はてな村はあるよ

はてな村。その存在は半ば公然にして、地図にも載らない秘密の村。散見される村人と思しき人影を追っても、必ず見失う。誰もたどり着いたことの無い…あるいは戻ることができない…禁断の地。
〜(中略)〜
「そうか、わかったぞ!」
「はてな村は実在するのか?!」
「我々は大きな勘違いをさせられていたんだ。「村」と言う言葉がそもそものミスリードの原因だ。「村八分」「村長」「村の掟」…いずれも目の行き届いた、息詰まる排他的な、小さなコミュニティーを髣髴とさせる言葉だ。」
「はてな村は村じゃないって事か」
「君の発想はいつも短絡的だな。だが、確かにそうと言う事も出来る。そもそも、総体としてのはてなは「市」だ。」
「確かに、我々は市民だ。じゃあやはり村は存在しない?」
「いや、遥か昔、はてなはいくつかの村からなる共同体だった。そのことをもって村を存在すると言う事もできる。だが、それは我々の捜し求めているはてな村のことでは無論ありえない。」
「じゃあ、君が見つけた真実とは一体なんだい。まさか、ここにはてな村の入り口が…」
「はてな村の謎を解く鍵は、我々の心の中にあった。表面上の言葉に騙されてはならない。ムラビトがやると言われる行為。胸に手を当てて考えてみるとよい。ムラビトとは誰なのか、ブクマの先にあるものは何か。そしてはてな村とはどこにあるの…」
「…そこまでだ!」
「!!!!」
風きり音とともに鏃が友人の胸から飛び出す。
「ぐっ…!そこまでして守らなければならないはてな村の真の秘密とは…し…な…」バタッ…
男は向き直る。いや、男なのかは定かではない。奇妙な覆面越しの目がこちらを見据える。
「お前はまだ村の秘密を知らない。これからも知ることは無いだろう。今見たことを忘れることが出来るのであれば…いや、お前はこれまでのことを覚えていることはあるまい。早々に立ち去るがよい」
男の言葉に従い、僕は友人のその後を考える余裕も無く、その場を立ち去った。振り向きざまに、僕は確かに矢に「メタブ」と書かれていたのを見たと思う。しかし、刹那の出来事に茫然とし、そしてその後の二時間あまりを朦朧とした意識のまま彷徨った僕の前に、慣れ親しんだ鉄塔の立ち並ぶ風景が広がると、その記憶もはっきりとはしなくなってきて…
友人の日記だったものの跡を眺めながら思う。ただ迷い込んだだけのものにとって、触れてはならない聖域の存在と言うのは理不尽なものだと。