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サッカーにおいて監督解任は効果があるのか

皆さん、こんにちは、久々の更新です。ホントは、大宮対セレッソの試合か、ドルトムント対バイエルンの試合のレビューでもやろうかと思ってたんですけど、時間かかりそうなので、今日は、手軽に書けそうな話題で、ブログ書きのリハビリでもしようと思い、このネタ取り上げます。


取り上げようと思ったのは、


相馬直樹監督 契約解除のお知らせ


なんてニュースがあったからでもあります。フロンターレさん、とうとうやってしまったわけですが、個人的には、これ、逆効果じゃないかなーと思ってます。いや、ホントに。


監督交代がチームに与える影響について

「かつて監督は、三ヶ月は何とか持ちこたえねばならないものだった。それが今では四週間だ」

オットマー・ヒッツフェルト(元バイエルン監督)

さて、ですが、監督解任というのはサッカーにおいては、別に珍しい話じゃありません。あの、伝説の名監督、ヒッツフェルトですら、こんな調子です。そのくらい簡単にクビ切られます。もっとも、これは、現代の企業社会、トップのCEOの皆様にも言えるんですけどね。2006年には、全世界の3分の1のCEOが交代したそうで。アホな話ですが。


Jリーグの監督は、平均1.5年で解任されます。イングランドプレミアリーグだと、平均2年で解任です。ブンデスリーガでは、発足以来、約300人の監督が、任期満了前に解任されてます。要するに、長期政権作れる監督ってのは、まずいないって事です。


監督の就任会見で、大概、新監督さんが笑顔で挨拶をします。オシムはしかめッ面してたけど、大概笑顔で、いろんな抱負を述べます。きっと頭の中では、チームを率いて、采配をびしばし当てて、サポーターから暖かい声援と拍手をもらえる光景でも浮かべてるんでしょう。


しかし、近年のサッカーの現状を鑑みれば、監督に浴びせかけられるのは、サポーターからの声援と拍手でなく、怒号と皮肉とブーイングがほとんどで、試合の後には、監督の采配批判、戦術批判をこれでもかとばかりメディアやブログで書きたれられるのが関の山です。大概、結果はそうなってます。


サポーターから愛される監督なんて黄色いカラスと同じくらいありえない存在となりました。


なんで、サッカーの監督というのは、これほどに厄介な仕事なのかは、サッカーの世界に身を置く人なら誰でも知ってるでしょう。サッカーの監督が評価されるのは勝ったときだけだからです。引き分けと敗北は、罪であり、許されざる事なんですね。


ちょっと考えれば、馬鹿馬鹿しい話なんですけどね。サッカーの結果は監督ではどうしようもない要素が大量に絡むんですけど、勝利という結果以外は評価されない。それがサッカーの世界です。だから、サッカーの監督は、自分の職を守ろうとしたら、勝つしかない。それ以外に、自分を守る術はないんです。ただ、現実問題として、それがどれだけ難しいかは、ちょっと考えればわかるでしょう。


そんな訳で、勝てない監督は、解任される運命です。ビッグクラブでは、勝てる監督でも、「やってる試合がつまんない」とかいう理由で解任する珍しい所もありますけど。でもって、勝てる監督がいるってことは、負ける監督がいるって事です。つまり、サッカーの世界ってのは、監督解任が短期間で起こる事が、構造的に組み込まれてるんですね。無能とかそれ以前の問題で、構造的に、監督は解任されるように出来てます。勝てない監督は無能と言われますが、サッカーの世界は、「負ける監督」というのがいないと成り立ちません。なんで、一人の監督が5連勝とかすれば、その背後でどっかの監督のクビが飛ぶ仕組みなんです。今年は、J1ではサガン鳥栖、J2ではベルマーレが予想外の躍進をしてますが、その背後で、次々と監督のクビが飛んでます。でも、仕組み的には、そういうモンなんです。


しかし、ここで問題になるのが、「監督解任」が、どれだけチームの勝利に貢献するかです。


監督交代は、サッカーのチーム編成において、どれほどの効果をもつんでしょうか?実は、それを調べた人がいます。


監督交代にまつわる研究とルーキー監督の成績


さて、ここからメインディッシュ。サッカーの監督交代について、書籍でまとめられているのは、そんなに数がないんですが、その数少ない例を紹介します。


勝利を求めず勝利する ― 欧州サッカークラブに学ぶ43の行動哲学

勝利を求めず勝利する ― 欧州サッカークラブに学ぶ43の行動哲学

調べてもわからないサッカーのすべて

調べてもわからないサッカーのすべて


この2冊ですが、それぞれ、監督解任における研究の紹介や、ルーキー監督の成績についての考察があります。



まず、スプレンガーの「勝利を求めず勝利する」のP55からの引用をします。


「監督の交代はうまくいくものではない」


オランダの経済学者ルート・クーリングはこう言っている。彼は経営トップの交代が企業の成功に与える影響を解明するために、サッカーのオランダリーグを調査した。


すると、1993年から1999年までに28回の監督交代が行われたが、結果として監督交代がいい影響を与えた事を裏づけるものは全くなかった。クーニングはこう結論づけた。

「ファンとメディアの圧力のほうが、監督交代の効果の見込みより重要な役割を果たしている」


2003年、この結果に対してミュンスター大学の二人の研究者ベルント・シュトラウスとアレクサンドラ・ティッペンハウアーが賛意を表した。彼らは1963年から1998年のデータを元に、監督交代の効果について検証した。


調査は、監督交代前の12試合と後の12試合を比較するという方法で行われた。その結果、短期的には成績が上向きになることが多かったが、それだけにその後の急降下が厳しいことがわかった。これに対し順調に推移して落ち込むことがあまりなかったのが、「監督を交代させない」チームだった。


「リーグ戦における監督交代」を研究したマティアス・キルタウも同様の結論に達した。新監督は、10戦目までは3ポイント多く獲得するものの、それから効果は消えてしまう。さらに、その短期的な成功も新監督の手腕によるものではなく、監督交代がチームを刺激する「劇薬」として瞬間的に効果を発揮したものだった。

で、その後、スプレンガーは、アメリカの経営学者のマルガレーテ・ウィアーズマのアメリカにおけるCEO退任の影響の調査の研究(1997〜1998年の間の59件)から、このような引用をしてます。

「よい影響はなかった。慎重な後継者選びを怠った為だ。投資家の信頼を早く取り戻したいと望むあまり、それが企業のためになるのかということより、トップ選定の顛末そのものが前面にでてきてしまうからである」

また、猪狩真一の「調べてもわからないサッカーのすべて」では、ルーキー監督の成績を強引に評価した項目があります。で、ルーキー監督が採用されるパターンには、四つあって


1 完成度が高いチャンピオン級のチームに、クラブの生え抜きが投入される。例、磐田全盛期の鈴木政一さん、ヴェルディ全盛期の松木安太郎先生。

2 それなりの戦力を持ちつつ優勝争いから遠ざかっているチームに、OBが投入される。例、名古屋のピクシー、Fマリノスの木村和司さん。

3 窮地に陥ったチームが監督を解任し、コーチがスライド昇格する。例、06年京都の美濃部さん、09年の江尻さん、05年の中田さん。

4 資金難などで戦力不足が明らかなチームがルーキー監督に火中の栗を拾わせる。例、去年の浦和、02年の札幌の柱谷さん。


ですね。で、ですが、当たり前ですが、3と4は、ろくな事になりません。そもそも無理難題ですから。1のケースが一番幸福で、松木監督でも勝てます。というか、松木さんのルーキー監督時の勝率は、77%で、もの凄い数字をたたき出してます。2はケースバイケースって所でしょうかね。


監督解任は短期では効果があるが、長期的にみれば何の意味もない

まぁ、僕がいいたいのは、こういう事なんですけど、サッカーにおいて、監督の解任ってのは、短期的には効果があるようです。解任後、新監督がやってきて、10試合くらいは効果がある。研究結果でもそう出てるし、実際、僕の感覚的にも、それは合ってます。監督交代後の10試合くらいは、上手く行く。研究によると、監督交代後、10試合で平均して3ポイントほど成績が上向くみたいですが。


ただ、その効果は、10試合前後で消えちゃうんですね。しかも、その後は、急降下が厳しいケースが多いと。最近のインテルでは、ラニエリ監督なんてモロにそれですね。一時、持ち直してましたが、その後、元通りになって成績が急降下。で、解任。チェルシーも監督交代後、成績が良くなってますが、あの効果は10試合程度で消えるでしょう。そして、その後は、元通りのチェルシーが帰ってきます。日本だと、やっぱジェフですかね・・・監督交代後、最初は上手くいくけど、その後グダグダ・・・という。


今年のJ1で言えば、ガンバと川崎と横浜FCが、監督のクビを飛ばしたわけですけど、これから、あと6〜7試合くらいは、成績がそれ以前よりは上向くと思います。


ただ、言いたいのは、それは一時的なモンだって事です。そういった効果はすぐ消えて、元通りになっちゃいます。ほとんどのケースで、それが一般的なんです。


だから、監督解任をするタイミングってのは、唯一、「チームが降格圏内にいて残り試合が10試合を切っている」時が、最も効果的だという結論になるんですよ。序盤に監督交代させても、効果は短期で消えて、その後、急降下に見舞われる事が多いので、大した意味がないんです。


もっとも、06年の横浜FCの高木琢也監督の時みたいな例外というか、奇跡が起こる事もありますけどね。


一応、言っておきますが、たまーに例外的な監督ってのはいるにはいます。シャムスカとかオシムとか、日本人では西野朗とか関塚隆あたりです。


U23の事で、関塚さん叩きがよく見かけますが、関塚さんって、特別な監督の一人です。就任一年目でJ2からクラブを昇格させ、その後も継続的に結果を出せた監督なんて、他にいないです。J2の一年目で勝率80%を記録しており、これは、J2でのルーキー監督の最高勝率ですし、その後も、コンスタントにJ1で結果だして長期政権を作ってます。J2から昇格させたばっかのチームを、その後、就任2年間で、ACL圏内にまで引き上げるってのが、どれほど難しいか、それを理解してくれる人がなんで少ないのか理解に苦しむ所でして。こんな事が出来た人、関塚さんしかいないんですよ。U23だって、アジアの大会で優勝したり、きっちり予選突破したり、結果はコンスタントに出してるじゃないですか。


僕は、関塚さん叩きについては、代表監督にまつわる儀礼的なもんとして、しらけた目でみてる口です。関塚さん以上に継続的に結果を出した監督なんて、日本人じゃ、西野朗しかいません。


そんなわけで、U23の監督を交代させるなら、後任として、西野朗を呼べるのが条件と考えているクチです。それ以外の日本人監督は、ほぼ全員、関塚さん以下の能力しかもってないので、問題外です。実績からみたら、そうなんです。


そんなわけで、フロンターレは、関塚さん以上の監督が欲しいなら、西野朗を呼ぶしかないと思います。いや、マジに。


西野朗って監督は、マイアミの奇跡の奇跡に始まって、柏レイソル、ガンバ大阪で、継続的に優勝争いできるチームを作り続けた実績をもつ人です。こんな人、他にいやしないんですよ。監督業で、優勝争いしなかったシーズンが3シーズンしかない。他に、こんな監督いますか?って話で。


まぁ、雇うのに億かかるだろうから、西野朗に億はらうより、その金で良い選手取った方が良いというもの事実かもしれません。


今日はそのあたりで。