『「アニメージュ」が見つめたTMSアニメ50年の軌跡』から出崎統『ゴルゴ13』の演出について

『「アニメージュ」が見つめたTMSアニメ50年の軌跡』なんて本が発売されていたので金額には目をつぶって一瞬のうちにカウンターに持って行ってしまった。(といいつつリサーチ済みだったのだけど)

今年はこの本と『ハーモニーという世界』(まだ未購入)と、4年前に亡くなった出崎さんについて書かれている本が発売されファンとしては嬉しい限り。『「アニメージュ」〜』まだ熟読出来ていないのだが、出崎さんの『ゴルゴ13』が付録でだったので、見たい映画は山ほどあったのだがついつい再見していた。出崎さんはテレビアニメを手がける本数に比べ映画を手がけた本数は少ない。しかし、かの押井守は『うる星やつら オンリー・ユー』を作って「映画になっていない」と絶望し、出崎さんの『劇場版 エースをねらえ!』を見てアニメを映画にするやり方を学んだと言っている。『エース』以外にも出崎さんの残したアニメ映画は、後世に残しておくべき作品ぞろいなのである。そのなかでも『ゴルゴ13』は、テレビアニメ『ベルばら』(80)『あしたのジョー2』(81)『スペースコブラ』(83)と続く円熟期の83年に発表された。

ゴルゴ13 劇場版 [DVD]

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もともと『ゴルゴ13』が無口なキャラってこともあるのだが、本作品は冒頭からしばらく経つまでほとんど会話といった会話がない。黙々と仕事をこなすゴルゴの渋さに酔いしれるだろう。日本映画には鈴木清順の『殺しの烙印』(67)や、大和屋竺の『愛欲の罠』(73)など、スナイパーを主役にした素晴らしい作品があるが、出崎さんの『ゴルゴ13』はそれらの作品に負けていない。*1生身の人間の魅力は置いておいて、「演出」を切り取ってみると物凄い映画だと理解ができる。

出崎さんの演出で言えば、
・ハーモニー
・三回パン(繰り返しショット)
・入射光
・透過光

など特徴的な演出は数多くあるが、どれも演出自体がすごいというよりも、アニメや映画においての「時間」操っていることがすごい。人にはそれぞれの「時間」を持っている。身近な体験でいえば、楽しいことをしているときは時間が経つのが早い。逆に面倒だと思っているときは、時間がゆっくり進むなどの体験は誰しもあるだろう。そういった誰もがもつ時間の感じ方を「演出」に落とし込んでいるのが出崎さんなんだと思う。キャラクターたちの「情動」が画面に優先されることで、観客にもキャラクターと同じ時間を体感させているのだ。本作『ゴルゴ13』に関してもそういった出崎さんの演出が繰り返しされている。また、本誌に掲載されている藤津亮太さんの解説が素晴らしいので、僕なんかが語る前にエントリーの指標として少しばかり引用させて頂く。

・繰り返し登場するモチーフ
作品がひとつのフォルムを獲得する一つの方法に「あるモチーフを繰り返し使う」というアプローチがある。本作では「鏡面に映り込んだ映像」と「割れるガラス」が頻出する。
〜中略〜
これらのモチーフはどう捉えたらよいか、単なる効果として繰り返したのか、それともなんらかの比喩としてそこに意味を読むのか。
たとえば、上下反転した鏡像は「死神=ゴルゴ13こそが頂点にいるこの作品世界を象徴している」、割れるガラスは「人間のもろさを表現している」などと読むことも可能だろう。ただし、本作の中には、これらの読みを決定付けるようなポイントは見当たらない。その解釈は観客に大きく委ねられている。(『「アニメージュ」が見つめたTMSアニメ50』年の軌跡』〜『ゴルゴ13 劇場版』に見る出崎演出の真髄〜より)

藤津さんも「その解釈は観客に大きく委ねられている」と語っているように、僕も勝手な解釈をさせて頂くことにする。

本作品は、ゴルゴ13のスナイパー物としてのスリリング的な面白さはあるのだが、一体誰が敵なのだろうか?ゴルゴ13はどこからターゲットを狙うのか?誰が息子を殺せと命じたのか?と一方でミステリアスな魅力もある。その効果付けとしてのモチーフが、本誌で藤津さんが書かれている「鏡面に映り込んだ映像」と「割れるガラス」といった演出だ。映画においてはキャラクターが映り込む映像は鏡がよく使われる。そこでキャラクターは鏡を見ながら心情がむき出しになる。鏡を見るというこはつまり、鏡に映る自分を見ているといったものである。

この映画の重要な場面でゴルゴの敵となるドーソンが、息子ロバートの妻に「なぜ依頼主を殺さないでゴルゴを狙うのか…」と言われたときに、ロバートの写真を殴りつけて額のガラスを割ってしまうシーンがある。これは実はゴルゴにロバートを殺せと命じたのが、ロバート自身だったという驚愕の自体を彼が知っているからである。「ガラスを叩き割る」ことで自分の感情を制御できていない。それが「息子の写真を殴る」といったように、なぜお前は死にたかったんだ?!と行き場のない感情がこのシーンに凝縮されているのである。

またロバートがゴルゴに撃ち殺されてプールに落ちる際に、ロバートがプールに反射し彼が二人に見えたり、落ちるプールが棺桶の形をしていたりと、冒頭からミステリの伏線を張っていることがわかる。
ガラス、鏡面といった演出に、息子を亡くしたドーソンの矛盾した行き場のない感情も表現されている最高の演出だろう。出崎さん演出は特徴的なので、演出そのものに目がいってしまうが、この映画を見ているとコツコツと丁寧に演出を積み重ねていることがわかる。あまりにも天才なのだ…。

『ゴルゴ13』は後世に残すべき最高な映画だし、一部抜粋させて頂きましたが本誌に掲載された藤津亮太さんの解説は素晴らしいです。ひとつひとつの「演出」を考えながら映画を見ていくと、それまで見えなかったものが見えてきて面白いので是非読んでもらいたい解説。そして見て欲しい映画の紹介でした。

最後に僕の好きな『天使のはらわた 赤い教室』から、最高の鏡面シーンを…。

「アニメージュ」が見つめたTMSアニメ50年の軌跡

「アニメージュ」が見つめたTMSアニメ50年の軌跡

*1:これらの作品の共通点としてスナイパー以外にSEXシーンが登場する