりごりだ、
今度は、ニコンの純正レンズを買う事にしよう」
などと、サンプル数(=知っている数)が、1つや
2つという狭い範囲で、あたかも”全てお見通し”
のような事を言い出す訳だ。(ましてや、その
同じ事を、何十年間経っても、繰り返し口にする)
きっとこの時代から既にあるTAMRON SP90mm/F2.5
(52B、1979年。これは高性能マクロとして、
あまりに著名な製品)を見ていたら、TAMRONに
対する印象も大きく変化した事であっただろう。
だからまあ、結局「レンズの事を知らない」状況
が、ビギナー層での最大の問題点である訳だ。
本40A型レンズ等は、当時のTAMRONが事業を継続
していくための商品、まあつまり「食っていく
為の商品」である。SP(高性能)シリーズの
ズームレンズは、当時のTAMRONでも存在しては
いたが、それらは、ガクンと高価になるので、
あまり一般層で買えるようなものでは無い。
それに、ぶっちゃけ言えば、1979年~1980年代
におけるTAMRONの「SP」銘のMFレンズ群は、
現代のTAMRONの「SP」銘が「高画質・高性能を
示す、一種のブランドである」概念や印象とは
全く異なり、その当時の「SP」は、単純に言えば
「特殊(特異)な仕様のレンズ」という意味だ。
よって、その当時のSPレンズを色々と所有して
(例:SP17/3.5,SP500/8,SP60-300/3.8-5.4
等)評価していても、それらが高性能(高描写力)
だと感じた事は、残念ながら無い。それらSPは
「単に、特殊(スペシャル)な仕様(スペック)を
表すSPである」という結論にしかならない。
レンズの性能は、価格やブランド(メーカー)名
だけで決まる訳では無い。まず、そのレンズが
どんなコンセプトで生まれてきたのかを知り、
個別のレンズで、どんな長所や短所があるのかを
探り、その長所を活かし、短所を出さない技法や
被写体選びを、開発習得することが大事である。
あるいは、あえて短所を強調しLo-Fi的な用途に
用いる事すらも、あり得る話だ。(例:冒頭の
MC100/3.5は、酷いゴーストが出るが、それを
「虹のゴースト」として制御し、作画意図に活かす)
まあ要は、「TAMRONのレンズはダメだ」とか、
「レンズはどこのメーカーのものが良いのか?」
とか言っているのは、完全なビギナー層でしか無い
という訳である。そんな事を聞いている暇があれば
「どんなレンズでも、それを研究し、使いこなせる
ようにする事が、ユーザーの責務である」という
ストイックな方針を貫き、精進しようとする方が
よほど前向きであり、建設的でもあり、スキルアップ
の為の近道ではなかろうか?
こういう事を何もしないから、本レンズ発売時の
40年も50年も前の感覚のままで、いつまでたっても
永久にビギナーな状況が続いてしまうのであろう。
----
では、4本目のジャンク
レンズは、TOKINA AF100-300mm/f5.6-6.7(EMZ130)
(ジャンク購入価格 500円)
カメラは、SONY α99(フルサイズ機)
詳細不明、恐らくは1990年代前半頃の発売と思われる
AF望遠ズーム。
ただし、これは、本シリーズ第59回記事で紹介した
レンズと完全に重複してしまっている(汗)
要は、間違って重複購入してしまった訳だ。これは
自己責任ではあるのだが、この時代のTOKINA製品には、
後継のⅡ型(EMZ130AFⅡ)が存在するし、前時代にも
同様なスペックのMF版RMC TOKINA 100-300mm/f5.6
(本シリーズ第49回記事参照)も存在する。
また、未所有のレンズを多く含み、この時代のTOKINA
には、実に多数の望遠ズームレンズが存在する模様だ。
つまり、とても、ややこしい状況であるので、私も
知識が混乱したまま、ジャンクのワゴンから本レンズ
をサルベージ(引き上げる)した状況であった。
まあ、これはもう一種の「くじ引き」であり、たまたま
珍しい、あるいは特徴のあるレンズが当たればラッキー
であり、万が一、既に所有していたレンズを(間違って)
購入してしまったならば、やむなく「外れ」だ。
・・が、もう二度と同じミスを繰り返さない為には、
その時代の各機材の名称、スペック、発売年等を、
事細かに記憶しておく必要がある。それを調査する
段階で、恐らくは、だいぶ覚える事ができるだろうし、
ますますレンズ知識の習得に役に立つ事であろう。
自分のミスを、逆にポジティブなモチベーションに
転換できるならば、それはそれで良いことだと思う。
まあ、僅か500円の商品だ、大騒ぎする必要は無い。
今回は、フルサイズ機のα99に装着し、これで
「限界性能テスト」を、やる気になっている。
スペック的には「とても軽量な300mm級ズーム」
という印象だ、重量は実測値で464gしか無い。
1990年代当時の同等スペックの他社製品と比べると、
この時点では軽量のメリットがあったが、この時代は
ズームレンズの改良が進んだ為、後年1990年代末
には、例えばTAMRON 186D(本シリーズ第59回等)
では、354gと、本EMZ130を遥かに下回る軽量化が
実現されている。
また、この時代1990年代では、300mm級の望遠
ズームの望遠側(望遠端)の描写力が、良いものと
悪いものが混在している。
(本レンズは、良い方の類であろう)
これは、設計上の僅かな差異や、企画・仕様上の差
(販売価格含む)により、望遠端までの画質設計に
配慮したものと、そうで無いものが混在していたか?
あるいは、それに加え、この1990年代で、ズーム
レンズの設計技法および硝材等に、何らかの技術的
進歩があったのだろう、と推測している。
まだ、詳しくはまとめきれていないのだが・・
1990年代の各社AF300mm級ズームを、メーカー毎、
および世代(発売年代)毎に、ずらりと揃え、
それらの試写を繰り返せば、この時代の技術発展に
何があったのか?を、研究および推測する事が
可能だろうと思っている。
とても時間と手間と予算がかかり、かつ中古品の
めぐり合わせにも関係があるだろう・・ しかし、
500円~1000円のジャンク望遠レンズを、20~
30本程度集めたところで、概ね1万円台の予算
しか掛からない。
無駄に高級すぎる高額レンズを1本買うよりも
遥かに安価な投資で、かつ遥かに内容の濃い研究や
練習を行う事ができる訳だ。悪く無い話である。
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次は、5本目の(準)ジャンクレンズ
レンズは、OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL 17mm/f2.8
(中古購入価格 5,000円)(以下、MZ17/2.8)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1 MarkⅡ(μ4/3機)
2009年発売、OLYMPUS最初のμ4/3機である
「E-P1」のキットレンズである。
最初期のPENシリーズ(E-P5、2013年まであった)
は、近年では、PEN-F(2016年)以外は絶滅して
しまっていた。(注:2021年に、E-P7で復活)
で、本来であれば銀塩PENのテイストを味わうべく
小型軽量レンズとして企画された本MZ17/2.8は、
PEN/PEN Lite/PEN-F等の薄型機体に装着する事が
望ましい。
だが、今回はひねくれて、旗艦(ハイエンド)
高性能機のOM-D E-M1Ⅱに装着している。
様々なカメラとレンズの組み合わせ(=システム)
を実験的に試してみて、その中から、なんらかの
「相乗効果」が得られるか?を調べる事は、私は
日常的に行っている事だ。それを繰り返す事で
カメラやレンズの「真の性能を知る事」にも、
少しづつ近づけるだろう、と思っている。
ただし、今回の組み合わせはNGである。性能的な
相乗効果も殆ど得られず、あるいはデザイン的な
相乗効果(例:大型機に小型レンズを装着する
「大小効果」や、黒色機に銀色レンズを装着する
「パンダ効果」を得る等)も、特に得られなかった。
では、本レンズMZ17/2.8の話に進む。
最初期ミラーレス機の、低性能な「コントラストAF」
の問題点を緩和する為に、AF精度が必要とされない
レンズとして企画開発されたものだと思われる。
実焦点距離17mm(μ4/3で34mm準広角画角相当)
という短い焦点距離、F2.8という暗い開放F値。
(注:本来ならば、常用レンズとしては、だいたい
F2以下の開放F値を持ち、被写体汎用性や表現意図
の汎用性を持たせる、というのが正当な設計思想だ)
最短撮影距離は20cmと、ほぼ焦点距離10倍則
どおりで、特に「寄れる」という訳では無い。
小型(フィルター径φ37mm)、軽量(71g)
である。軽量化は4群6枚の軽量レンズにおける
AF駆動負担の低減にも役立っている事だろう。
まあ、全て凡庸な性能ともいえるが、実用的に
不足している部分は殆ど無い。
安価な価格。しかし本レンズは近代のカメラ製品と
しては非常に珍しく、2013年に値下げされている。
(47,500円→30,000円、いずれも税抜き)
まあ恐らく、当初の定価は、一種の「フェイク」で
あり、本MZ17/2.8をキットとしたカメラ(E-P1等)
でのセット価格の”割安感”を演出する為の高値で
あったのだろう。・・考えてみれば、μ4/3機は
新規マウントなのだから、それが出始めた2010年
頃において、本レンズを単体購入する消費者は殆ど
居る筈が無いと思う(まあ、Panasonic DMC-G1
2008年、を持っていて本レンズが欲しいと思う
場合くらいだろうか? しかし、レアケースだ)
だから、定価が高くても誰も文句を言わない訳だ。
(ほぼ全員、E-P1等とのキットで購入するからだ、
むしろ「セットで安く買えた」と、喜ぶであろう)
総合的には、OLYMPUS初のμ4/3機用レンズとして
歴史的価値が高く。かつ、実用性を最優先として、
良く考えられて企画されたレンズだと思われる
で、上記のスペック群から、本レンズは、初期
μ4/3機の貧弱なAF性能でも、実用範囲となる。
しかし、それが、AF性能が圧倒的に向上している
今回使用の旗艦OM-D E-M1Ⅱを使った場合において
「AFが超優秀になる」という訳でも無かった。
後年の機体でも大きな性能アップが無いならば、
まあつまり、「初期μ4/3機でも実用的」という
点を、むしろ長所と考えるべきレンズであろう。
であれば、今後はE-PL2(2011年、ミラーレス
第5回記事)や、Panasonic DMC-GF1(2009年、
ミラーレス第3回記事)等、古いミラーレス機用の
常用レンズとして、小型軽量化システムに特化して
しまえば良さそうだ。
母艦もレンズも高価なものでは無いので、ビジネス
バッグ等にしのばせておき、ビジネス記録用途
(打ち合わせの記録、展示会、出張記録、報告書等)
の撮影に使ったり、通勤や移動時の趣味的な撮影
(例:「桜が咲いたから、ちょっと撮るか」等)
とするのが、最も適正な感じである。
旧来、この「ビジネス記録」という用途には、
デジタルコンパクト機が最善であったのだが、
生憎、2010年代からは、市場縮退の影響を受けて、
コンパクト機は殆どが高付加価値型の高価な商品と
なってしまっている。それらは「贅沢品」だから
買えないし、買ったとしても、ビジネス記録等の
「消耗用途」には決して使えない。
だから、現代での選択肢はスマホ・携帯内蔵カメラ
か、または小型ミラーレス機(上記の機種群の他
RICOH GXR+S10ユニット等も有益であろう)しか
適正な撮影機材は無い。
まあ、携帯系カメラでは、いかにもカメラファン層は
満足できないから、結局ビジネス記録機材の選択肢は
小型ミラーレス機しか存在しない訳だ。
また、次善の用途としては、大型レンズ(大口径
や望遠レンズ等)を持ち出す趣味撮影においては、
そのシステムだけで、カメラバッグもいっぱいだし
重量負担も大きい。それに加えて、何かのレンズを
持ち出すならば、そういう「サブカメラ」としての
小型ミラーレス機+本MZ17/2.8のセットは、
被写体汎用性が高く、これも悪く無い。
その結論が出た(=つまり「用途開発」が出来た)
だけでも良かった。今後はそういう風に、本レンズを
システム化して使っていく事としよう。
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では、今回ラストのジャンクレンズ。
レンズは、CANON FD 24mm/f2.8 S.S.C.
(中古購入価格 2,000円)(以下、FD24/2.8)
カメラは、FUJIFILM X-T1(APS-C機)
1973年発売のMF広角レンズ。
S.S.C.(Super Spectra Coating=多層コーティング。
又は、マルチコーティングとも)仕様である。
旧型の「S.S.C.無し」版(単層コーティング。他は
本レンズと同仕様)は、1971年の発売であったが、
同年、PENTAXがSMC(Super Multi Coated、これも
多層コーティング技術の意味である。後にレンズ名の
先頭に付き小文字化した「smc PENTAX」表記に変わる)
仕様のレンズ群を発売した。
そのSMC技術は、逆光耐性やコントラスト特性の向上の
効能があり、市場等からの評価が非常に高かった為、
各社においてもSMC以降、同等の多層コーティング技術
への追従を、その後の数年間で速やかに行う。
もっとも「多層コーティング」、すなわち「光学薄膜」
は、カメラメーカーが開発した技術ではなく、恐らくは
ガラスメーカー等により、製造上での蒸着薄膜技術の
進化により生まれてきたものであろう。
だから、SMC登場後の僅か数年間で「各カメラメーカー
のレンズが多層コーティング化された」といっても、
恐らくは、各ガラスメーカー等が主体となった技術で
あろうから、「全社が速やかに同等の技術を採用して
デファクト化する(≒当たり前となる)」事は当然だ。
その為か? カメラメーカーによっては、多層
コーティング技術の採用を、例えば自社が中心と
なって研究開発の主導を取ったのか? はたまた単に
ガラスメーカーの既存の技術を(レンズごと)買って
それを使ったのか?により、その技術のアピールの
度合いに、各カメラメーカーにより温度差があった。
具体的には、強くアピールをしたのは、SMC(PENTAX)
T* (CONTAX/Carl Zeiss)、S.S.C.(CANON)、
RMC(TOKINA)あたりであり、その他の各社においては
控え目に「MC」や「C」の型番がレンズにつくだけ
であったり、あるいは全くの無印(OLYMPUS等)の
場合もある。(まあ、ガラスメーカーの技術であり、
自社の技術では無いから、あまり堂々とは主張しない、
という理屈だろうか? だとすれば公正な考え方だ)
で、特に「T*」や「S.S.C.」は、実際のレンズ上の
文字が赤色で強調して記載されている為、アピール
度合いが強く感じる。
(もっともCarl ZeissのT*は、多分にツァイス社の
主導の研究開発だった、と想像されるので、それを
強く主張するのも当然であろうが・・
ちなみにCANONにおいては、S.S.C.技術採用により
「様々な交換レンズ間の色再現性を統一する」という
試みと、先進性があった事を主張しているのだが、
確かに、それはその通りではあると思うが、当該技術
が同社の主導で研究開発されたか否か?については、
詳しくは語られていない。
もし、S.S.C.が同社の主導による技術で無いならば、
「S.S.C.とは、良いものだ」と言った、銀塩時代での
マニア層の評価(後述)は、まるっきり的外れだ)
また、1970年代後半には既にこの多層コーティング
技術は、デファクト(≒当たり前)になった為、
各社では、その採用をレンズ型番(名称)等で
アピールする事も、やめてしまっていた。
CANONにおいても同様であり、S.C.やS.S.C.の表記
は、1979年頃から発売が開始されたNew FDレンズ
(又は、ニューFDと称す場合も。これは正式には
New FDというレンズは無く、単なるFDレンズだから
である。それには、余り愉快とは言えない事情(理由)
があるが、多数の過去記事で説明している為、今回は
その経緯は割愛する)・・においては省略されている。
すなわち、全てのレンズがS.S.C.型となり、他社の
ほぼ全てのレンズも(注:当時での、NIKON SERIES E
は除く)多層コーティング化された為、それの優位性
を謳う事が無意味となったからである。
よって、例えば、銀塩時代の中級マニア層等が良く
言っていた・・
マ「CANONのFDレンズでS.S.C.と書いてあるものは・・
良く写る/希少である/価値がある」といった
評価や噂話等は、全く根拠や意味が無い。
つまり、数年後にはNew FDレンズで全てS.S.C.型に
なった訳だし、従前のS.S.C.無しのFDレンズでも
「単層コーティングだ」という理由だけで、写りが
滅茶苦茶に悪いとか、そういうものでも無い訳だ。
(そもそも殆ど全てが、同一のレンズ構成である)
ちなみに、CANONのS.C.型(Spectra Coating)
については、現存する情報が殆ど無く、技術的な
詳細がわからない(恐らくは二層コーティングか?)
また、S.C.もS.S.C.も、英文の省略記号であるから
必ず「.」(ピリオド。省略を示す)が入る。
(実際のレンズ上等の表記も、勿論、同様である)
よって「SC」「SSC」表記としているWeb記事等は
全て誤りである。
さて、肝心の本FD24/2.8の話に進もう。
まず1970年代前半では、24mmという広角レンズは、
一般に、あまり普及していなかったと推測できる。
まあ、普通は28mm迄であり、あるいは35mmレンズ
でも広角/ワイドと呼ばれる事も多々あった。
実際に、一眼レフ用の24mmレンズの初出は、
PENTAX、NIKON、MINOLTA等で1960年代後半位、
CANONにおいては、1971年頃であろう。
価格も当然高価であり、
FD50mm/F1.8が14,800円。
FD35mm/F3.5が18,900円。
FD28mm/F3.5が24,000円の定価に対し・・
本FD24mm/F2.8 S.S.C.は33,000円となっている。
標準レンズの2倍以上の定価は、ちょっと買い難い
だろうと思われ、上級層以上や富裕層向けであろう。
もっとも、この1970年代は複数のオイルショック
等を起因とした物価高騰の時代であり、その10年間
で、物価は約3倍にも上昇、一時期は「狂乱物価」
とも言われていた世情だ。よって、ほんの数年間
変わるだけで、レンズ(やカメラ)の価格が大きく
高騰している場合もある。
さて、本レンズの描写性能だが、残念ながら
カビの繁殖により、正しく評価をする事が出来ない。
まあ、順光条件で、かつF5.6程度以上まで絞れば
ある程度の解像感を得る事ができる。特筆すべき
高描写力では無いが、半世紀も前の時代のレンズ
とは言え、甘々な描写力でも無い。
最短撮影距離は30cm。絞り開放では軽く背景を
ボカす事も、かろうじて可能だが(上写真)
その際のボケ質は、諸収差の発生で「ザワザワ」と
汚く感じる為に、そういう用法は、行わない方が
賢明であろう。
逆光耐性は、カビ発生レンズの為に低め。これは
S.S.C.だろうが無かろうが、もうやむを得ない。
まあ、ジャンクレンズなので、あくまでも
性能研究、歴史研究、弱点回避の練習用途である。
----
さて、今回の第98回記事は、このあたり迄で・・
次回記事に続く。]]>
連載中:レンズ・マニアックス
p_chansblog
Mon, 16 May 2022 20:38:10 +0900
2022-05-16T20:38:10+09:00
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「クロスカラー」変換ソフトのプログラミング
http://pchansblog.exblog.jp/32586843/
http://pchansblog.exblog.jp/32586843/
<![CDATA[「画像処理プログラミング」シリーズ第20回記事。
本シリーズでは、「画像処理」、すなわち、写真等の
デジタル画像のピクセル毎に数学的な演算をPC等で行い、
その結果としての、検出、抽出、判断、変換、加工等を
行う為の技術(テクノロジー)を新規開発し、実現する
事を目指している。
今回の記事では、近代のデジタルカメラやスマホの
アプリ等に搭載されている画像編集機能である、
「カラー写真の中から特定の色を抽出して、それを
モノクロ画像の上で表現する」という処理を
自作のソフトウェアで実現する事を目指す。
で、その編集機能名は、カメラメーカー等ごとに
異なるが、「セレクトカラー」「スポットカラー」
「ワンポイントカラー」「モノカラー」「色抽出」
等と様々に呼ばれている。(以下「色抽出」と呼ぶ)
で、それらのカメラに搭載された「色抽出」処理は、
概ね1~3色を選択し、かつ抽出の強度を選ぶ事が
できる事が普通なのだが、課題として・・
「(有限個の)選んだ色しか抽出表示されない」
「選んだ色が、そのまま表示できるだけ」
「横浜写真(本シリーズ第1回記事参照)のように
選択色を代表色に置換できない」
「モノクロがベースとなり、セピアカラー上に
表示できない」
という不満があった。
ちなみに、「横浜写真」とは、明治時代の初期に
横浜で発祥した、外国人向けの「土産品」としての
絵葉書のような加工(彩色)写真であり・・
カラー写真がまだ無い時代であった為、実際の写真
(モノクロや若干のセピア色)に、絵師(職人)が
一々、手で彩色(色を塗る)を加えたものだ。
これは、絵画と写真の中間的なものと言えよう。
「横浜写真」は、独特の色味が個人的に興味深い
のだが、手間のかかる製作の為に、恐らく、数は
少なかったのであろう。現代においては簡単には
入手できるようなものでは無い。
おまけに、土産品であるから、日本国内ではあまり
現存しておらず、稀に、博物館等で見れる程度だ。
で、後年には勿論、カラー写真や印刷の絵葉書に、
とって代わられてしまっている。
・・さて、そこで、本記事では、以下の機能を持つ
ソフトウェアを自力開発する事としよう。
1)選択色は、最大12色(色相)として、
ほぼ全ての色が抽出できる事。
2)抽出強度を4段階程度に選べる事。
3)選択した色は、いくらでも(最大12色)
複数重ね合わせる事を可能とする事。
4)色を乗せるベースは、モノクロとセピアが
選択できる事。
5)色を乗せる際に、選択色の色相を12段階で
変化させ、色相変換(置換)を行える事。
6)描画色に「横浜写真」のように、代表色を
自動的にベタ塗りができる事。
これの画像処理のアルゴリズム(計算手順)は
結構、簡単である。
様々な色変換処理を繰り返せば良いので、本ソフト
の開発の為に、新たに考え出す事(≒研究要素)は、
殆ど無い。
冒頭の図で、色変換したハスの画像を以下に示す。
なお、何故、このような機能を持つソフトが
カメラの内部エフェクトでしか実現されていないか?
(=画像編集ソフトには、あまり搭載されていない)
については、まずこの処理内容はカメラ上の画像処理
エンジンで、とても簡単に実現できる事が1つある。
それと、これを画像編集ソフトに搭載しようとすると
まず、操作性が繁雑となる点が1つ、さらには、この
処理を行って色抽出した画像を、その後どう扱うのか?
つまり特定の色を選んだ他はモノクロ写真であるから
そこで処理が「終わり」となって、その後では何も
色に関係する編集を行う事ができなくなってしまう。
・・なので、この「色抽出」は、通常、カメラ内の
エフェクトとして搭載され、画像編集ソフトでは
あまり前例が無い状態なのであろう。
さて、このソフトの名前を「Cross Color Converter」
と称する事としよう。
「Cross」は、交差する、という意味を持ち、
つまり、「色を交換・置換する」というイメージだ。
(注:本記事でのソフトの画面では、CCC Closs・・
と、スペルミスをしている(汗) まあ、ソフトの
名前は後で直したのだが、もう、本記事では、この
ままの状態で画面の画像を掲載しておく)
で、もうソフトの仕様も決まっているし・・・
だいたい、2時間以内での完成を目指して、早速、
プログラミングを開始する。
開発環境は、いつものようにMS Visual Studio、
言語はC#(.NET)のみである。
まあ、もはやクラッシックな開発環境ではあるが、
プログラミング言語を、もっと新しいものに変えた
ところで、「凄い機能のソフトが作れる」だとか、
「ソフトが速く完成する」という訳でも無いだろう。
(例えば「新型のカメラを買えば、もっと凄い写真
が撮れるかも知れない」と勘違いをして、高価な
カメラに買い換えてしまうビギナー・カメラマンも
これと同じ事だと思う。カメラやコンピューターは
あくまで「目的を実現する為の道具」でしか無い)
むしろ、手馴れていて、そして、この言語で過去に
開発した様々な成果物(ソースコード)を転用する
事で、恐ろしく効率的にソフト開発が出来る。
だから「2時間で作る」と言ったのは、決して無茶な
話では無い次第だ。
画面のイメージは、沢山のスライダー(TrackBar)
が並び、あたかも「音響(用)ミキサー」だとか、
「アナログ・シンセサイザー」(電子楽器)や
「グラフィック・イコライザー」(音響機器)の
ような雰囲気である。
まあでも、こういう雰囲気の機械は個人的にも好み
であり、昔から現代に至るまで、色々とこうした
沢山のスライダーが並ぶ音響機器を所有している。
でも、世間一般では、沢山のツマミ等が並ぶ機械を
前にすると、たいていビビってしまう模様である。
何故かと言えば、それらの沢山のツマミ等の操作子
の効能が良くわからないから、「一度動かしてしまい、
元に戻せなくなったら、どうしよう?!」と不安に
思ってしまうのが理由なようだ。
だが、音響ミキサー等では、単に同じ効能のものが
沢山並んでいるだけである。そこにヴォーカルやら
ギターやらドラム等から来る音声信号が、アサイン
されて(割り振られて)いるだけだ。
だから、「どのフェーダーに、何の楽器がアサイン
されているか? 配線した人で無いとわからない」
という課題はあるものの、個々の操作子の意味が
わからないという事態には、まずならないと思う。
(注:これがシンセサイザーの場合には、多少は
構造や原理の理解が必要だ)
ちなみに、沢山の操作子が並んでいるメリットと
しては・・
「全ての操作子の状態が、目視で一目瞭然な事」
「複数の操作子を同時に操作する事が可能な事」
「電源がOFFの際とか、デジタル的な表示が無い
場合でも、固有の操作子を所定の値まで操作が
可能な事」
といった、多数の利点がある。
対して、弱点は、
「操作子が多すぎる場合、状態が把握しにくい」
「同、多すぎると、一定の数くらいしか、同時には
操作する事ができない」
「場所や面積を喰い、機器が大型化してしまう」
「個々の操作子の設定を、記憶させる事が困難。
たとえ記憶できたとしても、それらを動かして
しまうと、記憶値と現在値での矛盾が出てしまう」
となっている。
(注:この事は、音響機器とかソフト等に限らず、
カメラでも、あるいは多くの機器(例:飛行機の
コックピット等)とかでも、同様だと思う)
このうち「操作が面倒だ」という弱点に関しては
本ソフトでは、一応だが「デフォルト復帰」という
機能を付ける。このボタン一発で初期値に戻す事を
可能としよう。
もし、さらなる高機能にしたい場合は、
1)設定の記憶機能を付ける。
(注:これは仮想のソフトウェアであるから、
記憶値と設定値が異なる場合、瞬時に操作子の
位置を画面上で移動させる事が出来る。
もし、これが実際の物理的な音響ミキサー等では、
「モーターフェーダー」と言って、沢山のツマミを
全てモーターで記憶値にまで動かす、といった
とても大掛かりな機械的な仕組みが必要となる)
2)いくつかの代表的なプリセット値を設ける。
(例:黄色を抽出して青色に変換する措置等)
といった機能を、後から追加してあげればよい。
上記はプログラムのソースコードを開発中の画面。
ここまで、宣言どおり2時間もかからず出来たのだが
いざ動かしてみると、早速、大きなバグ(ミス)を
発見してしまった。
どうも色相(色味)の並び方がおかしい・・
例えば、色相は、赤から紫まで、360度という
単位で表現される場合があり、本ソフトでも、
その360度を12分割し、30度刻みで、色相を表示、
調整できるように作ってある訳だ。
原因を調べてみると、沢山並んでいるツマミ
(TrackBarコントロール)の順番がおかしくなって
いる。左から順次1番、2番、3番・・・12番で
なくてはならないのに、1,2.3,4,8,7,6・・ の
ような、変な順番となっている。
これの原因だが、沢山のツマミを並べるのが
面倒で、1~4個まで作ったところで、それらを
コピーしてペーストした事が課題であった。
5,6,7,8のように順番が並んでいるとばかり
思っていたのに、実際には、8,7,6,5のように
貼り付けた際に、逆順となってしまっていた。
これは要注意だ、C#言語で複数のコントロールを
まとめてコピーする際、「期待する順番どおりに
並ばない可能性がある」という事である。
なお、こういう開発手法だと、複数のコントロール
毎に、同じようなソースコードを書く必要があり、
なんだか手間だし、スマートでも無いと思う。
だが、例えば、コントロールを配列化したりすると、
ソースコード量は激減するが、プログラミングが
複雑化したりして、余計に時間を喰ってしまうと
思われる。短時間でプログラミングをする場合は
多少ベタでスマートではなくても、同じコードを
コピペして作った方が早いし、バグも出難い。
あと注意点だが、沢山のツマミを並べている最中
に、画面の背景用に「パネル(Panel)」という
部品(コントロール)を貼り付けているのだが、
これの貼り付けのタイミングや手順によっては、
ツマミ(TrackBar)の座標が、ソフト全体での
絶対座標か、あるいはパネル上での相対座標か、
の差異が発生してしまうようだ。
この座標系の差は、プログラム自体の効能(動作)
には影響が無いので、各コントロールの「親子関係」
(≒どの背景に属するのか?)を調整するまでも
無いのだが、ツマミの位置をデザイン的に揃えよう
として微調整している時に、座標が違っている事が
ちょっと気になった。
・・という事で、沢山のツマミを正しく並べ替えた
ところで、プログラムが完成。2時間少々掛かった
が、ほぼ予定通りだ。
早速テストしてみよう、単純に電車の赤色を青色に
変換しつつ、モノクロの画面上に自動生成してみる。
何も問題なく動作しているようだ。
また、各ツマミの抽出量や置換量、効能のON/OFF
も正しく動作している。
なお、注意点だが、各ツマミの効能のON/OFFには
「チェックボックス」(四角の中にチェック印)
というコントロール(≒操作子)を使っている。
これを「ラジオボタン」(丸の中に点)にした方が
デザイン的には格好良いと思うのだが・・
「ラジオボタン」は一般に、複数のグループの中
から1つだけを選択する際に使うものであるから、
パネル上、等に配置して(半自動的に)グルーピング
を行うと、どれかのラジオボタンを押したら
そこだけが有効となり、他が自動的にOFFになって
しまう。つまり、「複数のラジオボタンを同時に
選択する事ができない」状態となる。
この問題を回避する手段は、無い訳では無いのだが
繁雑であり、ちょっと採用する気にはなれなかった。
(以前に試してみて、とても面倒であった)
やむなく、デザイン的には不恰好だが「チェック
ボックス」を、そのまま使う事としよう。
後、下部の色相変換のツマミ群は、現時点では
「相対置換値」となっている。つまり、「全ての
ツマミの値を最も下げた状態が、元の色相を
そのまま踏襲する」という意味(仕様)である。
したがって、同じツマミの高さ(値)にした場合
では同じ色相が得られる、「絶対置換」では無い。
従前の、本シリーズ第8回「野獣派」変換プログラム
では、「絶対置換方式」を採用したのだが、
そのソフトでの色相変換数は、6色であった。
今回は12色と増えているから、あまり複雑な設定は
やりにくいと思ったからだ。つまり絶対置換の場合に
おいてデフォルト(色変換なし)にしたいならば、
12個のツマミを細かく階段状に設定しないとならない。
プリセットやデフォルト復帰のボタンを使わない限り
それは操作が繁雑だ。今回の「相対置換」方式ならば
全てのツマミを全部ゼロ(一番下)に動かしてやれば
位置を微調整しなくても、「色変換なし」とできる。
ただ、この方式の場合、ツマミの位置関係を見た
だけでは、どの色に変換されるかがわからない。
勿論、画面下部に変換された後の色相が表示される
のだが、「どちらの方向に、どれくらい動かしたら
どんな色になるのか?」が、ツマミ操作時には
予想が難しい訳だ。
まあつまり、どちらの「操作系」を採用した場合
でも、一長一短ある、という事がここでわかった。
今後、似たようなソフトを作る場合は、状況に応じて
両方式を使い分ける事としよう。
上写真は、カメラ内部のエフェクトで予め色抽出
処理を行っている写真に対して、さらにクロスカラー
(=別の色に置換する)の処理を加えてみた状態。
勿論、赤色が緑色へ変換され、正しく動作している。
だが、なんだかこのあたりで「面白くない」という
事に気づいてしまった(汗)
何が面白く無いのか?と言えば、このソフトでは、
狙った色に対して違う色を割り当てる、という処理が
出来るのだが、この動作は、ほぼ「予想通り」の結果
となる。
すなわち、思うような結果にする為、様々な操作子
(しかも沢山ある)を、個別に微調整しなくては
ならない。しかも、結果が予想通りであれば、もう
それは「創造的な活動」ではなく、単なる「作業」だ。
上は、赤色の葉っぱを、ちょっと枯れた雰囲気にした
例である。
前述の、「単なる作業」、という話だが・・
そういえば、自分でも思ったが、個人的には、写真の
撮影時において「後で画像編集すれば良い」等とは
あまり思わず、撮影時に様々なカメラ設定を行って撮り、
できるだけ後編集を避けるような事をいつもしている。
(注:RAW現像も一切しない。全てがJPEG撮影だ)
これについては「撮影時に被写体に対峙して感じた事は、
後では再現できない」という、もっともらしい理由を
いつも述べてはいるが、実のところ「単純な作業が嫌い」
という事が原因なのかも知れない(汗)
・・ただ、その結果として、カメラ設定が効率的では
無い機種では、撮影時の細かいパラメーター設定操作が
やりにくくなってしまい、とても困る。
つまり、そうした「操作系・操作性が悪いカメラ」は、
本ブログのカメラの紹介記事でも、いつも低評価と
なってしまっている次第だ。
だが、現代の大半の初級中級カメラユーザーでは、
カメラ設定等は、せいぜい絞り値や露出補正、AF測距点
を変更する位で、他は、全く触らずに撮影している
だろうから、こういった評価内容は、他者には参考に
ならない事だ。
(つまり、ユーザー個々に、写真を撮る目的もスキルも
全てが異なる訳だから、他人の評価は参考にならない、
という意味である)
さて、上写真は加工前のカラー写真だ。
オールド・デジタル一眼レフ(NIKON D2H、2003年)
で撮った写真で、ちょっと薄い色味である。
しかも、そのカメラは、カメラ本体内での画質調整
機能を持たず(特殊なセンサーを使っていたからだ)
その点、当時のユーザー層に不評であった次第だ。
本来、こういう薄い色味は、任意の画像編集ソフトで
調整すれば、どうにでもなる話である。
今回は、ちょっと別のアプローチとして、本ソフトを
用いてみる。
まずこの写真をセピア色に変換してしまい、全体的に
モノトーン化する。
そして背景にある青い光だけ活用し、それを抽出して
赤色の光に変換してみよう。
すると以下のようになる。
まあ、これはこれでアリだろう。
あ、それと、本ソフトでは「CONVERT」ボタン、
つまり「計算開始」ボタンがついているが、思えば
それは不要だったかも知れない。
この画像処理は比較的単純であり、多くの計算量を
必要とするものでは無いからだ。
だから、何かのスライダーやボタンを触った直後に
自動的に計算を開始する操作系でも十分だったと思う。
まあ良い、いずれ気が向いたら、「即時計算方式」に
プログラムを変更する事は容易だ。
上写真は、「カマキリが茶席に現れる」という珍事だ。(注:実際にはそうで無いが、そういう「シナリオ」
として撮っている、という次第だ)
これは珍しい事象であるから、さらに本ソフトで
加工して 「現実にはあり得ない色味」にしてみよう。
う~ん、なんだか気持ちが悪い(汗)
色が違う、というだけで人間は全く別の感覚を持つの
かも知れない。
まあ、色彩心理学とか、そういう類の学問や研究も
あるし、そこまで学術的ではなくても、たとえば
芸術分野では、絵画の後期印象派や野獣派等においては、
「色彩を対象物の本来の色の束縛から解放」して、
新しい色を絵画表現に用いていた訳だ。
また、現代の商業デザイン等では、色の与える心理効果
を当然意識して、ポスターとか看板とか、企業のロゴ
マーク等をデザインしている。
まあだから、色が心理に与える効果というのは普遍的な
話だと思う。
さて、単なる色変換の「作業」だけでは面白くなく
なってきたので、本ソフトに備わる「FLAT TONE」機能
を試してみよう。
これは抽出した色、または置換した色の彩度を強調し
「ベタ塗り効果」を得る事ができる機能だ。
本シリーズ第18回記事の「Saturation補正ソフト」
と類似の原理・効能ではあるが、本ソフトにおいては、
「セピアカラー変換効果」と組み合わせる事で、
本シリーズ第1回記事の「横浜写真生成ソフト」の
類似/バリエーション的な効果が得られるのでは?と
期待するところがある。
上は元写真だ。これをまず、本ソフトで自動加工する。
ポイントは女性の和服の色味の「黄、緑、青、赤」
そして、背景の橋の「朱色」を、どう変換するか?
というところなのだが、元写真には無い色味に変換
してしまうのは、少々やりすぎとなるだろうから、
元写真の色相を抽出しながら「FLAT TONE」機能で
彩度を一定のレベルに高めてみよう。
ベースは一応「セピア」とする、これで「横浜写真」
のようになるだろうか?
上が自動加工後だ。しかし、これは「横浜写真」っぽく
は無く、全体に「濃い」色調に変換されてしまった。
どうも「ベタ塗り」(FLAT TONE)の機能は、使い道が
難しい模様だ。場合により、次のバージョンでは
「ベタ塗り」のレベルをコントロールできるように
プログラムを改変するのも良いかも知れない。
以下参考まで、本シリーズ第1回記事の「横浜写真
生成ソフト」「Yokohama Type1」を用いて
同じ写真の自動処理を行った結果を掲載しておく。
こちらは、「写真」としては、本ソフトの結果
よりも不自然ではあるが、元々「横浜写真」とは
職人(絵師)が彩色した擬似カラー写真であるから、
だいたいこんな感じに仕上がる事が普通だ。
だから、映像的な表現として考えれば、本ソフト
での、ありきたりの画像編集結果のような物よりも、
「横浜写真」の方が、面白いといえば面白い。
さて、「FLAT TONE」機能には、もっと別の使い道
は無いものだろうか?
例えば、夜景イルミネーションを「ぐるぐるボケ」
の特殊効果レンズを用いて撮った写真を、色相置換
と「FLAT TONE」化してみよう。
まあ、イルミネーションは人工光源であるから、
基本的には、どんな色相に変換するのも「アリ」だ
とは思う。
でも、もはや、元の写真の色味は、もうこの結果
には存在しないから、ここでは勝手に自分の好きな
世界観を創り出している状態となる。
でもまあ、それはそれで現代のデジタル写真での
本質、という風にも考える事は出来るかも知れない。
もはや「写真とは”真を写す”と書く」といった
古い時代の概念は、全く成り立たない時代となって
いる訳だ。
----
最後に、本ソフトウェアの研究開発の成否だが、
一応は「○」(成功)という風にしておこう。
すると、本シリーズ記事のここまでの通算(総合)
成績は、以下のようになる。
総合成績=8勝6敗6分、勝率=4割0分0厘
本シリーズ記事でのルールとしての、最低ラインの
勝率3割を超えてはいるが、目標の勝率5割には
届かない。
でもまあ、ここのところ、あえて簡単な画像処理の
内容のソフトばかりを作っていて、「ちょっと勝率
を稼いでおこう」といった”よこしま”な理由も、
無きにしもあらずだ(汗)
あまり、こういうシンプルすぎるソフトをチマチマ
と作っていないで、次あたりでは、かなり難易度の
高い画像処理に挑戦してみるとしようか。
そう、本シリーズでの作業(研究開発)は、あくまで
趣味でやっている事だ。知的好奇心が満たせれば
良いのであって、本質的には、その研究が成功するか
否かは、ある意味、どうでも良い話だと思う・・
---
では、今回のプログラミング記事は、このあたりまで。
次回記事掲載は、例によって不定期としておく。
]]>
不定期:プログラミング・シリーズ
p_chansblog
Sat, 14 May 2022 07:25:25 +0900
2022-05-14T07:25:25+09:00
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レンズ・マニアックス(97)補足編~YASHICA銘富岡光学製らしき標準レンズ
http://pchansblog.exblog.jp/32584308/
http://pchansblog.exblog.jp/32584308/
<![CDATA[今回記事は補足編として「YASHICA」銘で、「富岡光学」
製らしき、標準(=50mm級の焦点距離)レンズ編とする。
当該条件に当てはまるレンズを6本と、関連すると
思われる2本、計8本の所有レンズを紹介しよう。
なお、「富岡光学製らしき」とは、現代においては、
もはや詳しい情報も殆ど残っておらず、あくまで推測
の域でしか無いからだ。
「YASHICA」とは?「富岡光学」とは? については
記事内で追々説明していく。
----
ではまず、今回最初のYASHICA銘標準レンズ
レンズは、YASHICA LENS ML 50mm/f1.7
(中古購入価格 6,000円)(以下、ML50/1.7)
カメラは、CANON EOS 6D(フルサイズ機)
詳細不明、1980年前後に発売と思われるMF標準
レンズ、Y/C(ヤシカ/コンタックス、又はRTSとも)
マウント版である。
まず、「YASHICA」とは、かつて日本に存在していた
著名な老舗のカメラ/レンズメーカーである。
簡単に歴史を述べておこう。
<YASHICAの歴史>
1949年(昭和24年)
戦後復興期の、この年、長野県に設立したが、
当初は「八洲(ヤシマ)精機株式会社」という
名前で、電気時計等を作っていた。
その後、東京の写真用品の会社から(中判)カメラ
を受託され、OEM生産をする事となった。
その際、シャッター部品とレンズは、専業他社の
製品を仕入れたが、レンズは「富岡光学器械製造所」
(東京)のトリローザ80mm/F3.5を使用。
ここで「富岡光学(器械製作所)」との接点が
生まれた事となる。
1953年
OEM生産の「ピジョンフレックス」が完成、発売開始。
同年、これを自社ブランド製品とした、「ヤシマ
フレックス」(後に、カメラを表す接尾後のCAを
つけて「ヤシカ(YASHICA)フレックス」と改名された)
を元に、カメラ事業へ進出。同時に企業の名前も、
「八洲光学精機株式会社」に変更(「光学」がついた)
1950年代
毎年のように中判(6x6 または 6x4.5)二眼レフを
発売。この当時は二眼レフのブームであったので、
これで八洲光学精機は急成長をした。
1958年
カメラの商品名として既に市場に広く知られていた
「YASHICA」を社名とし「株式会社ヤシカ」となった。
(注:カメラ上での表記は、「yashicaflex」等と
小文字表記であった→未所有につき詳細割愛)
1959年
「ニッカカメラ株式会社」および「ズノー光学工業」
という戦前からの老舗カメラメーカー2社を買収し、
それとともに技術力や生産力を高め、35mm判カメラ
の製造を開始した。
1965年
世界初とも言われる(?)電子制御型露出制御型
(=EE、現代で言うAE(自動露出)の事)35mm判
コンパクトカメラ「YASHICA ELECTRO 35」を発売。
以降、1975年までの累計販売台数は500万台とも
言われるビッグヒット製品となる。
ただし、この時代では「YASHICA HALF」シリーズ等の
ハーフ判カメラも多数販売している。OLYMPUS-PENや
RICOH AUTO HALF等も大ヒットした時代であった。
(ハーフ判カメラは、当時、高価であったフィルム代や
現像代を節約する事が出来る為、人気であった)
前述の500万台が、ハーフ判カメラの販売台数を含んで
いたかどうかは不明。しかし最も売れたOLYMPUS-PEN
でも累計800万台(注:オリンパスにより、2018年に
従前の1700万台より下方修正された公式情報)程度の
販売台数であったから、500万台とは、YASHICAの
全カメラの販売総数であったのではなかろうか?
1968年
これまでYASHICAに対しレンズの供給を続けていた
「富岡光学器械製造所」を子会社化する。
(翌1969年には「富岡光学株式会社」に改名)
1970年代前半
西独カール・ツァイス社が、カメラ事業(CONTAX)の
撤退を決め、日本のメーカーに事業移管の打診を行う。
当初PENTAX(旭光学)に話があった模様だが成立せず、
YASHICAとの交渉が本格化した。
1974年
YASHICAは、西独カール・ツァイス社と提携。
ここから、銀塩35mm判MF一眼レフ(CONTAX)と、
交換レンズ(RTSマウント)の開発が始まる。
レンズの設計製造は、当然、「富岡光学」であるが、
公(おおやけ)には「カールツァイス社が監修している」
事となっていた。(=日本製品より西独製を高級と見なす
消費者層が殆どであった時代だからだ)
1975年(昭和50年)
CONTAX RTS発売(銀塩一眼第5回記事参照)
世界的にも注目された「鳴り物入り」のカメラだったが、
しかし、この年、様々な不運な出来事が集中し、
なんとYASHICAは、経営破綻(倒産)してしまう。
すぐさま、銀行、商社、京セラ等が資本投下し、
CONTAX(RTS等)の生産を続けるが、新製品の開発は
超スロー化してしまった。(参考:CONTAX RTSⅡは、
7年後の1982年の発売、未所有)
1983年
YASHICAは、京セラに正式に吸収合併された。
この時点より以降は、京セラCONTAX、これ以前では
YASHICA CONTAXと区別されるのだが・・・
YASHICA時代に、CONTAXと同一マウントのMF一眼レフ
を発売していて、それのマウントが「Y/C」すなわち
YASHICA/CONTAXと一般に呼ばれていた為、
ヤシカ/コンタックス(ヤシコン)は、ここまで変遷が
あったメーカー名そのものの話なのか? あるいは、
マウントの話なのか? そのあたりが曖昧である。
なので、中古流通市場(業界)の一部または、一部の
マニア層においては、マウントの話をする場合は、
「RTSマウント」(1975年のCONTAX RTSにちなむ)
と呼ぶケースも多い。
1985年
MINOLTAが、世界初とも言える実用AF一眼レフ
システム「α(-7000等)」を発売。
一般に「αショック」と呼ばれ、他社は一斉に一眼
レフのAF化に追従する。
1986年
ミノルタα-7000を大幅に参考にしたと思われる
京セラブランド初のAF一眼レフ「Kyocera 230-AF」
を発売。これは海外では(知名度がある)YASHICAの
ブランド名で発売された。しかしながらY/Cマウント
とは互換性が無い(注:一応マウントアダプター/
AFコンバーターは存在していた模様)専用マウントで
あり、そのAF交換レンズは金満家やビギナー層が喜ぶ
Carl Zeiss銘では無い。
このAFシリーズは、数機種が1990年代前半まで発売
されたが、商業的には完全に失敗してしまう。
マニア層からの受けも悪く、後年には「珍品」扱いと
なってしまった。
1990年代
最後のYASHICA銘(MF)一眼レフは、恐らくだが
YASHICA 108 MULTI PROGRAM (1990年)であろうか?
(あるいは、海外向け専用機として、109 MULTI PROGRAM
が存在していたという情報もある)
まあ、この時代は完全にAF一眼レフ時代であり、MFの
YASHICA一眼レフが生き残れる状況では無い、残念ながら
ここでYASHICAのブランド銘も、ほぼ終焉である。
2000年
CONTAXブランドで「Nシステム」発売、しかしこれも
商業的に失敗してしまう。不憫なので、あまりこの
歴史は書きたく無い。(銀塩一眼第24回 CONTAX N1
記事等を参照の事)
2005年(平成17年)
京セラ・CONTAXが、カメラ事業から撤退。
以降、CONTAXのブランド銘は、どこも使用していない。
---
さて、ここまでがYASHICAの歴史である。
以降、京セラのカメラ事業撤退(2005年)後にも
YASHICAのブランド名は、いくつかの商社等
(エクゼモードや、ヴィレッジヴァンガード等)
により使われているのだが、冗長になるので割愛する。
(というか、YASHICAの名前だけを使ったトイカメラ
であったりするので、あまり紹介の意味が無い)
過去参照記事としては
「カメラの変遷第10回ヤシカ/京セラ・CONTAX編」
にも詳しい。
それと、実は、このように「歴史」をまとめて記載する
だけで、「わかったような気分」となってしまうような
記事の書き方は、個人的には好きでは無い。
本来であれば、各時代において、その世情であるとか
他社とのライバル関係とか、そういう「生きた歴史」
が存在し、それ故に、こういう製品が出てきたとか、
そんな風にカメラの歴史を研究していきたい訳だ。
上の年表のような「死んだ歴史」を調べても、書いても
読んでも、殆ど役に立たない。それでは、学校の教科書
等に書かれている歴史年表と同等であり、その年表が
「勉強になった」というケース(情報価値)は少ないと
思っている。むしろ、そういう「年表や年号だけ」を
(テストに出るから)と覚えた、ガリ勉スタイルが、
いかに非効率的であったか?は、誰もが知る所だろう。
また、歴史を調べただけで、自身がそれに関与している
訳でもなければ、その歴史から新たな事実を推測して
いる状況も無ければ、「何も生み出してはいない」事と
なってしまう。どこかにある情報を、単にまとめただけの
「二次情報」は「情報価値は無い」というのが、個人的な
強い信条となっている。(同様に、カメラやレンズ等の
スペックだけを纏めただけの記事も、何も情報価値は無いと
思っている。自身で使った意見等を書いて貰いたいと思う)
さて、レンズの話がちっともできていないが(汗)
本ML50/1.7については、京セラ傘下時代でのYASHICAが、
Y/Cマウントの機体(FR/FXシリーズ)の発売を開始した
のは1977年からなので、本レンズや他のMLレンズ群も、
同時代1970年代後半以降での発売だと思われる。
で、製造は当時YASHICAが子会社化していた「富岡光学」
製である事は、ほぼ間違い無いであろう。
ただ、前述のように、この時代のYASHICAは経営破綻
していた状態であり、資金繰りとか、様々な事情から
「富岡光学」に、全レンズ(ML/ツァイス銘)の生産を
委ねていた訳でも無い、という状況も想像できる。
情報によれば、他のいくつかの企業や工場(ヤシカの
自社工場、マミヤ、トキナー、コシナ(後期)等)に
分散されてYASHICAレンズは製造されていた模様だ。
本ML50/1.7は、完成度の高い小口径標準レンズであり、
当時の他社同等品(例:PENTAX SMC-T55/1.8や、
MINOLTA MC50/1.7等)と並んで、良く写るレンズだ。
他社の同時代の小口径標準レンズ製品では、大口径版
(50mm/F1.4等、最短撮影距離は殆ど全てが45cm)
との仕様的差別化により、最短撮影距離を60cm程度まで
長くしてしまったケースも多々あるが、本ML50/1.7は、
最短50cmと、仕様的差別化は最小限である。
本レンズである必要は無いが、1970年代頃の、
MF小口径標準(50mm前後、開放F1.7~F2、変形
ダブルガウス型5群6枚構成)は、マニア層としては、
「歴史の変遷」を知る上でも必携のレンズであろう。
MF小口径標準の、現代にも通用する高い描写力は、
初級マニア層では、驚きを隠せないかも知れない。
----
では、2本目の標準レンズ
レンズは、YASHICA LENS ML 50mm/f1.4
(中古購入価格 8,000円)(以下、ML50/1.4)
カメラは、SONY α7S (フルサイズ機)
詳細不明、やはり1980年前後に発売と思われる
MF標準レンズ、Y/Cマウント版である。
当時、最も注目を浴びていた、CONTAX RTS用の
大口径標準CONTAX Planar T* 50mm/F1.4(後述)
との戦略的な差別化が必要なレンズであろう。
まあつまり、
「CONTAXは一流品で、高性能で高価なのです。
YASHICAは大衆向けで性能は低いですが安価です」
という、一般消費者層がわかりやすい販売(営業)
戦略を取る必要があった訳だ。
が、マニア層等は「富岡光学は世界のカールツァイスが
認めた技術力の高い企業だ。よって、CONTAXを買うのは
成金趣味のブルジョア層であり、マニアであればYASHICA
のレンズを買う、それが「通」というものだろう?」
という論理で、あえてYASHICA・富岡光学製品を志向する
人達も、当時、又は20年後の第一次中古カメラブーム時
にも大変多かった。
つまり、ツァイスのレンズを買ってしまったら、「何も
わかっておらずにブランド銘に騙される金満家消費者層と
同じに見られてしまう」事を、マニア層は嫌った訳だ。
だから、YASHICA MLレンズは、いつの時代でも品薄傾向
である。すなわち、その販売時点では、例えマニア層が
あれこれと言ったとしても、やはり世間一般からの注目は
「CONTAX」であり、「YASHICA」ではない。
後年には、あまり売れておらず中古流通が潤沢とは言えない
YASHICAレンズを、マニア層が「富岡光学製だ!」と言って
買い漁った為、もう現代では、YASHICA銘レンズは、殆ど
流通していない状況だ。
そんな状況の中、本ML50/1.4であるが、CONTAX銘の
P50/1.4とは、レンズ構成は同等の6群7枚、ただし
フィルター系が異なり、ML50/1.4はφ52mm、
P50/1.4はφ55mmである。これは、瞳径の大きい
P50/1.4に僅かに設計上の優位点がある。(小型化を
取るか描写力を取るか?のトレードオフ(二者択一)だ)
そして最短撮影距離は、申し訳程度に、ML50/1.4
に僅かに性能制限を掛けていて、P50/1.4の45cm
に対し、本ML50/1.4は50cmである。
後、絞り羽根の枚数が異なり、P50/1.4は6枚、
何故か本ML50/1.4の方が多い8枚だ。
ただし、絞り羽根は、マニア層等では奇数を好む傾向
がある。(=光条/光芒を出す時、奇数の場合のみ
絞り羽根の数の2倍の光の線が現れる事が理由だ)
で、ML50/1.4の描写傾向は、P50/1.4とは異なる。
簡潔かつ感覚的に言えば、P50/1.4は条件が決まった
際に爆発的な高描写力が得られるピーキーなレンズ
ではあるが、その確率はかなり低く、銀塩時代の
機材環境ならば、なおさらであり、P50/1.4での
凄い写りを得られたユーザーは、極めて少なかった
事であろう。私も銀塩時代では「滅多に決まらない」
そのP50/1.4は、辟易しながら使っていたが、たまたま
得られる素晴らしい写りへの期待だけはあった。
本ML50/1.4は、P50/1.4ほどに難しい特性ではない。
ただ、条件が決まった場合でも、P50/1.4程の爆発的
な高描写力は得られない。まあ、汎用的というか、
安全なレンズというか、面白味の少ないレンズとか、
色々な解釈はできるだろうが、両者は全く違うレンズ
として、そう簡単に優劣を語る事は出来ないと思う。
----
では、3本目のレンズ
レンズは、YASHICA LENS ML 50mm/f2
(中古購入価格 不明:カメラボディに付属の為)
カメラは、CANON EOS M5 (APS-C機)
詳細不明、1980年前後に発売と思われるMF標準
レンズ、Y/Cマウント版。
さて、「富岡光学」に視点を当てて、その歴史を
ここで述べておく。(ただし、ごく普通の年表である。
当時の世情等を絡めていくと際限なく冗長になるからだ)
<富岡光学の歴史>
1932年(昭和7年)
創業者の「富岡正重」氏が東京・大森(当時は区)に
富岡光学機器製作所を設立、後に株式会社となるが、
戦時中は軍需工場となり、陸軍・海軍の光学兵器を
生産する。(その為、米軍に狙われたのであろうか?)
1945年
東京空襲(爆撃)により、富岡光学の工場は全焼して
しまう。なお、この東京空襲については、何度も
行われていて、被害甚大ではあるが、戦争という世情に
より、詳細な記録は(意図的に?)残されていない。
1949年
戦後、富岡社長夫人の実家の青梅市で、疎開していた
一部の工場設備を元に、事業を再開。
「株式会社富岡光学器械製造所」を設立する。
1960年代
YASHICAのレンズ生産を主に行ってはいたが、
この時代では、「富岡光学」は、YASHICAの子会社では
無く、自社ブランド(TOMINON)の他、他社へのOEM
供給も多数行われていた模様である。
マニア間で伝わる話としては、この時代か、やや
後の1970年代頃のTOMINON 55mm/F1.2 (未所有)が
個性的な描写力を持ち、COSINAやCHINON等へも
OEM供給されていたとの事。(真偽不明、何故ならば
既にYASHICAの傘下となっていた為、政治的にそれが
可能だったか否か?の検証が難しい状況だ)
もし、その説を信じるならばCOSINA 55mm/F1.2は
所有しており、それについては後で紹介する。
1968年
YASHICAの資本傘下となり、子会社化される。
1969年(昭和44年)
「富岡光学株式会社」に改名。
この後の時代では、ほぼYASHICAカメラ製品用の
レンズ(この時代では、ELECTRO 35シリーズの
コンパクト機用レンズや、M42マウントのYASHICA J
およびTL/TL ELECTROシリーズ用のレンズ)を生産
していた事であろう。
1970年
銀塩MF一眼レフYASHICA TL ELECTRO X ITSの発売。
前述の55mm/F1.2レンズ(AUTO YASHINON DX55/1.2
あるいは DS-M55/1.2、詳細不明)がセット
されていた模様である(未所有)
ちなみに、この時代1960年代~1970年代のYASHICA
製カメラは、私はELECTRO 35、ハーフ判、M42一眼等
を数台所有していたのだが、単体レンズは富岡光学製と
思われた為に、現代でも一部は残して所有しているが、
カメラ本体は、「古すぎて実用価値無し」とみなし、
デジタル時代に入った頃に処分してしまっている。
この時代のカメラの搭載レンズが手元に残っていれば、
より歴史的な変遷の研究にも役立ったかも知れないが、
まあ、カメラを処分した時の感覚では「レンズも同様に
古すぎて実用価値無し」という考えであった。
では、富岡光学の歴史の続きだ。
1983年(昭和58年)
YASHICAが京セラに吸収合併された時点で、富岡光学
も京セラの傘下となる。
1991年
社名を「京セラオプテイック株式会社」に変更。
ちなみに、この時点においても、富岡光学の(戦後
での)創業地の東京都青梅市に本社を置いていた。
2005年(平成17年)
京セラCONTAXが、カメラ事業より撤退。
京セラオプテイック(元・富岡光学)が、この後
写真用(交換)レンズの生産を続けていたかどうか?
の情報は入手できていない。
2018年(平成30年)
「京セラオプテイック株式会社」は、京セラ株式会社
に吸収合併されて消滅。ここで「富岡光学」の長い
歴史は終焉した事となる。
さて、本ML50/2の話がちっとも出て来ないが、
まあ、この時代(またはM42時代から)のYASHICAの
50mm級標準レンズは、開放F値の違う製品が沢山あり
何故、そんなに沢山の機種があったのか? 今となっては
不思議にも思うが、他社、例えばCANON等であっても
多数のスペック違いのMF標準レンズを並行ラインナップ
していたので、当時はそんな市場戦略もあったのだろう。
本レンズは、小型軽量のメリットはあるが若干のボケ質
破綻も目立ち、個人的には、開放F値が僅かに異なる、
F1.9版の方が好みだ。
開放F値違いでの、スペックの差については後述する。
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さて、4本目の標準レンズ
レンズは、YASHICA LENS DSB 50mm/f1.9
(中古購入価格 2,000円)(以下、DSB50/1.9)
カメラは、OLYMPUS PEN-F (μ4/3機)
詳細不明、1970年代末頃に発売と思われるMF標準
レンズ、Y/C(RTS)マウント版である。
DSBという名称は「モノ(単層)コーティング版」だ
と言われている。
型番の由来は、YASHICAの1970年代前半までの
M42マウント版レンズにおいて、DS(YASHINON-DS)
という型番のレンズがあったので、それのBタイプ
(マウント変更型??)という意味なのかも知れない(?)
YASHICAの標準レンズはスペック違いが多数あると
前述したが、開放F値の違いでレンズ構成も異なり、
当然ながら小口径版は簡素な設計で、安価であった。
<YASHICA ML標準レンズのレンズ構成>
55mm/F1.2:6群7枚
50mm/F1.4:6群7枚
50mm/F1.7:5群6枚
50mm/F1.9:4群6枚
50mm/F2.0:4群6枚
なお、いずれのML標準レンズも、最短撮影距離は
50cmで統一されている。(=ラインナップ間での、
およびCONTAXレンズとの、仕様的差別化は行われて
いない)
それと、上記MLレンズの中には、それ以前の
M42マウント版と同一のスペックの物も多く、
一部は、M42時代の設計を継承している可能性もあるが、
(本レンズDSB50/1.9は、恐らくは設計継承品だ)
そういうパターンが全てでは無いであろう。
なにせ、この時代はMF一眼レフとセット販売されている
標準レンズの良し悪しが、そのままカメラの評判にも
直結する時代であったから、各社とも標準レンズ性能の
小改良に余念が無い時代であったからだ。
本レンズのM42マウント版は、次で紹介する。
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さて、5本目のYASHICA標準レンズは少し古い時代だ。
レンズは、YASHICA AUTO YASHINON-DS 50mm/f1.9
(中古購入価格 9,000円)(以下、DS50/1.9)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)
詳細不明、恐らくだが1960年代末か1970年代初頭
頃に発売と思われるMF標準レンズ。
こちらはM42マウント版である。
YASHICAのM42版銀塩MF一眼レフの新規発売は、
1961年(PENTA J)~1969年(TL ELECTRO)~
1973年の期間に留まる、それ以降は、前述のとおり
Y/C(RTS)マウント機に転換する訳だ。
YASHICAのM42マウント版レンズは、
AUTO YASHINON-DS、AUTO YASHINON-DX、
AUTO YASHINON DS-Mの3種類が存在する。
一般的には、「絞りのA/M切り替えが存在するのがDX型
であり、それが無いのがDS型だ。なお、DS-Mはマルチ
(多層)コートで、他は全て単層コーティングだ」と
マニア層や中古市場においては分類されているが、
ごく僅かな例外(無印版の存在や、A/M切り替えが
あるDS型等)がある模様だ。
それと、A/M切り替えのあるDX型の方が後から発売
されているようにも思えるのだが、DS型が後から
発売されたケースもある模様で、どうにも良く理解
できない。
もしかすると、生産工場が異なる可能性もある訳で、
この当時のYASHICAは、まだ富岡光学を子会社化して
いなかったから、他社(コシナやマミヤ等)にレンズ
製造を依頼する事もできただろうし、あるいは既に
「ニッカ」や「ズノー」という老舗カメラメーカーも
買収済みであったから、それらをYASHICAの自社工場
として運用していたのかも知れない。そうであれば、
製造工場の設備等の差異により、レンズ毎の仕様が
変わって来る事も、まあ、わからない話では無い。
さて、本DS50/1.9、および前述のDSB50/1.9は、
両者同じ光学系でのマウント違いのレンズだと思われる。
恐らくはコストダウン優先型の設計であり、キット
レンズとする母艦カメラの価格帯等に応じて、最も
安価なカメラ+標準レンズのセットを実現する為の
ものであったかも知れない。
この時代は「高度成長期」(1954年~1970年)で
あったから、所得が増え、景気が良くなった事で、
消費者層の多くが、カメラを欲しがったと思われる。
ただ、同時に、物価も上昇した時代(1950年を1.0
とすると、1960年で約1.5、1970年で約2.2、
の比率となる。なお、以降の時代は「狂乱物価」とも
言われ、さらに物価の上昇が激しくなった)
・・(物価が上昇した時代)であった為、消費者層
への選択肢として、高級品も廉価版(のカメラ)も
併売されていた事だろう。
廉価版にセット(キット販売)するレンズは、
開放F値のスペックを暗くする事が簡便だ。
何も知らない入門者層に対しても、F1.4=高級品
F1.7=中級品、F2級=廉価版、と明確に区別できる。
もしかすると、この1960年代が、レンズの開放F値の
差を「性能差だ」と、消費者層に誤認識させてしまう
最初の時代だったかも知れない。その後、約半世紀の
50年以上が過ぎた現代でも、ビギナー層の間では
「開放F値の小さいレンズが高性能で良く写るのだ
だから高価なのであり、開放F値が大きくて暗い
レンズは低性能の安物だ・・」という間違った認識
が残ったままとなっている。
(下手をすれば「開放F値が暗いレンズは暗く写る」
といった酷い大誤解すら、ビギナー層では依然多い)
ちなみに、基本的には、レンズの開放F値は暗い方が
高描写力の設計とする事が容易となる。
口径比(開放F値)を欲張ると、諸収差のオンパレード
となって、手に負えないからだ。
近代のコンピューター光学設計では、また話が少し
違ってくるが、1970年代あたりのオールドレンズを
志向するマニア層であれば、大口径レンズよりも
小口径レンズの方が、ずっと良く写る事は「常識」
として広まっているであろう。
まあつまり、「大口径=高性能=高級品」という
認識で物事を語っているのを見掛けたら、それはもう
完全なる超ビギナー層であるから、ほっておけば良い。
いずれ、その内、大誤解に気づく事であろう。
本DS50/1.9であるが、M42時代のオールドレンズだ、
とか、4群6枚の簡素なレンズ構成だ、とか、そんな事を
忘れさせてくれるくらいの高い描写力を持つ。
解像感は高く、ボケ質も破綻しにくい。
ある意味、「富岡光学」らしさを体感させてくれる
レンズであり、「同時代の他の小口径標準よりも、
1枚上手(うわて)」という印象のレンズだ。
(注:レンズ構成が4群6枚と同一のML50/2よりも
本レンズの方が、ずっと優れるように感じるのは、
設計の差異があるのだろうが、詳細な理由は不明だ。
例えば、製造箇所が違うとか設計した企業が違うとか・・
でも廉価版と言っても同じレンズ構成では手を抜く事も
難しいし、それこそ、設計技能自体の差であろうか?)
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さて、6本目の標準レンズ。
レンズは、YASHICA AUTO YASHINON-DX 50mm/f1.7
(中古購入価格 5,000円)(以下、DX50/1.7)
カメラは、FUJIFILM X-T1 (APS-C機)
詳細不明、1960年代~1970年代に発売されたと
思われるMF標準レンズ、M42マウント版。
前述のように、DX型番なので、A/M切り替えがある。
ただまあ、1960年代のM42機(ASAHI PENTAX SP系等)
や、2003年のCOSINA Voigtlander Bessaflex TM
(銀塩一眼第30回記事)といったM42機を使わない限りは、
現代のミラーレス機にM42用マウントアダプターを
介してM42レンズを使用する場合、A/M切り替えの有無は
全く関係が無い。(注:一部の銀塩/デジタル一眼レフ
に対し簡素なM42マウントアダプター(例:PENTAX製
「マウントアダプターK」等)を使用してM42レンズを
装着する場合は、A/M切り替えスイッチが無いと、レンズ
が開放絞りのままとなり、使い難い/使用不能となる)
まあつまり、マニアで有ればA/M切り替えの有無ごとき
は、どうにでもなるのだが、一般初級中級層では、
こうしたオールドのレンズを使うには、知識も機材環境
の面からも厳しいであろう。 マニア層でもない限り
「富岡光学製のレンズは良く写るらしいから、探して
買ってみよう」などとは思わない事が賢明だ。
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さて、7本目の標準レンズはCOSINA銘である。
レンズは、COSINA 55mm/f1.2 (MC)
(新品購入価格 17,000円)(以下、COSINA55/1.2)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1(μ4/3機)
詳細不明、1980年前後に発売と思われるMF大口径
標準レンズ、Kマウント版である。
このレンズは出自が不明であるが、前述のように
富岡光学製のTOMINON 55/1.2の系譜である、という
噂も有力だ。ただ、はっきりとそうである、とは
私は思ってはおらず、本レンズとは、様々な仕様が
微妙に違っているとか(最も異なるのは、本レンズ
では、Kマウント版しか存在しない)、本レンズの
系譜がTOKINA版KENKO版等もあって、富岡光学版
とは微妙に「メーカー間の接点(関係性)」が、
無いようにも思えてしまうからだ。
で、近年においては、「木下光学研究所」が、その
TOMINON 55/1.2を復刻生産(KISTAR 55/1.2 2015年)
している。
ただし、TOMINON系55/1.2は最短60cm?だったように
思うが(本COSINA版はそうである)KISTAR 55/1.2
は最短50cmとなっている(YASHICA版も、最短50cm)
フィルター径はCOSINA版φ58mm、YASHICA版と
KISTARがφ55mmである為、全ての55/1.2系列レンズ
が、全くの同一の設計では無く、仕向けに応じた
小変更が行われているかも知れないし、あるいは元々
全く異なる系譜なのかも知れない(個人的には、全く
異なる系譜だと思っているが、確証は無い)
まあなにせ、1960年代~1970年代には、標準レンズ
の「大口径化競争」が市場で起こり、各社はF1.2級
あるいは、それ以下の開放F値の標準レンズの開発
発売に凌ぎを削った時代だ。
だが、それらF1.2(以下)級レンズの描写力は
どれも酷いものであり、現代の視点では、どれも実用
以下の性能レベルである。
(参考記事:最強50mm選手権第7回MF50mm/F1.2編」
まあ、本COSINA55/1.2も同様、実用的価値は無い。
もし伝説のTOMINON 55/1.2が本レンズと同一設計
(すなわち、富岡光学→COSINAへのOEM供給)である
ならば、それの描写力も話半分に聞いておくのが
賢明であろう。なにせ、F1.2級で、まともなMF標準
レンズは1本も存在しなかったのだ・・
ちなみに 木下光学研究所は、55mm/F1.2の他にも
35mm/F1.4、85mm/F1.4のオールドレンズの復刻版
とも思われるレンズを発売していて、興味はあるのだが、
いずれも少量生産と思われ、必然的に、製造原価や
販売価格が高価である。
まあ、オリジナルのオールドレンズを入手した方が
安価であるくらいだし、オールドの大口径レンズには、
個人的には、あまり(性能的に)期待していないので、
どうも食指が動かず、いずれも未所有だ。
----
さて、次は今回ラストの標準レンズだが、
こちらはYASHICA銘ではなく、微妙な判断だ。
レンズは、CONTAX Planar T* 50mm/f1.4
(中古購入価格 19,000円)(以下、P50/1.4)
カメラは、SONY α6000 (APS-C機)
1975年に(YASHICA)CONTAX RTS(銀塩一眼第5回記事)
の登場に合わせて発売された大口径MF標準レンズ。
一応、このレンズには西独製と記載されている。
ただまあ、これについては、西独ツァイス社は、
ほんの数年前にカメラ事業から撤退したところであり、
関連(下請け)工場の操業や雇用の確保等の事情が
あり、一部のレンズの部品を、日本のYASHICA(富岡
光学)から西独に送って、そこで組み立てを行ったと
推察している。そうすれば、ツァイス製の高級品の
扱いとなるし、それで、YASHICAも、ツァイスも
消費者層も、誰も困らないし、むしろ喜ぶ訳だから、
皆が助かる「Win-Win」関係が成り立つ事となる。
しかし「ツァイス製だ」という事に過敏に反応して
しまった当時の消費者層、ユーザー(オーナー)層、
さらには評論家(専門評価者)層までが、
「これは凄い標準レンズだ、さすがツァイス!」
という過剰な高評価をしてしまい、その後40年以上
に至る近代まで、本P50/1.4は中古相場が不条理に
高価な標準レンズとなってしまっていた。
中身は、ごく普通のMF標準レンズである。
6群7枚のオーソドックスな変形ダブルガウス型構成、
別に非球面レンズを使ってもいなければ、異常(特殊)
低分散ガラスを使っている訳でも無い。
ただ、だからと言って、古すぎて使いものにならない
程の低性能なレンズでも無い。各社は、このP50/1.4の
性能レベルを参考にし、1980年代には50mm/F1.4級
標準レンズの性能を、ほぼ完成の域にまで向上させた。
そのままAF時代(1980年代後半~)に入っても、
各社50mm/F1.4級は、その完成度の高い光学系のまま
AF化され、さらにデジタル時代(2000年代前半~)に
入ってまでも、そのままの中身の標準レンズを30年間
以上も売り続けていた。何故ならば、改良する必要性が
あまり無かったからだ。
2010年代に入り、カメラ市場が縮退してしまうと、
さすがにもう30年も40年も前の古い設計の、標準レンズ
を数万円という安価な価格で販売していても埒が明かない。
そこで、コンピューター光学設計とした、十数群十数枚
という、「大きく重く高価」な三重苦の標準レンズを
やっと30~40年ぶりにリニューアルした訳だ。
まあ勿論、新型の標準レンズは良くは写る。
(参考:最強50mm選手権第17回決勝戦記事)
ただ、「三重苦」である事の是非は微妙だ。
マニア的視点では、銀塩MF時代(1980年代頃まで)の
標準レンズの方が楽しめるようにも思えてしまう。
でも、最強50mm選手権シリーズ記事でも、さんざん
書いてきたように、ある程度、銀塩MF標準レンズの
数を揃えていくと、「あれも同じ、これも同じ」と、
殆ど区別の出来ないような、極めて描写傾向の
似ている標準レンズが、いくらでも出て来てしまう。
まあつまり、時代に応じて、各社の標準レンズの
性能は横並びなのだ。
もっとも、それに気づくまで、いったい何十本の
MF標準レンズを買い集めてしまった事だろうか・・
わかっている事は、Planar 50mm/F1.4の、たった
1本だけを手にして、「これは最高の標準レンズだ」
等という評価は出来る筈が無い、という事は、まあ
確かだとは思う。世間の誰もが「ツァイス」という
ブランドの魔力に翻弄されてしまっていた時代なのだ・・
(余談:近年のTVのバラエティ番組で、三ツ星レストラン
でインスタントの食品を出しても、多くの客は、それに
気づかず、「やはり高級レストランは違うね!」と、
喜んでいる様子を面白おかしく紹介する人気企画がある。
まあ、それと同じ事で、「やはりツァイスは凄いね」と
言う風に、評判だけに左右されてしまうのは、例えマニア
でも評論家でも、それを避ける事は難しいのだろう・・)
で、私はもう「ああ、富岡光学製らしき標準レンズだね」
と、そんなイメージを、本P50/1.4に対して持っている。
----
では、今回の補足編「YASHICA銘富岡光学製らしき
標準レンズ」編は、このあたりまでで。
次回レンズマニアックス記事に続く・・
]]>
連載中:レンズ・マニアックス
p_chansblog
Wed, 11 May 2022 20:05:08 +0900
2022-05-11T20:05:08+09:00
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コンパクト・デジタル・クラッシックス(6)補足編CANON IXY L/L2
http://pchansblog.exblog.jp/32582396/
http://pchansblog.exblog.jp/32582396/
<![CDATA[ コンパクト・デジタル機を紹介する本シリーズ記事だが
今回は補足編として、2000年代前半に発売された
CANON IXY DIGITAL LおよびCANON IXY DIGITAL L2
(2機種、計3台)にスポットを当てた記事とする。
(注:IXYは、一般に、イクシ/イクシィと読まれる。
だが、「イクシー」と伸ばすのは非推奨な模様だ。
IXYは造語だが、その由来は記事中で説明する。
また、「DIGITAL」の文字は全て大文字表記だ。
当初は銀塩IXY機と混在していた為に「DIGITAL」を
付けて識別されたが、2010年代以降のデジタル機の
IXYでは「DIGITAL」の型番表記は省略されている。
なお、全て大文字とするのは特性を強調したいから
だと思われる。CANONにおける例外は、Kiss Digital
シリーズ機のみであり、女性やファミリー層向けの
その機体で「DIGITAL」と全て大文字表記をすると、
堅苦しい/難しいという印象が強くなるからであろう)
本記事では、多数あるIXYシリーズの中では非常に
希少な「単焦点レンズ」搭載の機体について紹介を
行う。また、銀塩(APS)のIXYの歴史も少し紹介する。
----
ではまず、今回最初の(デジタルの)IXY機
カメラは、CANON IXY DIGITAL L (1/2.5型機)
(2003年発売、発売時実勢価格約4万円)
(ジャンク購入価格 100円)
レンズ仕様、39mm(相当)/F2.8
IXY DIGITALでは初の単焦点レンズ搭載機である。
ボディカラーは、4色(銀、黒、白、茶)で
発売された。明らかに女性向けという様相は無く
男性でも女性でも使える色味である事が、当時の
世情(=カメラを趣味とする事は、まだ男性優位
の時代でもあった)を反映していると思われる。
私は、内、黒色(ピアノブラック)版を入手して
2000年代に愛用していたが、故障廃棄となった。
2020年頃に、ジャンク品の白色(パールホワイト)
を、専門店のジャンクコーナーから税込み100円!
でサルベージしたのだが、バッテリーや充電器が
欠品していたものの、IXY L/L2では、それらは共通
に使用できる。そして無事、問題なく動作もした。
IXYシリーズは、銀塩時代の1996年より、当時から
始まった銀塩新規格「APS」(IX240フィルム使用)の
(注:APS =「Advanced Photo System」の略)
最初期から発売されていて、ヒット商品となっていた。
銀塩(APS)IXYは、2002年頃までに都合10数機種が
発売されている。
デジタル化されたIXYは、2000年からの発売だ。
2017年までに(注:それ以降の新機種は無し)
概算だが約80機種と、多数が発売されている。
なお、IXY機の型番は、番号のルールが存在しない
(番号が大きいものが新機種では無いし、番号の
大小が、カメラのランクを表すものでもない)ので
型番だけを聞いても、仕様等は、まずわからない、
個別の機体毎にスペックを調べるしか無いであろう。
ただ、注目点からすると、IXY (DIGIAL)機の大半は
CMOS機ではなく、CCDセンサー搭載機である事。
それと、単焦点機は(銀塩もデジタルでも)極めて
稀である事がポイントとなる。
本記事では、その希少な単焦点IXYについての説明が
主眼となる。
ちなみに、「IXY」というのは日本向けの名称であり
海外向けではIXUS、ELPH等の名称が使われている。
さて、本機IXY DIGITAL Lは、2003年発売だが、
既に8機種ほどのデジタルのIXYが発売されていた。
(注:動画撮影を主体としたIXY DVシリーズ機の
説明については、本記事では対象外とする)
本機は、IXY DIGITALでは初の単焦点機であり、
小型軽量のIXYシリーズをさらに小型化し、かつ
高描写力を得られる企画コンセプトだと思われる。
又、これ以前のIXY DIGITALは、CFカードを記録
メディアとする機種が大半であったが、超小型機
である本機では、SDカードを記憶媒体としている。
本機IXY DIGITAL Lの記録画素数は400万画素だ。
これは、当時のデジタル一眼レフでは、例えば
・CANON EOS D30(2000年):300万画素
・NIKON D100(2002年):600万画素
・NIKON D2H(2003年):400万画素
・OLYMPUS E-1(2003年):500万画素
という世情からすると、さほど見劣りする事は無く、
又、CANON製デジタル・コンパクト機においても、
・CANON IXY DIGITAL 300(2001年):200万画素
・CANON IXY DIGITAL 30(2003年):300万画素
と比べても、むしろ改良されている。
超小型機であっても性能は妥協しない方針であろう。
記録画素数はともかくとして、本機の課題は、
残念ながら、いくつもある、
1)ISO感度設定範囲がISO50~ISO400と低く、
かつISO200以上は、ノイジーとなってしまう。
2)メニュー操作系が練れておらず、カメラ設定が
調整しにくい。特にマクロモードへの変更や
露出補正の操作には手間(手数)がかかる。
(注:小型機ゆえに、操作子を置く場所がない)
3)背面モニターが1.5型と小さく、当然EVFも持たない
為に、構図やピントの確認、カメラ設定がやり難い。
4)バッテリーの持ちが悪い。バッテリーの経年劣化も
あるので、通常、数十枚程度しか撮影できない。
L/L2で最も撮ったケースでも、1日あたりで
200枚程度の撮影だ。
まあでも、大きな弱点は上記くらいであり、
超小型軽量で比較的高画質、そしてスタイリッシュ
で高品位な金属外装である事が長所である。
IXY DIGITAL Lの最大の特徴は「青色エンハンス」
である。これは、その当時(2000年代初頭)の
多数の他社カメラでも同一の特徴を持つのだが・・
つまり、当時のCCDおよびCMOS撮像センサーは、
短波長(青色等)の可視光に対する感度が低かった為、
画像処理エンジン側で、B(青色)画素に対する
感度強調(増強、エンハンス)処理を掛ける事が
良くあった。
この特徴は、OLYMPUS 4/3(フォーサーズ)機の
初期の機体で、KODAK製CCDセンサー搭載機で顕著で
あった為、市場等では「オリンパス・ブルー」と
(又は、稀に「KODAKブルー」とも)呼ばれていた。
しかし「青色エンハンス」処理は、OLYMPUS機だけの
特徴では無く、他社機でも同等の処理を行っている
ケースが多かった為、個人的には、そうした呼称
(オリンパス・ブルー)は、まず使わなかった。
関連記事:
プログラミングシリーズ第12回
「オリンパス・ブルー」生成ソフトのプログラミング
OLYMPUS 4/3機以外に、顕著に「青色エンハンス」
処理を行っていたカメラの代表格が本機IXY DIGITAL L
であろうか?(注:他にも色々あるのだが、冗長になる
ので割愛する。まあ2000年代前半のデジタル機の多く
に同様な特徴が見られる訳だ。
では何故、OLYMPUS機だけ「オリンパス・ブルー」と
呼ばれたのか?その理由は不明だ。恐らくは、そう
した「宣伝活動」または「他社機を知らないだけ」の
いずれかであったのだろう)
本機の場合では、まず「オートモード」ではなく、
マニュアルモードに設定する。(そうしないと様々な
設定が出来ない)次いで、「くっきりカラー」モード
に設定し、さらにISO感度を手動でISO50程度に落とし、
かつ露出補正を-1/3~-2/3段程度とする。
ここから、主に青空側にAEを効かせて撮影すれば良いが、
「AiAF」という、まるでNIKKORのレンズ名のような機能
がONになっていると測距点が自動選択されてしまうので、
この機能を念のために「切」とし、中央測距点のみで
AEロックを掛けて空の明るさを、やや暗めに調整すれば、
気持ちの良い青色発色が得られる。
その発色傾向は、時に「やりすぎ」の状況も見られ
青色よりも濃い、紺色・藍色のような発色となる事も
多々あるし、それと、当時の「青色エンハンス」機の
殆ど全てに共通の課題としては、青色よりも短波長の
紫色や菫(すみれ)色の被写体を撮影すると、実物
とは、似ても似つかぬ色味となる事が課題となる。
まあでも、その特性を理解して使うのであれば、
何も問題は無いし、私の場合では、IXY DIGITAL Lや、
(多少その青色処理の傾向が残る)IXY DIGITAL L2は
長い期間「青空専用カメラ」として使っている。
その特徴があるからこそ、発売後20年近くにもなる
超クラッシック・デジタルカメラでありながらも、
現代において、まだ現役で使用する事が可能であり、
数百円というジャンク品も何台か買って、故障時等の
代替として備えている次第だ。
超小型軽量(本体100g)なので、持ち運びの
負担も無い。カメラバッグや日常使いのバッグに
忍ばせておいて、気持ちの良い青空の際に取り出し
数枚程度を撮影すれば、それで十分であろう。
なお、勿論だが、今回の記事でもカメラのJPEGでの
出力での「撮ったまま」であり、画像の色味の編集
処理は行っていない。それをしてしまうと、元々の
カメラの特徴が説明できなくなってしまうからだ。
それと、この時代(2000年代前半)では、画像
編集を行うユーザー層の比率も極めて少なかったし、
カメラの(色味等の)設定を、自在に変更して使う
ユーザーも少なかった(この点は現代でも同様)
なので「このカメラの色味は良い(悪い)」等という
ビギナー的評価が後を絶たなかったのだが、基本的に
デジタルカメラの発色は、そのオーナーの責任範囲だ。
単に、銀塩時代での「写真の現像はDPE店まかせ」の
風潮(感覚)が抜けきれていなかったのであろう。
以降の時代(2000年代後半以降)では、各社の
カメラの発色傾向はフラットになっていき、そこから
オーナー自身の用途(または好み)に合わせて、色味
の設定や編集を行う事は、当たり前の措置となった。
今時「このカメラは色味が悪い」などと言っていたら
ちょっと(かなり)世情に合っていない状態だ。
さて、ここからは銀塩(APS)時代のIXYについて
少し歴史を説明しておく。
その前に、バブル経済期(~1992年)の話だが、
この時代、銀塩カメラは、バブルのムードに乗り
高性能や高機能を謳ったものを高価格で販売する
いわゆる「高付加価値化」戦略を取っていた。
しかし、バブルがはじけてしまうと、そうした
バブリーな銀塩カメラは、財布の紐が固くなった
消費者層のニーズには全くそぐわない。
この為、1990年代前半の各種銀塩カメラでは、
バブル期の残り香があるものは、いっきに売れなく
なってしまっていた。
この時代のAF一眼レフ等に魅力があまり無い事は、
別シリーズ「銀塩一眼レフ・クラッシックス」でも
詳しく分析していて、この結果、1990年代前半の
銀塩カメラでの、私の現有数は極めて少ない。
つまり、「当時の銀塩カメラにおいて、現代にまで
残す価値のあるものは、ほとんど無い」という判断
になって、殆どを処分してしまった訳だ。
メーカーや市場側では、この状況を打開するには、
アフターバブル期での新たな消費者ニーズを喚起する
しかない。
その方針転換の最も大きな成功例は、CANON EOS Kiss
シリーズ(1993年~、未所有)であろう。
アフターバブル期における、新規カメラ消費者層、
つまり、ファミリー(パパママ)、女性、入門層等に
向け「誰にでも簡単に高画質な写真が撮れ、しかも
安価である」という方向性を打ち出して成功した。
ただ、CANON EOS Kissシリーズを、私が1台も所有
していないのは、「簡単である」事と「使い易い」事
は、イコールでは無い、と判断したからだ。
カメラが写真を撮る機械である以上、写真を撮る
という目的においては操作系が優れていないと意味が
無いと思っている。
例えば、「初心者は露出補正機能など使わないから、
その操作性は重視しない」という企画コンセプトでは
入門層以外には使い難い機体となってしまう訳だ。
でも、EOS Kissシリーズは大ヒットカメラとなった。
新たなユーザー層を開拓する上では、ネーミングも
重要であり、これまでのような、EOS 100QDのような
無味乾燥な型番では、入門層では「わからない、覚え
られない、印象に残らない、どの型番を買ったら良い
か判断できない」等の課題があったからだ。
EOS Kissシリーズの、エントリー(入門)層への
ヒットを見て、他社も型番(名称)戦略の重要性を
知る事となるのだが、他社がそれに追従するのは、
MINOLTA α-Sweet、NIKON u、CONTAX Aria、
PENTAX *ist等、5年から9年も後の時代であった。
その間だが、一眼レフ以外では、元々入門層向け
であった(銀塩)コンパクト機では、型番名称の
戦略は普通に行われていた。その例としては、
CANON Autoboyや、PENTAX ESPIO等がある。
そして、アフターバブル期のカメラ市場低迷に
ついては、フィルム界でも方針転換を迫られ、
その為もあってか、APS(Advanced Photo System)
規格が提唱された。
APS規格には、KODAK、FUJIFILM、KONICA、MINOLTA、
CANON、NIKON等が参画し、フィルムメーカーでは
APS(IX240)型フィルムおよびAPSカメラを販売。
カメラメーカーは、APSコンパクト機、APS一眼レフ、
およびAPS特殊機(水中カメラ、超マクロ、超小型機等)
を1996年ごろより順次開発販売した。
この新規格は、入門層に対してのインパクトは大きく
当時のヒットカテゴリー商品となった。
また、ネーミング(名称)戦略も顕著となり、
CANON=IXY、NIKON=NUVIS、MINOLTA=VECTIS、
KONICA=EFINA、FUJI=EPION、等、各社、固有の
名称をAPSコンパクトカメラに付けた状況となった。
参考として、上写真は史上唯一の高級APSコンパクト
機の、CONTAX Tix(1997年)である。
APS規格には勢いがあり(高付加価値型の)CONTAXや、
OLYMPUSまでAPS機を発売する世情だった。
ただし、35mm判高級コンパクトGR1シリーズを展開して
いたRICOHは、APS機を1台も出していなかったと思う。
CANONのIXYは、その中では最も成功した例であろう、
ネーミングがすっきりしていて、わかりやすい。
が、他社のネーミングは、正直言えば、現代において
これを覚えているユーザー層も居ないかも知れない。
ちなみに、IXYは造語であり、そのままの意味は無い。
由来だが、APS規格で使用するIX240フィルムの
「IX」とは、「Infomation eXchange」の略であり、
IXYは、IXにYを付けて語感を整えたのだと思われる。
銀塩CANON IXYのデビューは1996年。
新規に始まったAPS(Advanced Photo System)規格
での、ほぼ初号機(CANONとしても、APSとしても)
である。
このAPSの登場期にヒット商品となったのは、この
CANON初代IXY(イクシ、1996年、未所有)である。
ステンレス外装で、スタイリッシュなそれは、
「周囲に見せる」目的のカメラとして、人の集まる場
(パーティー、キャンプ、イベント等)において
注目され、カメラの利用目的の新機軸を築いた。
(参考:同時代のRICOH GR1等は、黒色で小さく
目立たない外観であり「街中のスナップ撮影も可能」
等と言われていたが、今時、そんな撮り方をしたら
「盗撮」だとか「肖像権」やらで、大問題となる。
時代が異なれば、世情も倫理も価値観も異なる訳だ)
また、APS(IX240)型フィルム登場に合わせ、この
フィルムを現像する為の「フィルム自動現像機」
(QSS等。ノーリツ鋼機やFUJIFILM製等)が、全国の
DPE店に導入された。
この自動現像機は、専門的なDPE知識が無くとも、
APSや35mm判フィルムが短時間(数十分程度)で
自動的に現像・プリントされる為、アルバイトや
パートの人たちでもDPE業務を可能とし、こうして
作業コストが低下した事から、この頃から、世の中
には「0円プリント」等と呼ばれるビジネスモデル
が激増する。
具体的には、街中の「0円プリント」の店に行って
フィルムを渡すと、数十分後には、数十枚の写真
プリント、インデックス(サムネイル画像による
一覧)プリント、現像済みフィルムが返ってくる。
料金は一律(フィルムの種類や撮影枚数に無関係)で
600円~800円程度であった。
後の時代(2000年頃)には過渡競争となり、600円
以下で現像する店舗も登場したり、DPE後に
未使用のフィルム(例:35mm判/ISO100/24枚撮り)
を、おまけでつけてくれる店も現れた。
しかし、一部の店舗では低コストなプリント用紙が
使われたケースもあり、店舗毎で写真プリントの
品質が、ずいぶんと異なるケースもあった。
だが、そんな場合には、街中には「0円プリント」の
店はいくらでも林立していたので、気に入った店を
探して、そこで高品質のプリントをすれば良かった。
こうした「0円プリント」の店舗は、人通りの多い
メインストリート等に、オープン(扉等が無い)な
形式で営業されていることが多かった。
が、2000年代には銀塩ビジネスの縮退により、その
多くが廃業し、店舗は(格安)チケットショップ等に
引き継がれることが多かったが、チケットビジネスも
ネット予約化等により縮退し、2010年代以降では
そうした元0円プリント店のオープン店舗が残って
いる数も少なくなってきている。
そしてAPS(IX240)カメラとフィルム自体も、デジタル
転換期の2000年代には大きく縮退し、2000年代後半
では、もうAPSフィルムは、入手も現像も困難と
なっていた。
実は、APSの衰退は、デジタル化(例えば一眼レフ
ならば2004年が転機)よりも少し早い時代に訪れ
ていた。
1990年代後半には、前述の銀塩(AF)一眼レフが
アフターバブルと阪神淡路大震災等を理由として
企画に元気が無く、EOS Kiss以外は売れていなかった
事から、カメラマニア層は、新鋭の銀塩AF一眼レフ
に興味をもてなくなり、新規格APS機や、同時期に
流行・普及した銀塩高級コンパクト機に興味を持ち、
さらに、中古銀塩(MF)一眼レフやレンジファインダー
機に興味は向い、空前の「第一次中古カメラブーム」
(1996年頃~2002年頃)が訪れていた。
カメラブームとなり、消費者・ユーザー層のカメラ
知識は、この時代に大幅に向上。なにせ非常に多数の
カメラ誌や中古カメラ誌が刊行され、さらには初期の
インターネットの普及もあったし、カメラ中古店が
林立し、そこに集まるマニア層からの膨大な口コミ
情報もあったので、この時代のユーザー層には大量の
カメラに関する情報(知識)が入ってきていたのだ。
(注:むしろ、現代ではカメラマニア層は激減して
しまい、現代のユーザー層は、中古カメラブーム当時
ほどのカメラ・レンズ知識を持っていない。
まあ、確かにネット文化は発達したが、情報量が増えた
割りに情報の質が低下し、信憑性の低い情報や、又は
意図的な情報操作(→例:投機的観点)が蔓延している)
その時代のカメラマニア層の大半は「画質至上主義」
であったので、当時のAPS(IX240)機については
「35mm判フィルムの半分しか面積が無いので、
よく写る筈が無い」と嫌われ、マニア層はAPS機に
あまり興味を持っていなかった。
特に酷かったのは、各社が発売した「APS一眼レフ」
であり、高画質を求める層に向けて発売した筈が、
それらの層の全員にそっぽを向かれ、全く売れなかった。
(雑食性の私でも、APS一眼レフは1台も購入していない)
(注:後のデジタル時代(2010年代)でも、たとえば
フルサイズ機に対して、μ4/3機が「1/4しか面積
が無いので良く写る筈が無い」と、銀塩時代と同様な
理由で嫌われたり、あるいはフルサイズ機を高く売る為に
小センサー機を卑下する情報拡散戦略が取られたのだが
プリント面積が一定である銀塩時代と、閲覧・印刷環境
がマチマチであるデジタル環境を同一の視点で比較する
事は無理である。大小の撮像センサーサイズの差には、
それぞれ長所と短所が存在するのだが、前述のように
現代での主力ユーザー層はカメラやデジタル等の知識が
不足していて、その概念を正確に理解している人は少ない。
よって、銀塩APS機が嫌われたのは、まだ理解は可能だが
デジタルでのAPS-C型機やμ4/3機を嫌う理由は殆ど無い)
・・まあ、なのでAPS機の衰退は、それが一般入門層に
行き渡った1990年代末頃から既に始まっていて、
2000年代初頭には「もうAPS機は売れない」という判断
から、流通市場ではAPS入門機の新品在庫等が、数千円
という捨て値での処分価格での販売が始まっていたのだ。
(注:元々APS規格は、フィルムや現像代のビジネスを
主体としていたので、APSカメラ自体は、さほど高額な
値付けは行われていない。まあ新品3万円以下であった)
私は、その時代(2000年代初頭)に、およそ各社の
ほぼ全て、と思われるAPS単焦点機の在庫処分品を
安価に入手していたのだが、その大半をプレゼント品
代わりとして、知人友人等に譲渡してしまい、今は
ほとんど手元に残っていない。
現代2020年代において、APS(IX240)フィルムは、
入手も現像も非常に困難ではあるが、不可能/皆無と
いう状態では無いかも知れない。
それと、APSフィルムを現像しても35mm判のネガ/ポジ
のように、外からどんな映像が写っているのかを
見る事は出来ない。まあ、2000年頃の時代であれば
APSビューワー(フィルムをそのまま見る、または、
TV等の外部機器に繋いで閲覧する)は存在していたが
現代では、そうした補助機器も入手困難であろう。
それと、現代のフィルムスキャナでは、普通の仕様の
ものではAPSフィルムをスキャンする事も出来ない。
いずれにしても現代においてAPS(カメラ、フィルム)
を使うのは、とても困難であり、推奨できない。
なお、APS(IX240型)フィルム使用時の、レンズ
焦点距離の35mm判フィルム換算画角は、APSのモード
により異なり、H(16対9のハイビジョン比率)の
場合では、約1.25倍。
C(3対2の35mm判同様のクラッシック比率)の
場合では、約1.4倍である。
それと、P(3対1のパノラマ比率)では、縦横比が
一般的では無いので、あまり画角換算を行わない。
ちなみに、デジタル時代となってからも、この
フィルム時代での「APS」という名称は、撮像センサー
のサイズを表す用語として用いられていて、画角比は
デジタルAPS-C:35mm判換算で1.5~1.7倍
デジタルAPS-H:35mm判換算で1.3倍前後
と定義されるが、アスペクト(縦横比)が、機種や
モード設定により異なるので、あくまで概算である。
銀塩APS機は、その大半がズームレンズ搭載機であり
各社の廉価版の入門機を除き、本格的画質や大口径
仕様を持つ単焦点APS機は数機種程度しか存在しない。
(私の定義では、3機種のみ。前述のように、ほぼ
全てのAPS単焦点機を入手して使っていたが、それら
の殆ど全てを譲渡処分し、高画質な3機種のみを
現代にまで残している。上写真の「CONTAX Tix」は
その代表格であろう)
うち、CANONにおいて、最も著名なAPS IXY単焦点機
は、IXY310(1997年、下写真)であろう。
26mm/F2.8の準大口径単焦点レンズ搭載機である。
IXY310は、小型(薄型)軽量で、高画質であり、
マニア受けしていた。ただし、プラスチック外装で
高級感は無く、恐らく販売数も少ないと思われ
後年の中古市場でも、殆ど見かける事は無かった。
なお、銀塩CANON IXY単焦点は他にはマイナーだが、
IXY 20、IXY 10、IXY D5(水中機)がある。
銀塩APS機(IXY等)の総括だが、現代においては
APS(IX240)フィルムは、入手も現像も困難であり、
銀塩APS機を購入する事は、実用上では推奨できない。
買ったとしてもコレクション用途にしかならないと
思うので、念のため。
----
さて、以下はデジタルIXYの話に戻る。
ここで紹介機を変更しよう。
カメラは、CANON IXY DIGITAL L2 (1/2.5型機)
(2004年発売、発売時実勢価格約4万円)
(中古購入価格 3,000円)
レンズ仕様、39mm(相当)/F2.8
冒頭、2003年発売のIXY DIGITAL Lの後継機。
型番は、L2ではなく「Lの二乗」の可能性が高い
が、記載が面倒なので、以下、「L2」と記す。
Lとの差異は、400万画素→500万画素への変更。
これに伴い、画素数の設定項目が増えている。
光学系(非球面を含む4群4枚)は、Lと同一。
撮像センサーのサイズ(1/2.5型)も同等である。
外観色は、銀、黒、紺、赤となった。
いずれも高品質の金属仕上げである。
(本機の外観色は「スターガーネット」と呼ばれる)
前期種Lの弱点としての、低感度(ISO400まで)や
低操作性、小サイズ液晶、高消費電力は、そのまま
引き継いでしまっている。
操作系については、「イージーダイレクトボタン」
の操作子が新設されたが、PCとプリンタへのデータ
転送の役割しかしないので、あまり効能が無い。
(さらに後年のIXY L4では、これを縦位置シャッター
ボタンとして使う事が出来る模様→未所有)
また、メニューが僅かに改善された(例:マクロ
モードの選択順等)のだが、基本的に階層構造が
イマイチなので、改善の効果は、ほとんど無い。
例えば、露出補正を行うにも、一々のメニュー
呼び出しが必要だ。(上写真)
Lの特徴の「青色エンハンス」は、本機L2では、
やや薄められているが、依然、残っている。
なお、L2以降の機種(L3,L4)は、ズームレンズ搭載
機となってしまった為、目的に合わず購入していない。
それと、一応だが、L/L2でも、デジタルズーム機能
は搭載している。(注:最大6.5倍まで拡大可能
だが、使用時には画質劣化を伴う)
IXY DIGITALは、前述のように2010年代の機種
からはDIGITALの名前が外れ、単にIXYとなった。
また、IXY DIGITAL Lシリーズは、2006年のL4
を最後に、L型番の後継機は無い。
IXY全体では、2017年のIXY 200/210以降は
新製品が無いが、それらとIXY 650(2016年)は
一応、現行(販売)商品となっている。
(参考:IXYではIXY 650のみCMOSセンサー機)
なお、DIGITALが外れた際、型番におけるIXYと
数字の間に空白(スペース)が入るようになった
(例:IXY 30S)かもしれない。銀塩時代での
ASP機のIXYは「IXY310」のようにスペースを
含まない記法だったように思うが、どうも機種毎に
よりけりの様相もあり、正確には良くわからない。
----
さて、ここでまた紹介機を変更する。
カメラは、CANON IXY DIGITAL L2 (1/2.5型機)
(2004年発売、発売時実勢価格約4万円)
(ジャンク購入価格 500円)
レンズ仕様、39mm(相当)/F2.8
「充電器なし」のジャンク品としての購入だが、
IXY L/L2でのバッテリーと充電器は共通なので、
何も問題は無かった。
購入したのはカメラ店ではなく、古本屋さん
だったので、店員さんは「これで良いのですか?
バッテリーが切れたら、それで終わりですよ!」と
えらく心配してくれたのだが、カメラマニアで
あれば、そこはなんとでもなる。たとえ充電器が
付いて無くても、充電器のジャンク品を探す事も
出来るし、あるいは他の、定格が等しい充電器の
ジャンク品を配線改造して、それで充電する事も
可能である。(注:電気関連に相当に詳しい人で
無いと推奨できない措置。また、こういうプチ改造
を行ってしまうとメーカー保証/修理は不能となる。
当然ながら、発火等についても完全に自己責任だ。
それから、屋内電気配線等の大掛かりな電気工事に
ついては、その作業を行う為には国家資格が必要だ)
さて、本機の外観色は「プラチナシルバー」と
呼ばれ、初代Lから引き継いだカラーリングである。
(注:初代Lからの同一カラーは、この色のみ)
あいかわらずスタイリッシュで高品位のカメラだ。
そもそも、初代銀塩IXY(1996年)が発売された頃、
当時の他社のコンパクト機は、その大半が1つの
巨大OEMメーカー(GOKO社)で生産されていた為、
超大量生産品としての、プラスチック成型品が殆ど
であった中、金属(ステンレス)外装品という事で
他のコンパクト機とは一線を画する品位を持っていた
ので、そこがヒットの要因にも繋がった次第だ。
その流れを正統に受け継ぐ、IXY DIGITAL Lの
Lは「ラグジュアリー」という意味であろうか?
「Luxury」は、贅沢な、という意味がある英語だが、
これをCANONでは、一眼レフ等用の高級レンズを
「Lレンズ」と称して用いている。
が、コンパクト機に付けられた際には、また別の
イメージ(企画意図)があったのだろうか?
ちなみに、他のCANON コンパクト機(銀塩の
Autoboy、デジタルのPowerShot)では、「L」の
型番を採用したものは無かったと記憶している。
IXY DIGITAL L/L2の総括であるが、
これの長所である「青空発色」と「小型軽量」を
上手く使うのが適切であろう。
例えば「高感度が無い」という弱点は、日中晴天時の
「青空専用機」としてしまえば、この状態ではISO
感度を50~100で使えば十分なので、高感度設定が
無く、かつノイジーである課題は相殺できる。
ただ、機体の性格上「(周囲に)見せる為のカメラ」
という要素もあり、室内での利用も有り得るだろう。
その際、F2.8の大口径とは言え、低感度では手ブレ
必至(注:勿論、手ブレ補正機能は入っていない)
となるので、その場合は超小型機でありながら内蔵
されているフラッシュを用いるのが回避策だ。
(注:GN/ガイドナンバーは相当に低く(仕様非公開)、
2m程度までしか届かないと思っておくのが良い)
なお、経年劣化したバッテリーを使っている際、
通常のフラッシュ非発光の撮影時は問題が無いが、
フラッシュ撮影をしようと、強制発光等のモードに
切り替えると、内蔵フラッシュにチャージ(充電)が
始まるが、その時、バッテリーの供給電力が弱いと
チャージが出来ず「バッテリーを交換してください」
のエラーメッセージが出る場合がある。
で、このエラー状態からの復帰は難しい、バッテリー
を満充電しないとならないからだ。さもないと、
電源を入れるたびに、カメラの動作で、充電したい→
供給電力不足→エラー表示、が繰り返されてしまう。
劣化したバッテリーを使っている場合には、出先等で
フラッシュモードの切り替えボタンを押さないように
十分に注意しないとならない。
さて、本機の「小型軽量」の長所を活かすには、
他のカメラのサブ機として使う事も良いであろう。
例えば、超望遠レンズ、超広角や魚眼レンズ、
特殊レンズ(例:ぐるぐるボケやソフトレンズ等)を
趣味撮影に持ち出したとする。
そんな場合、そうした特殊な描写のレンズばかりで
撮るのは被写体の制約が大きく、一般的な被写体を
普通に撮る(例:状況記録、記念撮影、観光写真、
人物撮影等)のに、例えば、魚眼レンズだけでは、
どうしようも無い場合もある。
そんな時、こうした小型軽量カメラを使えば良い訳だ。
もっとも、この用法は10年ほど前であれば有効だったが
近代ではスマホの内蔵カメラ等があるので、わざわざ
コンパクト機を別途持ち出す必要性はだいぶ減ったとは
思われる。
L/L2に備わる(スーパー)マクロモードは有効だ。
3cm(注:WD)までの近接撮影が可能であるが、
センサーサイズが(1/2.5型と)小さいので、
近接撮影時にも、そこそこの被写界深度が得られ、
一眼レフ等用のマクロレンズとは、また異なる描写
表現力が得られる。
(スーパー)マクロモード使用時の注意点としては
まずメニュー操作系が悪く、このモードに切り替える
のには、指の操作の手数が必要な点だ。
このシリーズでは、いったんマクロモードに切り替える
と遠距離撮影が出来なくなる為(注:一部の他社機では
マクロモード時でも無限遠撮影は可能である)
切り替えの操作性が繁雑な事は弱点となる。
(実例としては、目の前に珍しい昆虫等が居たとして、
マクロモードに切り替えている間に、どこかに飛んで
逃げてしまう等。こういう事態が頻発してしまう)
なので、やや贅沢な使い方だが、2台のIXY L/L2を
持って行き、片方をマクロ専用機とする場合もある。
もう1点、マクロモードは被写界深度こそ深いが、
ピント精度は相当に悪化するので、ピントがなかなか
合わずにイライラするかも知れない。(一応、合焦時に
モニター上に緑色枠が出るので、それを目安にする
のだが、モニターが極めて小さいので、見え難い。
加えて、このモニターは視野角が狭く、斜めの状態
ではコントラストが、かなり低下して見え難くなる。
又、合焦マークを参考にして、撮れていると思っても、
後でPCで見ると、ピンボケ、または背景抜けしている
場合も多々ある)
基本性能の低さは色々とあるが、まあでも、この時代
(2000年代前半)のカメラなので、やむを得ない。
課題を全て理解した上で、課題を弱点としない用法を
考えて使うしか無いであろう。そうやって使うならば
IXY L/L2は実用的には及第点であり、だからこそ
発売後約20年の長くに渡り、実用目的で使い続ける
事ができる訳だ。
現代における入手性は低いが、本記事で述べてきた
ように、ジャンク品等では稀に見かける事が出来る。
強く推奨できるカメラでは無いが、非常に個性的な
特徴を色々と持っているので、古い機体故の、使い
こなしの難しさを考慮したとしても、マニアックな
視点ではオススメである。
----
では、本記事は、このあたりまでで。
現在、コンパクト・デジタル機の市場は低迷していて
マニア的観点からは、ほとんど欲しい機種は無いし、
新製品も、あまり発売されない状態である。
本シリーズ記事(コンパクト編)は、何か古い時代の
コンパクト機(銀塩、デジタル)等を入手した際での
不定期の連載としておく。]]>
不定期:コンパクト・クラッシックス
p_chansblog
Mon, 09 May 2022 21:01:54 +0900
2022-05-09T21:01:54+09:00
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レンズ・マニアックス(96)
http://pchansblog.exblog.jp/32579411/
http://pchansblog.exblog.jp/32579411/
<![CDATA[過去の本ブログのレンズ関連記事では未紹介の
マニアックなレンズを主に紹介するシリーズ記事。
今回は未紹介レンズ3本の紹介および、再掲レンズ
1本を特殊な使用法で検証してみよう。
----
まず、今回最初のレンズ
レンズは、smc PENTAX-DA L 18-55mm/f3.5-5.6 AL
(ジャンク購入価格 1,000円)(以下、DAL18-55)
カメラは、PENTAX K-30(APS-C機)
APS-C機専用のKマウントAF標準ズームではあるが、
本レンズは、単体では発売されていない。
PENTAXの、主にHOYA期(2008年~2011年)および
RICOH初期(2011年~2014年頃)における、低価格機
とのセット(レンズキット)のみでの販売であり、
オーダーカラー制(購入者が好きな外装色を選べる)
を行っていた時代のレンズである。
本レンズは、多くのPENTAX低価格機に長期間に渡って
バンドリング(≒セット販売)されていたもので、
具体的にわかっている範囲での機種名と年代を述べれば、
K-m(2008年)、K-x (2009年)、K-30(2012年)
K-01(2012年)、K-50(2013年)、K-S1(2014年)
・・が挙げられる。(注:抜けがあるかも知れない)
同スペックのsmc PENTAX-DA 18-55mm/f3.5-5.6 AL
レンズが従前から発売されていたが、本DAL18-55では、
距離指標とQSFS(クイックシフトフォーカスシステム→
フルタイムMFの事)および防滴機能を省略し、さらに
マウント部品を(金属から)プラスチック化した事で、
トータル的なコストダウンを図っている。
そして本レンズはジャンク品であり、購入価格が安価
である。ワゴンに入っているのをサルベージした購入時
には、安価である理由を見抜けず、「恐らく、何らかの
瑕疵(問題点)があるのだろうが、なんとかなるだろう」
という判断であった。
帰宅後にチェックしてみると、「AF故障品」であった。
AFモーターか、あるいは内部ギアが不調で、AFが動作
しない。母艦(PENTAX機)を色々と変えても同様であり、
これは完全に、物理的(機械/電気的)な故障だ。
ただ、MF(ピントリング)や絞りは問題無く動作する為、
実用上では大きな課題にはならない。
光学系は、アタリやカビ等も無く、問題無い様子だ。
なお、本レンズのAF性能は、どうやら低い模様であるが、
むしろ故障していた事で、それが問題にならずに幸いだ。
ローコスト版レンズであり、前述のように、長期に渡り
PENTAX低価格機の多くにバンドリングされた、ありふれた
レンズであるので、初級中級層における本レンズの評判は
すこぶる悪い。
まあ、初級中級層では「安価なレンズ=悪いレンズ」と
いう、極めて単純な「思い込み」による価値感覚しか
持っていない為、そういう評価になってしまうのも、
やむを得ないだろう。
ただ、いつも本ブログで述べているように、レンズ
(やカメラ)の価格と性能は、全く比例しない。
安価なレンズとは言え、長期に渡って大量生産された事で
開発や製造に関わる原価を完全に償却できた訳だから
「量産効果で、上手くコストダウンできた模様だ」と
考えるのが妥当だ。
が、注意すべきは「どのようにコストダウンしたのか?」
という事であり、前述のように外装や機能を簡略化した
事は確かではあるが、レンズの光学系は通常版(Lなし)
と同じであり、AL型番、すなわち非球面レンズを採用し
廉価版レンズでありながら、描写力には、あまり手を
抜いていない。 まあ、それもその筈、このクラスの
APS-C専用標準ズームは、各社の低価格帯(入門)機の
キットレンズと同等のスペックだから、仮に他社よりも
性能が酷く劣っていたら、そもそも市場において、勝負に
ならない訳だから、描写力を含めたコストダウン化は、
市場戦略的には、あってはならない訳だ。
しかしながら、本DAL18-55の性能上で気になる弱点は、
まず、晴天時等の高輝度下でのコントラストの低下だ。
前述のコストダウンの話とは矛盾するが、どうも、この
弱点に関しては、レンズの内部反射の対策で手を抜いて
いる(コストダウンしている)可能性はある。
続く課題は、「周辺収差」の発生であるが、これはもう、
そういった弱点を目立たなく出来るような、被写体、
構図、撮影状況等を作り出し、積極的に弱点を回避する
必要がある。
また、K-30との組み合わせでは、若干アンダー露出になる
模様だが、これもまあ、露出補正やレタッチで回避すれば
問題は無い。
いつも言うように、「レンズの言うがまま」に何も工夫
もせず撮っているようではビギナー級であり、中級クラス
ともなれば、個々のレンズの弱点を把握した上で、それを
回避する技能を身に付けるのが望ましい。
ボケ質、解像感等はあまり気にならないが、ズームの場合
広角端や望遠端では諸収差の補正が行き届いていない設計
の可能性が高い。特に、本レンズの場合、ズーミングに
応じて、鏡筒長が中間焦点距離(35mm前後)で最も
短くなる仕様だ。この手の構造を持つズームは、(必ず
しも、「常に」と言う訳では無いが)できるだけ、その
鏡筒長が短くなる中間焦点距離を中心に使う事が無難だ。
あくまで感覚的な話だが、何だか、鏡筒長が伸びてしまう
広角端や望遠端の焦点距離では収差の補正が厳しいような
印象を受けてしまう。
長所だが、まず最短撮影距離が短い(25cm)な事、
これで仕様上は、最大撮影倍率は約1/3倍となる。
さらに、小型軽量であり、実測で202gしか無い。
(L型番無しの通常版よりも14%程軽量化されている)
AFが動作していれば、イベント記録撮影等での消耗用
レンズとして最適なように思えるが、AF故障品では
ちょっとその用途は厳しい。
やむなく「ワンコイン・レッスン」用途、つまり、
「色々と課題を持つレンズを買って来て、その課題を
回避する練習を行う。その際、購入価格はワンコイン
(500円~1000円程度)に留め、”自主練習を行う
レッスン費用である”という風に捉える」為のレンズ、
という事にしておこう。
防滴仕様では無いが、雨天等での練習にも向くであろう、
つまり「雨が降ってもカメラやレンズを壊さずに使う」
為の練習メニュー用に使える訳だ。
また、雨天撮影は前述の「晴天時でのコントラスト低下」
の弱点を回避する目的にも適している。
----
では、次のシステム。
レンズは、TAMRON AF 100-300mm/f5-6.3
(Model 186D)(ジャンク購入価格 300円)(以下、186D)
カメラは、SONY α65(APS-C機)
1998年に発売されたAF望遠ズーム。
同仕様の前モデル「86D」が存在したが、それは短期間で
本186D型にマイナーチェンジされている。
そのマイナーチェンジは外観変更(ズームリングに、廻し
易いように溝がついた)だけであり、光学系の変更は無い。
同時代のModel 72D系(AF望遠ズームで、スペックは
多くが「70-300mm/F4-5.6」となっている。
172D~872Dまで、多くの機種が1993年~2005年頃
まで展開されている。本シリーズ第14回、第77回記事
で572D型を紹介している)との差異は・・
本レンズは広角端焦点距離の伸びを犠牲にしても
小型軽量化を目指した所であり、重量は実測で396g
(注:TAMRONの公証値354gと差異が大きい)であり、
72D系ズームより、100g~150g前後軽い。
また、本186Dはフィルター径もφ55mmと小径であり、
72D系のφ58mm~φ62mmよりも小型だ。
本レンズの最短撮影距離1.5mは、一応最大撮影倍率
1/4倍であり、レンズ上には「TELE-MACRO」の記載も
あるのだが、72D系は後期(572D、2000年以降)には、
95cmまで寄れ、1/2倍マクロを実現していたので
それと比べてしまうと、寄れない不満がある。
また、2002年からはTAMRON 28-300mm/f3.5-6.3
(=XRシリーズ。詳細型番名省略。 Model A06。
ミラーレス・マニアックス第69回記事等で紹介)の
高倍率(高ズーム比)のレンズを主力としてTAMRONは
力を入れていた為、本レンズ186Dは自然に生産終了と
なってしまった。
同様に72D系も2000年代には生産終了となった訳だが・・
2010年にTAMRON SP 70-300mm/f4-5.6 Di VC USD
(A005)をリリースし、これは旧来の72D系や86D系を
遥かに凌駕する、高描写力レンズである。
(ハイコスパレンズBEST40編で、第20位入賞)
ただし、A005型にはマクロモードは搭載されていない。
さて、あまり情報価値の無い話が続いてしまった(汗)
どうも、こういう、型番とかスペックの変遷とかの話は
どこかに書いてある(例えばTAMRON社のWeb)ものを引用
すれば良いだけので、誰でも簡単に記事が書けてしまう。
そんな内容ばかりが書いてあっても、読む人にとっては
あまり参考にはならないのだ。読み手は、その機材の
「オーナーならでは」の、独自の感想や感覚、意見等を
収集したいと思っている。それが「生きた情報」であり、
スペックを調べて転記しただけの「死んだ情報」とは
情報価値がまるで違う訳だ。
もう、ここ10数年、個人的には、新製品のレビュー等を、
実際のオーナー層から販売促進の専門評価者の記事に至る
まで、殆ど読まなくなってしまったのは、そのように
「前モデルと比べて、ここが変わった」等の内容ばかり
になってしまったからだ。そんな情報は、新規の購買動機
には直結しない訳であり、あるいは、前モデルのオーナーに
とってみれば、ここが良くなったとか言われても、むしろ
不快な情報でもあろう。
まあよって、「新製品の情報」と言っても私が知りたいのは
最低限のスペックと価格くらいのものだ、だいたいそれだけ
見れば、コスパが良いか悪いかは判断が出来る。
さて、つまらないスペックの話は、さておき、本186D型
である。
まず、AF性能(速度・精度)が壊滅的に低い。
まあ、同時代(1990年代後半)のTAMRON製レンズは
他にも何本か所有しているが、いずれも同様であり、
その時代における技術の未成熟であるので、やむを得ない。
まずはMFで使う事が、第一の問題回避手法だ。
この為、マウントがαであるから、αフタケタ機を母艦
として用いると、MFでピーキングを出す事が出来る為、
MFの難易度は大きく下がる。おまけに、α一眼レフは、
手ブレ補正機能も内蔵しているので、本レンズは、
やや開放F値が暗い(F5~F6.3)事から、手ブレ
しやすい事への対策にも役立つ。
ただしαフタケタ機にはAUTO ISOの切り替え(低速限界)
設定機能が無い為、弱暗所等での撮影では、被写体ブレ、
手ブレ、高感度ノイズの3点を満遍なく意識し、ISO感度と
シャッター速度(および絞り値)の設定に留意する。
この対処法が出来ない初級中級層では、こうした小口径
(開放F5.6を下回る)望遠ズーム(望遠端300mm以上)
は、まず使いこなす事は出来ず、手ブレや被写体ブレ
を連発し、おまけにAFも合わなければ「ダメレンズ、
ゴミレンズ」という評価になるだろう。
だが、それは100%、自分自身の問題である。
MFで、ISO感度、シャッター速度、絞り値、ズーミング
焦点距離などを上手くバランスして撮るならば、
そうした「レンズの言うがままに撮る場合の課題」等は
何1つ問題点にはならない。
そうやって工夫すれば、例え本レンズが僅かに300円の
ジャンク品であろうが、その1000倍の価格の、30万円
以上もする高額ズームレンズにも負けない写りを得る
可能性が出て来る訳だ。
ビギナー層が使う高価なブルジョア(贅沢)レンズに
ジャンクレンズで勝てるならば、それは「非常に痛快な」
話になるであろう。
中上級層やマニア層は、それを目指すのが望ましい。
本レンズの総括であるが、現代において「指名買い」を
する程の価値は無い。歴史的な価値も同様であり、何も
興味を引く部分も無い。
ただ、写真用レンズの発展の歴史を考察(研究)する
上では、ある時代(銀塩AF時代初期)において、こうした
レンズが必要とされた市場背景とか、技術的な背景を
知る上では有益であろう。しかし、その為には、各時代の
各社のレンズを満遍なく保有し、それぞれを実写して
特徴や、他レンズとの差異を把握していかなくてはならない。
これは極めて大変な事であり、個人の範疇で出来る話でも
無いのだが、マニア的な観点からは興味深い点もあるかも
知れない話だ・・
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さて、次のシステムは再掲レンズである。
レンズは、NIKON おもしろレンズ工房「さらにぐぐっとマクロ」
(中古購入価格 7,000円相当)
カメラは、PANASONIC DMC-G6(μ4/3機)
「NIKON おもしろレンズ工房」は、近代で言うところの
「エントリーレンズ」3本からなるセットである。
ニコン社内ではなく、関連会社での企画開発であり、
1995年に限定発売、後の2000年に再生産品が、同じく
限定発売されている。
詳しく述べていると際限なく文字数を消費するので
割愛するが、興味があれば「特殊レンズ第13回記事」
で特集記事を組んでいるので適宜参照されたし。
で、その「特殊レンズ第13回記事」で紹介したのは、
本レンズは「ぐぐっとマクロ」と「ふわっとソフト」の
2つに組み替えが可能な、ユニークなギミックを持つ、
という点であったが、実はこのレンズは、もう1種類の
組み替え手法により「さらにぐぐっとマクロ」という状態
となる。今回の記事では、この「さらにぐぐっとマクロ」を、
μ4/3機で、デジタル拡大機能の操作系に優れたDMC-G6を
母艦とし「さらに&さらにぐぐっとマクロ」として使って
みよう。
この場合のスペックだが、120mm/F4.5のレンズ
ではあるが、μ4/3機なので240mm相当だ。
また、近接撮影なので露光(露出)倍数がかかる。
概算だが露光倍数は3倍程度となり、これは開放F値が
F7.5相当まで低下する計算となるので、手ブレ限界
シャッター速度には注意しなければならない。
使用感だが、μ4/3機との組み合わせでは、撮影倍率が
かなり過剰に感じる。スペック上においては、
最大撮影倍率約1.4倍の超マクロレンズであるが、
(超マクロの定義は、「等倍を超える」という意味)
撮影倍率が高すぎると思って、引いて(=撮影者が
後退して、撮影距離を稼ぎ、撮影倍率を低める)みても
今度は近接撮影専用のレンズであるが故に、引いた
位置からはピントが合わなくなってしまう(汗)
まあ、そういう仕様であるから、やむをえない。
この為、昔から本レンズは「さらにぐぐっとマクロ」
の用法は使いにくい為、「ぐぐっとマクロ」(最大
撮影倍率1/3倍、最短撮影距離60cm、無限遠撮影可)
の形態で使う状態に留めてあった訳だ。
まあでも、この「さらにぐぐっとマクロ」形態でも、
現代のフルサイズ・ミラーレス機に装着すれば、意外に
使いやすい状態となるかも知れない。
(今度また試してみよう)
総括だが、「NIKON おもしろレンズ工房」自体が
限定発売品であったからか、現代における中古流通
が少なく、あまり推奨できる製品では無い。
幸いにして「投機相場」には、なっていない模様
ではあるが、それでも入手先によっては、プレミアム
価格(=不条理な高値相場)を、ふっかけて来るかも
知れない。無理をして購入するレンズセットでは無い
事を、注意点として述べておく。
さらなる詳細に興味があれば、以下の記事を参照の事。
特殊レンズ第13回「NIKON おもしろレンズ工房」編。
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次は、今回ラストのレンズ
レンズは、OLYMPUS ZUIKO DIGIAL ED 40-150mm/f4-5.6
(中古購入価格 5,000円相当)(以下、ED40-150)
カメラは、OLYMPUS E-520(4/3機)
恐らくは、2007年の発売のレンズである。
OLYMPUSの4/3機の小型軽量シリーズ E-410/E-510
(いずれも2007年発売、デジタル一眼第8回記事参照)
の発売に合わせて、ダブルズームレンズキットの望遠
側レンズとして用意された、小型軽量AF望遠ズームだ。
(注:前年2006年のE-400の発売時での発表であり、
E-400との望遠(ダブル)ズームキット形態が
あったか否か?は、ちょっと調べきれていない)
一応単品でも発売され、発売時定価が37,400円+税
であったとの事だが、後年に続くE三桁シリーズ機との
バンドリングで販売されたものが殆どであろう。
(→ダブルズームキットの場合は割安感がある。
注:その為、OLYMPUS社ではキット用レンズ単体の
定価を高目に設定する事が多かった。まとめ買いで
「ずいぶんと安価だ」と消費者層に思わせる為だ)
後年の中古市場でも、レンズ単体での流通は稀で、
殆どが、ダブルズームキットのままでの販売、
しかも4/3システム終焉後は二束三文の扱いであり、
近年に安価に入手したレンズである。
一応、ED(特殊低分散ガラスを使用したレンズ)を
搭載した仕様(加えて非球面レンズを2枚使用)と
なっているが、「だから写りが良い」と考えるのは
早計であろう。
むしろ「EDレンズ等を何故使ったか?」を推察して
いく方が重要である。
本レンズ以前の時代(2003年~2006年)において、
オリンパスは、勿論4/3(フォーサーズ)機を
展開していたのだが、他社の同時代のデジタル一眼
レフは、ほぼ全て(NIKON F(AiAF)、CANON EOS(EF)、
PENTAX KAF、(KONICA)MINOLTA α(AF,A))が、
銀塩時代のAFレンズを、デジタル機でも、そのまま
使用する事が出来た(注:ただし、初期デジタル一眼
レフは、APS-C型センサー機が主流につき、換算画角
は、1.5倍前後(1.3倍~1.7倍)望遠側にシフト
してしまう)
そんな中で、4/3(システム)では、4/3機専用
レンズを、ユーザーは新たに購入しなければならない。
一応、最初期の4/3機を購入すると、OLYMPUSから、
OM→4/3 マウントアダプターを無償で送ってくれる
サービスがあったのだが、アダプターを入手しても
古いMFのOM-SYSTEM用レンズでは、AFも効かずに
実用的とは言いがたい。
まあ、最初期の旗艦OLYMPUS E-1(2003年)を
購入するような中上級者層では、新規の4/3レンズを
買う事に抵抗感は少なかっただろうが、続くE-300
(2004年にレンズキット、2005年に単体発売、
デジタル一眼レフ第8回記事で少し紹介、故障廃棄)
や、3機種目のE-500(2005年)では、ローコスト
のエントリー機となった為、交換レンズキット商品
が求められていたと思われる。
ただ、E-300やE-500では、標準ズームのみのキット
(ZUIKO DIGITAL 14-45mm/F3.5-5.6
レンズマニアックス第5回記事等で紹介)であり、
このレンズは頑丈な利点があるが(参考:10数年間
におよぶ雨天を多く含む撮影で、故障は一切無し)
やや大柄であり、せっかくE-500等が、世界最軽量
デジタル一眼レフを謳って発売されたにも関わらず、
「レンズを含めると重くなる」という悪評判が流れた。
また、その当時では、4/3機用の望遠ズームは一応
単体発売はされていたが、4/3機との、いわゆる
「ダブルズームキット」は存在していなかった。
これも恐らくであるが、せっかく、当時のOLYMPUS
は、小型軽量を4/3機の特徴として打ち出し、新機種
が出るたびに「世界最軽量」と言っていたのが
(例:OLYMPUS E-410(2007年)も、当時最軽量。
デジタル一眼レフ・クラッシックス第8回記事参照)
ダブルズームキットで、特に望遠ズームは大きく重い
為、入門層等で「カメラは軽いのに、レンズが・・」
という悪評判が流れる事を警戒したのかも知れない。
そこで、E-400(2006年頃)の展示発表に合わせ、
軽量の本レンズ、
「ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm/F4-5.6」
(注:ED無しのバージョンが従前に存在していたが、
40-150mm/F3.5-4.5と明るく、それは未所有だが
恐らく、やや大きく重いレンズであった事であろう)
をリリースし、「4/3システムであれば、カメラも
レンズも小型軽量化できる」という事実を市場に
強くアピールしたかったのではなかろうか?
なにぜ、2000年代後半は、「画素数競争」の時代
であり、各社APS-C型一眼レフは、2000万画素級
に到達しようとしていた。そんな中、4/3機は、
ピクセルピッチの製造上の都合もあり(→APS-C機
と同等の密度で作っても、半分の画素数となる)
1000万画素機を作るのがやっとであった状態だ。
これではちょっと商売的に分が悪い。
さらには、CANONはもとより、NIKONでもフルサイズ
一眼レフ(D3:2007年、D700:2008年)の
展開を開始した(注:SONY α900:2008年もある)
ところである。4/3機は、画素数競争やセンサー面積
の競争では市場で勝てない為、独自の路線(小型化、
低価格化、ライブビュー、アートフィルター機能等)
を意図する必要がある。
まあつまり、本ED40-150レンズだが、EDレンズ
や非球面レンズを使用した最大の理由は、恐らくだが
「大幅にレンズを小型化しても、描写性能をさほど
落とさない事」であったと推測が出来る。
つまり、ぶっちゃけ言えば本ED40-150では、描写性能
上の優位点は、個人的には、あまり感じられない。
確かに被写体のピント面はシャープで解像感があるが、
ボケ質破綻が頻発するのが難点である。
しかし、「これがフルサイズ換算300mmのレンズ?」
と思う程の小型軽量(実測で200g強しか無い)が
大きな利点である。
ただまあ、気のせいか? このレンズを近接撮影
(最短撮影距離90cm)で使用すると、どうも換算
300mm程の撮影倍率は得られていないように感じられ
例えば、TAMRONのXRシリーズ高倍率(高ズーム比)
ズームレンズにあったように、最短撮影距離は
恐ろしく短いのに、撮影倍率はたいした事が無い
(まあつまり、近接撮影になると、見かけ上の
焦点距離が低下し、画角が広くなる)のような
特性(設計思想)ではなかろうか?と推測している。
(注:実際に、物差し等を置いて計測した訳では
無いので、あくまで「そんな雰囲気」という話だ)
ボケ質破綻の弱点の他は、逆光耐性が低い課題があり、
この為、晴天屋外等の撮影では、被写体の光線状況
に留意して撮影アングルを決める必要がある。
ボケ質破綻とあわせて、撮影アングル(条件)毎の
描写力の差が大きい事が課題となるレンズではあるが、
それらはまあ、スキル(技能)で回避できる話だ、
よって趣味撮影で使う上では、重欠点にはなり得ない。
ちなみに、この小型軽量の特徴からのハンドリング
性能の高さを活用し、近代の高性能μ4/3機(例:
OM-D E-M1系列)に電子アダプター利用で組み合わせ、
「小型軽量の望遠システム」として、遠距離スポーツ
等の業務(記録)撮影に使えるのではなかろうか?
というのが、本レンズ購入前での「隠れた目論見」では
あったのだが、実際にそのシステムで使ってみると・・
(下システム写真、および続く写真2枚)
どうにも、逆光耐性の課題が大きく、実用範囲外と
判断し、やむなく、その用法は見送る事とした。
(注:雨天では使えるかも知れない、要継続判断)
それと、このE-M1との組み合わせでは、AF精度が
あまり出ておらず、ピントが合わないケースが頻発
する。(ただし、S-AF+MFモードでピーキング表示を
出せるようにしておけば、4/3機で使うよりもMF
性能は快適である)また、稀に連写速度が落ちる
ケースもあった。まあ結局、実用範囲外の性能だ。
あと、本ED40-150は、軽量化の為、プラスチック製
マウントを採用している、この為、マウント部の消耗
や劣化が発生する危険性もある。
事実、本レンズとE-520との組み合わせでは、電源
投入時に、稀に、レンズ情報が電子接点を通じて認識
できず、AFモードがMFに意図せず変わってしまう
ケースが数回発生した。接点復活剤等を用いて清掃
したが、まあ、古いシステムなので、経年劣化等にも
注意して使う必要性があるだろう。
総括だが、現代において「4/3システム」は
終焉している為、中古相場は恐ろしく安価である。
しかし、本レンズ単独での流通は、もはや殆ど
見当たらない様相で、ほぼ必ず、E三桁機との
セット販売になるだろう。そうであってもダブル
ズームキットで、1万円台の安価な相場であるので、
コスパは極めて高い。
「μ4/3機でも活用する」という用法を意識するので
あれば、現代での4/3システムの入手は悪くない。
ただし、前述のように趣味撮影レベルに留めておく
事が望ましく、あまり重要な(実用・業務)撮影
には使わない事が賢明であろう。
----
さて、今回の第96回記事は、このあたり迄で・・
次回記事に続く。]]>
連載中:レンズ・マニアックス
p_chansblog
Sat, 07 May 2022 07:18:02 +0900
2022-05-07T07:18:02+09:00
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特殊レンズ・スーパーマニアックス(82)Apodization・Glandslam・Competition
http://pchansblog.exblog.jp/32575717/
http://pchansblog.exblog.jp/32575717/
<![CDATA[本シリーズは、所有している、やや特殊な交換レンズを、
カテゴリー別に紹介する上級マニア層向けの記事群である。
2018年の第0回「アポダイゼーション・クランドスラム」
編より開始した本シリーズであるが、長らく続いたものの、
今回で暫定最終回としよう。
初回記事にちなみ、本最終記事でもアポダイゼーション
光学エレメントを搭載したレンズ群4本を紹介するが、
本記事の主旨は「Apodization・Glandslam・Competition」
としており、これは「コンペ(ティション)」であるから、
各STF/APDレンズのライバル関係となる通常レンズを
暫定的に選出し、個別に対戦する記事とする。
なお、Glandslam(グランドスラム)の意味だが、以前
から「報道やCMでの解釈がおかしい」と、本ブログで書いて
いるが、どうやら、世間でも様々な解釈があって、混迷して
いる模様である。
本ブログにおいては、カメラ関連機材での独自用語として、
「希少な4つ(しかない)の機材を全て所有する」という
意味で用いている。(注:STF/APDは4機種しか存在
しないが、CANONより「DS」という類似した光学原理の
レンズが発売されている。しかし、それは極めて高価だ。
ちなみに、高価な製品は「性能が優れているから高価」なの
では無い。販売数が極めて少ないが故に、高額になる訳だ)
----
ではまず、最初の対戦でのAPDレンズ
レンズは、LAOWA 105mm/f2 The Bokeh Dreamer
(LAO0013) (新品購入価格 90,000円)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)
2016年発売の中国製APD中望遠レンズ(MF仕様)
以下、「アポダイゼーション光学エレメント搭載」を、
「APD」または「STF」と略す。
「アポダイゼーションとは何か?」という点は、
本ブログでは過去何十回も解説している為、本記事では
大幅に説明を省略する。
要は「ボケ質が、とても良好になるレンズ」であり、、
世間で良く誤解されるような「ソフト(軟焦点)レンズ」
では無い。
(何故、誤解されてしまうのか?は、アポダイゼーション
レンズの消費者層全般での所有比率は、推定で1~2%程度
以下しか居ないからであろう)
本LAOWA 105/2が、他のSTF/APDレンズと異なる点は、
他レンズは特定のマウント専用品での発売であり、マウント
の仕様上の制約で異マウントでの使いまわしが困難または
不可能であったのが、本レンズは複数のマウント版が発売
されていて、STF/APDが存在しないマウントや、異マウント
間での相互利用が比較的容易な長所がある。
この利点を活用する為、本レンズは、NIKON F(非Ai)版
で購入していて、これであると、全てのミラーレス機と
一部の他社一眼レフにも、マウントアダプターを介して
装着が可能だ。
今回は、現状、APD/STFレンズをラインナップしていない、
CANON EFマウント機で本APDレンズを使用している。
なお、CANONがAPDレンズを一眼レフ用でラインナップ
していなかったのは、別に、それが作れない、という訳
では無かったと思われる。
ただ単に、他社と同じものを作って売りたくなかった
のだと思われ、2019年末には、DSコーティングという
新技術を用いた、ほぼAPDの効能と等価なレンズを
新規のRFマウント版で発売している(注:非常に高価
な為、未所有だ)
また、別の興味深い情報もあり、それは、CANONより
2017年9月に出願された特許において
「アポダイゼーションレンズ」がある。
て、この特許では、アポダイゼーションを構成する
パラメータが特定の計算式条件を満たす事により
ボケ部の収差要素を低減する、・・すなわち画質を向上
する為の方法論を提示するものである。
まあ、アポダイゼーションそのものの原理は古くから
知られていた為、それそのものの特許を取得する事は
出来ないのであろう。
でも、この特許ではいくつかの実施例として、望遠系
単焦点アポダイゼーションのシミュレーション結果が
提示されているが、それをさらに詳しく読み解くと、
「ズーム・アポダイゼーション」の可能性も暗示されて
いるのが興味深い。
これまでの市販STF/APDは、全て単焦点であるので
ズームでアポダイゼーションが出来るならば面白い。
ただまあ、この特許の構成だと、相当に大型で重量級
のズームとなり、かつ、アポダイゼーションによる
「実効F値(T値)の低下」が大きいようにも思われる。
これの実現(製品化)には、もう少し研究開発の時間が
かかるのではないだろうか?
ただ、その特許の出願後に、一眼レフの市場は大幅に
縮退してしまい、CANONも2018年よりRFマウント機
を主力としている状態だ。今後、新技術が色々と実用化
された際にも、もう、一眼レフ用のレンズとしては
発売されないかも知れない。
まあ、とりあえずは現状所有している範囲のSTF/APDで
遊んでおく事にしよう。
なお、本LAOWA 105mm/F2や、以降紹介の、全ての
STF/APDレンズは、私の評価データベースにおいては
「描写表現力」は、全て4.5~5点(満点)に到達する
高性能レンズである。よって、細かい描写力上や仕様
上の弱点等を探して咎めるような必要性は微塵も無い。
これらのSTF/APDレンズの描写力に不満があるならば、
もうそれは、利用者個人個人の好き嫌いか、あるいは
「思い込み」による偏った評価であろう。
一応、各レンズの評価データベースを公開しておくが、
これは、私個人が決めた評価項目における結果であり、
評価者各々の、レンズ利用目的や評価スキルによっても
数値は大きく変わる筈だ。だからこの数字だけが一人歩き
する事は望ましく無い。マニアであれば、必ず自分自身の
独自の評価方法を創出し、それに基づいて個人の価値感覚で
さまざまな機材を評価するべきであろう。
2016年:LAOWA 105mm/f2 The Bokeh Dreamer
【描写表現力】★★★★☆
【マニアック】★★★★☆
【コスパ 】★☆
【エンジョイ】★★★★
【必要度 】★★★★★
・評価平均値:3.9
(★=1点、☆=0.5点)
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そして以下は、対戦レンズだ。
レンズは、NIKON AiAF DC-NIKKOR 105mm/f2D
(中古購入価格 70,000円)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)
1993年に発売された、ボケ質コントロール機構
(De-focus Contol)搭載型、AF単焦点中望遠レンズ。
上記LAOWA105/2と同スペックだが、全くの別コンセプト
のレンズである。本レンズにおいては、DC機構により、
後ろボケまたは前ボケの、いずれかのボケ質を重点的に
向上できるように、ユーザー自身がレンズの特性を調整
する事が可能な仕様だ。
このレンズも原理が難解であり、操作性も煩雑であるので
一般ユーザー層においては長年、効能が理解できなかった
不遇なレンズである。(注:2020年に生産終了)
まあでも、これも申し分の無い高性能レンズであり、
過去記事「ミラーレス・マニアックス名玉編」では、
当時所有の約300本の交換レンズの中から、第15位の
高順位の結果を獲得していた名レンズである。
以下が評価点である。
1993年:NIKON AiAF DC-NIKKOR 105mm/f2D
【描写表現力】★★★★★
【マニアック】★★★★☆
【コスパ 】★★
【エンジョイ】★★★★☆
【必要度 】★★★★☆
・評価平均値:4.1
(★=1点、☆=0.5点)
この対戦は、総合得点だけを見れば、僅かにDC105/2
の勝利である、ただまあ、僅差であるし、両者は
製品コンセプトも利用目的も異なるので、あくまで
ユーザー毎の用途や機材環境次第であろう。
---
では、以下2回戦に進む、まずは次のAPDレンズ。
レンズは、FUJIFILM FUJINON XF 56mm/f1.2 R APD
(中古購入価格 112,000円)
カメラは、FUJIFILM X-T10(APS-C機)を使用する。
2014年発売の、史上初の「AF搭載」APDレンズ。
MINOLTA STF135/2.8(1998年、後述)より、実に
16年ぶりに市販されたAPDレンズであり、期待度が高い
レンズであった。焦点距離も短く、画角は換算85mm程度
となり、人物撮影にも向きそうで、F値/T値も明るい。
(注:実効F値、つまりT値は、T=1.7とのことだ)
定価が高価すぎた為、1年程待って中古を入手したが、
課題は本レンズでは無く、同時に入手した母艦である
FUJIFILM最初期のXマウント機「X-E1」(2012年)
側のAF精度・AF速度・MF性能であった。
すなわち、本レンズでの精密なピント合わせは、AF/MF
いずれでも困難であったのだ。
その後、2014年発売のX-T1では、像面位相差AFが搭載
されたので、母艦をそちらに引継ぎ、さらには下位機種
だが操作系が改善されたX-T10(2015年、今回使用機)
と母艦を変更しながら、本レンズの使用を継続している。
しかしながら、AF/MF系の弱点は、若干改善された物の、
依然、実用レベルに達しているとは言い難く、結局、
本APD56/1.2は人物撮影用途ではなく、一般趣味撮影
専用レンズとしている次第だ。
だが、いつの日か、Xマウント機のAF/MF性能は新技術
の発達で改善されていくだろうから、レンズ自体を
手離すといった選択肢は無い。まあつまり、いつも言う
ように、レンズの所有価値は、カメラの価値よりも
ずっと高いのである。カメラなんぞ、その時代に適価で
買えるものを適当に選べば良い訳だ。
さて、本レンズについても、過去記事で何度も紹介
しているので、詳細の説明は最小限としよう。
以下は評価点である。
2014年:FUJIFILM FUJINON XF 56mm/f1.2 R APD
【描写表現力】★★★★☆
【マニアック】★★★★★
【コスパ 】★★
【エンジョイ】★★★★☆
【必要度 】★★★★★
・評価平均値:4.2
(★=1点、☆=0.5点)
「必要度」の評価点が高いのは、Xマウントで、他に
個性的で魅力的なレンズが存在しないからであり、
私の場合は、このレンズを使う、というただその1点
だけを理由に、Xマウント機を購入した次第である。
「マニアック度」が高いのは、本レンズには、APD無し
のバージョンがある(未所有)、そちらの方が安価であり、
レンズ構成も異なり、本レンズにある、絞り開放近くでの
描写力の低下の度合いも少ない、という情報もあるのだが、
さすがに同じようなレンズを2本買う人も居ないであろうし
わざわざ高価なAPDバージョンを買うユーザーも少ないで
あろう、そういう意味でのマニアック度の高さである。
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では、以下は、対戦レンズだ。
レンズは、NIKON AF-S NIKKOR 58mm/f1.4 G
(中古購入価格 110,000円)
カメラは、NIKON D5300(APS-C機)
2013年発売の高付加価値仕様大口径AF標準レンズ。
フルサイズ対応レンズであるが、対戦相手のAPD56/1.2
と、換算画角を揃える為、APS-C機で使用する。
なお、D5300は低価格機ではあるが、ピクセルピッチが
細かくて、ローパスレスである、という素養を持つ為、
近代設計による高性能レンズの母艦としては、一部の
上位機種よりも適する場合もある。
このシステムにおいては、AF速度/精度が、やや物足りない
のであるが、回避法としてMFを使おうにも、D5300の
ファインダー/スクリーンは低性能(仕様的差別化か?)
であり、MF操作に全く適さない。
まあ、意地の悪い製品仕様(ラインナップ戦略)だが、
そんな事は承知の上で、技法で課題を回避して行こう。
本レンズもまた、アポダイゼーション非搭載ではあるが、
通称「三次元的ハイファイ」と呼ばれる、レンズ設計・
解析技術により、これまで評価がし難くかった類の
収差(コマ収差等)を重点的に補正した設計コンセプト
である。
実用的な観点から言えば、例えば(後ろ)ボケ質を
一般レンズより高める事が出来る。
ただ、この結果、一般ユーザー層が目で見える範囲の
性能(例えば解像感等)は、あまり高くなっていない。
だから、本レンズの長所は見え難く、また、その評価も
困難であり、一部の初級マニア層からは「クセ玉」という
扱いも受けている不遇なレンズだ。
まあ、そのあたりの詳細は他記事でも細かく書いている
ので、今回は、そうした内容は、ばっさりと割愛しよう。
では、本レンズの評価点である。
2013年:NIKON AF-S NIKKOR 58mm/f1.4 G
【描写表現力】★★★★☆
【マニアック】★★★★
【コスパ 】★☆
【エンジョイ】★★☆
【必要度 】★★★☆
・評価平均値:3.2
(★=1点、☆=0.5点)
残念ながら評価点が伸びず、APD56/1.2の圧勝となった。
描写力的には両者同等であるので、良い勝負になるとは
思ったのだが、本レンズにおける「エンジョイ度」と
「必要度」がAPDよりも低い点が災いした。
エンジョイ度が低いのは、使いこなしがかなり難しい
からであって、本AF-S58/1.4の特性に向く被写体や
技法を構築していく事自体が困難である。いわゆる標準
レンズでもあって、被写体汎用性が高い為、余計にその
「用途開発」が困難だ。恐らくは、非常に長期に渡って
使用を継続しないと、本レンズの真の長所や最適な利用
目的は見えて来ないであろうから、上記の対戦結果は、
現時点での暫定的なものとしておく。
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では、次は3組目の対戦だ、まずはSTF側から。
レンズは、MINOLTA STF 135mm/f2.8[T4.5]
(新品購入価格 118,000円)
カメラは、SONY α77Ⅱ(APS-C機)
1998年発売と、最も古い「元祖STFレンズ」だ。
本ブログでは最初期から、かなりの回数で紹介している
常連レンズであるので、今回の解説は最小限とする。
発売20年を超えても、その描写表現力は色褪せる事が
無く、「レジェンド」であるとともに、銀塩時代での
発売当時としても、衝撃的な高性能(高描写表現力)
を感じさせてくれるレンズであった。
マニア層において、本STF135/2.8、あるいはPENTAX-
FA 77/1.8Limitedといった、銀塩時代からのレジェンド
高性能レンズは、必ず所有または体験しておく必要性が
あるだろう。これらのトップクラスのレンズを見た事が
無いと、自分自身の中で、性能評価の物差し(スケール)
を構築する事が困難だからだ。つまり、これらの超高性能
レンズを5点(あるいは10点満点でも、ABC、優良可でも
そのスケール単位は、個人の好みでどうでも良い)と
評価する事ができないからだ。まあつまり、一度は頂点を
見ておく必要がある、という意味である。
ただまあ、「高描写表現力だから、良いレンズだ」という
判断も、必ずしもそうとは言い切れない。
高価なレンズは「コスパ」が悪くなるのは当然であるし、
ユーザー自身の利用目的、技法、価値感、環境などに
そぐわない場合も勿論出てくる可能性もあるからだ。
例として、私の場合は、本STF135/2.8に関しては、
「誰がどのように撮っても、高画質の凄い写真が撮れて
しまう。そうであれば、それは自分の手柄ではなく、
レンズの手柄であり、難しいレンズを使いこなそうと
するテクニカル的なエンジョイ度が低い」という
評価にも繋がってしまっている状況だ。
APS-C機では換算焦点距離が長い事もあいまって、
人物撮影では使い難い。フルサイズのα99系を使えば
その件は緩和されるが、本記事執筆時点では所有して
いなかった(後日入手済み)あるいはミラーレス機の
α7/9系でも、フルサイズで使用できるし、どうせ本
レンズはMFだし、絞り値(STF値)操作も、殆どの場合
開放固定で触らないので、絞り操作性も問題は無い。
ただ、そうしたとしても、依然、135mm単焦点は、
やや被写体汎用性に欠ける状態だ。
なので、本レンズの「用途開発」として、最短87cmの
優秀な近接撮影性能を用いた、自然観察用途に用いる
事が有益だと思うようになって来ていて、近年では
その用途がほぼ100%だ。この目的であれば、むしろ
フルサイズ機よりも、APS-C機の方が使い勝手が良い。
では、以下、評価点である。
1998年:MINOLTA STF 135mm/f2.8[T4.5]
【描写表現力】★★★★★
【マニアック】★★★★★
【コスパ 】★★
【エンジョイ】★★★★☆
【必要度 】★★★★★
・評価平均値:4.3
(★=1点、☆=0.5点)
さて、このSTF135/2.8は、トップクラスのレンズ
である為、これと対戦する一般レンズを選ぶのは
難しいが、以下のレンズをエントリーさせてみよう。
レンズは、SIGMA 135mm/f1.8 DG HSM | ART
(中古購入価格 102,000円)
カメラは、CANON EOS 7D MarkⅡ(APS-C機)
2017年に発売された、高付加価値仕様大口径AF望遠
レンズ。
ともかく大きく重く高価な「三重苦」レンズであり、
フィルター径φ82mm、重量1130g(EF版)、
発売時定価は175,000円+税、となっている。
しかも手ブレ補正を内蔵していない、まあその点は
「性能向上の為に、軟弱な機能は廃した」という
企画コンセプトが見て取れる為、個人的には好みだ。
主要な用途は、ライブ撮影等の中遠距離人物撮影である、
開放F値の明るさは、特に暗所での撮影に向く。
まあ、近年のカメラには超高感度が搭載されている事も
普通であるので、旧来よりも、大口径であるメリットは
低減しているのだが、まあそれでもライブや舞台等では
プレーヤーやパフォーマーは激しく動き回るケースも
多い為、それを止めて写すシャッター速度は、最低でも
1/250秒が必要となる。
この速度は、本レンズの焦点距離で手ブレ補正無しでの
一般的手ブレ限界速度の(APS-C機での)約1/200秒を
上回る為、例えばAUTO-ISOの設定で、低速限界設定を
併用し、それを1/250秒にセットしておけば問題は無い。
だから、ステージ系撮影で、手ブレ補正が無くとも、
なんら問題にはならない・・ という目論見で本レンズ
を購入したのだが、実際に何度かその手の撮影で使用
してみると、想定外の微妙な課題も発生している。
それは、低速シャッターを用いて、動感表現を実現
したい場合、1/20秒~1/60秒というシャッター速度
が使える事が望ましいのだが、その際、レンズの重量
が重く、システムのバランス重心を維持する事が
他のレンズよりも難しい。まあぶっちゃけ言えば、
「低速シャッターでは手ブレ必至、それを避けるのは
困難で、偶然でしか撮れず、歩留まりが悪くなる」
という問題が出てきた訳だ。
この事は、ライブ以外でも、さまざまな被写体において
(例:花火イベントの遠距離手持ち撮影)低速シャッター
の実験や練習を繰り返したのだが、技能面よりも、物理的
限界がある模様で、回避が難しい。
まあても、超絶的な高描写力を生かして、特定の被写体・
撮影条件では十分に使えるレンズであるので、個人的には
お気に入りだ。では、以下、評価点である。
2017年:SIGMA 135mm/f1.8 DG HSM | ART
【描写表現力】★★★★★
【マニアック】★★★★★
【コスパ 】★★
【エンジョイ】★★
【必要度 】★★★★
・評価平均値:3.6
(★=1点、☆=0.5点)
コスパ評価点が伸びず、使いこなしや用途開発が困難な
レンズ故に、「エンジョイ度」評価点も低くなり、
残念ながらSTF135/2.8には完敗だ。
だがまあ、STF135/2.8も本A135/1.8も、所有レンズ
中では、極めて希少な「描写表現力」「マニアック度」
の両者で5点満点をマークしているレンズであるので、
好カードの対戦であったとは言えよう。
なお、マニアックとは言え、どちらかと言えば
STF135/2.8は趣味撮影が主体となるレンズであろうし、
本A135/1.8は、ほぼ完全に業務用途専用レンズである。
両者は、全くの別物と言っても良いかも知れない。
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では、ラスト4回戦の対戦、まずはSTF陣営から。
レンズは、SONY FE 100mm/f2.8 STF GM OSS
(SEL100F28GM) (中古購入価格 129,000円)
カメラは、SONY α6000(APS-C機)
2017年発売のAF搭載STF中望遠レンズ。
仕様的に汎用性が高いレンズと感じるが、このレンズ
の製品名には書かれていない実効F値(T値)は、
T5.6と、STF/APD系レンズの中では最も暗い。
(注:F値やT値が暗いと、「性能が低いレンズだ」と
勘違いする初級中級層が多い為、あえて書きたく無い
スペックであったのだろうが、やや公正さに欠ける。
だがこれは、F値等の仕様上の得失を理解していない
ユーザー側に問題があると思うので、残念な話だ)
一応、OSS(手ブレ補正)が内蔵されていて、FEマウント
α機の現行機種では、ボディ内手ブレ補正も併用できる。
(注:各回転補正軸を、レンズとボディで各々分担する)
ただしⅡ型機以前のSONY α機には、AUTO-ISO時の
低速限界設定が無く、かつデフォルトではAUTO-ISOの
最大到達感度が低い場合が多い(注:高感度ノイズの
発生について厳し目の製品仕様とするSONY機の特徴)
・・ので、システムのデフォルト性能に頼る事なく、
被写体状況に合わせたシャッター速度やISO感度の
状態には留意する事が、まず使いこなしのコツとなる。
昔からそうだが、初級層等では、こうした露出等に
係わる写真やカメラの基本原理を全く理解できておらず
かつ、勉強もしようともしない為、完全にカメラ側の
性能に頼りきってオートモードで撮影する事が大半だ。
(だから、皆、最新鋭の高性能機体ばかりを欲しがる)
しかし、本シリーズ記事全般、特に本記事で取り上げて
いるような特殊な仕様のレンズにおいては、そのように
フルオートで撮れるほどの安直なレンズは1本も無い。
まあだから、ビギナー層等が、これらの紹介レンズが
「良さそうだ」などと思って、安易にこれらを買って
しまったとしても、まず使いこなせずに、無駄な出費と
なるだろう。いずれも高価なレンズなので、殆ど致命的
なまでの状況に陥ってしまう。
なお、今回、フルサイズ対応の本レンズをAPS-C機で
使用しているのは、それなりに色々な意味があるが、
それについては際限なく説明が長くなるので、やむなく
割愛する。まあ、基本的には、母艦など、なんでも良く、
フルサイズの最新鋭機でなくてはならない理由は、
どこにも存在しない
結局のところ、レンズ評価は、あくまで利用者側のスキル
や撮影環境、システム環境、写真の利用目的等に依存する。
そして、良いレンズか、そうで無いかを決めるのも、
あくまでユーザー自身だ、他人の評価は関係ない。
では、そういう状況をちゃんと理解してもらった上で、
本レンズの評価点である。
2017年:SONY FE 100mm/f2.8 STF GM OSS
【描写表現力】★★★★★
【マニアック】★★★★★
【コスパ 】★☆
【エンジョイ】★★★★
【必要度 】★★★★★
・評価平均値:4.1
(★=1点、☆=0.5点)
コスパ以外は何も問題点が無い好評価の名玉だ。
勿論、このレンズにも細かい弱点は存在するのだが、
それらをネチネチと責めるのは無粋であろう。
高性能なレンズは、それを作り上げた企画・研究開発
側が凄いのであって、まず、それを実現した事を
リスペクトするべきだ。ユーザーは、たとえ、お金を
出した「お客様」だとは言え、過剰な迄に、重箱の隅を
突き欠点を暴くような評価をする事は好ましく無い。
高性能レンズであれば、その高性能がどんな要素なのかを
認識できずに、欠点ばかりに目が行く事は大問題であるし、
逆に低性能レンズであれば、それは、どのような理由で、
そうした性能に留まっているのか?を、ちゃんと研究して
推測、意識するべきだと思う。
それから、たとえ価格が高くても、パフォーマンスが
高かったり、唯一無二の特徴があれば、コスパ減点は
最小限となるのだが、まあそれでも限度はある。
本レンズは、一般的視点からも高価すぎる為、コスパ
評価は妥当と思われる厳しさで評価点を決めている。
それと「G Mastar」とかメーカ側が付ける高画質称号は、
どうも個人的には好きになれない。それにより付加価値を
高める、すなわち値上げの理由としている事が明白で
あるからだ。だから、そうした称号やら、価格の高さは
あまり意識せず、絶対的な評価基準を持って対応する事が、
ユーザー側に求められるスキルとなる。
他の例としては、TVのバラエティ番組でも良くあるが、
グルメ評価等の肩書きに騙されず、ちゃんと料理等の味や
品質を見抜く事が出来るかどうか? という意味である。
・・まあ、そうは言うものの、本レンズもまた描写表現力
5点満点の優れたレンズである事は、疑いの余地も無い。
さて、本FE100/2.8STFについても対戦する一般レンズ
の候補選択がとても難しい、焦点距離等の仕様は異なるが
以下のレンズを取り上げてみよう。
レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 110mm/f2.5
(新品購入価格 138,000円)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)
(注:フォクトレンダーの綴りにおける変母音は省略)
2018年末に発売された、MF中望遠等倍マクロレンズ、
当然フルサイズ対応だ。
これまで、通常、本レンズを使う際は、撮影倍率を
稼ぐ為と、システムの重心バランスの観点から、
APS-C機を使用してきたが、今回は「限界性能テスト」
も兼ねて、使い勝手の悪いフルサイズ機を母艦とする。
まあ、我慢できない程に使いにくかったら、とりあえず
APS-Cにクロップして撮影するか、あるいはそれでも
重量バランス上の課題が残れば、もう母艦を変えて
「出直し」である。
まあ、幸いにして「出直し」になるまでの事は無かった。
望遠等倍マクロは、APS-C機では性能過剰となるケースも
感じていたので、むしろ本システムは適正だ。
さて、またしても超高性能レンズだ、FE100/2.8STM
とは良い勝負、しかし、両者の特性やコンセプトは
大きく異なり、全く別モノ(別利用目的)のレンズだ。
方や、FE100/2.8STは完璧とも言えるボケ質を利した
立体的要素を持つ中距離被写体専用のレンズであり、
必要に応じて、マクロモード切替で近接撮影も可能だ。
一方、本MAP110/2.5は高解像感と高コントラスト感を
長所とする近接(マクロ)撮影に特化したレンズである。
まあただし、本レンズの使いこなしは相当に難しく、
上級者以上推奨だ。
だが、これでもマシな方であり、本レンズの前機種、
Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 125mm/f2.5 SL
(2001年)は、「修行レンズ」と異名をつけた程に
使いこなしが困難であり、その手の難関レンズを集めた
レンズマニアックス第11回、第12回記事特集において
「使いこなしが難しいワーストワン」の残念な結果と
なってしまっている。(ただし、前機種も描写力が
低い訳では無い→レンズ・マニアックス第32回記事
「新旧マクロアポランター対決」編等参照)
まあ、前機種よりも、だいぶマシとは言え、依然
本レンズにも存在する使いこなしの難しさを、どう
評価点に加味するかがポイントであろう。
では、本MAP110/2.5の評価点だ。
2018年:Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 110mm/f2.5
【描写表現力】★★★★★
【マニアック】★★★★★
【コスパ 】★☆
【エンジョイ】★★★☆
【必要度 】★★★★☆
・評価平均値:3.9
(★=1点、☆=0.5点)
残念ながら、僅差でFE1002/2.8STFに敗北だ。
本レンズであれば良い勝負となる、とは思ったのだが、
やはり、使いこなしの難しさによる「エンジョイ度」の
減点が、やや響いてしまった。
また、交換レンズ群が豊富なSONY Eマウント専用品で
あった事も、「必要度」の僅かな減点に繋がっている。
まあ、つまり、E(FE)マウントでは他に優秀なレンズが
山ほど存在するので、本レンズを持っていなくても
何とかなるだろう・・ という評価基準である。
ただ、この事は本レンズ自体の責任や課題では無い
本レンズの、その他の項目、特に描写表現力等は、
何ら減点が無い最高レベルとなっているのだ。
本レンズは、僅かに本ブログでの名玉の条件(これは
総合評価平均点が、4.0点以上になるもの)に届いて
いないが、緩めに評価すれば、十分にその資格はある
名レンズであろう。
まあ後は、本レンズを欲しい(必要とする)と思うか
否か? ユーザー側のその観点だけに依存するであろう。
----
では、今回の「Apodization・Glandslam・Competition」
編は、このあたり迄で。
これにて、本「特殊レンズ・スーパーマニアックス」
シリーズ記事は全て終了、気が向けば補足編をいくつか
書くかもしれないが、概ね他シリーズ記事や新シリーズ
記事で対応する。
]]>
完了:特殊レンズ・超マニアックス
p_chansblog
Tue, 03 May 2022 19:01:11 +0900
2022-05-03T19:01:11+09:00
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オールド・デジタルカメラ・マニアックス(11)一眼レフ編(5)
http://pchansblog.exblog.jp/32572461/
http://pchansblog.exblog.jp/32572461/
<![CDATA[本シリーズ記事は、所有している古いデジタルカメラ
(オールドデジタル機)を、時代とカテゴリーで分類
し、順次紹介していく記事群である。
本記事での紹介機は、2013年~2017年の期間に
発売された「デジタル一眼レフ」を5台とする。
装着レンズは、比較的近代のもの(2010年代製)
を選択しよう。
この時代ではデジタル一眼レフの販売台数が減少し、
結果的にカメラは「高付加価値化」している。
この状況をわかりやすく言えば、「カメラがそう沢山
は売れない時代だから、消費者が欲しがるような凄い
機能を色々とつけて、その分、値上げをする。
販売数が少なくても、1台あたりの儲けが大きければ
なんとかやっていける」という理屈である。
この状態は、消費者から見て、正直言って、あまり
歓迎できるものでは無い、カメラが極めて高価に
なってしまったからだ・・・
----
では、今回最初のオールド(デジタル)一眼レフ。
カメラは、NIKON D5300 (APS-C機)
(2013年発売、発売時実勢価格約9万円)
(中古購入価格 26,000円)
紹介記事:デジタル一眼レフ・クラッシックス第25回
レンズは、NIKON AF-S NIKKOR 105mm/f1.4E ED
(2016年発売)を使用する。
冒頭に記載したように、この時代に新発売された
デジタル一眼レフは、皆、高価だ。(高価すぎる)
この重大な問題に消費者側として対応する為、
私がとった施策としては、「常に上級機ばかり
を使わず、適宜、下位機種を併用する」という
方法論である。(ちなみに、下位機種の中古相場
の下落は速いので、安価に入手する事が出来た)
私は、この方法論を「ハイローミックス(High-Low
Mix)」と呼んでいる。
この言葉は、元々は軍事用語である。
米ソ冷戦時代、最新鋭の戦闘機が色々と開発されたが、
当然、高価であり、全て、その高額な戦闘機で揃えて
いくと、軍事予算が掛りすぎてしまう。
そこで、ローコストの戦闘機を同時に配備する事で、
物量が揃い、トータルの兵器運用にあまり影響を与えず
に予算を削減できる、という発想(構想)である。
実例として、米軍では1970年代でのF-15(高価)
とF-16(安価)のハイローミックスや、近代での
F-22(高価)とF-35(安価)の組み合わせがある。
この発想にヒントを得て、例えばNIKONのデジタル
一眼レフにおいては、D500(高価)やDf(高価)と、
D5300(安価)のペアを揃え、運用形態において、
つまり、撮影目的や被写体状況、使用レンズ等に
よりけりで必要な方の機体を持ち出す事としている。
本記事においては、もう1組、CANONのAPS-C型
一眼レフにおいても、同様にハイローミックスを
行っており、それは後述する。
さらにはPENTAX機やSONY機においても同様であり、
すなわち私は、近年においては大多数のマウントで
この「ハイローミックス構想」に基づき、カメラを
運用している状況だ。
まあでも、この用法は、銀塩時代の昔から「メイン機
とサブ機」といった同様な概念により、上級層や
職業写真家層においては、常識とも言える使用機材の
組み合わせであったので、別に目新しいものでは無い。
ただ、銀塩時代では、その用法はマスト(必須)
では無く、メイン機とサブ機が、異なるメーカー
(マウント)であったり、サブ機が一眼レフでは無く
レンジ機やコンパクト機の場合もあったと思う。
なので、同一マウントでのデジタル機(一眼レフ
のみならず、ミラーレス機の場合でも)で、明確に
実用的・運用的観点からの「ハイローミックス」を
意識し始めたのは、私の場合でも、この時代
(2010年代後半)からだ。まあつまり、上級機の
価格が高価になりすぎているから、それらメイン機
ばかりを揃えるのはコスパが悪くなりすぎるからだ。
もう2点理由はあり、1つは、下位機種といっても
そう性能が低く無い機体が、2010年代からは色々と
存在している事がある。(本機D5300も同様だ)
もう1つは、高価すぎる上級機での減価償却ルール
(=持論の「1枚3円の法則」、購入価格を撮影枚数で
割って3円に到達すれば、その機体は「元を取った」
とみなす事としている)が、守れなくなってきている
事がある。
従前の時代であれば、3万円程度で中古購入した
デジタル一眼レフで1万枚を撮る事は、容易では
あったが、近年の、例えば15万円で購入した機体は
5万枚を撮らないと元を取ったと見なせない。けど
それは大変な事であり、場合により何年もかかって
しまう。減価償却ルールを遵守するならば、その間
は他のカメラを買ってはならない。なんとかして
使い潰さないとならない訳だ。けど、その方法論、
つまり、いつも同じカメラばかりを使う運用法は
個人的には好まない。
「カメラとレンズを組み合わせる事で、各々の
弱点が消えて効率的なシステムを構築できる」
という可能性があるからだ(=弱点相殺型システム)
具体例としては、今回使用のレンズAF-S 105/1.4は
約1kgの重量級レンズだ、これを高性能な重量級の
機体に装着すると、トータルの重量が重くなりすぎて
ハンドリング性能に重大な課題が出る。
だから、重量級レンズ+軽量級カメラの組み合わせで
トータル重量の軽減を図っている。
なお、こうした組み合わせは銀塩時代のMFレンズ等
では、重心バランスが崩れてMF操作性(ピント、絞り)
が悪化する為、推奨される事は無かった。
だが、一眼レフのAF化以降で、単焦点レンズを使う
ならば、左手はシステム(カメラ+レンズ)の重心部
を支えているだけで、何の操作もしない。ピントは
AFだし、絞り値はカメラボディからの右手操作だ。
よって、重量級(単焦点)レンズ+軽量級ボディは
左手で重心をホールドできるならば、何もアンバランス
になる事は無く、快適に使用する事が出来る。
まあつまり「重量級レンズには重量級ボディをあてがえ」
というのは、一眼レフのAF化以前、1980年代迄の常識
であった訳だ。この古い「言い伝え」を守っていても、
現代においては何の効能も無いどころか、その当時の
重量級レンズは、せいぜい1kg程度であったのが、
現代では2kgや3kgという超重量級レンズすら一般的
であるから、重くなった現代レンズを、現代の重量級
ボディなどに装着したら、もう、手持ちでの長時間の
撮影は、困難または不可能だ。
まあ、銀塩時代では、三脚を使う人は多かったし
(現代では絶滅危惧種だ)撮影枚数も1日あたりで
100枚程度が良いところだ。(短時間撮影でもあった)
ちなみに、デジタル時代の現代では、私の場合で
趣味撮影で1日最大2000枚程度、業務撮影で1日最大
6000枚程度となる、当然、長時間かつ大量の手持ち
撮影に耐えられるシステムで無くてはならない。
「銀塩時代の常識は、デジタル時代での非常識」と
良く曖昧に言われているが、こうした事も、具体的な
差異の例となる。まるっきり環境や状況が異なる訳だ。
さて、色々と余談が長くなった。
本機NIKON D5300であるが、サブ機、あるいは
ハイローミックス運用を行う上では適正な機体である。
勿論、AF性能、ドライブ性能、MF性能等には劣るが、
画素数は十分、ローパスレスで、画像処理エンジンも
当時の最新型、エフェクトも装備している。
まあつまり、中央測距点でAFでピントが合っていれば
出てくる画像は、上級・高級機にもひけを取らない
どころか、むしろ上回る場合もある。
だから実用撮影において、撮った写真をなんらかの
用途(納品、展示、公開、印刷利用等)とするならば、
本機D5300でも十分だ。(=業務用途にも使用可能)
だが、基本性能の低さは、使っていて不満も多く、
エンジョイ度や快適性を損なう場合も多々ある。
したがって、本機D5300をメイン機(主力機)として
これ1台で趣味撮影から業務用途までをこなすのは
不可能である。だいたい、本機では、オールドレンズ
(Ai NIKKOR等)は「仕様的差別化」により使用不可
であるし、極端に性能を落とされたファインダー&
スクリーンでは、MF合焦も不可能に近い重欠点を持つ。
勿論、フルサイズ機でも無いので、そこも認識する
必要はある。
しかし、そんな事(弱点)は、わかった上で、本機を
ハイローミックス運用するならば、何ら問題は無い。
要は、複合システムとしての「使い方」に依存する訳だ。
個々のカメラ単体でのカタログ・スペック上の良し悪し
を語っているだけでは、ビギナーレベルから、なかなか
脱却する事はできないであろう。中級層以上においては
所有機材全般における、「運用」を考えないとならない、
という訳だ。
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さて、2台目のオールド(デジタル)一眼レフ。
カメラは、CANON EOS 7D MarkⅡ (APS-C機)
(2014年発売、発売時実勢価格約21万円)
(中古購入価格 94,000円)
紹介記事:デジタル一眼レフ・クラッシックス第19回
レンズは、SIGMA 135mm/f1.8 DG HSM | ART
(2017年発売)を使用する。
こうしたカメラは、一般的には「ミドルクラス」と
呼ばれる事が多いが、それは曖昧な表現だと思う。
カメラのクラス(ランク)は、メーカーにより、
および時代(正確には市場の状況)に依存して
どのようにカテゴライズ(=カテゴリー区分)
されるかが決まる。
2010年代前半での、CANONのデジタル一眼レフに
おいては、以下のカテゴリー分けと定義している。
旗艦機:EOS-1D系
高級機:EOS 5D系
上級機:EOS 7D系、EOS 6D系
中級機:EOS フタケタD系(EOS 70D等)
初級機:EOS 四ケタD系(EOS 8000D等)
普及機:EOS Kiss(X)系
という分類だ。これはメーカー側がそう言って
いる訳では無いので、本ブログ独自の区分だ。
(まあ、2010年代末では、早くもこの区分は崩れて
しまっていた。まあつまり、ある時代固有のもので
あり、メーカー側でも、そういう一時的な市場戦略に
一々、個々にクラス区分等は行わないのであろう)
なお、ここで高級機と上級機の区分は曖昧であるが、
私の定義では、高級機は高付加価値型で価格が高い、
(逆に言えばコスパが悪い)製品群と見なしている。
・・で、趣味撮影、および一部で重要な実務撮影
(業務撮影、依頼撮影、イベントや冠婚葬祭等で
撮りこぼしが許されない撮影等)に用いる場合は、
基本的には上級機、または稀に高級機までの使用が
「適正上限」である、という持論を持っている。
すなわち、職業写真家層を除く一般層での、上記
機体条件での写真撮影用途の大半においては・・
*旗艦機は、重厚長大で冗長な為、業務専用機。
*高級機は、ラフに扱うのには価格面で厳しい。
*上級機は、価格と性能のバランスが適正。
*中級機も、まずまず、これも適正であろう。
*初級機は、やや性能不足だが、前述した「ハイロー
ミックス」で並列運用するならばOK。
*普及機は、実用的撮影には向かない。
しかしながら、上記の細分化されたメーカー側の
ラインナップが成立していたのは、2010年代前半
での、CANONとNIKONのみである。この時代は、
スマホやミラーレス機の台頭により、一眼レフの
市場が大きく縮退していたから、逆に、魅力的な
ラインナップを構成し、消費者層にアピールする
必要があったし、さらにこれはテストマーケティング
であった可能性も高い。つまり、この中から売れ筋を
探って、不人気または不採算なランク(カテゴリー)
は生産終了させてしまう、という市場戦略だ。
こうした戦略をとらず、2010年代では、最初から
ラインナップを、ある程度制限していた一眼レフ陣営
には、SONYとPENTAXがあり、高級機(フルサイズ)、
上級機(APS-C型高性能機)、そして中級機~初級機
迄を統合した高機能型機体を低価格で提供する、
簡略化された製品ラインナップを構成した。
(しかし、SONYとPENTAXの、この一眼レフ市場戦略は
結果的には、成功したとは言えない状況となって行く)
さて、という事で、本機EOS 7D MarkⅡについては
私の場合での大半の用途は、ボート競技の記録撮影
とライブ(音楽)の記録撮影である。
つまり、本機は趣味撮影には殆ど用いていない。
理由は、高性能望遠母艦として、中遠距離動体撮影に
適した特性を持つからであり、組み合わせるレンズ
は超望遠ズームか、大口径望遠レンズばかりだ。
これにより、確実に必要なシーンを捉える事が出来る。
(=成功確率が高く、撮りそびれが起こり難い)
趣味撮影にも使える可能性があるとすれば、同様な
望遠系システムを組んで、動物園、鉄道、航空機、
カーレース、自然観察撮影、等が有り得る。
また、家族や知人友人等の出場・出演する、運動会、
スポーツ競技、舞台等の撮影にも、勿論適正な
システムであるが、これは「撮りそびれが許されない」
撮影であるから、殆ど業務撮影と等価であろう。
(もし失敗すると、家族友人等から非難を浴びる・汗)
なお、コンプライアンス的な観点からは、見ず知らず
の他人を無許可で撮影する事はやってはならない。
例えば、公開イベント、お祭り、商業ステージ等は、
基本的には肖像権問題等が発生するので撮影不可だ。
そして、シニア層等で、肖像権問題に無頓着な人が
極めて多いが、近年では、それは「盗撮は犯罪です」
という張り紙等により、取締りの対象になりつつある。
また、マナーやモラルについても、今後はうるさく
なるだろう。例えば、植物園等で、野鳥を撮る為に
三脚を立てて長時間、場所を占拠するグループ等は、
近年では、そういう行動を施設側で禁止する動きが
顕著となっている。まあ、場合により他者が迷惑する
から、当然のなりゆきだと思う。私も、同様なケース
で、その近辺に行くと「そこをどけ!」等と言われ
いつも極めて不快に思っていた。(喧嘩になった事も
何度もある)
また、近年においては鉄道マニア層が、珍しい列車の
写真を撮る為に大挙してホームに群がり、一般乗客を
押しのけ、その一般客が線路に落下した事例もあり、
社会問題となっている。
こういう事は、マナーやモラルの問題と言うよりも、
もはや「事件」だ。
ただ、近年の商業ステージ等では、SNS等による情報
拡散効果を狙って撮影可、となって来ているケースも
増えているので、そういうステージでは趣味撮影的
に、こうしたシステムを使う事が可能であろう。
本機EOS 7D MarkⅡの弱点だが、機体そのものの
課題よりも、近年で私が問題としているのは
「後継機種が出ない」という課題だ。
メーカー(CANON)側としては、一眼レフ市場が
縮退しているから、ラインナップを整理したいの
だろうと思われる。「本格的業務撮影をするならば
EOS-1D系列、又はEOS R高級ミラーレス機を買え」
という事なのだろうが、重厚長大で三重苦のそれら
には個人的には興味はまるで無いし、実用撮影では
オーバースペックでハンドリングが悪いと思っている。
しかし、EOS 7D系を無くすと困るユーザーもいる
だろうから、例えば中級機のEOS 90Dに、EOS 7D系
に迫る連写性能を与え、このカテゴリーを上級機化
したい(つまり値上げをしたい)のだろうと思える。
まあ、メーカー側からは当然の市場戦略なのだろうが
消費者側からすると、なんだか微妙に賛同出来ない。
このままでは、本機EOS 7D MarkⅡが、業務撮影
でボロボロに劣化していくので、同じ機体を予備機
として買い増しするしか無い状況だと思っている。
まあ、それでもやむを得ない。(デジタル)カメラ
なんぞは基本的には消耗品だ、その時代や状況に
応じて適正と思われる機体を適価で購入すれば良い。
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では、3台目のオールド(デジタル)一眼レフ。
カメラは、CANON EOS 8000D (APS-C機)
(2015年発売、発売時実勢価格約10万円)
(中古購入価格 44,000円)
紹介記事:デジタル一眼レフ・クラッシックス第21回
レンズは、CANON EF-S 35mm/f2.8 MACRO IS STM
(2017年発売)を使用する。
上記、EOS 7D MarkⅡ、および従前記事で紹介の
EOS 6Dの両上級機に対する「ハイローミックス」
運用を強く意識して購入した機体が本機EOS 8000D
である。
EOS 7D系は業務用途専用、EOS 6D系は趣味用途
専用という風に、私は用途カテゴライズをして
いるのだが、その両者のサブ機として運用可能な
下位機種を探していて、「本機EOS 8000Dが適正で
あろう」という結論に至った。
ただ、本機を使って気になった弱点としては、
AF/MF性能が、かなり物足りない点である。
これにより、趣味撮影では、ストレスが溜まり、
業務撮影では、歩留まり(成功率)が低まる。
「それなら、どちらの用途にも使えないのでは?」
と思うかも知れない、まあ基本的にはその通りだ。
だが、ハイローミックス運用であれば、例えばだが
被写体の状況によりけりで、より確実性の高い
システムで撮影を行える。具体的な例としては、
ボート競技の撮影の際に、EOS 7D系機体に望遠を
付け、本機EOS 8000Dに広角系レンズをつけていき、
競技の撮影にはEOS 7D、会場記録や選手スナップ
等では、本機EOS 8000Dを使用する、という感じだ。
こうした運用においては、本機の弱点をある程度は
カバーする事ができる。
まあでも、複数台カメラの、こうした運用法は
昔からの「常識」でもあろう、銀塩時代などでも、
複数台のカメラを使用しているのは職業写真家層で、
1台だけで撮っているのはアマチュア層、と明確に
区分が出来た。
近年のデジタル時代では、まあ「カメラが高価に
なった」と嘆いてはいるのだが、それでも所得水準
や可処分所得から考えると、アマチュア層でも複数
のシステムを所有する事は、さほど困難では無い。
私の場合では、業務撮影では、最低限3台、場合に
より予備機も含めて4台のカメラ(とレンズによる
システム)を持ち出している。
また、趣味撮影でも最低限2台(システム)持ちだ。
結局、「ハイローミックス」は、いつの時代でも
行われていた運用法ではあるが、まあそれでも
2000年代あたりまでは、ハイローの機材各々に
あまり関連性は無い(例:前述のとおり、高級
一眼レフと高級コンパクトの組み合わせ等)状態
が多かったとは思うが、2010年代では、同一の
メーカー間でも、明確にハイローミックス思想で
カメラの運用をする重要性が高まって来た、という
事となる。なお、その最大の原因(理由)は、
カメラ全般の、市場縮退による高価格化であり、
1台の万能カメラ(しかし高額)で全ての撮影
シーンをこなせる状況では無くなったからである。
そろそろ現代においては、初級中級層等においても
「EOS 8000Dは、連写性能がショボイ」等の、単純で
”当たり前の話”とも言える評価や価値観をやめて
例えば「EOS 80DとEOS 8000Dを並行運用する事で、
このようなメリットとデメリットが生じる」等の
複合的評価を意識する必要が出てくるのでは
なかろうか・・
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さて、4台目のオールド(デジタル)一眼レフ。
カメラは、NIKON D500 (APS-C機)
(2016年発売、発売時実勢価格約26万円)
(中古購入価格 150,000円)
紹介記事:デジタル一眼レフ・クラッシックス第20回
レンズは、TAMRON 100-400mm/f4.5-6.3 Di VC USD
(Model A035) (2017年発売)を使用する。
本機の中古購入価格が高価なのは、発売から
まだ日が浅い状態での購入であったからだ。
まあ、普通であれば、自身が思う適正な価格まで
中古相場が下落してから購入する事が常なのだが、
早期購入の理由となったのは、私が使用している
NIKON Fマウントでの実用的高速連写機が、老朽化
してしまった、という切実な状況からであった。
私はNIKONの高速連写機としてはD2H(2003年)、
D300(2007年)を使用していたが、持論における
「仕様老朽化寿命」は、「カメラ発売後10年迄」
であり、2017年に、現行実用機D300が、その
発売後10年間を迎えてしまい、勿論まだちゃんと
動作はするものの、秒6コマの中速連写性能で
バースト(連続撮影)枚数も少なく、おまけに
ISO感度をちょっと高めるだけで、バースト枚数が
著しく減少する重欠点には辟易していた。
新鋭D500であれば、秒10コマで最大200枚の連写
が可能、しかも、その時代までの高速連写機は、
いずれもCFカードを使用していたが、本機D500
では一般的なSDカードで、その連写性能が得られる。
まあつまり、新しい機種での圧倒的な機能・性能に
目移りしてしまい、古い機種は、たとえ完全に動作
していたとしても、使いたく無くなってしまう。
それが「仕様的老朽化寿命」という意味である。
まあ、そんな事情で高価である事を容認した上で
本機D500を購入するに至った訳だ。
必要な減価償却枚数は15万円÷3=5万枚である。
今のところ年間平均1万枚を本機で撮影しているので、
2022年(本年)に減価償却を完了する予定である。
ただ、これまでの時代であれば、そういった
「ローテーション利用」で事は済んでいたのだが、
どうやら、本機D500に相応する後継機種の発売は
現状の一眼レフ市場の縮退状況を鑑みると、極めて
期待薄である。よって、本機D500の物理的寿命を
延ばすように画策しなければならない。
さもないと、この機体で10万枚やそれ以上の
撮影を続けていると、もうメカが持たないかも
知れないからだ、そうなっても後継機が無かったら
どうしようも無いでは無いか・・
まあつまり、ここでも他機、他社機を含めた
「運用」でカバーするしか無い状態であり、
ここを鑑みて、私の場合は、高速連写システムとして
本機NIKON D500、前述のCANON EOS 7D MarkⅡ
前記事のSONY α77Ⅱの、3台を同時並行運用して、
個々に負荷や負担がかかり過ぎる状況を緩和している。
次いで、前述の「ハイローミックス」思想により、
本機D500に対応するサブ機の取得も考えている。
なお、それは前述のD5300では無い、その機体は高速
連写機能を持たないからだ。その立場にふさわしいのは
NIKON機ではD7500となる。
あるいは場合により、中古相場の下落の激しい本機
D500を、もう1台予備機として入手しておくか?だ。
何故、本機D500の中古相場が下がるか?は、本機が
APS-C機だからだ。現代のNIKON機のユーザー層は、
その大多数がビギナー層であり、それらの層では
「フルサイズ機の方が良いに決まっている」という
極めて単純な誤解を市場から植えつけられてしまって
いる。だから、彼らはAPS-C機に興味を持たない。
(追記:これは2021年迄の状況。最新状況は後述)
勿論、高速連写型APS-C機は、望遠系レンズ等と
組み合わせて中遠距離動体撮影に最適という、多大な
メリットがある。ビギナー層では、そういう撮影シーン
が一切無いか、または想定できないから、APS-C機を
嫌うだけの話だ。
まあ良い、中古相場が下がるのはユーザー側からは
大歓迎である、やはり本機は、もう1台予備機を
買っておくべきかも知れない・・
(追記:コロナ禍による、海外での電子部品製造
効率の低下により、2021年後半頃から、各社での
特定のカメラの生産が困難な状況となっていた。
本機D500も同様で、新品の供給が滞り、一時的に
中古品の品薄と相場高騰を招いた事があった。
→結果的に2022年初頭頃に、D500は生産中止と
なってしまった模様だ。以降、D500の中古品の
購入希望者が増え、本記事掲載時点では、中古品
は、ほぼ流通していない。なお、場合により、これは
投機的措置による「買占め」かも知れず、後日、高価
な相場で転売されるようになったら馬鹿馬鹿しい。
---
だが、そんな時期において、わざわざ品薄や高価と
なったカメラを欲しがるとは、いったい、どういう
購買論理なのだろうか? それは、物凄く非効率的な
買い物のやりかたであり、全く理解も賛同も出来ない。
どんな場合でも、買える時に、欲しい品物を適価で
買うべきであり、やむなく、そのタイミング(好機)
を逃したならば、もうすっぱりと諦めるべきだ)
----
では、今回ラストのオールド(デジタル)一眼レフ。
カメラは、PENTAX KP (APS-C機)
(2017年発売、発売時実勢価格約14万円)
(新古品購入価格 96,000円)
紹介記事:デジタル一眼レフ・クラッシックス第22回
レンズは、HD PENTAX-DA 35mm/f2.8 Macro Limited
(2013年発売)を使用する。
本機は、ある意味、不遇なカメラであろう。
銀塩時代のPENTAX製品はマニア向け、という印象も
強かったが、反面、大衆機というイメージも合わせ
持つメーカー(製品)であったと思う。
そして後年、デジタル化の荒波の中で生き残る為に
PENTAXは他企業との合併を目指した。
あれこれあって、HOYAとの合併が成立すると、
HOYA時代(2010年前後)では、徹底的なエントリー
戦略、すなわち、入門層や初級層に向けた派手な
市場戦略を色々と展開し、結果としてHOYA時代の
PENTAXカメラ事業は黒字化したのだが・・
その反面、この時代に従来の「PENTAX党」という
マニア層は激減してしまったと思われる。
PENTAX党か否かは、簡単な見分け方がある、
それは「FA Limited」シリーズ(3本ある)を
所有しているか否か?だ。この銀塩末期の名玉は
その後20年以上のロングセラーとなり、いまだ
古さを感じないし、個性的なレンズでもある。
PENTAX党は必ず、これらFA Limitedを所有している。
だから、PENTAXの中上級機を使っているユーザー
と話す機会がある際には、私は、必ず「Limited
レンズは使っていますか?」と聞く事としている。
しかし、その所有比率は年々減ってきているし、
(注:2021年に、これらは後継版が発売された)
そもそもPENTAX機を使っているユーザー層の比率
まで激減してしまっているのだ。
結局、近代(2010年代)においては、PENTAX機は
ビギナー向け、という市場での印象が強い。
HOYA時代の戦略に功罪があったと言う事なのだろう。
HOYAは2010年代初頭にPENTAXを切り離し、RICOH
に事業一式を移管した。結局現代ではPENTAXの
社名はもう残っておらず、RICOHのカメラ製品の
中の1ブランドに過ぎない。
40年以上前の1975年には、ASAHI PENTAXが
350万台も売れたM42マウントのSPシリーズを
辞めて、新規Kマウントのシリーズに転換した。
その際、RICOHもM42を捨てて、Kマウント互換の
XRマウントに転換した、という歴史がある。
まあ当時の旭光学は国内最強のカメラメーカーで
あった為、他社は皆、PENTAXの戦略に追従していた
訳である。それが40年後には、まったく逆転して
しまうのだから、まあ、デジタル化はやはり激動の
歴史であったのだろう。
さて、という事で、2010年代後半においてPENTAX
機を志向するのは、エントリー層およびビギナー層、
または初級マニア層が主力となった。
そうした初級層全般においては、PENTAX機が安価な
割りに、カタログスペック的には高性能な事に注目
していた。まあ「コスパが良い」という事であるが
「コスパがわかる人達」と言い換えても良いであろう。
他の大多数のビギナー層では、モノの真の価値を
見抜く事は出来ないから「値段の高い製品は良い」
とか「誰かが良いと言ったから買う」という、極めて
限定的な価値観、あるいは購買行動しか起こさない。
で、「違いがわかるビギナー層」の存在は、PENTAX
製品においては、さらにここから「PENTAX党」の
マニア層を増やす要因になり得るか?とも期待して
いたが、2010年代後半ではPENTAXは高付加価値化
システムの展開を志向してしまった。まあ、これは
縮退市場では、どのメーカーも高いカメラやレンズを
売らないと、商売がやっていけないので、やむを得ない。
でも、そうなると、ビギナー層に向けて、
「PENTAX初のフルサイズ機です」(K-1、2016年)
「高度な操作系を搭載した機体です」(本機KP)
という戦略は通用しない。
初級層、初級マニア層いわく
初「え~? 安いのがPENTAXの取り得だったのに、
そんなに高価なPENTAXのカメラは買えないよ」
と、なってしまう。
つまり、本機KPの真の価値は誰もわかっていない。
何故ならば、欲しがる人が殆ど居ないからだ。
誰も正しく本機を評価しない(できない)ならば、
好評価が、口コミやネット上で拡散する事も無い。
ちなみに本機KPの個人評価点は、平均3.81点、
これは、本シリーズでここまで紹介した23台の
デジタル一眼レフ中、堂々の第一位の評価点だ。
ただ、ぶっちゃけ言えば、初級中級層では、
本機KPの高度な操作系概念はチンプンカンプンで
全く使いこなす事が出来ない、それは確実だ。
消費者層の志向が、いつのまにか、すっかりと
変わってしまい、買ったところで誰も正しく価値
を見抜く事が出来ない、その不遇なカメラが本機
PENTAX KPである。
本機KPの発売後、PENTAXは一眼レフの新発売を
超スローペース化し、外装変更機(KP J Limited等)
を除き、新規発売カメラは、2021年のPENTAX K-3
MarkⅢまで、4年も間が開いてしまっていた。
2022年には、PENTAXからは「カスタマイズカメラ
を作る」という主旨の発表があった、まあでも、
現段階では、その具体的な製品例・実施例はわからない。
で、レンズメーカーも2020年前後には、もうPENTAX
KAFマウントのレンズの新規販売を停止している。
さらに言えば、本機KPも、既に短期間で生産を
終了している模様で、本記事掲載時点では、
PENTAX(RICOH)のWebにも載っていない。
残念な歴史だが、時代が変わった、という事か、
あるいは変化した時代に、メーカーもユーザーも
誰も追従していってなかった事が、PENTAXの不運
だったかも知れない。
----
最後に余談だが、本シリーズでの一眼レフ編は
本記事でラストである。2018年以降に発売の
一眼レフは、個人的にも1台も購入していないから
である。理由は、まず新製品そのものが少なく、
新鋭機での魅力も少なく、あったとしても高価な
機体であるからだ。
現代、コロナ禍の中での、デジタル一眼レフの
日本全国での1ヶ月あたりの販売数は、僅かに
4000~5000台程度と、非常に少ない。
全国で計4000台である! 単純計算だが、これを
都道府県数で割れば、各県で100台、各店舗あたり
では、月に1台程度しか売れていない数字となる。
ここまで一眼レフ市場が壊滅的に縮退してしまった
ならば、各メーカーともミラーレス機に注目するしか
無いのであるが、では、ミラーレス機ならば売れる
のか?といえば、国内市場においては、一眼レフ
の数倍程度、月に1万数千台程度の販売数である。
ほんの10年前だったら、一眼レフでもミラーレス機
でも、たった1機種だけで、月に1万台を販売する
事は良くあった。だが、現在では、全てのカメラが
寄ってたかっても、僅かに、その販売数でしか無い。
まあ、この状態では、新鋭カメラは超絶的な性能を
謳って大きく値上げをするしか無いのだろうとは
思うが、もはや、そういう(=不要なまでの性能を
入れて値上げする)製品企画方針は、マニア層とか、
ハイアマチュア層には受け入れがたいものとなって
しまっている。
「高額機体が供給不足」というニュースもたまに
流れるのだが、元々、この市場状況では高額機の
生産数は極めて少ない。そこへ僅かでも注文数が
上回れば、供給不足となるのは当然ではあろうが、
それすらも「高額機がバンバンと売れている、景気
が良い市場である」と、消費者層に勘違いをさせる
為の、一種の広告宣伝ニュースとなっている次第だ。
「カメラマニアですらも、新鋭カメラを買わない
(欲しいとは思えない)」というのは、残念な
市場状況ではあるが、まあ、それが事実だ。
----
では、今回の「オールド・デジカメ(11)」編は、
このあたり迄で、次回記事は最終回となる予定だ。
]]>
連載中:オールド・デジタルカメラ
p_chansblog
Sat, 30 Apr 2022 17:11:17 +0900
2022-04-30T17:11:17+09:00
-
レンズ・マニアックス(95)補足編~F0.95超大口径レンズ
http://pchansblog.exblog.jp/32569594/
http://pchansblog.exblog.jp/32569594/
<![CDATA[今回記事は第95回記事の数字にちなみ、補足編として
「F0.95超大口径レンズ編」とし、既紹介レンズ3本と、
新規レンズ1本を取り上げる。
が、従前の記事、特殊レンズ超マニアックス第25回
「超大口径レンズ」編と、紹介レンズの多くが重複
する為、今回の記事では、また別の視点の内容とする。
----
ではまず、今回最初のF0.95レンズ。
レンズの紹介順だが、発売年代順としよう。
レンズは、Voigtlander NOKTON 25mm/f0.95(初期型)
(フォクトレンダー ノクトン。変母音省略、以下同様)
(新品購入価格 84,000円)(以下、NOKTON25)
カメラは、PANASONIC DMC-G1 (μ4/3機)
2010年末頃発売のμ4/3機専用超大口径MF標準画角
レンズ。
なお、今回紹介の4本は全てMFレンズである。
また、本レンズ、および続くNOKTONシリーズは、
いずれもμ4/3機専用である。
(注:電子接点が無い点を逆手にとって、マウント
アダプター経由で、無理矢理にSONE E/FEマウントに
装着可能ではあるが、イメージサークル(写る範囲)
がμ4/3機用であるから小さく、フルサイズ(FE)機
では、真ん中に丸く写り、APS-C(E)機では、四隅が
僅かにケラれてしまう。(=周辺減光が発生する)
まあでも、「だからダメだ」という訳では無く、もし
ユーザーが、そういう使い方をしたければ、別に、
そうしても良いと思う。ちなみに、絞りもピントも
手動で動作するので、問題なく写真は撮れる)
本レンズは、過去記事で何度も紹介しているので
今回は簡単に本NOKTON25の長所を述べておこう。
長所だが、まず最短撮影距離が17cmと、異様なまでに
寄れる事がある。F0.95という開放F値とあいまって
近接域では多大な背景ボケ量を得る事ができる。
なお、本レンズが発売された時代は、μ4/3機が
登場してまだ1~2年であった。
最初期のμ4/3機ユーザーは、ビギナー層や入門層の
比率が多く、「μ4/3のカメラは背景がボケ無い」と、
ビギナー層の間では良く言われていた。
まあ、それもその筈、μ4/3機はセンサーサイズが
小さい。この為、カメラに付属されるキットレンズも
14mm-45mm/F3.5-5.6や17mm/F2.8、14mm/F2.5
等の、実焦点距離が、かなり短いレンズを、準標準
または広角画角として、セットで発売していた。
そして、キットレンズの開放F値も全般的に暗いし、
最短撮影距離が長いものも多かった。
それらの理由としては、最初期のμ4/3機は、全て
「コントラストAF」仕様であった。このAF方式では
ピントの性能が低い為、「被写界深度が深い」レンズ、
つまり、実焦点距離が短く、開放F値が暗いレンズで
中遠距離撮影をしないと、「ピントが合わない」等の
ユーザー層からのクレームに直結してしまうからだ。
で、そうした新品システム(カメラ+レンズ)しか
買わないビギナー層では、どうやったとしても
被写界深度が深い訳だから、背景をボカした写真を
撮る事ができない。
よって、「μ4/3機は背景をボカせない」という噂が
市場に定着し、そのまま十数年間も、その話が語り
継がれる事となった。(注:μ4/3のカメラ側の
問題では無く、あくまで「システム」の話だが、
その区別がビギナー層ではついていない)
しかし、マニア層は違う。μ4/3機の登場により、
フランジバック長の短いミラーレス機では、ありと
あらゆるマウントアダプターが作れる(使える)
ようになり、マニア層の所有する、古今東西の
あらゆる(オールド)レンズが使用可能となった。
これは、マニア層にとっては「大事件」であり、
「福音」でもあった。
これまで、マイナーマウントとして、デジタル機
(デジタル一眼レフ)では使い難い(使えない)
マウントのCANON FD、MINOLTA MD、KONICA
AR、そしてレンジファインダー機用レンズ等を、
μ4/3機、あるいは、この時代には既に発売されて
いたSONY NEXシリーズ(APS-C機)で自在に使う、
というムーブメント(≒流行)が発生した。
オールドレンズの中には、F1.4級の大口径レンズ
や、マクロレンズ、望遠レンズ等も、ごろごろして
いる。これらをμ4/3機やAPS-C機で使う上では、
「背景がボケ無い」などの問題点は一切発生せず、
おまけにμ4/3やNEXの初期コントラストAFによる、
ピント性能問題も、各種レンズをMFで使う上では、
一切問題にならない。
だから、2010年代初頭では、「第二次中古レンズ
ブーム」というのも起こったのだが、この時、
(1990年代後半の)「第一次中古カメラブーム」
(=一般層を巻き込んだ、一大カメラフィーバー)
との大きな違いは、ミラーレス機での旧レンズの
使用利便性は、既にレンズを多く保有するマニア層
しか恩恵が受けれない事だ。よって、この第二次
ブームはマニア層だけの範疇に留まり、一般層に
まで波及する事は無かった。
よって、一般初級中級層では、あいかわらず
「μ4/3機は背景がボケないなあ・・」で終わり、
である。
結局のところ、そうした話は「装着するレンズに
よりけり」であって、μ4/3機(システム)そのもの
に大きな問題がある訳では無い。また、システムは、
ともかく「使いこなし」が重要であり、何も、不利な
機材を不利な被写体に向けて使用する必要は無い訳だ。
たとえば、「背景がボケない」ならば、イベント等
での会場スナップ(記録撮影)に使うならば、それは
多大なメリットとなる。なにせ、人物集合写真とか
距離差のある複数人物写真等で、一部の人達がピンボケ
になる心配が無い訳だから・・
結局のところ、様々な撮影環境において、必要な
写真を撮るために、適切な機材を用いる事は、中上級
層以上や、マニア層では「常識」の話である訳だ。
「背景をボカしたい」という、ポートレート撮影や、
季節の花等の撮影に、μ4/3機と広角レンズを持ち出す
のでは、機材に関する知識や撮影機材の選択肢が不足
している、という事となる。
さて、こんな状況下において、COSINAとしては、
「μ4/3機でも背景が大きくボケるレンズを作って
やろうじゃあないか」という企画が発生したのだと
推測できる。
何故そう思うのか?と言えば、本NOKTONシリーズは
コシナ社唯一のμ4/3機用レンズシリーズであり、
他マウント版は発売されなかったのだから、μ4/3機
のユーザーのニーズに向けて特化した事は明らかだ。
ただ、非常にマニアックなレンズである。これらが
μ4/3機の主力ユーザー層である「ビギナー層」に
受け入れられるかどうか?は、はなはだ疑問だ。
しかし、この点も、これまではマニア層しか興味を
示さなかったコシナ製品(フォクトレンダー銘や
カール・ツァイス銘)を、より広く販売したいという
企画意図があったのかも知れない。
おりしもこの時代は、スマホの普及が始まり、本格
カメラユーザー層の減少と、本格カメラ市場全体の
縮退が始まりかけていた時代である。
一眼レフメーカーでは、1つは安価な初級機の
販売をスタート、さらにエントリー(お試し版)
レンズの販売、そして別路線では、フルサイズ機等の
スマホやミラーレス機では追従不能の「超絶性能機」を
発売する事で、一眼レフの優位性を築こうとしていた。
だが、それはカメラメーカーの戦略だ。コシナの
ようなレンズメーカー(注:かつてコシナは多数の
銀塩カメラもOEM生産していたが、もうこの時代では、
レンズ専業メーカーとなっている)では、カメラ本体
を、どうのこうのする、という戦略は取れない。
マニア層向けレンズに特化し、それでもマニア層の
実数が減りかけているのであれば、マニア層自体の
母数(人数)を増やすしかない。
そういう市場戦略であった可能性が高く、つまり
本NOKTON25は、μ4/3機オーナーのマニア層向けの
レンズではあるものの、一部にμ4/3機ビギナー層を
マニア層に誘導する為の戦略的商品であった可能性
も高い。
この為、仕様においては、F0.95という前例の
少ない超大口径とし、開放F値の数値スペックに
過剰に反応しやすい、初級層、初級マニア層等に
狙いを定めた。(=「開放F値が小さいレンズは、
良く写る高級レンズだ」という思い込みがある)
このスペックは、写真用交換レンズ最大口径の
CANON LENS 50mm/F0.95 (1961年、レンジ機用)
にちなみ、一眼レフ用交換レンズの最大口径の
CANON EF50mm/F1.0L USM(1989年)を凌駕する。
(注:F1.0もF0.95も差異は微々たるものだと
思うが、数値スペックを少しでも上げる事は、
昔から、付加価値の一環として基本的な戦略だ)
焦点距離は25mmとし、これであればμ4/3機で2倍
して、50mmの標準レンズ相当の画角であるから、
一般的視点では「汎用性が高いレンズ」となる。
(注:マニア層に向けては、前述のCANON LENS
50mm/F0.95の、約50年後に発売されたレンズ
となり、マニアックでレア(希少)な当該レンズ
の「代替製品」としての企画意図もあると思う)
ここで、あまりに妙な焦点距離としてしまうと、
レンズの焦点距離別に用途を著しく限定してしまう
(例:28mm=風景、35mm=スナップ、50mm=汎用、
85mm=人物)という意識が、とても強い初級中級層
では、「使い道が限られてしまう」という懸念を
持ってしまう危険性がある。
また、25mm/F0.95では、μ4/3機で使用する際
最短撮影距離が長い場合は、オールドレンズ等
での50mm/F1.8級レンズと同等のボケ量しか
得られないと思われる。
初級層等が「やっぱりμ4/3はボケ無い」とは
言わせない為に、本レンズは最短撮影距離を
欲張り、17cmと縮める事で、近接撮影時に
多大なボケ量が得られる仕様とした。
価格も税込み10万円を切るレベルに抑えられ、
まあこれで、マニア向けと初級層向けの
二面作戦の準備が整った訳である。
ただ・・、実際に本レンズが発売されると
一部のマニア層には熱狂的に受け入れられたが、
一般層全般に広く歓迎されたようには思えない。
やはり、約10万円という価格は高額であり、
初級層等では「ミラーレスのカメラが2、3台も
買えてしまうよ」という感覚しか持てないので
あろう。(注:ビギナー層の場合、システムに
掛ける予算を、カメラ本体を中心に考えてしまい
交換レンズの事を意識していない。これはまあ
理由はいろいろあるが、やむをえない傾向だ)
幸い、他のフォクトレンダーブランドのレンズ
のように、短期間・小ロットだけで生産が終了
してしまう事は無く、本レンズはⅡ型となって
販売が継続されている。もし本レンズが短期での
少数販売に留まってしまっていたのならば、
2000年代初頭のフォクトレンダーSLレンズ群
のように、現代では投機対象のプレミアム相場
(=不条理に高価な中古相場)となってしまって
いた危険性もあった。(→カメラを実用品ではなく
「骨董品」のような価値観で、高額取引の対象と
する状況には賛同できない)
なお、本初期型とⅡ型の差異であるが、Ⅱ型は
(また、他の全てのNOKTONシリーズでも同様)
絞り環を少し持ち上げて反転させると、クリック音
がしない無段階絞りとなる機構が搭載されている。
(参考:一般に「デ・クリック機構」と呼ばれる)
この機構は、動画撮影時で操作音が入らない事で
有効である。なお、動画はμ4/3カメラのみならず
業務用μ4/3ビデオカメラも存在するので、例えば
業務上での動画撮影、特に対談やインタビュー等の
人物撮影で、被写体が殆ど動かない場合では、MFで
十分対応できるし、NOKTONでの多大なボケ量から、
スマホ等の簡便な撮影機材で撮影した動画とは
ずいぶんと異なる、個性的な描写の動画が得られる
事であろう。
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さて、2本目のF0.95レンズ。
レンズは、Voigtlander NOKTON 42.5mm/f0.95
(新品購入価格 90,000円)(以下、NOKTON42.5)
カメラは、PANASONIC DMC-G5 (μ4/3機)
2013年発売のμ4/3機専用超大口径MF中望遠画角レンズ
発売当時、最長の実焦点距離のF0.95レンズで
あった。(注:近代での現行販売商品として)
焦点距離が長く、最短撮影距離も23cmと短い為、
発売当時としては、最も被写界深度が浅く取れる
(マクロ以外の)レンズであったとも言える。
(注1:85mm/F1.2レンズをフルサイズ機で用いた
場合よりも被写界深度は浅いであろう。
注2:デジタルにおける「許容錯乱円」の定義は
曖昧であり、あまり厳密に被写界深度の計算を
行う事が出来ない。
注3:多くの望遠マクロレンズでは、近接撮影時
に、これら通常レンズよりも浅い被写界深度を
得る事ができる。ただ、それによるメリットは
あまりなく、むしろ、ピント合わせが難しくなる
一方である。)
さて、本ブログでは、開放F1.0以下のレンズ
を指して「超大口径レンズ」と呼ぶ。
CCTV(監視カメラ)分野においては、よく
見かけるスペックではあるが、写真用レンズ
では数が少なかった。(注:ここ数年間で、
急激に増えて来ている。又、逆に監視カメラ
用の超大口径レンズの種類は減少傾向だ)
「匠の写真用語辞典第20回」項目「超大口径」
で記載した表を(一部を追加して)再掲しよう。
<F0.80のレンズ>
・Voigtlander SUPER NOKTON 29mm/F0.8 (μ4/3機用)
<F0.85のレンズ>
・HandeVision IBELUX 40mm/F0.85(ミラーレス機用)
<F0.95のレンズ>
・CANON LENS 50mm/F0.95 (レンジ機用)
・Leica NOCTILUX-M 50mm/F0.95(レンジ機用)
・中一光学(MITAKON) Speedmastar 25mm,35mm,50mm
(μ4/3機用、APS-C型一眼レフ用、シネレンズ)
・Voigtlander NOKTON 10.5mm,17.5mm,25mm,
42.5mm,60mm(μ4/3機用)
・SLR Magic 25mm/F0.95 (シネレンズ)
・NIKON Z 58mm/F0.95(Zマウント用)
・七工匠 35mm/F0.95(ミラーレス機用)
・LAOWA Argus 33mm,35mm,45mm(ミラーレス機用)
・銘匠光学 50mm/F0.95(レンジ機用)
<F1.0のレンズ>
・CANON EF50mm/F1.0L USM(一眼レフ用)
・Leica NOCTILUX 50mm/F1.0(レンジ機用)
・Voigtlander NOKTON 50mm/F1.0(レンジ機用)
これらは記憶に頼って書いているので、抜けが
あるかも知れない。また、これらの内の大半の
レンズは、近代2010年代以降の発売となっている。
さて、F0.95レンズ、特にこの初期NOKTONシリーズ
では、「描写力」という視点では、あまり褒められた
性能では無い。超大口径化で強く発生する、球面収差
を始めとする、諸収差の増大が補正しきれておらず、
かつ近接撮影で、さらに描写力が低下し、結果的に
「甘い描写(解像感が少ない)」となってしまう。
特に、光源や輝度の高い(白っぽい)被写体の周囲
に滲みが発生する(=一般にハロと呼ばれる)現象
が頻発するし、これを作画に活かす事は困難だ。
さらには、被写界深度が浅すぎるため、群生の花
等の、被写体距離が細かく異なる対象においては、
構図内のどこに「注目点」があるのか?が不明な、
表現意図が散漫な写真となってしまう。
ただし、元々人間の目(肉眼)では、見えている
ものに背景や前景のボケが発生している訳では
無いので、本NOKTON42.5を通して見た映像は、
近距離はもとより、中距離被写体に至るまで、
背景・前景のボケが得られ、それは肉眼で見ている
世界とは全く別物であるから、それを「写真」の
意図・表現として込めることが可能となる。
すなわち、写真の本質とは「いかに肉眼とは異なる
架空の世界を演出できるか?」という点に尽きる訳
であり、ビギナー層等が考えるような「高忠実性」
つまり、「見たままに写す」とか「写真とは”真を
写す”と書く、すなわち見たままに撮る事が王道だ」
という概念とは、かけ離れたものとなる。
(注:「写真」ではなく「映像記録」という分野や
概念であれば、見たままに写す事は必要だ)
で、何故後者の概念が「写真」という世界と混同
されてしまっているか?については、写真機が
発展してきた歴史において、その多くが映像記録の
為の機材として使われてきた事がある。
さらには、1960年代前後の銀塩時代であれば、
高忠実性の写真(映像)を撮れる事自体が、一種の
技能であった為、それが正しい写真の方向性だ、と
多くの人達が思い込んでしまった事となる。
しかし、例えば絵画の歴史を見てもらえればわかる
とは思うが、現物に忠実な絵画を描く方向性は
19世紀末頃の「印象派」のあたりから崩れ始め、
その後は、ありとあらゆる「表現の為の様式」が
林立する時代となった。まあつまり、絵画すなわち
アートの世界では、「伝えるための表現を持つ」
事が最重要になった訳であり、そこに「現物と同じ」
でなければならない理由は何も無い。
(参考:「スーパーリアリズム」という、写真を
ベースに超写実的に描く絵画ジャンルは存在する)
F0.95レンズも同様であろう。これを使った時点で
もう既に肉眼とは異なる世界が見えている訳だから
これを高忠実性(Hi-Fi、見たまま)で写そうと
する事は、少々的外れになってしまう。
このF0.95レンズで無いと得られない世界観を
写真というものに込めて創造する事が、最重要の
テーマとなる。
しかし、この概念はビギナー層には理解しずらい
であろう、加えて、本NOKTON42.5は、様々な点で
使いこなしが大変難しいレンズでもある。
(本シリーズ第12回記事「使いこなしが難しい
レンズ特集」で、本レンズはワースト2位の成績)
ビギナー層向けとは全く言えないレンズではあるが、
逆に、いつまでもビギナーのままで留まりたくは
無い、と思っているならば、本レンズのような
「写真の世界観そのものを一変させてしまう」
レンズを使って、価値観を変えつつ、写真にもっと
興味を持つ事も、悪くは無いと思う。
それこそが、(理由や目的は異なれど)、本レンズ
のようなものをコシナが企画・発売した方向性にも
合致しているように思える訳だ。
----
では、3本目のF0.95レンズ。
レンズは、中一光学 SPEEDMASTER 35mm/f0.95 Ⅱ
(新品購入価格 63,000円)(以下、SM35/0.95)
カメラは、SONY α6000 (APS-C機)
2016年に発売された中国製の超大口径MF標準画角レンズ。
APS-C機以下ミラーレスマウント専用である。
Ⅱ型がいきなり登場したのだが、従前のⅠ型(または
MITAKON銘もある)は、中一光学がまだ日本市場に
本格参入する前の時代の商品であり、国内では殆ど
流通していない。
本Ⅱ型になって小型軽量化が実現されている模様だ。
(重量は440g、フィルター径φ55mm)
さて、本レンズは、今回記事でNOKTONシリーズ
では無い、唯一の超大口径である。
本レンズとNOKTONは、設計思想がずいぶんと異なる。
本レンズは、さしたる近接撮影能力がある訳でも
無い(最短撮影距離=35cm、と、焦点距離10倍則
の通りである。ちなみにこれは、レンズの焦点距離
のmmをcmに変えて読み、その値よりも最短撮影距離
が短ければ「近接撮影に強い(優秀な)レンズだ」
という風に判断できる)・・ので、本レンズでは
「超大口径による多大なボケ量(被写界深度の浅さ)」
を得ようとするのではなく、
「超大口径による、シャッター速度の高速化により
暗所での撮影の利便性を高める、ハイスピードレンズ」
という用法の方が適しているように思える。
「ハイスピードレンズ(High Speed Lens)」とは、
英語的な表現であり、「速いシャッター速度の得られる
レンズ」という意味だ、これを日本語に訳すと
「大口径レンズ」となる。
余談だが、1990年代、MINOLTAのAF望遠レンズに
HI-SPEED AF (APO TELE) 200mm/F2.8という
レンズが存在した。(最強200mm選手権決勝戦記事
等を参照)この型番名称での「HI-SPEED」とは、
望遠レンズとしては大口径である「F2.8」を強調
する名称であり、AFは、単にMINOLTA αの、ほぼ
全てのレンズ(STF等を除く)に付く型番名称だ。
(例:CANONのEF等と同じ)
だが、このレンズ、鏡筒上に「HI-SPEED AF」と
続けて読める、絶妙の意匠(デザイン)上での工夫が
仕掛けてあった、これを見た、初級中級層はもとより、
少しはレンズの事がわかっている初級マニア層に至る
まで「このレンズには、ハイスピードAFと書いてある、
きっと、AFが物凄く速く、バシバシとピントが合う
に違いない!」(現代のビギナー層が言う「爆速AF」と
同じ。勿論、そういう俗語は本ブログでは非推奨だ)
・・だと勘違いしてしまっていた。
ホンモノのMINOLTA AF200/2.8のAFは、さほど
速くは動作しない(汗) まあ、多くの消費者層が
完全に騙されてしまったので、そう誤解させるような
「確信犯的」なデザインであったのだろう。
余談はともかく、本SM35/0.95は、ハイスピード
レンズである、レンズ名称の「SPEEDMASTER」も
当然そういう意味(シャッター速度が速い、大口径)
という訳だ。
NOKTONシリーズとは異なり、本レンズの場合は
夜景、ライトアップ撮影、暗所(夜間)イベント
撮影等に役立つレンズである。
NOKTON25/0.95、およびNOKTON42.5/0.95よりも
本SM35/0.95の方が、絞り開放近くでの解像感が
高い(≒球面収差等の発生が少ない)印象だ。
よって、中遠距離での暗所(夜間)撮影に最適な
レンズであると思う。
そういう用途では、カメラ側に手ブレ補正機能が
あると、さらに暗所での手ブレ限界シャッター速度
を低める事で有益だと思う。
ちなみに、ビギナー層等で、カメラやレンズの
手ブレ補正機能に頼っているだけではNGであり、
基本的には「自身の手ブレ限界シャッター速度は
レンズ焦点距離に対していかほどか?」を知り
「手ブレ限界速度を下回らないようにするには、
カメラの設定をどうすればよいのか?」また、
「手ブレ限界速度を技能的に低めるには、どう
したら良いのか?」を、考察したり練習したり
しなければならない。それらが高度に会得できて
いるならば、ほとんどの撮影環境においても、
手ブレ補正機能は、さしたる重要な要素では無い。
(まあつまり、なんとでも撮りようはある訳であり、
その「なんとでも」の内容が、ビギナー層等では、
わからない/勉強や練習をしない、から、機材側の
手ブレ補正機能に頼らざるを得ない訳だ・・・)
----
では、今回ラストのF0.95レンズ。
レンズは、Voigtlander NOKTON 60mm/f0.95
(新品購入価格 113,000円)(以下、NOKTON60)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1 MarkⅡ (μ4/3機)
2020年発売のμ4/3機専用超大口径MF望遠画角レンズ。
このレンズを入手して驚いたのは、本記事で紹介
している前世代のNOKTON(25mm、42.5mm)と
比較して「全く別のレンズとも言える高描写力」
であった事だ。
本レンズを購入したのは、大阪の老舗専門店、
かなりのマニア向け店舗であった、しかしながら
その老舗専門店の店員ですら、本レンズの在庫が
あったかどうか?を把握しておらず・・
店「ノクトン60って、SONY FEマウントでしたっけ?」
匠「いえ、μ4/3マウントですよ」
というやりとりの後、ちょっと店内を探してから
見つけてくれた次第だ。
そして、購入した後には、店員(店長?)より、
店「何に使われるのですか?」という質問。
”いやいや・・ お宅、マニア専門の老舗でしょう?
普段から毎日、もっとゲテモノ(失礼!)のような
レンズやカメラを売買しているのに・・・(苦笑)”
・・のようにも思ったのだが、まあ、そんな事は
勿論口には出さない。
そして、あまりしょっちゅう行く店では無いので
店員や店長等にも顔を覚えられていない模様だ。
常連の店ならば、私に対して「何を撮るのですか?」
と聞いても無意味で、「まあ、いろいろ」としか
答えない事は、知っているだろう。
ビギナー層等は、「被写体のジャンルを固定して
しまう」という悪い癖を持っているが、本来、被写体
というものは「風景」とか「スナップ」とかの区分
で分類できるものでは無い。
そういう分類では、あくまで「被写体の方が偉い
(=主となる)」区分でしか無い訳であり、実際の写真
は、そうではなく「撮影者の意思表現があり、写真を撮る」
訳だから、被写体とは、単に「モノ」として分類できる
要素(例:人物、動物、鉄道、草花等)では決して
無い訳だ。(むしろ、「表現の対象」であろう)
まあ良い、当たり障りの無い返事をしておこう。
匠「こちらの店で、別のNOKTONも買いましたので。
まあ、新製品が出たので、ついでですよ」
店「はあ、なるほど。いつもありがとうございます」
匠「これ、F0.95と明るいのですけど、収差が大きくて
解像感が無い、ボケボケの写りになるのです」
店「はあ、そうなのですか・・?」
匠「まあでも、写りが悪くても、この独特の背景ボケ
が好みでして、まあ、そんな風に使うんです。
手に入って良かったです。有難う、ではこれで」
店「こちらこそ、毎度ありがとうございます・・」
というやりとりがあった。
しかし、本レンズを実際に使ってみる段となり、
前述のようになった訳だ。
匠「なんじゃこりゃ~!? これまでのNOKTONとは
まったくの別モノのようにシャープではないか!?
これ、MACRO APO-LANTHER? いやいや間違って
買った訳じゃあないよ、やっぱりNOKTONだよね。
あっ! しまった、老舗専門店の店長さん(?)に
”これはボケボケの写りです”と、余計な情報を
入れてしまった、これでは嘘つきではないか(汗)
・・まあいい。というか、これは嬉しい誤算だ」
機嫌良く、数千枚程撮影した後に、個人レンズ評価
DB(データベース)の「描写表現力」の欄に、
「5点(満点)」と記載した。
実は、NOKTON42.5mm/F0.95も、描写表現力評価
は5点満点であった、でも、その事については、
私の評価DBでは、「描写&表現力」の複合項目と
なっている。すなわち描写力だけが高いレンズで
あっても高評価は得られず、表現力、つまり写真として、
いかに創造的な表現力を高めたる事ができるか?という
要素が重要な訳だ。 NOKTON42.5/0.95の場合は、
あらゆる中近距離被写体において、肉眼ではあり得ない
背景・前景ボケを自在に付与できるから、表現力の
点数が物凄く高くなった。
だけど、NOKTON42.5/0.95の実際の描写力は、さほど
高いものではなく、良くて3点(標準)位でしか無い。
ところが、本NOKTON60/0.95の場合は、
描写力が4.5点クラスで、表現力が5点、
結果的に描写表現力は5点満点という次第なのだ。
匠「これが7年(注:NOKTON42.5が発売されて
から本NOKTON60が発売されるまでの期間)の
技術の進化なのか!?」
と驚いた。
後日調べてみると、まあNOKTON25と42.5は、
通常レンズだけの構成であり、本NOKTON60は、
異常低(部分)分散ガラスレンズを2枚使っている
事がわかった。
ただ、「そういう新素材を使っているから高画質
なのだ」という理屈は通らない。
ここでは「高画質を得る為のソリューション(解法)
として、必然的に新硝材を用いる事となった」が、
正しい技術的な解釈である。
「技術」とは、目的を達成する為の手段の1つに
すぎない。この重要なポイントは、技術者であれば
皆、理解しているが、世間一般の「非技術者層」は、
そこを勘違いしてしまい「新しい技術が入っている
から、凄いのだ!」と思い込んでしまう。
勿論、これは大誤解である。
高画質を得る為には、どんな手段を使っても良いのだ。
そして、ここで言う「高画質」とはいったい何か?
単に、開放でもシャープな描写力が得られる事か?
いや、それは違うであろう。開放でもっとシャープ
に写る、解像力の高いレンズは、コシナでも他社でも
近代のものならば、いくらでも存在し、高級レンズ
であれば、むしろ、それが普通である。
だから、設計側は、レンズのどこに特徴を持たせて
それをコンセプトとするか? そこを悩む訳だ。
別に、本レンズの登場により、NOKTON25や42.5が
「古い設計で、ボケボケの写りだから、もう使えない
(使いたくない)」と言っている訳では無いのだ。
NOKTON42.5に存在する、ふわっとした幽玄の世界観
は、きっと本NOKTON60では得られないであろう、
なんだか、解像感が高い事が、逆に、リアル感を
増してしまって、創造的(つまり、虚構の世界)
な要素を得る事が難しくなってしまったようにも
思えてしまう。
ただまあ、それはそれで歓迎するべきポイントだ。
本レンズが、単に42.5mmが60mmになっただけの
NOKTONであれば、2本も似たようなレンズを所有
する必然性は限りなく低くなる。「42.5mmレンズに
デジタルズームを掛けるかトリミング編集をすれば
60mmと同じになる」であれば面白く無い訳だ。
だから、複数のレンズを所有するのであれば、
それらの効能(特徴)は、できるだけ、かけ離れて
いる方が望ましい。その特徴を持って、撮影者は
「さて、今日はどんな写真を撮ろうかな?
そうだ、NOKTON42.5mmを持って行き、ふわっと
した世界を表現しよう」
・・と、選択できる訳だ。
これは別に「外出前にレンズを選びなさい」という
意味ではなく、仮にNOKTON 42.5とNOKTON60の
両者を持って行って撮影しているのであれば・・
とある被写体に対峙した際に、「う~ん、この
被写体を撮るには、42.5mmでふわっと撮るべきか?
はたまた60mmで、きりっと撮るべきか?」と悩み、
そのいずれかの表現意図を得る事が、その場で
選択できる訳だ。
なんなら、レンズを交換して両方で撮ってしまっても
良いではないか、帰宅してから、どちらの表現が
適切なのか?を、パソコンの前で悩めば良い。そして
それは苦しい悩みではなく、必ず「楽しい悩み」と
なる筈だからだ。
レンズの「表現力」とは、そういう意味だ。
いつの時代でも、ビギナー層では「綺麗に写るレンズが
良いレンズ」だと信じて疑わないのだが、いつの時代
であっても、それは大きな誤解であろう。
写真とは何か? それは単なる「高精細な映像記録」
では決して無い、そこをまず理解する事で、ビギナー
層から脱却するステップアップとなる。
逆に言えば「良く写らないレンズは、ダメレンズ」
などという趣旨が書いてある評価(レビュー)情報を
見かけた際には、「それはビギナーが書いたもの」
である事は間違い無い。そう思い込んでいる時点で、
それはビギナーな訳だ。経験値等が不足している状況
であるから、そうした評価等は、あまり信憑性のある
情報だとは思わない方が良いであろう。
なお、最後に注意点であるが、これらのF0.95
レンズを日中明所で使用する際は、必ずND(減光)
フィルターを装着する事が必須である。
さもないと、絞りを開けると、カメラ側の機械式
での最高シャッター速度をオーバーしてしまう。
(注:高速電子(撮像素子)シャッターを使うと
又、別の課題(ローリングシャッター歪み等)が
発生してしまう)
NDフィルターの段数は、ND2~8程度、これは
天候(光量)と、使用カメラ側の最高シャッター
速度で決定される。どの段数が必要になるか?は
いちいち、その求め方は記載しない。
こうしたF0.95レンズを購入した際に、ユーザー
自身で計算および実施検証するのが良いであろう。
----
では、今回の補足編「F0.95超大口径レンズ編」記事は、
このあたり迄で。次回記事に続く。]]>
連載中:レンズ・マニアックス
p_chansblog
Wed, 27 Apr 2022 19:58:58 +0900
2022-04-27T19:58:58+09:00
-
コンパクト・デジタル・クラッシックス(5)SIGMA dp0 Quattro
http://pchansblog.exblog.jp/32565506/
http://pchansblog.exblog.jp/32565506/
<![CDATA[そのカメラには、「0」(ゼロ)という開発コードが
与えられたと聞く。
昔から何かとマニア層等の間で話題の、ダイレクト・
イメージセンサー「Foveon X3」(以下、適宜Foveon
と略す)搭載機の「SIGMA dp0 Quattro」(2015年)
を入手したので、その機体の紹介記事である。
「Foveon(フォビオン)X3」の話は追々述べるとして、
「SIGMA DP(後にdp)」シリーズ高級コンパクト機は
Foveonそのものを打ち出すよりも、Foveonの特性に
合わせた固定(単焦点)レンズが搭載されている事が
特徴となっている。
旧来から、DP1(広角)、DP2(標準)シリーズが
販売されていた。DP1の販売開始は、2008年で
あるが、その2年程前から、いくつかの展示会等で
発表され、話題となっていた。
DP1の発売時点では、ミラーレス(μ4/3)機は
登場前であり、又、RICOH GXR(2009年~)も
SONY NEX(2010年~)も発売前であったので、
当時としてはAPS-C型サイズのセンサー搭載の
小型(コンパクト)機は史上初であっただろう。
(訂正:旧来、APS-C型センサー搭載小型機の初は
「GXR A型ユニット」と本ブログで書いた事もあった
が、SIGMA DP1の方が少し早かった模様だ・汗)
しかし、約10万円という高価なコンパクト機で
あった為に、マニア層以外の一般層にまで普及
したカメラでは無い。又、マニア層であっても
本格的にFoveonを使いたい場合には、SDシリーズ
デジタル一眼レフの方を選択したかも知れない。
(参考:SD9、SD10、SD14が既に存在していた)
DP1/DP2は複数の派生機で小改良を繰り返した。
その後、それらの搭載レンズは、2012年頃に
SIGMA 19mm/F2.8 EX DN、30mm/F2.8 EX DN
として単体発売されていた。この単体レンズは
小型軽量、かつ安価で良く写るレンズとして、
個人的には重宝していた(注:厳密にはEX19/2.8
は、DP1 Merrill以降の搭載レンズでの仕様だ)
同時期2012年、DP~Merrillシリーズが発売。
(注:EX DNレンズは、DP~Merrill機購入への
誘導目的の「お試し版」だったかもしれない)
ちなみに、Merrill(メリル)とは、Foveon X3の
開発者の名前(名字)に、ちなんでいる。
後に追加されたシリーズ姉妹機のDP3 Merrillでは、
中望遠・準マクロ仕様となった。が、これの搭載
レンズ(50mm/F2.8)は単体発売されていない。
(注:類似仕様として高描写力のSIGMA 60mm/F2.8
DN | Artが存在する。ただしマクロ仕様では無い)
さらに2014年、Foveon X3センサーが、4対1対1
という、特異な画素数構造を持つ、第四世代の
「Quattro」(クアトロ)となると・・
(参考:Quattroとは、ラテン系言語を語源とする
「4」という数字の意味だ。
「機動戦士Zガンダム」では、シャア・アズナブルが
「4番目の名前(偽名)」として「クアトロ・バジーナ」
と名乗っている。(キャスパル→エドワウ→シャア→)
また、日本各地の都市圏にある(音楽)ライブハウスの
「CLUB QUATTRO」も、開店当初に入居していたビルが
第四ビルという意味で「QUATTRO」だった事が由来だ)
(余談:英語または他の言語で「Q」の文字に続く
アルファベットは(省略語を除き)必ず「U」となる。
これは以前、私が英国で子供向けの知的玩具(ゲーム)
で、アルファベットを並べてお互いに単語を作っていく
ゲームをやっていた時に対戦相手の英国人から教わった。
恐らくは長い期間、親から子へと、こうした「英語の
なわらし/ルール」が、伝わっていくのであろう・・)
・・そのQuattroセンサー(第四世代という意味の他、
トップ層の画素数が4倍という意味も含むのだろうか?)
から、これ迄と同様の焦点距離のdp1、dp2、dp3
(注:型番が小文字化している)のQuattro機に加え、
超広角レンズ搭載のdp~Quattro機の企画が始まる。
Foveon QuattroはAPS-C(又はAPS-H)型であるが、
実焦点距離14mm、換算画角21mmという、超広角
レンズの搭載機をSIGMAは検討する。
だが、21mmという画角を持つ単焦点コンパクト機
は、近年では存在せず、著名なのは「RICOH GR21」
(2001年。銀塩コンパクト第7回記事参照)
の銀塩機のみであった。
(訂正:従来「2000年発売」と記載していたが・・
2001年発売の可能性が高く、以降は2001年に改める)
それは、当時の中古カメラブームに乗った企画商品で
高額でマニアックな機種の為、販売数は極めて少なく、
後年には「投機対象」となってしまっている。
(参考:下写真がGR21、これは本機dp0よりも
ずっと高価に新品入手した銀塩カメラであった。
近年、私はフィルムでの撮影は行っていないのだが、
近い内に趣味的に、GR21のような銀塩機でも撮って
みたいと考えている。既にフィルムは絶滅危惧種で
あり、高額な贅沢品となっているが、もう少し先の
時代では、入手困難や超高価格化等で、全く撮影が
出来なくなってしまうだろうからだ・・)
他に21mm以下の固定レンズ機では、銀塩時代の
「Hologon Super Wide」や「KOWA UW190」、
又、もしかしてKODAKからも超広角(19mm)の
単焦点デジカメが存在していたような気もするが・・?
いずれもレア機で、現物を見た事も無く、未所有だ。
(注:「アクションカメラ」等では、超広角単焦点
デジタル機は、多数存在する)
また、ごく最近2022年に「RETO ULTRA WIDE &
SLIM」という、安価な(約4,000円)、トイ銀塩
コンパクト機が22mm/F11の超広角パンフォーカス
(固定焦点)型で発売されているが、厳密には
これは21mm以下機ではない。
まあだから、超広角機の企画も、SIGMA社内では
賛否両論があって揉めたと聞く。
”カメラの歴史”を知っていれば、いるほどに
超広角単焦点機が商業的に成功した事例は皆無で
ある事がわかり、「売れる筈が無い」となるだろう。
だが、同社社長より「売れなくても良い、挑戦を
するべきだ」という旨の英断があった模様で、
開発陣は「どうせならば歴史に残るレンズを作ろう」
となり、これで「0」(ゼロ)の開発がスタート。
この「0」の由来は、それまでのdp(DP)シリーズ
の最広角機(1番機の下)であるとともに、
「歪曲収差ゼロ」を目指す設計コンセプトもあった
ようだ。
「歪曲収差」(わいきょくしゅうさ、ディストーション
とも)とは、特に広角系レンズにおいて、直線等が
曲がって(歪んで)写る現象(=レンズの欠点)だ。
画像が、(主に広角で)膨らんで写る「樽型」と、
逆に萎んで写る「糸巻き型」が存在する。
歪曲収差は、基本的には、画角の3乗に比例して
大きくなる。つまり、絞りを絞っても防げない。
ズームレンズならば、焦点距離を変えて低減できる
可能性もあるが、「広角」で発生しやすい「樽型」を
減らそうとする為に、設計上、過剰補正となっていて、
望遠側では逆に「糸巻き型」が発生する事もある。
まあ、ズームでは、色々と焦点距離を変えて試せるが、
単焦点では、それは不可能なので、レンズの素性
(性能)を良くするしか無い訳だ。
なお、歪曲収差は、広角における「パースペクティブ
(遠近感)歪み」とは異なる要素であり、世間一般
では、このあたりを混同している事が極めて多い。
(参考:広角レンズでの構図上での遠近感の発生で、
例えば、ビル等が傾いて写る事は、やむを得ず、
これは歪曲収差が原因ではない。
---
銀塩時代での、ある低歪曲レンズの雑誌レビュー記事で、
たまたま、木立が真っ直ぐ写る撮影アングルで撮り
「このレンズは歪曲収差が少ない」と評したものを
見た事があったが、それは構図上での結果にすぎず、
歪曲収差の多寡とは無関係だ。専門評論家レベルでも
こんな調子なので、世間一般層では混同が甚だしい。
---
また、魚眼レンズが歪んで写る描写も「歪曲収差」では
無い。魚眼では、そういう風に写る事を意図しての原理
設計であり、「収差」とは「望まない欠点」の事だ)
「歪曲収差」の値の算出には、いくつかの計算手法が
あるが、簡単な計算の方の「TV歪曲」という公式では、
「横位置撮影で短辺の縦のピクセル数における最大の
ズレ幅(数)を短辺長の2倍で割り、100分比(%)で
表した値」となる。
具体的には、Quattro APS-C型センサーでは
通常モード最大画素数時、縦約3600pixなので
TV歪曲=Δh/(2x3600)x100 が
歪曲収差の値(%単位)だ。(→Δhがズレ量)
SIGMAでは最終的に、これを0.5%以下迄に補正した
との事であるから、直線に対する最大のズレ量の
Δhのピクセル数は、最大36pixelとなる。
「え? 36ピクセルも歪むのか?」と思うかも
知れないが、あくまで撮影条件で変動する最大の
値なので、実用上では全く気にならないレベルだし、
記録画素数からの比は1/100以下でしかない。dp0の
92万ドットで3型の背面液晶モニターを見た状態では、
最大歪曲時でも4.8pixel、つまり高さで約0.37mmの
歪みしかなく、人間が見分けられる差異では無いので、
「モニターを見ただけで歪曲収差が少ないと思った」
等の、このレンズが低歪曲である事を先に知った上での
”思い込み評価”のレビュー等は、信用には値しない。
なお、近年では他に「低歪曲(収差)」を謳った
レンズとしては、中国LAOWA社製の「Zero-D」
シリーズがあるが、高額なので未所有だ。
また、工業(検査)用の、マシンビジョンレンズ
でも低歪曲を主眼としたものが多く、これらは
いくつかを所有している。
銀塩時代のレンズでは、Carl Zeiss(京セラ)の
Distagon系広角レンズが、歪曲収差が比較的少ない
レンズもあったと思う。他にも色々とあったとは
思うが、「歪曲収差」自体が昔の時代では消費者層に
アピールしにくい概念であるので、それの優秀さを
大々的に謳ったレンズ製品は少なかったと思う。
ユーザー層が、それを気にし始めるのは1990年代
頃からのズームレンズ全盛期であり、それ以降では
四角い被写体を写して、ちょっとでも歪んでいると、
「これは収差が発生している。ダメなレンズだ!」
等と言う中級層や初級マニア層が増えてきた。
なお、「収差」というのは、歪曲収差だけでは無い
事は勿論だし、それが出ている事は、メーカー側や
レンズ設計者も、当然、承知している。それでも
歪曲収差を補正しなかったのは、他の理由(例えば
コスト、解像感、ボケ質、カタログスペック等の優先)
が、あったからであろう。レンズのたった1つの
側面だけを見て「(歪曲)収差が出るからダメな
レンズ」という評価は、かなり的外れだと思う。
まあつまり、本機dp0 Quattroは、レンズの性能
を優先して開発された機体であり、他のDP/dp
シリーズとは、ちょっと企画コンセプトが異なる。
すなわち、これまでのDP/dp1~3は、どちらか
と言えば「Foveon X3を搭載している事」自体が
主眼となっていて、DPシリーズの搭載レンズが
比較的高性能(高描写力)であった事は、市場や
マニア層の間では見落とされていたかも知れない。
また、前述のように、2012年にDP1/DP2の搭載
レンズが単体発売された事も功罪あったかも知れず、
高性能である事のアピールを狙った意図であろうが、
それらが実売1万円前後と、非常に安価に販売
された事が、マニア消費者層には「なんだ、安物の
レンズだったのか?」という悪印象を与えたのかも
知れない訳だ。(当該単体レンズは不人気だった。
下写真は、SIGMA 30mm/F2.8 EX DN)
もしかすると、その事例(=DP機の搭載レンズが
安物扱いされた事)も、また「DP/dpシリーズの
レンズは本当は高性能なのだ!」と、SIGMAが主張
をしたい為に、本機dp0 Quattroの超高性能レンズ
の開発動機となったのかもしれない訳だ。
これは歪曲収差のみならず、他の諸収差も十分に
補正を施したと思われるし、加えて超広角ながら
周辺減光も殆ど発生しない、すなわち全般的に
高性能なレンズである。
まず、レンズ構成は8群11枚である。
FLDx4枚(蛍石類似特性低分散ガラス)
SLDx2枚(特殊低分散ガラス)
という新硝材を多用している他、
前玉には、ガラスモールド厚肉両面非球面レンズ、
後玉にも、片面非球面が採用され、全レンズ構成の
大半が特殊レンズ、という非常に贅沢な設計だ。
コンパクト機への搭載レンズとしては異例だと思う。
同社製レンズだと、Art Lineの大口径広角単焦点
の構成にも近いが、それらはフルサイズ対応の
巨大で重くて高価な(三重苦)レンズ群である。
それらと同等の高描写力が、小型軽量機で得られ、
かつ本機の発売時実勢価格は約11万円であったので、
Art Lineレンズの単体定価よりも、むしろ安価だ。
同等のサイズ感だと、COSINA社フォクトレンダーの
「SUPER WIDE-HELIAR 15mm/F4.5 Aspherical Ⅲ」
(Eマウント/VMマウント)の構成にかなり近いが
(→9群11枚。非球面x1、異常部分分散x3)
生憎、その(三代目の)レンズは所有しておらず、
初期型の15mm/F4.5(後玉非球面1枚のみ)しか
持っていないので、比較に関しては避けておこう。
今回は比較の為、換算画角(21mm相当)だけ揃えて、
Voigtlander(変母音省略)SC SKOPAR 21mm/F4
(2002年。6群8枚、特殊硝材の採用なし)を
フルサイズ機SONY α7Sに装着して使ってみよう。
2000年代では、「フォクトレンダーのレンズは
優秀だ」という認識が個人的にはあったのだが、
その後の10数年間でのレンズ開発の技術革新は、
物凄いものがあり、旧世代レンズでは、もはや
dp0のレンズ性能には太刀打ちできない事を、
思い知らされる結果となった。(下写真はSC21/4)
ただ、do0の優秀なレンズにも若干の弱点がある。
まずは「逆光耐性が低い」事が大きな課題だ。
これについては後述しよう。
次いで、最短撮影距離が18cmというところ。
これは決して悪い性能では無いが、例えば同社の
2000年代初頭の「SIGMA広角3兄弟」は、いずれも
焦点距離の10倍則を超えて寄れるスペックだった
ので、本dp0のレンズは14mmなので、14cm程度の
最短撮影距離を期待してしまう。
よって「広角マクロ」的用法は、少しだけ物足りない。
問題の逆光耐性については、多群構成のレンズ間で
「内面反射」(内部のレンズの表面で反射した光が
さらに別のレンズ面で反射して、再入射してしまう)
が、頻繁に発生している模様だ。
曇天や雨天等の低輝度下であっても、斜光が入射
すると、ハイライト部がフレアっぽくなってしまうし、
(これはセンサーとの関係性もあるかも知れないが
感覚的には、レンズ側の問題であるように感じた。
フレアの実例については、下写真参照)
晴天等では、アングルと太陽光との関連によっては
ゴーストが多発する。
(注:フレア=形がはっきりしていない光。
ゴースト=形がある光)
逆光耐性の低さは、本レンズが超広角故に、構図上
での回避自由度が少ない(→どうやっても逆光となる)
事も課題となり、絞り値等のカメラ設定では防げない
ケースも大半であり、結構面倒な問題点だ。
本ブログでは、技法で回避が出来ない機材の問題点を
「重欠点」と呼んでいるが、これはスレスレの状況
であり、常に逆光に留意して撮影せざるを得ない。
さらには、鏡筒(鏡胴)が大きすぎる点が課題だ。
本機は幅16cmの薄型で、異様なデザインである事は、
まあ良いのであるが、他のdp機はともかく、dp0の
場合ではレンズが大きく、12cmもの奥行きがある。
この為、dp0は縦横のサイズが大きく、一眼レフ並み
の収納容積を必要とする。さほど重量級ではない
(本体500g)カメラだが、場所を取る訳だ。
まあでも、このレンズの大きさは、鏡筒内での
レンズ設計の自由度を高める利点があったとの事。
開発時には、チーム内で、開放F3.5とするか、
開放F4とするかで長期間の論争があった模様だ。
まあ、どちらの言い分もわかる。
銀塩GR21では21mm/F3.5のスペックであったし、
現代のビギナー消費者層は開放F値の数値ばかりを
気にするから(→その数値だけしか性能を見分ける
術を持たないから)、それは少しでも明るい方が、
カタログスペック上からは望ましい。
だが、本機dp0 Quattroは、決してビギナー層が
買うカメラでは無い。であれば、良くわかっている
ハイアマチュア層やマニア層に向けて売る際には
「開放F4に留めた分、徹底的に高性能とした!」
という言い分(コンセプト)の方が通り易いの
ではなかろうか?
結局、開放F4で決着した模様だ。
でも、やはり非常に特異なコンセプトのカメラだ。
本機を購入した中古専門店での(顔なじみの)
ベテラン店員氏は、「このカメラは・・ ごく
一部の熱烈なマニア以外には、まず売れません」
と語っていた。
で、実態は「まず売れない」どころか、やはり
SIGMAが懸念していた通り、全く売れてなかった
かも知れず、本機に関するネット上のレビュー記事
等も、販売(流通側)に属する「宣伝レビュー記事」
(→借りて来たカメラについて、良い所を評価する)
の他は、ユーザー(オーナー)のレビュー記事など、
ほとんど見つける事ができない。
まあ、もとより私は他人の評価などを参考にして
機材を購入する訳では無いのだが、それにしても
情報が少なすぎる状態なので、これはもう
「誰も買っていない」と解釈する方が自然だ。
まあ、売れなくても別に私には関係は無いのだが、
1つ困る事は、希少機材は、後年に投機対象に
なりやすい、という点である。
実は、本機を購入する前に、SIGMA SD1 Merrill
(一眼レフ)あたりを物色していたのだが、
2021年春頃から急激に中古相場が高騰した。
この原因は「Foveon機を、もうSIGMAは作らない?」
(→フルサイズFoveonの開発白紙宣言(2021年)
SIGMA fp(2019年)がベイヤー型センサーだった事、
SIGMA SAマウントの開発終了宣言(2018年)等)
を起因とした、「Foveon X3絶滅の危惧」からの
投機的措置(買占めと転売)であったと思われる。
上記の情報など、ごく普通に公開されている事だ。
その程度の情報で、投機に走ってしまうのだろうか?
そんな投機に振り回される事は個人的には好まない。
「であれば、今のうちに現行Foveon機を入手して
おくべきか」と考えたのが本機の直接の購入動機だ。
まあ、Foveon機は2002年頃から販売されているし
その原理からの、ベイヤー配列型センサーに対する
アドバンテージも知ってはいたが・・
なにせ、機体の性能が低いものばかりだったので
どうも食指が動くようなカメラが存在しなかった訳だ。
それに勿論、SAマウントレンズを新たに揃えるのにも
お金がかかる。SIGMA製レンズは嫌いでは無く、他の
マウントで色々と所有しているので、それと重複購入
になりそうな点や、あるいはSAマウントレンズの
新規開発が終了している事(2018年に宣言あり)
といった理由も、SAマウントのFoveon機の購入を
阻害する要因となっていた。
(注:SAマウントは、形状は、ほぼPENTAX Kであり、
電子通信プロトコルや電子接点は、ほぼCANON EFだ。
そこは良いのだが、他マウントとの互換性が低く、
マウントアダプターも、SA機側に付けれる物は
M42マウント位しか存在しない。
ちなみに、PENTAX KとSIGMA SAは、フランジ
バック長が少し異なるので、Kマウントレンズの
改造等を行ったとしても、SA機では最短撮影距離
が長くなったり、オーバーインフになる等で、
実用性は少し低下してしまう。
---
ミラーレス機のsd Quattro系機体で、SAマウント部が
取り外せる仕様であれば、アダプターも色々と作れた
だろうが、生憎の固定式だ。まあ、SIGMAは基本的に
レンズメーカーなので、他社製レンズ等を使い易く
する仕様には、まず、しない事であろう・・
---
又、技術的にはFoveon X3は三層構造なので、その深い
「井戸の底」に光を届かせる為には、できるだけ垂直に
レンズからの光を投射させる必要がある。すなわち
フルサイズ化や、ミラーレス機でのショート(短縮)
フランジバック化には不利な構造だと思われる)
さて、一般的なベイヤー配列型撮像センサーに対する
Foveon X3の原理的な優位点というのは・・
3層構造での各層で直接的に、B(青)、G(緑)、
R(赤)の光を受けて画像化する為、カラーフィルター
やローパスフィルターが不要であり、デモザイク処理
における「演繹補間」等の演算が不要である事だ。
すなわち、「解像感が高い描写」が得られる。
まあ簡単に言えば「ベイヤー配列型センサー機では、
フル画素の1/4の画素数でしか、最大の解像力が
得られない」という弱点を解消する構造だ。
(注:一般的なデジカメの画素数が「仕様上の1/4しか
無い」というのは、カメラ界にとって不利な情報なので、
一般層に、それが大々的に伝えられる事は、まず無い。
でも、色々と勉強して、それが理解できたユーザー層等
では「なんだ、今までずっと騙されていたのか!」と
憤慨し、この問題が起きないFoveon X3機や、あるいは
PENTAX(RICOH)の「リアルレゾリューション」等の
技術に興味を持ち始めるようになるのだろうと思われる)
また、3層構造センサーは発色傾向が独特であり、
これの「色味」にハマるマニア層も多い。
弱点は、まずカメラ側の不出来だ。
Foveonでは、原理的に総画素数が大きくなるし、
非公開情報だが、恐らくはFoveon専用の画像処理
エンジンは存在せず、汎用的なベイヤー配列型の
データを受け付ける画像処理エンジンを転用している
と想像され、「Foveon情報を、ベイヤー型の情報に
変換しないとならない」と思われる。
画素数の多さとプリプロセッシング(前処理)の多さ
あるいは、処理の流れ(シーケンス)の悪さ等から、
処理が重く(遅く)、連写性能や書き込み処理時間
等が犠牲になる。
また、カメラ全体の機能不足と、操作系も悪い。
加えて、初期のFoveon機ではJPEGへのエンコード
(変換)処理が弱く、RAW現像が必須となっていた。
私の場合、大量撮影をするケースが多いので、
一々のRAW現像は、編集コスト(手間)が大きすぎる。
おまけに、RAW現像ソフト「SIGMA Photo Pro」は、
最新のPC動作環境を要求され、旧型PCで使ったり、
又は大量(数百枚)の編集をするには、動作が遅くて
やっていられない。(1枚あたり数十MBで、トータル
で数GBのデータ量を扱うから、重いのも当然であろう)
まあ、その点、本機dp0 Quattroでは、カメラ内
RAW現像モードを備えていて、それは1枚処理だから
そこそこ動作が速い事は利点だし、さらには、本機
では小画素(500万画素)モードでも、RAW+JPEG
撮影が可能で、かつ連写性能の低下はほとんど無く、
それを使えば良いのだが・・ そうしたとしても
RAW混じりのデータは、画像記録時間、カード保存
容量の制限や、PC転送時間、HDD記録容量等の全般に
負担が大きい。
他のユーザーはいざしらず、私の場合では本機でも
1日に1000枚位撮るケースもあるので、一々の
RAW保存、RAW現像は、やってられない訳だ。
(フル画素のRAWで1000枚撮ったら、55GB以上の
容量となる・汗)
まあ、RAWから処理した方が、センサーのDレンジを
有効活用でき、編集自由度が向上したり、露出失敗
写真の救済には使える事はわかっている。
特に本機のような超広角機においては、天候や構図に
よっては主要被写体がアンダー露出になりやすいので、
RAW現像が有効な事も、試した結果でわかってはいる。
でも・・ やはり鈍重なシステムは、個人的には
好まないので、JPEGでサクサク撮る方を選ぼう。
低機能カメラだが、幸いにして露出補正ダイヤルを
備えているので、被写体状況に応じて、都度、露出
補正を掛けて撮れば十分だ。どうせRAWで撮っても
最終的にJPEGに出力される際には8bit(48dB)の
ダイナミックレンジしか得られない。HDRやDレンジ
補正処理を行わない限りは、JPEGで表現できる
輝度範囲には限界があるから、RAW使用の主目的は
露出レンジの撮影後での修正・救済措置となる。
したがって、JPEGでも撮影時に十分に注意や設定を
しておけば、ある程度は、課題は解消できる訳だ。
それに、Foveon系機体でJPEGエンコードの処理に
課題があったのは、旧来の機種での話であり、
「dp0 Quattro」では、JPEGへの変換処理が改善
されていて、JPEG出力だけでも実用範囲だ。
「(ベイヤー配列型センサーで)何が何でも、RAWで、
フル画像で撮れば、最高画質が得られる」といった
世間一般での風潮は、画像工学や、基本的なデジタル
の原理がわかっていないようで、好ましくない次第だ。
単に、重すぎるデータを扱っているだけだと思う。
(注:高度な画像処理技術を用いれば、RAWデータ
での下位ビットを、超解像処理や、収差の後補正の
画像処理に流用できる可能性がある。ただ、それらは
現代のカメラ内の技術の範疇では、まだ無理だ)
他のFoveon X3の課題としては、心理的な要因がある。
具体的には、Foveonは三層センサー構造であるから
総画素数に対して記録画素数は約1/3程度となる。
(注:Quattro機以外の1対1対1の三層構造の場合)
まあ、当たり前の原理ではあるが、消費者層側は
「画素数が大きいカメラの方が良く写るに決まっている」
という単純な思い込みをする為、SIGMAでも記録画素数
では無く、総画素数表記で、スペックを「盛る」傾向が
あった。でも、これもまた、そんな事をしなくても
わかっている人はわかるので、関係が無い話だが、
なんだかビギナー層に媚びる様相は好ましくないし、
逆に、ちょっとわかっているユーザー層からは
「SIGMAは画素数を盛って発表している」といった
変な批判話が出てくるのも、見ていて面白くない。
それと、マニア層の中でもFoveonの熱狂的信者が居る
事も、心理的には「ちょっと引いてしまう」理由に
なり得る。「信者」等は、思い込みが激しい事が常
なので、できるだけ「そっちの道」には関係したく
無い訳だ。
他にも、カメラ界では熱狂的な信者を持つ製品やら
メーカーやらが存在するが、それらも同様に
個人的には好まない。他社機や他製品等と比較した
場合の得失とか、どんな用途に適するか、とかの、
そういう冷静で客観的な会話や評価が成り立たない
ままで、「これは凄いのだ!」とかと一方的に
言われるから、やりにくい訳だ。
まあ、そんな訳で、長年の間、半分は意図的に
Foveon機を敬遠していた事情もあったのだが、でも、
もし、完全にFoveon機が無くなってしまった後では、
評価もできれければ、文句を言う(笑)事もできない。
とりあえず買ってみて、それからの評価分析だ・・
ここで、Foveon機(センサー)の歴史を挙げておこう。
<Foveon X3の歴史>(注:SIGMA製品のみ)
*初代Foveon X3 (2002年~2006年)
記録画素数:約340万画素
搭載機種→
一眼レフ:SD9(2002年)、SD10(2003年)
*二代目Foveon X3(2007年~2010年)
記録画素数:約460万画素
搭載機種→
一眼レフ:SD14(2007年)、SD15(2010年)
コンパクト:DP1、DP1s、DP1x、DP2、DP2s、DP2x
*Foveon X3 Merrill(2011年~2013年)
記録画素数:約1500万画素
搭載機種→
一眼レフ:SD1(2011年)、SD1 Merrill(2012年)
コンパクト:DP1 Merrill、DP2 Merrill、DP3 Merrill
*Foveon X3 Quattro(2014年~)
記録画素数:約2000万画素(APS-C型、4:1:1構造)
約2500万画素(APS-H型、4:1:1構造)
搭載機種→(注:ここから機種名は小文字表記)
一眼レフ:搭載機なし
コンパクト:dp0 Quattro、dp1 Quattro、
dp2 Quattro、dp3 Quattro、
ミラーレス:sd Quattro、sd Quattro H(APS-H)
*フルサイズ(35mm判)Foveon X3 1:1:1
→2021年に「開発白紙(中止)」宣言あり。
個人的に思うに、これはピクセルピッチ的には
十分に実現可能だった(Quattroよりも広い)が
三層構造での「深さ」により、センサー周辺の
画素では、十分に「垂直光」が届かなかった
のではなかろうか? でも、Foveon X3の今後の
進展に強い影響が出ているだろうし、中古市場でも
旧型の「Foveon搭載機」が投機的に高騰している
ので、残念な話だ。
垂直入射光やら、それ以外の課題を解決した上で、
新たなセンサー開発に着手してもらいたいし、
そもそも個人的には、フルサイズFoveonでは無く、
APS-C型等でも十分だと思っている。
(むしろ、OM SYSTEMに、μ4/3機用Foveonを供給
できないものか? 画素数は稼げないがマニアック
度としては満点のカメラになりうる。
μ4/3機用の撮像センサーを供給していたPanasonic
も、ライカLマウント陣営に寄ってきているので、
このままではOM SYSTEMが孤立してしまいかねない。
ただ、SIGMAも、Lマウント陣営と言えるので、
この措置は、業界内での相関関係上では無理か・・)
・・で、これらは前述の通り、本機以外は未所有なので、
Foveonの歴史的変遷(どこが、どう進化して来たか?)
については、わからないので、ばっさりと割愛する。
また、ここでFoveonの原理だとか、ベイヤー配列
型センサーとの差異、長所短所等を挙げていくと
際限なく記事が長くなりそうだ(汗)
・・まあ、そういう資料は、世の中のどこででも
見つかると思うので、適宜参照されたし。
なお、例え専門的な資料であっても、より詳しい
内部の動作原理等は、企業秘密もあってか、
公開されていない部分も大変多い。あまり真剣に
調べても意味が無いかも知れず、概要だけ理解して
おけば十分だとは思う。
例えば、Quattroセンサーは、トップ(最上)層が
約2000万画素、第二層、第三層は、約500万画素
という、奇妙な4:1:1の画素数比の構成だが、
これが、どういう原理で動いているのか?を
調べようとしても、肝心のところは非公開なので
行き詰ると思う(まあ、特許を閲覧する、という
手段はある。一応、それらしき特許を発見したが
難解であり、これを上手く説明する事は困難だ・汗
それと、特許は他社が簡単には真似できないように
あるいは他者に技術を盗まれないよう、わざと難解に
書く為、これの内容が理解できたとしても、ベラベラ
と説明してしまうのは好ましくない。興味があれば
自分自身で調査研究し、理解するしか無いわけだ)
また、調べている際に、良いところ(利点)だけ
を見て「これは凄い!」とかと、単純に信奉し
「信者」になってしまう事には要注意だ。
「まるでロータリーエンジンだ」という比喩は
良く聞くが、「技術」とは、そういった感覚的な
話とは違うと思う。
あえて比較対象を言うならば、Foveon誕生頃に、
ベイヤー配列型センサーの元々持つ課題を解消
する為に、例えばSONY等が試した「3CCD」方式や
(参考:近年では、3CMOS方式となっている)
FUJIFILMやKODAKが色々とトライした「特殊配列
センサー」、あるいは後年に、センサーを微細に
駆動させる、という「力技」で解決しようとした
PENTAX(RICOH)の「リアルレゾリュ-ション」、
さらには、SONYの「Quad Bayer」型センサー等、
そのあたりの他社技術と、ちゃんと比較する事が
望ましいと思う。
また、Foveon X3にも、利点ばかりではなく弱点も
いくつもあるので、そこもまた公平に見て、理解
しておく必要があるだろう。
なお、巷でよく言われる「解像感が高い」は、
個人的には、あまりFoveon X3(だけ)の長所とは
見なしていない。
一般的なベイヤー配列型センサーでも、最大記録
画素数の1/4で撮れば、補間処理が最小限となり
そこそこの(→本来の)解像感(度)が得られる。
(解像力→主にレンズ側の性能、LP/mm等
解像度→本来はセンサー側の「画素数」と等価
解像感→利用者が視認できるシステム性能)
逆に言えば、通常型センサーで「フル画素」で撮ると
解像感が低下してしまう。Foveon X3では、原理的に
その問題が発生しないのだが、記録画素数が少ない
場合が多いので、「どっちもどっち」という感じだ。
ちなみに、個人的には、ベイヤー型センサー機は
殆どの場合、最大記録画素数の1/4の最少画素数で
撮影する習慣を持っている。(=画素数が多い方が
必ずしも良く写る訳でもない、という典型例)
もう1つ世間で言う「発色の良さ(または独特さ)」
は、個々の好みに依存するだろうし、そもそもカメラ
の発色は、Foveonであろうがベイヤー型であろうが、
X-Transであろうが、画像処理エンジンでの味付けの
傾向に依存したり、装着レンズの種類や、勿論だが
被写体の状態、あるいは利用者のカメラ設定の方法論や、
アフターレタッチ(編集)手法にも大きく依存する。
まあつまり、カメラの発色は、その利用者での用法や
スキルに強く関わるものであるから、いつも言うように
「このカメラは発色が悪い、とカメラのせいにしては
ならない」という原則論がある。
これを逆に言えば「Foveonだから色が良い」という
ざっくりとした理屈も、成り立たないという事である。
多少、他機とは異なる発色傾向が得られるとは言え、
それを生かすも殺すも、ユーザー(オーナー)次第だ。
では、ここからは本機dp0 Quattroの長所短所について
簡単に述べておこう。
<長所>
*まず、搭載レンズの優秀さがある。
解像力は特筆すべきであり、SIGMA Art Lineの
高性能レンズ級だ。そちらは大きく重く高価な
三重苦レンズだが、このレンズは多少大きいとは
言え、コンパクト機に搭載されているところが凄い。
解像感や歪曲収差のみならず、ボケ質もそこそこ
良く、贅沢な部材を多用したレンズ構成で、諸収差
をバランス良く補正している。
「コサイン4乗則」が課題となりやすい超広角レンズ
ながら(少し絞り込めば)周辺減光も殆ど発生せず、
なかなか素晴らしい。
ただ、「逆光耐性の低さ」という課題があるので、
万能のレンズという訳では無いだろう。
*上記レンズの優秀さにFoveon Quattroセンサーが
加わる事で、解像感と発色傾向の良い、独特の
システムとなる。特に「風景専用機」としての
利用形態に最も向くであろう。
また、モノクロ撮影時にも、このセンサーでの
トップ層の高性能が、そのまま活用できる。
本機のカラー時の発色にはクセがあるので、
いっそモノクロ専用機としてしまう方法論もある。
(注:モノクロモードとしても記録ファイル容量は
1/3にはならず、カラー撮影と同等である。
よって、単純にトップ層データのみを使っている
訳ではなく、複雑怪奇な画像処理内容だ)
*MF時、またはAFからのシームレスMF移行時
(注:自動拡大あり。自動拡大は停止可能)での、
距離指標の表示の他、絞り値と撮影距離に応じた
被写界深度の目安の目盛りが表示される。
指標のスケールが粗いので、実用性がどこまで
あるか?は疑問ではあるが、これは、なかなか
マニアックで好ましい機能だ。
(なお、AFリミットモードが存在し、合焦範囲を
変更できるが、通常の18cm~∞設定で十分だ。
それと「速度優先AF」をONとすれば、合焦動作中
でのライブビューが停止する分、高速化される)
*製品企画コンセプトに信念と割り切りがあり、潔く、
かつ、マニアックである。こうした「売れる筈も
無いだろう」機種を、よく発売に漕ぎ付けたものだ。
ただ、個性的すぎる外観や、超広角単焦点機は
用途を著しく限定するので、本機を欲しいと思う
消費者層の比率は、限りなく低いかも知れない。
<短所>
*搭載レンズの逆光耐性の低さ
前述のように、フレアやゴーストの発生があり
かつ、それが回避しにくい。
*カメラとしての機能不足
例えば、手ブレ補正無し、デジタルズーム無し、
エフェクト無し、ピーキング無し、AUTO ISOの
低速限界設定無し、動画撮影機能無し、等。
個々の機能不足への対策・対応は、超高難易度と
なるケースが多く、初級中級層は、もとより、
上級層以上でも、なかなか厳しい状況だ。
*書き込みの重さ(遅さ)
3層構造により総画素数が多い為、メディアへの
書き込みに時間がかかり、かつ、連写性能や
バースト枚数(連続撮影可能枚数)にも影響が
出ている。
実用上では、断続的に連写は可能ではあるが、
連写中のブラックアウトや、メディアへの
長時間の書き込みが完了しないまでの間は、
画像再生やメニュー操作が不能な課題がある。
ちなみに、小画素(約500万画素)での、RAW、
JPEG、RAW+JPEGで使用時、連写は秒4.5コマ
バースト枚数は12枚となる。
大画素での使用時は、いずれの性能も低下する
し、連写終了後の書き込み時間も長い。
(参考:JPEGの小画素撮影条件で、12枚連写後に、
バースト9枚表示迄の復帰時間は約20秒もかかる)
また、バッファメモリー(推定512MB)が一杯に
なるか、又は、所定のバースト枚数に到達すると、
シャッターが切れなくなる仕様だ。(ここから
1枚でも撮れるように復帰する迄に10秒弱かかる)
なお、書き込みからの復帰中でもモニターに連続
撮影可能枚数(最大9枚表示まで順次増えていく)
が常に示されている。
*操作系が悪い
メニューや設定操作の記憶機能なし、
(注:電源を入れている間はメニュー位置は保持)
カスタマイズ機能が貧弱、等。
ただ、上記の「機能不足」が、逆に幸いしていて
「QS」というボタンで表示できるコンパネ風メニュー
内で、たいていのカメラ設定が可能だ。
しかし、コンパネも最終編集位置の記憶機能が
無く、操作の「手数」は、どうしても多くなる。
(注:電源を投入している間は、勿論、編集位置は
記憶している。が、いったん電源を切ってしまうと
編集位置を忘れてしまい、また最初からやり直しだ)
後、操作系ではなく「操作性」であるが、
SDカードスロットのフタがゴム製という、ある意味
希少とも言える(PENTAX K-01、2012年以来)貧弱な
仕様で、開け難いという課題がある。
*物理的なサイズが大きい
dp Quattroシリーズ機全般で横に長く、
do0 Quattroでは、さらにレンズも大きい。
一眼レフと同等の収納容積を必要とし、可搬性に劣る。
*EVFなし
風景専用機として屋外で使う上で、背面モニターが
見え難いケースが多い。
別売オプションで、「LCD View Finder LVF-11」
があるが、ただでさえ上記の「大きい」という課題が
さらに大きくなってしまうので、購入していない。
対策としては、「外付け光学ファインダー」の
利用がある。私の場合は、SIGMA純正ではなく、
COSINA社の「21mm View Finder」(2001年頃)
を装着している。これの利用により、背面モニター
が見え難い場合でも構図が決められる。
ただし、課題もあり、本機はレンズが大きすぎて、
このファインダーでは、構図の下部が見えない事。
また、この光学ファインダーは銀塩末期においては
「比較的見えが良い」と認識していたのだが・・
dp0 Quattro本体よりも、歪曲収差がはるかに大きく
背面モニターで見た方が構図の正確性が得られる点。
また、外付け光学ファインダーは、いずれも高価な
オプションなので、アクセサリーシューからの
脱落・紛失には注意する必要がある。
*ノイズ耐性、高感度性能
Foveon X3では、原理的に、3層のセンサーから
独立に発生するノイズの低減処理は難しい模様だ。
この対策として、屋外撮影を主眼として、必ず
ISO400以下で使うようにしている。AUTO ISOの
場合も上限をISO400迄に留めておく事が無難だ。
(注:「白とび軽減モード」も、ISO400以上では
効かなくなる仕様である。
また「トーンコントロール」(階調補正)機能の
常用も、ノイズを目立たせる原因となる)
それから、このセンサーはISOを400位に、少々
上げただけでも「解像感の低下」が既に始まる。
本来、ISO100ですべて撮りたいところだが、
それだと撮影条件的に厳しいので「ISO400迄を
許容して使うしかないかな?」と思っている。
なお、AUTO ISOの低速限界設定は調整不能だが、
1/30秒がデフォルトとなっている模様で、
「21mm画角→ 1/21秒以上」の、手ブレ限界理論
からすると、少し余裕がある。
(1/20秒以下となると、手ブレ警告マークが出る)
レンズの特性的(多くの理由があるが、割愛)
にも、あまり絞り込んで撮る必要性は無いので、
シャッター速度やISO感度に常に留意をすれば、
三脚を常用する必要も無いであろう。
(注:私の場合、当然ながら、手持ち撮影100%だ。
本ブログでは、基本的に三脚使用は非推奨である)
ただし、低速シャッター撮影に成り易い状態
なので、動体被写体には、あまり適正が無い。
*最高シャッター速度の制限
レンズシャッター機であり、設定絞り値に応じて
1/1250秒(F4)~1/1600秒(F5.6)~
1/2000秒(F8以上)が上限値だ。
レンズシャッター機の場合、絞り兼シャッター
羽根の動作距離があるので、絞り込むほどに
高速シャッターが可能となる。でも、実用上では
絞りを開けた場合に高速シャッターが欲しいので
これの原理と実用性は矛盾している。
これの対策としては、日中晴天時で、ISO100で
絞りF5.6程度とすれば、1/1000秒程度までの
シャッター速度となるので、制限にかからずに済む。
(注:F5.6にした時点で上限値は1/1600秒となる)
絞り開放(F4)は、遠距離撮影には使わず
近接撮影等で弱暗所での利用に限るのが良い。
なお、絞り開放の際には被写界深度が浅くなり、
背景を軽くボカした撮影表現も可能だ。
(参考:その際のボケ質だが、像面湾曲や非点収差が
良く補正されている模様であり、大口径広角レンズや
近接広角レンズでありがちな、ボケ質破綻は、発生し
難いという長所がある)
なお、前述のように高感度特性が弱いカメラなので
シャッター速度オーバーを回避する目的のND(減光)
フィルターは常時は使えない、同様にPLフィルターも
常用は厳しい。
なんだか、撮影条件を極めて制限する、非常に難しい
カメラとなっている。カメラ側の全ての限界性能が
低いので、それらを理解し、制御あるいは回避が
できる超上級層向けだ。
*レンズ鏡筒の表面仕上げがツルツルである
MF操作が若干やりにくい点と、レンズに指紋等が
べったりついてしまう弱点となる。
MF操作は近接撮影時以外では、まず行う事は
無いが、AF時でも、カメラの重心バランスを保持
する為には、レンズ鏡筒を持つ必要がある訳だ。
(注:稀に、勝手にシームレスMFとなってしまう。
同様に、十字キー上のAF/MF切り替えも、カメラを
保持した際に勝手に切り替わり易いので要注意だ)
なお、オプションで「ベースグリップ」が用意
されている。ここもCOSINA製の旧型同等品の装着を
試してみたが、特にホールディングでの有益性は
感じられず、MF撮影時での持ち替えも面倒だ。
あくまで趣味的なオプションであろう。
*バッテリーの持ちが悪い
CIPA基準で200枚の撮影枚数しかなく、
これは近代機の中では最低レベルとなる。
が、実使用上では、小画素(500万画素)のJPEG
撮影時で、1000枚程度の大量撮影でも、まだ
1/4ほどバッテリーが残っていたので、恐らくは
1200枚程度までは十分に撮影できたであろう。
「CIPA規格での5倍~6倍の撮影枚数」が個人的な
目標値なので、これはだいたいOKであるし、
このカメラの特性上でも、1日に1000枚以上撮る
ケースは、まずあり得ないと思うので問題は無い。
なお、撮影可能枚数が少ない為、この製品には
バッテリーが2個同梱されている。
では、最後に、本機の評価点数を上げておこう。
なお、いつも書く事だが、こういう評価項目や評価
内容は、オーナー毎のカメラの利用方法等に大きく
依存する為、必ずユーザー個々に行うべきだ。
(→他人の評価は参考にならない、という意味)
<SIGMA dp0 Quattro 個人評価点>
【基本・付加性能】★★☆
【描写力・表現力】★★★★☆
【操作性・操作系】★★
【高級感・仕上げ】★★★☆
【マニアック度 】★★★★★
【エンジョイ度 】★★★
【購入時コスパ 】★★(新古購入価格:66,000円)
【完成度(当時)】★★☆
【歴史的価値 】★★★★★
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.33点
この評価点の傾向は、非常にデコボコしている。
簡単に述べれば、描写力が良く、マニアックで
かつ歴史的価値が高い機体だ。
(注:描写表現力は、当初5点満点を与えていたが、
逆光耐性の課題が重大であり、少し減点している)
しかし、他の評価項目のほとんどが標準点(3点)
程度か、それを下回っている。
弱点が多く、非常にクセが強い機体だ。
全般的に、殆どの弱点は、カメラ側の性能を発揮
できる撮影条件が極めて限られている事に起因する。
「Foveon X3」の性能が上手くハマった場合での
高描写力を絶賛するマニアのユーザー層は多いのだが、
その結果を得る為には、他の大半の写真を「失敗作」
として切り捨てる条件(覚悟)が必要だ。
この歩留まり(成功率)の悪さを、どう見るかは
ユーザー個々の利用ケースによる判断になるだろう。
(少なくとも、重要な用途、すなわち実用・業務の
撮影には、安全に使えるカメラでは無い)
すなわち、本機ほど「ユーザーを選ぶ」カメラは
他に無いとも言え、評価点の傾向はオーナー個々に
さらにバラつく傾向があるだろう事は注意点だ。
使いこなせなければ、完全な「ダメカメラ」だ。
まあでも、評価総合(平均)点が3.0を超えて
3.3点程度もあれば、まずまずのカメラだと言える。
(この為「歴代カメラ選手権」シリーズ(予定)に、
急遽、下位ながらも追加選出される事となった)
----
では、本記事は、このあたりまでで。
本シリーズの対象となる(デジタル)コンパクト機
は、2010年代から市場縮退が著しく、かなり高価な
高付加価値型機体と、特殊用途カメラしか存在しない。
・・なので、滅多にそれらを買う事は無いが、もし
また何か、マニアックな機体を入手する事があれば、
引き続き本シリーズで紹介する。]]>
不定期:コンパクト・クラッシックス
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Sun, 24 Apr 2022 06:12:27 +0900
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