eスポーツチーム代表者に聞く

ZETA DIVISION代表西原氏「実はスト6部門を立ち上げる」。eスポーツの熱狂や、良さを知ってもらえるチーム作り目指し

ZETA DIVISIONを運営するGANYMEDE株式会社代表取締役の西原大輔氏

 本連載では、eスポーツチームの代表者にインタビューを行ない、各チームの取り組みや戦略、課題、今後の目標などを聞いていく。初回で取り上げるのは、eスポーツチームとしては後発ながら、現在は日本を代表するトップチームとして、国内外で活躍するZETA DIVISION(以下、ZETA)。さまざまなタイトルで部門を設立し、人気ストリーマーも所属している。ZETAがいかにして成長してきたのか?どこを目指していくのか?ZETA DIVISIONを運営するGANYMEDE株式会社代表取締役の西原大輔氏(以下、敬称略)に話を聞いてきた。

--eスポーツチームの多くは、古くからのコミュニティから発足されたいわゆる独立系と、eスポーツが浸透してから発足された企業系に分かれると思いますが、ZETAは独立系の最後発と言える存在ですよね。

西原:ZETAの前身であるJUPITERを発足したのが2018年1月です。その後、2021年7月にリブランディングして、現在のZETAになりました。「PUBG」が初参加タイトルでしたね。2017年12月にPUBGのプロリーグであるPJS(PUBG JAPAN SERIES)が発表され、そのテストリーグという位置付けのαリーグへに参画することを考えていたのですが、法人格のプロゲームチームが参画条件だったので、ではチームを作るか、となりました。

 現在では10タイトルの部門があります。おそらく日本のチームで最多数の部門を抱えています。「VALORANT」、「Fortnite」、「第五人格」、「大乱闘スマッシュブラザーズ」、「ポケモンユナイト」、「オーバーウォッチ2」、「鉄拳8」、「パラボックス」、「ブロスタ」、「チームファイトタクティクス」の10タイトルですね。

--結構な大所帯ですよね。有名選手も多く抱えています。

西原:「VALORANT」部門では、DepやSugarZ3roが長く在籍し、ZETAの顔になってきていますね。先日、プロ活動を休止したLazはストリーマーとしてのキャリアを歩み始めましたが、競技シーンを長い間牽引してくれていました。ストリーマーとしては、関優太やk4senを始めさまざまなメンバーが活躍しています。ありがたいことに多くのファンに支えられ、愛されていると感じます。

Dep選手
関優太氏

--タイトルも多岐に渡っていますよね。西原さんのゲーム遍歴が関わっているのでしょうか。

西原:チームオーナーをしている人は競技シーンを経験している人も比較的多いと思うんですけど、私自身はいわゆる普通のゲーマーでしたね。小学1年生の時にファミコンが発売され、父親が私の誕生日に「マリオブラザーズ」と「ドンキーコング」と「麻雀」を買ってくれてから、ゲームの楽しさを知りました。

 中学生の時は部活帰りにゲームセンターに寄って「ストリートファイターII」をやっていました。地元の強い人たちのコミュニティに混ざって対戦していて、そこからしばらく対戦格闘ゲームにハマっていましたね。

 その後、しばらくスポーツや音楽なんかに夢中になっていて、ゲームはやる時間は少なくなったんですけど、PlayStationで「Call of Duty」シリーズや大作と呼ばれるようなゲームはゆるくプレイしていたりしました。

 その後「FF14」の仲間たちから「League of Legends」に誘われて遊んでいたりする中で、eスポーツの世界に興味が湧いてくるようになり、「オーバーウォッチ」がリリースされた2016年に本格的にeスポーツの世界に足を踏み入れたという感じです。

 最近はあまりゲームをやれてないですね。配信や動画を観て満足しているところが大きく、観る専の状態ですね。ゲームをプレイしたいって意欲はあるので、遅ればせながら「スト6」も始めようかと。さっきも言った通り、ゲーセンで格ゲーをやっていた世代なので、身体が覚えてくれているといいですけど(笑)。

--ZETAと言えば、競技シーンでは実直に勝利を求めていくチームと言う印象ですが、チームの運営方針として、そういったことを掲げているのでしょうか。

西原:そうですね、そういった側面はあります。これまで選手やコーチ、スタッフたちのおかげでたくさんのタイトルを獲得してきた事もあって、ファンの方々も増え認知度も高いチームになりました。国内だけでなく、海外においても最近ではZETAの事を詳しく知ってくれている方々が増えてきていると実感しています。

 その認知度を最大限に活用し、改めてにはなるのですが、eスポーツの熱狂をもっと伝えていきたいし良さを知ってほしい、という方向に意識を向けています。日本のeスポーツは大きく成長したと感じますが、よりもっとけん引していきたいんですよね。そういう意味もあって、部門数が増えていっているんです。

 もちろん、競技シーンにいる以上、メンバー選考の第一条件は強さになります。選手を獲得するにあたり、そこは重視しています。一方でプロ選手として表舞台に立つ以上、人間性も大事です。しかし、チーム入りを検討する選手は若年層で社会性が十分でない人もいます。そういった若年層特有の未熟さはチームに入ってから教育できると思っています。

 ZETAは部門数や選手数だけでなく、マネージャーの人数も国内随一であり、選手マネジメントに力を入れているチームです。選手が安心して活動できる環境づくりを重視しており、スタッフには常にその意識を徹底させています。

--ZETAの魅力の話が出ましたが、マネジメント以外に他のチームにはない特徴、もしくは優れているポイントはどこでしょうか。

西原:他チームは関係ないかもですが、素直で真面目な子が多いですかね。ゲームに対して謙虚でストイックなんです。また、他のチームに比べ、違う部門の選手同士やストリーマーとの交流が比較的多いのも特徴です。

 入ったばかりの選手が違う部門のトッププレイヤーやストリーマーからアドバイスを受けたり、コミュニケーションを図れたりするのは、ZETAの大きな財産だと思います。

多数の選手、クリエイターらが在籍

--最後発ながらトップチームとして君臨しているZETAは、第三者から見れば順風満帆に見えると思います。それでも苦労した点はあると思いますが、どういった点で苦労してきたのでしょうか。また、現状で苦労している点もあれば教えてください。

西原:やはり立ち上げ当初のJUPITER時代は相当大変でした。金銭的な部分でもかなり苦労しました。新規参入と言うことで、信頼度もなく、選手からは金銭面の条件以上にチームのネームバリュー、信頼度から選んでもらえなかったことも多々あります。

 チームが浮上するきっかけとなったのは「VALORANT」ですね。「カウンターストライク」で活動していたLazやcrow率いるAbsoluteが、活動タイトルを「VALORANT」に移し、JUPITERの「VALORANT」部門として加入してくれたのですが、当時Absoluteって格好いいなって思っていたので、うれしかった思い出がありますね。

 部門設立時のチーム事情としては、Riot Gamesが満を持してリリースするタイトルである「VALORANT」が、今後国内外で流行るであろうと見越した上で、彼らを迎え勝負しようと考えていました。

--後発なのであえて狙うタイトルは逆張りをして、勝負に出たわけですね。

西原:そうなんですよ。実は2018年当時の「オーバーウォッチ」部門も、他のチームが軒並み撤退したのを見て参加を決めたんです。大手チームと同じことをやっても敵わないことは分かっていたので、おっしゃる通り逆張りのような動きで攻めていきました。「ブロスタ」もそうですね。

--Absoluteが格好いい集団と言う話がでましたが、ZETA(JUPITER)は他のチームにない格好良さは当初からあった印象です。

西原:我々はクリエイティブに関して当初から力を入れていました。宣材写真はより選手の格好良さを引き出せるように試行錯誤しました。ライティングなども他のチームではやっていなかったことを取り入れていきました。逆に言うと強みが当時それくらいしかなかったっていうのもありますが。

 実はZETAができる前の2017年から、発足間もない2019年くらいまで、私たちは多くのeスポーツ大会やゲーム系のイベント運営とそのクリエイティブを請け負っていたんです。他のeスポーツチームのクリエイティブを担当することもありました。ZETAだけでなく、eスポーツ全体を格好良くしていきたかったという気持ちが強かったですね。

 私はeスポーツ事業に参入する前、音楽コンテンツや企業のアートディレクションをしていたので、そういった知見があったのがチームの色として出た感じでしょうか。国内eスポーツのクリエイティブに関しては世界からも評価が高いんです。先日サウジアラビアで開催された「Esports World Cup(EWC)」や「Esports Award」の現場でさまざまな海外チームの首脳陣に、日本チームが発信するクリエイティブを参考にしていると言われて、自信につながりました。

--多くの部門を持っているZETAですが、今後参入予定のタイトルはありますか。日本で最も注目度が高いタイトルの1つであるあのタイトルへの参入はファンも待ち望んでいると思いますが。

西原:あのタイトルですよね(笑)。じゃあ、ここで発表しますね。「ストリートファイター6」部門は作ります。まだどんなチームにするか、どんな選手が入るか、どんな活動をしていくかは確定していませんが、部門を作ることは確定しています。

--もしかして、このインタビューが初出ですか。

西原:そうですね。今後詳しいことは、追って発表されると思いますが、部門を作ることを公表したのは今回が最初ですね。

--貴重な情報をありがとうございます。2024年に増えた部門もありますから、これ以上増やすのは大変そうですね。

西原:そうなんですよね。「鉄拳8」のdouble選手はZETA入りしてから破竹の勢いで活躍してくれて、そのdouble選手が「ケイスケ選手と渡辺選手も一緒に参加したい、彼らを育てたい」と言うことで3人での所属となりました。

double選手

 「ポケモンユナイト」もリーグが始まったばかりです。限られた時間内で終わるのと見やすいので、個人的にも楽しんで観ています。

--EWC向けのタイトルも準備していると言う話もあるようですが。

西原:サウジアラビアでのeスポーツの取り組みがかなり活発ですし、EWCのような規模感で物事が進んでいく事が今までなかったですよね。実際現地に何度も足を運んでいますが、世界中の関係者が集っています。ですのでそこは狙っていきたいです。ただ、部門を増やすのは大変なんですよ、部門を作るごとにコストがかかりますので。

 収支面のお話をすると、既存の部門含めて部門単体だけでみると黒字化というのは難しい。たとえば「VALORANT」部門についても、私達はVCTパートナーチームですのでさまざまな規定の中で収益構造もしっかりしているのですが、競争が激しいゆえ選手の報酬も高額です。選手獲得する上での移籍金や、韓国拠点の不動産コスト、コンテンツ制作費用などなど結局支出も莫大ですので、黒字化ってかなり難しいんです。

 もちろんeスポーツチーム事業トータルとして収益を出すように日頃から努めていますし、我々ZETAはおかげさまで設立以来、毎期すべて黒字、増収増益で経営しています。

--では、最後に今後のZETAの活動についてお願いします

西原:それぞれの部門で強いプレイヤーが在籍していて、応援してくれているファンもたくさんいらっしゃいます。安心して応援してもらえるよう、そしてさらにファンが増えるように、選手がのびのび活動していけるような運営をしていきたいですね。

 発信ももっと増やしていきたいと思っており、どのようなアナウンスの仕方がいいか日々考えています。スト6部門も業界で最後発になりますが、他のタイトルと同様に競技シーンでも活躍し、みんなに応援してもらえるように手を尽くしたいと思います。

 チーム全体としては、eスポーツのリーディングチームでありたいですね。ゲームをするけどeスポーツを知らない人、そもそもゲームを知らない人にeスポーツを知ってもらうようにしていきたい。可能であれば官民で足並み揃えてやっていきたいですね。最近はだいぶ解消された印象ですが、それでもゲームにネガティブなレッテルが貼られることは多いので、ゲームの印象を良くしきたいです。

 そして日本発ながら、グローバルで戦えるeスポーツチームとしてのポジションを狙っていきます。