イベントレポート

IntelのMeteor Lake搭載ノート、dGPUなしでStable Diffusionを高速処理

Meteor LakeだけでStable Diffusionを利用して画像を生成するデモ。Meteor Lakeを搭載したノートPCを利用して行なわれた

 5月30日~6月2日(台湾時間)の4日間にわたり、台湾・台北市の「台北南港1&2展示ホール」においてCOMPUTEX TAIPEI 2023が開催される。コロナ禍になる前のCOMPUTEX TAIPEIでは、Intelが毎年メインの基調講演に講演者を送り込んできたが、今年(2023年)のIntelは、COMPUTEX TAIPEIにはオフィシャルには参加せず、近隣の会場などでプライベートなミーティングや展示を行なう形での参加になっている。

 そうした中で、Intelは報道関係者を対象にした記者説明会を開催し、同社が今年後半に発表や製品投入を計画している「Meteor Lake」に関するさらなる詳細、特に今回は内蔵されているNPU(Neural Processing Unit、AIの推論処理に特化したプロセッサのこと)のデモを行なった。

今年後半に投入されるMeteor Lake、ハイブリッド・アーキテクチャでかつ電力効率が改善される

Intelが今年後半に投入を計画しているMeteor Lake(昨年のIntel Visionで撮影)

 Intelが今年後半に発表や投入を計画しているMeteor Lakeは、現行製品となる第13世代Core(開発コードネーム:Raptor Lake)の後継となる次世代クライアントPC向け製品となる。Intelは既に昨年の8月にMeteor Lakeの概要を明らかにしている。

 詳しくは上記記事で触れているとおりで、Meteor Lakeの最大の特徴はIntelがFoverosの開発コードネームで呼んでいる3Dチップレット技術を応用して作られていることだ。Meteor Lakeでは、Intelの22nmプロセスノードで製造されるベースタイル(Intelではチップレットのチップをタイルと呼んでいる)の上に、IntelのIntel 4(以前は7nmと呼ばれているIntelのプロセスノードとしては初めてEUVが導入されるノート)で製造されコンピュートタイル、TSMCの5Nで製造されるGPUタイル、TSMCの6Nで製造されるSoCタイルという4つのタイルが、3D方向に実装されている形になっている。

IntelのクライアントPC向けロードマップ
Meteor Lakeの概要

 Intelは依然としてコンピュートタイルやGPUタイルの詳細を明らかにしていないが、CPUには新しい省電力機能が実装され、性能向上に焦点が当てられたハイブリッド・アーキテクチャ(パフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャ)となっていた第12世代Core(Alder Lake)、第13世代Core(Raptor Lake)に比べて電力効率が改善されているとだけ明らかにした。

 GPUタイルに関しても詳細は明らかにしていないが、今回はそれが、昨年(2022年)単体GPUとして投入されたArcベースになると説明した。第12世代/第13世代Coreの内蔵GPUは、第11世代Core(Tiger Lake)で導入されたIntel Xe Graphics(Xe-LP)が継続されて搭載されており、GPUのアップデートはない形になっていた。それがMeteor LakeではArcベースになるため、AIを利用した超解像度機能のXeSS(Xe Super Sampling)やAI機能(XMX)、AV1デコーダ/エンコーダなどのArc世代で導入された新しい機能がMeteor Lakeの内蔵GPUでもサポートされることになる。

 なお、Arcのアーキテクチャなどに関しては以前の記事が詳しいのでそちらを参照していただきたい。

 Meteor LakeはクライアントPC向けの新製品として完全に新しいアーキテクチャとして登場し、2024年にはコンピュートタイルの製造プロセスノードなどがIntel 20Aに微細化されるArrow Lakeが投入される。

 さらに、電力効率をさらに改善したバージョンとしてLunar Lakeとその後継が計画されており、コンピュートタイルはIntel 18Aへと微細化され、こちらは電力管理に関してさらに見直しが入りArm版Windows(WoA)向けArm SoCに匹敵するような電力効率を実現する製品になる。それにより、より小型で長時間バッテリ駆動が可能なノートPCを、x86 CPUで実現することが可能になる計画だ。

 こうしたIntelの計画は、同社のCEO パット・ゲルシンガー氏が推進している「IDM 2.0」戦略で予定されている4年間で5ノードを矢継ぎ早に開発して導入するという意欲的な製造技術の革新戦略に依存しており、IntelがArrow LakeやLunar Lakeを予定通り導入するには、そうしたIntelの製造技術の戦略を予定通り実行できるか次第ということになる。

Meteor Lakeでは単体GPUがなくても、Stable Diffusionで高速に画像生成することが可能に

Meteor LakeでのAIを実現するハードウエア、NPUだけでなくCPU/GPUももちろん利用することが可能

 今回IntelはそうしたMeteor Lakeの、新しい詳細として、同社がMeteor Lakeで導入を進めるNPU(Neural Processing Unit)に関する詳細を明らかにした。

 Intelは2016年にVPUという、今で言うところのNPUを開発していたMovidius(モビディアス)を買収し、USBモジュールなどを提供してきた。Movidius VPUの特徴は、チップの内部にメモリを内蔵しており、外部メモリにアクセスしないことにより消費電力を増加させないという仕組みになっており、1W以下という極めて少ない消費電力で、AI推論を可能にするのが大きな特徴になっていた。

 ただし、その後IntelはMovidius由来のVPUの外販を終了し、現在はKeem Bay(キームベイ)と呼ばれる単体VPUを一部のPCメーカーなどに提供する形になっていた。Keem Bayを利用すると、Windows Studio Effectsなど、Microsoftが推進しているWindowsのAIソリューションを、実装することが可能になり、第13世代Core世代で一部のOEMメーカーに対して提供される、そうした形になっていた。

 しかし、既に昨年の9月にIntel自身が表明してきたように、IntelはMeteor LakeにMovidius由来のVPUを、NPUとして統合していることを明らかにしており、Meteor Lake以降はNPUが標準搭載となる。

Intel 副社長 兼 クライアントAI事業部 事業部長 ジョン・レイフィールド氏

 今回Intelが詳細を明らかにしたのはそのMovidius由来のNPUの実装に関する詳細。Intel 副社長 兼 クライアントAI事業部 事業部長 ジョン・レイフィールド氏は「Meteor Lakeに搭載されているNPUは、MovidiusのVPU由来の製品となる。最初の製品を第1世代とすると、現在Intelが提供しているKeem Bayは第2世代アーキテクチャに基づいた製品になる。それに対して、Meteor Lakeに搭載されるのはIntelの内部で開発してきた第3世代のアーキテクチャになる」と述べ、Meteor Lakeに内蔵されるNPUはKeem Bayからさらに進化したNPUになっていると説明した。

AI処理に特化したNPUを利用すると、処理能力は10倍になり、電力効率は5倍になる

 レイフィールド氏によれば、Meteor Lakeに搭載されているNPUはKeem Bayと比較してさらに性能が大きく向上しているという。具体的には「CPUやGPUで処理する場合に比べて10倍処理能力は高くなるが、5倍電力効率は高くなる」とのことで、消費電力は減るのにAIの処理性能はあがるとレイフィールド氏は説明した。

Meteor Lakeで、単体GPUがなくてもSoCだけでStable Diffusionの画像生成を高速に行なえる

 今回IntelはWindows Studio Effectsで複数の機能をサポートしていることをデモし、さらにStable Diffusionの生成AIによる画像生成をMeteor Lakeを利用して行なうデモを行なった。詳細な条件は不明ながら、単体GPUがなくても、30秒程度で画像が生成される様子を確認できた。

Stable DiffusionをMeteor Lakeで実行しているところ

 Meteor Lakeを搭載したPCでWindows Studio Effectsの効果(自動フレーミング、視線固定、背景ぼかし)は、CPUやGPUだけでやると高い負荷がかかるが、CPUやGPUに負荷をあまりかけないでも、NPUで処理できるようになる様子が公開された。

Meteor Lake搭載ノートPCでWindows Studio Effectsを実行しているところ、CPUやGPUにかかっている負荷はあまり変わらないのに、NPUの負荷だけは上がっていることに注目。表示はMovidius VPUとなっているが、これはエンジニアリングサンプルだからという説明があった(つまり何らかの別のブランド表示になる可能性があるということだ)。