西川和久の不定期コラム
1型センサーの実力はいかに。写真中心レビューで「Xperia PRO-I」の魅力に迫る
2022年2月4日 06:32
以前、記事でも触れているが筆者は「Xperia 1 II」ユーザーだ。当然次世代機種の「Xperia 1 III」にも興味はあったが、それより1型センサーを搭載する「Xperia PRO-I」の写りに興味津々。そこで今回はこのXperia PRO-Iについて、カメラ/写真中心の試用記をお届けしたい。
1型センサーだが有効画素数は1,200万画素
1型センサーと言えば、以前レビューしたライカスマホの「Leitz Phone 1」がまず思い浮かぶ。
こちらは2,020万画素/F1.9/焦点距離19mmの超広角レンズがベースで、広角の24mmと望遠の48mmはいわゆるデジタルズームだ。カメラの操作性に難があったが、当たればスマホとは思えない絵を叩き出す。
対して今回ご紹介するXperia PRO-Iは、1型センサーだが有効画素数は1,200万画素となる。これは1,200万画素のセンサーを搭載しているのではなく、総画素数2,100万画素をクロップして1,200万画素分だけ使っていて、電子手ブレ補正利用時などはこの外周も利用する。
このあたりの話は「ソニーの超ハイエンドスマホ「Xperia PRO-I」実機写真レビュー」にくわしく載っているので、興味のある人はあわせてご覧いただきたい。実質的には1/1.3型の1,200万画相当になるようだ。iPhone 13 ProやXperia 1 IIIなどが1/1.7型前後なので、それでも大きいことには違いない。
全画素を使わない分、レンズの小型化やリアルタイムトラッキング性能、連写性能は1型センサーをまるまる使うより向上しているとのこと。これを1型センサーのカメラと言っていいのかは別の議論として、筆者的には写り良ければすべてOKだ。
なお今回お借りした実機は試作機で、SIMの使用およびベンチマークテストは行なえないが、これをいいことに、Xperia PRO-Iで撮った写真ばかりの記事となっている。主な仕様は以下の通り。
【表】Xperia PRO-Iの仕様 | |
---|---|
SoC | Snapdragon 888 5G(オクタコアCPU、2.84GHz、Adreno 660を内包) |
メモリ | 12GB |
ストレージ | 512GB |
OS | Android 11 |
ディスプレイ | 6.5型1,640×3,840ドット有機EL、アスペクト比21:9、HDR、リフレッシュレート最大120Hz、HDR/BT.2020/10bitカラー対応クリエイターモード搭載 |
ネットワーク | Wi-Fi 6、Bluetooth 5.2、NFC(FeliCa対応) |
SIM | Nano SIMカードスロット×2 |
対応バンド | 5G:n3/n28/n77/n78/n79 LTE:Band 1/3/4/5/7/8/12/13/17/18/19/21/26/28/38/39/40/41/42 3G:Band 1/5/6/8/19 GSM:850MHz/900MHz/1.8GHz/1.9GHz |
インターフェイス | USB 3.1 Type-C(USB PD、DisplayPort対応)、デュアルフロントスピーカー、microSDカードスロット(SIM2と排他)、3.5mmジャック、指紋認証センサー |
前面カメラ (有効画素数) | 約800万画素/F2 |
背面カメラ (有効画素数) | 16mm(超広角):約1,220万画素/F2.2 24mm(広角):約1,220万画素/F2・F4、1型Exmor RS CMOSセンサー 50mm(望遠):約1,220万画素/F2.4 3D iToFセンサー |
サイズ/重量 | 約72×166×8.9mm(幅×奥行き×高さ)/211g |
バッテリ | 4,500mAh(3年間劣化しにくい長寿命) |
その他 | 防水(IPX5/IPX8)、防塵(IP6X) |
価格 | 19万8,000円 |
仕様を見比べると分かるが、SoCやメモリ、ストレージ、各種インターフェイス、SIMなど、多くの部分はXperia 1 III(SIMロックフリー版)と同じだ。主な違いは、サイズ/重量、カメラ、そして価格となる。ここだけ抜き出すとこのようになる。
【表】Xperia PRO-IとXperia 1 IIIの主な違い | ||
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Xperia PRO-I | Xperia 1 III | |
前面カメラ (有効画素数) | 約800万画素/F2 | 約800万画素/F2 |
背面カメラ (有効画素数) | 16mm(超広角):約1,220万画素/F2.2 24mm(広角):約1,220万画素/F2・F4、1型Exmor RS CMOSセンサー 50mm(望遠):約1,220万画素/F2.4 3D iToFセンサー | 16mm(超広角):約1,220万画素/F2.2 24mm(広角):約1,220万画素/F1.7 70mm・105mm(望遠):約1,220万画素/F2.3・2.8 3D iToFセンサー |
サイズ/重量 | 約72×166×8.9mm(同)/211g | 約71×165×8.2mm(同)/186g |
価格 | 19万8,000円 | 15万9,500円 |
つまり決定的な違いはカメラで、その分少し大きく重く、高額になっている。そのカメラも前面と超広角は同じで、望遠は焦点距離や仕組み(Xperia 1 IIIは70mmと105mmの切り替え式)が違う。結果、圧倒的な違いは本機の特徴通り広角の1型センサーとなる。
価格については高額ではあるものの、例えばiPhone 13 Pro Max/1TBモデルならほぼ同額となる。最近徐々に出てきたフォルダブルだとさらに高い場合もある。ハイエンドには違いないが、本機だけ特別高価と言うわけでもない。
Xperia 1 IIとの比較写真から分かるようにサイズ感はほぼ同じだ。ただ実際に持つと厚みと重さの違いは大きく、数字以上にXperia 1 IIの方が持ちやすく感じる。
前面はパネル上中央の少し左寄りに前面カメラを内蔵。背面はマットブラックで指紋跡が目立たない。上側中央にカメラ群を搭載する。Xperia 1 II/IIIはカメラが左に寄っていたため、机などに置くとガタついたが、本機はそのようなこともなく座りがよい。
ディスプレイの6.5型1,640×3,840ドット有機ELは、HDRをサポートし、リフレッシュレートは最大120Hz。HDR/BT.2020/10bitカラー対応クリエイターモードも搭載している。
明るさ、コントラスト、発色、視野角は文句なし。非常に綺麗で素直なパネルだ。また21:9のアスペクト比はFacebookやTwitter、Instagramなどでは情報量が多く見やすい。
右側面に音量ボタン、電源ボタン(指紋認証センサー搭載)、ショートカットキー、シャッターボタン、下側面にUSB Type-Cを備える。左側面にSIMカードスロットとストラップホール、上側面に3.5mmジャックを配置。
SIMカードスロットは爪などで少し引っかければ外れる機構で、イジェクトピンは必要ない。上がSIM2、下がSIM1で、microSDカードはSIM2と排他だ。
発熱は試用した範囲ではまったく感じなかった。季節やベンチマークテストなど負荷をかける処理をしていない関係もあるだろう。
サウンドは、Xperia 1 IIIのときにも書いたが、Xperia 1 IIとは別物。スピーカー/3.5mmジャックともにパワーがあり、リニアリティもよい。
普通のスマホとは一味違う発色とボケ味
搭載しているカメラは、前面が有効画素数約800万画素/F値2.0、背面が16mm(超広角):同約1,220万画素/F2.2、24mm(広角):同約1,220万画素/F2・F4、1型Exmor RS CMOSセンサー、50mm(望遠):同約1,220万画素/F2.4、3D iToFセンサーとなる。
超広角と広角の焦点距離はいいとして、望遠の50mm相当は、一般的なスマホからすると短めだ。ここがウィークポイントだと思う人もいるだろう。
出力画素数は前面が2,448×3,264ドット、背面はすべて同じで3,234×4,032ドット。後者はデジタルズームしても変わらないので、拡大補完していることになる。
背面カメラのモードは、BASIC、AUTO、P、S、M、MR(撮影設定呼び出し)を用意。BASICは以前カメラアプリで独立していたものが、Xperia 1 IIIからPhotography Proアプリへ統合されたモードだ。一般的なスマホカメラと同様の操作性となっていて、背景ぼかしはこのモードのみ機能する。
この点は個人的にほぼ唯一の気になる部分で、ほかのモードでも背景ぼかしに対応してほしいところだ。また、BASICモードの画面レイアウトは縦横に対応するが、それ以外のモードは横で固定となる。なお、前面カメラはBASICモードのみで利用できる。
設定はモードによって異なるが、ファイル形式(BASICモード以外でJPEG/RAW+JPEG/RAWを選択可)、縦横比、超広角レンズ補正、ドライブモード、ズーム設定、フラッシュモード、美肌効果、フォーカスモード、フォーカスエリア枠色、顔/瞳AF、QRコード読み取り、タッチで合わせる、グリッドライン、音量キー設定、カメラ操作音、保存先、位置情報を保存、カメラキー長押し起動、起動時の撮影モード、モードダイヤルガイド、Transfer&Tapping add-onモード、Bluetoothリモコンなどとなっている。
表示/編集に関しては専用アプリがなく、Googleフォトを使う。昨今高機能になったこともあり、個人的には下手な専用アプリよりこれで十分だ。
動画に関しては、かなり本格的(玄人向け)な撮影/編集ができるVideography Proを搭載。瞳AF/オブジェクトトラッキング、4K HDR 120fps、光学式手ブレ補正を強化した「FlawlessEye対応のハイブリッド手ブレ補正」、AI技術を使った音声のノイズ除去などに対応する。
また、別売のVlog Monitorを使えば、メインのセンサーで自撮りも可能となっており、Xperia PRO-Iならではの機能が満載。動画メインの人も注目の1台だろう。前面カメラでの動画に関してはBASICモードの延長となり、一般的なスマホと同様の撮影となる。
操作性はBASICモードとそれ以外のモードで大きく異なる。BASICモードは、Photography Proへ無理矢理スマホカメラアプリをくっ付けた感じだ。逆にPhotography Proはスマホの割にやり過ぎな感じも受ける。パネルに所狭しと色々な項目が出ているが、触るのはせいぜい数カ所なので、通常すべてを駆使することはないと思われる。
また後者は、横位置での撮影ではカメラのように使えてよいのだが、縦位置になるとシャッターボタンを下側にして左手でホールドし、ボタン自体は右手の親指で押すといったような、変則的な構えになり撮りにくい。そのうえ手ぶれしやすく、シャッターボタンのすぐ横に露出補正があるため、何かの拍子で触ってしまい、値が変わってしまうこともしばしばだ。
もう1点、Xperia 1 IIとはシャッターボタンの感触が異なり、半押しでのフォーカスロックがやりにくかった。Xperia 1 IIの方がコンデジっぽく普通な印象だ。どちらも基本的に慣れの問題と言えるだろう。
上記に、超広角/広角/望遠、絞りによる違い、望遠と広角+デジタルズーム50mmとしたときの写りを掲載した。注目ポイントは2点。まず絞りF2とF4で、前者は前ボケも含めかなりボケているのが分かる。ボケに関しては深度センサーを使いソフトウェア的に処理するのがスマホでは一般的だが、素でこれだけボケるのはやはり大型センサーの強みだ。
次に望遠50mmと広角をデジタルズームで50mm相当にしたときの発色の違い。ぱっと見で圧倒的に後者の方がよいのが分かる。ただし等倍で見ると解像度は前者の方が当然上だ。だが、SNSなどにアップする場合はそもそも縮小されてしまうこともあり、発色がよい方が有利だ。また、仮に印刷してもA5(350dpiで約600万画素)程度では違いは分からないと思われる。
従って、以降の作例は物理的な超広角/望遠は一切使わず、24mm、約35mm、50mmのデジタルズームの3種類のみで撮影し、発色を優先した。ある意味極端なレビューかもしれないが、本機の特徴を魅せられるだろう。なお、約35mmとしているのはピタッとその位置にするのが難しいためだ。
今回は作例が多めで、日中20枚、夜景20枚、室内6枚、人物10枚の計56枚を掲載する。初めの少しはBASICモードで撮影し、夜景のバイクはいつも通り背景ボカしを使用。残りはPモードを使用した。
絞りはすべてF2、露出補正は必要に応じて調整、ホワイトバランスは基本オートだが、青白くなるケースは太陽光に固定している。ポートレートも調整しやすいPモードで撮影。背景ボケが使えないのでGoogleフォトを使ってボケなどはあとから若干加工している(主にボケ味とポートレートライトを調整)。
冬と言うこともあり、夏のような派手な写りはないが、総じて色が濃く深みがあり立体感があるのが分かる。これはLeitz Phone 1のときと同じ感想だが、発色はXperia PRO-Iの方が当たり外れが少ないように思う。
ポートレートに関しては、センサーが大きく背景がボケるとは言え、このサイズの被写体になるとさすがに背景がうるさく、ソフトウェアで処理したボケが追加で必要になる。だが、やり過ぎると不自然になるのでほどほどにしておきたい。先に書いた縦位置の以外での操作性に不満はない。
さて、ここでほかのカメラと軽く比較してみたい。以下は作例で掲載したのとほぼ同時撮影したiPhone 13 ProとFUJIFILM X-S10+XC 35mm F2(ポートレートのみ)の写真だ。ポートレートについては、ほかと縦横比を3:4にするため白枠を加えている。手持ちなので多少の違いはお許し願いたい。
代官山の赤いオブジェは広角が26m相当なので50%クロップしてほぼ同等としている。色的には物理50mm相当の方が近いだろう。また花と船の写真は望遠77mm相当なので、作例とは撮影している位置などが異なるものの、背景のボケがXperia PRO-Iより少ないのが分かる。屋形船に関してはどんよりした雰囲気はXperia PRO-Iの方が出ているように感じる。
発色は、iPhone 13 Proがコンピュテーショナルフォトグラフィによって素材を触り倒して綺麗に見せているのに対し、Xperia PRO-Iは素の特性に近い写りとなっている。前者は平均的にヒットが打てるものの、後者のホームランには勝てないといった感じだろう。万人向けのiPhone、玄人向けのXperia PRO-I。コンセプト通りの違いとなる。
最後のポートレートは、さすがにAPS-Cサイズのカメラと比較すると厳しいものの、かなり近い感じには撮れている。だが、これ以上を望むなら別途カメラを持ち出すべきだろう。筆者もこれが理由でX-S10を購入している。
以上のようにXperia PRO-Iは、ベーシックな部分はXperia 1 IIIと同様でありつつも、メインカメラが大きく異なることで、よりカメラ的に使えるスマホに仕上がっている。
その差は3万8,500円。これが高いか安いかは、スマホカメラに何を求めるかによるだろう。写りが最優先なユーザーにはぜひ使ってほしい1台だ。