限りなく透明に近いふつう

やさしい鬼です お菓子もあります お茶も沸かしてございます

愛ある「パパ」と「お父さん」

こないだの日曜日、夫といつもの公園に散歩に行った。

こないだの日曜日に関東で外に出た人は分かるはずだけど、前日の雨で空気中の汚れが全部洗い流されている感じがしてとてもぴかぴかした空気の日だった。
 
体脂肪率15%以下の男は腹を下しやすいという特徴があるけど、私の夫も例に漏れず腹が弱い。
家を出る時は暑そうなのでTシャツ1枚で来たのに、思ったよりも新緑が深くて陽射しで暖を摂れなかったせいか、公園を一周したら案の定夫はトイレに駆け込んだ。
私はトイレの見える位置の芝生のところでベンチに座って芝生ゾーンで遊ぶ人や犬を眺めて待った。
 
女の子がバドミントンをしていた。
7.8歳くらいのその女の子は2人の大人とバドミントンをしていた。
左側にいる男の人に向かってシャトルを打つ時女の子は「パパ!」と叫ぶ。
右側にいる男の人に向かってシャトルを打つ時女の子は「おとーさん!」と叫ぶ。
 
つまり女の子は「パパ」と「お父さん」と3人でバドミントンをしていた。
 
こういう場合、2人の男性は女の子の「父親」と「祖父」だという可能性がまず普通は考えられる。
私の友達にも子供に自分の事をママと呼ばせ、自分の母親の事をお母さんと呼ばせる子がいるから、これの男性バージョンだという可能性だ。
 
しかしこの2人はそうでは無さそうだった。
2人の男性はどう見ても同年代で、父と息子ほどの年齢差は無い。
おまけに時々場所を入れ替えたりシャトルを取りに走る時、「パパ」は「おとーさん」の腰や肩にとても自然に触れる。
「おとーさん」は「パパ」の髪に付いた芝生を払ったりもする。
 
2人の間にはとても感じの良い愛情が流れているようだった。
その微笑ましさに思わず私は笑みが出そうになる。
それと同時にあまりぶしつけに見すぎてしまった気がして申し訳ない、と思って下を向いた。
 
落とした視界にバドミントンのシャトルが滑り込む。
あ、と思って顔を上げるとすぐに女の子が走ってきた。
私は拾ったシャトルを渡す。
 
女の子は片手に持ったラケットを脇の下に抱え直してわざわざ両手でシャトルを受け取った。
 
「ありがとうございます」
きちんと言ってお辞儀をしてくれた。
 
女の子が振り返って黄色いスカートが揺れる。
 
「いい子だ…。」
 
後ろ姿を見ながら思わず私は口に出していた。
目の前の芝生では「パパ」と「おとーさん」が私にごく軽い会釈をして、また3人はバドミントンを再開した。
 
いい子が居て、2人のお父さんがいて、日曜日に公園でバドミントンをして、なんだかとてもいい家族だと思った。
 
夫がトイレから出てきた。
なんか知らんが嬉しそうだ。
うんちをした後に嬉しそうな顔になるのは犬も人も同じだなぁと思っていると、夫がベンチに辿り着き私の隣に座った。
 
夫は座ると同時に「行こうか」と言う。
すぐ行くなら立ったまま言えばいいのに、この人は私と目線を同じにしてから喋る癖が付いてるからこうなる。
なんと優しき人間よ。
 
私は立ち上がって少し歩いてから
「ねー、もし自分のお父さんが2人居たらどうする?」と夫に聞いた。
 
夫はなんと答えるかな?と思っていると
彼は少し考えて「そりゃあダブル肩車よ!2人がかりで肩車してもらったら楽しいじゃん。」と嬉しそうに言った。
 
私はこういう時に「何それ?」とか「ありえないでしょ」とかグダグダ言わずに、とりあえず素直に答える夫が好きだ。
 
家に帰ってテレビを点けるとニュースがやっていた。
全米で同性婚合法化の一報を知った。
「お祝いバドミントンだったのかなぁ」と思った。
 
日本ではこの一報に色々とモノ申したい人はいると思う。
でもすぐに「何それ?」とか「ありえないでしょ」とかグダグダ言わないで、とりあえずは真っ先に「楽しそうじゃん。」と思う人が沢山いるといいと思った。
 
異性カップルも同性カップルも、家族になる楽しさは同じだから。
 
あの「パパ」と「おとーさん」と女の子が本当に親子暮らしをしているかは分からない。
でも彼らが仮に本当に親子暮らしをしていたら、それは今の日本だと「特殊な親子暮らし」になる。
 
でも彼らは日曜日の公園で、とてもただの幸せそうな家族だった。
 
だから彼らは普通で、そこに「特殊」が付くことのほうがおかしいと思う。
 
法律が追いついていないだけで、とてもただの幸せそうな家族だった。
 
世界中の彼らのような家族が暮らしやすくなるといいと思った。
 
 
全米で同性婚合法化Â