何かを始めるのに歳は関係ない––––映画レビュー更新(『マルタのやさしい刺繍』)

老女の夢を二人三脚でかなえる年下の女――年齢を越えた関係を描く『マルタのやさしい刺繍』


タイトルからほっこり系かと思いきや、あちこちに皮肉も効いた結構骨太の作品です。
女性下着制作の高度な技術を持っている老女が、ランジェリーショップを開こうとしたことで、小さな村にちょっとした嵐が巻き起こり、次第に人間関係が浮き彫りになっていく物語。2006年度スイス観客動員数第1位だそうです。


マルタに対して一番批判的なフリッツが、自分の牧場でできたチーズやハムを村人にアピールする場面があります。彼の中にあるのは、実質的なもの以外を見下す価値観。美しいものに触れ、所有し、身につけることで、少しだけいい気持ちになること、そうしたささやかな精神的ゆとりがいかに大切かということに対して、この人はまったく無理解なのです。
村の他の男性たちも概ね、「女の下着なんていやらしいもの」という偏見から動きません。レースや刺繍に彩られた美しく贅沢な下着への憧れ、それを身につける楽しみは、おそらく女性だけのものであり、普通の男性にはあまり理解されないでしょう。
そこに、女性がビジネスを立ち上げることへの軽視、無理解が重なって、マルタは窮地に立たされます。でも、数少ない同性の味方はやはりいるのですよね。


主人公を演じるシュテファニー・グラーザーの表情が素晴らしいです。マルタと年下の友人リージの関係に焦点を当てて書きましたが、他の老女二人も重要な役なので、イラストは4人の顔になりました。本文とともにお楽しみ下さい。


マルタのやさしい刺繍 [DVD]

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若い人が見ても勇気づけられる物語だと思います。何かを始めるのに年齢は関係ないのだなと思わされると同時に、共感し力づけてくれる存在の重要性をつくづく感じます。
考えてみれば自分自身、ものを書くのも、ペットにはまったのも、着物を着始めたのも、40〜50代。30代では想像もしなかったことでした。今は60歳過ぎたらウクレレを始めようかなと思っています。