ぺいちくのブログ

本と建築のブログです。https://twitter.com/paychiku

王国

中村文則の「王国」を読んだ。

これで中村文則の本で今出てるものは全部読んだことになる。

この話は「掏摸」との関連があるみたいだけど、掏摸はずいぶん前に読んで忘れていたので王国の記憶があるうちにまた読みたい。僕は1回読んだ本はあまり読まないんだけど、中村文則の本はまた再読したい。図書館で借りて読んだりしたものは手元にないから、古本の文庫を少しずつあつめようと思う。

 

 

小さな森の家

吉村順三の「小さな森の家」を読んだ。

知人から建築関係の本をいくつか譲ってもらって、その中の1つ。

写真がよかった。一般向けに書かれていて、語り掛けてくるような文章もよかった。増築後のことなどは知らなかったので新たな発見もあった。

吉村順三は好きな建築家で、JAの特集号はかなり読み込んだ。レーモンドから吉村順三へ、中村好文、益子義弘、堀部安嗣、伊礼智、手嶋保などみんな吉村順三に通じる(直接間接はあるが)。

10年くらい前に長野に旅行に行った際、早朝散歩して吉村山荘をみつけた。門もなにもなく、JAでみたアプローチの写真そのままだった。かわいらしいプロポーションで、コンクリートと板張りの外観、なぜかモダンな感じがする建築だった。いつか中に入ってみたいなあ…

 

 

ヒロシマ・ノート

大江健三郎の「ヒロシマ・ノート」を読んだ。

ブックオフで中古で買って読んだ。100円だった。買ったやつがたまたま初版本で150円だった。今買ったら900円くらいする。

医師やABCCの話が多く興味深かった。平和記念式典に一度くらいは行かないといけないかもなと思った。

 

槇文彦 ことばと場所

a+uの臨時増刊「槇文彦 ことばと場所」を読んだ。

 

今年6月に亡くなった槇文彦のインタビュー本。インタビューは2021年から行われていて未公開だった。

インタビューは幼少期の話からはじまる。なんとなくわかっていたのだが、生まれや育ちが全然違って、槇家も母方の竹中家もすごい。やはり生まれや育ちがよくないと槇文彦のような建築家にはなれないのではないかと思わされる。本人が「decency(良識?)」という言葉が好きというのもこの辺にあるのではと思う。最近は違うかもしれないけど、特に戦後すぐに建築家になったような人たちはみんな生まれが普通の人とは違ってそう。学生時代の話、アメリカ時代、日本に帰ってきてから事務所設立の話は知らなかったことが多く、興味深かった。

僕は槇文彦が書いた本が好きでだいたい読んでいるし、つくられた建築も好き。建築については劇的な何かがあるわけではないけど、なぜかとてもいい。時間がたっても古くならないし、物理的にも古くなっていない(ちゃんと劣化しないようにつくられている)。

僕は槇文彦に限らず、モダニズム全盛(コルビュジエ、ミース、ライト)の少し後、ポストモダンの少し前の建築家たちがつくる建物が一番いいんじゃないかと思っている。アアルト、カーン、バラガン、スカルパ、ファンアイク、槇文彦まで(1900~1930あたりの生まれ)。CIAMではなく、チームXの世代。リージョナリズムでもあってヒューマニズムでもある。槇さんが「賑やかなオープンスペースでも、人々は孤独を愛している」というのは、ファンアイクのいう「丘とくぼ地」のイメージと似ている。都市のオープンスペースでぼんやりしたり、本を読んだりすることは、そのままdignityの関わる問題で、ずっとそこに関心があったんだろうなと思う。

 

 

 

場のちから

内藤廣の「場のちから」を読んだ。

少し前の本だけど、読んでなかったから読んだ。

この本には出てこなかったけど、著者が昔言ったりしていた「素形」という言葉についてなぜか今思い出した。これの意味を僕は多分わかっていないんだけど、プリミティブとは違うんだろうか。奇をてらったものが多い中で、海の博物館のようなもっと重力や材料とかに素直な建築のことなのかなと思う。

内藤廣がつくる建築はそのころと比べたらずっときれいな感じがする。べつにだからといって嫌な感じはしない。僕も昔はプリミティブなもののほうがいいような気がしていたけど、最近は工業製品には工業製品のよさがあるなとも思う。自分で事務所をはじめてからは建築的なピュアさよりも、劣化やメンテナンスのしやすさ、子供やお年寄りが危なくないようにとか、そういうことのほうが大事だなと、あたりまえだけど思うようになってきた。

 

木のいのち木のこころ

西岡常一、小川三夫、塩野米松の「木のいのち木のこころ」を読んだ。

数年前に文庫を買って途中まで読んで放置していたんだけど、最近ふと手に取ったらおもしろくて最後まで読んだ。最高にいい本だった。

宮大工として一人前になるまでに最低でも10年。住み込みで一緒に生活して、でも言葉では何も教えない。みんな時間さえあれば研ぐ。

 

僕も大学を出て設計事務所に勤めていた時は薄給で働いていた(鵤工舎よりも安いかもしれない)。大学の同級生は当時就職氷河期だったとはいえみんな大企業に勤めていて自分からすると高い給料をもらっていて自分が情けないような思いもした。先輩たちより30分早く出勤することを命じられていて、毎朝掃除していてほんとに修行みたいな感じだった。ひたすら図面を描く毎日で本当にこれでいいんだろうかと焦って3年務めたあと上場企業に転職したが、あのまま務めていたら自分の能力はどうなっていたかなと考えることがある(派手ではないが、後から考えるといい事務所だった)。大企業勤めはいいこともあった。お金の感覚や顧客や協力会社とのコミュニケーションなど図面をひたすら描いているだけでは身につかないようなトレーニングができた。自分の人生の中ではいったん建築ど真ん中から離れて、その時間がちょっと休憩のような感じで一番よく遊んでいた気もする。それではだめだろうなということですぐに戻るんだけど。

設計事務所を自分ではじめてからは必死だったから分からないことも調べたり聞いたりして今までやりくりしてきたわけだけど、あのまま設計事務所勤めを続けていたら純粋な技術力はもっと伸びていたような気がする。とはいえそれだと経営的なことがよくわからなくていつまでたっても事務所をはじめなかったような気もする。

西岡さんがこの本で話しているのが93年くらいだとして、その時はもう「世の中全体がせちがらくなってきました。なにしろ早くですわ。丁寧にものをつくってもらわんでいい、適当な大量生産のやすいものでいいというんですからな。」と言われているけど、それから30年経って今のほうがどう考えてもせちがらいと思うけど、自分はできるだけ丁寧に仕事をできる環境をつくりたいと思う(そのためには金が必要)。

色彩の手帳

加藤幸枝の「色彩の手帳」を読んだ。

建築の特に外観は建っているだけでずっと周りに影響を与え続けるわけだから、大きさや形態、周りからの距離、そして色はとても大事だし、設計者には大きな責任があると思う。

今まで自分が設計してきた建物は割とワンパターンというか、決まった色を使ってきた。何も考えていないわけではないけど、特に変わった色を使おうとか、色で冒険しようとか考えたこともない。

とはいえ、いつも使っている黒とか白とか灰色とかアースカラーには何か根拠があるわけではなく候補のサンプルを取り寄せてあーでもないこーでもないと決めていたので、こういった本があれば試行錯誤の中に何か根拠や指針のようなものが加えられそうな気がする。

市営住宅の外壁改修の仕事とかがあれば色分けとかにも挑戦してみたい。単に塗り替えただけじゃなくて、ヴォリュームの分節とかいろいろ効果がありそう。

今やっているリノベーションの仕事も一部ブロック造で壁の位置が変えられなくて、素材や色で勝負するしかなかったりするからこの本を参考に頑張ってみたい。

今うちの事務所にあるのは日塗工の見本しかなくて、それと建材のサンプルで十分な気もするけど、「色彩の定規」やDICカラーガイド(日本・フランスの伝統色)、PANTONEとかもそのうち揃えたいな。

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