日本神経精神薬理学と日本臨床精神神経薬理学会の合同年会が東京ドームホテルで開催された。折しも防弾少年団(BTS)のコンサートが東京ドームで開催される日と重なっており、ものすごい人の列が続いていた。
他の出張も重なっていたが、2日目は朝8:30からシンポジウムをどっぷり堪能できた。以下、メモ代わりにしていたTweetsから抜粋加筆。(興味のある方は
twilogを参照あれ)
最初のシンポジウムは注意欠陥多動性障害(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)の薬物治療についてで、小さめの会場が大入り満員となっていて、関心の高さが伺えた。ADHDの治療薬としては、メチルフェニデートとアトモキセチンが一般的だが、海外では飲み薬だけでなく、皮膚に貼るパッチもあるらしい。徐々に持続的な効かせ方として有効なのだろう。また、適切な診断、心理行動療法も行った上での薬物療法であり、医師は患者や保護者に標的症状、薬物の効果や副作用についてきちんと伝えることが重要。キレート剤などの効果が無いことも。このセッションの最後が浜松医科大学の山末先生で、自閉症患者へのオキシトシン鼻腔噴霧の効果等についてのお話。個人差があること、社会性の改善については、プラセボに比しての効果は得られなかったとのこと。複数回投与では効果が薄れるとも。そのことを踏まえて、医師主導型多施設治験に臨むとのこと。
ランチョンセミナーは米国ケースウェスタン大学のJoseph R Calabres先生の講演。h-indexが101とのこと。双極性障害と統合失調症の早期診断、早期介入について。子どものときに抑うつとなった方で家族歴があると、成人期に高頻度で発症。依存にもなりやすい。薬物性の精神障害から精神疾患への移行も。依存に関して、一番リスクが高いのはカンナビノイド(大麻)。アルコールも。薬物で精神障害を生じる方は、のちに統合失調症、双極性障害を生じるリスクが高い。そういう事実を考えて、早期介入が必要。
午後の1つ目のシンポジウムは精神疾患の分子メカニズムについて。一人目の尾崎先生@名大が、包括的なビジョンを示された。全ゲノムの遺伝子解析からリスク変異に迫る。遺伝子変異と疾患病態は一対一対応ではない。つまり、同じ遺伝子の変異でASDと診断されるケースも、統合失調症と診断されるケースもある。二人目の田熊先生@阪大は、てんかんの治療薬として使われるバルプロ酸(VPA)を妊娠マウスに投与して作製されるASDのモデルマウスをベースに、オキシトシンの効果を調べておられた。この場合は、オキシトシンの経鼻投与で社会性改善。3人目の永井先生@名大は、Reelinという遺伝子の自然発症変異マウスをモデルとして統合失調症の病態に迫る。4人目の毛利先生@藤田医科大学は、トリプトファン代謝とうつ病について。妊娠期の血清キヌレニンおよびキヌレン酸値が産後うつの予測バイオマーカーになるのでは? 最後は東北大学薬学の森口先生。ATP感受性カリウムチャネルKir6.1/6.2とアルツハイマー病について。
最後のセッションは精神疾患の病態理解におけるミクログリアや神経炎症の関与に関するもの。ミクログリアとは脳の中の「お掃除細胞」だが、シナプス除去などの役目も果たす。一人目、神戸大学の和氣先生は、全身性エリテマトーデス(SLE)のモデルを用いて、全身炎症時のミクログリアが血管周囲に集積し(外から入ってくるのではない)、徐々に血液脳関門(BBB)の透過性が上がることを示された。2題目は小山先生@東大薬学の池谷研。母体感染と自閉スペクトラム症(ASD)。妊娠マウスに12.5および17.5日にPoly(I:C)を注射する母体免疫反応モデル。常同行動、不安行動、社会性の異常に関して運動による改善。海馬歯状回の神経回路(SPO陽性)に着目。運動の効果は、仮説としては、ミクログリアがシナプス活動の差を認識して弱いシナプスを貪食するものと考える。3題目は門司先生@佐賀大学。アルツハイマー病と神経炎症。アミロイド仮説の行き詰まりをどのように打破するか? 疫学的に関係するリスクファクターはメタボリック症候群関係であり、それは慢性炎症疾患と考えても良い。「那須ーハコラ病」というミクログリア疾患に着目。肥満がうつ病発症のリスク上昇。メタボリック症候群を合併したうつ病は慢性化しやすく再発多い。心理的ストレスは加齢と同様にミクログリアの働き方を悪い方に誘導。ミクログリアの様態が疾患横断的に関与することは十分考えられるエビデンスあり。最後は東北大学の富田先生(災害研から今度、精神科の教授として異動されます)。PTSDと神経炎症。末梢での炎症と脳内での炎症はどのように関連するのか? 治療への応用は? ミクログリアと全身性の免疫細胞はある程度、呼応している? 最後の話題は東北メディカル・メガバンク事業のデータの利用について。産後うつなどをターゲットに研究を展開している。個別化医療、個別化予防に向けた治療・介入法へ!
他にも興味深いセッションが並列していた。
今期より日本神経精神薬理学会の副理事長となったが、2年後にちょうど50周年を迎えるこの学会の立ち位置は、今後、とても重要になっていくだろう。なぜなら、高齢化が進み、がんなどが治療できるようになれば、なおのこと重要になるのが心の問題であるからだ。現在、国の5大疾患の1つとして「精神疾患」が位置づけられているが、その軸足は認知症とうつ病にある。その先を考えると、少子化に加えて発達障害が増加することにより、労働人口が余計減少することを考慮すべきであろう。