プロフェッショナルとは:『研究者の仕事術』【追記あり】

本日から三都物語です。
まず第一日目は大阪の某製薬会社さんのところでのセミナー。
Unpublished resultsを中心にしたclosed seminarと、研究所の方々50名くらい(立ち見まで!)集まった所内セミナーとダブルヘッダーでした。
今後、どのような展開になるかはわかりませんが、大変熱心にご質問やコメントを受けましたので、セミナー自体は面白いと思って頂けたかと思います。

そういえば、仙台ー大阪便に乗ろうとしたら、ロビーには生命科学研究科のY先生が。
ローカル空港ならではです。
市内の百貨店で奥様とご一緒にお買い物中の元総長にお目にかかることまであります。
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さて、旅のお伴に連れてきたのは、先日、出版社からご恵贈頂いた新刊『やるべきことが見えてくる 研究者の仕事術 プロフェッショナル根性論』(島岡要著、羊土社)。
人気ブロガー梅田望夫氏の推薦の言葉が帯にありました。
本書は、”知的生産で飯を食う”人生を志す全ての人のためのサバイバル・ガイドである




本書は『実験医学』の連載をもとにしていますが、そもそもご自身のブログ「ハーバード大学医学部留学・独立日記」で「アカデミック・キャリアパスで研究者が切磋琢磨する方法を発信すること」を目指して発信していらっしゃいます。
ちょうど、「自著を語る」エントリーがありました。

私自身が日頃、日頃学生さんなどに言っていることと重なる内容も多々あったので、飛行機の中で読み終わったのですが、印象に残った教訓とそれに対するつぶやきをいくつか。

<「好き」よりも「得意」にこだわる仕事術>
これは、実にいいところを突いていますね。
引用されているのが中村うさぎさんの言葉で「好きだったことを突然嫌いになることはあるが、得意なことが突然苦手になることはめったにない」
世の中には苦手なことでも「好きだから」続けられる人もいますが、確かに、私は自分より上手くできる人が近くにいるのだったら、その人にお願いしようと思うタチです。
その方が全体としての効率が良くなると思うので。
「好き」だけでは済まないのが「仕事」ですが、確かに、多くの研究者を目指す卵たちは、「好きだから」研究をしたいと答えるでしょうね……。

そういえば、うちの元ボスはこんなことを言ってました。
「もし、どうしても<黒が着たい>と思ったら、どんなに似合わないと言われようと、その色を着続ける。そうすると、やがて人は<ああ、あの人は黒い服が似合う人ね>と認識するようになる。

たぶん、どちらの考え方もあるのだと思いますが、「仕事術」という物差しで考えた場合には、「得意」にこだわった方が得策なのは間違いないでしょう。

<プロダクティビティーを上げる時間管理術>
この章の最初の方には、どのように案件(例えばメール処理など)をこなしていくかのノウハウが書かれていますが、後半に「中・長期的な時間管理術」が出てきます。
で、重要度X緊急度の4分類のマトリックスにおいて、「成功している企業とそうでない企業では、どのカテゴリーに力を割いているか」が示されていますが、一番の違いは「重要であるが緊急性のない案件」に割く時間が、成功している企業では65-80%、そうでない企業は15%と大きな開きがあるのだそうです。
逆に、成功していない企業では緊急性があるが重要でない仕事に多くの時間を割いているとのこと。
このマトリックスをじっと見ながら、もしかして、日本という国がしていることは、まさに「内需の拡大」として、無駄な会議を重ね、必要以上にチェックを増やし(自動改札にさらに人が配備されていて、さらに車内でも検札が来るなど)、国全体としての危機の管理と予防、自己投資、長期的プランニングなどに割く時間が少ないのではないかと思いました。

<自分のストーリーを語る「物語力」>
たぶん、研究のビギナーが最初に行うフォーマルなプレゼンは、ライフサイエンス系ならポスター発表かと思うのですが、ポスターの図に付随する付図説明文は、あくまで「説明」です。
ポスター発表の際には、その付図説明と付図説明の間をつなぐ「ストーリー」がないと、本当に平板な発表になってしまって、印象には残りません。
さらに論文を書く段になると、Figure legendとResultsがいかに違うか、単に前者は原則「現在形」で後者は「過去形」という書き分けだけでなく、言葉の使い方としても異なることが分かるようになるはずです。
「ストーリー」とは「ロジック」でもあります。
手持ちのデータを全部かき集めて、その中に「ストーリー」が無いと、最終的には良い論文にはなりません。
ある程度、データがたまってきた時点で、ストーリーを組み立てて、それに合ったデータを取っていかないと駄目だということに気付けるかどうかが、大きな分かれ道だと思います。

この本は研究室に入りたての学生さんよりも、これからポスドク先を探そうと思う段階の学生さんや、独立を考える方にとって、より役立つかもしれません。
関連書籍やウェブサイトの紹介も充実しています!

*****
で、この本を読みながら考えたのですが、NHK総合テレビの「プロフェッショナル 仕事の流儀」の中で、最後に「あなたにとってのプロフェッショナルとは?」という問いに対する答えの言葉が話されますね。
私だったらこんな風に。
プロフェッショナルとは、最高のレベルの仕事を最短時間で仕上げる人。

時間をかけたら良いものができる、というレベルはプロではないと思うのです。

*****
【追記(8/30)】
上記著者の島岡さんがご自身のブログでさっそくこちらのエントリーを引用して下さいました
島岡さん、有難うございます。
リンク先にも追加させて頂きます。
by osumi1128 | 2009-08-28 21:21 | 書評

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