ニャート

パニック障害で退職→ひきこもり→非正規雇用の氷河期世代。だめ人間が何とか日常を投げずに生きていくためのメモ書き。

ネットでの「対戦」はスルーしよう(福岡IT講師殺害事件の教訓)

ここ数日、ヨッピーさんの「さようなら。奢り奢られ論争。|ヨッピー|note」をめぐる論争が続いている。

この記事に寄せられた、はてな匿名ダイアリーの記事や、はてなブックマークのコメントに対して、ヨッピーさんが返信する形で「対戦」(ヨッピーさん曰く)が続いている。

ヨッピーさんが、対戦に応じる理由を、対戦しなければ「逃げた」と言われるから、とコメントしているのを見て、ある事件を思いだした。

対戦挑まれたから「別にいいよ」で前に出たらこれ。出て行かなかったら「逃げた」の大合唱やろね。/議論しないことは逃げではないのはそうだけど、それを「逃げた!」っめ言う人がたくさんいるので - yoppymodel のブックマーク / はてなブックマーク

これまで私は、ブログで扱う記事の性質上、いらない敵をつくるブログ運営をしてきてしまった。心がまえ次第で防げたことも多いので、今日は自分を戒めるためにメモしておきたい。

また、まさにはてな村で起こった「福岡IT講師殺害事件」について忘れている・知らない人が多いようだ。再び同じ事件が繰り返されそうな土壌があるので、ポイントを振り返っておきたい。

はてなブックマークが発端の「福岡IT講師殺害事件」

2018年6月24日、福岡市で開催されたセミナー終了後、施設のトイレで男性が包丁で何度も刺され、即死した。

24日深夜に、犯人ははてなブックマークに、後述する犯行声明を残して出頭。

2019年11月に、福岡地裁により懲役18年の判決が下され、そのまま確定している。

この「福岡IT講師殺害事件」は、被害者がはてなブログの著名ブロガーHagexさん、加害者がはてなブックマークのあるアカウント、つまり、はてな社のサービスを介して起きた事件だった。

ネットの争いを生みやすい「はてなブックマーク」の仕組み

「はてなブックマーク」(以下はてブ)とは、ネット記事にコメントをつけてブックマークできるソーシャルブックマークだ。

短時間で多数のブックマークがつくと、はてブのランキングに記事が掲載され、多くの人に読まれる。各アカウントのコメントが一覧で公開され、人気投票的に「スター」をつけることができるので、スターの数によって全体のコメントの流れが決まる傾向がある。

問題は、1人の記事投稿者に対して、無数の匿名アカウントが攻撃可能な仕組みだ。当時は「IDコール」という、IDを指定して他のアカウントにコメントを飛ばせる仕組みがあり、これも争いの元となっていた。

「低能先生」と呼ばれた犯人はなぜHagexさんを狙ったのか

この事件は、ネット上の半匿名アカウント間のトラブルが実際の殺人につながった、日本ではおそらく初の殺人事件だが、経緯が分かりづらいこともあり、それほど報道はされなかった。

「はてな村殺人事件の経緯をまとめておく」に記載されている経緯を短くまとめる。

遅くとも2014年以降、犯人Xは、はてなブックマークや匿名ダイアリーで、他アカウントをIDコールで「低能」等と罵っていた
↓
繰り返すうち、Xは「低能先生」というあだ名で呼ばれるようになる
↓
Xが罵ると通報されてアカウントがBANされ、Xは新アカウントをつくる、それを何度も繰り返す流れができる
↓
2018年5月2日にHagexさんが、Xから何度もIDコールを受け、そのたびに通報しているというブログを書く
(注:HagexさんはXへの通報を他人に呼びかけてはいない。この記事は、度重なるIDコールが怖いという気持ちから書かれたように思われる)
↓
2018年6月9日に起きた「東海道新幹線車内殺傷事件」の犯人はXではないのか、という投稿が、匿名ダイアリーに複数投稿される
↓
それに対し、匿名ダイアリーに下記のコメントが投稿される

そもそもなんでこんなに低能先生が殺人事件起こした扱いされてんの
あの頭おかしい一日中ネット漬けだった先生がネット弁慶脱出するとか言ったとして
男性一人殺せるような身体能力に一瞬で戻れるとは思えないんだけど
まずはリハビリのため散歩からでしょう?

そもそもなんでこんなに低能先生が殺人事件起こした扱いされてんの あの頭..
(注:だれがこのコメントをしたかは不明)
↓
Xが「ネット弁慶」を卒業したいと考え、たまたま近所で6月24日にセミナーが開催されると知っていたHagexさんを狙う

犯人は、危害を加えたい相手のリストをつくっていて、候補者は他にも複数いた。最初からHagexさん一人を狙っていたわけではなく、運悪くこの時期に自宅近所に来ると分かっていたHagexさんに狙いを定めたようだ(当時確かに読んだのだがソースが見つからない)。

犯人は主に、イケダハヤト氏やはあちゅう氏などへのはてなブックマーク上での集中攻撃を「ネットリンチ」とみなし、否定的なコメントをするアカウントを「低能」等と罵っていた。

「ネット弁慶卒業」がなぜ殺人だったのか

犯人がHagexさんを殺害後に書いたと想定されている、匿名ダイアリーの犯行声明には、次のようにある。

おいネット弁慶卒業してきたぞ
改めて言おう
これが、どれだけ叩かれてもネットリンチをやめることがなく、俺と議論しておのれらの正当性を示すこともなく(まあネットリンチの正当化なんて無理だけどな)
俺を「低能先生です」の一言でゲラゲラ笑いながら通報&封殺してきたお前らへの返答だ
「予想通りの展開だ」そう言うのが、俺を知る全ネットユーザーの責任だからな?
「こんなことになるとは思わなかった」なんてほざくなよ?

おいネット弁慶卒業してきたぞ 改めて言おう これが、どれだけ叩かれてもネ..

この「ネット弁慶卒業」とは、犯人のポリシーであったネットリンチ撲滅のため、リアル世界で行動を起こしたという意味なのだろう。

しかし、その行為がなぜ殺人だったのか。

実際、Hagexさんが亡くなっても、はてなブックマークという狭い範囲内ですら、ネットリンチはなくなっていない。何なら2018年よりも悪化している。

はてな社も、IDコールをなくしただけで、この事件については黙殺している。たった5年前の事件なのに、はてな村内ですら忘れ去られている。

犯人は、ネットリンチをなくしたいなら、そのような主旨のブログを立ち上げればよかった。「低能先生」というあだ名はとても嫌だろうが、あだ名がついた時点で一定の知名度はあった。

「低能」と相手を切って捨てるのではなく、あだ名を逆手に取って、ネットリンチの弊害を冷静に語るブログを書いたら、読者がついて何らかの可能性につながったかもしれない。

もっとよいのは、「ネット弁慶」と言われてもスルーして、はてな匿名ダイアリー(居場所だったとの言あり)以外のガス抜き方法を見つけることだった。

ネットでの「対戦」はスルーしてよい

ネット上には、議論をふっかけられたら応じないとならず、逃げるとバカにされる、といった風潮がある。

また、ブログを書く側は、記事へのコメントは(たとえそれが人格攻撃でも)すべて目を通さなければならない、といった主張もある。

私も、2018年頃までは、書いた記事へのコメントを読んでいた。記事への批判というよりも、私の人格や人生への中傷であっても、回答していたこともあった。

そういった時期を経ての結論は「スルーがベスト」だ。

事件の犯行声明を改めて読んでみて、犯人は通報されアカウントをBANされることで、自分の意見を「封殺」(犯人の言葉)されたのが、最も許せなかったのだろうと思った。

(とはいえ、何度もIDコールを受ける方もたまったものではない。気持ち的には難しいが、通報ではなく自分の方で非表示にするのがよかったのかもしれない)

どんな意見でも、主張を封じられるのが最も腹に立つのだろう。だから、ある人が私のことをすごく嫌いで、けちょんけちょんに言ってやりたい気持ちは尊重する。

しかし、私がわざわざそのコメントを見る必要はないと思う。私にも、自分の心と安全を守る権利はあるので。

リアルの世界に置きかえれば分かりやすいが、ある人が私のことをすごく嫌っていても、直接攻撃してくる人はほぼいない。共同体内での人間関係や評判など、ブレーキがかかるからだ。

ネットにはそのブレーキがない。捨てアカウントなら、自分は攻撃を受けない位置から何でも言える。

お互いに敬意を表して、丁寧な言葉で冷静に主張のみを戦わせるなら、意味ある論争だ。しかし、何か言ってくる人は例外なく、相手への煽りや中傷を無意味に入れてくる。

だから、私はポリシーをもって、各種コメントからは「勇気ある撤退」をしよう。

自分への教訓は、他人を取り上げるときは、(たとえ相手が犯罪者でも)一定の敬意を表して、できるだけ丁寧に、煽りコメントは決して入れないことを心がけたい。

あと、私はこういう考えなので、IDコールの復活には反対したい。論争を活発にする方向ではなく、人気コメントのランキング表示をやめるなど、コメントの勢いを沈静化させ、場を和やかにする方向に改善してほしい。

事件を掘り起こすのと風化させるのとどちらがよいか

この事件で最も問題なのは、はてな社が事件に対してコメントを出さずに黙殺し、はてなブックマークという仕組みもIDコールをなくしただけで、改善を放置している点だと思う。

はてな社も、ブックマークや匿名ダイアリーでの利益は明らかに薄そうなので、改善に割けるリソースがないというのも理解はできる。しかし、私が遺族だったら、とてもやり切れない。

また、この事件を掘り起こすのも賛否両論あるだろう。そっとしておくのが一番とも思う。

しかし最近、過去の事件を調べていて思うのが、最低でもだれか一人(判決が出た後に)総括して本などにする人がいないと、どんな大きな事件でも教訓を得ることなく風化するということだ。再びはてなで、同じような事件が繰り返されるなら虚しい。

私は、被害者のHagexさんには過失がなかったと思っているので、被害者側は振り返らず、そっとしておきたい。だが、加害者の生き方やはてな社の対応については、もう少し考察が必要だと思っている。

(投稿直前で思い出したが、秋葉原通り魔事件の加藤智大氏も、匿名掲示板が居場所で、なりすましに対し自分が本物だと表明するために事件を起こした、という話があった。犯罪ではないけれど、富士山滑落事故の人も冬の富士山に登ったのはニコ生が原因だ。居場所のない人におけるSNSの大切さというのは、これからも考えていきたい)

富士山滑落事故・滑落の瞬間が生配信された40代ニコ生配信者の「居場所」 - ニャート