SI屋さんとSIと、直近の課題について。

某セッションでちょっとしゃべったことをつらつらと。SIの現状と近い将来について思うところをまとめておきます。自分自身の立ち位置も確認していくという意味で。

結論的にいうと、SI自体は必要とされていますが、SI屋さんのビジネスモデルは成立しないという状況になるので、旧来の「SI屋さんの方法」ではうまくいきません。なので、別のやり方でSIをどうやっていくか?という議論が必要になりますね、という話です。

まずSI事業は人月稼働で商売をしています。スタート地点はそうではなかったのですが、一旦大きな人数を抱えると、食わせる必要があるため、より大きな仕事を取る羽目になります。要は稼働させる事、それ自体が目的になります。稼働を維持させる事で、収入を確保する事ができ、確保された収入で稼働のための人員を維持できる。そもそもそういう循環をベースに組織の目的が、「結果として」形成されてしまっています。

副作用として、この時点で、どうしても顧客視点は薄くなります。稼働率優先になると、どういう価値を顧客に届けるとか?という視点が、特にマネージメントでは相対的に優先度は低くなります。これ現状では仕方のないことでしょう。良いとか悪いとか、そういう議論ではなく、組織の合目的性の維持が根っこにありますよ、という話です。

他方、エンドユーザーから見えると、良く言えばきめの細かいシステム、悪く言えば整理が面倒くさいので慣れたままの環境を維持したいシステムを、メンテナンス・維持できる仕組みを外に求めた、すなわちSIを外に求めたということになっています。人材を抱えるコストを払わない代償として、SI屋の存在意義を求めたとも言えるでしょう。人はいないが、金ならある、意図するかしないかは別として、結果論的にはそういう形になりました。(もっとも最近は、人もいないし、金もない!という話も多くはなりましたがw)

顧客のシステムのうち、特に基幹系のシステムは基本的にパッケージカスタマイズには向きません。よほどのニッチ・トップをめざした業務系パッケージならともかく、ありきたりのERP系の仕組みではまったく対応できません。理由は種々にあるので、詳細な議論は別の機会に譲るとして、結果から言うと、(これが惰性なのか、ちゃんとした検討の結果なのかはともかく、)現行のパッケージでは相当のカスタマイズが発生することが多いです。個人的な経験的にいうと、パッケージを作っている人間に業務経験が少ないというのが最大の理由だと思っています。この結果、一定のSIは必要な状態がユーザーサイドのITでは続いていましたし、今も続いています。

結果、このような微妙な需給バランスにマッチした形として、今のSIの仕組みそのものは、成立してきています。マーケットメカニズムとしては、ある意味でそれなりに効率の良い仕組みではあります。・・・ただし、前提としては、稼働させることが可能な人員の「総体」と、稼働する事でなんとか必要なシステムが供給される、すなわち頑張れば最後は作る事ができるという一種の保証が市場の裏打ちとしてあったわけですが。

これらが成立しなくなっている気がします。

まずは、供給サイドでのSI屋さんの事情ですが・・・
問題点は大きくは二つあります。

一つは、そもそも供給サイドの母体になるべき人員の供給が、若年層の人口減とともに圧倒的に減少しているということです。詳細な統計データを見るまでもなく、25-35歳の就労人口は1990年を基準とすると2010年以降は、実に50%近くにさがります。いいですか?1970年の高度経済成長期との比較ではないですよ。これは実際に体感されている人や薄々勘づいている人も多いと思います。

よく言われるITの35歳定年説は、見たところ体力的なものです。これは、すなわち、SIで使い倒せる体力がある年齢の上限が35歳であって、技術的な吸収力ではないと思います。(吸収力は基礎勉強性向によるので、年齢は関係ないです。)仮にこの35歳以下の年齢層が半分にもなれば、すなわち、従来のピラミッド構築型のSIはまったく回らなくなります。“労働人口構造的”にです。

この傾向は、もう現れていて、ここ4−5年のSIの失敗率は、個人的に見ている限りは異常と言わざるを得ません。人員の確保ができないため、もう猿だか、猫だかわからないような人員ですらSIの現場に突っ込まれていることが日常茶飯事になっています。というか、そうでない現場の方が少ないように思えます。

深刻なのは、人口構成の大きな変更によるインパクトは、労働集約産業ほど強烈になるのですが、特に現場から距離のある経営陣や部長以上の経営的中間管理職には、どうしても、その意識が薄くなってしまうということです。こと最近でいうと、クラウドやなんやらで、SIはどうかわるかという議論は、情報誌・雑誌・果てはイベントや、その手の座談会で良く聞きますが、下支えのSIの産業構造の崩壊に対する自覚はまったくないのは、よく観察されるところです。

クラウドのインパクトは関係ありません。SIの現場を見ればわかりますが、もうなんだこれは?という恐慌状態も多々見受けられます。

偉い人「代わりはいないのか?」
PM「居ませんよ。」
偉い人「いや、エースの代わりじゃなくて、普通でいいんだけど。
設計出来て、そこそこ実装できて、普通にテストかければいい。
インフラはもう知らなくてもいいから」
PM「・・・それエースって言うんですよ。知ってます?」
偉い人「まじで?」
PM「まじで。」
偉い人「いないの?」
PM「絶無・皆無(目線は遠くへ。かなり遠く。」

...これが現実ですね。クラウドでSIが変わる?いや変わるべきSIがもう成立していません。

現場感覚が薄くなるのは、管理職になれば必然的にそうなるは仕方がないことです。これに加えて、年齢自体があがると、自分の現役時代での環境をそのまま想定してしまうのが人間です。結果として、産業構造が大きくかわる節目での、兆しのピックアップにはどうしても、時機を失することが多くなります。これは個々人の能力というよりも、組織そのもののもつ一種のジレンマみたいなものと言えるでしょう。(自分だけが違うということを言うつもりはなく、自戒もこめて、そう思っています)

要は、クラウドとか小手先の要素技術でどうにかなるフェーズはとっくに過ぎ去っています。これに、経営層の年齢的・経験的な先入観も影響した結果、拍車もかけて、なおさら従来型のSIが成立しません。

二つ目は技術的なハードルがあがるようになったと思います。

これは計算リソースが、予想以上に潤沢になったことにより、「やるべき事が増えた」ということです。ポイントは「やれることが増えた」ということではないです。(この勘違いは、ことSIにおいては大きいです)さらに具合が悪いのが、かっちりモノをつくるという風潮が駄目よ、という流れも加速していることです。本来アジャイルや、Web系、Rubyを含めたLL系・スクリプト系は、勝手気ままに思いつきで作るということとは違うはずです。残念ながら同じコンテクストになってしまっていますね。そろそろSIのコンテクストではそのやり方は違うんじゃないか?ということは気づいても良い頃です。

これでも、昔のリソース制限化では、自然にハードウェアの制限がかかって、無茶はできず、大崩壊する前に歯止めがかかったのですが、現在では「多少無茶でも動いてしまう」ということがあるため、とりあえずやっつけろ!という方向に走りがちです。設計していないのに実装するとか、普通に考えればないはずなのですが、普通にあります。

なので、どうするか?ということになると、やたら一杯約束事を決めるオペレーションになります。これは工数がかさみます。結果として、余計なオーバーヘッドがかかる。つまり失敗する確率があがる、ということです。

・・・以上のような状況は、すでに現状であり、つまり、稼働率優先のSIビジネスは「供給サイドの理由」で成立しなくなりつつあります。需要はあるのにも関わらず、です。

このインパクトは、確実に需要サイドのエンドユーザーに影響します。
まともにSIをやれる会社が減るどころか、皆無になる、ということです。んで、ご愁傷様なのは、大抵のエンドユーザーの上役は、SIの事業構造なぞ知りませんから、「なんでできないのか?契約解除して、訴えろ!」という運びになります。表面的な問題点はいくらでもあげつらう事はできるでしょう。ただし問題の根っこは構造的なものが大きいことがわかりづらいです。もともと、エンドユーザーさんのIT化の深耕のバックボーンは、SI屋さんの稼働率ビジネスにある意味寄りかかっていたキライがあります。そんなことをいわれても、「お互いの事業領域のリスクまで話をするのは、完全越権行為というよりも、議論が成立しないので、今更困る」というのがエンドユーザーさんの現実でしょう。

しかし、エンドユーザーさんが思っている以上に、現実はシビアです。要は、問題は特定のSI屋の問題ではないからです。極論をいうと「すべてのベンダーで、金を払ってもできあがりません」という状態になると言っています。今後大規模なSIは全部失敗(納期と機能を事前の約束どおりデリバリーすることを一応成功とします)する、という前提で構える位のスタンスは絶対に必要です。

・・・これは泣けますよ。

とはいえ、積み残しの先送り老朽化システムは、まさに使用済み核燃料のように積上っています。先送りでコストがあがる、ということは先送る人はあまり考えないので、完全にモラル・ハザードですが、現実になってしまっています。

さて、対策案はあるのか?という話ですが、端的にいうと、あまり有効な策はないです。
SI屋さんサイドから見れば、需要はあるのだが、供給が間に合わないので、供給の手法を徹底して変化させるしかない、ということになります。稼働率優先のビジネスをまずは完全にギブアップする。これは相当ハードルが高いです。少数の人間でも一定のSIが回る仕組みを構築し、同時に相当な額の一時的な(あるいは恒久的な)売上減を前提とした上で全体の計画を立て直して、人繰りに依存しない組織立て、道具立てを準備していく必要があります。
話題のクラウドはその一助にはなるでしょう。クラウドでSIが影響を受ける?違いますね。クラウドを利用しないとSI自体が成り立たないというのが実態になるでしょう。それほどインフラの人員は貴重になります。クラウドは所詮ツールに過ぎません。顧客に価値の提供を行うことが最優先で、かつ現行の手持ちのリソースが決定的に不足し、また稼働率優先のビジネスを放棄せざる得ない現状では、使える道具は全部使うことが必要です。

さらに、エンドユーザー・サイドでは、主導権がないという点でさらに深刻です。絶望的といってもいいでしょう。対策案はあるのか?という話ですが、やるとしたら、エンドユーザーさんで徒党を組んで、SI屋に乗り込んで、役員・社長の経営陣にプレッシャーをかけて、リソースが限られた状況でもSIが回るように「自律を促す」という方向しかないでしょう。あとは、決死の自社開発ですね。これは最後の手段でしょう。・・・ま、冗談は別として、SIが社会的に需要があるにもかかわらず、供給サイドが自壊しつつある、という状況はユーザーサイドは、もっと注意深く見る必要があります。以前にように、出来の悪いRFPで、ベンダーの競争を無意味に煽り、コスト競争を過剰にプッシュした上に、リリースができないと、契約をかさにきて、法廷闘争で脅せばどうにかなる、という発想はまったく通用しません。代わりがいないので。

SI屋が自壊することで、困るのはむしろSI屋ではなく、適切なSIが提供されないことにより、あたかもメンテ不能な原発のような、システムを抱えるエンドユーザーさんになります。
冗談ではなく、どう自衛するのか?ということが大きな課題になります。
まず始めなければいけないのはガバナンスの確保でしょう。ただし、これは人の問題に直結します。この辺は、前に書いたのでその辺りを参照にしてもらえれば、と思います。実際に、中国にオフショアの数百人規模のSI子会社をつくって、すべてのシステムの内製にとりかかっている中堅の会社(いいですか?トップエンドの巨大会社ではないです。)すら出始めている状態です。

とは言え、経験的には、エンドユーザーさんの最大の課題は、トップ経営層のITに対する長期的な展望の欠如でしょう。未だに(敢えていいますが“未だに”)ITは企業の背骨にあるという意識が薄いです。背骨のガバナンスがとれてないとか、なんですか?それ?という感じ。

以上でございます。