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日本サッカー界とともに29年。選手だけではなくトレーナー、テーピングテープも世界での活躍を視野に。
posted2024/12/13 12:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Takuya Sugiyama
テープの総合メーカーであるニチバンと日本サッカー界のつながりは深い。
1984年に誕生した「バトルウィン™ブランド」が全国に広がっていくなか、ニチバンは1996年4月からJリーグとテーピングテープオーソライズドサプライヤー契約を締結。サッカー界との結びつきが一層強まり、2016年にはJFA(日本サッカー協会)の選手育成プログラム「JFA Youth & Development Programme(JYD)」にオフィシャルサポーターとして参画し、テーピングの動画制作やブックレットの配布、さらに一部大会ではテーピングブースを設置する活動を展開。2019年からは次世代のアスレティックトレーナーを育成する「SOCCER MEDICAL CAMP(SMC)」を実施してきた。2023年からは新たなパートナーシッププロジェクト「JFA PARTNERSHIP PROJECT for DREAM」に参加している。
スポーツテーピングとサッカーの歴史、アスレティックトレーナー育成の重要性などについてJFAの宮本恒靖会長、SMCの講師を務める前田弘JFAアスレティックトレーナー統括ダイレクター、ニチバンの中村勲コンシューマー営業統括本部長が語り合った。
13名の卒業生がJリーグと関わる
――次世代のアスレティックトレーナーを育成する本年の「SOCCER MEDICAL CAMP 2024」は11月に5カ月に及ぶプログラムを終えました。20名の受講生が卒業されています。
宮本 SMCも今年で5回目を終了し、今回もニチバンさんとともに有意義な活動にすることができました。
前田 トレーナーを目指す人たちは多くいます。私はJFAトレーナー部会の部員でもあります。トレーナー技術や知識は当然ですが、トレーナーとしてのマインドまで、いろんなことを知ってもらったうえで目指す方向性を明確にしていってほしい、と感じていました。ニチバンさんの担当者の方にSMCみたいなことをやっていただけないかと相談したことがSMCが始まるきっかけでした。
中村 トレーナーの育成のために何か一緒にできないかというお話をいただいて、弊社としてもサッカーを安心、安全にプレーする部分でメディカルの観点からサポートしていきたいという思いがあって、しかも「サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献する」というJFAさんの理念と「私たちは絆を大切にニチバングループにかかわるすべての人々の幸せを実現します」という弊社の基本理念が合致したことが大きかったと思います。コロナ禍での大変さもありましたが、何とか続けていくことができて卒業生も5年間で100名になりました。そのうち13名がJリーグの各クラブに関わっていて、卒業生同士の交流もあるとうかがっています。
宮本 私も昨年、SMCの活動に参加して話をする機会があったのですが、いろんなものを吸収したいという受講生のみなさんの高いモチベーションを感じましたね。全国各地から来てもらっているので、学んだものをまた自分の地元に戻って地域の子供たちを含めた多くの方に広めてもらうのも、普及の観点から言っても大事なことです。
中村 宮本会長がおっしゃったように、裾野を広げられるという部分で貢献できればいいなという思いは我々にもありました。
宮本 現場で働くトレーナーの話、医師の話、昨年度は(中村)憲剛による選手目線での話、僕からは監督目線、指導者目線で。いろんな角度からいろんな話が出てくることで、より吸収してもらうことができたのかなとも感じました。
前田 アスレティックトレーナーの仕事は、はっきり言って楽ではないですし、将来の展望を描くにしても現状の環境を考えるとネガティブなことが少なくありません。あらためて受講生にはそこを認識してもらったうえで、それでもヤル気があるかどうかを問いかけました。じゃあ辞めますっていう人はいなかったですね。そのうえで同じ方向を見て、グループワークをやっていくことができました。
宮本 ネガティブなことというと?
前田 トレーナーの職場環境は理想的とは言えず、いくつかの課題があります。Jクラブで働けるチャンスを得ても、平均勤続年数は7~8年程度で、40歳前後で退職するケースが多いです。これは、経験を積んでも雇用側が人件費を理由に若手に切り替えることが一因です。また、シーズン中は研修会への参加が難しく、新しい知識を学びスキルを向上させる機会が限られています。これらの問題が、現場で働くトレーナーたちの大きな悩みとなっている人もいます。
宮本 日本サッカー全体として考えていかなければなりませんね。まずもって経営者がトレーナーの経験値という「価値」を理解することが必要なんじゃないかなと思います。