朝が眠くてしょうがない(平日限定)

朝起きていつも通りスーツを着て、ネクタイを締める。いつも通りの事だが、これだけの事でも人間かったるくなるもので、それはこれから仕事をしにいかなければならないからに他ならない。去年なんかは、かったるいながらも朝はスカッと起きてたのに今年ってばこれどうしたのかなあ、いつまでも眠い。とか思ってたら来客を告げるチャイムが鳴った。こんな朝早くに誰かいなと思い、ドアの覗き窓を覗くと、犯罪者然とした小汚いおっさんが立っていた。俺はこの犯罪者然とした背の低いおっさんを見た事があるなあ。なんせ犯罪者然としているし駅の指名手配犯のポスターだったかな。とか思ってたら台所で朝食を作ってた母が卒然やって来て鍵とチェーンを開放し、犯罪者然とした禿げてはいないおっさんを招じ入れた。俺はそこでやっと思い出したのはその公営競争場にしか似合いそうな場所が無さそうなおっさんが母の間男、後夫というかそういう感じの奴であるという事だ。「あんたか」と思わず口に出した俺は侵入して来たおっさんを前にあとずさりするしかなく、あとずさりしつつ、鞄を手に掴み、朝食も食わずに家を出た。ドアを出たすぐの所には至って普通の小学生5、6年くらいの男の子が立っていて、これがもしあのおっさんの子ならあまりにまともそうな子である。


家を出た俺は朝食と朝便をし損ねてしまったので、馴染みの料理屋に行って一度に用を済まそう。店に入ると、注文も取りあえずトイレへ向かうが、騙されてはいけない。土間レベルにあるトイレは薄汚いが、その奥の座敷のさらに奥のトイレ、つまりそいつん家のトイレは普通なのを知っている。だからずかずか上がり込むのずっかずっか。


朝便を済ますと、まだ買ってないCDの事を思い出し、朝食も取りあえずそいつん家を出た俺の足はそんな感じの店へ向かっていた。その店は本、CD、DVD、トレーディングカード、やかん、ルアー、ピアス、次元大介のフィギュアー、ガム、無線機、熊田曜子のサイン、タレッ熊猫、親指シフトキーボード等が乱雑に置かれたありがちな店だった。CDもそこそこに俺はツインピークスのDVDをレンタルしようと該当コーナーに向かったのだが、コーナー入口に掃除機が、それもホースのやたらと長いのが無造作に放置してあり、別にそんな物は跨げば難なく中に入れるのだが、もうそんなふざけた店には居たくない。


悄然として店を出たは良いが喉が渇いた。入口そばに自販機・・・自販機?真っ黒くてもやもやした、しかし大きさ的には自販機に違いないサイズだが。僕は吸い寄せられるように自販機?に近付き、普通なら小銭を入れるであろう辺りに小銭を持った右手を伸ばし、投下すると、闇は僕を包み込み、僕は闇に包み込まれた。取りあえず商品ボタンがあるであろう辺りに右手を伸ばした。手応えと同時に闇は散じ依然として闇黒いままの自販機?の足下にはワックスを入れてあるような金属製の円柱形の中型の缶が置いてあり、そこにゴトツと落ちて来たのは濃縮トマトジュース500ml。しかもその缶にはゲロがいくらか沈滞しており、なので先程のゴトツという音も正確にはゴベチであった。ゲロの付いていない所を持ち、なんとかプルタブを上げ、口を付けないようにトマトジュースを口腔内に放り込んだが、ゲロの酸っぱい臭いは免れる事はできず、しかもそも自分は喉が渇いたから自販機?に小銭をドロッピングしたのであり、トマトジュースじゃ喉の渇きか潤わないだろうがバカか。しかも500mlも飲むか。加減を考えろ。と暴れて缶を投げ付けたかったが、それってなんか反社会的だし、僕は准社会的なので、そっと缶を置いて立ち去った。


あっちーなしかしと思って携帯を見るともう9:59。あっちゃー会社に行くのをすっかり忘れてた。あーなんて連絡しよう。締切もあるし今からでも行くか。でも始業時間から一時間も経っているというのに誰からも連絡が無いってのはどういうことだ。そっちがその気ならこっちだってもういい。何の連絡もせずに休んぢゃる。そうと決まればこの暑苦しいスーツとネクタイを剥ぎ取ろう。


瑶然家に帰るとまだおっさんと連れ子がいる気配があるので、こそこそと自分の部屋に戻り、普段着に着替え、こっそり部屋を出た。ちらと見えたが刺身でも食っているらしい。朝から刺身とは豪気な事だ。


家の前から出ているバスに乗り、どこへともなく向かっていると、社内に僕の勤めている会社の人がいて、その人は隣の部署の人で僕は喋った事が無いのだが、そんなのお構いなしに話しかけて来て「秘書の○○がお前の部署に異動になったな。知らないの?」などと言うが見ての通り今日の俺は普段着でフラフラしているので知る由も無い。第一秘書の○○の事だってよく知らない。面倒になったので次の停留所で降りた。


あてがあるわけでも無いので、彷徨い歩くしかない。するとまたもや既視感。ああこのバンガロー的ー家ーがありー、例のーおっさーんが住んでいるのを何か見た、うん、確か。と思ったら案の定で、おっさーんが帰って来た。ははやっぱりか。じゃ俺も帰ろ。


家に帰ると例の連れ子はまだいた。さっさと部屋に閉じこもったから、姿は見てないけど。テレビをつけるとサッカーをやっていた。ベナユンがスペイン代表のユニフォームを着ていた。はは、時代も変わったな。