玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年9月 第9話 第11節

サブタイトル:第9話 [家庭教師VSニンフェット!頭令兄妹誕生の秘密です!!]
前書き:優しすぎる宇宙人が、酷い女の子を育てる話。
  
  

  • 11の11の11号室

 頭令そらは、宇宙人であるレイから12年前の話を聞いた。それは自分たち兄妹がレイたちに殺され再生されたという話だった。だが、今の妹の最大の関心事項は「なぜ、あたしとお兄ちゃんは兄妹なのか」である。自分の過去、宇宙人の都合は二人の関係に比べたら、おまけでしかない。
レイ「そら様、これまでのお話は、おおむね理解していただけたでしょうか。この様な議題は、我々の調査によりますと、地球人の子供には難しい事柄ですし、成体の地球人にも理解されにくい話だと推測しております」
そら「あんた、あたしが普通の子供とは違うってわかってるでしょ。看護婦もやったし、自分で勉強もした。社にも教えさせてる。第一、あんたが言った今の話がそもそも、あたしたちが普通じゃないって話じゃん。
 いいから、なんであたしたちが兄妹なのか白状しなさい!」
 バッシン!バッシン!
 兄の眠るマットレスを妹が興奮して叩いている。
レイ「そら様と倶雫様の細胞のDNAが同じだからです。証拠に、そら様と倶雫様は非常によく似ていらっしゃる」
そら「ああ、そうね!お兄ちゃんは私と同じように、色白で、顔立ちがはっきりして、すごくきれい。
 血液型も同じAB型だし。DNAはキチンと調べた事は無かったけど……」
レイ「DNA検査は社先生が行っていました。先月姿を現す前、そら様たちを調査していた社先生は、そら様と倶雫様の廃棄物からDNAを調査したので、実の兄妹と勘違いしたようです。先生は戸籍も調べていましたが、お二人とも頭令礼一郎の養子と記載されておりますので、実の兄妹が共に養子になったと考えたと、先生の自宅の資料に記載されております。
 先生は、お二人のDNAが類似しているので、養子縁組前の過去にさかのぼった調査は不要と考えたようです。養子縁組前のデータは我々が最小限まで抹消いたしましたので」

 第7の下僕国家、セブンセンサーは地球の七つの海と七つの大陸とすべての大気に薄く分布している微小宇宙人なので、社亜砂の自宅の資料も全て閲覧済みである。
そら「あいつ、そんな事をしてたの……。キモッ!なんで止めなかったのさ」
レイ「直接的な被害はありませんでしたし、我々にも意図が判別できない行動だったので静観しておりました」
そら「まあ、いいけど。
 ん?でも、双子でもないのにDNAが同じ?っていうか双子でも男女でDNAが同じってことはないでしょ。二卵性になるんだから。なのにDNAが同じだから兄妹っていう話はおかしくない?」

 聡明な妹には次々と疑問が生まれる。
レイ「そら様の肉体は倶雫様の構造情報から作られたものだからです。そら様は幸い女性でしたので、倶雫様の性染色体からY染色体を省き、X染色体を複製するだけで遺伝子を構築できました」
そら「なんでそんなややこしいことをしたの」
レイ「衝突の瞬間、我々には、距離が離れておりましたそら様の詳細な構造データを観測する余裕が無かったからです。逆に、衝突中心にいらっしゃった倶雫様のDNA及び肉体、精神、魂の構造データは正確に取得できておりました」
そら「離れていたのは、ぶつかる直前のお兄ちゃんがあたしを投げたから?」
レイ「はい。倶雫様が何故、外宇宙からの我々の接近に反応できたのかは現在も不明ですが」
そら「9歳のお兄ちゃんはあたしを守ろうと、してくれたのね……」
レイ「それは存じませんが、当時の我々はそら様の入ったランドセルと、倶雫様との区別もつかないほど無知でした。ですので、我々はまず倶雫様とそら様をひとつの個体として認識し肉体を復元いたしました」
そら「あたしとお兄ちゃんは元々、ひとつだったって?!それじゃまるで両性具有神話のアルダーとかヘルマフロディーテじゃない!」
 小学生相当だが、妹はオカルトに精通している。兄を目覚めさせるために、医学だけでなく神話や神智学を研究していたのだ。
レイ「はい。しかし、宇宙から集めた”生き物の入れ物のかけら”を用いて復元作業をした所、パーツが組み合わず、不安定な生命体にしかなりませんでした。
 復元作業と並行し、我々は地球の物体をこちらの時空にキャトルミューティレーションするなどの情報収集を行い、地球の物体について学びました。結果、それまでに復元したアンドロギュノスはあらゆる地球生物に該当しない物だともわかりました。また、記録上の倶雫様がホモ・サピエンスという生物に該当する事、それには主に2種類の性別がある等の生態を知りました。

 そこで、我々は、回収した”かけら”が1体ではなく、2つの個体の物だとの仮定を立てました。その想定のもとで”かけら”を分類し直した所、全体の質量の約1/11が新生児であったそら様由来の成分であり、性別も異なることが判明しました。
 そこで建て直した計画のもとで、そら様と倶雫様を分離しました。その際、倶雫様の遺伝情報から男性要素を抜き、そら様の肉体を再構築しました。これが成功し、9歳の倶雫様と、新生児のそら様、お二人の体が完成しました。
 ただし、遺伝子は同一ですが、その発現パターンは異なっております。年齢と性別の違いもありますし、そら様の詳細な構造データもありませんでしたので、地球全土の人類女性の高性能部分を発現するように培養いたしました。そのため、そら様は倶雫様よりも若干女性らしくなっております。
 そうして完成したお体にエナジィを吹きこむと、安定して稼働いたしました。これが、そら様と倶雫様の復活の記録であり、お二人が御兄妹であるという証しであります。」
  
  
そら「……なんだか、すごい話。むしろサラスヴァティーね」
 妹はレイが言葉を区切ると、溜息のように言った。直立不動のままのレイが語る自分たちの超常的出生譚の間、ベッドに腰掛け、ずっとレイを睨みつけていた視線がそこで外れた。
そら「お兄ちゃん。お兄ちゃんがあたしに体をくれたのね」
 ふり返り、隣に眠る兄の体に妹の掌と潤んだ視線が滑る。
そら「あたしが生まれた時、あたしはお兄ちゃんの中にいた……。この体に……。私はお兄ちゃんの骨の骨、お兄ちゃんの肉の肉……」
レイ「はい」
そら「だからあたしたちはそっくりなのね。
 だったら、私とお兄ちゃんは実の兄妹より、双子よりも血の繋がりは濃いっていうことよね!なら、お兄ちゃんはやっぱりお兄ちゃんなんだ!!世界で一番の私のお兄ちゃん……ッ!!」

 兄の体を確かめながら、妹の声が高揚していく。
レイ「生物学的にはそうなります。性別も年齢も違いますので、正確には対性クローンと言った物に近いでしょう」
 その奴隷の捕捉を聞き流し、兄の首に生えるチューブの隙間の肌にキスをする妹は、夏布団の上から全身で兄を抱いていた。
そら「お兄ちゃんから、私の体は生まれたんだ……!私はお兄ちゃんの妹……ッ!ありがとう、お兄ちゃん。あたしを生んでくれてありがとう!」
 熱い涙が兄の肌と布団を濡らした。その濡れた長い睫毛と紅い唇、きめ細かな白磁の肌とたっぷりとした桃色の髪、ハッキリした顔立ちを持つ妹は兄に似ているが、同時に世界中のどの民族の人間にも似ていない。美しいが、女の胎から生まれた正規の人間ではない。異境の宇宙人が一度死んだ兄を材料に、大雑把にこしらえた新造人間だ。