owatax's blog

ニコニコのブロマガから引っ越しました。

ラップ調音MADについて

 

この記事は音MAD Advent Calendar 2024の1日目の記事です。
サムネイルはかすてらさんの記事から(勝手に)お借りしています。

まだ埋まってないところは公序良俗に反しなければ自由に投稿していいらしいですよ。文字を書きたい人は是非!

 


▲2021年の告知ツイートだけど企画の趣旨です。覚悟しとけ!

 

もくじ。

 


◆ラップ調音MADとは?

まず前提として、この記事の中で「ラップ調音MADとは◯◯だ」と取り決める意図はありません。

かつて2chラノベ板では、ライトノベル「あなたがそうだと思うものがライトノベルです。ただし、他人の同意を得られるとは限りません。」と表現していました。この定型文は非常に汎用性が高く、ラップ調音MAD、ひいては音MAD自体の解釈についても同様に言うことが出来ます。

 

実際のところ自分もこのように捉えていますが……この言葉だけで済ませてしまうと話が全く進まなくなってしまうので、今回の記事では便宜上

「連続的な台詞合わせを主体とし、ラップ調の楽曲を用いて制作された音MAD」

のことをラップ調音MADとして解釈し、紐解いてみようと思います。


※「ラップ調音MAD」という言葉が指し示す範囲を過剰に狭く定義したくないため、意図的に当たり判定が大きい表現をしています。
そのため反例は無限に出てくると思いますが、今回の記事は一般的な定義を定めることを目的とした記事ではないため、大まかに「ラップ調音MAD」というタグが指し示す作品群の雰囲気を掴むための一つの尺度にしてもらえればと思います。

※また、必ずしもAND条件という訳でもありません。
どちらか片方、あるいはどちらの条件も満たしていない動画でも「ラップ調音MAD」であるように感じられる動画もあり、また両方満たしていても素材の印象などでラップ調音MADと感じられない動画も同様にあるかと思います。

 

※2024.11.28時点でのタグ検索の結果をアーカイブとして残しています。

 

 

 

◆連続的な台詞合わせ……?

上述の「連続的な台詞合わせを主体とし、ラップ調の楽曲を用いて制作された音MAD」という解釈について、前半部から順番に紐解いていきましょう。

 

「連続的な台詞合わせ」とは、主に以下の2パターンを想定しています。

  1. 既存メディアから、大筋を変えずに一連のシーンを引用すること
  2. 既存メディアの台詞を断片的に組み替えることで、制作者自身の思い描くストーリーを連続的に表現すること

 

現在「ラップ調音MAD」のタグ検索で該当する動画の多くは1に当てはまりますね。合作の影響もあってかmellowな雰囲気のものが多いように見えます。

  • 初期に作風を確立「その時になって考えればいいんだよ」「まどかのFlower Dance」、そして「Meme」
  • 同じ台詞を何度も繰り返しつつも徐々に変化させ、独自のフロウを生み出した「Have a nice SUKIYAKI!」「誰かん家でゴロゴロしたい」

  • 美しい撮影映像とリズミカルなアナウンス音声を軸に旅の情景を演出する「エノシマ15号」および旅情MAD全般
    (※こちらに関してはかなり広く「ラップ調音MAD」を解釈しています/実際、この動画に当該タグは付いていませんが、近い雰囲気を感じるため紹介しています)

 

2に関しては数自体は少ないものの、様々な可能性の広がりを感じさせる作品が多い印象です。

  • 複数のシーンを組み替えることで、押韻やラップバトルといったHIPHOPの源流的な表現を追求した「~和菓子モノ~」
  • 複数の作品を並行的に展開することで、単一作品の引用だけでは生まれない感情の起伏を生み出した「/傷/」
  • ドライブをテーマに複数の作品を渡り歩き、シームレスな楽曲の繋ぎと共に空気感や時間軸の変化を静かに演出した「シティ派音MAD」
  • 個々のパート自体は1の作り方をしているものの、「夏」というキーワードを軸に世界観の共有を図った「夏オムニバス」

 

◆ラップ調……?

続いて、「連続的な台詞合わせを主体とし、ラップ調の楽曲を用いて制作された音MAD」という解釈の後半部を紐解いてきましょう。
こちらに関しては、ラップという言葉が指し示す「包括的な音楽ジャンル」と、「歌唱法」の2つの観点から見ていきます。

 

・包括的な音楽ジャンルとしての「ラップ」

まず前者から紐解きます。が、ラップを基調とした包括的な音楽ジャンルって何?ブルーレイディスクセックスって何……?

 

となりますが、これは厳密に定義することが事実上不可能です。何故なら基本的にどんなジャンルの音楽でもラップを組み込むことは可能だから……

一般的にイメージしやすいラップ楽曲のジャンルで言うとOldSchool, Breaks, Trap, Drillなど様々ですが、ポップスやアイドルソングの中にラップパートが挟まれることも珍しくないのは肌感的にも理解出来るかなと思います。

※参考:ロック/ポップスはいつからラップを取り入れたのか?|マサ | 洋楽情報

 

こういった状況を踏まえると、音楽ジャンルから厳密な解釈を行うことは難しいように見えます。もちろん広義/狭義といった表現である程度区別することは出来るかもしれませんが、明確な区分けとして線を引くというより、曲を聞いた時に受ける「ヒップホップ感⇔ポップス感」のようなグラデーションの濃淡で捉えるのが良いかもしれません。

 

・歌唱法としての「ラップ」

続いて、歌唱法としての「ラップ」から見てみましょう。
……ただ、これも音楽ジャンルと同様に非常に線引が難しいです。

 

まずはイメージしやすいラップ曲から聞いてみましょう。

エミネムさんが教えてくれるシリーズ」でお馴染みですね。
ダークな雰囲気、聞き手に強く語りかけてくるメッセージ性、これでもかと繰り出される押韻と、所謂ヒップホップ/ラップと聞いてイメージするものと概ね相違無いかと思います。

 

一方、ハーフミリオンを記録し、J-RAPシーンのみならずJ-POPシーンにも多大な影響を与えた楽曲である今夜はブギー・バック」、およびTVアニメ「サムライチャンプルー」の劇伴を務めたことで人気を博したNujabesによる「Lub(sic) Part 2」を聞いてみましょう。

どちらもかなり落ち着いた雰囲気ですね!
曲調は大きく異なりますが、こういった楽曲も当然ラップです。

 

更に、Nujabes - Reflection Eternalをサンプリングして唄われたポエトリーラップの「生きる Reflection Eternal LHW? Remix」を聞いてみましょう。

 

こちらの動画説明文では、ポエトリーラップについて以下のように説明されています。

【ポエトリーラップとは】
 不可思議wonderboyが作ったポエトリーリーディングとラップを融合させた音楽ジャンルである。ポエトリーリーディングは、詩を読み上げるアートを広く指すが、ポエトリーラップは音楽に合わせて詩を読み上げる歌唱法である。ラップとの区別が曖昧であるが、ポエトリーラップはラップに比べて韻を踏むことを主目的としない。

 

mellowな印象の「ラップ調音MAD」にかなり近づいてきました。
上記のようにラップと一口に言っても非常に幅広く、またサブジャンルまで含めればより様々なスタイルがあるかと思いますが、ひとまず大まかには

「源流寄りのヒップホップ ⇔ ローファイ(Jazzy) ⇔ ポエトリー」

といった区分けは出来るかと思います。これらが緩やかにグラデーション的に繋がっているイメージですね。
人によって解釈は異なるかと思いますが、現状ではラップという大きな括りの中にこれらの全てが包含されているような状態ですね。

 

そして、ここで伝えたいのは押韻が無ければラップではない」「攻撃的な内容や、強い主義主張がなければラップではない」といった区分けは必ずしも機能しないということです。

原義としてのラップにこれだけの幅広さがあるということは、「ラップ調音MAD」も同様の幅広さを有していると言えるかと思います。

※ラップ自体が指し示す範囲の広さに加えて、「ラップ"調"音MAD」と境界が曖昧になるような表現がされていることからも、厳密なジャンル分けや線引きなどを行う必要はないように個人的には思っています。

 

 

・コラム:J-RAPとラップ調音MADの成り立ちにおける類似点

書籍「ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門」(p.130)においては、今夜はブギー・バックが売れたのは事故」であったと評されています。

 

なぜ事故だったと評されたのか?それはこの楽曲のスタイルが本来「カウンター」として機能するはずのものだったからです。

詳細な流れは書籍を参照いただければと思いますが……
本場のシーンにおいては、攻撃的な楽曲(ギャングスタ・ラップ)やラップバトル、罵り合い(beef)が主流派として大きな存在感を放っていました。その状況に対するカウンターとして「外した」楽曲が機能していた訳ですね。

しかし、日本ではそういった攻撃的なイメージのHiphop楽曲が大衆に広がり切る前にカウンター曲がヒットしてしまい、やや歪な構図となってしまったと。(とはいえ、その後にはマイクロフォン・ペイジャー等の活躍により「外し」ではないヒップホップも広まることになります)

 

現在のラップ調音MADを取り巻く状況においても、これに近い感情を持つ人は少なからずいるように思います。事実、上記と似たような流れを辿っている訳ですからね。

ただ、ニコニコ動画上のタグは誰か一人によって定義されるものではありません。
ヒップホップ原理主義的な音MADがラップ調音MADタグで数多くアップロードされたり、あるいはラップバトル的な動画がスマッシュヒットすれば、mellow/ダウナーな動画が主流なラップ調音MADの状況もまた変わるかもしれません。

 

 


◆ラップ調音MADのルーツ

◆単語の源流を辿る

まず、ラップ調音MADという言葉自体のルーツはbonosanさんのブロマガです。2014年の記事ですね。

 

もっとも、「ラップ調音MAD」と1ワードで表現されたのがこのタイミングだったというだけで、実際にはラップ調/ラップ的な音MAD自体はこれ以前にも存在しており、似たフレーズで表現されていることもあったかと思います。

 

 

◆作風の源流を辿る

重要なのはどちらかというとこちらです。正直なところ見落としが多そうなので補足してほしい!

 

・サブ垢MADの人

投稿動画の説明文に「サブ垢MAD一覧 ・・・ mylist/10286090」といった定型文をほぼすべての動画で残していた頃から、通称として「サブ垢MADの人」と呼ばれるようになった制作者です。

 

「私なんて先週キュゥべえと契約したばっかりだし」「その時になって考えればいいんだよ」辺りの作品は音MADでのドラム打ち込みが流行した源流でもあったように思います。再生数の伸びも相まって非常に影響力の大きい作品ですね。
※ドラム打ち込みに関しては「テクスチャの剥がし方」から始まるドゥヴァンMADの流行で爆発的に流行しました。
※「既存曲にドラムを追加してトラックを制作し、その上に台詞合わせを載せる」という制作手法は、「サンプリングを駆使してビートメイクを行い、その上にラップを載せる」形式のHIPHOP楽曲と構造が似ているため、こちらの切り口から掘り下げるのも面白いと思います。

 

2014年の「Meme」はその年の音MAD10選でも上位にランクインし、こちらも同様に多くの作者に影響を与えました。

 

また、作風ごとにアカウントを使い分けていた(と思われる)影響で、投稿動画が複数のアカウントに点在した影響か、「サブ垢MADの人」というタグが定着していたのも大きかったように感じます。

当時、台詞合わせを主体としていた方でいうとfillinさん電球さん看板さんなど(上げようと思うとキリがない!)も存在感も大きかったですが、動画のタグから1クリックで似た動画を辿っていけることの影響もあってか、サブ垢MADの人の動画は比較的後世までジワジワと広がっていたように思います。

 

 

・()さん

検索避けをしていそうなユーザ名なので詳細の言及は控えておきます!
当時、何なら今でも珍しい選曲をされている方ですが、ヒップホップを原曲に用いた台詞合わせの音MADを多く投稿されています。

 

・Flower Dance

シリアス、もしくは感動的な音MADが楽曲単位で流行したものの走りです。
源流となる「まどかのFlower Dance」の投稿から数年後にフォロワー作品が多く作られています。

今見ると動画数が思ったより多くない!
……ですが、当時の肌感覚で言えば「シリアスな音MAD曲といえばFlower Dance」というような共通認識があったような気がします。

また、「まどかのFlower Dance」に関して特筆すべき点で言うとやはり#0:37や#1:15等の原曲のみが奏でられるパートですね。
この動画が投稿される前にも、台詞合わせが始まるまでのイントロを長めに取る音MAD自体は少数ながらありましたが、本動画では楽曲やストーリーの展開に合わせる形で意図的に台詞を抜く演出が行われています。

音MADにおける編集と言うと、やはり源流となるMAD(おもしろ動画)として長年培われてきた「情報を追加する」アプローチが取られることが多いです。
そういった中で、「情報を抜く」編集方法をここまで見事な形で指し示したことには非常に大きな意味があり、後続の音MADシーンにも多大な影響を与えているのではないかと思います。

 

・SHAKER

Flower DanceをシリアスMADの第一次ブームとして捉えると、第二次ブームに当たるのがSHAKERです。おジャ魔女どれみで人が死んだ回」のスマッシュヒットにより知名度を大きく広げました。

SHAKER_MADの流行を機に、シリアスさやストーリーテリングを重視するスタイルの音MADの認知が非作者層にも少しずつ浸透していったように見受けられ、その傾向はコメント欄を見ることでも感じられるかと思います。

一例として、「三つ星だからね」の投稿時点ではサビで歌わないことに対する困惑(あるいはオモシロ)として捉えるコメントも目立つ一方で、「おジャ魔女どれみで人が死んだ回」では困惑を示すコメントは殆ど見当たらない……などの変化を観測出来ます。
視聴者側としても、こういった作風の動画を見る上での鑑賞方法や心構えなどが少しずつ形成されていったように感じます。

 

・その他、影響を与えたと思われる音MAD(の一部)

やや時系列が前後しますが、ラップ調音MADに関して影響を与えたと思われる動画を一部紹介します。(こちらのトピックはかすてらさんにご協力いただきました。ありがとうございます!)


当時の音MADとしては珍しく、ヒップホップ楽曲を原曲に流行したココロオドル
特徴的な台詞を繰り返す手法を広く浸透させ、後に「うちはラップ」等で二次ブームも巻き起こした「モグのテーマ」
Flower Dance以前のシリアス寄り台詞合わせの原曲として局所的に人気を得ていた「恋の実験室」(※どうしても課長と恋の実験室の印象が強いですが!)
そしてラップに於けるVerseとHookの手法を取り入れた「JIVE MY SOULGEM」をどうぞ。

 

・MIXTAPE -ラップ調音MAD-

ここまで来るとかなり現代ですね。
制作背景等に関しては合作主催のかすてらさんがnoteに纏めているので是非こちらをお読みください!

ラップ調音MADを題材とした音MAD合作は現在では複数ありますが、制作スタイルの幅広さで言うと本作が一番幅広く、また比較的コンパクトに纏まっているため、ラップ調音MADの作風を俯瞰的に見ることが出来ます。導入に非常にオススメですね。

 

・後続の合作、個人作(たくさん)

ということで戻ってきました。
「MIXTAPE -ラップ調音MAD-」のタイミングで「ラップ調音MAD」という言葉が改めて周知された影響か、タグ経由で非常に多くの動画が見ることが出来るようになりました。(嬉しい!)

 

前項までで触れたように、「Flower Dance」「SHAKER」等のシリアスMADの流れや、「ローファイ・ラップ調音MAD合作」の影響もあってか、現在は比較的シリアス, メロウ、ポエトリーな雰囲気の作品が多くなっていますね。(だからこそ、「ファイトクラブへようこそ」はカウンター的にも機能していて非常に輝いて見えました!)

 


 

……ということで、ラップ調音MADに関する解釈と源流を辿ってきました。

ラップ調音MADは今現在も変化を続けている最中のタグ(及びシーン)です。前述した通り、こういった動きは誰か一人によって定義されるものではなく、各々が自分の好きな「ラップ調音MAD」を追求することによって形成されるものであり、その形は時々によって有機的に変化します。

 

私個人としては勿論現在のラップ調音MADタグも好きですが、今後何かしらの形で変化したラップ調音MADもそれはそれで面白く見ているかと思います。
今後も引き続き興味を持って見続けていきたいですね。

 

おわり。